◆ 原告第11準備書面
第3 法改正を巡る事実経過

原告第11準備書面
-違法性論- 目次

第3 法改正を巡る事実経過

 1 新規制基準の成立と施行[1]

2011(平成23)年3月12日の福島第一原発事故を契機に明らかになった原子力に関する行政の不備を是正するため、2012(平成24)年6月27日、国は、「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉基法」という)」を改正し、原子力規制委員会設置法を制定した。

[1] 原告ら第5準備書面に詳述

 2 概要

  (1) 原子炉等規制法の改正

まず、炉規法の主要な改正として、電気事業法の原子力発電所に対する安全規制(工事計画認可、使用前検査等)が、原子炉等規制法に一元化された。
また、同法の目的、許可等の基準から「原子力の開発及び利用の計画的な遂行」を削除し、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を目的規定に追加した[2]。
さらに、福島第一原発事故をふまえ、炉規法に、シビアアクシデント対策、自然災害対策、バックフィット、運転期間の延長認可が盛り込まれた。炉規法は、4段階に分けて施行された(2012(平成24)年9月19日、2013(平成25)年4月1日、同年7月8日、同年12月18日)

[2] 改正前の炉規法においても、伊方原発訴訟控訴審判決(高松高裁昭和59年12月14日)は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条1項は原子炉周辺の住民の生命・身体等をも保護法益とするから、周辺住民は原子炉設置許可処分取消訴訟の原告適格を有する」として、同法が住民の生命身体を保護法益とすることを認定している。

  (2) 原子力規制委員会設置法の制定

原子力委員会設置法第1条によれば、原子力規制委員の設置は、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故を契機に明らかとなった原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し、並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って、確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務(原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関すること並びに国際約束に基づく保障措置の実施のための規制その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関することを含む。)を一元的につかさどるとともに、その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」ものである。
この法の目的を達成するため、原子力規制委員会は、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ること(原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関すること並びに国際約束に基づく保障措置の実施のための規制その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関することを含む。)を任務とする」(原子力規制委員会設置法第2条)ものである。
そして、原子力規制委員会には、「原子力施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合等に加え、原子力施設の位置、構造及び設備に係る設置許可基準に適合していない場合にも、原子力規制委員会の発電用原子炉の設置許可を受けた者等に対して、使用の停止、改造、修理、移転等を命じることができる」(設置法附則15条ないし17条)という強い権限が与えられた。

  (3) 原子力規制委員会による停止等命令の根拠法

   ア 新炉規法第43条3の23

新炉規法第43条3の23は、発電用原子炉施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合に加え、改正原子炉等規制法44条の3の6第1項4号の設置許可基準に適合していない場合にも、発電用原子炉設置者に対して、使用停止等処分を行うことができる旨規定された[i]。
この点、同条は「その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。」と定めるが、「使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定」は例示列挙であり、保安のために必要な措置であれば、原子力規制委員会は「廃炉」を命ずることができると解するべきである。けだし、新炉規法は目的規定として「もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を明示したところ、科学の発達、知見の進展、施設の老朽化に伴い、古い審査基準にて設置を許可された原子炉が、今日的には、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を害する具体的危険がある設置物と判断されるに至れば廃炉とするのが規制の方法として当然である。
また、原子力発電所は、火力発電所、水力発電所と異なり、原子炉燃料の処理においても慎重な配慮が必要であるから、具体的危険が確認された原子力発電所については、単なる使用停止にとどまらず、適切な廃炉処理まで行わなければ危険を除去したことにはならないからである。

[i] (施設の使用の停止等)
第四十三条の三の二十三 原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が第四十三条の三の六第一項第四号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が第四十三条の三の十四の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が前条第一項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。
2 原子力規制委員会は、防護措置が前条第二項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、発電用原子炉設置者に対し、是正措置等を命ずることができる。

(許可の基準)
第四十三条の三の六 原子力規制委員会は、前条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。
二 その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があること。
三 その者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。第四十三条の三の二十二第一項及び第四十三条の三の二十九第二項第二号において同じ。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。
四 発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。
2 前項の場合において、第四十三条の三の三十第一項の規定により型式証明を受けた同項に規定する特定機器の型式の設計は、前項第四号の基準(技術上の基準に係る部分に限る。)に適合しているものとみなす。
3 原子力規制委員会は、前条第一項の許可をする場合においては、あらかじめ、第一項第一号に規定する基準の適用について、原子力委員会の意見を聴かなければならない。

(発電用原子炉施設の維持)
第四十三条の三の十四 発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。ただし、第四十三条の三の三十三第二項の認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。

   イ 新炉規法第43条3の23の要件

新炉規制法第四十三条の三の二十三は、

【要件】

 (1) 発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が第四十三条の三の六第一項第四号の基準に適合していないと認めるとき、(2)発電用原子炉施設が第四十三条の三の十四の技術上の基準に適合していないと認めるときは…

【効果】

 「その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。」と定める。

同条が引用する第四十三条の三の六第一項第四号の基準は

 「四 発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。」

同条が引用する第四十三条の三の十四の技術上の基準は

  「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。ただし、第四十三条の三の三十三第二項の認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。」

である。

   ウ 小括

したがって、発電用原子炉設置者は審査時以降も「発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準」ヘの適合を維持することが必要であり、これを充たさない場合には、原子力規制委員会は停止等命令を発する義務がある。

  (4) 炉規法改正前の停止命令等の根拠法

炉規法改正前の停止命令等の根拠法は電気事業法第39条、第40条[3]である。また、炉規法改正後施行前の期間について主務官庁による技術基準適合命令が発し得ると解すべきである。従って、この期間においても被告国は電気事業法又は新炉規法による停止等命令を発することができた。

[3] (事業用電気工作物の維持)
第三十九条 事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。
2 前項の主務省令は、次に掲げるところによらなければならない。
一 事業用電気工作物は、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること。
二 事業用電気工作物は、他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること。
三 事業用電気工作物の損壊により一般電気事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること。
四 事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては、その事業用電気工作物の損壊によりその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること。
(技術基準適合命令)
第四十条 主務大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。