◆原告第21準備書面
第2 川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について

 原告第21準備書面 目次

第2 川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について

福岡高裁宮崎支部は、平成28年4月6日、川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について、これを棄却した(以下「高裁決定」という。)。
高裁決定の不当な点は多岐にわたるが、以下では主要な点について取り上げ、述べることとする。

 1 司法審査の在り方について

  (1)高裁決定の内容

まず、高裁決定は、人格権に基づく原子炉施設の運転差止仮処分命令に関する司法審査の在り方について、以下のとおり判断した。

まず、差止請求の要件となる具体的な危険の判断について、「地震、津波や火山の噴火といった自然現象の予測における科学的、技術的手法には必然的に限界が存するものであって、少なくとも現時点においてその限界が克服されたとは言い難い状況にあることは公知の事実であり、最新の科学的技術的知見を踏まえた予測を行ったとしても、当該予測を超える事象が発生する危険(リスク)は残る。」「そのようなリスクを許容するか否か、許容するとしてどの限度まで許容するかは、社会通念を基準として判断するほかないというべきである。」「そうであるとすれば、人格権に基づく妨害予防請求としての発電用原子炉施設の運転等の差止請求においても、当該発電用原子炉施設が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するか、換言すれば、どの程度の危険性であれば容認するかという観点、すなわち社会通念を基準として判断するほかないというべきである」とした(甲276・59頁)。

そして、福島第一原発事故後の原子力基本法及び原子炉等規制法の改正によって、原子炉等規制法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものと解され」、「このような本件改正後の原子炉等規制法の規制の在り方には、我が国の自然災害に対する発電用原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映されているということができる」とした。そのうえで、「発電用原子炉施設の安全性が確保されないときにもたらされる災害がいかに重大かつ深刻なものであるとしても、抗告人らが主張するような発電用原子炉施設について最新の科学的、技術的知見を踏まえた合理的予測を超えた水準での絶対的な安全性に準じる安全性の確保を求めることが社会通念となっているということはできず、」「およそあらゆる自然災害についてその発生可能性が零ないし限りなく零に近くならない限り安全性確保の上でこれを想定すべきであるとの社会通念が確立しているということもできない」とした(・65頁)。

また、裁判所による具体的危険の判断についての審理判断について、「原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準の設定に不合理な点がないか否か、及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないか否かないしその調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤、欠落がないか否かという観点から行われることになるが、これは、裁判制度に内在する制約というべきである。」とした(甲276・69頁)。

  (2)原子炉施設による事故は万に一つも発生させてはならないこと

上記のように高裁決定は、発電用原子炉施設が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するかという社会通念を基準として判断するべきとした。

しかしながら、福島第一原発事故は、当時の安全基準からすると「想定外」の事象に見舞われた結果発生したものであるところ、高裁決定はこのような想定外の事故が起こりうるということを無視し、原子力規制委員会において策定された審査基準を無批判に追従するという新たな安全神話に基づいた判断であり不当である。

そして、原子炉施設における事故は、ひとたび発生すれば、生命身体に回復しがたい深刻な被害を発生し、放射能によって汚染された環境は長期間にわたり生活できない状況になることは福島第一原発事故によって明らかな事実なった。

そうである以上、原子炉施設における事故は、万に一つも発生させてはならないものであるというべきであり、このような判断については社会通念というあいまいな基準ではなく、客観的な具体的危険発生の有無によって判断すべきである。

そして、当該具体的危険発生の有無については、発電用原子炉施設において過酷事故を絶対に起こしてはならないという絶対的な安全性に準じる極めて高度な安全性を前提として、重大な災害、過酷事故が万が一にも起こらないようにするための高度な安全性に欠ける点があるか否かについて、客観的に判断すべきものである。

また、仮に、社会通念上で判断するとしても、福島第一原発事故を体験した我が国においては、原子力発電の廃止を求める者は当然のことであるが、容認する者であっても、稼働にあたって二度と福島第一原発事故のような過酷事故は発生させてはならないとの考えは有しているのであり、万が一にも過酷事故は発生させてはならないとの考えは社会通念となっているものといえる。

そうであるにもかかわらず、高裁決定は、あたかも現在の政府が推進する原子力規制委員会による安全基準の内容がすなわち社会通念であるかのように判断したうえで、そのような判断の仕方が司法制度の内在的な制約であるとしている。しかし、結局のところ、高裁決定は、行政機関から独立して法的判断を行い、人権を擁護するという司法機関の役割を放棄してしまっているにすぎない。
以上から、高裁決定の司法審査の在り方は不当であり認められない。

 2 地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性

次に、高裁決定は、地震に起因する原子炉施設の事故の可能性について、概ね以下のとおり判断した。

  (1)基準地震動について

高裁決定は、応答スペクトルに基づく手法につき、地震動想定に用いる経験式が有するばらつきも考慮されている必要があると認め、断層の長さから地震規模を求める松田式にばらつきがあるとしながら、地域的特性を踏まえた地震動評価であることなどを理由に、過小評価となっているということもできないとしている(甲276・94頁ないし99頁)。

しかしながら、ばらつきがあることを認めるのであれば、このばらつきを前提とした万全の対策を求めるべきであるところ、これをせずとも過小評価とならないとすることは著しく不合理な判断である。

地震は、いまだ未確定な事実が多く、ばらつきがあることを前提に最大限の安全性を考慮しなければならないことは、高裁決定直後に発生した熊本地震が当初、14日に発生したマグニチュード6.5 の地震が本震で、その後に発生するものは余震であり地震の規模で上回るとは想定されていなかったにもかかわらず、16日になってマグニチュード7.3 の地震が発生したため、気象庁は14日のものを前震、16日のものを本震と修正していることからも明らかであり、予期せぬ事態は常に起こりうることを前提としなければならない。

また、震源を特定せず策定する地震動(Ss-2)について、震源を特定して策定する地震動(Ss-1)を補完するものとして位置づけられているとしている点については、原決定がSs-2につき、「付加的・補完的な位置付けとして理解することは相当ではない」とした点をさらに後退させるものであり、不当な判断であると言わざるを得ない。

  (2)深層防護について

深層防護の考え方について、新規制基準には第5層(防災対策)の深層防護の観点からの明示的な規定は見当たらない、としたうえで、原子力防災対策については、原子力事業者が第一次的な責務を負うものの、国の関係省庁等及び関係地方公共団体との連携協力がそれぞれの責務の円滑な遂行にとって不可欠となることから、原子力規制委員会にはその専門的、科学的な観点から関与させることとしたものであると解される。もとより、防災対策を発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とするか否かは、立法政策に属する事柄であるところ、このような立法政策が不合理であるということはできない、とした(甲276・170頁)。

しかしながら、第5層の防災対策が規定されず立法政策と新規制基準から除外することは、結局のところ事故が発生した場合に備えた対策がなくとも発電用原子炉を稼働させることができることを容認したものであり、許されない。事故に備えた対応までを万全に整備したうえでなければ審査基準を満たさないという発想こそが社会通念であるといえ、これを無視した判断は、高裁決定のいう「社会通念」が結局のところ政府の意向であるということが露見されたといえる。

 3 避難計画の実効性について

  (1)高裁決定の内容

高裁決定は、避難計画の実効性について、まず、原子力災害対策に関する法令の規定からすれば、原子力災害の発生の防止及び拡大の防止等についての原子力事業者は第一次的な責務を負うものの、当該原子力事業所において必要な措置を講ずることが前提とされており、当該原子力事業所周辺住民の生命または身体を原子力災害から保護するための避難等を含むいわゆるオフサイトの災害対策は、市町村、都道府県及び国が担うものとされ、避難計画の作成および非難の勧告または指示を含めて、基本的に市町村の責務とされている。これらのオフサイトの災害対策については、発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とされていない、としたうえで、以上のような現行法制度において、避難計画が全く存在しないか又は存在しないのと同視し得るにもかかわらずあえて当該発電用原子炉施設を運転等するような場合でない限り、当該避難計画が合理性ないし実効性を欠くものであるとしても、その一事をもって直ちに、当該発電用原子炉施設が安全性に欠けるところがあるとして、違法な侵害行為のおそれがあるということはできないとした。

そいて、本件避難計画等は、実効性等に問題点を指摘することが出来るとしても周辺住民の避難計画が存在しないのと同視しうるということはできないから、違法な侵害行為のおそれがあるということはできない、とした(甲276・270頁)。

  (2)住民の生命・身体の安全を軽視した判断であること

上述のとおり、避難計画の策定は、住民の生命・身体の安全を図るうえで不可欠の要素であるところ、高裁決定は、これを発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象としないことを肯定したうえで、現行法制度では避難計画が全く存在しないか、これと同視できる程度の計画である場合でなければ発電用原子炉の安全性に欠けるところがあるとはいえないとしており、生命・身体の安全を著しく軽視した不当な内容であるということができる。
発電用原子炉において、ひとたび過酷事故が発生した場合には、その被害は甚大であり、付近住民を適切に避難させなければ、多くの生命・身体に著しい被害を与えることになりかねない。そうである以上、避難計画については、現行法制度において誰が実施主体であるかにかかわらず、適切に策定されていなければならないところ、これを全く度外視し、政府の判断をそのまま肯定した高裁決定は許されない。

 4 結論

以上のとおり、高裁決定は、司法審査の在り方において政府の判断に迎合してしまったため、その後の具体的判断において形式的な審査しかせず、周辺住民の生命・身体の安全を見捨てるという司法機関の役割を放棄するものであって許されるものではない。

以上

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