◆原告第16準備書面
第1 はじめに

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第1 はじめに

 1 基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない

被告関西電力は,その用いる地震動評価手法について,過去の多数の地震ないし地震動の最も「標準的・平均的な姿」を基礎とし,これをもとに地域特性を考慮して地震動評価を行った,本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていないとする(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]153頁以下)。

そうすると,基準地震動策定にあたって地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない。

 2 「標準的・平均的な姿」を外れる地震動が発生する可能性は十分にある

しかし,「本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていない」ということは,単に現在の調査手法・能力ではそのようなデータを取得するに至らないというだけのことであって,それを超えて,そのような地域性が存在しないということを意味するものではない。被告関西電力が,地震動評価手法にこの30年あまりで著しい発展があったと述べているように,今後調査手法や能力が発展することによって未知のデータが取得され,知見が更新される可能性は十分に認められるのである。

また,仮にそのような「地域性が存する可能性を示すデータ」が現時点において得られていないとしても,そのことは基準地震動が信頼に足るものであるということを意味しない。地震動の「標準的・平均的な姿」を導くためにそれ以外の地震を捨象してしまっているように,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は十分にあるからである。自然現象である以上は「バラつき」や「不確かさ」が必然的に相当程度存在し,将来的にも,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は決して小さくなく,実際の地震では計算上の平均値の2倍を超えるものだけでも7%が存在する(甲231[1 MB]「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」)。計算上の平均値である基準地震動を上回る地震動が将来的に発生する可能性でいえば,10~20%も存在するのである。これは,「万が一」という基準をはるかに上回る危険が存することを示している。

被告関西電力は種々の要素を考慮していると主張するが,その結果得られるのは,あくまでもそれらのパラメータから導かれる地震動の「標準的・平均的な姿」であって,それらのパラメータを前提とした場合の「起こり得る最大の姿」ではないし,当然,地震動を増幅させる未知の要素については考慮し得ないから,これら未知のパラメータによって地震動が増幅することも十分に考えられる。実際,原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦の調査・研究によれば,基準地震動を策定する際の基礎となる入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多いことが示されている。当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる(甲230「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。また,確率的にも,被告関西電力の設定するパラメータを前提としても,基準地震動を超過する地震動は10~20%の割合で起こり得,2倍以上の強い揺れも7%程度発生し得る(甲231)さらに,若狭湾地域においては,地震における高周波成分及び応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価しておらず過小評価となっている(甲234[1 MB]「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」。

よって,「万が一」という基準からすれば,具体的危険性が優に認められるといわなければならない。

 3 現在の基準地震動はあくまでも現在の一応の到達点を前提にしたものにすぎない

加えて,本件発電所の基準地震動は,「地震動評価手法の著しい発展」(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]・153頁)により,設置時である1979年の405ガルからわずか30年余りで856ガルへと2.1倍以上にもなった。そうすると,今後の評価手法のさらなる発展によってより大きな地震動が生ずることが予測されるようになり,基準地震動がさらに大きくなる可能性は十分にある。

被告関西電力の主張から明らかであるように,現在の基準地震動はあくまでも現在の知見を前提とするものであり,そこが限界である。わずか30年あまりの間に知見が飛躍的に発展したのであるから,例えば今後30年あまりでさらに飛躍的に発展する可能性は十分に存在する。その30年後の時点での到達点からすると,現在の基準地震動は低きに失し,より大きな地震動が生ずることが結論されることは十分に考えられるのである。