◆高浜原発・川内原発の再稼働禁止の仮処分決定について
 竹本修三 原告団長の訴え

2015 年4 月24 日
竹本修三(大飯原発差止京都訴訟原告団長、京都大学名誉教授)

◆原子力規制委員会の田中俊一委員長は、2015年2月18日の記者会見で、九州電力川内原発1, 2号機(鹿児島県)と関西電力高浜3, 4号機(福井県)が新規制基準に基づく審査に合格したと発表した。これを受けて政府や電力会社の再稼働に向けての動きが活発になった。ここで注目されたのが、この2つの原発の再稼働禁止を求める仮処分申立である。

◆まず、高浜原発については、2015年4月14日に福井地裁で樋口英明裁判官から「高浜3, 4号機の原子炉を運転してはならない」という決定が下された。そして川内原発については、同年4月22日に鹿児島地裁では前田郁勝裁判長から「川内原発1, 2号機再稼働稼働等差止仮処分の申立には理由がない」として却下が言い渡された。この2つの地裁の判断の違いは、原子力規制委員会が決めた新規制基準に対する裁判官の認識の差を表している。

◆古い話であるが、3・11福島第一原発の重大事故よりも大分前の1992年10月29日に、最高裁が伊方原発訴訟について「原子炉の安全性審査に関しては、将来の予測も含む専門技術的な総合的判断を要すること、さらに、これを制度的に裏付けるものとして、原子力委員会の意見の尊重が法定されていることから、これについて裁判所が独自の立場から判断を下すことは法の趣旨に反し、不適切である。具体的審査基準に不合理な点があるか、審議及び判断の過程に看過し難い誤謬、欠落がある場合には違法と解すべきである。」という見解を出している。それ以後の多くの原発訴訟は、この最高裁の判断に引きずられてきた。

◆川内原発仮処分に関する鹿児島地裁の前田裁判長の見解は、「新規制基準は、(中略)、専門的知識を有する原子力規制委員会によって策定されたものであり、その策定に至るまでの調査審議や判断過程に看過し難い過誤や欠落があるとは認められないから、(中略)、その内容に不合理な点は認められない」として、原子力規制委員会が新規制基準に基づき合格と認めた川内原発1, 2号機の再稼働に、裁判所が独自の立場から判断を下すことは不適切であるという考えに基づいて申立を却下した。これは伊方原発訴訟の最高裁判断をそのまま踏襲していて、担当裁判官としては、何も判断しなかったということを示している。保身を考える裁判官が最高裁の意向を気にして、このような決定をすることは、あらかじめ想定内であったが、あまりにも時代錯誤だと思う。3・11の原発重大事故を経験した後では裁判官の考えも変わってくると思っていたが、今回の前田裁判長の決定には失望した。

◆これに対して、高浜原発仮処分に関する福井地裁の樋口裁判長は、一歩踏み込んで「新規制基準とそれに基づく審査自体に合理性がない」という見解を述べたうえで、高浜3, 4号機の原子炉を運転してはならないという決定を下した。昨年5月21日に大飯原発3, 4号機運転差止請求で原告側勝利の判決を言い渡した福井地裁の樋口裁判長には、その後いろんな圧力があったと考えられるが、それにも屈せず、今回の高浜原発再稼働禁止の仮処分を決定したことは高く評価できる。

◆われわれ大飯原発差止京都訴訟弁護団・原告団は、今年3月29日に「高レベル放射性廃棄物の地層処分は可能か?」の学習会を開催した。そこで原子力規制委員会の最近の動きにも注目したが、「原子力規制委員会は、安全審査ではなく適合性審査を行うものであり、その役割は原発推進委員会である」という認識で出席者一同が合意した。樋口裁判長も関連資料を詳細に調べた結果、われわれと同じ基盤に立って考えてくれていることがわかり、意を強くした。

◆和歌山県の仁坂吉伸知事が今年4月20日の記者会見で、関西電力高浜原発(3, 4号機)の再稼働差し止めを命じた福井地裁の仮処分決定について「判断がおかしい」と批判したと報道された。同知事は、樋口裁判長について「(原発の)技術について、そんなに知っているはずがない。裁判長はある意味で謙虚でなければならない」とも強調したという。樋口裁判官の昨年5月21日の判決主文と今年4月14日の仮処分決定の本文を丹念に読むと、文系出身の人なのに原発問題を実によく勉強していることがわかる。同じ文系出身の仁坂和歌山県知事よりも、樋口裁判官の方が原発問題に関してずっと深く考察している。 「そんなに知っているはずがない。もっと謙虚になれ」という言葉はそっくり仁坂知事に返したい。

◆振り返ってみると、3・11事故以後に原告側勝利の判決を言い渡したのは、樋口裁判長ただ一人である。そこで、われわれの京都訴訟が重要な意義をもってくる。今後は、別の裁判所で別の裁判長から、原告側勝利の判決を勝ちとることがぜひとも必要であろう。そのために、京都訴訟の弁護団・原告団のがんばりのみならず、心ある広範な人々の支援を期待したい。

◆もう一つ注目しているのが、大津地裁の再度の高浜原発運転差止仮処分の申請である。これは、昨年11月27日に却下の決定が出されたが、そのときに大津地裁の山本善彦裁判長は、その理由として「原子力規制委員会がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたく、上記特段の事情が存するとはいえない」ということで申立を却下した。今度の仮処分申請も同じ山本裁判長が担当するそうである。原子力規制委員会がゴーサインを出した今、この裁判長がどんな決定をするかに注目している。

◆大飯原発差止京都訴訟は、今年5月28日に第7回口頭弁論が開かれる。ここで弁護団・原告団は、これまでの裁判であまり問題とされてこなかった高レベル放射性廃棄物の処分問題について、国や関電を厳しく追及する予定である。2012年9月に日本学術会議は、原子力委員会からの依頼に対する回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」を出している。“学術会議”は学者のコミュニティでは“国会”に相当するところであるが、ここが「原発が生み出す高レベル放射性廃棄物の永久処分の問題はいまだに何も目途が立っていないのだから、永久処分は棚上げにしておいて、当面『暫定保存』の合理的方法を考えるとともに、これ以上高レベル放射性廃棄物を増やさないために『総量規制』をしなければならない」という考え方を示している。すでに溜まっている使用済み核燃料の保存方法も決まらないのに原発を再稼働して、使用済み核燃料をこれ以上増やしてどうするのだと言うことである。この一点からだけ考えても、原発再稼働は絶対に認められない。

◆この京都の闘いから輪を広げていって、全ての原発を廃炉にするために、みんなでがんばろうではないか。