◆原発再稼働は認めない!和歌山集会にて
 竹本修三 原告団長の訴え

2015 年3 月8 日
「フクシマを忘れない!原発ゼロへ 和歌山アクション2015」(3/8和歌山城西の丸広場)
原発再稼働は認めない。すべての原発を廃炉に!
竹本修三(大飯原発差止京都訴訟原告団長、京都大学名誉教授)

◆ご紹介いただいた竹本でございます。本日は、この大きな集会にお招きいただき、発言の機会を与えてくださった金原徹雄先生や江利川春雄先生をはじめとする実行委員会の皆さまに、厚く御礼を申し上げます。

◆さて、ここ和歌山県は、日高町、那智勝浦町周辺及び日置川(ひきがわ)町で原発設置計画がもちあがったときに、そのすべてに「NO!」の回答を出し、県内に原発を作らせませんでした。この和歌山県民の皆さまの見識の高さに、私は深く敬服いたしております。いま、和歌山の皆さんと私たち京都の仲間が、全ての原発を廃炉にするために共に闘っていくことができることを、大変嬉しく存じます。

◆皆さま、よくご存じのように、昨年5月21日に福井地裁で樋口英明裁判長から「大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない」という原告勝訴の歴史的判決が言い渡されました。この判決文のなかに、ひとたび原発事故が起これば、250km以内の人に被害が及ぶ可能性があることが指摘されています。日本の原発から250kmの範囲を、コンパスで描いてみますと、日本のほとんどがこの範囲に入ります。僅かに北海道の東部と、沖縄県がここから外れるだけです。

◆和歌山の皆さんも、若狭湾の原発群や浜岡原発から250kmの圏内に入ります。あなた方も原発事故の当事者なのですね。ですから、今日お集まりの皆さんは、原発の問題を他人事でなく、自分の問題として考え、自分のできる範囲で原発ゼロへの意思表示をしたいという思いで来られておられるのだろうと思います。私も同じ思いで、今日、ここに参りました。

◆昨年5月21日に福井判決の出た日に、京都地裁では大飯原発差止訴訟の第四回口頭弁論が開かれておりました。午後 2 時から始まった弁論の最初に、私は「地震国ニッポンで、原発稼働は無理!」という陳述を致しました。午後 3時に口頭弁論が終わり、法廷を出て、横にある弁護士会館で開かれていた報告集会の会場に向かう途中、弁護団から「たったいま、福井地裁で勝利判決が出た」と知らされました。そこで早速私は、弁護団世話人の中島晃弁護士と共に福井に駆けつけ、福井県教育センターで開かれていた福井判決・勝利集会に出席し、福井の仲間と喜びを分かち合いました。この福井訴訟弁護団の事務局長と事務局次長である笠原一浩弁護士と阿部剛弁護士は、二人とも京大理学部の出身で、私の後輩です。この二人を中心に、福井の弁護団が科学的に根拠のある意見陳述をしてくれたことが、勝利判決に大きく貢献したのだろうと考えております。

◆それから1か月ちょっと過ぎた6月28日に、私達は京都駅前のキャンパスプラザで「福井地裁判決の報告集会 in 京都」を開催し、福井訴訟弁護団の事務局長と事務局次長と共に、小浜の明通寺住職の中嶌哲演原告代表、並びに原告団の松田正事務局長をお招きして話を聞かせていただきました。集会には300名を超える人が集まってくれて、福井判決への関心の高さを改めて思い知らされました。

◆福井地裁の判決は、3・11福島第一原発の重大事故のあとに初めて出た原告勝訴の判決です。しかし、それよりも前に2例だけ、原発差止に関する原告勝訴の判決があります。その1つは、1985年に始まる福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅの設置許可無効確認訴訟です。この裁判は、原告の適格性をめぐっていろいろやりとりがあり、福井地裁、名古屋高裁金沢支部及び最高裁の間をいったりきたりしましが、2003年に名古屋高裁金沢支部で、もんじゅの設置許可処分をめぐって原告勝訴の判決が出ました。2つ目は、1999年に始まる石川県の志賀原発2号機建設・運転差止訴訟です。これは、2006年に金沢地裁で運転差止を命ずる判決がでました。しかし、この2例とも、その後の上級審で判決が逆転されて、原告側が敗訴になってしまいました。

◆私達は、2014年 11月 8日にキャンパスプラザにおいて、志賀原発訴訟の原告団・弁護団のメンバーのほか、いまは大津市に住んでおられる当時の裁判長であった井戸謙一弁護士にもビデオ出演をお願いし、「原発再稼働を許すな!京都集会-四半世紀にわたる『能登原発とめよう』運動の経験に学ぶ-」という集会を開催しました。これも大きな反響をよび、200人近い人々が集まってくれました。

◆昨年、福井地裁で大飯原発差止の判決が出されましたが、これ1つだと、それ以前の「もんじゅ」訴訟や「志賀原発」訴訟のように、上級審でひっくり返される可能性が高いです。そこで京都地裁でも福井地裁と同様に原告側の主張を認める判決が出て、2つの地裁で原告側が勝訴すれば、それを高裁でひっくり返すのが難しくなるでしょう。そこからすべての原発を廃炉にする道筋が開けると考えております。

◆また、昨年11月27日に大津地裁では、「大飯原発、高浜原発の再稼働差し止め仮処分申し立て」に対して、山本義彦裁判長から申し立て却下が言い渡されてしまいました。しかし、その決定内容には、基準地震動の策定方法に関して関電から何ら説明がないことや住民の避難計画の策定が進んでいないことなども述べられていて、裁判長が原発稼働に強い危惧を抱いていることが読みとれます。そのうえで、こんな危険な状態なのだから「原子力規制委員会がいたずらに早急に、再稼働を容認するとは到底考えにくい」として、申し立てを却下したのです。この判決が出てすぐに、私は新聞社からコメントを求められ、「裁判長の判断の原子力規制委員会が早急に再稼働を容認するとは考えられないという見通しは、楽観的すぎる」と返事をしました。その後の原子力規制委員会の動きをみますと、まさに私が指摘した通りの経緯を辿っています。

◆今年2月12日に、原子力規制委員会は、高浜原発3・4号機が新規制基準を満たすと認めて、再稼働を承認しました。規制委員会の新規制基準には、「原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのもの」で、「絶対的な安全性」を確保するものではない、と書かれています。つまり、規制委員会は、「安全審査」ではなく、基準に合っているかどうかの「適合性の審査」を行うものであり、原発稼働にお墨付きを与えるための委員会なのです。ですから、規制委員会は、電力会社に対して対応可能な程度の改善策を提示し、電力会社の対応を見たうえで、「運転にあたり求めるレベルの安全性は満足しています」という審査書を出すことは、あらかじめ予想されていました。これは規制委員会と電力業界のなれあいの茶番劇であり、こんなことを許していては、無辜の国民は救われません。

◆話は戻りますが、昨年 5 月 21日に福井地裁で出された判決文の地震と原発に関する個所には、次のように書かれています。「地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる」。これは、当日、福井判決の出る一時間前に私が京都地裁で陳述した内容と軌を一にするものだったので、大変心強く思いました。

◆さらに、福井地裁の判決文には、普通の人が普通の生活をする権利、つまり生存を基礎とする「人格権」こそが、すべての法分野において、最高の価値を持つものであり、それを脅かすものは、排除しなければならないということが述べられています。原発を稼働させないと化石燃料等の輸入が増えるから、国民の負担増になるという意見に対しては、「コストの問題に関して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることこそが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」と、極めて人間性豊かな判決文になっています。

◆また、地球温暖化に関しては、「被告は、原子力発電所の稼働が CO2(二酸化炭素)排出削減に資するもので環境面で優れていると主張するが、原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染は凄まじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである」と、被告側の主張を明快に退けています。ストンと腑に落ちる名判決ですね。この判決文はWebからダウンロードできますので、皆さん、ぜひお読みください。

◆先ほども触れましたが、原子力規制委員会は、つい先日、高浜原発3・4号機が新規制基準を満たすと認めて、再稼働を承認しました。これによって原発再稼働を目指す国や関電の動きは勢いづくと思います。それを視野に入れて、私達は今年5月28日に予定されている京都訴訟の次の第7回口頭弁論で、高レベル放射能廃棄物の処分問題をメインテーマとして陳述を展開したいと考えております。

◆原発を動かす限り、高レベルの放射能廃棄物が貯まり続ける訳ですが、その処分方法は、いまだに何も具体的に決まっていないのです。まさに「トイレなきマンション」ですね。この状態のままにしておいて再稼働を認めれば、高レベル放射能廃棄物をますます増やすことになり、後世の世代に大きな負債を背負わせることになります。この一点だけでも鋭く追及すれば、原発再稼働はアウトです。こうして、福井地裁に続いて京都地裁でも原告勝訴の判決を勝ち取れれば、そこから全ての原発を廃炉にする展望が開けてきます。「今さえよければあとはどうなってもいい。ケセラセラだ」という安倍首相の態度は、あまりに無責任だ、と皆さん思われませんか? 私は許せません。

◆私達は、2012年に1,107名の原告で大飯原発(1~4号機)の運転差し止め訴訟を起こしました。その後、2013年に856名で第二次提訴、2015年1月29日に 730名で第三次提訴を行い、現在の原告は合計2,693 名となっています。数は力なので、2015年中にさらに1,000人の新規原告を増やして第四次提訴をしたいと考えております。今日お集まりの皆さんも、ぜひこの趣旨にご賛同いただき、原告のひとりになっていただきたいと思います。

◆原告になっていただくには5,000円の参加費が要りますが、そのほとんどは訴訟の際の収入印紙代に消えてしまい、弁護士費用も捻出できません。私も個人としては、5,000円の参加費はいささか痛いですが、それが可愛い孫の世代に負債を残さないで済む道筋につながると思えば、仕方ないかと思っております。

◆本日、西の丸広場に大飯原発差止京都訴訟のブースも設けられておりますので、皆さんどうかお立ち寄りください。