◆ 原告第13準備書面
第2 ドイツの脱原発の決断・「ドイツ脱原発倫理委員会報告」から、日本が学ぶべきこと

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第2 ドイツの脱原発の決断・「ドイツ脱原発倫理委員会報告」から、日本が学ぶべきこと

 一、日本では既に1年半以上にわたり原発稼働ゼロの状況が続いている。市民の節電努力もあり稼働ゼロでも電力は充分に足りていることが既に実証されている。この流れをさらに確かなものにするには再生可能エネルギーへの転換が必須である。この点で、日本の福島原発事故を受けて素早く原発ゼロの決断をしたドイツの教訓に学ぶことが重要である。

 二、「ドイツ脱原発倫理委員会報告」が示すもの

  1. ドイツ政府は、原発をどうすべきかを根本的に検討するために、2011年福島原発事故のわずか1ヶ月後に「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」(以下、「倫理委員会」という)を設置した。2011年5月30日、倫理委員会は報告を提出した。同報告の日本語訳は「ドイツ脱原発倫理委員会報告」(「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」著 吉田文和及びミランダ・シュラーズ編訳 大月書店)として出版されている。
  2. ドイツ政府は、同年6月6日、2022年までの原発廃止を閣議決定し、国会は、保守・革新にかかわりなく、圧倒的多数で承認した。
  3. 倫理委員会のメンバー構成の特徴
    注目すべきは、倫理委員会のメンバー構成である。リスク社会学者、哲学者、宗教者、経済学者、労働組合代表、経済界代表等から構成され、原子力専門家は入れていない。しかも、並行して、技術者らによる「原子炉安全委員会」(RSK)も設置され、同委員会は、ドイツ国内の原子炉の安全評価の任務を与えられ、同年5月16日(倫理委員会報告の2週間前)に「ドイツの原発は、航空機の墜落を除けば比較的高い耐久性をもっている」との報告を出した。このRSK「報告」にかかわらず、メルケル首相(保守党)は脱原発を決断し、国会は承認したのである。
  4. 報告書の要点
    同報告の要点は次のとおりである。
    (1)原子力発電所の安全性が高くても、事故は起こりうる
    (2)事故が起きると、他のどんなエネルギー源よりも危険である。
    (3)次の世代に廃棄物処理などを残すことは、倫理的問題がある。
    (4)原子力より安全なエネルギー源が存在する。
    (5)地球温暖化問題もあるので、化石燃料を原子力発電の代替として使うことは解決策ではない。
  5. 技術的課題の検討
    同報告は、ⅰコジェネレーション・システムの発電を広く適用、ⅱエネルギー効率を高める材料科学研究、ⅲ蓄電技術(水素電気分解)の研究等の技術的課題を検討し、放射性廃棄物の最終処分の問題も検討している。
    この問題についての具体的検討は、「第7 三」で詳述するとおりである。
  6. 脱原発の国内経済への効果
    同時に、同報告が倫理委員会の目標として次の点を指摘している点が重要である。(1)環境にやさしく、国際的な経済競争力と国内の豊かな生活を保障する信頼できるエネルギー供給のありかたを提案すること。

    (2)エネルギー大転換は、経済的リスクを最小限に抑えることができれば、風力発電やバイオガスプラントなど再生可能エネルギー関係設備やサービスの輸出国として、ドイツが利益をさらに得るチャンスであり、技術的にも、経済的にも、社会的にも、大きなチャンスである。ドイツは国際社会において、脱原発が高い経済効果のチャンスであることを示すことができる。新再生可能エネルギー普及とエネルギー効率化政策で、原子力発電を段階的にゼロにしていくことは将来の経済のためにも大きなチャンスになる。

    (3)ここには、再生可能エネルギーの開発・利用・輸出で世界をリードし、雇用と地域経済活性化につなげ、リスクをチャンスに変えるという、ドイツ財界も含めたしたたかな戦略が存在する。

  7. このように、倫理委員会報告は原発の是非・将来を判断するために多面的な検討を行っているが、原発ゼロの最終決断の根底に、将来の世代に決して原発を残してはならないという圧倒的多数の日本国民と共通する強い想いがこめられている。それは、前述の「倫理委員会」という名称とメンバー構成が端的に物語っている。原発輸出をアベノミクス「成長戦略」の柱とする日本の現政権との違いは、あまりにも歴然としている。