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◆原告第31準備書面
―被告関電の地震・津波の想定の問題点(概論)―

原告第31準備書面
―被告関電の地震・津波の想定の問題点(概論)―

2017年(平成29年)2月10日

原告第31準備書面[187 KB]

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では木津川市における避難計画の問題点についての主張を行う。

 1 想定地震の地震モーメントの不整合

被告関電は、想定地震であるFO-A、FO-B、熊川断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)について、被告関電準備書面(2)[12 MB]ではMo=1.79×10*20(N・m)と主張し(14ページにある図表5)、被告関電「大飯原発の基準地震動について」(丙28号証[10 MB])ではMo=5.03×10*19(N・m)と主張している(42ページの「FO-A、FO-B、熊川断層の断層パラメータ(基本ケース)」)。

被告関電準備書面(2)[12 MB]では、津波の高さの算定に広く用いられている武村の式を用いて地震モーメントが求められている。これに対して被告関電「大飯原発の基準地震動について」は基準地震動について論じたものであり、地震モーメントを求めるのに入倉―三宅の式が用いられている。なお、武村の式には、断層長さ(L)からMoを求める経験式((1)式)と断層面積(S)からMoを求める経験式((2)式)があるが、準備書面(2)[12 MB]では武村の(1)式を採用している。武村の(2)式を採用すれば、Moはもっと大きくなる。

同じ想定地震の地震モーメントを求めるのに、津波高の算定では武村の式、基準地震動の予測には大倉一三宅の式が使用されている。このこと自体が矛盾であり、算出された地震モーメントには、3倍以上の開きがある。矛盾する検討結果を平然と公にしている被告関電は、原子力規制委員会や地震調査推進本部・地震調査委員会の指針・指導には形式的に対応するだけで、その内容について、真に安全性の面から科学的な検討をしていないことを示している。

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 2 津波高さと遡上高さについて

被告関電準備書面(2)[12 MB]の12ページに、「ウ 敷地周辺の海域活断層については、阿部(1989)に示される津波を発生させる地震の規模と津波の伝播距離により津波高さを概算する簡易予測式を用いて発電所敷地に到達する推定津波高さを検討した」と書かれている。阿部の簡易予測式とは、Log Ht=Mw-logΔ-5.35、Log Hr=0.5Mw-3.10である。ここで、Htは津波の伝播距離Δ(km)付近での区間平均高、Hrは伝播距離Δに関係なく求められる震源域での津波高のことである。
上記準備書面(2)[12 MB]の14ページ、図表5のNo.9「FO-A~FO-B~熊川断層」の「推定津波高さHt or Hr」欄には4.17mと記載されている。この数値がHtであるか、Hrであるかを検証するために、簡易予測式に14ページの図表5に示されているMw=7.43、Δ=3.5kmの数値を入れると、Ht=34.35m、Hr=4.14mと求められた。つまり、図表5「推定津波高さHt or Hr」欄)に示されている「FO-A~FO-B~熊川断層」の4.17mという数値は、Htではなく、Hrであることが判明した。

阿部論文には、伝播距離Δが地震断層の長さ(L)より近いところでは簡易予測式を使ってHtを求めるのは無理であると書かれている。これが最初から分かっていたのに、想定地震(断層長さL=64km)による大飯原発(敷地から断層までの距離Δ=3.5km)の想定津波高さの算定に阿部の簡易予測式を用いたのは、被告関電の大きな欺瞞である。

多くの国民が知りたいのは、震源域における津波の高さ(Hr)ではなく、伝播距離Δ(3.5km)を経て大飯原発に到達する津波の高さ(Ht)であり、それは、阿部の簡易予測式から求めることはできない。大飯原発周辺の海底地形などのローカルな影響を綿密に検討する必要がある。それに加えて、敷地内の地形や建物の配置によって遡上高も場所ごとに大きく変化することも考慮しなければならない。被告関電は、このような津波が大飯原発の敷地内まで3km以上を伝播したとき、どのくらいの高さの津波遡上高が原発を襲うかという詳細な予測について、データ資料を添えて明らかにすべきである。

2011年東北地方太平洋沖地震の際に、震源域では最大5.5m強の海底隆起があり、福島第一原発から1.5km離れた沖合の波高計で津波第1波が約4m、第2波が7m強と観測されたものが、福島第一原発の敷地では遡上高が15.5mの津波となっている。つまり1.5km沖合の津波高さの2倍以上の遡上高さが原発敷地内で認められたのである。

阿部の簡易予測式に拠らずに、震源域での津波高さを以下のとおり導くことができる。武村の経験式のうち、(1)式を用いて得られたMoを使って求めた想定地震の水平変位は5.28m、(2)式を使って求めた値は7.15mとなる。この水平変位に、「日本海における大規模地震に関する調査検討会」の報告書に書かれているすべり角(35°)を採用し、Sin35°(=0.5736)を乗じて断層面の平均的上下変位を導くことができる。この値が3.0~4.1mとなる。さらに、上記報告書では、「防災上の観点から、各地で見積もられる津波高に1.5mを加えたものを『最大クラス』の津波とする」とされている。これを採用すると、想定地震の「最大クラス」の津波高さ(Hr)は4.5~5.6mとなる。

以上のことから、大飯原発の沖合3.5kmで想定される4.5~5.6mの津波高さ(Hr)が敷地近傍まで伝播したときの津波高さ(Ht)が知りたいところであり、遡上高さ10mを超える津波として大飯原発を襲う可能性を否定できないと解される。

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 3 地域特性について

被告関電は、地震動の想定に地域特性の把握が重要であるとして、「地震動に影響を与える特性である、(1)震源特性、(2)伝播特性、(3)地盤の増幅特性(サイト特性)が重要な考慮要素となる。」「特定の地点における地震動を想定するには地域性の考慮が不可欠」である(被告関電準備書面(3)[17 MB]17~18頁)と主張している。

そして、大飯原発の基準地震動も地域特性を考慮して策定したとして「最新の地震動評価手法(「震源特性」と地下構造による地震波の「伝播特性」及び「地盤の増幅特性(サイト特性)」を、地域性を踏まえて詳細に考慮する地震動評価手法)を用いて、検討用地震の地震動評価を行なっている(「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価)。さらに「震源を特定せずに策定する地震動」も評価した上で、本件発電所の基準地震動Ss-1~Ss-19を策定している。したがって、本件発電所敷地に基準地震動を越える地震動が到来することはまず考えられないところである。」(同上[17 MB]159頁)と主張している。

これに対して原告らは、基準地震動を超える地震の発生する危険性があると批判している。過去に各地の原発で基準地震動を越える地震が繰り返し起きており、それは基準地震動が「平均像」に基づいて策定されているからだと指摘している。被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性が十分に把握できており、その地域特性に照らせば、基準地震動を越える地震発生の可能性を否定できると主張している。

このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張の柱に位置付けられている。

ところが、被告関電は、地域特性のうち、(1)震源特性と(2)伝播特性については、具体的な主張立証をしていない。(3)地盤の増幅特性(サイト特性))については、「大飯発電所の基準地震動について(平成27年1月)」(丙28[13 MB])を提出し、これに基づく主張がなされているが、基準地震動が小さくなる方向で地盤データが曲げて整理され、隠蔽され、あるいは地盤のモデル化がなされている。

次回期日には、地域特性に関するこれら被告関電の主張・立証に対して、全面的批判を行なう予定である。

以上

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◆原告第30準備書面
第3 避難は一時的なものに限らない
第4 結論

原告第30準備書面
―木津川市避難計画の問題点について―  目次

第3 避難は一時的なものに限らない

これまで原告は、舞鶴市の避難計画の問題点(第17準備書面)、綾部市の避難計画の問題点(第22準備書面)、南丹市の避難計画の問題点(第25準備書面)、宮津市の避難計画の問題点(第28準備書面)について述べてきた。

木津川市の避難計画及びこれらの避難計画に共通する点は、生涯にわたって、これまで住んできた地域を離れる意味での「避難」については、一切記載されていない点である。

福島第一原発の事故からも明らかなとおり、原発事故が一度起きれば、地理的に極めて広範囲の人間の生命、生活、生業、産業に全人格的な被害をもたらし、数十年、数百年にわたって損害を及ぼし続けることになり、これまで、長年居住してきた地域から、別の地域に生活基盤を移さざるを得なくなるのである。

全ての避難計画について、この点について、全く具体的な記載がないことこそが、原発に関する避難計画など作成することが不可能であることを示している。

第4 結論

以上のとおり、木津川市防災計画は、避難計画としては、全く対策となっていないのである

以上

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◆原告第30準備書面
第3 木津川市地域防災計画の問題点について

原告第30準備書面
―木津川市避難計画の問題点について―  目次

第3 木津川市地域防災計画の問題点について

 1 基本方針について

木津川市防災計画は、「第3編第40章原子力災害発生時における対応第1節原子力防災に関する基本方針」において、「福井県の原子力事業所で、放射性物質が事業所外に大量に放出するような過酷事故が発生した場合、風向き等によっては、市においても退避又は避難が必要となる事態の発生が予測される。」とし、「放射性物質の放出による退避及び避難が必要とされる場合、市としては放射性物質による汚染状況に応じ、(1)屋内退避、(2)コンクリート屋内退避、(3)遠隔地避難の措置を実施する。なお、「屋内退避」や「コンクリート屋内退避」は遠隔地避難又は自宅復帰への一時的措置と位置づける。」と定められている。

しかし、放射性物質の放出状況によっては、屋内退避ではなく、宮津市外に避難する必要があるが、(3)遠隔地避難については、具体的な措置は、一切定められておらず、避難計画として不十分である。このように、具体的な措置を定められないことこそが、避難計画自体を定めることができないことを示している。

 2 迅速的確な情報伝達の非確実性

木津川市防災計画「第2節市における原子力災害応急対策第1緊急時の情報収集」では、「市は、原子力災害発生時(緊急時)において、府が国、福井県及び原子力事業者等の防災関係機関から収集した情報、又は府が独自に収集した情報について連絡を受け、緊急事態に関する状況の把握に努める。」と定め、国、府及び原子力事業者から、木津川市に正確に情報が伝えられることを前提として作成されている(甲339号証)。

しかし、原告宇野の体験からも明らかなとおり、福島原発事故では停電により情報発信そのものが十分できなくなったり、処理能力を超えてメール等の送受信ができなくなったことにより、迅速的確な情報伝達は行われなかったりしたことを考慮すると、上記前提自体が覆される可能性が高い。

木津川市避難計画は、この点を全く踏まえておらず、問題がある。

 3 具体性のない計画

  (1)退避措置について

木津川市避難計画は、「第3退避措置3退避指示」(甲339号証)について次のとおり定めている。

「3退避の指示
市は、放射能汚染が拡大し、市域への影響のおそれがある場合、原子力災害の危険性に配慮し、全住民に対し退避及び避難の措置を指示するものとする。」

と定めている。

しかし、どのような場合に、「市域への影響のおそれ」があるのか具体的な基準は定められておらず、また、どのようにして「全住民に対し退避及び避難措置を指示する」のか全く具体的な内容は記載されていない。

  (2)飲料水について

木津川市避難計画は、「第4飲料水、飲食物の摂取制限」について次のとおり定めている。

「市は、放射能汚染が拡大し、飲食物による住民の健康被害発生が予測される場合、飲料水、飲食物の摂取制限措置を実施し、府と連携し、安全な飲食物の供給を確保する。」

しかし、具体的に「飲食物による住民の健康被害発生が予測される場合」の基準は示されておらず、「府と連携し、安全な飲食物の供給を確保する」具体的な手段も示されていない。

原告第6準備書面において、大野ダム、和知ダム、由良川ダムは、大飯原発から35km~40km圏内に位置し、これらのダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、京都府北部全体において、飲料水の確保が極めて困難になる旨主張したとおり、現実には、飲料水の確保が極めて困難とため、具体的な手段が示さないのではなく、示せないのである。

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◆原告第30準備書面
第1 木津川市地域防災計画の作成
第2 原告宇野朗子の避難体験について

原告第30準備書面
―木津川市避難計画の問題点について―  目次

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では木津川市における避難計画の問題点についての主張を行う。

第1 木津川市地域防災計画の作成

木津川市防災会議は、平成26年4月、木津川市地域防災計画を作成した。その後、木津川市防災会議は、平成27年7月及び平成28年7月に一部修正を行っているが、同計画は、平成26年木津川市地域防災計画の作成から約3年が経過しているにもかかわらず、問題点が全く改善されていない(甲339号証)。

第2 原告宇野朗子の避難体験について

2011年3月11日、原告宇野は、福島市内の友人の家の庭で被災した。暴れ馬のように力強く揺れ続ける地面にしがみつきながら、原告宇野は、「大丈夫だよ、ママはここにいるよ」と隣にいる娘に繰り返し言った。原告宇野は、そう言いながら、心では「ああ、大変なことになってしまったかもしれない。間に合わなかったのかもしれない」という想いがこみあげるのを抑えることができなかった。

原告宇野は、本震が終わると、すぐに友人宅に逃げ込んだ。原告宇野は、「原発は、大丈夫だろうか――?」と思い、急いでテレビをつけた。テレビでは、津波の警報が出ていた。予測高さは3メートルくらいだったが、それもみるみるうちに、5メートル、7メートルと上方修正されていった。原告宇野は、「これは本当に大きな地震だったのだ。大変なことになった。原発は無事にはすまないかもしれない。」と思った。しかし、テレビでは、原発についての情報は、「自動停止した。今のところ問題はない」ということ以外は、何も得られなかった。原告宇野は、友人にパソコンを借りて、全国各地で原発の問題に関心をもつ市民が集まるメーリングリストに、「皆様無事でしたか?原発が心配です、何か情報があったら教えてください」と投稿した。ほどなくして、静岡の友人から返信があった。「福島原発全電源喪失。電源車が向かっている。メルトダウンの危険性があるから近くの人は避難も考えたほうがよい」というものだった。大変なことになった!電源車、どうか間に合って!と祈りながら、原告宇野は、原発により近くに住む友人たちに電話をかけ続けた。その間にも、次々と大きな余震が襲い、外は雷鳴が轟き、雹が降るなどしていた。日が暮れたが、電源が復旧したという知らせはなく、原発がどのような状況なのかについての情報を手に入れることはできなかった。「今いるこの場所は、原発からどのくらいの距離なのか?」「原発からの風向・風速は?」「もし原発から放射性物質が拡散し、運悪く風向きも悪かった場合、どのくらいの時間でここに到達するのだろうか?」原告宇野は、これらの情報を知りたいと思ったが、どう調べて良いかすらわからなかった。夜になり、原子力緊急事態宣言が発令され、3キロ圏内に、避難指示がでた。

原告宇野は、避難を決断した後、当面必要になりそうな、オムツや衣類、食料、水、カッパ、ガムテープ等々を、友人の車に積みこみ、まさに着の身着のままで避難を開始した。山の中は吹雪で、視界は悪く、道の端がどこかもおぼつかず、非常に危険であった。

3月12日の午後には、原告宇野は、埼玉で被災し避難所で一夜を過ごした原告宇野の配偶者と合流し、新潟空港に向かった。ちょうど、伊丹空港行きの飛行機にキャンセルがでたとのことで、原告宇野は、その飛行機に飛び乗った。伊丹に到着後、原告宇野は、新大阪で遅い夕食をとり、新幹線で広島まで行った。3月12日は、広島駅近くのホテルに宿泊し、再度新幹線に乗って南下、13日午後、山口県宇部市にある原告宇野の配偶者の実家に到着した。

この原告宇野の体験からも明らかなとおり、原発事故の際に、正確な情報が伝えられず、また、避難についても、原発事故の状況に応じて、対応する必要があり、現実的な避難計画など定めることはできないのである。

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◆原告第30準備書面
―木津川市避難計画の問題点について―
目次

原告第30準備書面
―木津川市避難計画の問題点について―

2017年(平成29年)2月9日

原告第30準備書面[714 KB]

目次

第1 木津川市地域防災計画の作成

第2 原告宇野朗子の避難体験について

第3 木津川市地域防災計画の問題点について
1 基本方針について
2 迅速的確な情報伝達の非確実性
3 具体性のない計画

第3 避難は一時的なものに限らない

第4 結論

◆原告第29準備書面
第4 傍観者ではなくプレーヤーとして

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第4 傍観者ではなくプレーヤーとして

元最高裁判事、故中村治朗氏は、昭和43年11月、司法研修所の判事補実務研究で行った講演「傍観者としての裁判官」(司法研修所論集 1969年9月)で、次のように語っている。少し長くなるが、引用したい。

思うに、裁判所が、社会的かっとうの舞台において、これらのかっとうの直接の当事者からある程度の距離を保つ地位にみずからを置き、その意味である程度傍観者的立場をとらなければならないことは、おそらく誰しも異論の無いところでありましょう。しかし他面において、裁判所ないし裁判官があらゆる場合に完全なる傍観者として終始することができず、またそれが許されないこともまた、やはりこれを認めざるを得ないのではないかとわたしは思います。裁判官は、ある場合にはサッカーし合いのレフェリーのように競技ルールに従って笛を吹かなければならない場合もあるでしょうし、社会的葛藤の舞台においてそれ自身社会的価値の実現のために積極的に機能しなければならない場合もあると思われるのです。問題は、いかなる場合に、いかなる程度まで傍観者としてとどまり、いかなる場合に笛を吹き、いかなる場合にいかなる形でみずからもプレーに参加するかということであります。そしてここに、大は基本的なフィロソフィーそのものの対立から小はその具体的場合における適用についてのそれに至るまで、様々な見解の相違が生ずるのではないかと思うのです。しかも、わたしのみるところでは、この場合、いずれのフィロソフィーが正しく、いずれの適用の仕方が妥当であるかについて、客観的な判定のきめ手がなく、しかもその当否自体時と場合によって必ずしも同一ではあり得ないと思われるのであります。例えば、ホームズの司法的自己抑制の理論は、かれの時代においてはきわめて適切であり、その後における憲法解釈や違憲審査に関する理論の発展にも大きな足跡を残しました。しかし、ホームズと対蹠的に、行動人であり、すぐれた政治家であったジョン・マーシャルは、創造的な憲法解釈の展開によってアメリカの連邦国家の確立や産業資本主義の発展を助けたのです。二人とも、それぞれの時代の要求にマッチした気質・性格と天分の持主であり、そしてそれを存分に発揮してそれぞれの時代の要求に沿う理論を展開し、裁判活動をしたわけであります。そしてそれが、歴史の評価において、かれらが偉大な裁判官とされるゆえんなのです。してみると、裁判官として偉大たりうるためには、何よりもまずそのような時代の要求に対する深い洞察とそれに基づく実践が必要であるといわなければならないようです。しかし、実をいえば、何が時代の要求であるかは、その時代のその社会に生きる者にとっては最もつかみにくい問題なのでありまして、現代のような対立と変動のはげしい価値状況の下では特にそうであると言ってよいでありましょう。理性的な人々の間でも見解がわかれるような基本的問題については、わたしたちは、究極的には自己の採る見解の正否を歴史の審判に賭けざるをえないものであるかも知れません。そこに、現代に生きる裁判官にとって最大の悩みがあるとわたしは思います。このような悩み、このような問題に対して、いかんながら、わたしはなんら提示すべき解答を持ちあわせておりません。ただひたすら次のような考え、信条、願望といったものにすがりつくのみです。すなわち、いろいろな条件の制約や人間としての認識の限界の下においても、なおかつ不断の勉強と思索、討論と自己反省の過程を経ることによって、自分の認識や判断の軌跡が多少とも正しい方向へ近づきうるという可能性を信じて努力することが唯一の進むべき道であるということ、そして特にわたしたち裁判官にとっては、それは一種の道徳的な義務であるとすらいいうるのではないかということ、これであります。

ここでは、裁判官が裁判活動をするうえで、裁判官には、時代の要求に対する深い洞察とそれに基づく実践が必要であると強調されている。福島第一原発事故によって露わになった原発事故の本質は、この法廷において、宮本憲一名誉教授が述べたように、足尾銅山事件以来最大の公害事件であると言うことにあるが、それは福島第一原発事故が筆舌に尽くしがたい途方もない人権侵害事件であることをも示している。本日相代理人が述べた、原発コスト安価論の欺瞞、そこから見えてくる原子力賠償法体系の崩壊、また原発開発を担ってきた世界及び日本の各社の原発事業からの撤退、逃走、そして原発事業自体の崩壊の予兆が示すものは、原発の再稼働の不可能性はもちろん、原発そのものが、もはや人間の手によってコントロールすることができない存在になってきていると言うことである。また、本日詳しく述べたように、現在の技術は、人間社会と自然環境に対して致命的かつ不可逆的な損害を齎す原発に代わる、安全なエネルギー、再生可能エネルギーの創出に成功し始めている。いまや時代は、原発を廃棄し、再生可能エネルギーによる社会の構築を図ることを求めていると言って過言ではない。本件を担当する裁判官に対しては、この時代の要求を見据えて、本件に正面から取り組んでもらいたい。元最高裁判事、故中村治朗氏が述べるように、本件は、「究極的には自己の採る見解の正否を歴史の審判にかけざるを得ない」問題の一つと言ってよいと思われるが、本件においてこそ、裁判官は、社会的葛藤の舞台において、社会的価値の実現のために積極的に機能し、自ら傍観者ではなくプレーヤーとしてプレーに参加することが求められていると確信するものである。

以上

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◆原告第29準備書面
第3 原子力発電の不経済性が産業の健全な発展すら阻害すること

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第3 原子力発電の不経済性が産業の健全な発展すら阻害すること

 1 2011年3月11日後の世界各国における原発産業の状況

  (1)米国の状況

  ア 沸騰水型のGE、加圧水型のWH

もともと、米国は、いわゆる「旧西側先進国」において、商業発電用の原子炉を最初に開発した国である。もともと、原子炉は、原子力潜水艦など、燃料補給をせずに長時間・長距離を航続できる兵器の製造のために開発されたものである。商業用の原子炉は軍事技術を商業用に転換したものであったため、最初から、安全性の観点からは不合理な側面を抱えていたが、本書面ではその点には触れない。

  イ GE=日立・東芝、WH=三菱重工・アレバ

米国で商業用原子炉の技術を保有していたのは、沸騰水型原発については、トーマス・エジソンが創業者であるゼネラル・エレクトロニック社(以下「GE社」)であり、加圧水型の原発についてはウェスチングハウス社(以下「WH社」)であった。
日本国内では、GE社から沸騰水型(BWR)の原子炉製造技術を移転されたのが株式会社日立製作所(以下「日立」)と株式会社東芝(以下「東芝」)であり、WH社から加圧水型(PWR)の原子炉製造技術を移転されたのが三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」)であった。

ヨーロッパでは、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転されたのが現在の仏・アレバ社の子会社である「アレバNP」であり、「欧州加圧水型原子炉」(EPR)を製造する技術を保有している。

  ウ GE社の原発からの撤退と日立への「押しつけ」の現状

その後、GE社の原発製造技術は、本体から切り離され、ビジネスパートナーである日立との合弁企業である「日立GEニュークリア・エナジー」(茨城県日立市、出資比率は日立80%、GE20%)、日本以外の世界各地で原発の新規建設受注を目指す「GE日立ニュークリア・エナジー」(ノースカロライナ州、GE60%、日立40%)とに移転され、現在に至っている(甲316日経新聞2012年8月7日「米GEイメルトCEO 原発“見切り”発言の衝撃度」)。

米国では1979年のスリーマイル島原発事故の後、2012年まで原発の新規建造は凍結されていた。2012年に数機の原発の建設が許可されたが、その後のエネルギーシフトにより、同年、GEの経営者が原発について「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」(上記新聞記事)と発言した。その後、後述のように「GE日立ニュークリア・エナジー」は、2017年になって核燃料部門の撤退により日立出資分だけで700億円の営業外損失を計上している。

  エ WH社を取得し経営破綻寸前の東芝

WH社は2006年に売却され、その後の追加出資を含め、6000億円で同社を取得したのが東芝である(甲317 日経新聞2016年12月27日「東芝、止まらぬ損失 WH買収で「10年の重荷」」)。
直近の公知の事実にも属するが、後述のように、現在進行形で、東芝を経営破綻の危機に追い込んでいるのが東芝の子会社であるWH社である。

  オ 米国の現状

2016年12月末、東芝は数千億円規模の特別損失の計上予定をプレスリリースした。その原因は、以下の通りである。

すなわち、WH社が米国で建設中の4基の原発を巡り、福島第一原発事故を受けて米国での原発の安全規制が強化されたことで、設計変更が必要になり、また、工期の遅延により、建設コストが増加していたところ、WH社がビジネスパートナーであり、原発建設会社である「ストーン・アンド・ウェブスター」(以下「S&W社」)との間でトラブルが発生したため、WH社がS&W社を「0円」で買収することで両社のトラブルを決着させた。しかし、これが東芝の7000億円とも言われる特別損失につながることになった。つまり、東芝による「0円」査定が甘く、買収の時点でS&W社は、実は大幅な債務超過だったのである(甲318 毎日新聞2017年1月20日「東芝:資産査定甘く…買収会社の価値低下 損失拡大」)。これらの4基の原発は、建設途中であるから、当然ながら今後も、損失が拡大する可能性は充分ある。

三菱重工も、すでに原告第10準備書面18頁以下で紹介したように、2012年に米国サン・オノフレ原発に納入した蒸気発生器の細管の不具合により、同原発を運営する会社から7070億円の損害賠償請求を受けている(甲319 日経新聞2016年7月15日「三菱重工への損賠請求7070億円に減額 米電力会社など」)。

2012年時点でのGE社の経営者の発言にも見られるように、米国では、福島第一原発事故後の規制基準強化やエネルギーシフトにより、原子力発電は、もはやコストの見合わない発電方法であると認識されており、現在進行形の新規の原発建造も巨額の赤字を出している状態なのである。既存の原発についても、日本企業に対する巨額の損害賠償請求に発展している。

後述のように、そのような中で、米国の資本が原発製造技術から次々に手を引き始めており、それを買収させられたのが東芝なのである。今後、日立が原発製造技術に固執すれば、GE社との関係で同じ道を歩む可能性がある。

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  (2)欧州の状況

  ア ドイツ

ドイツでは、総合電機企業であるシーメンス社(戦前の海軍高官への収賄事件で高校の日本史教科書に登場する「シーメンス事件」の会社である)が原子炉の製造技術を保有していた。しかし、同社は、2011年3月11日直後の同年4月、早くも、WH社から技術を導入して欧州の原発を建設してきた「アレバNP」の出資分(34%)をフランスのアレバ社に売却し(甲315 日経新聞2011年4月12日「独シーメンス、原子力から撤退も仏アレバと合弁解消」)、同年9月に、正式に、原発製造から撤退した(甲314 日経新聞2011年9月19日「シーメンス社長、原発事業撤退を表明 独誌報道」)。

ドイツは、原発製造技術を持つ国では、産業レベルで脱原発を果たした最初の国となったと言える。シーメンスがアレバNPの出資分をアレバ社に売却して押しつけた理由は「事業への十分な発言権がなかったため」(上記日経新聞2011年4月12日)などとされており、ドイツの「脱原発」が、単に国民世論や政治が主導したものではなく、資本の冷徹な論理により行われた側面もあることを示している。

  イ フランス

フランスでは、アレバ社(同社の子会社である「アレバNP」)が原子炉製造技術を保持しており、現在でも、フィンランドのオルキルオト原発、フランス国内のフラマンビル原発の建設を続けている。しかし、オルキルオト原発やフラマンビル原発については、福島第一原発事故を受けた規制の強化で建設費用が一基2兆円以上に高騰している(甲311 日経新聞2015年1月26日「安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航」)。

また、その過程で、1960年代に遡って、アレバの子会社である「クルゾ・フォルジュ」や「日本鋳鍛鋼株式会社」が製造していた原子炉の鋼鉄製部品の規格違反(炭素含有量の超過)が発覚し、急激な温度変化により亀裂が発生する可能性を指摘されている(甲312 ウォールストリートジャーナル日本版2016年12月14日「仏企業の欠陥原発部品と隠ぺい、世界に波紋」、甲313 エコノミスト2016年12月9日「フランスの原子力発電最大手を襲う難問」)。この部品はオルキルオト原発にも納入される予定であり、今後、同原発の完成はさらに遅れるかもしれない。当然、建設費用の高騰につながる可能性がある。

アレバ社はオルキルオト原発の建設で費用が膨らみ、2015年12月期まで5期連続で最終赤字を計上し、その間の累計赤字は1兆円を超えた(甲320 日経新聞2017年2月4日「仏アレバ増資多難な前途 日本勢出資も中国勢撤退で受注不安」)。同社は、2015年12月末現在、フランス政府が直接・間接に86.52%の株式を保有しており、事実上、仏国の国営企業である。東京電力株式会社が国営企業化していることと同じように、民間資本では経営が成り立たない状況と言える。

このようなアレバ社やアレバNPに対しては、一方で、三菱重工が救済に乗り出している。

すなわち、三菱重工はすでに述べたように、アレバNPとともに、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転された企業であり、もともと三菱重工とアレバは関係が深かったが、アレバ社がオルキルオト原発建設部門を切り離して新規に設立する新会社「NewCo(ニューコ)」に三菱重工が5%出資し、日本の電力会社9社及びその子会社である日本原子力発電が主要な株主である「日本原燃株式会社」も5%出資することとなった(甲321 日経新聞2017年2月3日「三菱重工、アレバ新会社に5%出資 日本原燃も5%」)。

これとは別に、三菱重工は2016年6月28日以降、アレバNPとの合弁事業、同社への少数株主としての出資について、協定を締結した上、検討進めている(前掲日経新聞2017年2月3日記事、甲322 三菱重工2016年6月28日「三菱重工業とフランス電力会社原子力発電事業での協調に向けた覚書(MOU)を締結」)。

  ウ 欧州の現状

結局、欧州では、福島第一原発事故後のドイツ資本の撤退、規制強化とそれによる建設遅延、日本企業もかかわった従前からの粗悪な部品使用の発覚などにより、アレバ社が大幅な赤字を計上しており、原発製造技術自体、原発大国であるフランス政府の支援無しには維持できない状態になっているのである。

英国では原発の新規建造が計画されているが、例えば、フランス電力公社(EDF)が事業主体となる予定の英国ヒンクリーポイント原発は、二基2兆4000億円以上の建設費について、英国政府が同原発の電力を35年間にわたって現行の電力卸売価格の約2倍の高値で買い取ると保証したうえ、資金調達に政府保証(甲323 毎日新聞2016年3月15日「英原発:新設に暗雲…安全対策費が膨張/採用予定炉に欠陥」)するなどして計画が成立しているだけで、買い取り価格が倍額であることの一点をみても経済性がないことは明らかであり、現に専門家からその旨の指摘がされている(同記事参照)。内部で事業を進めることの危険性を指摘した最高財務責任者が辞任に追い込まれるなど、異常事態となっている(同記事参照)。

そこへ、三菱重工のアレバへの出資と中国企業のアレバへの出資見合わせ(前掲日経新聞2017年2月4日)という事態が生じており、中国企業も出資予定だったヒンクリーポイント原発建設事業の先行きに不透明さが増していると言える。さらに、日立による英国「ホライズン社」の買収による日立の英国での原発建設事業への参入、という状態が発生している(甲324日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」、甲325 日経新聞2016年12月15日「英原発に1兆円支援 政府、日立受注案件に」)。

経済原理による採算性がなく、先行きの不透明な事業に、原発にしがみつくフランスと日本の企業が前のめりに挑んでいる状況なのである。

  (3)アジアの状況

  ア ベトナムの建設計画白紙撤回

ベトナムでは、三菱重工が加圧水型の原発を建設する計画になっていたが、2016年11月22日、ベトナムの国会が計画の白紙撤回を決めた(甲326 日経新聞2016年11月22日「ベトナム、原発計画中止 日本のインフラ輸出に逆風」)。

福島第一原発事故後の安全意識の高まりは、アジア諸国にも及んでいるのである。

  イ 台湾の脱原発決定

台湾では、現在、GE社、WH社が1970~80年代に建設した合計6基の原発が稼働中である。さらに東芝、日立が受注して「第四原子力発電所」の建設が着工し、進められてきたが、この計画は福島第一原発事故後の2014年4月27日に凍結された(甲328 日経新聞2014年4月27日「台湾、第4原発の建設を凍結 住民投票実施へ」)。

そして、2017年1月11日、台湾の立法院は2025年までに原発をゼロとする法改正を可決した(甲327 西日本新聞2017年1月12日「台湾原発ゼロ法成立 アジア初25年までに停止」)。

  ウ トルコの計画の不採算・政情不安

トルコでも原発建設計画がある。シノプ原発は、もともと韓国が優先交渉権を持っていたが交渉決裂、その後、東芝・東京電力の連合体が交渉に入ったが、福島第一原発事故を受けて東京電力が撤退して白紙撤回となった。さらに、三菱重工・アレバの連合体が受注を2013年5月に受注内定した。事業化可能性調査(FS)を2年かけて行い、事業主体には伊藤忠商事が10%超出資することが予定されていた(甲324 日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」)。

その2年後、出資を検討していた伊藤忠商事が

本事業への参画については今後協力を行う事業か調査の過程で検討されるものでありますが、本事業を取り巻く環境等を踏まえた場合、総合商社である当社の持つ機能や果たせる役割等を勘案すれば本事業への出資者としての参画は極めて困難であると現時点で認識しております。

とのプレスリリースを発表した(甲329 伊藤忠商事株式会社2015年6月9日「本日の一部報道について」)。事実上、事業化可能性が否定されたに等しい。

また、その後、トルコは隣国のシリアに軍事介入したことで国内でテロ活動が活発化したり、軍部がクーデターを画策するなど、政情が不安定となっている。三菱重工も、現地事務所にスタッフが10名いる程度であり実際の計画は進んでいない(甲330 産経新聞2016年7月16日「【緊迫トルコ】トヨタ一時操業停止 原発輸出の三菱重工「状況見守る」 日本企業に警戒広がる」)。

そもそも、同国は日本と同じ地震国であり、原発が事故を起こした場合の賠償問題も起きえる。伊藤忠商事がいみじくも述べたように、事業可能性には極めて困難がある。

  エ メーカーが二の足を踏む日印原子力協定

日本とインドは2016年に原子力基本協定を結び、日本から原発の輸出が可能となったが、協定は一方的な破棄が可能な上、その場合の企業への補償等について定められていない(甲331 ロイター2016年11月11日「日本からインドへ原発輸出可能に、両国が原子力協定に署名」)。また、インドの原子力損害賠償法では、米国やそれをそのまま導入した日本や欧州のそれとことなり、メーカーの免責条項がない(例えば、日本の場合「原子力損害の賠償に関する法律」4条でメーカーの免責が明記されている)。そのため、実際の輸出には日本メーカー自身が二の足を踏んでいる(甲332 産経新聞2016年11月11日「日本とインドが原子力協定締結、原発輸出促進に期待も賠償懸念でメーカーは二の足 ベトナムでは受注案件の中止も」)。

  オ アジアの現状

そもそも、福島第一原発事故を引き起こした日本国が原発の輸出などできるのか、という大問題がある上、日本が輸出を狙っているすべての国で、原発の建設は進んでいない上、抱え込むリスクは膨大である。むしろ、台湾やベトナムのように、福島第一原発事故を教訓化して脱原発し、あるいは、原発導入を断念するケースが広がっている。

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 2 多額の損害賠償請求を受け、負の資産を押しつけられる日本企業

  (1)東芝の粉飾決算の原因は原発部門の不採算でありそれが原因で経営破綻寸前であること

東芝は2015年度に4600億円の赤字を計上した。この赤字計上は「日経ビジネス」という経済系の雑誌に粉飾決算を暴かれた結果であった。そして、東芝が粉飾決算に走ったきっかけは、すでに述べた、東芝が2006年に社運をかけて買収したWH社が収益を上げることができず、福島第一原発事故後にいよいよ不良資産化したことを隠ぺいするためのものだった(甲338 『東芝 粉飾の原点 内部告発が暴いた闇』2016年 小笠原啓 日経BP社149頁「第5章 原点はウェスチングハウス」)。

しかし、同社は2015年度の経営再建で、原発部門を切り離して処分するのではなく、収益性の高く将来性も見込まれる医療機器部門を約7000億円で売却するなどして資金を捻出して乗り切った。

ところが、上述のように、WH社が買収したS&W社が巨額の損失を含んでいたことが発覚し、2016年度にさらに7000億円程度の損失が発生し、これにより数千億円規模の赤字を計上する見込みである。

同社は、主力であり、収益性が高く、将来性もある「メモリー半導体事業」を分社化して、株式の一部を売却することで債務超過を回避する計画である(甲333 日経新聞2017年1月20日「東芝再建、時間との闘い 米原発で損失最大7000億円」)。同社は、海外の原発建設事業からの撤退も表明しはじめた。

素人目にも明らかであるが、東芝は、採算性・将来性の高い部門を次々に切り売りして、不採算部門であり、粉飾決算の元凶である原発部門を残そうとしている。先述のシーメンス社やGE社と比較しても、およそ常識的な経営判断を行えない状況になっている。

また、東芝の損失が建設中の原発の不採算から生じている以上、それらの原発の建設にさらに困難が生じれば、当然、損失は今後も拡大していくのであり、東芝の解体が現実的な課題となっている。

  (2)米国で7000億円の損害賠償請求を受けながらアレバの救済に乗り出す三菱重工

新規の原発建造が思うに任せない以上、原発製造部門の赤字構造自体は三菱重工も東芝と同じと推測せざるを得ないが、この点について、今のところ報道はない。

しかし、三菱重工は、すでに述べたように現状でも、米国の原発運営企業から7070億円の損害賠償請求を現実に受けており、巨額の損失につながる可能性がある。同じような問題が他の既存原発やこれから建設する予定の原発で起きる可能性もある。

また、三菱重工が仏アレバ社の救済に乗り出していることはすでに述べたが、今後、アレバが負債を拡大するほど、三菱がさらに救済に乗り出さなければならない可能性が出てくる。三菱重工によるアレバ社の救済自体が、東芝によるWH社の買収と似た構造を持っているのである。この点、三菱重工の出資と、中国企業の締め出しが表裏一体になっており、アレバが中国での新案件を受注できない構造に直結している(前掲甲320 日経新聞2017年2月4日「仏アレバ増資多難な前途 日本勢出資も中国勢撤退で受注不安」)。

  (3)日立の悲鳴

2017年2月1日、日立は、先述のGE社との合弁企業である米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」がウラン燃料の濃縮事業から撤退するため、700億円の営業外損失を計上すると発表した(甲334 朝日新聞2017年2月1日「日立、700億円の営業外損失見通し 米国の原発事業で」)。

日立は、すでに述べたように、英国内で原発建設を手がけるホライズン社を買収した(前掲甲324 日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」)。同社がイギリスで建設する計画の「ウィルファ原発」は、二基で2.6兆円と見込まれる事業について、日本政府が政策投資銀行等を通じて1兆円を融資することとなっている(前掲甲325日経新聞2016年12月15日「英原発に1兆円支援 政府、日立受注案件に」)。これでは、ほとんど、日本政府による日立の救済に近い。また、この原発についても、最初から経済性がないし、各種の援助・補助を踏まえても、ヒンクリーポイント原発と同様、事業の赤字化の危険性は常にあると考えるべきだろう。

このような中、実際、日立の社長が2016年10月27日に講演し、原発事業について「いつまでも不採算な状況では成り立たない。一緒にジョイント(提携)的な方向で考える方がいい」と述べた(甲335 時事通信2017年10月27日「原発事業、連携も検討=不採算で継続困難一日立社長」)。記事には「国内の原発事業」と書いてあるが、海外で儲かっているのならトータルでは採算性に問題ないはずなので、結局、原発事業自体が大幅に赤字だと考えざるを得ないだろう。さらに、同じ講演で「ビジネスの負荷をどう軽減していくか、ジョイント(提携)の形などで全体を考えていく」とし、技術者不足といった課題を挙げた上で、再稼働や廃炉問題については「相当議論して方向性を出さないといけない」とも述べた(甲336 日経新聞2016年10月27日「日立社長「原子力再編論議、炉含め考える時期くる」」)。一方で、同社長は「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」(同記事)とも述べており、要するに、政府の政策が脱原発の方向に切り替わらないと、原発製造部門を切り捨てられないと言ったと評価せざるを得ないだろう。

実は、我が国の原発事業は、すでに、赤字化している核燃料事業から、切り離しと統合が始まっている(甲337 日経新聞2016年9月29日「日立・東芝・三菱重工、原発燃料事業を統合」)。不採算だが捨てることもできない核燃料事業を統合しはじめたのである。国内三社の核燃料事業の切り離し・統合は、米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」の核燃料事業からの撤退とも機を一にしている。

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 3 まとめ:原発の不経済性が日本の健全な産業発展すら妨げる

  (1)原発の維持・推進と製造技術の維持は表裏一体であること

脱原発の政策を明確に打ち出したドイツのシーメンス社が原発製造技術をアレバ社に売却して、事実上、押しつけたに等しい。

米国ではエネルギーシフトにより原発が不採算になり新規建造ができない中で、GE社の経営者が原発製造技術に見切りを付ける発言をした。同社は核燃料部門の撤退に見られるように今後も次々に手を引くこととなろう。その度に、原発関連資産は、日立が引き取らざるを得なくなる。そして、加圧水型原子炉を開発したWH社は売却東芝に売却された。これも、結果から見れば不良資産を押しつけられたと評価する以外無いだろう。

一方で、政府が原発を推進しているフランスでは、アレバ社が5期連続赤字を計上しても、フランス政府が支援を続け、内部からリスクを指摘されながら、原発の新規建造に乗り出している。

2016年10月27日の日立の社長の「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」という発言も、国内の原発を維持し、新規建造すら否定せず、海外へ積極的に原発輸出をしようとする日本政府の政策とは表裏一体のものであろう。

このように、原発に見切りをつけることと、原発の製造技術を捨てることはほぼ同義であり、一方で、原発の維持・推進と原発製造技術の維持は表裏一体なのである。

日本やフランスのように、政府が原発の維持・推進に固執すると、その国の企業が各国の原発関連資産を引き取らされることになり、最後は、その国の国民が負の資産を背負わされることになる。

  (2)脱原発しなければ「ババを引く」ことになる

本書面の第3では、あえて、日経新聞や保守的な立ち位置にある産経新聞や時事通信の記事を多く引用した。特に「経済紙」を名乗る日本経済新聞社が、東芝の粉飾決算追及の急先鋒となり、原発の将来性に対する深刻な懸念を(全体からは目立たない形で)繰り返し記事にしていることは重要であろう。

日本国が脱原発の政策に舵を切れないことで、将来、日立の社長が予言したように原発産業が統合され、それでも不採算となったとき、現に仏アレバ社や、東京電力がそうなっているように、国民が電力料金や税金の形で負担させられることは想像に難くないであろう。そして、そのアレバ社の救済にすら、三菱重工が乗り出していることはすでに述べたとおりである。国際的な原発の負の資産の「ババ抜き」はすでに始まっているのである。

  (3)原発の不経済性が日本の産業発展を妨げさらなる原発の危険因子ともなる

将来性のない不採算事業に固執すると、第1で述べた再生可能エネルギーへの投資やインフラ整備が遅れる。これは単にこの種の新電力の普及が遅れるだけでなく、その分野の国際競争で敗れる、ということを意味する。そして、第2で述べたように、経済性のない原発を維持・推進するための費用は、電力料金や税金の形で、結局、国民が負担させられる。そして、第3で述べたように、原発の不経済性が日本の産業基盤そのものを傷つけることになる。

そして、そのような不採算部門が要する原発の技術自体も、どんどん劣化していくと考えるべきであろう。三菱重工業が引き起こしたサン・オノフレ原発の蒸気発生器の欠陥は、2012年の部品納入後2年で発覚している。技術の拙劣さは目を覆うばかりである。苦境に立たされた日立の社長が技術者の不足を述べていることもそのことを裏付ける。

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◆原告第29準備書面
第2 原子力発電のコスト・非経済性について

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第2 原子力発電のコスト・非経済性について

 1 はじめに

本書面では、原子力発電(以下、「原発」という。)のコストの高さについて主張する。(後記2)

あわせて、原発事業者が、原子力損害の賠償に関する法律(以下、「原子力賠償法」という。)により原子力損害について無過失の賠償責任を負担しているにもかかわらず、もはやその賠償能力がないことが明らかとなっており、その事業リスクの高さ、非経済性から、原発事業自体がいかなる経済体制・社会体制・法制のもとにおいても成り立ち得ないことを主張する。(後記3)

 2 原発のコストの高さについて

  (1)被告関西電力の説明(同社ホームページより)

「2014年時点での、国の試算による発電コストは、太陽光発電が1kWhあたり約30円、石油を使った火力発電が約30円以上と高い傾向にあります。天然ガスを使った火力発電は13.7円程度、石炭を使った火力発電は12.3円程度です。原子力の発電コストは、10.1円程度と他の発電方法と比較しても遜色ない水準です。また、原子力発電は化石燃料に比べて発電コストに占める燃料費の割合が小さいため、燃料価格の変動による影響を受けにくいという特徴があります。」等と説明されている。

 (2)被告関西電力の説明の欺瞞性

  ア 立命館大学国際環境学部大島堅一教授(環境経済学)の分析

同教授は、ヤフーニュース2016(平成28)年12月9日(金)13時8分配信の「原発は高かった~実績でみた原発のコスト~」という記事(甲309号証)の中で、最新の原発のコストに関する分析内容を記述している。

  (ア)分析内容の抜粋

  •  経産省が2016年12月9日に示したところによると、福島原発事故のコストが21.5兆円になるという。すさまじい金額だ。さらに、それを国民負担にするという案を経産省は提示している。 にもかかわらず、世耕・経産大臣は、原発は安いとの発言を2016年12月7日におこなっている(テレビ朝日の報道による)。原発のコストは安いのか高いのか。一体どのように理解したら良いのだろうか。
  •  原発のコスト計算の方法には、1)実績コストを把握する方法と 2)モデルプラントで計算する方法の2つがある。2)の方法で計算した値は、政府のコスト検証ワーキンググループが2015年に試算したものが最新だ。ここでは、原発のコストを10.1円/kW時としている。おそらく世耕大臣は、この計算結果を言っているのだろうと思われる。政府の計算には、いくつもの前提があって問題点もあるが、長くなるのでここでは詳しくは述べない。さしあたってこの計算方法の特徴を一言でいえば、想定や計算式で数値は変わってくる。
  •  これに対して、実績コストは、想定も何もないので誰が計算しても同じになる。過去の原発のパフォーマンスを知るのに最適だ。では、原発の実績コストはどれくらいなのだろうか。まず、発電コスト。これは、電気料金の原価をみれば把握することができる。データは、電力各社の有価証券報告書にある。また計算方法は、電気料金を算定する際にもちいる省令に書いてある。この2つをもちいて計算する方法は、室田武・同志社大学名誉教授が開発した。計算すると、8.5円になる。次に、政策コスト。原発には、研究開発費や原発交付金といったものに国費が投入されている。つまり国民の税金だ。財政資料を丹念にひろうとこの費用も計算できる。これは1.7円。最後に、事故コスト。これは経産省により21.5兆円という数値がでた。そこで、これまでの原発の発電量で割って単価を計算すると、2.9円となる。つまり、原発のコスト=発電コスト+政策コスト+事故コストで、13.1円(kW時当たり)となる。
  •  原発以外の電源も計算すると、火力は、発電コスト9.9円、政策コスト0.0円(値が小さいので四捨五入するとこうなる)で合計9.9円。一般水力は、発電コスト3.86円、政策コスト0.05円で合計3.91(ほぼ3.9)円だ。これらのコストも原発のコストと同じように計算できる。
  •  以上をまとめると、原発(13.1円)>火力(9.9円)>水力(3.9円)。つまり、過去の実績(1970-2010年度)でみると、原発は安い、どころか、原発は最も経済性がない電源だったと言える。

  (イ)分析内容に基づく原告の主張

被告関西電力は、大島堅一教授が引用するところのモデルプラントで計算する方法により、「火力発電等のコストより原発のコストの方が安い」という結論を導いている。しかし、かかる結論は、大島堅一教授が指摘されているように、人為的な想定や計算式の用い方等によって異なりうるものであり妥当な比較検討結果とはいえない。大島教授が指摘するとおり、客観的な比較検討を可能にする実績コストを把握する方法により比較検討がなされるべきである。それによると、上記のとおり、原発は火力や水力よりも高いという結果となる。

  イ 事故コスト(事故炉の賠償・廃炉にかかるコスト)、廃炉コストを踏まえた詳論

  (ア)はじめに

大島堅一教授が上記のように指摘する原発の事故コストについて、及び、その余の原発の廃炉コストについて、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会と電力システム改革貫徹のための政策小委員会とは、それらのコスト問題をも踏まえて取りまとめた「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ(案)」(甲310号証)(以下「中間とりまとめ」という。)を了承したと報道されている。
この中間とりまとめによれば、

A.東京電力福島第1原発の廃炉費用
B.同賠償費用、
C.同原発以外の原発の廃炉費用

の負担に関する方針がまとめられている。

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  (イ)中間取りまとめの詳細

   A.東京電力福島第1原発の廃炉費用について

中間とりまとめのP.20の「3.3.福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方」の「(2)送配電事業の合理化分の充当」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

「総括原価方式の料金規制下にある東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下、「東電PG」という。)においては、例えば、託送収支の超過利潤が一定の水準に達した場合、電気事業法の規定に基づき託送料金の値下げを求められることがあり、合理化努力による利益を自由に廃炉資金に充てることはできない。したがって、東電PGにおける経営合理化分を確実に1F(※注釈一福島第一原子力発電所一号機のこと。)廃炉に充てられるようにするため、託送収支の事後評価を例外に設けるべきである。具体的には、毎年度行われる託送収支の事後評価において、東電PGの合理化分のうち、東電PGが親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う1F廃炉費用相当分について、(a)超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにする制度的措置、・・・・が適当と考えられる。」

これは、即ち、東京電力福島第1原発の廃炉費用は東京電力の送配電事業における利益を、電気料金の値下げの実施という形で利用者・消費者に還元することとせず、この利益でもって賄う方針をとるということである。これにより、東電管内の電気料金が高止まりする可能性が惹起され、一種の国民負担が生まれることとなる。

   B.東京電力福島第1原発の賠償費用について

中間とりまとめのP.17の「3.2.原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

  • 福島第一原発事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた原子力損害賠償法に加えて新たに原賠機構法が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原賠機構に納付している。しかし、原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、福島第一原発事故以前から確保されておくべきであったといえる。受益者間の公平性等の観点から、福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備え(以下、「過去分」という。)は、本来であれば、福島第一原発事故前の電気の需要家から電気料金の一部として回収されるべきものであり、・・・(後、略)

  • (前略)・・・福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備えを今後とも小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は費用を負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全ての費用を負担していくこととなる。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、過去分についてのみ、全ての需要家で公平に負担することが適当・・・(後、略)

  • (3)全ての需要家から公平に回収する過去分の額 現在、原子力事業者が毎年納付している一般負担金は、経過的に措置されている小売規制料金により回収されていることから、全ての需要家からの過去分の公平な回収は、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則撤廃される 2020年に開始することが妥当であると考えられる。・・・(中略)・・・全ての需要家から公平に回収する過去分の算定に当たっては、2011年から2019年までに納付される一般負担金を全需要家から回収する過去分と同様のものと扱い、過去分の総額から控除する。2019年度末までに原子力事業者が納付することが想定される一般負担金は、今後の負担金が2015年度と同条件で設定されると仮定すれば約1.3兆円であり、これを過去分総額から控除すると、約2.4兆円となる。

  • (4)過去分の回収方法  (前、略)・・・過去分を国民全体で   負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める仕組みとすることが適当と考えられる。約2.4兆円の過去分を託送料金の仕組みを利用して全需要家から回収する場合、・・・回収期間を40年(年間回収額600億円)とするのが妥当と考えられる。

これらは、即ち、東京電力福島第1原発の賠償費用の内、過去分2.4兆円について、本来、事故前から備えておくべきだったものという説明で今後40年間に渡って大手電力会社が所有する送電網の使用料(託送料金)に上乗せして賄うということを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が当該費用を負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

   C.東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用について

中間とりまとめのP.21の「3.4.廃炉に関する会計制度の扱い」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

  • (前、略)・・・、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキング・グループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、『着実な費用回収を担保する仕組み』として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の料金(託送料金)の仕組みを利用することとされている。

  • (前、略)・・・着実な費用回収の仕組みについては、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則2020年に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当である。

これは、即ち、託送料金システムを利用して東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用を賄うことを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

  (ウ)中間取りまとめの結果を受けての主張

この中間とりまとめについては、それ自体に、原発を忌避して発電事業を始めた新電力事業者やかかる事業者の電気を使用したいと考える市民に原発の費用を負担させるという問題点がある。この一点からしても、原発に経済的合理性がないことは明らかである。

それを超えて、この中間とりまとめから明らかとなった点は、事故コストや廃炉コストは、もはや民間事業体である原発事業者がその資産・収入だけでは賄えず、国民負担のもとでなければ賄えないという点である。

地震国日本で、被告関西電力の原発が福島第一原発と同様の事故を起こせば、東電福島第一原発と同程度の廃炉コスト・賠償コスト(21.5兆円)が発生することになる(ちなみに、我が国の2016年度における一般会計予算は96.7兆円である。)。このコストは現状の推計に過ぎず、今後も拡大は不可避であろう。

被告関西電力という一企業の所有する原発が事故を起こした場合、その廃炉コスト・賠償コストは被告関西電力自身が負担するというのが個人責任の原則、及び後述するところの、原子力賠償法の無過失責任原則の帰結である。東京電力福島第一原発事故が現実に発生するという経験をした現時点においては、被告関西電力は、当該コストを全て備蓄しておくべきであり、かかる備蓄分は原発コストである。

事故コストと廃炉コストを含めて原発コストが求められるべきことを前提とした上、その額が国民負担によらなければ賄えない額となることを併せ考えれば、原発のコストは他の電力に比べて極めて高くなることは自明の理である。

 3 原発事業自体がその非経済性故に成り立ち得ない事業であることについて

原発事業者は、原子力賠償法によって、原子力損害について無過失の賠償責任を負担することとされている。その立法趣旨は、原子力損害の甚大生に鑑み、原子力を利用して収益を上げる事業者に、民法の過失責任の原則を修正して特別に加重な責任を課し、原子力事業者に、相当因果関係を有する全損害を賠償させることにある。

それ以前の問題として、公害事件分野で確立された「原因者負担の原則」が原発災害に適用されることは言うまでも無く、ひとたび事故を起こせば、原発事業者は原因者として事故によって発生した結果の全責任を負担しなければならない。

しかるに、福島第一原発と同規模の原子力損害を一事業者が発生させた場合、数兆円に上る損害賠償費用が発生することが公知の事実となっているが、一事業者においてはそのような賠償を行うことができないことは、中間とりまとめが賠償費用についての国民負担を想定していることから明らかとなっている。

そうであれば、原発事業は、その事業リスクの高さから、経済的合理性を著しく欠き、責任を負える者がいないのだから、凡そ成り立ち得ない事業であることが明白となっているといわなければならない。

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◆原告第29準備書面
第1 自然再生可能エネルギー利用で脱原発は可能であり、
危険な原発は子孫に残すべきでない

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第1 自然再生可能エネルギー利用で脱原発は可能であり、危険な原発は子孫に残すべきでない

以下の第1の主張は、主として、甲第301号証《和田武・木村啓二著 「拡大する世界の再生可能エネルギー」(2011年10月30日世界思想社)に依拠している。和田武氏は、日本環境学会会長、地球環境保全研究所主宰である。同著から引用する場合は、「甲第〇〇号証 〇〇頁  表〇一〇、図〇一〇」というように記載する。

 1 原発稼働ゼロの状態でも十分に電力は足りていたこと

福島原発事故の後、福島原発のみならず、定期検査等で、日本の全ての原発が停止していた期間が長期にわたったが、この間、多くの国民の節電努力もあり、原発稼働ゼロであっても、何ら「電力不足」が生じなかったことは、客観的事実である。

ましてや、本準備書面で明らかにしているような世界的な脱原発の流れに、日本も謙虚に学んで自然再生可能エネルギーの普及に国をあげて真剣に努力すれば、原発に依存しない日本を実現することは十分に可能である。

 2 原発の根本的な問題

原発のかかえる本質的な危険性と問題点については、既に訴状や原告準備書面で述べたとおりであるが、再度、要点を確認する。

  1.  万一の事故の場合の被害の甚大性は、チェルノブイリ事故や福島原発事故で、十分に実証されている。福島原発事故については、未だに事故原因の解明すら十分にできておらず、事故をおこした原子炉の内部調査すらできていない状態である。いつ安全に廃炉処理できるか目途すら立たない状況である。
  2.  原子炉本体だけでなく、各地の原子炉に併設されている「使用済み核燃料プール」が、大地震や津波に対して、極めて脆弱であることが、指摘されている。
  3.  また、万一、重大事故が発生した場合、広範な近隣住民が、速やかに且つ安全に避難することが事実上不可能であることは、原告準備書面等で主張し、多くの原告が弁論で意見陳述したとおりである。
  4.  使用済核燃料の処分問題の解決については、日本は勿論、世界的にも見通しが立っていないことは周知のとおりである。
  5.  こうした多くの問題をかかえる原発は、人類と共存できず、廃止するしかない。

 3 脱原発への世界的な流れの現状

  (1)再生可能エネルギーの設備容量の増加、原子力発電・石炭火力の設備容量の減少

新設発電所、廃棄発電所の調査結果に基づいて算出した発電設備容量の「増減設備容量」《増減設備容量=(新設発電所の設備容量一廃棄発電所の設備容量)》は、甲第301号証23頁図2-2[図省略]が示すように、風力発電、天然ガス火力発電、太陽光発電の設備容量が大きく増加しているのに対して、原子力発電及び石炭火力発電の設備容量は、逆にマイナスになっている。

  (2)アジア

アジアの脱原発の状況は第3で詳述する。日本が原発輸出の交渉を進めていたベトナムは、福島事故を踏まえ、脱原発に踏み切った。日本はトルコに対しても原発輸出を計画しているが、現実には採算性の問題も出てきており進捗していない。また台湾等も政権交代後、脱原発を決断した。

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 4 拡大する世界の再生可能エネルギー

  (1)自然再生可能エネルギーと、原発・石炭火力等の再生不能エネルギーとの特徴の対比

以下の通りである。

自然再生可能エネルギー 再生不能エネルギー
(1) 資源の種類
・太陽光・太陽熱、風力、水力、バイオマス、地熱、海洋エネルギー等があり、太陽光・熱をはじめとして地球上に暮らす人類にとっては無尽蔵ともいえる資源である。
(1) 資源の種類
・化石資源(石炭、石油、天然ガス等)、ウラン
(2) 資源の枯渇性の有無
・ 自然が常に再生し、自然環境保護につとめれば、ほぼ無限に存在するので、利用しても枯渇しない。
(2) 資源の枯渇性
・自然による再生はないか、あっても極めて遅いので資源量は有限であり、いいずれ枯渇する。
(3) 資源の存在形態
・どこにでも、広く分散的に存在するので利用しやすい。
(3) 資源の存在形態
・偏在しており、特定場所に集中的に存在する。
(4) エネルギーの生産方法
・ドイツ等で既に実現しているように、あらゆる地域での小規模分散型生産が可能。
(4) エネルギーの生産方法
・特定の場所での大規模集中型生産
(5) 生産手段の所有形態
・住民、自治体などの地域主体の所有に適する。ドイツの例について後述するとおりである。
(5) 生産手段の所有形態
・大企業、国などの所有に適している。
(6) 生産が及ぼす環境への影響
・地域的で小規模
・大規模水力の場合は、地域環境破壊もあり。
・大型風力発電の場合、騒音・低周波・バードストライキング等。但し、原告第13準備書面「第7、二」で紹介しているように、九州大学の大屋教授等が開発した「風レンズ風車」は、こうした欠陥は基本的に克服されており、逆に、海上に設置した「六角形の浮きの下に漁礁をつくり漁業資源の育成に頁献する研究もなされている。
(6) 生産が及ぼす環境への影響
・化石資源による大気汚染、酸性雨、地球温暖化。
・原発による放射能汚染、過酷事故が発生すれば破滅的被害。
・いずれの場合も、影響は広範囲で大規模。

  (2)世界的には、再生可能エネルギーが大きく伸長していること

一次エネルギー中の再生可能エネルギーの占める割合について、1990年と2009年との対比で、主要10カ国及びOECD加盟国の中で日本以外は全て再生可能エネルギーの比率を伸ばしている。とりわけイギリスは6.31倍、ドイツが6倍、デンマークが2.87倍、イタリアが2.10倍と大きく伸ばしている。(甲第301号証の18頁 表2-1)

これに対して日本は、同表[表省略]が示すように、再生可能エネルギーについて、0.93倍と逆に比率を下げている。

  (3)再生可能エネルギーの各分野の伸び率(甲第301号証21頁 表2-3)

再生可能エネルギーのうち、1990年と2008年の対比で、伸び率の大きい分野は次の通りである。

世界全体の伸び率 OECD加盟国
・太陽光発電   42.3%
・風力発電    25.1%
・バイオガス   15.4%
・液体バイオマス 12.1%
・太陽熱     10.1%
・地熱       3.1%
・太陽光発電   43.8%
・風力発電    23.6%
・バイオガス   12.8%
・液体バイオマス 58.0%
・太陽熱      5.5%
・地熱       0.8%

OECD加盟国は、世界全体の傾向と比較して、太陽光発電、風力発電、バイオガスが上位にある点は共通であるが、液体バイオマスの伸び率が非常に大きい。

  (4)太陽光発電設備容量の世界の動向

太陽光発電の累積設備容量と年間導入量の推移は、甲第301号証30頁図2-7の通りであり、やはり急速にひろがりつつあることが明らかである。

太陽光発電の上位9カ国及びルクセンブルクの、累積設備容量及び人口1人あたりの設備容量を比較したのが甲第301号証31頁 図2-8である。累積設備容量でも、人口当たりでも、ドイツが圧倒的に1位である。累積設備容量では日本は3位であるが、人口比ではルクセンブルク・チェコ・ベルギーよりもずっと低い。

2008年度における、太陽光発電の既存設備容量でも、2008年度における年間導入量でも、中国が圧倒的割合を占めている(甲第301号証36頁図2-11)(但し、中国は人口が大きいので人口比では、順位は下位である。)

  (5)風力発電設備容量の世界の動向

風力発電の年間導入量と「累積設備容量」の動きは、甲第301号証24頁図2-3が示すとおりである。

主要国の国別の対比で比較すると甲第301号証25頁 図2-4のとおりである。累積設備容量では、アメリカ・中国・ドイツ・スペイン・インド等が大きい。

その国の人口比で比較すると、デンマーク、スペイン、ポルトガル、オランダ、カナダ等が圧倒的に高い。

これに対して日本は、累積設備容量でも人口比でも最低レベルである。
ヨーロッパでは、海上風力発電の導入が、デンマーク、イギリスを中心に大きく伸びている。建設中、認可済も含めるとドイツの比率がヨーロッパ主要国の42%も占めている(甲第301号証28頁 表2-4)。

  (6)ドイツと日本の対比

甲第301号証78頁の表4-1によれば、温室効果ガスの排出量が、ドイツはマイナス23.3%と大幅なマイナスとなっているのに対して、日本はプラス6.4%にもなっている。

再生可能エネルギーに対するドイツにおける取組は次のとおりである(甲第301号証75頁)。

再生可能エネルギーに関しては、長年、ドイツは風力発電の設備容量で世界1を誇ってきた。アメリカのオバマ大統領の誕生の可能性が高まるなかで、2008年には国土の広いアメリカに追い越されて2位に後退したが、太陽光発電では2005年に日本を抜きさって断然トップに躍り出た後、その地位を維持している。その他の再生可能エネルギー発電についても、急速に設備容量を増加させている。その伸び率の高さがドイツの特徴である。

また、このような再生可能エネルギーの普及において、市民、地域住民が積極的に参加、関与し、重要な役割をはたしているのが、デンマークとともにドイツの大きな特徴である。そのことが再生可能エネルギー普及を促進すると同時に、多くの社会的メリットをもたらしている。1億トン以上ものCO2排出回避、関連産業の発展や雇用の拡大、農村地域の活性化、国際貢献などである。こういう変化こそ、持続可能な社会を実現するステップであり、そういう観点からもドイツの再生可能エネルギー普及に注目を払う必要がある。

ドイツと日本を対比させた、太陽光発電の年間導入量と累積設備容量の推移は、甲第301号証84頁の図4-5のとおりである。ドイツは、日本を大きく引き離して伸びていることが明瞭である。

ドイツと日本を対比させた、風力発電の年間導入量と累積設備容量の推移の対比は、甲第301号証91頁の図4-6のとおりである。

風力発電でも、太陽光発電と同様に、ドイツは日本を大きく引き離して伸びている。

  (7)再生可能エネルギーへのデンマークの取り組み (甲第301号証45頁~)

デンマークは、兵庫県よりやや少ない人口540万人、国土面積は九州程度の4.3万平方kmの小国でありながら、再生可能エネルギー普及で積極的な役割を果たしてきた。風力発電を世界で最初に開発・導入し、風力発電の割合や人口当たりの割合は世界最高である。また世界1の普及率の地域暖房を発達させ、そのエネルギー源としてのバイオマス利用が進んでいる。

デンマークの「エネルギー21計画」の2030年までのエネルギーシナリオ(甲第301号証69頁 図3-7)では、石炭が急減し、石油も当初に比し大きく減少し、再生可能エネルギーと天然ガスが増大している。

デンマークは「地下資源小国」とされているもとで、再生可能エネルギー拡大への積極的な努力は、日本が学ぶ点が大きいといえる。

  (8)「国際再生可能エネルギー機関」の誕生(甲第301号証173頁~176頁)

「国際再生可能エネルギー機関」は、ドイツ・スペイン・デンマーク呼びかけで発足した。

2009年1月設立時点で、75カ国が参加。2011年5月時点で、148カ国とEU(アジア38カ国、欧州38カ国、アフリカ48カ国、米州17カ国、大洋州10カ国)が参加し、開発途上国を含む多くの国・地域にまたがっている。

「国際エネルギー機関(IEA)」の加盟国が原発保有国中心の28カ国先進国だけであるのと対照的である。

  (9)自然再生エネルギー普及で世界の流れから立ち遅れる日本

日本は本来、自然環境に恵まれており、太陽光発電、風力発電、中小水力発電、地熱発電等について大きな潜在的可能性を有していることは、環境省の報告「平成22年度 再生エネルギー導入ポテンシャル調査・概要」によっても明らかであることは、2015年5月27目付け原告第13準備書面18頁の「第6」で既に主張した通りである。

風力発電については、原告第13準備書面19頁「第7 二」で指摘したように、北欧型大型風車と全く異なる「風レンズ風車」が既に開発されており、四方を海に囲まれた日本には極めて大きな可能性を秘めており、既に世界から注目されているにも関わらず、日本政府は冷遇し続けている。地熱についても、EU諸国より日本は恵まれている。

実は、日本は2004年までは太陽光発電で世界1位であった(甲第 号証83頁「2、太陽光発電の爆発的普及」参照)。しかるに、上記のように日本は、1990年と2009年との対比で0.93と逆に再生可能エネルギーの比率を下げているのである。

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 5 再生可能エネルギーによる発電の技術的問題は急速に克服されつつあること

  (1)はじめに

再生可能エネルギーの技術的問題点としては、(1)急激な出力変動に対する 周波数調整力の不足,(2)ベース供給力と再生可能エネルギーの合計発電量が需要を上回ることによる余剰電力の発生・電力供給の不安定性,(3)家庭等の太陽光発電から系統側への電気の流入が増加することによる系統電圧の上昇,(4)電力需要がすくないエリアでの系統接続の増加による送電容量の不足等が指摘されている。

  (2)「(1)急激な出力変動に対する周波数調整力の不足」の問題点への対応について

再生可能エネルギーが大量導入された場合,需要変動に加え,供給側も気象条件により大きく変動することになるが,この変動分の調整を火力・水力発電で行うということができる。

また,大量導入時には,瞬時の調整力に加え,再生可能エネルギーが天候等により発電しない場合に備えたバックアップ用の電源として,蓄電池を利用することが可能である。蓄電池については,さまざまな地域で、蓄電器を利用し、蓄電器の充放電によって平滑化することにより電力系統安定化対策が図られている。

以下、詳述する。

ア 宮古島メガソーラー実証研究では、大量の太陽光発電を導入した場合の電力系統安定化対策の有効性並びに太陽光発電と蓄電池を組み合わせることで安定電源として活用し離島におけるディーゼル発電機の発電量を低減できることが確認されている(甲302)。

イ 東北電力の南相馬変電所では,平成28年2月26日,大容量蓄電池システム(リチウムイオン電池,容量40,000kWh)の営業運転が開始されている(甲303)。

ウ 九州電力は,平成28年3月3日,大容量の蓄電池システムを備えた豊前蓄電池変電所の運用を開始している(甲304)。

エ すでに東北電力の西仙台変電所では平成27年2月20日から大容量の蓄電池が稼働しており、蓄電池の充放電を再生可能エネルギーの出力変動に対する調整に活用している(甲305)。

オ 蓄電池については、近年技術革新が進んでいる。「レドックスフロー電池」については,電解液を、酸化した状態のものと、還元した状態のもので、別々のタンクに蓄えて、充電時には還元し、放電時には酸化するという原理で、基本的には何年でも電気をロスすることなく蓄電することができるものであり,1970年代にNASAが基本原理を発表して以来,国内外を問わず開発が進められている。住友電気工業株式会社は,平成24年7月から,横浜製作所においてレドックスフロー電池と集光型太陽光発電装置などから構成される「メガワット級規模蓄発電システム」の実証運転を開始している(甲306)。また,同社及び北海道電力は,経済産業省の平成24年度大型蓄電池システム緊急実証事業において,平成27年12月25日,南早来変電所に建設していた大型蓄電池システムの実証試験を開始している(甲307)。

  (3)「(2)ベース供給力と再生可能エネルギーの合計発電量が需要を上回ることによる余剰電力の発生・電力供給の不安定性」の問題点への対応

ア まず、昼間帯の余剰電力を用いて揚水をし、その他の時間帯で発電することで揚水発電を活用することにより対応できる。

イ 次に、取引所取引により、余力のある地域へ余剰分を送電することにより対応できる。送電網について、再生可能エネルギーの発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで、日本全体で電力の変動を吸収するという取り組みも行われている。

ウ さらに、自然変動電源(太陽光・風力)の出力を抑制する等により、対応可能である。

エ 最後に、蓄電池を利用することにより、余剰電力は蓄電可能である。

  (4)「(3)家庭等の太陽光発電から系統側への電気の流入が増加することによる系統電圧の上昇」の問題点への対応

家庭などの太陽光発電の拡大に伴い,系統側への電力の流入が増加した場合には配電系統の電圧が上昇し,一般的に太陽光発電システムでは,系統の電圧が適正範囲を超えると発電を停止する。発電を停止することなく,電圧上昇を抑制するため,電圧調整装置の設置,柱上変圧器の増設等により対応可能である。

  (5)「(4)電力需要がすくないエリアでの系統接続の増加による送電容量の不足」の問題点への対応

送電網について,再生可能エネルギーの発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで日本全体で電力の変動を吸収するという取り組みも行われており,対応が図られている。

 6 再生可能エネルギーの急激なコスト低下

現在、発電効率の大幅な上昇と、製造コストの大幅な下落により、太陽光発電のコストは急激に下がっている。全世界規模でみても、原発の経済性を凌ぎつつある。原発の安全コストが高い先進国(特に原発事故を起こした日本)では、両社の差は歴然とするであろう。一方、原発の発電コストは世界的にどんどん上昇している(甲308)。原発に将来性がないことは、この一点からも明らかである。

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◆原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―
目次

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―

原告第29準備書面[1 MB]

目次

第1 自然再生可能エネルギー利用で脱原発は可能であり、危険な原発は子孫に残すべきでない
1 原発稼働ゼロの状態でも十分に電力は足りていたこと
2 原発の根本的な問題
3 脱原発への世界的な流れの現状
4 拡大する世界の再生可能エネルギー
5 再生可能エネルギーによる発電の技術的問題は急速に克服されつつあること
6 再生可能エネルギーの急激なコスト低下

第2 原子力発電のコスト・非経済性について
1 はじめに
2 原発のコストの高さについて
3 原発事業自体がその非経済性故に成り立ち得ない事業であることについて

第3 原子力発電の不経済性が産業の健全な発展すら阻害すること
1 2011年3月11日後の世界各国における原発産業の状況
2 多額の損害賠償請求を受け、負の資産を押しつけられる日本企業
3 まとめ:原発の不経済性が日本の健全な産業発展すら妨げる

第4 傍観者ではなくプレーヤーとして