◆「新規制基準」で原発の安全は確保できるか

【2017年8月24日,京都キンカンで配付。】

「新規制基準」で原発の安全は確保出来るか?

◆関電は、原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と言う“新規制基準”を「安全基準」とし、原発に「絶対的安全性を求めるべきではない」と主張している。さらに、「原発は安全であるから、“新規制基準”に避難計画は不要」としている。「新しい安全神話」を作ろうとするものであり、電力会社や原発産業の利益のために、人の命と尊厳をないがしろにするものである。

◆若狭の原発が、矢継ぎ早に再稼働されようとしている今、「新規制基準」や原子力規制委員会の審査が。如何に非科学的であり、欺瞞であるかをまとめてみた。

1.新基準では「過酷事故も起きうる」ことを前提とした安全対策(?)を導入したという。

◆福島原発事故以前には、過酷事故(巨大な自然災害や重大な人為ミスなどで原子炉が暴走するような深刻な事態)を考えていなかった。また、炉心損傷に至らないとした設計基準を採用していた(単一の機器の故障のみを想定し、一つの機器の故障が、他の機器の故障を誘発し、炉心損傷を招くことは考えていなかった)。「新規制基準」では、それを改めたという。

◆例えば、新基準では、フィルター付きベント(排気)装置の設置を義務付けるとした。炉心損傷では、放射性ヨウ素(気体)を含む圧力容器内気体を緊急排気しなければならないが、排気装置にこの気体を捕集するフィルターがなかった。また、新基準では、移動式の電源車、全電源喪失でも炉を冷やせる注水車の装備を義務付けた。素人でも必要だと考えるこれらの装置がなかったこと自体が問題である。

◆フィルター付きベント(排気)装置、移動式電源車、注水車の装備は、すでに、国際原子力機関(IAEA)が各国に求めており、過酷事故対策は世界の主流になりつつあったが、日本の規制当局は福島事故まで動かなかった。その理由は、日本の原発は完全な安全対策がとられており、過酷事故は起こり得ないことになっていたからである。すなわち、政府や電力会社は、安全神話を振りまいてきたのであるが、その同じ「原子力ムラ」が、福島大惨事の責任も取らずに、福島事故後には「新規制基準」を作り、「今度こそ安全だ」と言っているのである。「新規制基準」は、やっと世界基準に近付いただけで、後述のように、これによって原発の安全性が飛躍的に向上したわけではない。なお、フィルター付きベントの設置を義務付けはしたが、規制委の審査では、その設置を5年間猶予している。

2.「新規制基準」は、満たせることしか要求していない。

(1) 福島原発の事故原因を深く追及していない「新規制基準」。

事故炉内部のミューオン透視は税金の無駄遣いで、溶け落ちた燃料の情報はほとんど得られなかった。次々に投入するロボットは高放射線のために討ち死にし、事故から6年半経った今でも、事故炉内部の詳細は分っていない。それでも、政府は、事故から2年半もたたず、事故原因の議論も全く不十分な2013年7月、事故の教訓や知見を反映するものとして、「新規制基準」を施行した。
事故原因について、東電や政府は、事故直後に発表した「津波による全電源喪失」に固執し、「想定外の地震や津波であったから、事故は止むを得ず、政府や東電に事故を起こした責任はない」と言わんばかりである。事故原因は、冷却水配管の地震による破断など、この他にも種々考えられる。また、この事故は、重大事故に対する対策・装備の不備、非常電源の設置上の問題、不適当な事故対応など、反省すれば、人災と考えられる部分も多い。事故原因が異なれば、対策も当然異なる。「新規制基準」では、そのことがほとんど勘案されていない。
なお、科学とは、実際に起こった事実を冷静に受け入れ、丁寧に調査し、検証・考察して、その上に多くの議論を重ねて、結論を導くものである。「新規制基準」や規制委の審査は、この過程を無視しており、科学とは縁遠い。

(2) 安全に不可欠でも、実現不能なことは要求しない「新規制基準」。

かつて、原発立地について、以下の[a]、[b]を定める立地審査指針があったが、福島事故の被害はこの指針の定める枠を越え、この指針の下での原発稼働は不可能になったため、「新規制基準」では、この指針を廃止した。

[a] 重大な事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。
[b] 重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと 。

海外の新型原子炉では標準装備の設備であるコアキャチャーや航空機落下に備えた二重ドームの設置は不要としている(設置に多額の費用と長時間を要するから)。

原子炉の中で進行する事態の把握法を定める「重要度分類指針」(平成2年決定)を改定していない。すなわち、原発の中で起こっている事態を把握するための原子炉周辺設備・機器の耐震基準が甘いままである。
福島第一原発事故においては、水位計が機能喪失してメルトダウンの判断を困難にした。また、主蒸気逃がし弁が過酷事故時に格納容器内背圧が高くなると働かないことも、事故後に判明している。

「新規制基準」を満たしていない施設でもその充足を猶予している。
例えば、PWRでは、「重要事故対策設備」であるフィルター付きベント装置の設置を5年間猶予している。

3.都合の良いデータのみ採用して適合とする規制委審査

例:炉心溶融時の水素の爆轟(化学反応による爆発のうち、火炎の伝播速度が音速を上回るもの)防止は必須事項である。高浜原発3,4号機の審査書では、格納容器内水素濃度の最大値は約12.3%で、爆轟防止の判断基準=13%以下であるとしている。

◆しかし、高浜3,4号機と出力規模、ループ数、格納容器型式などが同一である川内1、2号機の審査書と同じ基準で評価をすれば、水素濃度の最大値は約14.8%となり、爆轟防止基準を明らかに超えている。高浜原発の審査書では、川内原発のそれより水素発生量の不確かさの度合いを、意図的に小さくして、基準をクリヤーしている。

4.杜撰(ずさん)かつ非科学的な事故対策でも容認する規制委審査

例:関電は、重大事故対策の目玉として、原発重大事故で空気中へ飛散した放射性物質を打ち落とす放水設備を備えたという。また、海への放射性物質流出は、吸着剤と吸着性シルト(沈泥)フェンスで食い止めるという。

◆放水で放射性物質の拡散が防げるのはほんの一部であり、放水された水は結局汚染水になる。吸着剤とシルトフェンスだけで放射性物質を除去できるのなら、福島での放射性物質流出防止に適用すべきである。規制委員会の審査では、こういう子供だましの拡散抑制対策でも可と評価している。

5.杜撰、手抜きかつ虚偽の規制委審査

例1:「新規制基準」への適合評価は事業者(電力会社)任せで、事業者による原子炉施設やその立地条件に関する評価をそのまま受け入れ、規制委員会のチェックや独自調査はほとんどしてない(基準地震動、活断層、火砕流・・・の評価)。

例2:地震による配管破断はほとんど考慮せず、対策を講じないなど、重大事故対策のシナリオ策定は事業者任せである。

例3:原発立地の表層数km以内の活断層の有無が、再稼働の大きな判断基準とされている。しかし、これまでの大地震のほとんどは、探査不能な地中数10 km の震源、いわゆる「未知の深層活断層」に起因している。表層に活断層が無くても、
原発は地震で破壊される可能性がある。規制委は、都合の良いデータだけで審査しているとしか考えられない。

例4:川内原発の審査で、規制委は、火山噴火をモニタリングで予知して、原子炉から核燃料を引き抜いて安全な状態にできるという、九電の申請書を認めている。火山噴火や地震の余裕を持った予知は不可能であることは誰もが認めるところである。また、予知できたとしても、そのときに燃料プールやキャスクに余裕があるとは限らないし、燃料プールも安全ではない(圧力容器より脆弱である)。このように、規制委審査は、不可能を可能と偽って人々を騙す審査である。

例5:想定した原発事故に関する解析のほとんどは、コンピュータによる計算結果に基づいていて、実験的検証は少ない。このコンピュータ解析は、前提条件(プログラム)と入力データの質に強く依存するが、現代科学は実証された完全な条件やデータを持合わせていない(分かっていないこと、予測できないことが多過ぎて、完全なプログラムはできない)。したがって、解析者の原発を動かそうとする恣意(しい)が大きく結果に反映される。

6.適合性審査は、申請書に書かれた方針の審査であり、実行されるか否かは検証していない。

◆適合性審査が実態を伴うためには、設置変更(設計の基本条件を規定:絵に描いた餅)許可だけでなく、具体的・詳細な工事計画 (詳細設計の内容を含む)認可、保安規定(その設備を安全に運転・保守するための管理法を規定)認可が一体で行われなければならないし、実際に、工事が完了したことが確認されなければならない。

7.住民避難計画は規制委審査の対象外であるが、それでも規制委の審査結果が再稼働を左右する。

◆原発事故時の避難計画について、規制委は立地自治体や周辺自治体に丸投げしている。一方、自治体は、どこかでできたパターンに沿って避難計画を作成している。そのため、避難計画では当該自治体の地理的、人的特殊性はほとんど斟酌(しんしゃく)されていない。また、事業者(電力会社)はその作成に責任を負っていない。

◆しかも、自治体の作成した避難計画たるや、数日のピクニックにでも出かけるような計画であり、過酷事故では、永久に故郷を失うという危機感がない。また、避難地域は100 km 圏を超える広域におよび、若狭の原発事故では、京都、大阪、滋賀の住民数100万人の避難の可能性もあるという認識がない。

◆さらに、避難指示解除に関して、住民の意向を聴かないし、避難指示が解除されても(放射線量20ミリシーベルト/年で解除)、帰還先は高放射線量で、必要な生活基盤も整っていないこと、帰還後一定期間の後には賠償金や支援が打ち切られること、種々の事情で避難継続を選択すれば、賠償や支援はないこと、などの非人道性も念頭にない。原発事故に関しては、「地方自治体住民の福祉の増進を図ることを基準とする」という地方自治法の精神は全く生かされていない。

◆原発の再稼働は、住民の生命・財産に大きく関わるので、それを判断する地方自治体には、原子力利用推進政策から独立した姿勢が要求される。また、原発の被害は、極めて広域におよぶので、原発立地自治体だけでなく、周辺自治体の住民の声を十分聴かなければならない。

8.とんでもないパブリックコメント(パブコメ)のとり方

◆規制委の審査結果に対するパブコメは、わずか1ヶ月間、「科学的・技術的」部分に限って募集されている。しかし、国民のほとんどは、原子力分野の専門家ではない。専門家でも、原子力のような広範囲の知識を要する分野へのコメントを1ヶ月で出すことは至難である。また、ある意見が「虚偽である」ことを実証するには大変な労力を要する。

◆規制委は、プロでない国民が、片手間でできる筈がないことを見越して、非科学的審査書を作り、パブコメを求めている。さらに、国民の生命と財産に関わる原発再稼働に関しては、その是非や、防災・避難計画も含めて、国民的議論を展開すべきであるが、パブコメでは、その意見は受け入れていない。

◆しかも、国民が懸命に書いたパブコメ1万7千8百(川内原発)あるいは3千6百(高浜原発)について、わずか20数日で分類整理し、枝葉末節だけを取り入れ、基本的部分は無視している。それでも、規制委の審査書によって、実質的に再稼働の可否が判断される。国民を愚弄するためのパブコメの誹り(そしり)を受けるのは当然である。

原子力防災とは、災害(事故)の原因である原発をなくすことである。
人類の手に負えず、人類に不要な原発を動かして、大きな犠牲を払うこと、
事故の不安に慄(おのの)くことは無い!
今すぐ、全ての原発を廃炉にしよう!


10.15大飯原発うごかすな!関電包囲全国集会

ご賛同、ご結集をお願いします。

  • 日時;2017年10月15日(日) 13時~14時45分
  • 場所:関西電力本店前(大阪市北区中之島3丁目)
  • <集会後、御堂筋デモ>関電包囲集会が終わり次第、徒歩で靭(うつぼ)公園(大阪市西区靭本町)に移動。
  • デモ出発:15時30分
  • デモ出発地:靭(うつぼ)公園(デモは難波まで。17時頃終了予定)
  • 主 催:大飯原発うごかすな!実行委員会
  • 呼びかけ:原子力発電に反対する福井県民会議(連絡先:宮下正一:090-1395-2628)、若狭の原発を考える会(連絡先:木原壯林:090-1965-7102)
  • 本集会にご賛同頂けます場合は、
    お名前、ご住所およびお名前の公表の可否を
    木原(kiharas-chemアットzeus.eonet.ne.jpまたは090-1965-7102)まで
    お知らせください。

2017年8月24日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)