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◆原告第47準備書面
第3 島根県益田地方を襲った万寿津波

2018年(平成30年)3月23日

原告第47準備書面
―1026年の万寿津波と大飯原発の危険性―

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1 文書に現れた万寿津波
2 万寿津波の発掘調査
3 大規模な海底斜面崩壊による津波の可能性
4 万寿津波のメカニズムについて



第3 島根県益田地方を襲った万寿津波

 1 文書に現れた万寿津波

本訴訟において、被告関西電力は、平成27(2015)年1月22日付準備書面(2)[12 MB]を陳述した。主に津波に関して論じているが、そこには、「本件発電所における主要な建屋の敷地高さ(東京湾平均海面(T.P.)+9.3m以上)等を踏まえ、津波が本件発電所の安全性に影響を及ぼすことがないと判断した。」と記載されている。

これに関して、島根県技術士会の平成23年度と24年度の研究報告書には、1026年の万寿津波で20mを超える津波が島根県の益田周辺を襲ったと記載されている。仮に、そこに記載されている文献記録の信頼性が高いものであれば、海・陸プレート境界から遠い日本海沿岸西南部においても20mを超える津波が襲ったということになり、被告関西電力の主張の信用性はなくなる。

そこで、竹本教授は、万寿津波の研究を行い、論文を作成したものである。以下論じる。

1951年発行の「日本地震史料」(武者金吉著)には、1026年の万寿津波の記載はない。しかし、1981年発行の「新収日本地震史料第1巻」(宇佐美龍夫編)には、39~46頁にわたり、「万寿3年5月23日(1026年4月18日)石見」として、石見地方の万寿津波の資料が掲載されている。但し、そこには地震の被害は記載されていない。2003年発行の「最新版日本被害地震総覧」(宇佐美龍夫、東京大学出版会)によれば、「1026VI16(万寿3∨23)亥の下刻石見(現益田市)高津川河口沖にあった鴨島が大波(あるいは大海哮)によって崩され、海中に没したという。波は川沿いに16km上流に達したという。被害は50km以上東の黒松(現江津市黒松町)にまで及んだ。口碑(こうひ)及び信頼性の低い史料による。そのうえ、これら口碑及び史料に『地震』という語は見いだせない。」と書かれている。口碑や信頼性の低い史料に残されている万寿津波が現実にあったとしても、通常の海底断層の動きによる地震の際の津波ではなく、別のメカニズムを考えなければならない。

1026年の万寿津波で島根県石見地方が大きな津波に襲われたという文書記録のあることは、加藤芳郎によっても指摘されている。それらの文献を読むと、原典は、正徹(しょうてつ)物語(ものがたり)、石見八重葎(むぐら)、横田物語、安田村発展史などであるという。益田地方は、万葉の歌人、柿本人麻呂の生誕地でもあり、終焉の地でもある。彼を祀った人丸寺のあった高角山(別名鴨山)があった鴨島が、この万寿の津波によって流失したとの伝承から、地元の人々は皆、万寿の大津波にことのほか関心を持っているという。鴨島には、神亀(じんき)年間(724~729年)に、聖武天皇の勅命によって人麻呂神社とその別当寺「人丸寺」が建立されたとされている。1026年の万寿津波によって、鴨島は海中に没し、現在「大瀬」と呼ばれている暗礁が水没した鴨島の跡だと考えられている。

1026年の万寿津波に関する文献記録で一番古いのが室町時代中頃の「正徹物語」である(1448~1450年頃)。正徹物語では、「大雨が降ったときに辺り一面海となって人麻呂像が流された。洪水で流出した人麻呂の木像が流れ着いたところに堂を建立した」と書かれているだけで、その事件の年代は書かれていないし、木像の行方も定かではないという。

はっきり万寿津波の年代を特定した文献としては、江戸時代の享保年間(1716~1736年)に書かれた「沢江家文書」が最初である(この文書は安田村発展史に記載されている)。そこでは、「1026(万寿3)年5月23日に起こった事件」との記載がある。

ここで、竹本教授は、上記文献に現れた津波に関し、現地調査を行った都司嘉宣と加藤健二の「万寿石見津波の浸水高の現地調査、鴨島学術調査最終報告書」を紹介している。

甲429号証の7頁では、表1において、15の地点を紹介しているが、ここでは、都司教授らにより津波高が特定された9地点を示す。

表1

地点名 所在地 津波の伝承 伝承の出典 津波の高さ
持石 益田市高津町持石、星日神社 神石が流された 石見八重葎 18m
松崎 益田市高津町 人麻呂の木像が流れ着いた 正徹物語 23m
安富 益田市安富町 津波が到達した 柿本人麻呂と鴨山 16.2m以上
護宝寺 益田市横田町寺垣内 護宝寺が流された 石見八重葎 22m
船ケ溢 益田市横田町市原 船が漂着した 横田物語 21m
遠田八幡宮 益田市遠田町中遠田 社殿が流された 安田村発展史 8m
砂丘を乗り越えた 10~12m
貝崎 益田市遠田町中遠田 水田に津波が到達した 同上 22m
黒石 同上 海岸から運ばれた巨岩 25m
二艘船 益田市木部町 2艘の船が打ちあげられた 柿本人麻呂と鴨山 12.2m

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 2 万寿津波の発掘調査

  (1)概要

益田市には、古くから語り継がれてきた柿本人麻呂に関わる伝承がある。それは、人麻呂が益田の鴨島で没し、同人を奉る神社があったとされる鴨島が万寿3(1026)年の大津波によって水没したというものである。万寿津波に関する伝承に、益田市中須地区の海岸付近には五福寺と呼ばれる「福」の字が付く5つの寺(専福寺・安福寺・福王寺・妙福寺・蔵福寺)が建立されていたが、万寿津波によってことごとく破壊されたという言い伝えが残されている。

鴨島伝承総合学術調査団のなかで、中田・高らは、万寿津波の存否を明らかにするためには、津波堆積物の詳細な研究が必要であると考え、益田市で、津波堆積物のトレンチ(試掘杭)発掘調査を実施した。同人らは、まず、鴨島が水没した後の暗礁と考えられる大瀬に近い益田市中須地区及び大塚地区を中心に、11箇所で予察トレンチ調査を行った後、中須の浜崎集落の安福寺跡付近で2本の本トレンチを掘削した。第1トレンチの規模は、東西およそ7m、南北12m、深さ3mである。第2トレンチは、第1トレンチの東隣に、中央部に長さ5m、幅3m、高さ1.5mの島状の高まりの部分を残すように回廊状にトレンチを掘削したということである。

  (2)第1トレンチの地質構造

上記のような掘削調査の結果、第1トレンチ西壁の地質構造は、壁面全体が未固結の沖積層よりなるが、トレンチ下底部は直径15cm以下の円礫よりなる河成礫層があり、その真上を厚さ20cmほどの多量の木片を含むシルト交じりの細―中砂層が覆っている。この上部には、厚さ約1.5mの砂層があり、水性植物の根や多くの小木片が含まれている。この砂層は、小礫を中心とする厚さ10cm程度の礫層を挟在しているが、地表下約2mにある礫層には、弥生早―前期の土器片が含まれており、この層は、約2300年前のものと考えられる。

甲429号証[3 MB]10頁の図5では、地表下2.3mまでの第1トレンチ西壁の地質構造図が描かれている。

図5 【図省略】

標高23.9cm付近に津波堆積層と記載されているが、その下の泥が砂に突然覆われた場合に生じる火炎状構造(フレームストラクチャー)が見られる。この火炎状の構造を示す泥層の最上部の腐食土層を広島大学地理学教室放射性炭素年代測定室で年代測定をしたところ、930±80年という結果が得られたという。これは1950年代の測定結果であることから、まさに万寿3(1026)年に対応し、トレンチ壁面で認められた擾乱(じょうらん)層が、万寿津波の堆積物によって形成された可能性が極めて高い。

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 3 大規模な海底斜面崩壊による津波の可能性

以上のように、1026年の万寿津波に関しては、20mを超える津波が島根県の益田市周辺の地域を襲ったという文書記録が残されているが、地震の被害はほとんど記録に残されていない。中田ほかが1995年に発表した論文では、益田市で津波堆積物のトレンチ発掘調査を実施した結果によれば、1026年に万寿津波があったことは間違いないが、津波堆積物が発見された範囲は狭く、海岸線から2km遡上した程度であった。万寿津波の資料の特徴をまとめると次の通りとなる。

  1. この津波の際の地震の被害は報告されていない。
  2. 海岸線(河口)から10kmほどさかのぼった、標高が20mを超える地点にも津波が到来した痕跡がある
  3. トレンチ発掘調査の結果によれば、津波堆積物が遡上した範囲は、海岸線から2kmの範囲である

竹本教授の論文(甲429[3 MB])では、上記①~③を矛盾なく説明するため、産総研の岡村が指摘した海底の堆積性斜面崩壊による津波の可能性を検討している。

産総研の活断層・地震研究センターでは、測線間隔は2マイル(約3.7km)以下で、大陸棚から大陸斜面までをカバーする「20万分の1海洋地質図」を出版している。そこでは、「海域の活断層評価のために、エアガンを音源とするシングルチャンネル音波探査及びマルチチャンネル音波探査で沿岸海域の活断層分布を調べている」という。そして、日本海西部の地質構造として、「東西方向及び北西―南東方向の横ずれ断層」が卓越するが、「累積縦ずれ変位は小さい」という特徴を見出しているほか、堆積性斜面の崩壊についても調べている。

甲429[3 MB]の12~13頁の図7及び図8は、岡村による「日本海の津波波源」からの引用であるが、図7には、日本海西南部のマルチチャンネル音波探査で、大規模斜面崩落が見つかった若狭湾沖、鳥取沖及び島根沖の海底地盤構造が例示されている。

図7 (堆積性斜面の崩壊) 【図省略】

さらに図8には、日本海西南部で斜面崩壊が発生している斜面として、島根沖、若狭湾沖及び能登半島西部が具体的に楕円形で示されている。竹本論文では、この図の中で、益田市から北北西に約110~150km離れた島根沖で、斜面崩壊が発生している場所に注目している。その楕円の東西方向の広がりは、隠岐半島の西から朝鮮半島の東側に至る約260kmの広大なものである。また、南北方向については、益田沖からその楕円の南端まで水深200m以下の大陸棚が続くが、そこから日本海は急速に深くなり、斜面崩壊が発生している場所の北側の境界(益田から約150km)の辺りの水深は約1000mにもなる。さらに益田から北方に約200km離れると、水深は2000mに達し、その先には水深約2000~2200mの対馬海盆になる。

図8 (斜面崩壊が発生している斜面) 【図省略】

図9では、海上保安庁水路部(現・海洋情報部)の海底地形図のうち、No.6314「西南日本」を参考にし、図8に示される日本海西南部で斜面崩壊が発生している斜面の中から、島根沖の海域のみの海底地形図を作成し図示している。

図9 【図省略】

竹本論文の考察は、図8に楕円形で示されている島根沖の海底堆積性斜面の崩壊は、全域が一度に崩壊したのではなく、その楕円形の中で、部分的に様々な年代に多数の崩壊があり、それらを合わせたものが現代の海底地形を形作っているとする。そして、それらの中で、最も新しい斜面崩壊が1026年の万寿津波を引き起こしたとする。

また、竹本論文では、1026年の万寿津波に関し、津波の被害が島根県益田地方に集中していることに注目している。図9の益田市から対馬海盆に向かうN20°W方向の赤線に沿って、(←→)で示した東西約50kmの範囲が1026年の斜面崩壊に関与していたと考えることにより説明できるとする。即ち、島根沖の海底斜面崩壊が発生している水深の急変帯が、益田地方を焦点とする凹レンズのような形をしており、それによる波動伝播のフォーカシング効果のために、1026年の万寿津波では、益田地方に津波被害が集中したと考えられるとする。この点は次に述べる。

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 4 万寿津波のメカニズムについて

  (1)海底地形から見た考察(図10)

甲429号証の10頁では、図10で、図9において赤線で示した益田市からN20°W方向に向かう方向の、島根沖から対馬海盆までの水深と距離の関係を示している。

図10 (益田からN20°W方向に測った距離) 【図省略】

まず、益田市の海岸から18km進むと水深は約100mになる。距離128kmでは水深200m、137kmでは水深300m、このあたりから海底面は急速に下がり、140kmでは水深400m、141kmでは水深500m、142kmでは水深600m、143kmでは水深700mになる。更に、距離150kmでは水深約1000m、164kmでは水深1500m、200kmで約2000mとなり、そこから先は、水深2000~2200m程度の対馬海盆へ続いている。

この図は、現在の水深(海底地形)を示したものであるが、1026年の大崩壊よりも前は、水深がもっと浅いところにあり、それが大崩壊によって土砂が深みに流れ落ちた結果、現在の水深になったと考えられるとしている。

その理由として、竹本論文は、1026年の大崩壊は、大陸棚が終わる益田から距離128kmの水深200mの辺りから始まり、水深300mのところで30m、水深400mのところで50m、水深500mのところで60m、水深600mのところで50mの土砂が北側急斜面に滑り落ちたと考察している。そして、益田からの距離が約143kmの水深700mの辺りで、上から落ちてくる土砂と、更に下まで落ちていく土砂がバランスしていて、現在の水深とほぼ同じになったと考察している。そこは、水深200mの場所よりも約15km北に離れた場所である。そして、水深700mよりも深いところでは新たな崩壊は起こらず、上から落ちてくる土砂が堆積することにより、水深が浅くなったとしている。

  (2)図11の考察

図11 (益田からN20°Wに向かった距離) 【図省略】

更に、甲429[3 MB]の15頁では、図11(A)と図11(B)の説明をしている。図11(A)は、益田から128~160kmの範囲、つまり水深200~1300mの範囲内で、青線が現在の水深、赤線が大崩壊以前の推定水深を示している。図11(B)は、赤線と青線の差をとった斜面崩壊前後の海底面の相対的な変化の様子を模式的に示している。益田から128~143kmの距離では、斜面崩壊により土砂が北側の深みに流れ落ちたため、水位は低下し、水平距離が143kmよりも遠いところでは、崩壊した土砂が堆積して水位が上がる。これを差し引きすると、大きな津波が益田市を襲ったことを次のように説明できるとしている。

まず、益田からほぼ北方に距離128~143kmの範囲の海底堆積物が斜面崩壊により北側に流れ落ち、この部分の水深が急激に低下した。その結果、周囲から海水がこの領域に押し寄せたため、益田付近の津波第1波は引き波になったと考えられる。その後、北方に流れ落ちた土砂が堆積し、この部分の水深が浅くなったために、海水が周囲に流れ、押し波が周囲に伝わった。図11(B)では、そのタイミングの図を示しているが、斜面崩壊で水位が低下した青色の領域に、北側の土砂が積もって水位が上昇した黄色の領域から海水が押し寄せたため、結果として南側に大きな押し波の津波が伝わったという構造である。

このことについては、前述した1998年のパプアニューギニアの地震・津波の際に、海底地すべりによって引き起こされた津波の説明が参考になる。

次に、津波の被害が島根県益田地方に集中していることに関しては、波動現象のフォーカシング効果のためと思われる。

図面A 【図省略】

すなわち、前掲の図9において、益田市から対馬海盆に向かうN20°W方向の赤線に沿って、(←→)で示した東西約50kmの範囲の、海深が200mより深い領域では、益田地方を焦点とする凹レンズのような形をしている。前掲の図3で示したパプア・ニューギニア沖の津波のように、海底斜面崩壊がこの範囲で起きると、図11(B)の青色で示した範囲が最初に沈降し、そこに海水が引き込まれるため、島根県側の最初の津波は引き波となる。次に、この斜面崩壊で崩れた土砂がより深いところ(島根県から見れば遠い方向)に滑り落ちていくと、この部分にたまる土砂のために、海底面は浅くなり、図11(B)の黄色で示した領域の海水面が上昇し、島根県側には押し波となる。このとき、益田地方を焦点とする凹レンズ型の海底地形構造が影響し、津波は四方に同じ高さで伝播せず、凹レンズのフォーカシング効果によって、益田地方に集中して高い津波が襲ったと理解されるのである。つまり、図11(B)は、上記図面Aの赤線に沿った軸方向の海水面の高さを示しているが、沈降域(青色)と上昇域(黄色)は、空間的には、図面Aのように分布していると言える。

竹本論文では、1026年の島根沖斜面崩壊が、図9の益田市から対馬海盆に向かうN20°W方向の赤線と直向する方向に←→で示した約50kmの範囲で、奥行約15kmの範囲で起こり、滑落した土砂の厚さの平均が20m弱としている。つまり、斜面崩壊で滑り落ちた固体堆積物は、50×15×0.02=15.程度の体積である。この程度の斜面崩壊なら、過去の海底地すべりの実測値から考えても、一度に起きることは不合理ではないとする。

  (3)津波と堆積物の遡上距離との関係について

万寿津波の調査では、益田地域の津波到来の伝承は、河口から10km遡った標高20~25mの地点に残されており、都司・加藤論文では、現地調査の結果、標高20mを超える地点まで津波が到達した可能性は否定できないと述べている。一方で、中田外の論文では、津波堆積物は海岸線から2km程度の範囲しか認められないと結論付けている。

この差について、菅原論文では、2011年東北地方太平洋沖地震の際に、津波侵入距離が海岸から4~5kmであったところで、砂質堆積物の分布距離はその60~70%に過ぎなかったと述べている。

竹本論文では、このように陸上の津波侵入距離と津波堆積物の分布距離の関係は、必ずしも一致しないと結論付けることも可能とする。更に、通常の津波は、巨大地震の上下方向の断層運動によって引き起こされ、断層破壊は数秒のうちに終わり、津波の波源は数秒の内に形成されるが、海底堆積性斜面の崩壊の場合には、津波波源の形成速度は段違いに遅く(長く)、「分」から「時間」の単位で形成されると考えられるとする。その差が津波堆積物の遡上距離に関連している可能性があるとする。このように、竹本論文では、1026年の万寿津波が通常の津波のように巨大地震の上下方向の断層運動によるものではなく、海底堆積性斜面の崩壊によって引き起こされた津波であると考えれば、大筋の説明が可能であるとする。

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◆原告第47準備書面
第2 日本海西南部の津波についての研究の現状

2018年(平成30年)3月23日

原告第47準備書面
―1026年の万寿津波と大飯原発の危険性―

目 次(←第47準備書面の目次に戻ります)

1 日本海における大規模地震に関する調査検討委員会
2 調査検討会による最大津波高の分析と評価
3 島崎教授の講演
4 日本海地震津波調査プロジェクト
5 津波地震
6 海底地すべり



第2 日本海西南部の津波についての研究の現状


1 日本海における大規模地震に関する調査検討委員会

2013(平成25)年1月から、2014年8月にかけて、調査検討会の会議が合計8回開催された。最後の会議では、日本海を震源とする地震が発生した場合に起きる津波について、16都道府県173市町村で想定される津波の高さと到達時間が初めて公表された。

ところで、調査検討会は、委員長を阿部勝征東京大学名誉教授が務め、その他学識経験者から構成され、国土交通省のほか、内閣府や文科省が協力、国土交通省の水管理・国土保全局が事務局となっている。

そして、調査検討会は、道府県による津波浸水想定の作成を支援し、将来起こり得る津波災害の防止・軽減のため、全国で活用可能な一般的な制度を創設し、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」による「津波防災地域づくり」を推進することを目指したものである。

その背景としては、日本海側では、過去に渡り、津波を伴う巨大地震が度々発生しているものの、太平洋側で発生する海溝型地震のように、同一場所で繰り返し発生が確認されるようなものではなく、また、地震の規模も、太平洋側に比べると小さいことから、発生メカニズムのモデル化が難しいとされてきた。そこで、今回、歴史資料や、津波痕跡高、津波堆積物調査を収集・整理するとともに、産業技術総合研究所(以下「産総研」という)、海洋研究開発機構等による構造探査データ及び地震発生メカニズム等に関する最新の科学的知見なども踏まえ、日本海側における津波の発生要因となる最大クラスの津波断層モデル(海底断層の位置、長さ、幅、傾斜角、すべり量等を60断層について調査したものである。

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 2 調査検討会による最大津波高の分析と評価

上記60断層による津波規模を把握するため、各津波断層モデルに大すべり域の場所を変えて、計253ケースの津波高の概略計算を実施し、知床半島から平戸市までの日本海沿岸を50メートルメッシュ(区画)に分割して沿岸の津波高を算出した。概略計算の結果から、北海道から福井に至る日本海沿岸東部では、15メートル以上のところもあったが、おおむね高いところで5~12メートルであった。それに対して、京都から九州北部の日本海沿岸西部では、高いところでも概ね3~4メートルであった。もっとも、日本海の海底地形の影響で、東北沖での津波が中国地方で高くなる場合があったと記載されている。

甲429号証[3 MB]の2頁、図1に、この調査検討会で導かれた日本海側の16道府県の最大津波高が示されている。これによれば、福井県は坂井市で7.7m、京都府伊根町では7.2mである。

図1 (日本海側の16府県の最大津波高(m))【図省略】

日本海沿岸東部は、北米プレートとユーラシアプレートの2つの大陸性プレートの境界に沿って、1940年の積丹半島沖地震(Mw7.6)、1964年の新潟地震(Mw7.6)、1983年日本海中部地震(Mw7.7)、1993年北海道南西沖地震(Mw7.7)が発生している。これらの最近の活動から見ると、日本海東縁部の領域では、約10年から20年間隔で大きな津波を伴う地震が発生している。

一方、日本海沿岸西南部では、2000年鳥取県西部地震(Mw6.8)、2005年福岡県西方沖地震(Mw6.7)などの日本海沿岸近くの内陸部で被害を伴う地震が発生しているが、東縁部に比べると地震活動は低調で、大きな被害を伴う津波の歴史資料は現時点では確認されていないという。このことが図1の結果にも反映された。

上記分析に対し、竹本教授は、2000年鳥取県西部地震や2005年の福岡県西部沖地震のほか、日本海沿岸西南部で津波を伴ったM7級の地震として、1700年の対馬沖地震、1872年の浜田地震、1927年の北丹後地震も考慮すべきとしている。

また、地震予知連絡会会報90巻(2013年)の松浦律子博士の報告「日本海沿岸での過去の津波災害」によれば、日本海の地震の津波マグニチュード(Mt)は、モーメント・マグニチュード(Mw)より0.2程度大きく、同じ地震規模ならば太平洋側より日本海側のほうが津波が大きいと指摘している。また、1983年の日本海中部地震や、1993年の北海道南西沖地震の経験から、日本海側の地震は、地震規模が小さくても津波が高くなる傾向がある。この原因は、岩石の弾性係数の差に起因するとされている。

次に、調査検討会は、日本海側の9つの原発立地点におかる最大津波高を示した(甲429[3 MB]の3頁、図2)。これによれば、大飯原発が2.8m、高浜原発が3.3mとされているが、他方、上記に述べた通り、図1によれば、福井県の最大津波高は坂井市の7.7m、京都府は伊根町の7.2mであり、原発立地点の津波高の算定が過少ではないかの疑問がある。

図2 (各原発立地点の最大津波高(m))【図省略】

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 3 島崎教授の講演

2015年11月28日、原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦東京大学名誉教授は、岡山市で開かれた日本活断層学会2015年度秋季学術大会で、「活断層の長さから推定される地震モーメント:日本海『最大』クラスの津波断層モデルについて」という表題で講演を行った(甲430[460 KB]参照)。それによると、調査検討会の見解は、能登半島以西で地震規模が従来の手法に比べても、過小評価の恐れがあるという。この見解は、自治体が作る防災計画に大きな影響を及ぼすだけに、島崎教授は、「このままでは東日本大震災のような『想定外』を繰り返しかねない」と警鐘を鳴らした。また、同教授によれば、日本海側の津波が「東高西低」だが「西日本は過小評価」とされることについて、津波を引き起こす海底断層の大きさを推定するのに、武村の式(武村1998)を使わずに、入倉―三宅の式(入倉・三宅2001)を用いていることに大きな原因があるとしている。日本海西部に発生する津波は、垂直な海底断層、あるいは垂直に近い断層によって生じるが、これらの断層の地震モーメントを推定するのに入倉―三宅の式を使うと、武村の式を使った場合の4分の1程度にしかならないということである。

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 4 日本海地震津波調査プロジェクト

上記島崎教授の講演に先立ち、文部科学省は、2013年度より日本海沿岸地域での津波の波高予測・強震動予測を一層強化するため、「日本海地震津波調査プロジェクト」を開始した。開発・事業期間は、2020年度までの8年間で、このプロジェクトは、東日本震災の津波被害を受け、政府が2011年に「津波対策の推進に関する法律」を制定し、津波の発生機構の解明と津波の規模等に関する予測精度の向上についての調査研究を国が行うことを明示したことに基づいている。また、第4期科学技術基本計画(2011年8月に閣議決定された)では、大規模な自然災害の発生に際し、人々の生命と財産を守るための取組を着実に進めることの必要性を挙げ、生活の安全性と利便性の向上に関する施策を重点的に推進するため、地震などに関する調査観測や予測、防災、減災に関する研究開発や、防災体制の強化、災害発生時の迅速な被害状況の把握及び情報伝達、リスク管理も含めた災害対応能力の強化に向けた研究開発を推進するとしている。

太平洋側とは違い、海・陸のプレート境界にない日本海側には、巨大地震は発生しないと考えられてきたため、日本海側の津波予測の研究は研究途上であると言える。

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 5 津波地震

陸域に被害をもたらす津波には、地震を原因とする以外にも色々な原因がある。

まず、通常の海域における断層活動に伴う地震・津波による被害の例に加えて、津波地震(ゆっくり地震)を説明する。東大地震研究所・瀬野徹三名誉教授のホームページによれば、津波地震とは、断層地震のマグニチュードが小さい割には矢鱈と大きな津波を発生する地震である。震度が小さいと思い安心していると大きな津波に襲われることになるので、極めて危険な地震と言える。1896年明治三陸地震がそのような津波地震の典型例で、この地震のマグニチュードは7程度であったが、三陸海岸に沿って、津波で2万2千人の人命が失われ、史上最悪の津波被害を出したと書かれている。このような津波地震は、日本ばかりでなく、1946年のアリューシャン地震のように世界中で知られている。

日本海側に着目すると、1983年の日本海中部地震や1993年の北海道南西沖地震は、地震のマグニチュードに比べて大きな津波があったことはすでに述べた通りである。日本海側で発生した最大の津波は、1641年の寛保津波で、瀬島大島の噴火に伴う火山体の崩壊が原因であると考えられている。

火山体の崩壊が原因で津波が発生したケースとして、「島原大変肥後迷惑」という言葉で表された災害がある。1792年5月に、肥前国の島原(長崎県)で発生した雲仙岳の火山性地震及びその後の眉山の山体崩壊(島原大変)と、それに起因する津波が島原や対岸の肥後国(熊本県)を襲った(肥後迷惑)という災害である。このほか、火山体の崩壊に起因した大規模海底地すべりは、ハワイ半島やカナリー諸島などでも認められているという。

産総研の岡村行信博士は、海底断層の活動による地震に伴う津波ばかりでなく、日本海西南部沿岸の海底堆積性斜面の大規模崩壊による津波の可能性を指摘しており、大地震が起こりにくい場所でも稀に大規模な海底斜面崩壊が起こり、津波を発生させると述べていることに注目すべきである。

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 6 海底地すべり

電力土木技術協会は、海底地すべりについて、ホームページで以下のように書いている。

「海底地すべりとは、海底斜面に存在する未固結堆積物が、崩壊などによって引き起こす比較的急速な物質移動、すなわち堆積物のある程度の大きさの塊が重力の作用により斜面を滑り落ちる現象をいう。海底地すべりが詳細に調査されている海域はまだ少なく、まだ海底地すべりの大部分は水深200~300m以深の大陸斜面やその基部の緩やかな斜面の海域で発生するために、その運動様式に関する長期的な観察・観測例がほとんどない。海底地すべりの特徴は、その規模が陸上に比べて極めて大きい。」

このように、多くの文献では、海底堆積性斜面の大規模崩壊と海底地すべりは、ほぼ同じように説明されている。

産総研の池原研博士は、2005年に日本地すべり学会の講座「すべりに伴う物質の移動と変形(第5回)」において、「海底地すべり」と題する講演を行った(甲431[349 KB])。そこには「海底地すべりの特徴は、陸上の地すべりでは地すべり土塊の体積は大きいものでも数十k.であるのに対して、海底地すべりでは、数千km3~数万km3のものもあり、移動距離も数十km~数百kmに及ぶものもある」と書かれている。東北大学大学院工学研究科の阿部郁男博士(現富士常葉大学社会環境学部)らは、規模は小さいが、日本海で海底地すべりが津波を生じさせた例として、2007年能登沖地震の際に、富山湾内で発生した津波について述べている。日本海でもこのような海底地すべりによる津波が発生しているという。

これに関連して、1998年7月17日にパプアニューギニア北西部のシッサノ・ラグーン沖約35kmの地点でM7.0の地震が発生した。この地震でラグーン付近は15mに達する津波に襲われた。地震のマグニチュードに比較して、この津波高は大きく、地震に伴う海底地すべりの影響であると考えられている。気象庁は、ホームページの「津波の基本知識」の中で、これを海底地すべりの例として扱っている(甲429[3 MB]の5頁、図3)。この機序をいうと、沖合30~50kmで大規模海底地すべりが発生し、大量の土砂がその右側のニューギニア海溝の2000~3500mの深さに流れ落ちた。その部分の水深が急激に低下した。その結果、海底地すべりが発生した場所に周囲から海水が押し寄せた。そのためラグーン付近の第1波は引き波となった。その後、ニューギニア海溝に流れ落ちた大量の堆積物により、この海溝部分の水深が浅くなり、上昇した海水が周囲に流れた。その結果、ラグーン付近に15mに達する押し波が寄せ、マングローブの林をなぎ倒したということである。この例は、この後述べる1026年の万寿津波のメカニズムを考えるうえで非常に参考になる。

図3 【図省略】

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◆原告第47準備書面
第1 問題の所在

2018年(平成30年)3月23日

原告第47準備書面
―1026年の万寿津波と大飯原発の危険性―

目 次(←原告第48準備書面目次に戻ります)


第1 問題の所在

原告らは、第2準備書面において、近畿地方の日本海側において、過去に多数の地震が発生していることを述べた。具体的には、1948年の福井地震、1952年の大聖寺沖地震、1963年の越前岬沖地震、1891年の濃尾地震、1927年の北丹後地震、2000年の鳥取県西部地震などである。また、原告らは、過去に日本海側で、大きな津波が発生したことも主張した。1586年の天正大地震では、北陸・東海・近畿に甚大な被害が出たとともに、若狭湾沿岸に大津波が押し寄せたとの文献も証拠提出した。このほか、日本海側に津波が到来した伝承も多数あることを立証した。

さらに、原告らは、第14準備書面においては、津波の定義と津波高の試算方法として土木学会の「津波評価技術」が用いられていることを紹介した。他方、大飯原発の構造上、押し波でT.P.(東京湾平均海面)+8.0を上回るか、引き波でT.P.-2.62を下回る津波が発生する可能性が万一にでも認められれば、海水ポンプ施設の稼働に影響の出る具体的危険性があると述べた。そして、被告関西電力の津波高試算は、上記「津波評価技術」を援用しているものの、活断層や古津波の検討が不十分であり、安全裕度に乏しいことなどを指摘、その内容は不合理であることを主張した。

これらの主張に対し、被告関西電力は、日本海側では巨大地震による大津波を警戒する必要は無いとしている。その根拠の一つは、2014年8月に、「日本海における大規模地震に関する調査検討会(以下「調査検討会」という)」が公表した日本海側の津波高の予測であり、その結論が日本海沿岸西南部の原発立地点の津波の高さが3~4メートルというものである。

しかし、このたび、1026年に島根県益田地方を襲った万寿津波について、京都大学の竹本修三名誉教授の論文が発表され(甲429号証[3 MB])、万寿津波のメカニズムが解明された。伝承されている20メートルを超える高さの津波の到来につき、十分信用性があることが分かった。

被告関西電力の根拠の一つである、上記調査検討会の発表は、この万寿津波の存在を考慮しておらず、再考が必要となる。以下、論ずる。

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◆原告第47準備書面
―1026年の万寿津波と大飯原発の危険性―
目次

2018年(平成30年)3月23日

原告第47準備書面
―1026年の万寿津波と大飯原発の危険性―

原告提出の第47準備書面[2 MB]

目 次

第1 問題の所在

第2 日本海西南部の津波についての研究の現状
1 日本海における大規模地震に関する調査検討委員会
2 調査検討会による最大津波高の分析と評価
3 島崎教授の講演
4 日本海地震津波調査プロジェクト
5 津波地震
6 海底地すべり

第3 島根県益田地方を襲った万寿津波
1 文書に現れた万寿津波
2 万寿津波の発掘調査
3 大規模な海底斜面崩壊による津波の可能性
4 万寿津波のメカニズムについて

第4 竹本論文のまとめ

◆第18回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

高瀬光代

私は、高瀬光代と申します。

明日はちょうど1月17日、23年前、阪神淡路大震災がおこった日です。

当時、私は、神戸市東灘区にある神戸市立本山南中学校に勤務していました。本日は、私が体験した避難所の状況から考えたことについて陳述させていただきます。

阪神淡路大震災がおこり、私が勤務していた中学校は、避難所と指定されました。指定が解除されたのは、8月ですが、避難所指定された8か月間を見て、私は、学校は、生活の場所・学校本来の役割の両面から、避難所とすべきではないと考えます。

まず、生活の場所としての機能が全くないと言うことです。プライバシーが全く保障されません。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名のかたが避難してこられ、学校はどこも、グランドも、普通教室も、体育館も、人が溢れていました。そのような所で何日かでも暮らせるでしょうか。結局、女子生徒は数日の間にいなくなりました。あまり、大きい声では言われなかったと思いますが、プライバシーのない避難所は、とても、女子生徒の生活の場にはなれませんでした。親御さんは早々に安全な所を探して移って行きました。多くの方は体育館に、足の踏み場もないほど詰め込まれた状態でした。高齢者には特に苛酷でした。床は硬く、とても寒く、体調を崩す方も多かったと思います。大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行しました。

学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当です。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないと思いますが、原発事故のために避難を余儀なくされた方々を迎える場所として、学校の体育館は適当と言えるでしょうか。

阪神淡路大震災のおこったのはちょうど受験準備のまっただ中でした。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などは行われました。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれました。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であると思います。

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っています。それによると、多くの学校が避難所として指定されています。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所でしょうか。私は、阪神淡路大震災で瓦礫の山になってしまった阪神間から、大阪に行ったときの違和感を忘れることができません。子どもたちが日常生活を送っている学校でたとえ短期間であっても生活せざるをえないというのは、とても耐えがたいのではないでしょうか。

避難計画を見ますと、全く学校を避難所に指定していない自治体がいくつかありました。神戸市では、市民に対しての防災計画での避難所には学校を指定していますが、原発による避難者に対しては学校を指定していません。それは、学校本来の役割に配慮したためのようです。しかし、やはり、体育館などが多く指定されていて、これは、先に述べた理由により、再考を促したいと思います。

私は、原発事故が起きた場合の避難所についていろいろ考えていて、大きい疑問を持つようになりました。なぜ、事故が起きたら、個人の私有財産を奪われなくてはいけないのでしょうか?なぜ、移動の自由が制限されなくてはいけないのでしょうか?なぜ、健康で文化的な生活が奪われなくてはならないのでしょうか?日本国憲法は原発事故が起きたら停止してしまうのでしょうか?

関西電力が大飯原発を再稼働するというのであれば、もし、事故が起きたらどうするかについて、なぜもっと責任を持たないのでしょうか。「災害対策基本法」は自然災害での自治体の責任が言われています。原発事故は、企業災害ですから原因企業が責任を持たねばならないのではないのでしょうか。避難を余儀なくされた方々に対しては、少なくともそれまでの生活と同等の生活環境を用意してしかるべきではないのでしょうか。それができないなら、稼働すべきでないと考えます。

以上

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◆原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

2018(平成30)年1月15日

原告第46準備書面[290 KB]

 新聞報道によれば、2017年12月22日、被告関西電力は、大飯原発1・2号機の廃炉を決定したとのことである。この2つの原発は営業運転を始めて約38年を経ており、運転期限は2019年迄の、老朽原発である。老朽化した原発が内包する危険性に対しては、市民科学者として原発問題に取り組んできた高木仁三郎が、阪神大震災後の原子力関係者の不誠実な対応を批判し、1995年「日本物理学会誌」に「核施設と非常事態」という論文を発表して、老朽化した原発の危険性を指摘している。

福島第一原発事故後、原発をめぐる政治、経済、社会、国際的潮流は激変し、原発の運転を維持するコストに対する見方も著しく厳しくなった。

このような老朽原発が内包する危険性と、激変した全体的な環境の下における原発運転の経済性を総合的に考えると、被告関西電力の大飯原発1・2号機の廃炉は、冷静に見れば避けられない判断であったと考えられる。脱原発の動きは、世界的にもわが国においても大きい潮流になっている中、今回の被告関西電力の廃炉決定は、それに掉さすものである。

しかし、今回の廃炉決定は廃炉のほんの始まりにすぎない。現実に廃炉となる迄には長い時間を要する。その間、当該原発は、原子力の持つ危険性を内に蔵した状態が続く。当面の問題としても、使用済み燃料処理の問題が立ちはだかる。使用済み燃料プールは、使用済み燃料が全て搬出される迄、冷却を続けなければならない。その間プール隔壁の安全性を十全に保たなければならない。廃炉となり、電気を生み出さない無用の長物と化した施設に対して、被告関西電力は、きちんとした安全対策を講ずるであろうか。経済性に合わないとして廃した原発に対して、本当に安全のために必要な費用を注ぎ込んでいくであろうか。電気を生み出す3・4号機の維持管理に意を払うあまり、1・2号機の安全対策はおろそかになるのではないか。また使用済み燃料の保管場所や保管方法をどうするのか。さらに最終処分をどこでどのようにして実施するのか。最近の新聞報道では、被告関西電力は、使用済み燃料の中間貯蔵場所として青森県むつ市を候補としたが、むつ市長は、この被告関西電力の一方的な発表に対して強く拒絶の意を表明している。まして最終処分場については、全く決定される見通しが立たない状況にある。したがって、大飯原発1・2号機の使用済み燃料の危険性を内包したまま、廃炉の具体化を進めざるを得ないのである。稼働しなくなった施設の朽廃は急激に進むことは容易に予想される。被告関西電力は、大飯原発1・2号機の、廃炉決定後の、廃炉に向けての全工程を関係諸機関のみならず、当該原発によって危険にさらされる可能性のある原告らを含む全ての住民に対して、可及的速やかに明らかにする義務、少なくとも責務がある。原告らは、被告関西電力に対して、大飯原発1・2号機の廃炉に向けての全工程の内容を明らかにすることを求める。その内容の開示は、原告らに対する当該原発の危険性を判断する上での必要不可欠な事項というべきだからである。

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 原告らは、第44準備書面において、被告関西電力が提出した丙28に対して、厳しい批判を展開した。被告関西電力は、大飯原発3・4号機の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査を懈怠しているばかりか、実施された調査結果において、科学技術の見地からして、許されないデータ無視、あるいはそれらを著しく歪めたことを行っていると批判した。

さきに挙げた高木仁三郎は、「原発事故はなぜくりかえすのか」(岩波新書2000年12月20日発行)において原発現場における隠蔽・改ざん・捏造について取り上げている。同書において、著者は、1991年以降2000年までの間の「主な隠蔽・改ざん・捏造」を一覧表として揚げている。そして、高木は、改ざん・捏造と技術者・技術の関係について、要旨以下のように考察している。「改ざんは技術にとってはあってはならないことで、技術からの逸脱である。データのその後の解釈については、人によってはねじ曲げて解釈することがあったとしても、最初に観測した生の数字を書き換えるということは、それをやってしまったら技術というものが存在しなくなる、いわば基礎の破壊である。だから、改ざんが行われるようになってきたということは、それによって安全性が損なわれるというレベルのことにとどまらず、それ以前に技術者の基本的な倫理というものが問われる、最も根本的な問題である。社会的な正義を云々する以前の問題なのだ。観測したことに忠実である、自然の現象に忠実である、それが科学技術の基本だから、技術の倫理の基本にもその忠実さがなければならない。上記の諸事例の発生は、この技術の倫理の基本が崩れてしまったことを示しているのではないか」と。また、「捏造は、隠蔽と違って、技術者としては本質的にあるまじきことを行っている。もはや技術なし、技術者なしといっていいのではないか。技術というのは、自分で実際に計算した数字や実験的に確かめた数値に基づいて事を運んでいく。それを勝手に別の数値にすりかえてしまうようなことをやって平気である。これは技術の倫理、技術の公的性格という観点からは、到底許される行為ではない。その根本が全く台なしになってしまっている。そういう意味では、もはや技術なし、技術者なしといわれるような状況が1990年代半ばくらいから多発している」とも述べている。

そして、「こういうことがなぜ多発するのか」という問いを立て、それについて次のように答える。「技術を担当する個人が自分の仕事の公的な性格を見失っているということ、自己に対する検証のなさということ、自己に課すべき倫理規範を持っていないということ、さらにはアカウンタビリティが欠如しているということ、これらのことからして、隠蔽、改ざん、捏造等の嘆かわしい状況が生じている。少なくとも昔から科学者や技術者が持っていると考えられていた職業倫理が今は欠如してしまっている。データの改ざんや捏造は、科学と技術の前提を全くおろそかにするところに発している」のだと。

手厳しい批判であるが、数多くの隠蔽、改ざん、捏造の事例を前にすると、強い説得力を持つ主張である。丙28に対して原告らは、厳しい批判を展開し、その内容について信用性がないことを述べているが、その信用性を判断する上では、上記の高木の分析は極めて有用であると考える。裁判所に対しては、炯眼を以って、乙28の信用性の判断をして頂くことを強く望むものである。

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 技術者・科学者の倫理について論じたこととの関係で、原発訴訟における司法関係者の倫理についても触れなければ、倫理を真に自己のものとして受け止めていないのではないかとの批判を免れないので、以下、この点について本準備書面の最後に述べておきたい。

原発事故は巨大な人権侵害をもたらす。このことは、チェルノブイリ原発、福島第一原発の事故を経験したいま、それを否定することは誰もできない。このような人権侵害の事件が法廷に持ち込まれた場合、司法関係者はそれに対してどのように立ち向かうべきであろうか。この点を考える上で、次のことが参考とされよう。

アール・ウォレンは、1953年、アイゼンハワー大統領によって、カリフォルニア州知事から米国連邦最高裁長官に任命された。そして、この任にある時期、ウォレン・コートは、白人と黒人の分離教育は違憲と断じたブラウン対教育委員会事件、貧困者は、全ての重罪事件で、公費により弁護人を付されなければならないとされる契機となったギデオン事件、それを嚆矢とする一連の刑事司法改革判決等を生み出した。平等主義への強い志向、少数者保護についての積極的態度、米国社会の最も困難な問題である人種問題の解決に、行政部や立法部ではなく、司法部がまずイニシアティブをとったのであった。ウォレン長官は、退任直後、「ウォレン・コートは余りに早く進みすぎはしなかっただろうか」との問いに次のように答えた。「われわれは、われわれがいかに早く進むべきかについては何もいうことはない。われわれはわれわれのところへくるケースとともに進むのである。そしてケースが人間の自由の問題を持って、われわれのところにくるときには、われわれは弁論を聞き判決をするか、あるいはこれを放置して、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせるか、どちらかである。わが国においては、概していえば後者は余りに長くなされすぎたのである。」

このウォレン長官の見解は、原発をめぐるわが国の司法において深く心に止めるべきものと考える。原発について、わが国の司法は、実質的に司法判断を回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせてきた。福島第一原発は巨大かつ悲惨な事故を起こした。これは、司法が原発についての司法判断を実質的に回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代にそのつけを回してきたからではないか。司法にも責任はないのか。これがこの訴訟に関係する全ての者に対して問いかけられていることと思われるのである。

女川原発事件の裁判長であった塚原朋一は、2011年3月11日、福島の原発が津波に襲われたとのニュースを聞いて、とっさに「女川、大丈夫か」と思ったという。そして次のように述べている。「一般的に裁判官は、ある判決を言い渡したとたんに、その問題への関心が薄れていく。二審判決が出ても、ざっと目を通すくらい。」しかし「わたしにとって、女川原発訴訟だけはそうはいきません」と付け加える。「この訴訟については、当時の自分に責任があるかどうかという問題を超えて・・・・・いや、責任があると思っても責任の負いようはありません。そうではなくて、これからも社会状況の変化を見届ける。社会に対してメッセージを出すべきものがあれば、こうして語る。自分の出した判決は正しかったのか、正しくなかったのかと考え続ける。そして、正しくないと結論づけたら反省する。遅すぎるかもしれませんが、そうするしかありません。法律家として一生背負っていく問題だろうと思っています」と。塚原にとっては「女川原発訴訟」だけは、その出した結論に対して、他の事件と異なり、「法律家として一生背負っていく問題」だと言う。そのとおりである。裁判官が原発の稼働を容認すれば、原発は数十年間にわたって稼働を続け、廃炉となってもなお危険を内包し続け、使用済み燃料の処理に至っては途方もない期間地球に負荷をかけ続ける。ある裁判官が原発の稼働を容認した場合、それを容認した裁判官は、その原発ともはや離れることができない。その意味で、「法律家として一生背負っていく問題」である。そのように考えてくると、司法関係者の責任の重さを改めて痛感せざるを得ない。規制委員会の適合性判断は、規制基準適合の判断にすぎず、安全を保証するものではない、と規制委員会委員長は繰り返し言明している。政府は、規制基準適合の判断は安全を保証すると、文字どおり議論を「捏造」しているが、安全性の判断を規制委員会はしていないのだから、その判断は最終的には司法が行うしかない。そして、その場合における司法関係者の責任は、当該原発が稼働し、廃炉しても存在するかぎりつきまとい続ける。裁判官を含む司法関係者の責任は、原発訴訟においては、格別に重いものがある。その責任を背負って原発裁判に関わることが倫理であるというべきであるだろう。

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 司法関係者の責任を考える上で、次の事例を挙げておきたい。周知のように、戦前治安維持法は暴威をふるい、戦争を遂行する上で重要な役割を果した。治安維持法は1925年に制定され、その後何回か改正されたが、1930年代後半に治安維持法を適用して摘発された宗教取締りにおいて、裁判所は特高警察・思想検察の作り上げた路線をそのままなぞったのである。治安維持法研究の第一人者である奥平康弘は次のように述べている(「治安維持法小史」1977年10月、岩波現代文庫所収)。「どの宗教団体についてもいえることだが、これらに治安維持法を適用させるのは、無茶なことであった。第一、かりにこれら団体の関係者が「国体変革」を意図したとしても、かれらの「革命」は、かつて治安維持法が問題とした日本共産党のそれと、よかれあしかれレベルがちがう。前者は、当局が認容するように「暴力革命」ではなくて「意識革命」であるにすぎない。宗教上の観念の世界の問題である。第二の問題も、大きい困難を包蔵していた。それぞれの団体が「国体改革」を目的とした「結社」の態をなしているかどうかである。

常識からみて、非常にはっきりしていることは、もともと治安維持法は、この種の宗教統制のために利用されることを念頭において作られていないことである。したがってたとえば、宗教上の観念の世界における「世直り」(天理本道)、「立替え、立直し」(大本教)、「ハルマゲドンの戦い」(燈台社)などの革命・変革の思想や、そのような宗教上の教義に応じた組織と活動には、治安維持法を適用することはできないと断言するのを、裁判所に期待したとしても、それはけっして、無理難題を期待することではなかったはずである。しかるに実際には、かず多くの類似宗教取締り事件のなかで、既述の大本教事件第二審の裁判所と、本書では詳しく言及できないが、のちの浅見仙作事件の大審院判決(1945年6月)のような例外をのぞき、裁判所は特高警察や思想検察のいうなりにしたがって、善良かつ真摯な宗教人に苛酷な刑を科して、あやしむところがなかった。」。裁判所は、特高警察、思想検察の走狗となったといって過言ではない。そのような体制維持のために強大な権力を行使し、戦争遂行の支柱のひとつとなったことは否定できない歴史的事実であり、その責任は重い。当時の裁判官の大勢は、特高警察、思想検察の走狗であった。その大勢に逆らって、裁判官としての職責を果したものは殆どいなかった。そのことが、事実として戦争遂行に対する加担となった。いま、原発訴訟をめぐる状況は、大きな岐路を迎えている。規制委員会の適合性判断を無批判になぞる裁判か、安全性(危険性)の判断を、裁判官として良心、倫理にしたがって行う裁判か。原発裁判はそのせめぎ合いの中にある。大勢に安住または埋没して司法自身の判断を放棄し、規制委員会の判断をなぞる司法は、歴史の審判に耐えることはできないだろうし、自己の判断を「一生背負っていく」こともできないと思われる。さきに技術者の倫理について指摘したが、その問題は、直ちに司法関係者の倫理の問題となってはね返ってくるということを肝に銘じて本裁判に関わっていきたいものである。

以上

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◆第18回口頭弁論 原告提出の書証

甲第381号証(第42準備書面関係)
甲第382~421号証(第43準備書面関係)
甲第422~426号証(第44準備書面関係)
甲第427~428号証(第45準備書面関係)

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



証拠説明書 甲第381号証[96 KB](第42準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第381号証
南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)(中央防災会議防災対策実行会議南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ)

証拠説明書 甲第382~421号証[311 KB](第43準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第382号証
第11回口頭弁論調書(名古屋高等裁判所金沢支部)

・甲第383号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(地震調査研究推進本部 地震調査委員会)

・甲第384号証
地震本部ホームページ「全国地震動予測地図2016年版」(同上)

・甲第385号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(同上)

・甲第386-1号証
発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム 第3回会合 議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第386-2号証
震基3-4「(骨子素案)発電用軽水型原子炉施設の地震及び津波に関わる新安全設計審査基準」(抜粋)(同上)

・甲第387号証
東洋経済オンライン「大飯原発『基準地震動評価』が批判されるワケ島崎氏の指摘を規制委は否定したが…」(岡田広行記者)

・甲第388号証
日本地震学会平成28年秋季大会予稿S15-06『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』と熊本地震(纐纈一起)

・甲第389号証
中国新聞記事(中国新聞)

・甲第390号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会の概要について(原子力規制庁)

・甲第391号証
平成28年度原子力規制委員会第16回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第392号証
大飯発電所の地震動の試算結果について(原子力規制庁)

・甲第393号証
平成28年度原子力規制委員会第20回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第394号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第395号証
手紙(島崎邦彦)

・甲第396号証
「大倉・三宅式の問題」(同上)

・甲第397号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会について(原子力規制庁)

・甲第398号証
平成28年度原子力規制委員会第23回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第399号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第400号証
NHK「かぶん」ブログ「大飯原発の従来の地震想定見直さず 改めて決定」(NHK)

・甲第401号証
平成28年度原子力規制委員会第22回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第402号証
「大飯発電所 地震動評価について」(抜粋)(被告関西電力)

・甲第403号証
「島崎邦彦氏の問題提起と2016年6月改訂新レシピは原発基準地震動の根本改定を求めている」(長沢啓行大阪府立大学名誉教授)

・甲第404号証
「科学」2016年7月号(抜粋)(島崎邦彦)

・甲第405号証
「2016年4月14日・16日熊本地震の震源過程」(纐纈一起 小林広明 三宅弘恵)

・甲第406号証
「そもそも総研」「そもそも熊本地震の後,原発は大丈夫なのだろうか?」の報告書(弁護士甫守一樹)

・甲第407号証
大飯原発「地震動,再計算を」元委員が規制委に要請(毎日新聞)

・甲第408号証
全国地震動予測地図2016年版 地図編 141頁「震源断層を特定した地震動予測地図」(推本地震調査委員会)

・甲第409号証
全国地震動予測地図2016年版 付録1 補足解説(抜粋)(同上)

・甲第410号証
「『耐震設計審査指針改訂に伴う中国電力株式会社島根原子力発電所1,2号機新耐震安全性に係る中間報告の評価について』に対する見解」(抜粋)(原子力安全委員会)

・甲第411号証
「<原発・基準地震動>使用回避の計算法,継続の規制委に異議」(毎日新聞)

・甲第412号証
強152参考資料5 「レシピ」の一部記述表現について(案)(地震本部事務局)

・甲第413号証
ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究総括成果報告書(抜粋)(独立行政法人防災科学技術研究所)

・甲第414号証
柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉 敷地周辺陸域の地質・地質構造について(抜粋)(東京電力ホールディングス株式会社)

・甲第415号証
(原子力発電所)資料4-2-2 柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉敷地周辺海域の地質・地質構造について(抜粋)(同上)

・甲第416号証
日本地震工学論文集第15巻第2号 「断層極近傍のための理論地震動シミュレーション法を用いた断層表層領域破壊時の地震動推定」(山田雅行 羽田浩二 今井隆太 藤原広行)

・甲第417号証
「科学」Vol.86 No.8 「2016年熊本地震を教訓とする活断層防災の課題と提言」(鈴木康弘 渡辺満久 中田高)

・甲第418号証
日本地球惑星科学連合2017年大会予稿 SCG70-P03 「疑似点震源モデルを用いた2016年熊本地震本震の強震動シミュレーションとその改良」(長坂陽介 野津厚)

・甲第419号証
地震調査研究推進本部地震調査委員会第153回強震動評価部会議事次第(地震本部)

・甲第420-1号証
事務連絡(尋問事項)(函館地方裁判所)

・甲第420-2号証
質問回答書(藤原広行)

・甲第421号証
大分合同新聞「活断層と揺れ予測熊本地震の教訓強さ、過小評価の恐れ」(大分合同新聞)

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証拠説明書 甲第422~426号証[133 KB](第44準備書面関係)
(2018年1月12日)

甲第422号証[484 KB]甲第422号証付図[5 MB]
「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」(赤松純平元京大助教授)

甲第423号証[154 KB]
意見書(芦田襄京大名誉教授)

・甲第424号証
原子力発電所問題についての意見書(石井吉徳東大名誉教授)

・甲第425号証
基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

・甲第426号証
敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

証拠説明書 甲第427~428号証[91 KB](第45準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第427号証
関西広域連合(関西広域連合広域防災局)

・甲第428号証
口頭弁論要旨(原告高瀬光代)

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◆原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

2018年(平成30年)1月12日

原告第45準備書面[147 KB]

原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では阪神淡路大震災を体験した原告高瀬光代の体験をもとに学校を避難所として避難困難性に関する個別事情について述べる。

第1. 学校を避難所とすることの問題点

1995年1月17日、阪神淡路大震災がおこったさい原告高瀬が勤務していた中学校が、避難所と指定され、8ヶ月後に指定が解除された。しかし、学校は、生活の場所としての機能が全くないため、下記の問題が発生した。

第一に、プライバシーが全く保障されていない。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名が高瀬の勤務していた学校に避難してきた。このため、グランド、普通教室、体育館等学校中に人が溢れていた。プライバシーの保障されない空間であるため、結局、女子生徒は数日の間にいなくなった。また、体育館の床は硬く、とても寒く、高齢者には特に苛酷な状況であった。このため、多くの者が体調を崩し、大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行した。

以上のとおり、学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当である。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないが、原発事故のために避難を余儀なくされた者を迎える場所として、学校の体育館は不適当である。

第2. 学校の本来の役割

阪神淡路大震災が、おこったのは1995年1月17日であり、ちょうど受験準備のまっただ中であった。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などが行われた。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれた。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であり、学校を避難場所とすることは、子どもたちの学習権に対する侵害である。

第3. 「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」について(甲427号証)

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っており、多くの学校が避難所として指定されている。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所ではない。避難場所として不適切な学校を避難場所として指定するのではなく、原発自体を廃炉にするべきである。

以上

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◆原告ら第44準備書面
地域特性の補充

原告ら第44準備書面
地域特性の補充

2018年(平成30年)1月12日

原告第44準備書面[2 MB]

目 次

1 はじめに
2 PS検層
3 試掘坑弾性波探査
4 反射法地震探査について
5 単点微動観測
6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率
7 速度構造と破砕帯の関係
8 調査が表層部にとどまること
9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと
10 まとめ


以下の丙号証へのリンク(文中で茶色で表示)は、次のとおり。
・丙第28号証…3分割、こちら[13 MB] ほか連番
・丙第178号証…27分割、こちら[15 MB] ほか連番
・丙第179号証…7分割、こちら[4 MB] ほか連番
・丙第196号証…4分割、こちら[19 MB] ほか連番



1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第35及び37準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。
即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(甲357、意見書「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点 -地盤の速度構造(地盤モデル)について-」赤松純平)。

被告関電は、原告らのこの指摘に反論しないままであるが、原告らは、赤松純平元京大助教授作成の意見書「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」[1](甲422)にもとづき、以下のとおり主張を補充する。

[1]

甲357「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点―地盤の速度構造(地盤モデル)-」2017年4月17日付 略称『赤松意見書(第1次)』 被告関電の丙28「大飯発電所の基準地震動について(平成27年1月)」を検討批判した意見書。
甲422「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」2018年1月8日付 略称『赤松意見書(バージョンアップ版)』 丙28の他、平成29年11月1日弁論期日で取調べられた以下の被告関電提出証拠を検討批判した意見書。
丙178「大飯発電所発電用原子炉設置許可申請書(3、4号炉完本)」(平成29年5月作成)の添付資料六「変更に係る発電用原子炉施設の場所に関する気象、地盤、水理、地震、社会環境等の状況に関する説明」
丙179「大飯発電所地震動評価について(平成28年2月19日)」
丙196「大飯発電所の地盤モデルの評価について(平成26年3月5日)」

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2 PS検層

(1)PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、人為的に震動を起こし(起震器)、受震器で振動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。

(2)被告関電は、4号炉と3号炉敷地におけるPS検層結果から「ほぼ均質な地盤と考えられ」、「敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」と主張している。これに対して、原告らは第35準備書面で、低速度層が、地表付近と深度100m前後付近に認められ、「ほぼ均質な地盤」と言えないこと、②PS検層は4号炉と3号炉の敷地のデータが示されているが、2号炉と1号炉の敷地のデータが示されていないが、2号炉と1号炉の敷地は、4号炉と3号炉の敷地と比べて、さらに地震波伝播速度が低いと考えられ、不開示は問題であることを指摘して批判した。

(3)地盤が均質でない
地盤が均質でないことについて補充する。

PS検層結果を分析すると、①O1-11孔とO1-3孔とでは速度構造が異なる、②低速度層が挟在する、③深度60mまでで1.17~2.44km/sと地震波伝播速度に2倍以上の違いがあることから、「ほぼ均質な地盤」であるとか、「浅部構造に特異な構造がない」とは到底言えない。

図2【図省略】

(4)低速度帯が東に拡がる
西から東に向けて地震波伝播速度が低くなっていることが、PS検層からも明らかであるので、補充する。

4号炉と3号炉の敷地の4つのボーリング孔の深度60mまでで観測された地震波伝播速度(Vs)は、下記の図に書き込んだとおり、西側で高く東側で低いことが明らかである。

図1【図省略】

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3 試掘坑弾性波探査

 (1)試掘抗弾性波探査とは

「試掘坑弾性波探査とは、原子炉敷地に横穴(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破や起震器などで人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で振動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で振動を与える試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震伝播速度を推定する」ものである(原告ら第35準備書面p6)。

 (2)原告らのこれまでの主張

原告らは、第35準備書面で、屈折法探査において、被告関電が「大飯発電所の基準地震動について」(丙28)で、本件原子炉敷地の地震伝達速度を過大に評価することで、地震動を過小に評価していることを明らかにして批判した(「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点」甲357)。

地震伝播速度を実際より大きく評価して地震動を小さく見せようとしている【表省略】

 (3)試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)

ファン・シューティングの結果を踏まえて批判を補充する。

丙28は、試掘坑弾性波探査について、屈折法探査の結果だけを掲載しておりファン・シューティングの結果を掲載していなかった。そのため、原告ら第35準備書面はこの屈折法探査結果だけを分析して批判した。ファン・シューティングの結果が、丙178の添付資料六の第3.5.114図として掲載されていることから、これに基づく批判を補充する。

起震器の設置場所は以下の図の扇の要箇所である。

図5 【図省略】

図6(1)がファン・シューティングの結果図であり(4つのうちの一つ)、起震器から放射状に描かれた線と試掘坑の交点に受震器が設置されており、放射状に描かれた線の中途の円弧状の空白部分に描かれている折れ線グラフが各放射状に描かれた線で測定された地震波速度である(km/s)。

図6(1)【図省略】

4つのファン・シューティングに記録されている全ての観測データから、一本ずつ速度を読み取って、場所毎に平均して地震波速度を算出して図化したものを以下に引用する。

図10【図省略】

被告関電は、上記のとおり、P波について、地震伝播速度を4.6km/sとして地震動を評価している。しかし、3号炉の敷地の過半は地震伝播速度の平均が4km/sを下回っており、平均速度が3.7km/sの地盤が拡がっている。

さらに、これら速度値は平均値であり、実際には3.7km/sを下回る速度値が少なからず観測されている。

図7【図省略】

被告関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で、そのため地震動が著しく過小に評価されている。

上記のとおり、4号炉と3号炉敷地の地盤の地震波速度は、西から東方向に急激に低下し、さらに3号炉直下に東から低速度帯が延びている。3号炉の東には、2号炉、1号炉の敷地が続いているが、反射法地震探査が実施されず、観測データが明らかにされていないままである。上記のとおり、この問題は放置することが許されない。

以上、ファン・シューティングの結果は、第35準備書面で指摘した原告らの主張の正しいことを一層明瞭にした。

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4 反射法地震探査について

 (1)反射法地震探査

反射法地震探査とは、起震した地震波の地下の不均質構造による反射波を多数の地震計で測定して地下構造を探査する方法である。石油探査のために研究開発実用されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

 (2)被告関電の主張

被告関電は、反射法地震探査について、「500m位まで反射面が確認され、その範囲内では特異な構造は認められない」と主張している。

 (3)原告らのこれまでの主張

これに対して、原告らは、第35準備書面で(1)通例、深度断面に記載されるはずの速度値が記載されていないこと、(2)深度断面図からは層境界の不連続部分が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘して、被告の評価が誤っていることを批判した。

 (4)深度断面図の速度値の非開示

被告関電は、深度断面毎の速度値を、その後も開示していない。被告関電は深度断面毎の速度値を持っているのであり、改めてその開示を強く求める。

 (5)深度断面図の評価について補充する。

原告らは、深度断面図の読解(評価)について、芦田譲京都大学名誉教授に意見を求めた。芦田名誉教授は、物理探査学会の会長を務めた反射法物理探査の権威である。芦田名誉教授は「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であるとの意見であった(甲423)。芦田名誉教授の意見を踏まえて、改めて、被告関電の「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判する。

図11【図省略】

 (6)3次元探査が必用であることについて補充する。

同じく物理探査学会の元会長である石井吉徳東大名誉教授(甲424)と、芦田名誉教授は、被告関電が、反射法地震探査に関して、2次元探査に終始し3次元探査を実施していない問題点を指摘した。芦田名誉供述は、以下のとおり述べている。

「地盤調査の技術は、石油探査の必要等から発達してきました。反射法地震探査は石油探査の現場では、以前は二次元調査をしていましたが、1975年頃から三次元調査が用いられるようになり、最近では三次元調査が一般になっております。二次元探査は、震源と受振器を線上に並べて地下断面を得ますが、これでは地下の地層状況を正確に把握することができません。一方、三次元探査では、多数の震源と受振器を面的に配置します。このデータを計算機により映像化することにより、医療分野で用いられているCTスキャン映像のように、恰も地下に潜っているかのような仮想現実(Virtual Reality)として地下構造を立体的に捉えることができます。例えれば、二次元探査はレントゲン写真、三次元探査はCTスキャンのようなものです。

二次元探査の場合、受振したデータには直下から反射して戻ってくるデータの外に、直下でない周囲から反射して戻ってくるデータが含まれています。それらを全て直下からのデータとして把握するため、不正確、場合によっては誤って把握してしまうことがあります。これに対して三次元探査の場合、地層の境界や断層の位置、角度、傾斜、落差や連続性等をビジュアル化し、且つ正確に捉えることができます。したがって、二次元探査では抽出しえなかった複雑な地下構造まで抽出することができます」

芦田名誉教授が指摘するとおり「原子力発電所のような重要な施設の場合・・・地下構造を高精度な手法で調査をし、より正確な地下情報に基づいて、地下構造形態や断層の詳細を把握して議論すべき」ことは当然である。

この点、新規制基準も「最先端の調査手法」を用いるべきことと、「地下構造が成層かつ均質」でない限り「地盤モデルの設定にあたっては、解放基盤面の位置や不整形性も含めた三次元地盤構造の設定が適切である」と定めている(甲425:「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(7.2.1(1)(2))、甲426:「敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド」(はじめに5、5.1(4)))。本件地盤が「成層かつ均質」でないことは上記のとおりである。

原告らは、被告関電に対し、「特異な構造は認められない」という誤った主張を改めること、新規制基準に従って原則どおり反射法地震探査の三次元探査を直ちに実施すること、そしてその結果を当法廷に提出することを強く求めるものである。

 (7)速度断面図

速度断面図について新たに補充する。

・速度断面図は、反射法地震探査の屈折法解析によって明らかになる地震波伝播速度を図化したものである。

層毎に地震伝播速度が異なるところ、起震器の発する地震波は、第1層を通って受震器に到達するものもあれば、その下の第2層を通って受震器に到達するものもある。起震器に近い受震器には第1層だけを通る直接波が最初に到達する、しかし、一般的には浅い層ほど地震伝播速度が遅いため、ある程度遠くの受震器には地震伝播速度が第1層より速い第2層を通る屈折波の方が早く到達する。受震器までの距離と到達時間を分析することで、層の厚さや地震伝播速度を解析することができる。

速度断面図は、このようにして解析された地下の地震伝播速度を図化したものである。

図13【図省略】

被告関電は、この速度断面図について「屈折法解析結果より、表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる。」と主張している。

しかし、速度断面図を拡大して見れば明らかであるが、4号炉と3号炉付近では、2.5km/sの低速度層が標高-30mの深さまで沈み込んでいる。
「低速度帯の顕著な落ち込み等の特異な構造はなく、地下構造は水平方向に連続的である」とは到底言えない。

また、解放基盤表面とされる標高0m付近の地震波伝播速度は2.0km/sに過ぎない。
被告関電は、地震動評価のための地盤モデルを4.6km/sとしているが、実際の弾性波速度はその半分以下で、非常に低い。上記被告関電の評価は著しく過大で明らかに誤りである。

 (8)はぎ取り法

はぎ取り法について新たに補充する。

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。屈折法解析は、概ね水平な多層構造を想定するが、実際には地表にも地層境界にも凹凸によるばらつきがある。そのため、屈折法地震探査では、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

図14【図省略】

被告関電は、はぎ取り法による解析の結果、「やや深部を伝わる誤差の少ない平均的な最下層速度」が、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sであったと主張している。

しかし、はぎ取り法の結果は(図14)、Vp=4.5km/s層の上面の深さは120mであり、標高に換算すると-80~-90m、その深さまでの表層の平均P波速度が1.9km/sに過ぎないことを示している。表層のP波速度は非常に低い。これは、屈折法による速度断面図の分析結果と一致している。被告関電の「最下層速度がVs=4.5km/s」という上記主張は、はぎ取り法の解析結果を歪めて評価するものである。

また、A測線の測定位置は、ボーリング孔O1-3に近接しているところ、PS検層の結果、O1-3孔においては標高-60mまでVs=1.17~1.92km/sと低い地震伝播速度が観測されている。また、4号炉と3号炉の敷地が東に向かって地震伝播速度が顕著に低くなり深く沈み込んでいることが明らかになっている。
はぎ取り法の解析結果も、PS検層の結果と一致して、この事実を明らかにしている。

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5 単点微動観測

(1)単点微動観測について、新たに主張を補充する(被告関電の主張に対する批判)。車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような小さな振動のことを微動と言う。地表面における微動のうち水平成分(水平成分を水平スペクトルとも言う)を上下成分で除すと(H/V),主に表層地盤のS波速度や層厚などの構造が把握できるとされている。

(2)被告関電は、単点微動観測結果(H/Vスペクトル)から、解放基盤深度が推定でき、解放基盤相当の上面深度は概ねEL(東京湾平均海水面)-25m~+65m程度で、敷地全体にわたって著しい高低差がないことが確認された、従って、三次元探査は不要だと主張している(上記4(6)p9)。

(3)しかし、H/Vスペクトルから、下層(基盤岩層)の速度値を精度良く求めることは不可能である。

①被告関電は、上層(堆積層など)Vs=472m/s、下層Vs=2.2km/sとして上層の厚さを求め解放基盤の深度としているが、下層がVs=1.6km/sとしても同様の深度分布が得られる(図17)。

図17【図省略】

②被告関電がH/Vスペクトルから得られるとする深度分布は、反射法地震探査屈折法解析の速度断面図と30m近くの違いがある(図19)。被告関電のH/Vスペクトルから解放基盤深度が推定できるとする主張は、反射法地震探査屈折法解析結果(観測データ)と矛盾しており誤りである。

図19【図省略】

以上、単点微動探査結果は「成層かつ均質」であることを示しておらず、上述のとおり三次元探査の実施が必要なのである。

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6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率

地震波減衰について原告ら主張を補充する。

(1)地震波減衰 地震波は地殻内を伝播することで減衰する。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。地殻内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱は、不均質構造の大きさと波長の関係に規定される。

内部減衰と散乱減衰によりQ値が定まる。Q値が大きい媒質ほど減衰しにくい関係にある。

(2)原告らは、第35準備書面で、被告関電がQ=50f1.1を用いていること(丙28 p42)に対して、①上記式を用いる根拠が示されていないこと、②地域性を考慮したのか否か明らかでないことを批判した。

(3)被告関電は、本件地盤の減衰特性について、「敷地のPS検層結果から、速度構造の不均質性と減衰定数の関係に着目して不均質強度を評価した結果から減衰定数は3%程度と考えられる。敷地内でのQ値測定を実施した結果、減衰定数は3%程度以上となっている。→浅部の減衰定数を3%とする」と主張している(減衰定数:h=1/(2Q))。

(4)しかし、①上記のとおり速度構造の不均質性と減衰定数の関係は、散乱減衰に関する問題で、減衰の大きさは、散乱体(不均質)の大きさと波長の関係によって決せられ、波長即ち周波数に依存する。ところが、被告関電の上記主張は、周波数とは関係なく一般的にh=3%としており、地震波動理論に矛盾すする。②また被告関電は、敷地内でQ値を測定したと主張し、振幅分布図を示して、その傾きからh=3%が説明できるとする。しかし、振幅分布図を子細に検討しても、P波S波はいずれも深度によって一様に減衰しておらず、むしろ増加する区間が存在する。敷地内でのQ値観測結果からh=3%が導けたとの被告関電主張の信頼性は大変低い。

図38【図省略】

さらに被告関電は、180mまではh=3%、それ以深3kmまではh=0.5%とも主張するが、その根拠については何の説明もなされていない。

地盤構造モデルにおけるQ値の設定は、現在のところ確定した評価方法がない。そのため、例えば、中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、「500m/s<Vs<3000m/sのQ値の解析例が少ないので、Vs>3000m/sの場合の平均的なQ値であるQ=100×f0.7を用いる」として高周波域で減衰が小さく、地震動が大きくなる「安全サイド」の値を用いている。中央防災会議の考えに従う減衰構造モデルと被告関電モデルの増幅特性を比較すると、10Hz以上の周波数帯域での増幅率が被告関電モデルは中央防災会議モデルの半分程度になる(図38)。被告関電は、減衰定数を大きく設定して、基準地震動を過小評価している。

図39【図省略】

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7 速度構造と破砕帯の関係

以上、本件敷地は、西から東に系統的に速度が低下し、さらに3,4号炉建屋付近では低速度層が深く沈み込んでいることが明らかになった。これは、地質構造調査で明らかになっている破砕帯の分布に起因しているものと考えられる。被告関電は、この関係に目を向けようとしていない。

敷地内には、F-6破砕帯をはじめ、主要な15本の破砕帯が深さ200m以上にわたって確認されており(図39、図42)、それに付随して規模の小さい破砕帯が数多く存在する(図40)。特に、4号炉基礎岩盤に比べ3号炉基礎岩盤においてこれらの破砕帯が密に分布しており(図40、41)、3号炉側でP波速度が大きく低下しているという速度の場所による違いは、破砕帯の分布に大きく依存していることが明瞭に読み取ることができる。被告関電及び原子力規制委員会は、敷地内の破砕帯(断層)について、活動性評価のほかに、破砕帯が及ぼす地盤速度構造への影響を評価していない。地質学や地形学の知見が基準地震動策定のための地盤モデル構造に生かされていない。

図40【図省略】

図41【図省略】

図42【図省略】

図43【図省略】

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8 調査が表層部にとどまること

原告らは、第37準備書面で、2007年新潟県中越沖地震について、地震の前には、訴外東京電力が同原発は「揺れの少ない強固な岩盤上に建て」られており、「軟らかい地盤」「に比べ1/2から1/3程度」の揺れにとどまるなどと説明していたこと、ところが基準地震動の4倍の1699ガルの「想定外」の地震動が起きたこと、そのことについて訴外東京電力が、地下4~6kmの深部地盤に傾きがありそれによって波が集中したとか(約2倍)、地下2kmに褶曲構造があって地震波が1~4号機に集中したとかの(約2倍)後付け説明をしていること、しかしその説明が実証されているわけではなく仮設の域を出ないことを指摘した。いずれにせよ、地下4~6kmの深部地盤、地下2kmの敷地地盤に原因が求められた。

ところで、大飯原発の地盤特性については、反射法地震探査で陸域で地下500m位まで、海域では地下2~300mまでしか把握されていない。地震波干渉法による調査が地下4kmまで行われたとされているが、地下3kmから18kmにあるとされる震源断層の調査としては著しく不十分である上、地震波干渉法は、地震計間の地盤が平行な成層構造であると仮定して解析するもので、地下の褶曲や地層の傾斜、凹凸などは全て平均化されているから、地下4kmまでの不整形・不均質を調査したことにはならない。さらにそもそも地震波干渉法の調査からは、地震波を増幅させる低速度帯の存在が示唆されることについてすでに第35準備書面で述べたとおりである。

この点、島崎邦彦東京大学名誉教授が、①の震源特性に関して、被告関西電力の地盤調査が表層部にとどまっていて極めて不十分であると、次のように証言した(甲382「島崎証人調書」23頁)。

 「見て頂きたいのは、その右側のこれは詳細な活断層調査の中なんですけど、下の方にズレがあるところで断層が見えると思うんですけど、この深さは200~300メートルにすぎません。詳細な活断層の調査っていうのをやっていても、実はほとんど表層にすぎないんですね。ところがこの発電所では、地震発生層の厚さが、一番浅いところで3キロメートル、一番深いところで15キロメートルだといってます。だから3000メートルから15000メートルのところに震源断層が存在しているはずだ。それを僅か200メートルの調査で、どう詳細なものが分かるのでしょう。わかり得ませんね。だけどこれを詳細な活断層の調査と言っているわけです。」

島崎証人は、被告関西電力が地震発生層が地表から3kmから15kmの深さのところにあり、その範囲内に震源断層があることを認めているにも関わらず、活断層調査をしているのは200~300メートルという表層にすぎず、被告関西電力の地盤調査は極めて不十分だと指摘している。

ところで、深部地下構造地質調査はできる。地下20㎞あるいは30㎞に達する大規模な地下地質構造調査が現に行われている。ひずみ集中帯プロジェクトによる日本海東縁のひずみ集中帯における地下構造探査や(中核機関は独立行政法人防災科学技術研究所)大都市大震災軽減化特別プロジェクトの大規模地殻構造調査研究である(文部科学省)。例えば「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトの総括成果報告書」(甲413)によると、各調査によって新潟県から秋田県にかけての一部領域における深部地下構造のイメージングが行われ、地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の存在が明らかになっているのである。

東京電力も、平成10年度国内石油・天然ガス基盤調査陸上基礎物理探査「西山・中央油帯」の地震探査記録や昭和44年度天然ガス基礎調査基礎物理炭鉱「長岡平野」の地震探査記録を適合性審査資料で引用し、地下数km~6km程度の地下構造を示している(甲414,415)。

調査は可能なのに、被告関電は実施していない。費用を出し惜んでいるとの誹りを免れない。

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9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと

平成29年12月13日、四国電力の設置する伊方原発3号炉は地震や火山に対する安全性が確保されていないとして周辺住民らがその運転の差し止めを求めた仮処分申立事件の抗告審において、広島高裁は、運転差し止めを認めなかった原決定を破棄し、決定後9か月余りの期間に限ってではあるが、同原発の運転を差し止める決定を下した。高裁レベルで原発の運転の差し止めを命じた初の判断として極めて意義のある決定であるが、その中で広島高裁は、主張立証責任に関し、「発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する上記審査(注:原子炉規制法に基づく原子力規制委員会の審査)を経ることを義務付けられた者としてその安全性についての十分な知見を有しているはずである。このことと、前記の原発事故の特質(注:発電用原子炉施設の安全性が確保されないときは、人の生命・身体や環境に対して深刻な災害を引き起こすおそれがあること)に鑑みると・・・当該発電用原子炉施設の設置運転の主体である被告事業者の側において、まず、「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(以下「具体的危険の不存在①」という。)について、相当の根拠資料に基づき主張立証する必要があり、被告事業者がこの主張立証を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定されるなどとして(175~178頁)、事業者側が主張立証責任を果たしたというためには相当の根拠資料を示すことが必要であると判示した。

これは極めて当然の判断である。そして被告関電は、「相当の根拠資料」を何ら示していない。すなわち、例えば、被告関電は①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をそもそも行っていないのであるから、これのみでも「相当の根拠資料」が示されていないことは明白であり、主張立証責任を果たしていないことは疑いないが、③地盤の増幅特性(サイト特性)についても、PS検層について2号炉と1号炉のデータを示しておらず、反射法地盤探査についても深度断面ごとの速度値を開示していないのであるから、「相当の根拠資料」が示されていないことに変わりはないのである。また、反射法地盤探査に関して2次元探査しか行っておらず3次元探査が可能であるのにこれをあえて実施しておらず、当然その結果を示していないし(単点微動観測に関しても同様)、地盤調査も地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の調査を行うことは可能であるにもかかわらず意図的にこれらを行わず、もちろんその結果を示していないのである。

よって、上記広島高裁決定に照らして被告関電が主張立証を行っていないことは明白であるから、それらを採用する余地はない。

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10 まとめ

被告関電は、基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で、地域特性を十分に把握できており、その地域特性に照らせば、基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張している。しかし、主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず、それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査が懈怠されたままである。また実施された調査結果が、科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに、基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されている。

それを容認し追認している規制委員会も同様に批判されなければならない。

以上、本件原発は、地震に対して極めて危険だと言わなければならない。

以上

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◆原告第43準備書面
第2 藤原広行氏の書面尋問等について

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第2 藤原広行氏の書面尋問等について

目 次 (←第43準備書面の目次に戻ります)

1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括



 1 藤原氏書面尋問の概要

函館地方裁判所に係属している別事件(平成22年(行ウ)第2号ほか)において,原子力規制委員会の地震・津波検討チームに外部有識者として参加した藤原広行氏(防災科学技術研究所社会防災システム研究部門長)の書面尋問が実施され(甲420-1),平成28年12月18日付けでその「質問回答書1」(甲420-2)が同裁判所に提出された。

「質問回答書1」では,概ね,第1項から第6項までは基準地震動一般に関する質問・回答,第7項から第13項までは青森県下北郡大間町に立地する大間原子力発電所の基準地震動に関する質問・回答となっている。このうち,後半の第7項から第13項までの質問について,藤原氏は,大間原子力発電所の設置変更許可申請書の送付を受けていながら,「現状私が把握している情報のみからは適切な回答を述べることができません。こうした審査に関わる内容について,専門家としての見解を述べるためには,事業側及び審査側からの詳細な説明を受けた後,その内容に対して質疑を行い,それに対する回答を踏まえた上での判断を行い,考えを取り纏めるというプロセスが必要です。これが実現できない状況では,責任のある発言を行うことができません。」と述べ,回答を差し控えている(但し入倉・三宅(2001)に関する第11項を除く)。回答がなされたものについても,非常に慎重な言い回しがなされている。

このように,藤原氏は極めて慎重な態度で函館地裁の書面尋問に臨んだのであり,それだけに,回答がなされた部分については,強震動地震学の専門家として責任ある見解が述べられたものと解することが出来る。

 2 検討用地震の選定の妥当性

藤原氏は,新規制基準に自身の意見が反映されていないところとして,「表現が定性的で定量化されていない部分が残っているところ」(2(2))と証言した。

その上で,検討用地震の選定の妥当性の基準について,「判断の前提となる地震動のハザードについて確率論的なモデルを構築した上で,安全目標に照らし,超過確率等の定量的な指標に基づき基準が定められるべきと考えます」(2(3))と証言している。

例えば,被告関西電力は,大飯原発の基準地震動策定に当たり,内陸地殻内地震について,FO-A~FO-B~熊川断層から発生する地震,上林川断層から発生する地震を検討用地震として選定しているが,何故それを採用するのが妥当と言えるのかについて,確率論的なモデルの構築も,定量的な評価も,安全目標との照合も,何も行っていない。

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 3 不確かさの重ね合わせの必要性

藤原氏は,不確かさの考慮についての基準として,「様々な種類の不確かさが残っている現状を考えますと,個人的な意見ではございますが,個々のパラメータごとに不確かさを考慮するだけでなく,必要に応じて不確かさの重ね合わせを適切に行うことが必要であると考えます。特に,認識論的不確定性がある中では,不確かさを重ね合わせて評価することが重要と考えます。」(2(4))と証言し,不確かさの重ね合わせの必要性を強調している。本件において,被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層について,短周期の地震動レベル,断層傾斜角,すべり角,破壊伝播速度,アスペリティ配置について,基本的に重ね合わせがないものとし,短周期の地震動レベルと破壊伝播速度の不確かさを重ね合わせる場合にも短周期の地震動レベルを1.25倍に切り下げてしまっているが,恣意的であって基準地震動を抑制する意図によるものと言わざるを得ない。不確かさの重ね合わせが極めて不十分であり,地震動についての知見の未成熟性を補うことが出来ていない。

さらに,藤原氏は,「我々の認識が足りないところ,あるいは方法論としてもまだ不成熟で足りないところ,いろんなタイプの不確かさ」を考慮する方法として,「認識論的な不確定性についてはロジックツリーなど用いたモデルを構築することが望ましい」(2(5))と証言している。しかし本件において被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層の応力降下量に関し,Fujii and Matsu’ura(2000)という認識論的不確定性が非常に大きい知見を採用していながら,それを補うためにロジックツリーなど用いたモデルを構築するようなことは一切行っていない。

 4 偶然的ばらつき

藤原氏は,松田式や入倉・三宅式のばらつきについて,「偶然的ばらつきとして扱う必要がある」(6(2))「必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要がある」(6(1))と証言している。また,「偶然的ばらつきに関しては確率変数としてハザード計算を行うことが望ましい」(2(5))とも証言している。

しかし本件において被告関西電力は,松田式や入倉・三宅式の偶然的ばらつきに関しては一切無視し,これを考慮していない。

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 5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ

藤原氏は,入倉・三宅式を用いて地震モーメントを推定する場合の過小評価のおそれを指摘する島崎氏の見解について,「妥当性については一概には言えません」(11(1))としつつも,「島崎氏が懸念する条件がそろった断層での地震動の評価に関して,従来から用いられている手法を適用し,かつ,ばらつきなど考慮せず平均値のみを用いると仮定した場合に限っては,妥当な場合もあり得る」(11(2))と証言している。

本件において,被告関西電力は,西日本の横ずれ断層であるFO-A~FOB~熊川断層につき,断層傾斜角は基本的に鉛直,地震発生層の厚さは15kmと想定しており,島崎氏が懸念する条件はそろっている。ここにおいて入倉・三宅式を適用するに当たり,従来から用いられている手法を適用しており,ばらつきなどは一切考慮していない。したがって,藤原氏の証言によっても,島崎氏の指摘は本件において妥当すると言うべきである。
さらに藤原氏は,入倉・三宅式による過小評価のおそれを解消ないし低減させる方法の一案として,断層下端の深さについて深めに設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張すること,及び入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことを証言している(11(3))。なお,藤原氏は新聞社のインタビューでは,「断層の幅を18キロ以上に設定することにしておけば,(入倉・三宅式による)過小評価の危険は減らせる」「極めて高い安全性が求められる原発の基準地震動の場合は,十分な余裕をみて断層の長さや幅を大きく設定しておくことが必要だ。関西電力大飯原発のように活断層のすぐそばにある原発は,特に大きな余裕を見ておかなければならない」とコメントしている(甲421)。

本件において被告関西電力は,FO-A~FO-B~熊川断層の断層下端深さは18kmにしか設定していないから深めの設定とは言えず,断層上端も地表3kmの位置にしか設定していない。入倉・三宅式のばらつきを考慮したパラメータ設定もしていない。断層幅は15km(傾斜角75°以外のケース)若しくは15.5km(傾斜角75°のケース)に過ぎず,断層が敷地近傍にあることに鑑みた特に大きな余裕の設定もしていない。

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 6 震源を特定せず策定する地震動

「震源を特定せず策定する地震動」の「各種不確かさ」の扱いについて藤原氏は,「長期的な課題として検討が必要なもの」と断りつつも,「敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮することができるように,実際に観測された地震動記録の位置付けを確認したうえで,将来起こりうる地震動を包含するようなハザードモデルを構築し,地震動レベルの設定を行う必要がある」(3(2))と証言している。

藤原氏において,本件で被告関西電力が行っているような,特に既往最大という訳でもない,偶々観測された北海道留萌支庁南部地震HKD020観測点や鳥取県西部地震賀祥ダムの各観測記録を直接用いるような方法では,不十分であると認識していることは明白である。

 7 小括

以上の通り,藤原氏の証言からしても,本件基準地震動が不十分,不適切なものであることは明白である。

その原因の1つは,原子力規制委員会において,基準地震動に係る新規制基準の検討を十分に行われないままこれを施行し審査を進めていることにある。不十分な規制基準に基づく適合性審査では大飯原発の耐震安全性は確保されない。

以上

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