◆第1回口頭弁論 原告弁論・意見陳述
  第5 相変わらずの安全神話による
  大飯原発再稼働

大島麻子弁護士(京都脱原発弁護団)

福島原発事故の原因究明のため、2011年12月、国会に事故調査委員会が設置され、翌年7月、報告書が公表されました。この報告書では、今回の事故は自然災害でなく、あきらかに人災であると結論づけられています。すなわち、国会事故調査委員会は、事故の根本的原因は、規制される側の電力会社と、規制する側の国の立場が逆転し、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊したことにあると指摘しているのです。この逆転の歴史は高度経済成長期まで遡るもので、東電は、原発の稼働率が下がることや、訴訟で不利になることを恐れ、歴代の規制当局に強力な圧力をかけ続けていました。いわゆる「安全神話」は、こうした長期間にわたる逆転現象の中から誕生したものなのです。

この報告書の公表と同じころ、国会では「原子力規制委員会設置法」が成立し、2012年9月19日、新しい原子力の規制・監督組織として、原子力規制委員会が発足しました。世界的な大事故が起こってから1年半、ようやく、日本は、「安全神話」の見直しへの第一歩を踏み出したかのようにみえました。

しかしながら、大飯原発3号機・4号機の再稼働は、こうした「安全神話」の見直しの前に、抜け駆け的に行われてしまいました。国が、「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」、いわゆる暫定基準を定め、大飯原発3号機・4号機の再稼働を決定したのは、2012年6月18日のことです。この時点では、原子力規制委員会はまだ発足していません。それどころか、国会事故調査委員会の報告書も公表されていません。国がホームページで公表した暫定基準は、A4の用紙にしてわずか12頁、たった3つの安全基準が付け加わったにすぎません。しかるに、国はこの暫定基準について、「徹底的な事故検証から得られた知見の集大成」と自画自賛し、大飯原発3号機・4号機の再起動を決定したのです。

このように国や関西電力が、安全性を無視したまま大飯原発3号機・4号機を稼働させ続けていることは、この7月8日に施行される予定の新規制基準の下での安全体制にも矛盾をもたらしています。この矛盾を取り繕うため、今年3月19日、原子力規制委員会は、大飯原発3号機・4号機が、新規制基準にどこまで対応しているのか、その現状確認作業を行うと決定しました。つまり、原子力規制委員会は、新規制基準の作成作業と、その新規制基準に照らした大飯原発3号機・4号機の現状評価作業を同時並行で行うこととしたのです。このような常識では考えられないようなことが、公然と、平然と、行われているのです。

国会事故調査委員会は、従来の規制当局は電力事業者の虜となっていたと鋭く指摘していました。新しい規制当局であるはずの原子力規制委員会も、やはり電力事業者の虜になっているといわねばなりません。国も、電力会社も、未だに安全神話の中にどっぷりとつかっています。未曾有の大事故に直面してもなお、国や電力会社は現実を直視することができないのです。裁判所には、1100名を超える市民が原告となった、この訴訟の重さを受け止め、最後の砦としての役割を果たすよう期待します。