◆原告第2準備書面
 第6 十分な安全性を備えない原発の設置・稼働は許されないこと

原告第2準備書面 -大飯原発における地震・津波の危険性- 目次

第6 十分な安全性を備えない原発の設置・稼働は許されないこと

1 原発に求められる安全性は被害の深刻さや広範さも踏まえて判断されるべきこと

 原子力発電所が活断層上に存在する場合には上記のとおり運転が許されないことは当然であるが、十分な安全性を備えておらず、運転によって生命・身体を違法に侵害するおそれが認められる場合、同原発を運転することが許されないこともまた論を俟たない。原発の危険性について活断層のみに着目することは極めてナンセンスなのである。
 この「原発の安全性」について、求められる安全性のレベルは、万が一の事故が起こった場合の被害の深刻さ、広範さとの兼ね合いで考えられなければならない。福島第一原発事故では、大地が、大気が、河川が、湖沼が、海洋が、都市が、人々が、家畜が、木々が、草花が、あらゆるものが、高濃度の放射性物質に汚染され、未だに15万人もの人たちが故郷を奪われて帰宅する目途すら立っておらず、今後膨大な数の人たちが低線量被ばくによる健康被害の恐怖に怯えながら生活しなければならない等、その被害は極めて広範かつ深刻である。しかも、それだけではなく、一歩間違えれば複数の原子炉が次々と爆発し、急性放射線障害によって多数の死者が出るのみならず、東北地方から首都圏に至る広範な土地が人の住めない土地になってしまう危険が現実のものであった*23
 今回の事故によって日本は、原発集中立地の恐怖を目の当たりにした。 将来、若狭湾の原発で地震による過酷事故が起こった場合、1基が爆発を起こすと、もはや原発敷地近傍に人間が近寄ることはできないから、地震等によって損傷している他の号機も次々と爆発し、近畿、北陸、東海地方は、人が住めない土地になってしまう危険があるのである。

 *23 実際、田坂広志内閣官房参与(当時)は、首都圏3000万人の避難を検討していたことを明らかにしており(甲52)、原子力安全委員会も、首都圏の避難を想定したシナリオを作成して菅総理に提出していた(甲53)。首都圏の避難を検討するという事態は空前絶後であり、首都圏を含むより広範囲が放射能に汚染されるおそれがあることは、当時極めて現実味のある目前に差し迫った事態だったのである。被害が現状に留まったことは、単なる偶然の、幸運の産物にすぎない。

2 地震・津波に対して原発に求められる安全性は少なくとも「既往最大」を基準とすべきこと

 このように、若狭地方で原発の過酷事故が起こった場合に想定される被害の深刻さ、広範さを踏まえると、原発に求められる安全性は極めて高度なものでなければならないというべきである。そして、そのためには、地震対策、津波対策については、少なくとも「既往最大」、すなわち、人間が認識できる過去において(地球の歴史に比較すれば一瞬に過ぎないが)生じた最大の地震、最大の津波を前提にした対策を採らなければ、十分な安全性を有しないと解するべきである。
 この「既往最大」の考え方は、中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」が2011年9月28日に取りまとめた「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」(河田恵昭部会長)(甲54)にも採用されている。すなわち、同報告では、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討」し、「発生頻度は極めて低いものの、甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」を想定すべきであるとされているのである。また、原発の耐震安全性を検討する国の作業部会の主査と委員を同年7月末に辞任した纐纈一起東京大学教授も、毎日新聞社のインタビューにおいて、「立地を問わず、過去最大の揺れと津波を同じ重みをもって安全性を考慮するよう改めるべき」であり、「過去最大というのは、原発の敷地でこれまでに記録したものではなく、日本、あるいは世界で観測された最大の記録を視野に入れることが重要」であると述べている(甲55)。

3 少なくとも「既往最大」を基準として十分な安全性を備えていない原発を運転することは許されないこと

 そうすると、地震や津波に関していえば、問題は当該原子炉施設が少なくとも「既往最大」を基準としても十分な耐震性を有しているか否かという点に帰することとなる*24
 然るに、第5で述べるとおり、大飯原発は「既往最大」を基準としてさえ十分な耐震性等を備えていない。以下でまとめるとおり、大飯原発周辺では大規模な地震・津波が発生する危険性が高く、十分な耐震性を備えていない大飯原発で一たびそのような災害が発生すれば、原子炉施設に甚大な損傷が発生し、放出された放射性物質等によって原告らを含む無数の住民の生命・身体を違法に侵害することは明らかである。よって、大飯原発の運転は直ちに差し止められなければならない。

 *24 ただし、公知のとおり東北地方太平洋沖地震では想定を遥かに上回る規模の巨大地震と巨大津波が発生し、言語を絶する極めて甚大な被害が極めて広範な範囲に、極めて長期間にわたって発生し続けているのであり、このような経験を踏まえれば、「既往最大」を上限値として基準とすることも十分ではない。想定を上回る規模の地震・津波は常に発生しうるのであり、「既往最大」を上限として想定することは、想定を上回る現象が発生した東北地方太平洋沖地震における過ちと同様の過ちを繰り返すことになるからである。