◆原告第1準備書面
-国際水準の安全対策の不備-

原告第1準備書面
-国際水準の安全対策の不備-

2013年(平成25年)11月28日

  第1準備書面

 

目次——————————————–

第1 はじめに

第2 原子力安全対策の不備
 1 深層防護という考え方
 3 世界に遅れた日本の安全対策
 4 小括

第3 大飯原発を再稼働させてはならない
 1 新規制基準
 2 強引な大飯原発3・4号機の稼働
 3 小括

本文——————————————–

 

第1 はじめに

 訴状第1乃至第3で詳しく述べたとおり、原発は、放射線被ばくによる危険という特有の性質をもち、ひとたび事故が発生すれば、取り返しのつかない大きな被害が発生する。
 福島第一原発事故は、深刻な事故は万が一にも起こらないという「安全神話」が幻想であることも明らかにした。そして、同事故は、原発の根本的な危険性(訴状12頁第2)に起因し、人口が密集して巨大地震が多発する日本においては、安全性を満たした原発は存在し得ないことをも明らかにした。
 それにもかかわらず、国、関電が、現在なお、日本で求められる安全性よりも低い水準であるはずの国際水準すら充たさないまま、大飯原発を再稼働させようとしていることについて以下に述べる。

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第2 原子力安全対策の不備

1 深層防護という考え方

 (1) 世界的には、原子力安全対策において、「深層防護(Defense in Depth。多層防護、多重防護と訳されることもある)」がもっとも重要な指導理念とされてきた。深層防護とは、多重に安全防護のための障壁を備えることを意味する。

 (2) 深層防護が有効に機能するためには、①「階層間の独立」と②「前段否定の論理」が充たされなくてはならない。
 まず、①階層間の独立」とは、深層防護の各階層で、前後の階層に依存することなく最善の安全対策を尽くすべきであるという方法論である。
 つぎに、②「前段否定の論理」とは、各階層で最善を尽くして完璧に近い防護対策がなされているところに、あえて防護対策が破られると仮定し、防護対策を講じるべきであるという方法論である。例えば、第5層(後述)の防災対策の準備がこれに当たる。原子力発電所では、完全に安全と断言できる状態を目指して努力をする一方で、万一の事故を想定して、原子力災害に備えた準備をすることで、放射線の放出による市民の健康被害を回避できる。(甲32:国会事故調参考資料237頁より)

 (3) 深層防護の内容
 世界の原子力の安全に対する考え方は、スリーマイル島などの原発事故の教訓を経て進歩してきた。特に1986年のチェルノブイリ事故後、深層防護の概念は、万一の事故が起こった場合の対策をも考慮したものとなった。つまり、世界的には、福島第一原発事故の以前から、「安全神話」など存在しなかったのである。
 以下、国際機関であるIAEA及び世界一の原発立地国である米国の例を示す。

  ア IAEAの5層の深層防護
 IAEA(原子力の平和利用のため、国連による協議を経て設立された国際原子力機関)は、1990年代後半には、下記のような5層の深層防護の概念を提起していた(甲33:政府事故調核心解説86頁表3-1より。ただし( )内は原告らにて補充)。

 防護レベル  防護の対象・目的
第1防護レベル(第1層) 通常運転からの逸脱の防止
第2防護レベル(第2層) 異常事象の検知・事故への進展の防止
第3防護レベル(第3層) 設計基準事故時(設計時において想定・考慮された事故)の影響緩和
第4防護レベル(第4層) 過酷事故(設計基準事故を大幅に超える事故。シビアアクシデントともいう)への対応
第5防護レベル(第5層) 事故に起因する放射性物質の放出への対応

  イ 米国の6層の深層防護
 米国では、NRC(アメリカ合衆国原子力規制委員会)が、1994(平成6)年には第5層の深層防護の考え方を提起していた。その後、さらに第6層として「立地」を定義し、地震や、内部火災、強風・トルネードなどの外的事象を考慮するようになった(甲3:国会事故調報告書118~119頁)。
 以下、国会事故調査報告書(甲3)118頁の図を引用する。

3 世界に遅れた日本の安全対策

 (1) 国会事故調査委員会及び政府事故調査委員会は、いずれも、福島第一原発事故の時点で、日本における安全対策が不十分であったと指摘している。
 具体的には、まず、日本においては、IAEAの5層の深層防護の第1~3層にあたる対策しか考えられておらず、第4層の過酷事故対策については事業者の自主目標にすぎなかった。しかも、「決して第3レベルまでの深層防護も十分に講じられていたとみなすことはできない」と評価されている(甲33:政府事故調核心解説87頁)。  また、第5層について実効的な対策が講じられていなかったことにより、事故発生後の国の対応は混乱を極め、住民の被害は拡大した(甲3:国会事故調報告書第3、第4部)。

 (2) もっとも、日本においても、深層防護という指導理念が理解されていなかったわけではない。
 1998(平成10)年4月から2000(平成12)年4月まで原子力安全委員会委員長を務めた佐藤一男は、2006(平成18)年に「改訂 原子力安全の論理」という著書を発表し、一般の読者を対象に、深層防護の概念に基づいた原子力安全の考え方を詳しく解説している(甲34:「原子力安全の論理」51~53頁)。つまり、国は、早い段階で深層防護の必要性を認識していたのである。

 (3) ではなぜ、日本は、大きく法規制が遅れたのか。両調査委員会は、ともに、福島第一原発事故の原因は「人災」であるとして、この点を詳細に検討している。ここでは、過酷事故対策が自主目標とされた原因として、国が訴訟リスクを回避するためにあえて法規制を行わなかった事実に言及する箇所を以下に引用する。

 第1は、訴訟リスクの回避である。すなわち、1970年代から本格化した原子力発電所の建設を巡って、各地で原子炉設置許可処分の取り消しを求める行政訴訟が起こっていた。国側は、訴訟において現行規制で原子炉の安全は十分確保されているとの論理を展開した。そのため、新たに過酷事故対策を法令・規制要求事項とすると、現行の規制には不備があり、建設された施設にも欠陥があるということになってしまい、裁判の展開に悪影響が出るという判断があったのである。(甲33:政府事故調核心解説 90~91頁)

 規制当局は訴訟提起の可能性の有無によって法規制に技術的知見等を反映するかどうかを決めるといった、本末転倒な判断を行いがちになり、規制当局の姿勢にゆがみが生じた。(甲3:国会事故調報告書533頁「6.1.2 原子力法規制の在り方の視点」)。

4 小括

 以上、日本の原子力安全対策が、深層防護の概念という世界標準の安全対策から大きく後退していたことを述べた。そして、国、東電において、万が一にも事故を起こさないという対策が不十分であったばかりか、事故が起こったときの備えも欠いていたことを明らかにした。つまり、日本においては、市民の安全という、本来の原子力安全対策の目的が忘れ去られ、既存の原発の稼働に差し支えない範囲の対策しか検討されなかったのである。
 もっとも、深層防護の概念は、あくまで理論上のものにすぎない。特に、福島第一原発事故のように、原発施設外の自然現象を原因とし、それとの複合的な被害が発生する事故に対しては、深層防護の概念に基づく有効な対策の実現は非常に困難、あるいは不可能というべきであろう。例えば、地震や津波により建物が倒壊し、道路が寸断されるという状況の中で、事故の発生を防ぎ、また、周辺住民を迅速・的確に放射線汚染から避難させることは不可能に近い。国、及び、大飯発電所周辺自治体(おおい町、高浜町、舞鶴市、宮津市、及び、綾部市)による災害時の避難計画(方法)が実施困難なものである点については、次回以降詳述する。

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第3 大飯原発を再稼働させてはならない

 福島第一原発事故は、安全であると喧伝されてきた日本の原子力施設が、地震、津波等自然災害に対して必要な耐性を有していなかったことを明らかにしただけでなく、日本の原子力安全対策全体の不備をも明白にした。
 しかしながら、被告国も被告関電も、いまだ最低限の安全対策すら備えないまま、大飯原発を強引に稼働させ、また再稼働させようとしている。

1 新規制基準

 2013(平成25)年7月8日に施行された新規制基準は、国が策定すべき法規制の一部にすぎない。これをもって、原子力の安全対策が整備されたなどとは、到底いえない。
 すなわち、新規制基準は、原発施設の設計上の安全を評価するためのものである。市民の安全にとって重要な、IAEAの深層防護の第5層にあたる原発施設外の安全対策は、いまだ未整備である。例えば、原発周辺自治体の住民の避難計画の策定は進んでいない(甲35:日経新聞記事)。また、福島第一原発事故時に問題となった被ばく医療体制も、見直しがはじまったにすぎない(甲3:国会事故調査報告書4.2.3病院の全患者避難、甲36:朝日新聞記事)。

2 強引な大飯原発3・4号機の稼働

 大飯原発3・4号機は、新規制基準策定の前に、政治判断によって稼働させた唯一の原発である(訴状54~55頁)。
 そればかりでなく、被告国も被告関電も、大飯原発3・4号機が新規制基準にすら適合していないことが明らかとなってもなお、稼働を停止するという判断を行わなかった。
 すなわち、大飯原発第3・4号機については、2013(平成25)年4月19日から6月24日まで、原子力規制員会において「大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合」が開催され、事実上の事前審査が行われていたのである。そして、新規制基準施行直前の同年7月3日、「関西電力㈱大飯発電所3号機及び4号機の現状評価書」(甲37:以下「現状評価書」という)が、原子力委員会において承認された。
 この現状評価書では、結論において、「直ちに安全上重大な問題が生じるものではない」とされてはいるものの、「新規制基準施行後審査においては対応すべき課題があり、これらに対し適切に対策を講じることが必要である。」と評価された(甲37:現状評価書44頁)。例えば、設計基準に関する評価においては、「いくつかの点において、新規制基準を満たしていない点が認められた。」と明確に指摘されているのである(同45頁)。

3 小括

 以上のとおり、新規制基準すら満たさないまま、強引に大飯原発第3・4号機を稼働させ続けた被告らの行為は、原告らの安全を侵害する行為である。このような被告らの行為は、到底許されるものではない。
 また、市民の安全への対策は、新規制基準策定のみで達成できるものではない。したがって、被告らは、仮に大飯原発3・4号機が新規制基準に適合したとしても、それをもって再稼働させてはならない。

以上

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