◆原告第38準備書面
-上林川断層について-

原告第38準備書面
-上林川断層について-

2017年(平成29年)7月20日

原告第38準備書面[779 KB]


目次

1 上林川断層は被告関西電力の想定よりも長い
2 被告関西電力の想定の恣意性
3 共役断層としての上林川断層



1 上林川断層は被告関西電力の想定よりも長い

上林川断層について被告関西電力は,平成17年の地震調査研究推進本部の公表内容を踏まえ,上林川以北では断層に沿ってリニアメントが確認できなかったことなどを理由に断層の存在が明確な範囲は約26キロであるとしつつ,同断層の西端部が不明瞭であることから福知山付近まで延長し,保守的に39.5キロと評価したとする(準備書面〔3〕53頁,甲丙28・右上「55」以下など)。

被告関西電力は同断層を北東方向に延長しない理由について,断層に沿ってリニアメントが確認できないことを挙げるが,しかし,リニアメントが確認できないとしても,その程度の調査では活断層が存在しないということはできない。
リニアメントは,空中写真から地表に認められる直線的な地形の特長(線状模様)の有無を見るにすぎないからである。トレンチ調査やボーリング調査などのより詳しい調査を行なえば明瞭に活断層が確認される可能性は十分にあるし,それどころか,そもそも事前に確認されていない場合であっても実際には活断層が存在する場合のあることは,直近の熊本地震を実例にするなどして詳細に述べたとおりである。

また,断層や活断層が確認されていない場合であっても既知の活断層の延長線上でM7クラスの大地震が発生した例はほかにもある。平成17年3月20日に発生した福岡県西方沖地震では,以前より陸域に警固断層という活断層の存在が知られていたが,下図のとおり,同地震では同断層の北西延長上の玄界灘の地震空白域で地震が発生している。同地震後には,福岡県西方沖地震「の地震の余震域と警固断層は,直線状にほぼ連続していることから,一連の活断層体であると考え,これらをまとめて警固断層として扱っています」としており,同地震発生前には知られていなかったものの実際には玄界灘まで続く活断層が存在していたと述べている。

地震調査研究推進本部ホームページ(http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/katsudanso/f108_kego.htm)より抜粋【図省略】

そもそも被告関西電力は,上林川断層の北東端について,故屋岡町付近(下図A地点付近)【図省略】において活断層が存在しないことを確認したとしているが,原子力発電所のある福井県との県境付近でちょうど「活断層が存在しないことを確認した」というのは余りにも不自然である。次に述べるとおり,また下図からも明らかなとおり断層自体は存在するにもかかわらず,県境付近でちょうど活断層ではなくなるということは,恣意によるものといわざるを得ない。

よって,被告関西電力が上林川断層の北東端であるとしている地点よりもさらに北東方向に活断層が存在する可能性は十分にあり,同被告の活断層評価は過小であって,ましてや上林川断層を「保守的に評価した」とは到底言えるようなものではない。

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2 被告関西電力の想定の恣意性

このように上林川断層の北東方向に活断層がさらに存在する可能性が十分にあるのであるが,少なくとも同方向には地質断層(断層)が存在しており,先に挙げた図のとおり,超丹波帯と丹波帯との境界の断層が存在することは被告関西電力の調査からも明らかとなっている。

この地質断層としての上林川断層は,亀高らの調査によれば,福井県大飯郡おおい町笹谷付近まで追跡される(甲365)。そうすると,活断層・断層としての上林川断層は,被告関西電力の想定よりも10キロ近く長いということになる。同地点は,本件原発からわずか15キロ程度の地点である。もちろん,その地点が断層の終点であるという保障もない。

地質断層としての上林川断層は左横ずれ断層であり,活断層である上林川断層の右横ずれ断層とは変位センスが一致しない。しかしこの点については,上林川断層はもともとは丹波帯の褶曲構造形成後に活動した左横ずれ断層であり,現在の活断層である上林川断層はその一部を利用した右横ずれ断層であるとされている。このような断層の運動方向の逆転は特に西南日本内帯では多く見られ,その成因としては,海洋プレートの沈み込み方向の変化による応力場の変換のほか,地塊(日本列島)の回転による断層方向の変化があると考えられている。つまり,両者はもともと1つの断層だったのである(甲365[111 KB]甲366[111 KB]甲367[5 MB])。そうすると,両者が一体として活動する危険性は十分に認められる。保守的に評価して西方には延長するが北東方向には延長しないというのは恣意的というほかない。

ましてや被告関西電力は,FO-A~FO-B断層と熊川断層について,当初これらは連動しないと考えていたものの,その後より安全側に考えることとして連動を想定し,断層長さ63.4キロ,マグニチュード7.8の地震を想定して基準地震動を求めている。そうすると,地質的連続性のないFO-A~FO-B断層と熊川断層についてさえ「より安全側に考え」連動を想定するのであるから,活断層としての上林川断層と地質断層としての上林川断層が連動することは「より安全側に考え」当然考慮すべきであり,両者がもともと一体の断層であったことからすればなおさらである。それにもかかわらず上林川断層についてのみそのような想定をしないのは,恣意的というほかない。真に「より安全側に考える」のであれば,北東方向にこそ延長して検討すべきなのである(甲368[821 KB])。

さらに,上林川断層を北東方向にそのまま延長すると,本件原発付近へと至ることは下図からも明白である。また,FO-C断層との連動も「より安全側に考える」のであれば十分にあり得る。被告関西電力が北東方向に延長しない理由は,これらの事情に鑑みてのことと考えざるを得ないのである。

若狭湾周辺の主な活断層の分布(関電側準備書面(3)51頁より引用)【図省略】

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3 共役断層としての上林川断層

共役断層とは,同一の応力下で互いに90度程度斜交した断層面が形成され,断層のずれの向きが互いに逆向きを示すものをいう。例えば下図【図省略】で力(応力)の主軸が東西方向を向いている場合,(1)北東-南西方向に走行を持つ右横ずれ断層と(2)北西-南東に走行を持つ右横ずれ断層の組み合わせが共役断層となる。

このような共役断層の例としては,飛騨高地の北部の富山県南部から岐阜県北部にかけて分布する跡津川断層(北東-南西方向で右横ずれ)と,岐阜県・長野県に跨がる阿寺山地と美濃高原との境界に位置する阿寺断層(北西-南東方向で左横ずれ)や,兵庫県淡路市にあり阪神大震災を引き起こした活断層の1つである野島断層(北東-南西方向で右横ずれ)と,岡山県東部から兵庫県南東部にかけて分布する山崎断層(北西-南東方向で左横ずれ)などが挙げられる。また,本件大飯原発の西側にある山田断層と郷村断層も共役断層である。

そして,上林川断層とFO-A~FO-B-熊川断層とも共役関係にある。それは,当該地域ではほぼ東西方向に1×10-7/年程度の縮みのひずみが発生しており,正に上記図のような形で共役断層が存在すると解するのが合理的だからである。よって,FO-A~FO-B断層と熊川断層の3連動の想定地震と同じウェイトで,上林川断層の北東延長上の空白域でもM7クラスの地震が発生することを考慮すべきである。それをしない被告関西電力の想定は,過小であるというほかない。

以上

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