◆裁判官様、2回目の訴え

【2017年1月11日,大阪高裁の4出入口で配付。2回目】

大阪高等裁判所 山下郁夫裁判長、杉江佳冶裁判官、吉川慎一裁判官 様

(昨年12月26日にもお願いしましたが、再度訴えます)

高浜原発運転差止め抗告審では
経済より,人を大切にするご判断をお願いします

1. 原発は現在科学技術で制御できる装置ではありません。

●原発が一旦重大事故を起こせば、その完全収束は不可能です。

・福島第一原発事故からもうすぐ6年になります。しかし、未だに事故炉の内部が詳(つまび)らかになったとするにはほど遠く、事故原因の確証も得られていません。

・汚染水は今でも増え続け、太平洋に漏洩されています。凍土壁は、当初から効果に否定的な意見が多いにも拘わらず、“汚染水抑制の切り札”として350億円以上の国費を投じて建設されましたが、東電が「全面凍結」を宣言して2か月経った今でも、その効果は限定的です(昨12月26日原子力規制委発表)。なお、凍土壁の維持には最大で家庭約1万3千軒の電力が必要と言われています。汚染水の除染も一部にとどまり、とくにトリチウムを除去する方法はありません。

・汚染土壌の除去は局所的で、表層に限られ、除去土壌を詰めたフレキシブルコンテナ(フレコン)バッグは、風化および放射線分解によって、ボロボロになろうとしています。

・チェルノブイリ原発事故からは4月で31年になります。この事故炉からの放射性物質の飛散を防ぐために炉を覆っていた「石棺」は老朽化し、崩壊の危機にさらされたため、「石棺」をさらに覆う「巨大シェルター」が建造されました。このように、事故炉の長期管理は困難を極めます。

・経産省は、12月9日、福島第1原発の廃炉、賠償などの事故対策費が、燃料デブリ(溶け落ちて固まった燃料)のり出し作業や除染作業の困難さ、賠償費の見込み違いにより、想定の11兆円から21兆5千億円に倍増することを公表しました。この事実は、原発重大事故の収束が科学的に困難であり、それ故、事故対策費の見積もりが本質的に不可能であることを実証しています。

●原発は、処理法も安全保管法もない使用済み核燃料、核廃棄物を残します。

・ウランやプルトニウムの原発燃料が核反応(燃焼)すると、各種の核分裂生成物(死の灰)、プルトニウムより重い元素(マイナーアクチニド)などが生成し、ごく一部のウランが反応した段階(大部分のウランは未反応のまま)で、原子炉の運転が困難になります。そこで、使用済み燃料を原子炉から取り出し、新しい燃料と交換しなければなりません。

・使用済核燃料は、原子炉に付置された燃料プールで3~5年間程度保管し、放射線量が低下した後、再処理するか、空冷で保管します。日本では、再処理して、ウラン、プルトニウムを取り出し、再利用することになっていましたが、後述のように、危険極まりない再処理工場の運転は不可能とも言われています(裏面[注]をご覧ください)。再処理せず、燃料集合体をそのままキャスクに入れて、地中に保管する「直接処分」の方が安全で、廃棄物量も少ないとする考え方もあり、アメリカはその方向ですが、10万年以上の保管を要し、これも問題山積です。

・現在、日本には使用済み核燃料が17,000 トン以上たまり、原発の燃料プールと再処理工場(六ケ所村)の保管スペースを合計した貯蔵容量の73%が埋まっています。原発が順次再稼働した場合、数年後には満杯になります。

・再処理工場の一時保管スペース(容量3,000トン)の貯蔵量は、2012年9月で2,945トンに達しています。青森県は「現在一時預かりしている使用済み燃料は、再処理の前提が崩れれば、各原発に返す」と強調しています。

・若狭の原発13基が持つ使用済み核燃料貯蔵施設の容量は5,290トンですが、その7割近くが使用済み燃料で埋まっています。高浜、大飯、美浜の原発が再稼働されれば、7年程度で貯蔵限度を超え、原発の稼働は出来なくなります。なお、使用済み核燃料貯蔵プールは、原子炉本体(圧力容器)に比べて、格段に脆弱で、冷却水喪失→メルトダウンの危険性が高いことは福島第1原発事故(4号機燃料プールから冷却水が漏れ、核燃料溶融の危機にあった)でも明らかになっています。

・一方、日本には、低レベルおよび高レベル放射性廃棄物が200リットル(L)ドラム缶にしてそれぞれ約120万本および約1万本蓄積していますが、その処分は極めて困難で、永久貯蔵はおろか中間貯蔵を引き受ける所もありません。

使用済み核燃料、放射性廃棄物の蓄積の面からも、原発は現代科学技術で制御できる装置でないことは明らかです。

●原発事故の原因を予知し、事故を完全に回避することは困難です。

・原発重大事故の要因の一つは大地震ですが、大地震が発生する時期や規模の予知は困難で、不可能と言っても過言ではありません。例えば、近年発生した阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本・大分大震災の時期と規模は誰も予測していませんでした。これらの地震も含めて、過去の大地震の多くが、深層にあって「未知の断層」と呼ばれる断層に起因しています。さらに、一つの断層の崩壊が、他の断層の崩壊を誘起することも、熊本・大分大震災が示唆しています。若狭にも、野坂断層、熊川断層、三方-花折断層、FO-A 断層など、多数の「既知の断層」がありますが、それに加えて、「未知の断層」に起因する大地震が発生する可能性もあります。それでも、電力会社や原子力規制委員会は地震の可能性や大きさを過小評価して、原発運転を強行しようとしています。本来、地震の多発する国に原発があってはならないのです。

・事故原因は、地震だけではありません。スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故の原因は、装置の欠陥や人の判断ミスです。重大事故に至る要因は、無数にあります。原発重大事故は、その被害の甚大性を考えるとき、起こってはならないものです。しかし、現代科学技術で、事故の原因である装置の異常や人の判断ミスを完全に防ぐことは困難です。

電力会社、規制委、政府は、上記のように現代科学技術で制御できないことが明白で、一旦重大事故が起これば、多くの人を傷つけ、命を奪い、故郷を奪う原発の再稼働に躍起です。これは、彼らが人の尊厳、生存の権利を犠牲にしても、経済発展を優先させようと考えているからです。

2. 高浜原発が重大事故を起こせば、避難は不可能に近く、避難できたとしても、故郷を失い、悲惨をきわめます。
事故の原因=原発を全廃することこそ原子力防災です。

・福島原発事故から約6年、チェルノブイリ原発事故から約31年、両事故避難された住民10数万人の大部分は、今でも財産と故郷を奪われたままです。福島事故に関連して、事故時の避難や復旧作業で亡くなられた方、避難生活の重圧で亡くなられた方、不安と悲観のために自ら命を絶たれた方が多数います(2千人に近いとも言われています)。また、多くの方が癌の苦しみ、発癌の不安にさいなまれています。

・ところで、昨8月27,28日に、内閣府、福井、滋賀、京都3府県および関西広域連合が主催する「平成28年度高浜・大飯地域における原子力防災訓練」が実施されました。

この、主催者が「国内最大級の規模」と自負する訓練を振り返っても、原発事故での避難の困難さが理解できます。

・27日の訓練を例とすれば、対象となった高浜原発から30 kmの圏内には、福井、京都、滋賀の12市町が含まれ、対象住民は179,400人ですが、今回の住民の参加者数は、屋内退避を含めて7,100人余りで、車両などでの避難に参加したのはわずか約1,300人で、それも県外への避難は約240人に留まりました。この規模は、重大事故時の避難の規模とはかけ離れた小ささです。

・27日の県外避難時に、85人のスクリーニングを行いましたが、このような少人数では、実際の場合の混乱の評価には繋がりません(測定器の数、測定者の数、汚染した人の除染に要する時間、汚染した車の処理等の規模が桁違いに異なります)。

・この訓練では、原発から5 km圏の住民の一部は船を使って避難するとしていましたが、船利用は悪天候のために、全て中止されました。大型ヘリによる輸送訓練も、悪天候のために中止されました。大地震に起因する事故では、道路が寸断され、海も利用できないことは十分予想されます。若狭湾での地震による事故を想定したにも関わらず、なぜ船での避難を計画し、気候条件に左右されやすい大型ヘリの利用を考えたのか、全く疑問です。

・高浜原発から50 km圏には、京都市、福知山市、高島市の多くの部分が含まれます。100 km圏には、京都府(人口約250万人)、滋賀県(人口約140万人)のほぼ全域、大阪駅、神戸駅を含む大阪府、兵庫県のかなりの部分が含まれます。このことと飯舘村(福島原発から50 km)が全村避難を強いられたこととを考え合わせれば、高浜原発で重大事故が起こったとき、数100万人が避難対象となる可能性が大であり、避難は不可能であることは自明です。この訓練では、そのことは、全く考えられていません。なお、50~100 km圏内には琵琶湖があり、1,450万人の飲用水の汚染も深刻な問題です。

・原発事故での避難は、数日間の旅行とは異なります。永遠に故郷に帰れない可能性が大であることは、福島やチェルノブイリが教えています。しかし、今回の避難訓練は、日帰りで移動するもので、長期避難の認識が全くと言って良いほどありません。

上述の訓練内容からは、この訓練が原発再稼働のための手続きの一環として実施されたものであるとしか考えられません。主催者が、この避難訓練から、再稼働に不都合な結論を導くことは無いでしょう。人の安全と尊厳は軽視されています。

3. 原発を推進し、避難者を汚染地域に帰還させる電力会社、政府、原子力規制委員会は、人の尊厳、生存の権利を蔑(ないがしろ)にしています。

・政府は、避難に関して、空間放射線量が20ミリシーベルト/年(mSv/y)以下になった地域の避難指示を解除し、避難者に帰還を強要しています。この線量は、日本の平均値0.28 mSv/yの約70倍であり、チェルノブイリの移住義務基準5 mSv/yに比べても極めて高いと言えます。また、避難指示が解除された地域の電気、ガス、水道、交通網などの生活基盤の整備や、医療、介護などの生活関連サービスも復旧したとするには程遠い状態にあります。したがって、帰還の意志のある住民は少数にとどまり、ほとんどが高齢者です。今後、各世帯で分担してきた道路脇の草刈り、消防団活動、共同墓地の手入れなどの共同作業の担い手が不足し、後継者不足で地域が成り立たなくなることは明らかです。このような状況でも、強引に帰還を進めようとする政府は、帰還に応じない人への支援の打ち切りの恫喝も行っています。一方、福島県は、政府の意を受けて、自主避難者支援の打ち切りを決定しました。何れも、東電や政府の賠償負担や生活支援支出の軽減のためであり、責任回避のためです。人々の安全や生活の安寧を優先する考えは、いささかもありません。なお、自主避難に関して、各都道府県による今春以降の住宅支援に大きな温度差があり、支援を打ち出す自治体では、生活再建を図れる一方、支援が縮小される避難者は暮らしの基盤が揺らぎかねない事態になっています。

・政府の避難解除にあたっての姿勢は、自然災害の場合と変わらず、住民は原発事故という電力会社、財界、政府が一体となって引き起こした人災によって避難を強いられているという視点はありません。本来、原発を推進した政府や原子力ムラに、避難解除をうんぬんする資格はありません。彼らは、事故の責任の重さを噛みしめ、誠意ある償いに専念すべきです。避難解除を決定するのは、あくまでも住民でなければなりません。しかし、政府・与党は、住民の声を聴く前に、彼らの避難区域解除案(来年3月末解除)を既定路線として新聞発表するなど、住民切り捨ての態度に終始しています。

原発事故は、このような悲惨を産みます。再び事故が起こる前に全廃しなければなりません。

4. 脱原発・反原発は民意です。海外でも脱原発の動きが拡がっています。

・一昨年8月に愛媛県伊方町で、「伊方原発 50 km 圏内住民有志の会」が戸別訪問により実施した「はがきアンケート」では、原発再稼働反対51%、賛成27%、どちらとも言えない22%でした。伊方町民の民意は脱原発です。

・昨年3月9日、大津地裁は高浜原発3、4 号機の運転差止め仮処分を決定しました。司法は、本来、社会通念=民意を反映するところでなければなりません。この決定は、脱原発、反原発が民意であることを明らかにした勇気ある決定でした。

・7月10日の鹿児島県知事選挙、10月16日の新潟県知事選挙では、脱原発を主張する知事が誕生しました。 両県の民意を反映したものです。

・12月18日、高浜原発に隣接し、陸路で避難するには原発ゲート前を通らざるを得ない音海地区(住民136人)の自治会は、40年越えの老朽高浜原発1、2号機の運転延長に反対する意見書を採択しました。[地元中の地元」住民の民意です。

世界各国でも、脱原発の動きが拡がっています。

・10月、リトアニアの議会選挙で、反原発を掲げる農民・グリーン同盟が第1党になりました。なお、同国で2012年に行われた国民投票では、原発建設反対が6割を超えています。

・10月22日、台湾行政院(政府)は、再生可能エネルギー事業への民間参画を促進する電気事業法案を閣議決定しました。蔡英文政権は2025年に原発をゼロにすることを決断しています。

・11月22日、 ベトナムが日本からの原発輸入を白紙撤回し、原発建設を断念ました。経済より国民の安心安全を優先させたのです。

・この他、ドイツは、1990年代に脱原発を決定し、福島事故後、2022年までの全廃を決定しました、イタリアでは、2011年に国民投票が行われ、94%が脱原発の意志を示しました。アメリカでも、福島原発と同型の原発の全廃を発表し、2013年のキウォニー原発廃炉以来、9原発10基が廃炉あるいは廃炉決定をしています。10年以内に計15~20基の廃炉の可能性があると言われています。天然ガスなどに比べて操業コストが高く、採算が取れないことが理由です。イスラエル、ベネズエラ、クウェート、アメリカなどで原発計画が中止され、アメリカ、フランス、ロシアなどの原発大国でも脱原発派が多数になっています。

5.その他、昨年12月26日のチラシでも明らかにしましたように、

傲慢さに慣れ切った電力会社に原発を運転する資格はありません:原子力制委員会の審査は無責任で、科学とは縁遠いものです:原発は経済的にも成り立たない装置です:原発は無くても電気は足りています。

私たちは、司法の良心を信じています
原発再稼働を許さないで下さい

[注]再処理工場の危険性
・再処理工程では、燃料棒を切断して、鞘(さや)から使用済燃料を取り出し、高温の高濃度硝酸で溶解します。溶解までの過程で、鞘の中に閉じ込められていた「死の灰」などが解放され、外部に放出されかねません。とくに気体(希ガスなど)の完全閉じ込めは困難です。溶解したウラン、プルトニウム、死の灰などを含む高濃度硝酸溶液中のウラン、プルトニウムは、これらの元素と結合しやすい試薬を含む有機溶媒を用いて取り出し(溶媒抽出)、さらに精製して核燃料の原料とします。この過程で、硝酸の分解ガスが発生し、爆発したこともあります。また、死の灰などの不要物質が、長期保管を要する高レベル(高放射線)廃棄物として大量に発生します。その処理・処分法は提案されていますが、長期の安全保管に耐える方法はなく、保管を受け入れる場所もありません。

・使用済核燃料は高放射線ですから、再処理工程の多くは、流れ系を採用し、遠隔自動操作で運転されます。そのため、再処理工場には、約10,000基の主要機器があり、配管の長さは約1,300 km にも及びます(ウラン、プルトニウム、死の灰が含まれる部分は約60 km:継ぎ目の数は約26,000箇所)。高放射線に曝(さら)され、高温の高濃度硝酸が流れている容器や配管の腐蝕(とくに継ぎ目)、減肉(厚さが減ること:溶解槽で顕著)、金属疲労などは避け得ず、安全運転できる筈がありません。長い配管を持つプラントは、地震に弱いことは容易にうなづけます。再処理工場の建設はトラブル続きで、すでに2 兆2千億円をつぎ込んだにもかかわらず、完成の目途は立っていません。

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)