◆関西電力の老朽原発に関して京都市長に申入

 原発は、事故確率の高さ、事故被害の深刻さ、事故処理や使用済み核燃料の処分の困難さなど、現在科学技術で制御できる装置でないことを、福島原発事故が大きな犠牲の上に教えています。その原発が老朽化すれば、危険度が急増します。それは、原子炉の圧力容器(原子炉本体)や配管が高温、高圧の下で高放射線(とくに中性子)にさらされると、脆化(ぜいか)、腐食、減肉が進むからです。また、老朽原発には、建設時には適当とされていたものの、現在の基準では不適当な部分が多数あるからです。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた圧力容器などです。

 それでも、関西電力(関電)は、9月18日、運転開始後40年をはるかに超え、超危険な老朽原発・美浜3号機、高浜1号機の安全対策工事が完了したとし、これらの原発の来年1月、3月稼働を狙っています。全国の原発の60年運転を先導しようとするものです。

 ところで、原子力規制委員会(規制委)が高浜原発1、2号機および美浜原発3号機の40年超え運転を認可したのは2016年ですが、この認可以降に、関電の原発では、下記【1】~【4】のように、トラブル、事故、不祥事、約束違反が頻発しています。これらは、規制委審査の過程では想定されなかったことばかりです。原発の40年超え運転が、人の命や尊厳、企業倫理をないがしろにして画策され、無責任な規制委がそれを認可したことを示しています

 【1】関電の原発での最近のトラブルの例
 
(1)高浜4号機では、一昨年8月、事故時に原子炉に冷却水を送るポンプが油漏れを起こし、また、温度計差込部から噴出した放射性物質を含む蒸気が原子炉上蓋から放出されました。昨年10月には、蒸気発生器の伝熱管5本の外側が削れて管厚が40~60%減少していることが見つかりました。伝熱管の減肉・損傷は、高浜3号機でも、本年2月に見つかっています。関電は、伝熱管の減肉や損傷は、混入した異物が、配管を削ったためとしました。
 
(2)大飯3号機では、去る9月7日、原子炉と蒸気発生器をつなぐ1次系配管の分岐部近傍に深さ約4.3 mm、長さ約6.7 cmの亀裂があることが判明しました。
 
 なお、関電の原発のような加圧水型原発では、圧力容器で約160気圧、約320℃の熱湯となった1次冷却水を蒸気発生器中の外径約2.2 cm、肉厚約 1.3 mmの細管(伝熱管)中に流し、伝熱管外の2次冷却水を沸騰させて、約60気圧、280℃の水蒸気にします。この水蒸気が、発電機に連結されたタービンを回します。1基の原発には3、4器の蒸気発生器が設置され、1器の蒸気発生器には約3400 本の伝熱管があります。
 
 このように高圧・高温の1次冷却水が流れる蒸気発生器ですから、蒸気発生器配管の損傷は、上述のトラブルの中でもとくに深刻です。1次系配管が完全に破断すれば、原子炉水が噴出し、原子炉が空焚きになる可能性があるからです。実際、1991年に美浜原発2号機で伝熱管破断が起き、緊急炉心冷却装置が作動しています。
 
 損傷した伝熱管は多数に上ります。例えば、高浜原発3号機では、1昨年9月段階で約1万本の伝熱管中の364本が減肉、腐食、応力腐食割れによって使用不能になり、栓がされています。
 
 伝熱管の損傷は、取り替えたばかりの蒸気発生器でも発生しています。米国のサン・オノフレ原発2、3号機では、2010年、2011年に蒸気発生器を新品に取り替えましたが、翌年、両機ともに3000本以上の伝熱管に摩耗が発見され、2013年6月に廃炉となりました。
 
 このように損傷が進む蒸気発生器ですが、高浜1、2号機、美浜3号機の蒸気発生器は、更新後、約25年も経過しています。それでも、規制委はこれらの原発の運転を認可しているのです。腐食、減肉、損傷が頻発する蒸気発生器を持ち、運転開始後40年をはるかに超えた老朽原発・高浜1、2号機、美浜3号機の運転などもってのほかです。

 【2】原発再稼働準備工事での相次ぐ人身事故
 
(1)昨年9月、老朽原発・高浜1、2号機の特定重大事故等対処施設建設用のトンネル内で溶接作業中の9人が一酸化炭素中毒で救急搬送されました。トンネルには外気を取り込む送気ダクトが設置されていませんでした。今年3月、高浜原発1、2号機の敷地内にある掘削中のトンネルで、協力会社社員が後退してきたトラックにはねられて亡くなられました。社員は耳栓をし、トラックに背を向けていたそうです。4月には、高浜原発1号機の安全対策工事を行っていた協力会社社員が、脚立から転落し、骨盤を折る重傷を負われました。
 
 これらの人身事故は、老朽原発再稼働準備作業中に起こりました。老朽原発を無理矢理動かそうとして、安全な労働環境づくりを怠ったために起こった事故です。

(2)美浜3号機では、昨年9月、安全対策工事用の足場が崩れ、2人が重軽傷を負われました。本年8月には安全対策工事中の協力会社社員が足場から転落して重傷を負われました。安全帯を着けていませんでした。同様な事故は、大飯原発3号機でも起きています。

 【3】老朽原発運転を企む関電幹部の不祥事

 昨年9月、関電が支払った原発関連工事費が、多額の金品として関電幹部に還流されたことが発覚し、今年3月には、電気料金値上げ時にカットした役員報酬や役員が追加納税した税金を、退任後、関電が補填していたことが公表されました。しかも、これらの不祥事に関与した関電幹部のほとんどは、原発の推進に奔走した人たちです。原発が、汚れた原発マネーによって推進されたことを示しています。
 
 関電は、この不祥事の後、役員人事を刷新し、旧経営陣を告発していますが、真に信頼回復に努めるのであれば、不祥事の原因となった原発の稼働や再稼働準備を中止して、原発稼働の是非を再考すべきです。

 【4】行き場のない使用済み核燃料

 関電は、使用済み核燃料の中間貯蔵候補地を2018年内に決定すると明言していましたが、この約束を反故にしたまま今に至っています。それでも、使用済み核燃料を増やし続ける原発の運転を継続し、老朽原発の運転まで進めようとしています。人々の安全や安心を顧みない身勝手極まりない関電の姿勢の現れです。許されるものではありません。
 
 上記【1】~【4】のトラブル、事故、不祥事、約束違反は、原発の安全にとって看過できないものであり、関電が原発を安全に運転できる資質、能力、体制を持ち合わせていない証左です。老朽原発の運転などもっての他です。 今、世界全体の再生可能エネルギーによる発電量は原発を上回っています。危険極まりない原発を動かそうとする姿勢は、時代遅れで、電力会社の私利私欲でしかありません。

 ところで、この京都市役所は、高浜原発から約60km、美浜原発から約80kmの地点にあります。このことと、福島原発事故では、約50 km 離れた飯舘村が全村避難になり、約200 km離れた関東にも高濃度の放射性物質が降下したことを考えあわせますと、もし、高浜や美浜の原発で重大事故が起これば、約150万人が住む京都市も全域が避難対象地域になる可能性があります。
 
 一方、高浜原発、美浜原発から琵琶湖までは、最短距離で各々約50 km、約30 kmです。琵琶湖が放射性物質で汚染されれば、京都市民を含む1450万人が飲用水を始めとする生活水を失います。このように、京都市は全域が、若狭地域同様に、原発事故被害地になる可能性がありますが、京都市では全域の避難訓練をしたことがありません。

 以上の視点に立って、「老朽原発うごかすな!実行委員会」は、京都市長に、以下を申し入れます。

【1】関電と政府に、危険極まりない老朽原発・高浜1、2号機、美浜3号機の再稼働準備の即時中止とこれらの原発の廃炉を求めてください。
【2】原発を動かせば、行き場がなく、子々孫々にまで負の遺産となる使用済み核燃料が増加します。関電と政府に、全ての原発の停止と、安全な廃炉を求めてください。
【3】関電に、使用済み核燃料の安全な保管地と安全な処理・保管法を早急に提示するよう求めてください。
【4】原発が稼働する限り、京都市全域が重大事故の被害地になりかねません。京都市としてそうした重大事故への対応策を示し、市内全域で市民の避難訓練を実施してください。

2020年11月18日 老朽原発うごかすな!実行委員会
(連絡先;木原:090-1965-7102)


 なお、同様の趣旨の申入書を、
京都市会議員の皆さま、京都府知事、京都府会議員の皆さまにも提出しました。