◆原告第2準備書面
 第1 地震・津波の基礎

原告第2準備書面 -大飯原発における地震・津波の危険性- 目次

第1 地震・津波の基礎

1 地震

 (1) 地震とその特徴

 地震とは、地下の震源断層面でずれが発生する*1ことによって震源断層面上に破壊が生ずることであり、その結果地震波が地中を伝わることによって発生する地表面の揺れを「地震動」と呼ぶ。すなわち、岩盤に応力(ストレス)が加わることによって当該岩盤内の一定範囲がひずみ、ストレスが岩盤の強度の限界まで達すると、そのひずみ(ストレイン)が解放され、岩盤が破壊されて破壊面に沿って動き、地震が発生して、地表面では地震動が生ずるのである。
 このような破壊は岩盤の中のある点から始まり*2、破壊面が一定の方向(基本的には応力の働く方向と45度傾いた方向)へ急激に成長・拡大するような形で発生する。地震波は震源断層面の全体から発生して全方位に伝搬するため、震源断層面の大きな地震ほど放射される地震波が強くなり、地震動も大きくなる。よって、震源断層面がどの程度の大きさであるかは、地震動の強さを判断するうえで極めて重要な要素である。

 *1 これを「震源断層運動」という。
 *2 このように岩盤内で破壊の始まる点が「震源」と呼ばれる。

 (2) 地震を発生させる力

 ア リソスフェアとアセノスフェア

 上記のとおり、地震は岩盤に力が加わることによって発生するものであるが、その力の源は、いわゆるプレートテクトニクスによって説明される。
 我々は地球の固体部分の表面で生活しており、地球をゆで卵で例えれば、それはちょうど卵の殻に相当する部分になる。その「殻」は「リソスフェア(lithosphere)」と呼ばれ、比較的硬く、厚さは70~150キロメートル程度(一番上部には地殻と呼ばれる部分がある)であり、大小数十枚に別れた状態で地球表面を覆っている。その1枚1枚を「プレート」と呼び、日本付近には、ユーラシアプレート、北アメリカプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートと、合計4つのプレートが集中し、接していると考えられている。
 リソスフェアの下の深度100~300キロメートルの間には、「アセノスフェア(asthenosphere)」と呼ばれる、物質が部分溶融し、比較的流動性を有している部分が存在している*3。マグマは、ここで発生する。

 イ プレートの移動によるプレートの境界での地震の発生

 アセノスフェアから熱い岩が上昇して冷え固まることでプレートが生産され、それが継続することによってプレートが更新され、移動していく*4。他にも、プレートが出会って押し合う境界部分や、一方のプレートの下に他方のプレートが沈み込み、アセノスフェアまで潜り込んでいる境界部分もある*5
 海洋底を移動してきたプレートが潜り込む部分では、陸側のプレートの端を引きずり込んで沈降させようとする力が働くため、場所によっては陸側プレートの端が大きく引きずり込まれている。それが割れて跳ね上がると巨大地震となり、また、海底でプレートが跳ね上がるため、大津波が発生することもある。このようにプレートが潜り込む部分で発生するのが、「プレート境界型地震」である。

 ウ プレート移動の圧力による内陸での地震の発生

 また、プレートが出会う境界には、生産されるプレートに押し出されることで圧力がかかり、岩盤が圧縮される結果、陸側プレート内にひずみがたまっていく。このひずみによって発生する地震を、「内陸型地震」と呼ぶことにする。

 *3 リソスフェアのさらに下部には、「メソスフェア(Mesosphere)」と呼ばれる流動性のほとんどない部分が存在している。
 *4 このように、プレートが対流するマントルに乗って移動していくと説明するのが、プレートテクトニクス(プレート理論)であある。
 *5 プレートが海の中で潜り込むとき、そこには「海溝」(大洋底の水深6000メートル以上の細長い谷地形)や「トラフ」(海溝よりも浅い谷状の部分)と呼ばれる、細長く深い海底の谷ができる。南海トラフ地震にいう「トラフ」も、このことである。

 (3) 地震の種類

 このような地震は、その発生するプロセスの違いからいくつかの種類に類型化することができる。

 ア プレート境界型地震

 上記で述べたように、プレート同士のひずみによってそれらの境界で発生する地震であり、2011年の東北地方太平洋沖地震が典型である。

 イ プレート内地震(内陸型地震)

 プレート境界から離れた箇所で震源断層面がずれることによって発生する地震であり、1995年の兵庫県南部地震が典型である。
 この場合、震源は深さ10~20キロメートル地点にできることが多く、概ねマグニチュード7前後の大地震において、震源断層面が地表に到達し、地表地震断層として現れる場合がある。現代の地質・地形学の分野では、陸上や海底に存在する断層のうち、「極めて近き時代迄地殻運動を繰返した断層であり、今後も尚活動す可き可能性の大なる断層」(多田文夫「活断層の二種類」:1927年)を「活断層」という*6。その部分は既に一度破壊された面であるため、岩盤にストレスがかかり続けてその面の持つ固着力を超えた場合*7、再び震源断層面がずれ、再度大地震を発生させることになる。その意味で、活断層は過去に震源断層運動を繰り返してきた証であって、将来もそこで大地震が起こる可能性は極めて高い。
 ただし、逆に言えば地表に姿を現す活断層はごく一部であり、震源断層面が全て活断層として特定されているわけではなく、未知の震源断層面も無数に存在する。しかも、震源断層面のない場所であっても新たにそれが発生するおそれのあることは震源断層面の生ずるプロセスを見れば自明である。よって、既知の活断層が存在しない場所でも、あるいは震源断層面すら存在しない場所であっても、地震は発生しうるのであり、こうした点を踏まえれば、「活断層が地震を起こす」という表現は正確ではない。
 なお、発生する地震のマグニチュードは活断層の長さと相関関係があり、活断層の長さが20キロメートルであればマグニチュードは7. 0程度、40キロメートルであれば7.5程度、80キロメートルであれば8.0程度の規模の地震となる。よって、想定した活断層の長さと実際に動いた活断層の長さとが一致していない場合、想定した地震規模よりも大きな規模の地震が発生することになるのである。

 *6 もっとも、ここでいう「最も近き時代」とは地質学的な意味であり、一般的に新生代第四紀(現在の定義では258万年前から現在まで)以降を指す。これに対して平成24年10月23日、原子力規制委員会は、原発の耐震設計上考慮すべき活断層の定義を「過去40万年間に活動したもの」と改めているが、一見して明らかであるように、なお地震学における通説的理解からは大きく外れている。
 *7 岩盤のずれは断層面全体にわたって一様に生ずるのではなく、大きくずれるところとほとんどずれないところとがある。震源断層面にあり、通常は強く固着していて歪みを蓄積し、あるとき急激に大きくずれて地震波を出す領域を「アスペリティ」と呼ぶ。このため、アスペリティのサイズが大きくなれば、放射される地震波も多くなり、巨大な地震となる。

 (4) 地震の大きさを表す単位

 ア マグニチュード

  (ア) マグニチュード(M)

 地震の規模を表す指標として一般に用いられるマグニチュード(M)は、通常、考案者の名を冠して「リヒター・スケール」と呼ばれるものであり、地震計の最大振幅A(μm)を震央からの距離100キロメートルのところの値に換算したものの対数を用いて決定される。よって、地震波の振幅が10倍大きくなるごとに、マグニチュードが1ずつ上がることとなる。

  (イ) モーメントマグニチュード(Mw)

 「リヒター・スケール」によるマグニチュードの欠点は、概ねM7~8程度を超える規模の地震についてMの値が頭打ちとなってしまい、正確に算出できないという点にある。この点を改善するために用いられるようになったのが、地震モーメント*8の対数を用いて決定される「モーメントマグニチュード(Mw)」である*9

  (ウ) 気象庁マグニチュード(Mj)

 その他、日本の気象庁が独自に用いている値として、気象庁マグニチュード(Mj)がある。
 これは速報性に優れるが、基本的には「リヒター・スケール」によるマグニチュードと同様の算出方法であるため、やはりマグニチュードが頭打ちとなって巨大地震に対応しにくいという欠点がある。実際、東北地方太平洋沖地震の際は、発生当日に発表された気象庁マグニチュードは速報値で7.9、暫定値で8.4であったが、後日発表されたモーメントマグニチュードは9.0であった。

 イ 震度

 地震の規模を表すマグニチュードに対し、ある地点での地震による揺れの大きさを示す指標が、震度である。
 原則として震源からの距離が遠いほど震度は小さくなるが、地表付近の地盤の固さや地下の構造の違いによって揺れが増幅したり減衰したりするため、観測地点によって震度に差が生ずることもある。また、原則としてマグニチュードが大きな地震ほど震度も大きいという比例関係にあるが、地盤の固さや震源の深さなどにより最大震度は比例関係から外れる場合もある。
 日本では気象庁震度階級が用いられており、震度0から7までに分かれている(震度5及び6は、それぞれ「強」と「弱」にさらに分かれる)。

 ウ ガル(gal)

 ある地点での地震による揺れの大きさを表す指標として震度があるが、厳密さ・詳細さには欠けているため、より厳密な指標として、地震動の加速度を表すガル*10が用いられる。
 これは一秒間にどれだけ速度が変化したかを表す加速度の単位であり、加速度すなわち速度が変化したということは、当該物体に対して力が作用したことを意味するから、ガルは人間や建物にかかる加速度の大きさを表す指標でもある*11。同じ地震でも観測地点の位置や対象物によって異なる値となることは、震度と同様である。ガルは大きいほど揺れが激しいことを示すが、震度や被害は建物の構造や地震動の継続時間などによっても大きく影響を受けるため、ガルの大きさとこれらとは直接結び付くわけではない。
 地球上の物体には常時重力による力が働いているため、地上で物体が自由落下するとき、当該物体には重力による加速度が発生し、その値は約980ガルである*12。よって、地震によって生じた加速度が重力加速度980ガルを超える場合、その物体は瞬間的に無重力状態となり、さらにガルが大きくなれば、重力とは反対方向(すなわち直上)に向かって飛び上がることとなる。
 地震による揺れの尺度の一つであるガルに着目して地震動の強さを見た場合、岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日)の際に観測されたとされる4022ガルが地震による世界最大の加速度であるといわれるが、一般財団法人国土技術研究センターの公開する別図1によれば、2004年の新潟県中越地震では1678ガルが、2007年の中越沖地震では柏崎刈羽原発で1699ガルが、東北地方太平洋沖地震では最大で2765ガル(宮城県栗原市築館)、その他にも1807ガル(宮城県仙台市)や1284ガル(宮城県大崎市古川大宮)が観測されたとのことである。その他、1993年の北海道南西沖地震でも1576ガルが観測されたとされている。
 さらに、1984年の長野県西部地震では、1キロ×3キロという限られた範囲ではあるものの、埋まっていた石が飛んで移動していたことを京大防災研の研究者らが報告している。埋まった石が飛ぶためには、当該研究者らの計算・実験結果によれば、15000ガル以上の加速度が働くことが必要とのことであり、観測・測定等はされていないものの、これまでの各大地震で数1000~10000を超えるような加速度が発生していた可能性は十分に存在する。

 *8 地震モーメント(Mo)とは、断層運動の力のモーメント(エネルギー)の大きさを表す値であり、つまり地震によるずれの総量を示す値である。
  断層面の剛性率をμ(Pa)、震源断層面積の合計をA(m×m)、断層全体での変位(すべり)量の平均値をD(m)としたとき、地震モーメントMo(ニュートンメートル〔N・m〕)は、Mo=μADによって表される。よって、震源断層面積の大きさや断層全体での変異の量は地震モーメントを決定する要素であり、モーメントマグニチュードを決定する要素でもある。
  なお、東北地方太平洋沖地震の地震モーメントは、4.0×10の22乗ニュートンメートル程度であるとされている。
 *9 地震モーメント(Mo)とモーメントマグニチュード(Mw)との関係は、Mw=(logMo-9.1)/1.5のように表される。
 *10 ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)にちなんだもの。速度が毎秒1センチずつ速くなる加速状態を1ガルと定義される(1gal=1cm/sec×sec)。
 *11 「物体に力が働くとき、物体には力の同じ向きの加速度が生じる。その加速度aの大きさは、働いている力の大きさFに比例し、物体の質量mに反比例する(すなわち、a=F/m)」というのがニュートンの運動第二法則である。このように加速度と力は比例する関係にあることから、加速度が大きいほど物体にかかる力は大きくなる。
 *12 これを「1G(ジー)」と呼び、例えば月の重力は約1/6Gである。

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2 内陸型地震

 上記で述べた内陸型地震について、やや敷衍して述べる。

 (1) 大地震は活断層が特定されていない場所でも発生すること

  ア 活断層の特定されてこなかった場所で繰り返し大地震が発生してきたこと

 活断層として特定されている断層は震源断層面のごく一部であることなどの理由により、大地震は活断層の特定されている場所でのみ発生するわけではなく、特定されていない場所であっても大地震の危険性は優に存在する。実際にこれまでにも、活断層が確認されていなかった場所で、以下のとおりM7を超える大地震が数多く発生している。

  •  陸羽地震(1896年8月31日):M7.2
  •  宮城県北部地震(1900年5月12日):M7.0
  •  秋田仙北地震(1914年3月15日):M7.1
  •  北丹後地震(1927年3月7日):M7.3
  •  鳥取地震(1943年9月10日):M7.2
  •  福井地震(1948年6月28日):M7.1
  •  北美濃地震(1961年8月19日):M7.0
  •  兵庫県南部地震(1995年1月17日):M7.3
  •  鳥取県西部地震(2000年10月6日):M7.3

  イ 活断層が確認できない場所で大地震が生じる原因

 活断層が確認できない場所で大地震が生じる原因としては、以下の点も指摘されている。

   (ア) 浅い大地震でも地表に地震断層が残らない場合があること

 浅い大地震が起こっても、震源断層面の上端がその後の地表面の堆積により地下に埋まってしまい、地表に地震断層が見られない場合がある。そのような事象が続くと、地表のズレの累積が生じないため活断層が見つからないこともある。

   (イ) 地表地震断層が浸食されて消滅する場合があること

 もう一つの場合として、あるときに大地震が起こり、地表地震断層が出現したが、次の大地震が起こるまでに非常に長い時間が経過したことにより、雨風や洪水で浸食され地表のズレが消えてしまうというケースがある。
 多雨で湿潤な日本列島では、至るところで上記のような現象が起こりうる。変形の蓄積速度が小さく大地震の発生間隔が長い場所では、上記の現象が繰り返され、地表のズレが累積することがないため、活断層と認識されないこともある。

   (ウ) 地震学会における通説

 地震学会でも、日本においては、いつ、いかなる場所でM7を超える大地震が起きてもおかしくないということは通説とされている。
 例えば福島第一原発事故について国会が設置した原発事故調査委員会の委員を務める神戸大学名誉教授の石橋克彦氏は、耐震設計審査指針の「震源を特定せずに想定する地震動」に関して、M7クラスの内陸地震はどこでも起こりうると考えるべきであるとの意見を述べているところである。また、2002年6月12日に開かれた中央防災会議「東南海、南海地震等に関する専門調査会」においても、「地表に現れた地震断層は活断層に区分されるものもあるが、M7.3以下の地震は、必ずしも既知の活断層で発生した地震であるとは限らないことがわかる。したがって、内陸部で発生する被害地震のうち、M7.3以下の地震は、活断層が地表に見られていない潜在的な断層によるものも少なくないことから、どこでもこのような規模の被害地震が発生する可能性があると考えられる。」としている。なお、同会議において、M7.4以上の地震についても、必ず地表に現れている活断層で発生するとは言い難いとの指摘もある。

  ウ 小括

 以上のとおり、日本では活断層が確認されていない場所で大地震が発生した事例が多数存在し、いつ、いかなる場所で大地震が起きてもおかしくないという理解が地震学会の通説である。
 原子力発電所の事故が万が一にも生じないようにするためには、このような地震*13も当然想定し、対処しなければならない。もちろん大飯原発においても、少なくとも過去の最大規模の地震を想定し、これに耐えられるよう設計されるべきは当然のこととなるのである。

 *13 このような地震を、「震源を特定せず策定する地震動」と呼称し、原子力発電所の耐震設計においても適切に評価することが求められている。

 (2) 特定された活断層で再び大地震が発生するには一定の周期があること

  ア 広範囲で歪みが1×10のマイナス4乗に達した場合には大地震が発生する可能性が高いこと

 上記のとおり、内陸型地震とは、プレート境界から離れた箇所で震源断層面がずれることによって発生する地震をいい、岩盤にストレスがかかり続けて震源断層面の持つ固着力を超えることによって再度大地震が発生することになるが、どの程度のストレスが岩盤にかかれば固着力を超え、破壊が発生するかという点については目安が存在する。すなわち、地盤に力が加わり続け、同地盤に生じた歪みが遅くとも1×10のマイナス4乗に達した場合(1メートルの長さのものであれば、0.1ミリ縮んだ状態)、破壊が発生して地震となると言われているのである*14
 そのため、一度地震が発生してこの歪みが解消されても、一定期間の経過によって再び同程度の歪みが蓄積すれば、再度地震が発生することになる。これが地震の周期性であり、地震予知の1つの根拠ともなっている。

  イ 近畿地方で想定される大地震の周期

 国土地理院の述べるとおり近畿地方では東西方向に縮み(歪み)が発生しており、その進行は約1×10のマイナス7乗/年である(すなわち、1年で100キロメートルの距離が1センチずつ縮んでいることとなる)。そうすると、単純計算で、100年が経過すれば歪みが1×10のマイナス5乗に、1000年が経過すれば歪みが1×10のマイナス4乗になるため、近畿地方では遅くとも1000年周期で大規模な地震が発生することになるのである。
 この例として、国土地理院がホームページで公開している基線変化グラフのうち、福知山-彦根間(約100キロメートル)の基線変化グラフを以下に示す〈基礎変化グラフ 省略〉。同グラフが示すとおり、福知山-彦根間は毎年1センチ弱ずつ縮み続けており、東北地方太平洋沖地震によって多少解消されたものの、現在もなお相当程度の歪みが蓄積していることが分かるのである。近畿地方において1000年余りに1度程度の頻度で大地震が発生することは、数値上も明らかなのである。

 *14 通常の岩石実験の場合、歪みが1×10のマイナス3乗から2乗程度に至った段階(1メートルの長さのものであれば、1ミリないし1センチ縮んだ状態)で破壊が発生することが多い。
 しかし地震の場合、1927年の丹後地震の調査では3×10のマイナス4乗の歪みが発生していたと推測され、その後の調査でも概ね1×10のマイナス5乗から4乗程度の歪みで震源断層面がずれることが確認されている。岩石の場合よりも小さい歪みで震源断層面がずれる理由は、実験に用いられる岩石が均質で割れ目がないのに対して、地殻は物理的性質の異なる様々な岩石の集合体であり、過去に一度ずれた弱い部分も含むからである。

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3 津波

 (1) 津波とその特徴

 津波は、地震や火山活動によって海底地形が急激に変化した場合に、その動きに合わせて海水が大規模に動くことで海洋に生ずる大規模な波の伝搬現象である。海底が急激に隆起した場合、それとともに海面が盛り上がり、盛り上がった海面は重力の作用で元の状態に戻ろうと上下動を繰り返すため、その部分から周辺へと津波が広がっていくこととなる。
 津波には波高が巨大になりやすいという特徴があり*15、通常の波とは異なり海水が巨大な塊となって移動する現象であるため運動エネルギーも巨大となり、しかも海岸に接近して海底が浅くなるにつれて波高が高くなるという性質を有する。津波が陸地に到達すると、まず数分ないし数十分間にわたって波が押し寄せ続け(これを「押し波」という)、その後逆に海洋に戻ろうと海水が引き寄せられ(これを「引き波」という)、かつこれらが繰り返されることによって、建物、物品、動植物、そして人間を押し流し、大きな被害を発生させることになる。

 *15 津波が海岸に近づくと水深が浅くなるため速度は遅くなるが、他方で津波の後方ではまだ水深が深いままであるため速度が落ちておらず、前方の津波に後方から来た津波が乗り上げるような形になり、波高がどんどん高くなるのである。  その高さは水深の4乗根に反比例し、例えば水深4000メートル地点で高さが1メートルでも、水深40メートル地点では高さ3メートル余り、海岸では高さ約5メートルになる計算となる。

 (2) 津波の高さは諸条件によって大きく異なり得ること

 地震の規模と津波の高さとは必ずしも一致せず、しかも津波の高さは海岸付近の地形によって大きく変化し、津波が陸地を駆け上がる(遡上する)こともあるため、どのような地震であっても巨大な津波が発生するおそれは十分にある。
 さらに、リアス式海岸などの岬の先端やV字型の湾の奥などの特殊な地形の場所では、周囲から回り込んだ波が集中して重なり合うため、著しく高い波が発生することが知られている*16。前者は、津波には常に水深の浅い方へと向きを変える性質*17があるところ、岬の先端ではその形に沿って前方に浅い海が広がっていることが通常であり、そのような浅い部分で曲がった津波が岬の先端部分に集中する結果、波が重なり合うことによって著しく高い波が発生するためである。後者も、V字型の奥へと波が集中するため、重なり合いによって波が高くなることは同様である。〈岬の先端に津波が集まるようすの図 省略〉

 *16 大飯原発の立地する若狭湾は典型的なリアス式海岸であり、大飯原発は若狭湾大島半島の先端に位置する。
 *17 速度の遅い方へと曲がる性質を有する波としての基本的性質を津波も有するところ、水深の浅い方が伝搬速度が遅いため、津波は水深の浅い方へと曲がるのである。

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