◆私たち原告の主張:ハイライト
 世界各国における原発産業の状況

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第3の1より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

2011年3月11日後の世界各国における原発産業の状況

  (1)米国の状況

  ア 沸騰水型のGE、加圧水型のWH

◆もともと、米国は、いわゆる「旧西側先進国」において、商業発電用の原子炉を最初に開発した国である。もともと、原子炉は、原子力潜水艦など、燃料補給をせずに長時間・長距離を航続できる兵器の製造のために開発されたものである。商業用の原子炉は軍事技術を商業用に転換したものであったため、最初から、安全性の観点からは不合理な側面を抱えていたが、本書面ではその点には触れない。

  イ GE=日立・東芝、WH=三菱重工・アレバ

◆米国で商業用原子炉の技術を保有していたのは、沸騰水型原発については、トーマス・エジソンが創業者であるゼネラル・エレクトロニック社(以下「GE社」)であり、加圧水型の原発についてはウェスチングハウス社(以下「WH社」)であった。
日本国内では、GE社から沸騰水型(BWR)の原子炉製造技術を移転されたのが株式会社日立製作所(以下「日立」)と株式会社東芝(以下「東芝」)であり、WH社から加圧水型(PWR)の原子炉製造技術を移転されたのが三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」)であった。

◆ヨーロッパでは、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転されたのが現在の仏・アレバ社の子会社である「アレバNP」であり、「欧州加圧水型原子炉」(EPR)を製造する技術を保有している。

  ウ GE社の原発からの撤退と日立への「押しつけ」の現状

◆その後、GE社の原発製造技術は、本体から切り離され、ビジネスパートナーである日立との合弁企業である「日立GEニュークリア・エナジー」(茨城県日立市、出資比率は日立80%、GE20%)、日本以外の世界各地で原発の新規建設受注を目指す「GE日立ニュークリア・エナジー」(ノースカロライナ州、GE60%、日立40%)とに移転され、現在に至っている。

◆米国では1979年のスリーマイル島原発事故の後、2012年まで原発の新規建造は凍結されていた。2012年に数機の原発の建設が許可されたが、その後のエネルギーシフトにより、同年、GEの経営者が原発について「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」(上記新聞記事)と発言した。その後、後述のように「GE日立ニュークリア・エナジー」は、2017年になって核燃料部門の撤退により日立出資分だけで700億円の営業外損失を計上している。

  エ WH社を取得し経営破綻寸前の東芝

◆WH社は2006年に売却され、その後の追加出資を含め、6000億円で同社を取得したのが東芝である。

◆直近の公知の事実にも属するが、後述のように、現在進行形で、東芝を経営破綻の危機に追い込んでいるのが東芝の子会社であるWH社である。

  オ 米国の現状

◆2016年12月末、東芝は数千億円規模の特別損失の計上予定をプレスリリースした。その原因は、以下の通りである。

◆すなわち、WH社が米国で建設中の4基の原発を巡り、福島第一原発事故を受けて米国での原発の安全規制が強化されたことで、設計変更が必要になり、また、工期の遅延により、建設コストが増加していたところ、WH社がビジネスパートナーであり、原発建設会社である「ストーン・アンド・ウェブスター」(以下「S&W社」)との間でトラブルが発生したため、WH社がS&W社を「0円」で買収することで両社のトラブルを決着させた。しかし、これが東芝の7000億円とも言われる特別損失につながることになった。つまり、東芝による「0円」査定が甘く、買収の時点でS&W社は、実は大幅な債務超過だったのである。これらの4基の原発は、建設途中であるから、当然ながら今後も、損失が拡大する可能性は充分ある。

◆三菱重工も、すでに原告第10準備書面18頁以下で紹介したように、2012年に米国サン・オノフレ原発に納入した蒸気発生器の細管の不具合により、同原発を運営する会社から7070億円の損害賠償請求を受けている。

◆2012年時点でのGE社の経営者の発言にも見られるように、米国では、福島第一原発事故後の規制基準強化やエネルギーシフトにより、原子力発電は、もはやコストの見合わない発電方法であると認識されており、現在進行形の新規の原発建造も巨額の赤字を出している状態なのである。既存の原発についても、日本企業に対する巨額の損害賠償請求に発展している。

◆後述のように、そのような中で、米国の資本が原発製造技術から次々に手を引き始めており、それを買収させられたのが東芝なのである。今後、日立が原発製造技術に固執すれば、GE社との関係で同じ道を歩む可能性がある。

  (2)欧州の状況

  ア ドイツ

◆ドイツでは、総合電機企業であるシーメンス社(戦前の海軍高官への収賄事件で高校の日本史教科書に登場する「シーメンス事件」の会社である)が原子炉の製造技術を保有していた。しかし、同社は、2011年3月11日直後の同年4月、早くも、WH社から技術を導入して欧州の原発を建設してきた「アレバNP」の出資分(34%)をフランスのアレバ社に売却し、同年9月に、正式に、原発製造から撤退した。

◆ドイツは、原発製造技術を持つ国では、産業レベルで脱原発を果たした最初の国となったと言える。シーメンスがアレバNPの出資分をアレバ社に売却して押しつけた理由は「事業への十分な発言権がなかったため」(上記日経新聞2011年4月12日)などとされており、ドイツの「脱原発」が、単に国民世論や政治が主導したものではなく、資本の冷徹な論理により行われた側面もあることを示している。

  イ フランス

◆フランスでは、アレバ社(同社の子会社である「アレバNP」)が原子炉製造技術を保持しており、現在でも、フィンランドのオルキルオト原発、フランス国内のフラマンビル原発の建設を続けている。しかし、オルキルオト原発やフラマンビル原発については、福島第一原発事故を受けた規制の強化で建設費用が一基2兆円以上に高騰している。

◆また、その過程で、1960年代に遡って、アレバの子会社である「クルゾ・フォルジュ」や「日本鋳鍛鋼株式会社」が製造していた原子炉の鋼鉄製部品の規格違反(炭素含有量の超過)が発覚し、急激な温度変化により亀裂が発生する可能性を指摘されている。この部品はオルキルオト原発にも納入される予定であり、今後、同原発の完成はさらに遅れるかもしれない。当然、建設費用の高騰につながる可能性がある。

◆アレバ社はオルキルオト原発の建設で費用が膨らみ、2015年12月期まで5期連続で最終赤字を計上し、その間の累計赤字は1兆円を超えた。同社は、2015年12月末現在、フランス政府が直接・間接に86.52%の株式を保有しており、事実上、仏国の国営企業である。東京電力株式会社が国営企業化していることと同じように、民間資本では経営が成り立たない状況と言える。

◆このようなアレバ社やアレバNPに対しては、一方で、三菱重工が救済に乗り出している。

◆すなわち、三菱重工はすでに述べたように、アレバNPとともに、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転された企業であり、もともと三菱重工とアレバは関係が深かったが、アレバ社がオルキルオト原発建設部門を切り離して新規に設立する新会社「NewCo(ニューコ)」に三菱重工が5%出資し、日本の電力会社9社及びその子会社である日本原子力発電が主要な株主である「日本原燃株式会社」も5%出資することとなった。

◆これとは別に、三菱重工は2016年6月28日以降、アレバNPとの合弁事業、同社への少数株主としての出資について、協定を締結した上、検討進めている。

  ウ 欧州の現状

◆結局、欧州では、福島第一原発事故後のドイツ資本の撤退、規制強化とそれによる建設遅延、日本企業もかかわった従前からの粗悪な部品使用の発覚などにより、アレバ社が大幅な赤字を計上しており、原発製造技術自体、原発大国であるフランス政府の支援無しには維持できない状態になっているのである。

◆英国では原発の新規建造が計画されているが、例えば、フランス電力公社(EDF)が事業主体となる予定の英国ヒンクリーポイント原発は、二基2兆4000億円以上の建設費について、英国政府が同原発の電力を35年間にわたって現行の電力卸売価格の約2倍の高値で買い取ると保証したうえ、資金調達に政府保証するなどして計画が成立しているだけで、買い取り価格が倍額であることの一点をみても経済性がないことは明らかであり、現に専門家からその旨の指摘がされている。内部で事業を進めることの危険性を指摘した最高財務責任者が辞任に追い込まれるなど、異常事態となっている。

◆そこへ、三菱重工のアレバへの出資と中国企業のアレバへの出資見合わせ(前掲日経新聞2017年2月4日)という事態が生じており、中国企業も出資予定だったヒンクリーポイント原発建設事業の先行きに不透明さが増していると言える。さらに、日立による英国「ホライズン社」の買収による日立の英国での原発建設事業への参入、という状態が発生している(。

◆経済原理による採算性がなく、先行きの不透明な事業に、原発にしがみつくフランスと日本の企業が前のめりに挑んでいる状況なのである。

  (3)アジアの状況

  ア ベトナムの建設計画白紙撤回

◆ベトナムでは、三菱重工が加圧水型の原発を建設する計画になっていたが、2016年11月22日、ベトナムの国会が計画の白紙撤回を決めた。

◆福島第一原発事故後の安全意識の高まりは、アジア諸国にも及んでいるのである。

  イ 台湾の脱原発決定

◆台湾では、現在、GE社、WH社が1970~80年代に建設した合計6基の原発が稼働中である。さらに東芝、日立が受注して「第四原子力発電所」の建設が着工し、進められてきたが、この計画は福島第一原発事故後の2014年4月27日に凍結された。

◆そして、2017年1月11日、台湾の立法院は2025年までに原発をゼロとする法改正を可決した。

  ウ トルコの計画の不採算・政情不安

◆トルコでも原発建設計画がある。シノプ原発は、もともと韓国が優先交渉権を持っていたが交渉決裂、その後、東芝・東京電力の連合体が交渉に入ったが、福島第一原発事故を受けて東京電力が撤退して白紙撤回となった。さらに、三菱重工・アレバの連合体が受注を2013年5月に受注内定した。事業化可能性調査(FS)を2年かけて行い、事業主体には伊藤忠商事が10%超出資することが予定されていた。

◆その2年後、出資を検討していた伊藤忠商事が

本事業への参画については今後協力を行う事業か調査の過程で検討されるものでありますが、本事業を取り巻く環境等を踏まえた場合、総合商社である当社の持つ機能や果たせる役割等を勘案すれば本事業への出資者としての参画は極めて困難であると現時点で認識しております。

とのプレスリリースを発表した。事実上、事業化可能性が否定されたに等しい。

◆また、その後、トルコは隣国のシリアに軍事介入したことで国内でテロ活動が活発化したり、軍部がクーデターを画策するなど、政情が不安定となっている。三菱重工も、現地事務所にスタッフが10名いる程度であり実際の計画は進んでいない。

◆そもそも、同国は日本と同じ地震国であり、原発が事故を起こした場合の賠償問題も起きえる。伊藤忠商事がいみじくも述べたように、事業可能性には極めて困難がある。

  エ メーカーが二の足を踏む日印原子力協定

◆日本とインドは2016年に原子力基本協定を結び、日本から原発の輸出が可能となったが、協定は一方的な破棄が可能な上、その場合の企業への補償等について定められていない。また、インドの原子力損害賠償法では、米国やそれをそのまま導入した日本や欧州のそれとことなり、メーカーの免責条項がない(例えば、日本の場合「原子力損害の賠償に関する法律」4条でメーカーの免責が明記されている)。そのため、実際の輸出には日本メーカー自身が二の足を踏んでいる。

  オ アジアの現状

◆そもそも、福島第一原発事故を引き起こした日本国が原発の輸出などできるのか、という大問題がある上、日本が輸出を狙っているすべての国で、原発の建設は進んでいない上、抱え込むリスクは膨大である。むしろ、台湾やベトナムのように、福島第一原発事故を教訓化して脱原発し、あるいは、原発導入を断念するケースが広がっている。

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