◆原発はなぜ人類の手におえないのか

【2017年10月9日,京都キンカンで配付。】

原発再稼働を阻止し、原発を全廃するためにもう一度考える

◆関電や政府は、大飯原発3、4号機の3、5月再稼働を企み、老朽高浜原発1、2号機、美浜3号機の再稼働も画策しています。一方、原子力規制委員会は、福島原発事故の収束も見通せないにもかかわらず、東電柏崎・刈羽原発の「新規制基準」適合を発表しました(12月27日)。「新規制基準」は、福島原発事故から2年半もたたない2013年7月に施行されたものです。事故炉の内部の詳細は今でも分かっていないにもかかわらず、福島事故に学んで作成したとしているように、科学的根拠の極めて薄いものです。前規制委員長も繰り返し述べたように、安全を保障するものではありません。

◆原発を現代科学技術で制御し難いことは、福島事故の悲惨さと事故処理の困難さが教えるところです。また、事故後の経験は、原発はなくても、何の支障もないことを明らかにしています。それでも、政府や電力会社は、原発再稼働の動きを活発化させようとしています。

◆ここで、原発が人類と共存できない理由を再確認し、再稼働阻止、原発全廃の断固とした運動を構築するための一助にしたいと考えます。

【1】核反応エネルギーは化学反応エネルギーの数百万倍

◆私たち人類を取り巻く環境は、化学結合で成り立っています。化学結合の切断、生成(これを化学反応という)で得られるエネルギー(すなわち化学反応エネルギー)は、エレクトロンボルト(eV)と呼ばれる単位で評価されます。このeVの世界で得られる温度は、精々数1000℃です。生体内での化学結合はさらに弱く、生体内化学反応の多くは0.1 eV 以下のエネルギーのやり取りで進行します。すなわち、100℃までの世界で、100℃を越えて生きる生物は稀です。

◆一方、原発内などで生じる核反応では、ミリオンエレクトロンボルト(MeV:M=100万)のエネルギーが得られます。このMeVの世界では、理論的には、数億度℃以上の温度が得られます。換言すれば、核反応1反応によって100万に近い化学反応が生じる(結合が切断される)ことになり、核反応によって化学反応が爆発的に起こることになります。このことは、核反応を化学反応によって制御することができないことを示します。なお、体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線による内部被曝では、1核反応によって1000万に近い体内の化学結合が切断されます(実際には、核反応エネギーの一部しか結合切断に使われないので、もっと少ない)。

◆以上のように、化学反応エネルギーの数百万倍もの大きさの核反応エネルギーを、化学結合でできた材料によって閉じ込めて置くことは極めて困難です。したがって、原子炉は大量な水で冷やし続けなければならず、水がなくなると、あっという間に大惨事になります。原発の重大事故時には、膨大なエネルギーに起因する熱(核反応熱;核分裂で出る熱、崩壊熱;放射線を出して別の物質に変わるときに出る熱)によって核燃料や被覆材などの原子炉材料が溶融し、水素ガスの発生・ 爆発あるいは水蒸気爆発(高温での水の爆発的蒸発)を引き起こし、メルトダウン、メルトスルーにつながります。化学反応エネルギーでは、このような事態にはなりません。

【2】原発は事故を起こし易く、被害は広域・長期に及び、事故収束は困難

・大惨事は瞬時に進行する

◆前述のように、核反応エネルギーは膨大ですから、原発で冷却水が途絶えると、瞬時に(火災などとは比較にならない速度で)材料の熱融解、水素ガスの発生・爆発あるいは水蒸気爆発を引き起こします。

◆そのように瞬時に進行する事故への対応は至難で、進み始めた事故を止めることは極めて困難です。いわゆる「人為ミス」は避けえません。例えば、海水の原子炉への大量注入は何千億円もする原子炉を使用不能にしますが、重大事故に際して、海水を大量注入してメルトダウンを防ぐ判断を、会社の上層部や政府に仰いでいる暇はありません。事態を把握し、議論している間に、原子炉が深刻で取り返しのつかない状況になります。なお、今までの全ての重大事故では、事故を深刻でないとする判断(願望も含めて)を行い(例えば、計器の指示ミスと判断)、事態をより深刻にしています。

・事故炉は容易に再臨界に達する

◆原発重大事故でメルトダウンした核燃料(デブリ:debris:破片、堆積物の意)は、分散していれば、核分裂反応を起こしませんが、冷却水が途絶えると、崩壊熱で燃料が溶融・集合し、核分裂連鎖反応を開始します(再臨界に達する)。したがって、デブリは、取り出しまで長期間冷却し続けなければなりません。

・原発重大事故は、原爆とは比較にならない量の放射性物質を放出する

◆原爆は、瞬時の核分裂によって放射性物質(死の灰)を放出します。一方、原子炉内には、数年にもおよぶ長期の核分裂反応によって生成した放射性物質が蓄積していて、原発重大事故では、それが放出されます。例えば、100 万kWの原子炉を1年間運転したときの生成放射性物質量は約 1 t(トン)で、広島原爆がばらまいた放射性物質量750 gの約1,300倍です。原発事故で放出された放射性物質を完全回収できるほど現在科学は進歩していないことは、福島事故の経験が教えるところです。結局は、海洋や大気へ垂れ流され、地球全体を汚染させます。

・原発の重大事故の被害は広域におよぶ
(火災が10 km 先に飛火することは無い)

◆原発重大事故によって放出された放射性物質は、事故炉近辺を汚染させるだけでなく、風によって運ばれた後、雨によって降下しますから、汚染地域は極めて広範囲に広がります。福島事故でも、約50 km 離れた飯舘村も全村避難になり、約200 km 離れた東京や千葉にも高濃度の放射性物質が降下しました。チェルノブイリ事故では、日本でも放射性物質が検出されました。海に流出した放射性物質は海流に乗って広範囲の海域を汚染します。福島の放射性物質はアメリカ西海岸にも到達します。避難計画や原発稼働への同意などでは、30 km圏(UPZ)内が対象とされますが、被害は30 kmをはるかに超えて広域におよびます。

◆若狭の原発の重大事故では、関西はもとより、中部、関東も高濃度の放射性物質で汚染される可能性があります。京都駅、大津駅は高浜原発、大飯原発から60数km、大阪駅は80数kmの位置にあります。250万人が住む京都府、150万人が住む滋賀県などのほぼ全域が100 km 圏内にあり、この全域が避難対象になっても、避難は不可能であることは自明です。琵琶湖の汚染は、1,450万人の飲用水を奪います。原発からの汚染水は日本海にたれ流されますが、日本海は太平洋に比べて比較にならないほど狭い閉鎖海域ですから、高濃度に汚染されます。美しい海岸線を持ち、漁獲豊かな若狭湾の汚染はさらに深刻です。

・放射性物質による被害は長期におよぶ

◆火事は長くても数十日で消火できますが、放射性物質は、半減期に従って消滅する[放射線を出して他の物質(核種)に変わる]まで、放射線とそれによる熱を発生し続けます。代表的な放射性物質の半減期は、プルトニウム239で2万4千年、ネプツニウム237で214万年、セシウム137で30.7年、ストロンチウム90で28.8年、ヨウ素131で 8.02 日です。

◆放射性物質は、1半減期で1/2に、半減期の10倍で約1/1000、13.3倍で約1/10000、20倍で約1/100万に減少します。例えば、プルトニウム239を1/10000に減少させるには約32万年かかります。それでも、安全なレベルになるとは限りません。

◆なお、半減期の短い物質は早く崩壊しますから、物質の量が同じであれば、時間当たりにすれば、多くの放射線を出します。

・原発事故の収束には、途方もない時間を要する

◆放射性物質は長期にわたって放射線を出し続けますから、高放射線のために事故炉の廃炉は困難を極めます。また、放射線による熱発生のため、冷却水が途絶えると、核燃料が再溶融し、再び核分裂を始める可能性もあり、長期間冷却水を供給し続けなければなりません。福島原発では、事故から7年近く経っても、溶け落ちた燃料の位置も一部しか分かっていません。完全廃炉には、50年以上を要するとの見解もあります。

◆放射性物質による被害は長期におよびますから、原発事故では長期の避難を強いられ、住民は故郷を奪われ、家族のきずなを断たれ、発癌の不安にさいなまれます。通常の災害では、5年も経てば、復興の目途はある程度立ちますが、原発事故は、生活再建の希望も奪い去ります。福島事故では、4年経った2015年から、絶望のために自ら命を絶たれる避難者が急増していると報道されています。

【3】原発は、長期保管を要する使用済核燃料、放射性廃棄物を残す

◆原発を運転すると、核燃料の中に運転に不都合な各種の核分裂生成物が生成します(中性子を吸収する中性子毒核種など)。したがって、核燃料を永久に使用することは出来ず、一定期間燃焼させると、核分裂性のウランやプルトニウムは十分残っていても、新燃料と交換せざるを得なくなり、そのため、使用済み核燃料がたまります。現在、日本には使用済み核燃料が17,000トン以上たまり、原発の燃料プールや再処理工場の保管場所を合計した貯蔵容量の73%が埋まっています。原発が順次再稼働した場合、数年後には満杯になります。なお、混合酸化物(MOX)燃料が使用済み燃料となったとき、放射線と発熱量の減衰速度は、ウラン燃料の4倍程度遅く、そのため、4倍以上長く水冷保管しなければなりません。

◆国の計画では、全国の使用済み核燃料は、使用済み核燃料プールで冷却した後、六ケ所村の再処理工場に輸送して、再処理して、ウラン、プルトニウムを取り出し、再利用することになっていました。しかし、再処理工場の建設はトラブル続きで、すでに2兆2千億円をつぎ込んだにもかかわらず、完成の目途(めど)は立っていません。1,300 kmもの配管を持ち、危険極まりないこの工場の運転は不可能と言われています。もし、再処理できたとしても、膨大な放射性物質を含み、長期保管を要する高レベル放射性廃液が多量に生まれます。これを、ガラス物質と混合して、ガラス固化体として、地下に保管する研究も進められていますが、何千年以上も安定で、放射性物質が溶出しないガラス固化体はありません。

◆使用済み核燃料を、使用済み核燃料プールで、一定期間(5年程度)冷却した後、再処理せずに、そのまま空冷保管する方が、再処理するよりは安全と考えられますが、それでも、何万年以上の安全保管は至難です。

◆福井県にある原発13基が持つ使用済み核燃料貯蔵施設の容量は5,290トンで、その7割近くがすでに埋まっています。高浜、大飯、美浜の原発が再稼働されれば、7年程度で貯蔵限度を超え、原発の稼働は出来なくなります。

◆なお、使用済み核燃料貯蔵プールは脆弱(ぜいじゃく)で、冷却水を喪失し、メルトダウンする危険性が高いことは、福島第1原発4号機の燃料プールから冷却水が漏れ、核燃料溶融の危機にあった事実からでも明らかです。

◆一方、日本には、低レベルおよび高レベル放射性廃棄物が200リットルドラム缶にしてそれぞれ約120万本および約1万本蓄積されていますが、その処分は極めて困難で、永久貯蔵はおろか中間貯蔵を引き受ける所もありません。

◆数万年を超える保管を要する使用済み核燃料、放射性廃棄物の蓄積の面からも、原発は全廃しなければなりません。放射性物質を消滅させるに有効な方法はありません。

【4】原子燃料は無尽蔵で、燃料枯渇が原発廃止の理由にならないから厄介

◆地球表面の土壌中のウランの平均濃度は1 ppm (ppm;100万分の1) と言われています。土壌 1 t に 1 gのウランが存在します。富鉱では、0.3~0.7% すなわち岩石1 t に 3~7 kgのウランが存在します。したがって、原子燃料は多量に存在すると言えます。ただし、ウラン[238U(約99.3%)、 235U(約0.7%)]を核燃料として使用するには、膨大な費用を要する235Uの濃縮が必要です。

◆一方、原子炉を運転すれば、核燃料であるプルトニウム生成します。このプルトニウムの化学的性質は、他の元素とかなり異なりますので、プルトニウムを取り出すことは、ウラン濃縮よりは簡単で、安上がりです。

◆もちろん、高放射線下でのプルトニウム取り出し作業(再処理)が困難なことは、前述のとおりですが、もし、再処理が可能が可能になれば、原理的には、核燃料を無尽蔵に取出せることになります。したがって、政府、財界、電力は、ウラン燃料炉よりさらに運転が難しく厄介であるにもかかわらず、プルサーマル炉を求めているのです。また、そのために、プルトニウムを作り、取り出す高速増殖炉と再処理工場が必要と考えているのです。[化学、化学工学は、高速増殖炉、再処理工場を操業できるほど発達していない!]

◆エネルギーは麻薬のようなものですから、それを欲する限り、麻薬の製造装置である原発から脱却できないだけでなく、上限なしに原発を増設することになりますから、厄介です。この意味で、原発製造企業=麻薬生産者、電力会社=麻薬の売人、原発賛成の人=麻薬患者といえます。

福島原発事故以降の経験は、
原発はなくても電気は足りることを実証しました。
人類の手におえない原発を動かす必要はありません。


2月25日(日)~26日(月)
大飯原発うごかすな!若狭湾岸一斉チラシ配布
(拡大アメーバデモ)

関電原子力事業本部へのデモと申し入れ、原子力規制事務所への申し入れ

ご参加、ご支援、カンパをお願いします。

・主催:大飯原発うごかすな!実行委員会
・呼びかけ:オール福井反原発連絡会、若狭の原発を考える会、ふるさと守る高浜・おおいの会
・連絡先:木原(090-1965-7102:若狭の原発を考える会)、宮下(090-2741—7128:原子力発電に反対する福井県民会議)


2018年1月12日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)