◆ 原告第11準備書面
第2 大飯原発の再稼働を巡る事実経過

原告第11準備書面
-違法性論- 目次

第2 大飯原発の再稼働を巡る事実経過

 1 再稼働前の大飯発電所3号機及び4号機の稼働状況

大飯原発3号機は、2010(平成22)年6月6日から2011(平成23)年3月17日までの間通常運転を行い、同月18日、第15回定期点検のために運転を停止した。同4号機は、2010(平成22)年5月29日より調整運転を、同年6月23日より2011(平成23)年7月21日まで通常運転を行い、同月22日、第14回定期点検のために運転を停止した。

 2 福島第一原発事故後、大飯発電所3号機及び4号機の再稼働に至る経過

2011(平成23)年3月11日、東日本大震災が発生し、福島第一原子力発電所の爆発事故が発生した。同事故を受けて、経済産業大臣は、同月30日、「平成23年福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について(指示)」を発した。さらに、同年4月15日には、「原子力発電所及び再処理施設の外部電源の信頼性確保について(指示)」を発した(甲141、142)。同年5月6日、原子力安全・保安院は、大飯発電所につき、緊急安全対策が妥当である旨の判断を行った。
そして、同年7月6日、内閣総理大臣が再稼働に向けた新たなルール作りを経済産業大臣、内閣府特命大臣に指示し、同月11日には、官房長官、経済産業大臣、内閣府特命大臣(以下、3者をあわせて「関係3閣僚」という。)が、ストレステストの実施により再稼働を判断する方針を明らかにした。これを受けて、同月22日、原子力安全・保安院長は関西電力に対し、ストレステスト実施を指示した。
関西電力は、同年10月28日に大飯発電所3号機の、同年11月17日に同4号機の、各ストレステスト(一次評価)実施結果を原子力安全・保安院に提出した。
2012(平成24)年2月13日、原子力安全・保安院によるストレステスト最終審査がなされ、同年3月23日、原子力安全委員会による確認が行われた。
同年4月6日、内閣総理大臣は、関係3閣僚とともに原子力発電所再稼働に関する安全性の判断基準を決定し、「原子力発電所の再起動にあたっての安全性判断に関する判断基準」(暫定基準、甲143)を発表するとともに、経済産業大臣は関西電力に対し、実施計画の作成を指示した。同月9日、関西電力は実施計画を提出し、同月13日、内閣総理大臣と関係3閣僚による再稼働に関する判断がなされ、大飯発電所3号機及び4号機の再稼働の方針が決定された。
そして、同年7月5日には3号機が、同年7月21日には4号機が、それぞれ調整運転を開始した。

 3 原子力規制委員会の発足

後述する原子力規制委員会設置法制定を受け、2012(平成24)年9月19日、独立行政委員会である原子力規制委員会が発足し、同日、原子力規制員会第1回会議が開催された。冒頭の挨拶の中で、田中俊一原子力規制委員会委員長(以下「田中委員長」という)は、「この原子力規制委員会の最も重要なことは、地に落ちた原子力安全行政に対する信頼を回復することにあります。」と発言し(甲144)、暫定基準を見直し、同設置法で定められた任務に基づいて新規制基準の策定を行うこととなった。

 4 大飯原発第3・4号機の事実上の新規制基準事前審査

  (1) 原子力規制委員会による新規制基準の策定作業

原子力規制委員会は、2013(平成25)年2月6日、「発電用軽水型原子炉施設に係る新安全基準骨子案」を発表し、翌2月7日から同月28日まで、骨子案のパブリックコメントを募集した。
なお、このパブリックコメントでの指摘を受け、原子力規制委員会は「新安全基準」という名称を、現在の「新規制基準」に変更している。

  (2) 田中委員長による大飯発電所3号機及び4号機の現状評価の提案

上記のパブリックコメントの募集期間が終了した直後の同年3月19日、平成24年度原子力規制委員会第33回会議が開催された。その会議上、田中委員長は、運転中のプラントである大飯発電所3号機及び4号機が新基準をどのくらい満たしているのか把握するための確認作業を行うことを私案として提案し、その上で、安全上重大な問題があると認める場合には、原子力規制委員会として停止を求める可能性に言及し、委員会の承認を得た(甲145、146)。

  (3) 大飯発電所3号機及び4号機の現状評価の実施

ついで同年4月17日に行われた平成25年度原子力規制委員会第3回会議において、「関西電力大飯発電所の現状評価の進め方」が検討され、4月19日に初回を開催し、評価会合及びヒアリングで具体的な作業を行い、新基準施行前の6月下旬に評価結果をまとめる方針が決定された(甲147)。
同会議の翌18日には、被告関西電力は、「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」を規制委員会に提出し、同年4月19日、「大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合」第1回会議が開催され、以後、急ピッチで評価会合とヒアリングが実施され、同年6月15日の現地調査を経て、同年6月20日、第13回会議において、「関西電力(株)大飯発電所3号機及び4号機の現状評価(案)」が提案された(甲148)。
他方、新規制基準は、同年6月19日に開催された平成25年度原子力規制委員会第11回会議において決定され、閣議決定を経て同年7月8日施行されることが決定された。

  (4) 大飯発電所3号機及び4号機の現状評価の結論

同年7月3日に開催された平成25年度原子力規制委員会第13回会議において、原子力規制委員会は、「関西電力(株)大飯発電所3号機及び4号機の現状評価(案)」を承認した(甲149、150)。
この現状評価では、「新規制基準を満たしていない点」として、「火災防護の観点から、安全機能を有する機器等を適切に分離させること等が必要であるところ、一部の機器等については、適切な分離等が図られておらず」という点や、重大事故対策において必要な緊急時対策所がいまだ施工されていない等の点が具体的に指摘され、「既に指摘した様に、新規制基準施行後審査においては対応すべき課題があり、これらに対し適切に対策を講じることが必要である」と記載された(甲149・44頁以下「6 総論」)。しかしながら、結論としては、「新規制基準に照らして現状を評価した結果、6月末の時点の施設及び運用状況において、直ちに安全上重大な問題が生じるものではないと判断する。」(甲149・44頁以下「6 総論」)とされた。
そして、大飯発電所3号機及び4号機は、同年9月の定期点検による停止まで、暫定基準に基づく稼働を続けたのである。