◆2020年度冬の卸電力価格暴騰について–パブコメの元

経済産業省 資源エネルギー庁

「2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証中間取りまとめ(案)」について
(「使い捨て時代を考える会」から、2021/05/24、一部省略してパブコメとして提出しました)

[1] 結論として–再エネ普及と脱原発のために必須の大手電力の分割

検証中間取りまとめ(案)では「旧一電の内外無差別な卸売の実効性を高め、社内・グループ内取引の透明性を確保するためのあらゆる課題について、総合的に検討。」(p.58など)とあるが、方向性が不明確。

・大手電力は、かつての総括原価方式で消費者の電気料金でつくった発電施設、送配電網を独占し、それだけでなく、再エネ普及を妨げ、危険で高コストの原発を温存する基盤となっている。
・大手電力は、発電部門では圧倒的な力をもち、送配電部門も支配して親会社の原発の電気を優先し、新電力の再エネの電気を流そうとせず、再エネ普及を妨げている。
・小売部門では、特別高圧や高圧の顧客に対して、強烈な低価格を提示して取戻営業を強めている。低圧顧客に対してはガスとのセット販売、おトク営業で攻勢に出るなど、大手電力の存在はまだまだ巨大。発電、送配電、小売の一体支配によって、発電設備をもたない小売だけの新電力に比べて、不当な独占利得を得ている。
・現在、最重要の政策は、再エネの普及をはかり、かつての総括原価方式で富と権力を集中してきた大手電力の原発推進路線を改めさせ、強大な電力市場支配力を減衰させることにある。そのためには、大手電力の発電、送配電、小売の完全分離(資本関係も解消する所有権分離)、そして、再エネ普及のために全国単一の送配電網が必要である。

[2] 検証中間取りまとめについての全般的意見

・大手電力を中心とする現行制度を是として、新電力とりわけ再エネを中心とした新電力への配慮が欠けている。巨大資本と零細ミニ企業との間では、公平な競争環境が存在していない。
・卸市場の価格高騰は、消費者価格の暴騰も招いたが、そうした消費者への保護の観点がない。
・再エネの普及と主力電源化、脱原発は、今後のエネルギー政策の基本に据えるべき最優先課題であるが、こうした方向をふまえた取りまとめになっていない。

[3] 容量市場について

・検証中間取りまとめ(案)では「容量市場により安定供給に必要な供給力を確保しつつ、カーボンニュートラルとの両立に向け、非効率石炭フェードアウトを着実に進めるとともに、新規投資の予見性を高める措置を検討」とあるが、納得できない。
・消費者からみて、問題が大きい。容量市場で確保される電源の固定費は、消費者はほぼ支払済みのはずで、容量拠出金を通じて二重払いになる。また、だれが保有するどの電源が入札し、落札したのかの詳細は公表されていない。電気に含まれる容量市場分のコストが表示されるかどうかも分からない。
・さらに、現行の容量市場は、環境汚染産業の原発、CO2をまきちらす火力発電を延命させて、硬直したベースロード電源を保護するだけ。老朽電源の過剰な延命をもたらし、大手電力を過度に優遇する。現行制度は直ちに廃止し、供給力確保は別の方策もあるので、再検討をすること。

[4] 2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰

・検証中間取りまとめ(案)では昨年度冬の卸電力取引所の価格高騰について、「相場を変動させることを目的とした売り惜しみ等の問題となる行為は確認されなかった」(p.57)として、大手電力の行動に問題がなかったとしているが、説得力がない。
・発電の80%を独占している大手電力には、発電と小売にかかる諸情報の公開が求められる。
・スポット市場の売り入札を急減させ、一方で自社需要のために買い入札を増やしたのは、なぜか。その理由が明確でない。
・関西電力、中国電力、北陸電力が、グロスビディング(卸電力取引所を介して電力を販売すること)を取り止めたのは、なぜか、その理由が明確でない。自社用の電力を確保するためとすれば、なぜ、そういった事態に陥ったのか、明確でない。
・グロスビディングを取り止めても、価格に影響はなかったとしているが、それなら、グロスビディングとはもともと、どんな効果がある制度なのか。見せかけの取引量を増やすだけになっている。
・卸電力取引所の機能を高めるには、大手電力が、発電量の50%とか一定割合の電力を常に市場にだすように義務づける。それを定期的に上方修正していくことが必要。
・インバランス料金(新電力が電気を計画通り確保できなかった場合に送配電会社に支払う義務のある違約金)が卸電力取引所の価格上昇に伴って果てしなく高騰する算定方法を採っていたことが原因として、各方面から指摘されている。また、規制当局による不足インバランスへの指導が厳しすぎたともいわれているが、そのあたりの言及がない。暴騰を押さえるために、一定の上限は設置されたが、それで十分とはいえない。

[5] 消費者のために

・新電力で「市場連動型プラン」を利用していた消費者は、突然、多額の料金負担を余儀なくされた。それらの電力会社の供給シェアは1.86%、契約件数は約80万件といわれるが、その各契約者の負担はきわめて大きい。制度の不備をすべて消費者に負担させるようなことは、適切でない。
・消費者にとって、どんな電源の電気を買うかは、重要なテーマ。電力の小売販売において、電源構成表示を義務化すべき。また、基本的な環境情報としてCO2排出量や放射性廃棄物の排出量についても明記させるべき。

[6] 新電力の状況

・多くの新電力は、卸電力取引所の突然の狂乱状態で仕入れ価格が暴騰、多額の負担を背負い、倒産するところまで出ている。
・その上、インバランス料金の支払い(必要な供給量を確保できなかった違約金。卸電力取引所で確保しようにも売り玉がなくて買えなかったりした結果)でも、多額の負債を負っているとみられる。大手電力の強大な支配力が生きている現状で、自由競争下の自己責任とするのは、適切でない。
・大手電力と相対契約をしている新電力各社は、「条件の悪化や取引停止になることが怖くて、大きな声で意見を言うことはできない状況にある。大手電力の電源がなければ事業が成立しない新電力にとって、社名を明かして制度の是正を求めることすらままならない」という(日経エネルギーNext 2021/04/26)。

[7] 大手電力の状況

・一方で、発電部門と小売部門が一体の大手電力は、価格高騰の影響は小さく、送配電部門からの情報もいち早く入手することができる立場にあった。しかも、送配電部門は、インバランス料金で大儲けした。
・送配電部門はFIT(再エネ普及のための固定価格買取制度)でも、大儲けしている。こうした不当な儲けは、消費者、新電力に還元されるべきではないか。
・大手電力や大手ガスの間のカルテルは、論外。徹底的に排除すべき。

[8] 再エネ普及と脱原発

・この10年間に世界の自然エネルギーは急成長を遂げ、2020年末までには風力発電や太陽光発電の設備容量はそれぞれ700GWを超えて、それぞれ原子力発電の設備容量(約400GW)の2倍近くに達した。その結果、風力と太陽光を合わせた設備容量は1,500GW(1.5TW、15億kW)近くに達している。一方、原子力発電の設備容量は、廃止が新設を上回り、すでに減少に転じている(環境エネルギー政策研究所)。
・わが国でも、再エネの普及と主力電源化、脱原発は、今後のエネルギー政策の基本に据えるべき最優先課題。ベースロード電源重視を改め、発電側だけでなく系統側、需要側も含む多様な柔軟性を拡大させることが急務となっている。
・とくに、再エネ発電事業者に系統の合理的な利用を保障すべき。ノンファーム型接続(実送電量に応じて空き容量を変動させる送電ルール)は、再エネ拡大のカギを握っているが、十分に普及しているとはいえない。
・原発の費用については、燃料コストだけでなく、営業コスト、廃棄物処理コスト、事故に備えた避難訓練コスト、過酷事故の際の避難コスト、国土喪失コストまで含めた電気料金として、明確にすべき。

以 上