関西電力と国を相手に、福井県の大飯原子力発電所1から4号機の運転差し止めと慰謝料の請求を京都府などの住民が求めている裁判は、5月28日京都地裁(第6民事部合議A係・堀内照美裁判長)101号法廷で第7回口頭弁論が開かれました。法廷は柵内に弁護団15人、原告36人、満席の傍聴者(80人、外れた28人は弁護士会館での模擬法廷に参加)、関電や国の代理人など170人余りが席を埋めての進行となりました。弁論では、4人の原告代理人弁護士と原告が準備書面の要旨や意見陳述に立ちました。
大飯原発の根本的危険性―毛利崇弁護士
■ 最初に原告代理人の毛利崇弁護士が第10準備書面の要旨を陳述しました。毛利弁護士は、大飯原子力発電所は脆弱な基盤の上に、構造上も根本的危険をかかえているもので、いつ大事故が起きてもおかしくないことを指摘。「事故を防ぐには『止める、冷やす、閉じ込める』機能が必要だが、原発の仕組みそのものに事故で機能を失う欠陥がある。しかも、使用済み核燃料はたまる一方で危険度が増し、保管、処分方法も確立されていない。実際、過去に大飯原発では「放射能漏れ」「冷却水漏れ」などの多くの事故が発生している(具体的事実をあげて指摘)。大飯原発の老朽化も危険だ。これはそもそも対策を講じることができない危険である。関電の計画している対策では過酷事故は防げない」と述べました。
新基準に合致しない大飯原発―森田基彦弁護士
■ 続いて森田基彦弁護士が立ち、第9準備書面の要旨を次のように解明しました。「大飯原発は、水素爆発を防止すべき新規制基準にも合致していない。現実に爆発の危険性が存在する(福島原発の爆発や建屋の損傷状況を映像で示す)。過酷事故で核燃料が高温になり炉心溶融が起こる。それにより燃料被覆管の金属・ジリコニウムと水が反応して水素が発生。溶融した炉心が格納容器のコンクリート底に達するとコンクリート床が化学反応(コンクリートの相互作用)、漏れ出た水と溶融炉心が反応して水素が発生する。この水素濃度を13パーセント以下に抑えるのが新基準で、大飯原発はまだ審査基準がでていないものの、川内原発や高浜原発の反応量を仮定しても水素濃度は13.7パーセントで基準に合致しない。大飯原発3、4号機は重大事故時に水素爆発の危険が存在する。
被害は暮らしや地域すべての崩壊―岩橋多恵弁護士
■ さらに、岩橋多恵弁護士は、第12準備書面の原発事故の避難状況と暮らしやコミュニティの破壊について陳述しました。―福島の12万人の人が今なお避難生活をしている。政府の委員会資料で48兆円を超える損害費用を指摘しているが、これも原発事故の全容が解明されていないいま、損害の一部にすぎない。被害の特性は、長期間の避難により従来の暮らしが根底から覆され、家庭も地域コミュニティも崩壊するところにある。豊かな自然のもとでの生活は山の幸海の幸を家族、地域で分け合い、交流し、歴史と伝統文化を築いてきたが、放射能汚染で一変した。三食から飲料水、外出時の被ばく、土や草木などふれるものすべてから、放射線への懸念と不安を考慮しなければならず、現在、および将来の健康への影響にも悩む。農林・漁業や山菜採りも家庭菜園も奪われ、喪失と絶望感に打ちのめされ、自死をする人も出ている。また、避難者は、家族や友人、地域と引き裂かれるなどの問題に苦悩している。こうした生業と地域コミュニティすべてが崩壊している。
収束ほど遠い放射能汚染―渡辺輝人弁護士
■ 渡辺輝人弁護士は、放射線物質の環境汚染について、次のように陳述しました。保安院の試算では、福島原発の事故による放射性物質の放出量が、キセノン133で1100京ベクレル、ヨウ素131で16京ベクレル、セシウム134で1.8京ベクレル、セシウム137で1.5京ベクレル、で想像を超える。キセノンの放出はチェルノブイリ事故の1.69倍だ。この汚染が福島だけでなく近隣の県でのキノコ類、山菜、肉などの出荷制限となり、また大気中からの海洋への投下、原発施設からの漏えいが今も続いている。原発事故による被害や避難のストレスなどで体調が悪化して死亡する、原発関連死は、2014年9月11日時点で少なくとも1,118人。浪江町、富岡町、双葉町、大熊町などで1か月20件以上の関連死の申請がある。住宅地などでは除染が進められているが、屋根の瓦や壁には細かい穴があり、多くを占める放射性セシウムはそこにこびりついたまま取り除かれない。住宅除染の進捗状況は、15年1月の時点で、全体計画の47.5パーセント。道路除染は22.9パーセント。事故の収束自体も収束には程遠い。廃炉の計画も、期間に根拠がなく完了の見通しはない。「核のゴミ」は、12年9月末時点で、全国の原子力発電所及び六ヶ所村の再処理工場に保管されている使用済み核燃料、1万7000トン超。大飯原発では2020トンの保管スぺースがあるが、その71パーセントに使用済み核燃料が入っている。最終処分場のめども立たず、10万年単位での安全な保管など不可能。地中深く埋めても容器の破損や地震による変動で安全性の保障はない。原発の稼働をさせてはならない。
福島から避難して―原告・菅野千景(かんの・ちかげ)さん
■ 2011年8月、放射能を避けるため、仕事で離れられない夫を残し、2人の娘を連れて京都に避難してきた。「誰が悪いんだべね」と夫は泣き、子たちも京都へ向かうバスでしゃくりあげていた。避難してから子どもたちはおびえ、慣れない関西弁の授業や違う教科書で追いつくのに必死でがんばった。夫は、月に1・2度京都にやってくるが、半年ほどしてくるのがつらいという。帰るときのつらさは、家族みんなの思いだった。避難が正しかったのか悩む。でも、福島の自宅の放射線量は室内で毎時1.2マイクロシーベルト、庭は6マイクロ
シーベルト以上のところもあり、正しい選択だったと確信している。夫がいるときは家族がにこにこ元気でいるが、帰ってしまうと機嫌が悪くなり、ご飯を食べなくなったり、子どもたちが心のバランスを崩す。原発事故は、自由・夢・未来へつながること・家族・友人・動物・豊かな自然・食物・仕事・愛し合うこと・命・すべてを破壊していくものだと知ってしまいました。それは一瞬に起きて、長い長い時間をかけて壊し続けてゆく。原発はずっと動いていない。再稼働を希望する前に、これらのことに取り組むべきだ。始めることに必死になるなら、後始末のことも必死にならなければならない。危険を冒してお金を得るより、大切なこと、よいことを選ぶ強さや勇気をもって、子ども達のお手本となれるように、恥ずかしくない生き方を選びたい(拍手あり)。
次回弁論は10月20日
■ 次回第8回口頭弁論は、10月20日(火)午後2時から、101号法廷で開かれます。期日がせまりましたら改めて案内をします。
市民アピールも
■ なお、この日の12時15分からは、弁護団、原告団などが54人ほどで弁護士会前から市民アピールのパレードをしました。関西電力の料金値上げに抗議、原発の早期廃炉、大飯原発の危険性などを訴えて裁判所の周辺を行進しました。