◆ 原告第12準備書面
第8 核のゴミの問題

原告第12準備書面
-福島第一原発事故による汚染状況等 目次

第8 核のゴミの問題

 1 原子力発電の燃料が放射性廃棄物(核のゴミ)になるまでの過程について

  (1) 原子力発電の燃料の使用から使用後までの状況(現在の建前)

 ア 原子力発電は濃縮ウランを燃料にしている。濃縮ウランは,ウラン鉱山から採掘された天然ウランを精錬して作られる。天然ウランは,ウラン235とウラン238の混合物であるが,核分裂を起こしにくいウラン238が大半で,核分裂を起こしやすいウラン235が0.7パーセント程度しか含まれていないため,精錬によりウラン235の比率を3%~5%程度に高めた濃縮ウランに加工する。
原子力発電には濃縮ウランを用い,主にウラン235の核分裂から生じる熱エネルギーを利用して発電を行う。なお,ウラン238から変化したプルトニウム239の核分裂から生じる熱エネルギーも発電に利用されている。

 イ 原子力発電により,燃料である濃縮ウランは核分裂(主にウラン235とプルトニウム239)を起こし,この核分裂によって,ヨウ素131,セシウム137,ストロンチウム90などといった有害な放射性物質を多数生成する。
発電を続けることで,核分裂するウラン235の割合が減少する。ウラン235の割合が一定程度低くなれば,燃料の交換を行う。すなわち,古い燃料を取りだし,新しい濃縮ウランの燃料を入れる。ここで,取り出された古い燃料は使用済み核燃料と呼ばれる。

 ウ 使用済み核燃料は,大飯発電所を含めて,日本国内の各原子力発電所の原子炉建屋内の貯蔵プールにおいて数年間保管され,冷却を行う。
その後,使用済み核燃料は,再処理工場に回され,再処理施設で処理され,更に燃料として使用できるものとそれ以外(放射性廃棄物)に分けられる。

 エ 再利用できる核燃料については,高速増殖炉などで発電の燃料とされたり,その他の原子力発電所で発電の燃料として利用されることとなっている。これらで使用された燃料についても,再処理をされ,さらに再利用できる核燃料と再利用できない放射性廃棄物(核のゴミ)とに分けられる。これらの過程を繰り返し,使用済み核燃料は,最終的には,放射性廃棄物(核のゴミ)となる。

  (2) 実際の状況ついて

原子力発電所を行い,その後使用済み核燃料として,各原子力発電所の原子炉建屋内の貯蔵プールに保管されるという過程までは,建前通りとなっている。
しかし,現状では,青森県六ヶ所村にある使用済み核燃料の再処理工場が稼働しておらず,また稼働する見込みも立っていないため,各原子力発電所の使用済み核燃料プールの使用済み核燃料は,再処理がなされないまま保管が続けられている。すなわち,発電をすればするほど,使用済み核燃料が積み上がっていくという状況になっている。また,使用済み核燃料を再処理した核燃料を使用するはずの高速増殖炉についても現状稼働の目途は立っておらず,将来的に稼働する見込みも立っていない。

  (3) 高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物

放射性廃棄物(核のゴミ)は,使用済みの燃料で今後再利用できないものに限られるわけではなく,作業員が来ている防護服,手袋等放射性物質に接触したものはすべて放射性廃棄物(核のゴミ)となる。
これらの放射性廃棄物は,放射能の量に応じて,高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に分けられる。
使用済みの燃料で今後再利用できないものには大量の放射性物質が含まれており,高レベル放射性廃棄物に含まれる。また,再利用が可能であるとされて保管されている使用済み核燃料にも当然に大量の放射性物質が含まれており,再利用ができないのであれば,燃料ではなく,当然にその使用済み核燃料自体が高レベル放射性廃棄物ということになる。実際,世界的に見ても再処理を行って燃料として再利用している国は少なく,核燃料を再処理して再利用しない国々では資料済み燃料がそのまま高レベル放射性廃棄物として扱われることとなる。

  (4) 放射性廃棄物(核のゴミ)の最終的な処分方法について

   ア 高レベル放射性廃棄物の処分方法について

高レベル放射性廃棄物については,きわめて長期間にわたって,人体等に有害な放射線を放出するために,これについては,放射性物質を大気中等に放出しないよう,きわめて長期間にわたって,厳重に管理し続けなければならない。
日本においては,2000年(平成12年)に特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律が制定され,高レベル放射性廃棄物については,地下300メートル以上の地下深くに地層処分することとなっている。そして,地層処分を行う場所(最終処分場)の選定については,原子力発電環境整備機構(NUMO)が行うこととなっている。
現在においては,日本も含め,厳重な管理方法として,高レベル放射性廃棄物については,再処理工場でガラス固化して30年から50年保管し,放射能及び発熱量が比較的少なくなってから,これを地中深く(深さ300メートル以上)に埋めて保管することとなっている(地層処分)。実際,フィンランドにおいては,すでに高レベル放射性廃棄物を地中深くに埋めるために,その施設の建設が始められている。

   イ 低レベル放射性廃棄物の処理方法について

低レベル放射性廃棄物の処理については,地下300メートル以上の地下に地層処分される高レベル放射性廃棄物に比べ,比較的浅い地中に埋設することとなっている。なお,低レベル放射性廃棄物のうち,放射性物質濃度の高いものについては,高レベル放射性廃棄物同様,地層処分がなされることとなっている。

 2 日本における使用済み核燃料の処理の現況について

  (1) 最終処分の前提すら整っていない

放射性物質を大量に含む使用済み核燃料については,再処理され,高レベル放射性廃棄物と再利用できる核燃料に分離することとなっており,これまでの使用済み核燃料の一部は,フランスやイギリスの再処理工場で再処理されて,再利用できる核燃料と高レベル放射性廃棄物への分離がなされている。
しかし,多くの使用済み核燃料は,再処理されないまま,大飯発電所を含めた各原子力発電所内の原子炉建屋内の貯蔵プールで保管されている。すなわち,高レベル放射性廃棄物の最終処分の前提として,これらを再処理して,ガラス固化体にする必要があるが,ガラス固化体にされている高レベル放射性廃棄物は,イギリス,フランスに再処理を委託した分程度であり,多くの使用済み核燃料は,再処理されないまま,大飯発電所を含めた各原子力発電所の原子炉建屋内で保管されたままである。また,再処理を前提に青森県六ケ所村の再処理工場に持ち込まれた使用済み燃料により,六ヶ所村再処理工場の使用済み核燃料の一時保管スペースはこれ以上持ち込めないほどの量となっている。
全国各地の原子力発電所においても,一時保管スペース(使用済み核燃料プール)にかなりの割合の使用済み核燃料が保管されている状況である。
2012年9月末時点で,全国の原子力発電所及び六ヶ所村の再処理工場に保管されている使用済み核燃料は,少なくとも1万7000トン以上あるとされている。大飯発電所においては2020トンの使用済み核燃料を保管するスペースがあるとされているが,同時点において,1430トンの使用済み核燃料が保管されており,使用済み核燃料の貯蔵可能量のうち71パーセントが使用されている状況である。

  (2) 最終処分場建設の見込みはない

日本においては,最終処分場の選定については,2000年(平成12年)に特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律が制定されて以降,原子力発電環境整備機構(NUMO)が最終処分場の候補地を探している状況であるが,現時点で最終処分場を建設する場所は全く決まっていない。
2007年(平成19年)に,高知県の東洋町の町長が,議会に諮らずに原子力発電環境整備機構(NUMO)に最終処分場の候補地選定に向けた文献調査の申請を行ったことがあったが,最終的には町長辞職後の町長選で,最終処分場建設反対の候補が勝利し,申請は撤回されている。そして,その後,最終処分場候補地として立候補した自治体は皆無である(その前提となる候補地選定に向けた文献調査の申請を行った自治体もない)。東日本大震災による福島第一原発事故の惨状を経た現在において,これまでの状況から考えても,日本国内の自治体において,最終処分場建設を推進する自治体が今後現れる可能性は皆無であり,最終処分場建設の見込みは全くない。

 3 最終処分場が建設できたとしても長期間安全に保管できる見込みはない

  (1) 現状の考え

高レベル放射性廃棄物が人体等に有害な放射線等を放出しない比較的安全な状態になるためには,一般的に少なくとも10万年の期間が必要という風に理解されている。
まず,10万年というのは極めて長期間であるということを理解する必要がある。人間の寿命はわずか70~80年程度であり,建物等の建造物,製造物についてもせいぜい数十年程度の寿命であり,10万年というのはこのような現実から考えると,極めて極めて長い期間というほかない。
そのように考えると,そもそも10万年間もの長期間,老朽化等せずに高レベル放射性廃棄物を保管し続ける設備を設けることができるとは到底考えられないし,ガラス固化体にして,厳重に保管しているとされている高レベル放射性廃棄物が10万年間全く腐食等せず保管し続けることが可能であるとも到底考えられない。
また,現在において,数千年前程度の古代の文字ですら解読できない状況の中で,その地中深くに埋めた人体等に有害な高レベル放射性廃棄物が,きわめて有害な危険な物質であることを,数万年から10万年先の将来の人類に対して生活に伝えることすら不可能であると言える。

  (2) 日本の現状について

 ア 地震がほとんどないフィンランドと違い,日本は世界有数の地震大国であるという問題もある。フィンランドでは,地下300メートルほどの深さに最終処分場が建設されているが,日本においては,同じように地下300メートルほどの深さに最終処分場を建設したとして,これらの施設が地震による影響を受けずに存続し,かつ高レベル放射性廃棄物を安全に厳重に保管し続けられるかどうかは極めて疑わしい。

 イ 特に地震大国日本の場合,地震等が発生した場合に,地中深くだからといって,そこにある設備(最終処分場)が全く無傷であるという保証はなく,また,その中に保管されている高レベル放射性廃棄物についても,何ら放射線を大気中等に放出させないで安定して存在し続けることができる保証は全くない。
神戸大学名誉教授であり、国会事故調調査委員会委員であった地震学者石橋克彦氏は下記の通り、活断層の有無とは無関係に大地震が起こりうることを述べている。したがって、最終処分施設が地中深くに建設されたとしても、10万年もの長期間に渡り施設自体が存続し続けるという仮定が誤っている。

 「活断層は発見されているもの以外に、大地震の震源断層面深くて岩石のずれが地表にあらわれなかったり、大地震がまれにしかおこらなくて地表のずれが浸食されて累積しなかったりすれば、地下に大地震発生源があっても活断層はできない。つまり、活断層がなくとも直下の大地震はおこる。」
「日本海側の原発はどこでも直下でM7級の大地震がおこっても不思議ではない。たとえば13基の原子炉がひしめく若狭湾地域は、福井地震(M7.1)と北丹後地震(M7.3)の震源域の間だが、似たような直下地震の発生を警戒した方がよいくらいである」

(甲201:原発震災破滅を避けるために)。

  (3) 福島の状況について

福島第一原発事故が発生してから,既に4年が経過しているが,現時点で,放射性廃棄物の処理についての道筋がついているとは言い難い。
最近になって,福島県内において,中間貯蔵施設が建設される方向で進められてきているが,あくまで中間貯蔵施設であり,また,福島第一原発事故により生じた放射性廃棄物の処理のための施設であるに過ぎない。福島第一原発事故により生じた放射性廃棄物の処理のための最終処分場建設の目処は全く立っていない。
さらに,全国各地にある原子力発電所の高レベル放射性廃棄物の処分については,最終処分場はおろか,中間貯蔵施設の建設についても,全く目処が立っていない状況である。
 4 日本学術会議の報告

  (1) 日本学術会議への検討依頼

平成22年(2010年)9月、原子力委員会は日本学術会議に「高レベル放射性廃棄物の処分について」の検討依頼を行った。日本学術会議[1]は、人文・社会科学と自然科学の分野を含む他分野の専門家から成る「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置し、1年程で回答をまとめる予定で審議を開始した。しかし、この報告書の作成までの間に福島第一原発事故が起こったため、日本学術会議は、事故を踏まえ再度の審議を行った結果、平成24年9月11日に回答を行った。

[1] 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された。主な職務は、主にⅠ政府に対する政策提言、Ⅱ国際的な活動、Ⅲ科学者間ネットワークの構築、Ⅳ科学の役割についての世論啓発とされる。(日本学術会議HP:http://www.scj.go.jp/ja/scj/index.html)

  (2) 日本学術会議の提言

 ア 日本学術会議は、高レベル放射性廃棄物の処分に関し「抜本的見直しが必要」として提言を行った(甲202:日本学術会議 回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」)。
この提言の根底には、高レベル放射性物質の処分問題は「負の帰結」(ここでは、原子力発電に伴う不可避のコスト、リスクを指すと考えられる)が増大するため、合意形成が困難であるとの認識がある。

 「合意形成の困難さの根底には、原子力発電は、それによる受益を増加させようとすればするほど、それに付随して、負の帰結(被曝労働、定常的汚染、放射性廃棄物、事故の危険性)が増大するという特徴がある。負の帰結の中でも高レベル放射性廃棄物は、現在世代の一時的な受益が、超長期にわたる将来世代に危険性を負担させるという特徴を持つ。負の帰結を減少させるための最善の技術的工夫をしたとしても、これらの負の帰結を完全にゼロにすることはできない。原子力諸施設の中でも、高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、超長期にわたり地下を安全かつ安定的に使用することが必要とされる施設であり、数十年の使用期間を想定している原子力発電所と比べて、千年・万年という桁外れの超長期間にわたり、汚染の発生可能性問題に対処しなければならないという困難を抱えている。」

(甲202-8)

 イ また、同報告書は高レベル放射性廃棄物の処分問題の不確実性についても言及している。ここでは、地質環境の安定性の評価に関して、「放射能が生物圏に影響を与えることのないよう確実に隔離することが可能だ」という見解に異を唱える専門家が日本内外に存在することを示し、高レベル放射性廃棄物の管理可能性について専門家内でも共通認識が形成されていないことを吐露している。(甲202-13)

 「科学者は、各時点の科学的知識によっては不明なことや不確実なことがあるという、科学・技術の限界を自覚するとともに、社会的にそれを明示した上で、賢明な対処法を探るべきである。今後の本件への取組みに際して、諸施設の準備や操業の過程において、既存の知識では想定していなかった現象が起こって、計画そのものの見直しを迫られることは十分に考えられる。例えば、巨大な噴火および噴出物の広域的な影響、「活断層」と認定されていない断層の活動、巨大な地すべりによる広範囲の荒廃など、想定外の事象が起これば、計画そのものの変更が必要になることもありうる。想定外の事象、不明なことや不確実なことについても、専門家間での認識の共有が必要である。
もちろん、専門家の間には、「超長期にわたる不確実性を考慮しても、放射能が生物圏に影響を与えることのないよう確実に隔離することが可能だ」という認識が存在し、これはわが国における現行の地層処分計画が依拠する処分概念の基本的な前提でもある。しかし、不確実性の評価をめぐって、とりわけ超長期の期間における地質環境の安定性の評価については、こうした見解とは異なる認識を示す専門家が国内外に存在することもまた事実であり、上記のような問題についての専門家間での丁寧な議論を通じた認識の共有を経ずに高レベル放射性廃棄物の地層処分を進めるという姿勢では、広範な支持のある社会的合意の形成はおぼつかない。科学者の認識共同体において必要な施設建設に適した安定性を有する地域を検討し、また、それを様々な角度から開かれた形で進めていく以外に、施設立地点の選定について社会的合意を得ることは難しい。」

 ウ 日本学術会議は、上記を含む議論をもとに、日本政府に対して6つの提言を行った。この中で総論部分である提言(1)は、政府に対し「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し」を求めるものであり、現行の高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の不可能性を端的に指摘している。

 「(1) 高レべル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
わが国のこれまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、「原子力環境整備機構」(NUMO)をその担当者として進められてきたが、今日に至る経過を反省し、また政府や原子力委員会自身が現在着手している原子力政策の抜本的な見直しに鑑みれば、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来していることをしっかりと認識する必要がある。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻す覚悟で見直さなければならない。」

 エ 小括
日本政府が検討を依頼した日本学術会議も、現在の科学水準では、高レベル放射性廃棄物処理の方法について疑義が呈され「政策の抜本的見直し」を行うべきである旨回答している。これは、高レベル放射性廃棄物処理の不可能性を明らかにするものであり、これ以上の高レベル放射性廃棄物の発生を早急に遮断する必要がある。

 5 まとめ

現在においては,原子力発電を行えば行うほど高レベル放射性廃棄物がどんどん増えていく状況であるが,高レベル放射性廃棄物を安全・適切に処理する方法は全く見つかっていない。
一応の方法として,地層処分という方法が採られることとなっているが,その安全性は全く検証されていない。そして,地層処分をするための施設の建設は行われておらず,それ以前に,その地層処分を行う場所の選定すら行われておらず,今後も地層処分を行う場所が選定される見込みはない。
原子力発電は,人体等に極めて有害で,かつ極めて長期間にわたって人体等に有害な影響を与え続ける高レベル放射性廃棄物を生成する。原子力発電が始まって数十年が経過するが,これらの有害物質を無害にする方法は見つかっておらず,かつこれらの有害物質たる高レベル放射性廃棄物を人体等に影響を及ぼさないように完全にコントロールする方策すら全く見つかっていない状況である。
このように高レベル放射性廃棄物の完全な処理方法が見つかっていない状況の中で,原子力発電を続けるということは許されるものではなく,速やかに原子力発電を続けるという選択をやめるべきである。

以上