◆第1回口頭弁論 原告弁論・意見陳述
  第4-2 被災と避難の実態

Aさん(福島県から京都府への避難者)

私と私の家族は福島第一原子力発電所の事故により、人生が大きく変わってしまいました。

福島県のホームページによると、3月15日に福島市では毎時最大24.24マイクロシーベルトの放射線がでていました。しかしその時私はそれを知りませんでした。最も放射線値が高い時に福島市にいた子供たちがどれだけ初期被曝をしたのかわからず今でも大変心配です。

4月に入り学校の新学期が始まりましたが、福島市の放射線値はまだ平常値の40倍以上もありました。子供たちは、事故前までは学校まで40分かけて自転車通学していましたが、外部被曝、内部被曝を少しでも避けるために車で送り迎えをすることにしました。子供たちは福島の自然豊かな春の息吹を感じながら爽快に自転車をこいで登下校することがかなわなくなりました。学校でも校庭での活動が制限されました。そんな毎日を送るうちに私は福島にとどまり放射性物質の影響を心配したり制限された生活を送るよりも、子供たちが自由に外で活動し、伸び伸びと普通の生活を送ることのできる環境に移るほうが幸せではないかと考えるようになりました。そして家族内で何度も相談した結果避難を決意したのです。子供自身も不安もあっただろうに、新しい環境でもなんとかやっていけるだろうと言って意欲を見せてくれたので、2011年8月に子供二人とともに福島県福島市から京都府に避難してきました。

しかし残念ながら子供はここでの生活に適応できていません。こちらの学校の生徒さんたちは皆、3月11日以前となんら変わることのない幸せな生活を送っています。その中で自分一人だけ何もかも環境が変わってしまい、生まれ育った家を離れ、父親と離れ、気心の知れた幼いころからの友人たち、切磋琢磨していた学友たち、熱心に指導してくださっていた先生方…福島でのかけがえのない幸せな生活に別れを告げることとなってしまったのです。原発事故のせいで。親の避難するという判断のせいで。この疎外感と喪失感は子供にとって想像以上に大きかったと思われます。

避難してからの1年11か月の間に子供は無気力になってしまいました。そのいら立ちを私に向けて、息子は言います。「何も楽しいことがなくなった」「目標がなくなった」「自分の人生はおしまいだ」と。そして頻繁に怒りを爆発させ、私との関係は非常に悪いものとなっています。仕事のために福島に残っている夫は、家事や雑事、年老いた親の介護のすべてを一人でこなさなくてはならなくなり、多忙を極めています。そのため子供と電話で話すこともめったにありません。ましてや遠い京都に頻繁に来るわけにもいかず、同居していれば当たり前の父と息子のコミュニケーションが二重生活では成り立たなくなっています。夫の健康もとても心配です。

では福島に帰れば問題は解決するのでしょうか。この2年間に何度も子供と話し合いました。帰ったからと言って3月11日以前と全く同じ環境に戻れるわけではありません。元の学校に入れたとしてもクラスメイトや学習カリキュラムや学習進度は変わります。友人関係も学習もまた一から築き上げなくてはならないのです。精神的に疲れ切った子供が帰る決断をするのは難しいことでした。子供は福島でやり直す気力も失ってしまったのです。一度福島から出てきてしまうと、帰ることも簡単ではないのです。

毎日親子でピリピリと緊張した日々を送りいさかいを繰り返しています。子供の大事な時間はいたずらに過ぎ、親子関係は悪くなり家庭は平和ではなくなってしまいました。子供の安全と幸せのために避難したのにすべてが裏目に出てしまったのです。福島で暮らしていた時のように、意欲と希望に満ち溢れた子供に再びなってほしい。そのためにはどうするのが最善なのか、私は毎日自問自答しています。子供自身も葛藤の日々なのがひしひしと感じられます。

身体の健康と精神の健康はつながっていて、どちらも等しく重要です。どちらか一方を選ぶことなどできないのに、私たちは二つを天秤にかけなければならず、その結果子供の人生を狂わせてしまいました。子供の不幸が私にとって一番苦しいことです。子供はこの先ずっと私を恨み続けるでしょう。私も一生償いきれない責任を負って生きていくでしょう。

私は、子供が京都にいる間にもし大飯原発で放射性物質が放出される事故が起きたらどうしようと恐ろしくてたまりません。子供に二重被曝をさせてしまうことになります。いつもその心配が頭の片隅にあります。

原発事故が起きたらすべてを捨てて逃げましょう、という前提で暮らすなんて異常です。放射能汚染によって失われるのは形あるものだけではありません。人の心は病み、人間関係が壊れます。長期間悩み苦しんで不安を持ち続けるのです。多くの人の人生が狂ってしまう危険のある原子力発電は必要ありません。大飯原子力発電所の運転は一刻も早く止めてください。