◆口頭弁論(2020/9/8更新弁論)弁論要旨 全体

2020年9月8日

はじめに

 本日の更新弁論は、原告らが本訴訟において特に強調している三つの柱に基づいて行います。三つの柱とは、巨大地震発生の現実的危険性、大飯原発敷地の地盤の脆弱性、住民の避難計画の不備と避難の困難性の三つです。
 今日は、第一の柱について、原告団長の京都大学名誉教授の竹本修三氏にお話を頂きます。次に第2の点について、弁護団が弁論を行います。そして、第3の点について、原告の福島敦子氏にお話を頂き、また、弁護団が弁論を行います。

第1 巨大地震発生の現実的危険性
 別紙スライド参照。

第2 地盤特性についての原告ら主張の要旨
 大飯原発では、基準地震動【注1】(856ガル)超えの地震が起き、過酷事故が発生する危険があります。

【注1】地震動とは、特定の地点における地盤の揺れのことで、単位はガル(1cms²)である。基準地震動とは、原子力発電所毎に定められている耐震設計基準である。

 過去わが国では、何度も、基準地震動超えの地震が起きています【注2】。

【注2】平成17年8月16日宮城県沖地震女川原発、平成19年3月25日能登半島地震志賀原発、平成19年7月16日新潟県中越沖地震柏崎刈羽原発、平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震福島第一原発、平成23年3月11日同上女川原発

 それは、基準地震動が過去の多数の地震の平均像をもとに策定されているからです。
 過去に基準地震動超えの地震が繰り返し起きていることと、基準地震動が平均像をもとに策定されている事実に、争いはありません。
 しかし、関電は、基準地震動超えの地震は起きないと主張しています。
 関電は、それを地域特性で説明しています。大飯原発の地盤には均質で堅硬な岩盤が広く分布している、地下に特異な構造は認められない、だから平均像を超える地震動は起きないのだと。
 このように、地域特性は関電の主張の柱に位置付けられています。本当に関電が言うとおりの地盤特性が認められるのか、本件で重要な争点となっています。
 関電は、地盤特性に関して関電自身が行った調査結果を規制委員会に報告しています。そのいくつかから明らかになった事実を紹介します【注3】。

【注3】地震動の振幅は、震動の伝わる速さ(すなわち、伝播速度)の速いところでは小さく顕われ、遅いところで大きく顕われる。そこで、地下構造の調査では、伝播速度を明らかにすることが重要になる。尚、地震動には、S波とP波がある。S波は進行方向に垂直に振動する波動であり、大きな揺れを起こす。P波は進行方向に平行に振動する波動であり、粗密波とも呼ばれる。

 尚、ここでは地域特性のうち地盤特性についてだけ触れます【注4】。

【注4】地域特性には、震源特性、伝播特性そして地盤特性(サイト特性)がある。

 【試掘坑弾性波探査】は、原子炉敷地に横穴(試掘坑)を掘り、その中に適当な間隔で地震計を置き、別の場所で人為的に震動を起こして、伝播速度を測定する方法です。地震計を震計を置き、別の場所で人為的に震動を起こして、伝播速度を測定する方法です。地震計を並べた横穴から離れた位置で震動を与える方法は、特にその形状からファン・シューティン並べた横穴から離れた位置で震動を与える方法は、特にその形状からファン・シューティングと呼ばれています。
 被告関電は、試掘坑弾性波探査調査結果から「解放基盤【注5】のS波速度を2.2km/s」」と説明しています。

【注5】解放基盤面とは、大飯サイトの場合、基準地震動が策定される所である。(原定義を基準地震動から見ての説明)

 しかし、正確に集計すると、S波速度は2.2km/sを下回っており【注6】、過大な速度を報告し、過大な速度を報告しています。また敷地の西側から東側に向けて速度が大きく低下し、地盤を通る破砕帯部分でています。また敷地の西側から東側に向けて速度が大きく低下し、地盤を通る破砕帯部分で速度が急変し、低下していました。速度が急変し、低下していました。

【注6】全体では全体では (2.1±0.3)km/s、
4号炉近傍では、 (2.2±0.3)km/s、
3号炉近傍では、 (2.0±0.4)km/s。

 堅硬な岩盤が広く存在しているとも、特異な構造が認められないとも言えないことが明らかになりました。


 【反射法地震探査】は、地表の探査測線上に密な間隔で多数の地震計を設置し、探査測線に沿って震源車が一定の間隔で人為的に振動を起こして、その地震波が地下の地層や断層に沿って震源車が一定の間隔で人為的に振動を起こして、その地震波が地下の地層や断層によって反射してくる反射波を測定して地下構造を探査します。

 これは反射法地震探査の結果を図化したものですが、関電は、特異な構造は認められないと説明しています。

 しかし、元物理探査学会長の芦田譲京大名誉教授は、典型的な回析波が認められるとコメントしており、特異な構造が認められないとは言えないことが明らかとなりました。
 反射法地震探査は、石油探査のために開発活用され、医療分野で超音波エコー検査として応用されています。当初は2次元でしたが、1990年代には3次元探査に発展し、コストはかかりますが情報量が膨大で高精度なため地盤構造を正確に把握するため広く利用されています。以下の図は、3次元反射法地震探査による3D表示の例です。新規制基準は「最先端の調査手法」を用いるべきで、「地下構造が成層かつ均質」でない場合は「三次元」探査が適切だと定めています。
 しかし関電は三次元探査を行わずに、特異な構造は認められないと主張しています。

(▼海洋探査の例)

(▼地上探査の例)3次元探査結果

(▼地上探査の例)任意方向震度断面

 【微動アレイ観測・地震干渉法】はいずれも、地面の微動を常時観測し、その微動から周期毎の速度(位相速度)を求め、そこから地下構造(速度構期毎の速度(位相速度)を求め、そこから地下構造(速度構造)を「推定」する方法です。
 政府地震調査推進本部HPによると、この方法は、簡単かつ経済的だが、「推定」にとどまり、地盤構造の詳細までを把握できないと指摘しています。より詳しい把握には、人為的に振動を起こしてする地震波伝播速度等の調査を併せて行うことが望ましとされています。
 関電は、この微動アレイ・地震干渉法の調査結果から、本件原子炉建屋は堅硬な岩盤(Vp=p=4.64.6KKm/sm/s、、Vs=2.2Km/sVs=2.2Km/s)の上に設置されている、地下に特異な構造は認められないと)の上に設置されている、地下に特異な構造は認められないとの関電モデルを主張しています。
 しかし、この関電モデルは恣意的な解析操作によって得られたものです。
 何より関電モデルは、地震本部が併せて調査すべきと指摘している、試掘抗弾性波探査や反射法地震探査の結果に矛盾していますが、関電はその矛盾に口をつぐんでいるのです。

 以上、地盤は均質で堅硬な岩盤が広く分布しているとも、地下に特異な構造は認められないとも言えず、平均像を超える地震動が起きないとは到底言えないのです。

第3 避難計画の不備と実際の避難困難性避難計画の不備と実際の避難困難性

2 避難計画の不備避難計画の不備に関する主張の位置づけに関する主張の位置づけ

 被告らの主張は、それ自体立証されていませんが、要は現在の科学的知見に基づいて過酷事故に至る可能性が十分に低い、というもののように思われます。しかし、この考え方自体が、我々が有する現在の科学的知見を過信するものであり、また一方では、過酷事故が生じたときには「現在の知見に基づいて想定外であった」という弁解を許す構造を持っています。福島第一原発事故の際に、事前には重大な事故は起こりえないとされ、事後には一部の科学者や政府が「想定外」を繰り返したことは何度でも思い起こされなければなりません。
 この点、世界的には「深層防護」「多重防護」の考え方が最も重要な指導理念とされてきました。原告ら第1準備書面、第5準備書面18頁でこのことを書いています。具体的には、第1防護レベルが「通常運転からの逸脱の防止」、第2防護レベルが「異常事象の検知・事故への発展の防止」、第3防護レベルが「設計基準事故の影響緩和」、第4防護レベルが「過酷事故への対応」、第5防護レベルが「事故に起因する放射性物質の放出への対応」です。米国の場合、さらに第6層で「立地」を考慮します。深層防護の考え方では、①「階層間の独立」と②「前段否定の論理」が充たされなくてはならないとされます。原発における過酷事故対策とは全く独立して、最大限の事故を想定して、住民の人権が保障されなければならないのです。
 日本のいわゆる新規制基準は、この深層防護という考え方自体が非常に不徹底であり、それ自体が大きな問題ですが、第5層について避難計画の整備や実効性は規制基準に取り入れてすらおらず、これ自体が規制基準の大きな不備です。原告らは第6準備書面でさらにこの点を詳述し、また、大飯原発で過酷事故が生じた場合にどのように放射性物質が放出されるのか、どのような被害をもたらすのかを述べています。なお、水道に関して言えば、琵琶湖が放射性物質で汚染されたときにもっとも被害を受けるのは、滋賀県民ではなく、琵琶湖疏水を大半の上水道の水源にしている京都市民であることも述べています。

3 福島第一原発事故における避難の困難性

 大量の放射性物質の放出を前提にした場合、どのように避難がなされ、その過程で人々の健康や命がどうなるのか。福島第一原発事故について、原告第53準備書面で詳しく検討しました。県別の震災関連死の数は、2017(平成29年9月30日の段階では、岩手県464名、宮城県926名、福島県2202名で、2202名のうち1984名が65歳以上の高齢者であった。震災とは別に福島第一原発の事故が起きた福島県だけ、人口比での震災関連死が多く、かつ、事故から6年経った段階でも震災関連死の伸びが続いているのであり、福島県では「原発事故関連死」という呼び方をするのです。具体的に見ても、地震後にがれきの下で助けを求めているのに、避難指示が出て救助を諦めた事例が報道されており、施設に入所していた高齢者が事故直後の混乱の中や、避難中に衰弱死した例が多数ありました。酷いものでは、事故後の混乱の中で、双葉病院の施設外に迷い出たまま行方が分からなくなった方すらいました。
 また、地震とは関係なく同時に発生しえる台風等の被害によって、避難が困難になる実態があることを第49準備書面で指摘しました。

4 逃げられない私たち

 原告らは、福島第一原発事故の実態も踏まえた上で、実際に過酷事故が起きた場合に、自分たちが避難困難であることを口々に述べています。
 京都市左京区久多(第19)、京都府南丹市美山町芦生(第68)など、大飯原発にもほど近い限界集落の住民が、逃げようにも逃げられない実情を訴えています。これらの限界集地震によるただでさえ幅の狭い道路の寸断や、豪雨や土砂崩れによる寸断、豪雪より道が閉ざされる事態になったときに、避難が事実上不可能であることは明らかです。
 両下肢機能障害を有する京都市左京区在住の原告(第41)が、避難所にたどり着けないこと、避難所が障害者に対応していないこと、障害者が避難すべき避難所が整備されていないこと、周りに迷惑を掛ける心理的抵抗など多くの理由で避難困難であることを訴えました。この点、障害者に限らず、避難所で発生する人権侵害的な過酷な状況は第45準備書面で述べました。また、多数の入院患者がいる丹後ふるさと病院の事務長(第57)が、多数の高齢者の患者を移動させること事態の困難性や、受け入れ先がないこと、家族も高齢化して助けに来られないこと等からの避難困難性を訴えました。
 また、京都府北部地域の舞鶴市や京丹後市の学校の先生が、避難した生徒たちのストレスの大きさや、保護者への児童生徒の引き渡しができないこと、また引き渡しが完了しない限り自分たちが避難できないことからの避難困難性を訴えました(第66)。
 今現在、障害を持たない住民であっても、京都府南部の住民ですら、実際に過酷事故が起
これば避難困難になることを次々に述べました(第30、第59、第63)。

5 行政の避難計画の不備

 また、原告らは、このような原告らの実情も前提にしながら、行政が策定した避難計画の問題点についても、舞鶴市(第8、第17、第50)、綾部市(第22)、南丹市(第25)、宮津市(第28)、京都市(第36)など自治体ごとのものや、これらをとりまとめた大飯原発に関する避難計画全体(第48)について問題点を指摘しています。
 その上で、実際に行われた広域避難訓練の問題点も指摘していますが、この点は代理人を交代します。

6 京都府下の避難計画の非現実性

 2018年3月に大飯原発3号機、5月には4号機がそれぞれ再稼働しました。再稼働に先立つ2017年10月、広域避難計画である「大飯地域の緊急時対応」が取りまとめられました。この問題点については、すでに原告第27、48準備書面などですでに主張したとおりですが、更新にあたり、改めてその問題点について申し上げます。なお、この計画は本年7月に一部改定されています。この改定内容の問題点は改めて準備書面で主張いたしますが、基本的な問題点については何ら解決していません。むしろ新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、より問題は深刻となっていると言わざるを得ず、到底、住民の安全を守れるものではありません。

 そもそも、この避難計画は、原発から5キロ圏内をPAZ、約30キロ圏内をUPZと定め、その範囲に含まれる自治体、その中に居住する住民のみが対象とされています。
 しかしながら、そもそも原発で重大事故が発生し、放射性物質が放出された場合、その被害は、決して同心円状に広がるものでもなければ、ましてや30キロメートルの範囲にとどまるようなものではありません。このことは、福島第一原発事故の被害状況を見れば明らかです。このこと一つをとっても、この避難計画が住民の健康や安全を守ることのできないものだと言わなければなりません。

 避難計画では、大飯原発で重大事故が発生した場合、UPZ圏内の住民に対しては、避難指示が出るまでの間、屋内退避が指示されます。しかしながら、原発が損傷するほどの大きな地震が起き、目の前で原発事故が進行している場面で、住民に対して屋内退避をさせ続けることが現実問題できるのでしょうか。福島第一原発事故の際も、事故が報じられた後、多くの住民が自家用車で避難を開始しています。原発事故、そして放射性物質による被害を考えれば当然です。屋内退避指示は、放射性物質が来るのを家の中で待てというようなものです。
 そして、本年の改定で、「屋内退避を行う場合には、放射性物質による被ばくを避けることを優先して屋内退避を実施し、換気については、屋内退避の指示が出されている間は原則行わない」とされました。これは言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染防止との関係です。感染対策において、政府はあれだけ「換気」を強調しながら、屋内退避の場面では換気はできないのです。このことは、新型コロナウイルスの感染防止と原発再稼働との間に深刻な矛盾を抱えていることを端的に示しています。

 次に、避難指示が出された場合、対象となる住民は指定された避難先へバス等で避難することになります。ここでも新型コロナウイルスの感染防止との矛盾に直面します。もともとの計画は「バス1台当たり45人程度の乗車を想定」していました。満員のバスです。しかしながら感染症が流行しているときには「バス等で避難する際は、密集を避け、極力分散して避難」するものとされ、そのために「マスクを着用し、座席を十分離して着席する。追加車両の準備やピストン輸送等を実施する。」とされています。
 もともとの計画が策定された時点で、京都府北部だけでは想定されるバスの必要台数を確保することができない。京都市内や京都府南部から原発事故の起こっている京都府北部に向けてバスを移動させなければならないという問題が指摘されていました。感染予防のため、さらにバスの台数が必要になるというのであれば、バスの台数は確保できるのでしょうか。そして、間隔を取り、感染予防対策を実施しながら避難するためには一体どれだけのバスの台数が必要になるのか、具体的な想定はなされていません。また、「感染者とは、別々の車両で避難」するともされていますが、その「別々の車両」の確保についても、具体的な手当てはされていません。

 この避難計画においては、半島や沿岸部については船による海上を通じての避難が計画されています。舞鶴市大浦半島では、成生漁港、田井漁港等が利用する港の例として挙げられています。ここで例に挙げられている成生漁港は、2016年8月に実施された広域避難訓練において、船舶による避難訓練が予定されていながら、実際は訓練が行えなかった港です。海上保安庁の船舶による避難が計画されていながら、海上保安庁の船舶は、その大きさの関係で入港することができず、関西電力がチャーターした観光船も、悪天候により船を出すことができなかったのです。そして、この天候条件からすると、1年のうち約半分の期間は避難を行うことができないとも指摘されています。現に行われた避難訓練で具体的な問題点が指摘されたにもかかわらず、その点に応えられていない、まさに机上の避難計画だと言わざるを得ません。

 この避難計画では、広域避難を行う場合の、避難先への移動経路が設定されています。しかしながら、国道27号線や舞鶴若狭自動車道、京都縦貫自動車道など、主要な道路が地震などで寸断された場合、その避難は極めて困難になります。
 そして、道路が使用できなくなる状況は、決して地震に限りません。京都府北部では、冬は雪の問題もあります。2018年2月、福井県内で大規模な雪害が発生し、北陸自動車道は通行止め、国道8号線など主要国道も長時間にわたって通行できない状況となりました。国や各自治体、高速道路会社が持つ除雪能力を超えて雪が降ったのです。この点について、本年改定では「情報連絡本部を各府県の国道事務所に設置、対応」すると改定されました。しかしながら、そこで行うのはあくまで「調整」に過ぎず、そもそも除雪能力が拡充されなければ意味がありません。避難計画が、国や自治体、高速道路会社の除雪能力任せにしているのは極めて無責任な対応です。
 原発において過酷事故が発生した場合、すべての住民を安全に避難させるなどということは到底困難なことであって、このような無理のある避難計画を策定しなければならないところに最大の問題があります。原発を稼働させず、速やかに廃炉にしていくことこそが住民の安全を確保する唯一の道です。大飯原発を含めあらゆる原発の運転をただちに中止することを求めます。

以 上