◆ 原告第10準備書面
第1 はじめに~原発の有する根本的危険性

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性- 目次

第1 はじめに~原発の有する根本的危険性

 1 原発の有する根本的危険

原発が有する根本的な危険性は、人類を含む生命に対して極めて有害かつ防護困難な放射線を極めて長期間にわたって発し続ける放射性物質自体が核燃料となり、原発の運転中はもちろん、運転停止後も膨大な量の熱エネルギーを発する点にある。しかも、原子炉内に設置された核燃料はいったん設置されれば容易に取り出すことができない。つまり、燃料を取り出すことで稼働自体を制御することができず、非常事態においても、膨大な熱エネルギーを発生させる原因となる核燃料を隔離することができない点で、他の発電所と根本的に異なる危険を有している。
放射線は人体の細胞や遺伝子を損傷し、高線量を被ばくした場合には急性症状が発生し、そうでない場合でも、様々な晩発性障害が発生する。放射性物質を体内に取り込むことで、内部被ばくが発生し、さらにリスクは増大する。放射性物質の量が初期量から半分になる半減期は核種によって数十年から数万年に及び、原発稼働中に事故が起きたときはもちろん、使用済み核燃料についてさえ、放射性物質が外界に放出されて人間の生活の場が汚染されれば、コミュニティ、生業、財産をすべて放棄しなければならない事態が起こる。
そして、核燃料となる放射性物質で核分裂がおきると膨大な熱エネルギーが発生する。この放射性物質が同時に人体に対して極めて有害な強い放射線を発するため、運転中はもちろん、運転終了後も数万年にわたって放射性物質が人間にふれることの無いように「閉じこめ」続けなければならない。これに失敗し、原発において核爆発や、水素爆発、水蒸気爆発が起きれば、大量の放射性物質が外界に放出され、原子核崩壊で放射能を失うまで人体に有害な放射線を発し続ける。放射性物質を数万年にわたって安全に「閉じこめる」ことも技術的に非常に困難である。
このような根本的・内在的危険性があるため、原発事故は「万が一にも起こってはならない」とされてきたのである。

 2 福井地裁判決の枠組み

(1) 福井地裁判決は、福島原子力発電所における事故、チェルノブイリ事故などの原子力発電所における過酷事故の実態を根拠に、原発における過酷事故から生じる住民の生命身体に与える被害、国土喪失の被害の甚大性を認定し、「原子力発電所に求められるべき安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならないず、万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない」と判示する(福井判決39頁)。

(2) 次に、「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため、運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大していく」(福井判決43頁)という原子力発電所の特性を正確に認定した上で、「施設損傷に結びつき得る地震が起きた場合、速やかに運転を停止し、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け、万が一異常が発生した時も放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのない」という「止める、冷やす、閉じ込める」という3つの要請を満たすことが原子力発電所が備えるべき安全性であるとする(同)。

(3) そして、この3つの要請のうち、大飯原子力発電所においては、地震の際の「冷やす機能」と「閉じ込める機能」において欠陥があることを指摘する。具体的には、

「冷やす機能」について
ア 1260ガルを超える地震が到来した時には冷却機能が喪失してメルトダウンが発生する危険性が極めて高く、最終的には周辺住民の被ばく又は長期の避難が不可避であること
イ 700ガルを超え1260ガル未満の地震が到来した場合にも
(ア) 被告関西電力が対策として策定しているイベントツリーが「事故原因につながる事象のすべてをとりあげいるとは認め難い」(福井判決47頁)こと
(イ) イベントツリー記載の対策が有効な措置であるとしても、原発事故がもたらす「混乱と焦燥の中で適切かつ迅速にこれらの措置をとることを原子力発電所の従業員に求めることはでき」ず、有効な措置を講じることが困難であること(同)

「閉じ込める機能」について、
1000本を超える使用済核燃料が原子炉内の核燃料部分と異なり、閉じ込める機能が脆弱な使用済核燃料プールに保管されており、過酷事故の際には使用済核燃料プールに置かれている使用済核燃料の冷却機能が喪失して危機的状況が発生し大量の放射性物質が放出され250キロメートル以遠の地域まで汚染される危険性があること(福井判決60頁)などが指摘されている。

(4) 本書面では、これらの福井地裁判決の判示する枠組みを元に、

ア 原子力発電所が有する特性、およびそこから導かれる「止める、冷やす、閉じ込める」機能の重要性
イ 過酷事故につながる潜在的な危険性を有していた、大飯原子力発電所ないし大飯原子力発電所と同型の原子力発電所において過去に実際に発生した事故の実態
ウ 原子炉自体が脆弱化している危険性について論じる。