◆2021年秋、季節外れのJEPX高騰、限界費用の見直し

(1) JEPXスポット市場が全国で50円/kWh超え、原因不明の高騰に不安広がる
「公開情報から高騰要因が読み解けない」

~~日経エネルギーNext 2021/10/08
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00001/00064/

日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場が高騰している。10月7日に約定した8日受け渡し分の16時30分~17時のコマは、システムプライス(全国平均)が50円/kWhとなり、全国9エリアすべてで50円/kWhを付けた。例年なら低価格で推移する10月の高騰に衝撃が走っている。
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・新電力の多くが2020年度冬季高騰時のインバランス料金の弁済、この秋のJEPX高騰、さらに冬場に向けた電源確保のための前金支払いのトリプルパンチを受けている。
・JEPXスポット市場の異変は9月の西日本から始まった。10月に入ると北海道エリアが高騰。10月1日には2021年度としては最高値となる55円/kWhを付けた。その後も西日本が深夜も含めて1日を通して高値をつけるようになった。11月上旬から東日本や九州も高値となり、その状況が延々と続いている。
・電力需要が低くなる週末まで高値を付けるようになり、過去に例のない事態が起きている。端境期である10月、11月は太陽光の発電量が多い日中や需要が少ない夜間の市場価格は安価であるのが通常だ。だが、今年は早朝深夜から日中も含めて1日を通して極寒の厳冬のようなベース高騰が起きている。しかも、1か月以上この状況が続くとは衝撃的。
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(2) 季節外れのJEPX高騰の背景に膨大すぎる「ブロック入札」
経済産業省の新電力向け勉強会で明らかに

~~日経エネルギーNext 2021/11/12
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00001/00067/

日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の高騰が続いている。高騰理由は諸説あるものの、公開情報からは特定できない状況が続いてきた。しかし、ここへきて驚くべき量の「ブロック入札」の存在が明らかになった。
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・監視委員会が明らかにしたデータは「約定率が非常に低い大手発電事業者が7社おり、そのうち5社は入札量の9割以上がブロック入札だった」というもの。ここでいう大手発電事業者とは、大手電力7社、JERA(東京電力フュエル&パワーと中部電力が出資する発電会社)、Jパワー(電源開発株式会社)の9社を指しており、この中の5社という意味だという。
・入札量のほとんどをブロック入札にしている大手発電事業者は、ブロック入札を利用した売り控えをしていたと見られても、なんら不思議はない。
・今回のブロック入札の件も含めて、監視委員会が市場を正常に機能させるために監視を強めないことには、日本の電力自由化は新電力総崩れとともに幕を下ろすことになる。
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・「ブロック入札」とは

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電力市場が史上2番目の高値、意外な2つの理由
問われる大手電力の「燃料制約」と「ブロック入札」(少し古いですが、2018/02/16)
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/031400070/021500046/

・ブロック入札は、4コマ(2時間)以上の複数の時間帯にまとめて入札し、指定した時間帯に渡って売り入札量全量が約定したときだけ、取引が成立する。
・売り手(発電業者)から見れば、実需給前日に開かれるスポット市場でまとまった規模の需要が見込めれば発電所を稼働させるという性格の取引で、バランス停止対策に有効という理由から導入された。バランス停止とは、需要が見込めるかどうか(市場で売れるかどうか)分からないなどの理由から火力発電所の火を落とすことを言う。
・ところが、本気で約定を目指しているとは思えないようなブロック入札の実態が明らかになった。
・「1日24時間・30万kWh/h・12.6円/kWh」というブロック入札があったことが監視委員会から報告された。容量で30万kWといえば、原子力発電1基の3分の1に相当する規模で、これが24時間満遍なく売れなければ、微塵も売り渡さない(発電しない)という取引である。
・監視委員会の報告は、約定の可能性が低いブロック入札が量的にも件数でも少なくないことを示唆するものだった。どのようなブロック入札が行われているのかの実態は、日々取引に参加している市場関係者にも分からない。
・しかし、ある大手電力幹部は「(約定の見込みのない)ブロック入札は複数の大手がやっている」と証言する。ブロック入札が、バランス停止実施のためのアリバイづくりだとしたら問題だろう。
・燃料制約やブロック入札の実態から、大手電力は自社の顧客向けを優先して、卸電力市場などに投入するための発電は抑制したという構図が浮かび上がる。
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(3) 大手電力の度重なる買い越しが意味するもの
「端境期」になぜ電力市場が高騰するのか

~~日経エネルギーNext電力研究会 2021/11/24
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00003/00018/

今秋、電力市場はこれまでに見たことのない値動きを見せている。何が起きているのか。足元の端境期に生じている電力市場高騰の謎に迫る。
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・制度設計専門会合(第66回)では、オブザーバーとして出席した大手電力の役員から、LNG高騰時にLNGを転売し、国内の電力需要にはJEPXから電力調達を行うという事態に関する発言があった。
・「燃料制約がなくても燃料市場が高騰していた時に、電力市場に投入すると損が出てしまい、JKM(北東アジアのスポットLNG価格指標)で売った方が良いという状況がある。平常時にこの動きが認められないのであれば、改めてご検討をお願いしたい」というもの。
・仮に、長期契約により安値で獲得した燃料を高値で国際燃料市場に転売し、その分の電力を国内電力市場から高値で買い付ける行為が常態化したら、国内事情より先にグローバルな価格水準と国内電力価格が裁定し始め、それにJEPX価格が振り回されるようになる。
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(4) 東北電やJERA、JEPXスポット市場への売り入札価格を変更
「限界費用」の見直しで電力市場が変わる?

~~梅田あおば=電力事業アナリスト 2021/12/02
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00067/

11月、東北電力とJERAが日本卸電力取引所に玉出しする際の入札価格の基準を変更すると発表した。売り入札価格のベースとなる「限界費用」の考え方を変える。電力需給の実態をより市場に反映させる政府方針に沿ったもので、2社以外の大手電力にも広がる可能性が高い。だが、電力市場価格の変動が大きくなる要因にもなりそうだ。
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・現在、旧一般電気事業者は「自主的取組」として、余剰電力の全量を市場に供出すること、限界費用でスポット市場に売り入札することが求められている。各社は従来、長期契約や燃料スポット市場などによる調達済み燃料の「加重平均価格」を限界費用とする考え方をとってきた。東北電は11月24日以降(準備が出来次第)、これを燃料スポット調達などによる「追加的な調達を考慮した価格」に変更する。現在、LNGのスポット価格は長期契約価格を大きく上回っているため、東北電などの変更は売り入札価格を上げる効果を持つ。
・燃料スポット価格をより直接的に反映することにより、売り入札価格は高値/安値いずれの方向に向けても従来以上に変動性が増すことになる。
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・監視委員会は、燃料の需給状況を価格シグナルとして反映させるという観点から、燃料の追加的な調達価格を限界費用としたうえで、売り入札価格に反映することを許容するとしている。しかし、相場操縦を目的として事前に燃料調達量を減らす行為や、燃料を転売することにより不当に追加的な燃料調達を発生させる行為は問題となる。
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・火力発電燃料のうち、マイナス162℃で液化されたLNGは長期貯蔵に向かず、特に調達戦略が難しい燃料であると考えられる。LNGタンカーからタンクに受け渡されたLNGを再び船に払い出すこと(リロード)は技術的難度の高さから一般的には行われておらず、LNG取引の多くはLNG産出国から日本に到着するまでの2カ月の輸送期間を考慮した配船計画を伴うものとなっている。
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・今後、スポット市場に供出される余剰電力(入札可能量)に対しては、新たな限界費用が適用されることとなる。今冬、LNGスポット価格が高い場合、JEPXスポット価格も上昇する蓋然性が高い。
・スポット市場における価格シグナル性が増すこと自体は健全なことだが、小売電気事業者がどのようなルート(相対卸供給・常時バックアップ・スポット市場)から調達するかにより、あまりに大きな値差が恒常的に生じる事態になったとしたら、調達ルートの新たな選別や忌避を招くおそれがある。限界費用の考え方の見直しは、スポット市場における大きなゲームルールチェンジである。逆に言えば、従来のスポット市場価格の安定性は燃料の長期契約価格の安定性に支えられていたことを改めて認識させられることとなった。
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(5) JERA幹部が明かす、冬の電力不足を防ぐ「PPA」「限界費用」見直しの意義
野口高史・JERA最適化戦略部長に聞く

2021/12/14
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00002/00017/

日本最大の発電事業者JERA(東京都中央区)が、東京電力エナジーパートナー(東電EP)とのPPA(電力購入契約)の見直しに踏み切った。さらに限界費用によるJEPX(日本卸電力取引所)入札価格の算定方法の見直しも公表した。なぜ見直しを決めたのか。JERA最適化本部・最適化戦略部の野口高史部長に聞いた。
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・第1に、東京エリアは自由化の進展によって、東電EPから新電力への離脱が進み、エリア全体の需要と東電EPの需要の差が大きくなっています。東電EPから離脱した需要は3割に迫ろうとしており、需要の動向を予測するのが難しい状況にあります。
・当社は東京エリア最大の発電事業者ですから、エリア全体の需給のしわ取りを期待されています。ですが、東京エリアには、ガス会社の火力発電所や共同火力など、様々な電源があり、当社の電源比率はエリアの5~6割にとどまります。
・第2が、東電EPとのPPAが、ゲートクローズ(実需給の1時間前)直前まで東電EPが当社から調達する電力量を変更できる「変動数量契約」となっていたことです。東電EPはギリギリまで自社需要に供給量を合わせるべく、当社に対して供給量の通告変更が可能でした。
・東電EPへの供給量がゲートクローズ直前まで変動するため、適正量のLNGを調達するのが難しくなっていたのです。
・第3が、電力市場との接点を東電EPが持っていたことです。JEPXへの余剰電力の玉出しも東電EPが手がけていました。本来であれば燃料市場やLNG在庫運用に知見のある当社が実施すべきでしたが、慣例的に小売部門が担ってきたのです(編集部注:中部エリアはかねてJERAが玉出しを実施)。
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・北東アジア着のLNGスポット価格指標「JKM」(Japan Korea Marker)の価格をJEPXスポット価格と見比べると、2倍の差があります。例えば、100億円分のLNGを調達したとして、発電して電力として売ると50億円にしかならない。長期契約で確保しているLNG価格とスポット市場価格の差が、あまりに大きい。今の状況では、電力供給の担い手である大手電力が「LNGを自ら調達せず、電力を買う方が得だ」との判断もあり得る状況。
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(6) 河野規制改革相が検討を要求、日本の電力自由化に「発販分離」が必要なワケ
JERAも東電や中部電の小売部門に縛られている

~~日経エネルギーNext電力研究会 2021/05/25
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00003/00011/

にわかに「発販分離」が電力改革のテーマに浮上してきた。大手電力の発電部門を販売部門から切り離し、発電競争を促進しなければ健全な電力市場の発展は望めない――。河野太郎規制改革相のタスクフォースが経済産業省に、9月までに発販分離の検討を報告するよう迫った。
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・発電部門を縛る「変動数量契約」とは
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・大手電力内部において発電部門が販売部門に電力を受け渡す際の契約で、販売部門が発電部門に発注する電力調達量は実需給断面に近いタイミングで決めるというものだ。つまり、販売部門が需要変動に応じて常時、自分たちに必要な量の電力を発電部門から調達できるという仕組み。
・電力の相対取引の大部分を占める大手電力の内部取引で変動数量契約(量を決めない契約)が幅を利かせていれば、発電部門の取引を縛る契約の拡大は自由化に逆行する。グループ内外を問わず、変動数量契約を廃止し、すべての相対取引は確定数量契約とするのが筋である。
・変動数量契約が締結されている限り、取引実態としては旧来の発販一体体制が続いると言って過言ではない。販売部門は実需給に合わせた調達がいつでも可能な一方で、発電部門は実需給直前まで取引量が決まらないというのは、販売部門に極めて有利な契約である。需給がタイトになるほど、発電部門はギリギリまで電源を確保する必要に迫られる。組織的には別会社であったとしても、発電部門が販売部門に振り回される(従属している)実態は変わらない。
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(7) 朝日新聞 凄腕(スゴウデ)仕事人

(2021/12/13)「日本卸電力取引所 企画業務部長 国松亮一さん」
運営する卸電力市場の取引が総需要の37%

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・日々の業務で目をこらすのは、価格を恣意的に動かそうとする取り引きがないかだ。
・発電設備を抱える事業者が本来はもっと発電できるのに、価格をつり上げるために不当に抑えていないか。値動きが気になったら、まず電話する。納得がいかないと、直接本社に出向く。「高くしようとしていると、疑われないようにしてほしい」
・政府の電力・ガス取引監視等委員会のような公的な調査権限はないが、「抑止力という形で作用すると信じている」。
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