◆第1回口頭弁論 原告弁論・意見陳述
  第3-2 現在の避難状況について

畠中孝司弁護士(京都脱原発弁護団)

  • 黒丸は添付パワーポイントによる。
  • 原告団Webチームより:パワーポイントのデータは著作権の関係で掲載していません。

2 現在の避難状況について

東日本大震災、福島第一原発での事故後、放射能による汚染のため、福島第一原発周辺地域の住民の多くが政府の指示によりあるいは自主的に避難しました。

政府の指示によりまたは自主的に避難した者は2011年(平成23年)8月29日時点で、合計14万6520人に上ります。これはチェルノブイリ原発事故により事故から1年以内に避難した人数とほぼ同等です。

過酷な原発事故が地震等の自然災害と決定的に違うのは、原発周辺地域が放射能に汚染され、長期間にわたって人間が生活を営むことさえできない状況に陥ってしまうことです。この点、チェルノブイリ原発事故では、事故から20数年経過しているにもかかわらず、原発から半径30キロメートル圏内が立ち入り禁止となっています。

実際、避難指示が出された地域では現在も高い線量の放射線が残存しており、原発事故発生から2年以上が経過した現在においても、住民の帰還の目処すらついていないところがほとんどです。そして、それにも増して、避難した住民自身が故郷に戻って被爆することを恐れ、故郷には戻らないと考えている者がその多くを占めます。

●双葉町のアーケードと無人の写真

この写真は、住民避難により無人となった双葉町のアーケードです。福島第一原発事故による放射能汚染で、周辺市町村の住民は村ごとあるいは町ごと避難したところもあります。帰還の見込みは立たず、これまで築かれてきた人々の絆、コミュニティを破壊し、地域の多面的な機能である自然環境、経済、文化などの諸要素が完全に解体されました。

また、仕事を持つ夫が地元に残り、妻が子を連れて避難するという母子避難となるケースも多数あり、家族離散という結果も生じています。福島第一原発の事故は地域コミュニティを破壊し、正常な家族生活すら破壊しており、放射能汚染の危険がある限りその回復は望めません。また、その危険がある以上、避難者も帰還したくても帰還できないのです。

福島原発事故の避難者は住み慣れた土地を離れ、慣れない土地での生活が長く続いています。また、自身が放射能に汚染されているかも知れないとの不安を抱えながらの生活です。

住み慣れた故郷を失い、故郷での仕事を失い、様々な精神的ストレスを抱え、それでも故郷には戻りたくないと考える被災者が多数を占めるというのが福島第一原発事故後の現状なのです。

●防護服を着た警察官による捜索状況の写真

この写真は福島第一原発事故後に、警察官が防護服を着て捜索をしている様子です。2011年(平成23年)3月27日、福島第一原発から約5キロの福島県大熊町で、高い放射線量が測定された遺体が見つかっています。放射線量が高く、火葬も土葬も困難で、警察も遺体の収容をあきらめており、身元の確認もできず、このまま野ざらしのまま放置されることになります。不幸にも自然災害で命を失い、その後被曝し、死亡が、遺体が確認されているにもかかわらず、身元確認すらままならない、火葬、埋葬すらしてもらえないのです。

現在、福島第一原発から約20キロの圏内に東日本大震災で亡くなった人の遺体が数百~数千あると推定されており、同様の問題があると考えられます。

震災から、原発事故から生き延びた人のみならず、亡くなった人の人間としての尊厳も踏みにじる、それだけ悲惨な現実を作り出すのが原発事故なのです。

●福島第一原発の構内のタンクの写真

福島第一原発では、日々、汚染水が増加し続け、処理の目処が立っていません。海洋放出すら検討されています。核燃料の取り出し、具体的な廃炉についても、全く目処が立っていません。そして、福島第一原発も、その他の原発も、危険な放射性物質を、人類から隔離しながら、数万年も安全に保管しなければなりません。80年前の津波の経験すら伝えることができなかった私たちになぜそれが可能なのか、答えはありません。