裁判資料」カテゴリーアーカイブ

◆第7回口頭弁論 原告提出の書証

甲第107~115号証 (第9準備書面関連)
甲第116~140号証 (第10準備書面関連)
甲第141~155号証 (第11準備書面関連)
甲第156~202号証 (第12準備書面関連)

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。

証拠説明書 甲第107~115号証[74 KB] (原告第9準備書面関連)
2015年5月27日

  • 甲第107号証
    関西電力HP印刷画像(被告関西電力)
  • 甲第108号証
    実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第109-1号証
    発電用原子炉設置変更許可申請書(被告関西電力)
  • 甲第109-2号証
    発電用原子炉設置変更許可申請書添付資料十(同上)
  • 甲第110号証
    「加圧水型原発の溶融炉心・コンクリート相互作用と水素爆発に対する対策は新規制基準に適合していない」科学2015年(滝谷紘一)
  • 甲第111号証
    「検証・高浜審査書(案):水素発生量の評価を川内審査より緩めて爆発防止基準に適合とする判断は認められない」科学2015年3月号(滝谷紘一)
  • 甲第112号証
    九電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1号及び2号発電用原子炉施設の変更)に関する審杏書(原子力規制委員会)
  • 甲第113号証
    関西電力株式会社高浜発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(3号及び4号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書(原子力規制委員会)
  • 甲第114号証
    記者会見録(原子力規制委員会)
  • 甲第115号証
    政府事故調査報告書資料編(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会)

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証拠説明書 甲第116~140号証[216 KB] (原告第10準備書面関連)
2015年5月27日

  • 甲第116号証
    フクシマから学ぶ原発・放射能(かもがわ出版安斎育郎他監修)
  • 甲第117号証
    大飯発電所1号機の燃料集合体漏えいにかかる原因と対策について(関西電力)
  • 甲第118号証
    大飯発電所4号機の定期検査状況について(燃料集合体漏えい検査結果)(関西電力)
  • 甲第119号証
    大飯発電所2号機の燃料集合体漏えいに係る調査状況(続報)について(関西電力)
  • 甲第120号証
    漏えい燃料集合体装荷位置(関西電力)
  • 甲第121号証
    大飯発電所1号機の原子炉手動停止に伴う点検結果について(関西電力)
  • 甲第122号証
    大飯発電所1号機のB―余熱除去ポンプシール水空気抜き弁からの漏えいについて(関西電力)
  • 甲第123号証
    大飯発電所1号機の点検結果について(関西電力)
  • 甲第124号証
    大飯発電所3号機の原子炉手動停止に伴う点検状況について(関西電力)
  • 甲第125号証
    大飯発電所2号機の調整運転停止について(関西電力)
  • 甲第126号証
    大飯発電所3号機原子炉容器Aループ出口管台溶接部の傷の原因と対策について(関西電力)
  • 甲第127号証
    原子力年間2014(原子力資料情報室)
  • 甲第128号証
    原子力発電所蒸気発生器伝熱細管破断(1991年2月9日 福井県美浜町)(橘内良雄((社)日本クレーン協会) 小林英男(東京工業大学大学院理工学研究科))
  • 甲第129号証
    しんぶん赤旗記事2004年8月1日(日本共産党中央委員会)
  • 甲第130号証
    Finanze Green Watch記事2014年8月4日(Finance Green Watch)
  • 甲第131号証
    読売新聞記事2013年6月8日(読売新聞社)
  • 甲第132号証
    WSJ(THE WALL STREET JOURNAL)電子版記事2013年6月21日(肥田美佐子)
  • 甲第133号証
    MHI’s Steam Generator Operating Experience with Tube Vibration and Wear(三菱重工株式会社)
  • 甲第134号証
    新聞記事2011年7月23日(朝日新聞社)
  • 甲第135号証
    原発の老朽化問題と事故統計(日本科学者会議発行「日本の科学者」vol.41 no.10)(舘野 淳)
  • 甲第136号証
    高経年化対策という虚構(原子力資料情報室発行「老朽化する原発―技術を問う」67頁以下(田中三彦)
  • 甲第137号証
    原発の材料劣化(原子力資料情報室発行「老朽化する原発―技術を問う」41頁以下(井野博満)
  • 甲第138号証
    老朽化進む原発(原子力資料情報室発行「老朽化する原発―技術を問う」5頁以下(上野千尋)
  • 甲第139号証
    原発は何故危険か―元設計技師の証言(岩波新書)(田中三彦)
  • 甲第140号証 欠番

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証拠説明書 甲第141~155号証[119 KB] (原告第11準備書面関連)
2015年5月27日

  • 甲第141号証
    平成23年度福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について(別紙)(経済産業大臣海江田万里)
  • 甲第142号証
    海江田経済産業大臣の閣議後大臣記者会見の概要(経済産業省)
  • 甲第143号証
    原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準(内閣総理大臣野田佳彦ほか)
  • 甲第144号証
    平成24年度原子力規制委員会第1回会議議事録(抜粋、下線は原告代理人による)(原子力規制委員会)
  • 甲第145号証
    原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針(私案)(原子力規制委員会委員長)
  • 甲第146号証
    平成24年度原子力規制委員会第33回会議議事録(抜粋、下線は原告代理人による)(原子力規制委員会)
  • 甲第147号証
    関西電力大飯発電所の現状評価の進め方について(案)(原子力規制委員会)
  • 甲第148号証
    大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合(第13回)議事次第(原子力規制委員会)
  • 甲第149号証
    大飯発電所3・4号機の現状評価書(案)(原子力規制委員会)
  • 甲第150号証
    平成25年度原子力規制委員会第13回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)
  • 甲第151号証
    菅内閣総理大臣記者会見(首相官邸)
  • 甲第152号証
    浜岡原子力発電所の運転停止要請への対応について(中部電力会社)
  • 甲第153号証
    原子力規制委員会共同記者会見録(抜粋、下線は原告代理人による)H24.9.19(原子力規制委員会)
  • 甲第154号証
    原子力規制委員会共同記者会見録(抜粋、下線は原告代理人による)H24.9.26(原子力規制委員会)
  • 甲第155号証
    原子力規制委員会記者会見録(抜粋、下線は原告代理人によるH25.7.3(原子力規制委員会)

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証拠説明書 甲第156~202号証[207 KB] (原告第12準備書面)
2015年5月27日

  • 甲第156号証
    平成26年3月11日NHK WEBサイトニュース(NHK)
  • 甲第157号証
    脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会、2011年10月 26日声明(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)
  • 甲第158号証
    「原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算」(国民経済雑誌第191巻第3号掲載)(朴勝俊)
  • 甲第159号証
    放射性物質放出データの一部誤りについて(原子力安全・保安院)
  • 甲第160号証
    原子力発電所周辺環境放射能測定結果報告書(福島県・東京電力株式会社)
  • 甲第161号証
    広域モニタリング結果全体マップ(1m高さ)(文部科学省)
  • 甲第162号証
    (1)第6次航空機モニタリングの測定結果、及び(2)福島第一原子力発電所から80km圏外の航空機モニタリングの測定結果について(文部科学省)
  • 甲第163号証
    原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成27年5月25日現在(厚生労働省)
  • 甲第164号証
    週刊東洋経済オンライン記事2013.4.3(東洋経済新報社)
  • 甲第165号証
    『海の放射能汚染』(湯浅一郎)
  • 甲第166号証
    『原発事故環境汚染:福島第一原発事故の地球科学的側面』(中島至映ら編)
  • 甲第167号証
    東京新聞記事2013.7.10
  • 甲第168号証
    時事通信記事2014.9.8
  • 甲第169-1号証
    時事通信記事2014.10.14
  • 甲第169-2号証
    日経新聞記事2014.10.25
  • 甲第170号証
    共同通信記事2014.10.24
  • 甲第171号証
    産経新聞記事2015.2.24
  • 甲第172号証
    日経新聞記事2015.2.25
  • 甲第173号証
    毎日新聞記事2015.3.5
  • 甲第174号証
    東京新聞記事2015.3.5
  • 甲第175号証
    東京新聞記事2015.3.10
  • 甲第176号証
    東京新聞記事2015.3.26
  • 甲第177号証
    福島民報記事2015.4.22
  • 甲第178号証
    産経新聞記事2015.4.7
  • 甲第179号証
    共同通信記事2015.4.24
  • 甲第180号証
    「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(政府の原子力災害対策本部)
  • 甲第181号証
    「汚染水漏洩と水産物の安全性について」(水産庁)
  • 甲第182号証
    「東日本太平洋における水産物の出荷制限操業自粛等の状況について」(水産庁)
  • 甲第183号証
    TOKYO Web2014年9月11日(株式会社中日新聞社)
  • 甲第184号証
    除染情報サイト(環境省)
  • 甲第185号証
    TOKYO Web2014年4月27日(株式会社中日新聞社)
  • 甲第186号証
    福島民報ウェブサイト2015年2月28日(株式会社福島民報社)
  • 甲第187号証
    毎日新聞ウェブサイト2015年4月29日(株式会社毎日新聞社)
  • 甲第188号証
    河北新報ウェブサイト2014年8月2日(株式会社河北新報社)
  • 甲第189号証
    福島民報ウェブサイト(2014年8月19日株式会社福島民報社)
  • 甲第190号証
    日本経済新聞ウェブサイト2015年1月30日(株式会社日本経済新聞社)
  • 甲第191号証
    TOKYO Web2015年1月20日(株式会社中日新聞社)
  • 甲第192号証
    「福島第一原子力発電所」の現状と廃炉に向けた取り組み(経済産業省)
  • 甲第193号証
    東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(概要版)(東京電力株式会社・国)
  • 甲第194号証
    廃炉・汚染水対策の概要(経済産業省)
  • 甲第195号証
    京都新聞記事2015.2.27(京都新聞社)
  • 甲第196号証
    京都新聞記事2015.4.26(京都新聞社)
  • 甲第197号証
    東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針(政府の原子力災害対策本部)
  • 甲第198号証
    福島第一原子力発電所における汚染水処理とトリチウム水の保管状況(東京電力株式会社)
  • 甲第199号証
    時事ドットコムウェブサイト2015年2月24日(株式会社時事通信社)
  • 甲第200号証
    ロイターウェブサイト2015年1月30日(トムソン・ロイター・マーケッツ株式会社)
  • 甲第201号証
    原発震災破滅を避けるために(神戸大学名誉教授・石橋克彦)
  • 甲第202号証
    日本学術会議 回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」(日本学術会議)

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◆ 第7回口頭弁論 意見陳述 要旨

意見陳述
原告 菅野千景

2011年8月末私は二人の娘を連れて、放射能の汚染を避ける為に福島県福島市から京都へ避難しました。
私は仕事を辞めてしまいましたが、夫は仕事を直ぐには辞められず1人福島に残る事になりました。
引越しの荷造りをする時も、「なんでこんな事をしなければならないんだべね、誰のせいだべ、誰が悪いんだべ」と、こみ上げてくる思いに潰されそうになり、泣きながら置いてくる荷物と運び出す荷物を分けていました。
避難を決定するまでに私達の考えられる最大限の範囲で、避難するかしないか、両方のリスクと良い点を考え話しました。どんな艱難があっても支え合って乗り越えられるように、家族で確認することが大切だと強く感じたからです。
出発の日、夫に見送られ郡山から京都府の運行する高速バスに乗りました。
普段泣いたことのない夫は顔がくしゃくしゃになるほど泣き、子ども達もバスの中でしゃくりあげて泣きながら京都へ向かいました。京都へ来てから私達は毎日電話で話しました。子ども達は「お父さん大好きだよ、無理しないでね」と父親を気遣いました。
政府や行政が人々にとって良い事も悪い事も正直に情報公開しなかった為に、翻弄させられ、傷つけ合うご家族もありました。
我が家はそんな原発事故の二次被害を避ける為に、互いに心配をかけないようになどと考えない事、嬉しい事も辛い事も何でも話そうと約束しました。私達は弱い人間です。こんな大きな困難など担いきれるはずなどありません。離れている距離を縮める為に何でも話すのは、信頼も強くなり、大切な事でした。
避難生活の中で子ども達の気持ちが落ち着くようにと、もう一度原発が事故を起こすことのないようにと心から願いました。今も同じ思いです。

避難してから子ども達はとても怯えていました。夕方買い物に出かけ薄暗くなると、つないでいた手を更にぎゅっと強く握り、私の手に爪の跡がつくほどでした。「お母さんはずっと一緒だから大丈夫だよ」と言って優しく手をにぎってあげました。
関西弁の授業ではわからない事もあり、教科書も違った為、追い付くのに娘達は一所懸命頑張りました。
私は一変してしまった暮らしの中で少しでも落ち着つくように、汚かった借り上げ住宅を綺麗にし、まずは環境を整えました。
夫は月に1・2度福島から京都へ来てくれました。経済的にも大変ですし、少しでも家族一緒の時間を過ごしたいからと夜行バスで来てくれました。
京都に来ると「今度はいつ来るの?」と子ども達は着いたばかりの夫に聞いていました。お父さんに会えるのをどれ程楽しみにしていたかがわかりました。けれど半年ほど経った頃、夫は京都に行くのが辛いと言いました。10時間もバスに揺られ腰痛が悪化したのかと思いました。けれどそうではありませんでした。会いに来るのは嬉しいけれど、帰る時が辛いと言うのです。その気持ちは痛いほどよく分かりました。私も子ども達も同じだからです。帰る日の午後は重い空気につつまれ、私が夕食の支度をしていると茶の間でお父さんの膝に座り、首に絡まり別れを惜しむように、「今度は運動会だから来てくれるでしょう、お父さん」というような普通の会話でも、何故か涙がこみあげます。
そんな時いつも、避難を選んだ事が正しかったのかなぁと悩みます。でも自宅の放射線量を測ると部屋の中で毎時1.2μSv、庭は毎時6μSv以上の所もあり、正しい選択だったと確信します。それは我が家だけではありません、ご近所のお子さんも福島から家族が来た時は、ニコニコしていつもより元気で本当にいい表情をしてます。でも帰ってしまう時は機嫌が悪くなったり、泣いてご飯を食べなかったり、小さい子どもでも心のバランスを崩します。よそのお子さんでも、私まで胸が苦しくなります。

世の中には単身赴任のご家庭が沢山あります。でもそれは経済的な補償などもされていて、避難生活とは比べられないものです。家族が離散するようになった理由、原因が全く違うからです。
原発で死んだ人はいないと何人かの政治家や有名人が言っているのを最近も聞きました。
その方たちは双葉病院の患者さんが避難勧告が出され、置き去りにされてしまったことや、津波や家屋の倒壊からの救出、捜索が避難区域の方々は1か月もほったらかしにされ、救われるはずの命が見殺しにされてしまった事を未だに知らない、正しくは知ろうとしてなかったのだと思います。
原発・核・放射能とはそういうものです。
自由・夢・未来へつながること・家族・友人・動物・豊かな自然・食物・仕事・愛し合うこと・命、全てを破壊していくものだと知ってしまいました。それは一瞬に起きて、長い長い時間をかけて壊し続けてゆきます。
被災地が復興する事はとっても大切な事です。今までの首相もはっきり言ってました。けれど実際に被災した人々の思いをどれ程理解してくれているのかがわかりません。
汚染させられあと何百年も人間が住むことができない事実をどんな思いでどの程度の深さまで感じてくださっているのでしょうか。
政治家や官僚はその時だけその任期だけの責任ですが、私達は自分自身に起きていることだから、原発の問題から逃げるわけにはいかないし、誰かに任せるわけにもいきません。
原子力発電所は福島の事故が起きるまで、少しの亀裂、ネジのゆるみなど公表が遅れたり、隠したりという事が全国でありました。このぐらいだったらいいや、言わなければわからないとでも思っていたのでしょうか。今年3月に、汚染水を1年以上も海に流し続けていた事が発覚した時、周囲の4つの町は「情報は速やかに出すことと、何度も何度も嘘をつき続け隠すその体質を改めるように」と抗議しました。

あんな大きな事故を起こしておいて、4年も経って未だにそんな事を言われないとはいったいなんということでしょう。非常に恥ずかしい。
そしてこの事は、東電以外の電力会社も自分の事と思って受け止め実行する必要が大いにあると知って欲しいのです。

原発はずっと動いてません。あちらこちらで停電になり、人々の命が危険にさらされた事があったでしょうか。東電はあんな事故を起こしておいて電気料金を値上げし、税金を使い2年度連続して純利益数千億円出しています。放射能の影響で商売ができなくなり、廃業し苦しい生活を強いられている方々、先が見えなく自殺された方々がどれ程いらっしゃるか、その方々のご家族、幼いお子さん達の事も合わせて考えて、再稼働を希望する前に取り組む必要があると、ここではっきりもうしあげます。

原発はそういうものです、核はそういうものです。始める事に必死になるなら、後始末の事も必死にならなければなりません。
日本の経済の為に食品の基準値をあげる、年間の被ばく量を上げる、原発で電気を作り原発で儲けて、大きな企業が満たされれば、そこからこぼれ落ち一般の人々が潤うという考えは、とっても失礼な話だと私は思います。
原子力は明るい未来のエネルギーではなかった事が、福島の事故で証明されてしまった今、そこから豊かな暮らし、未来や希望、命の大切さは何にも変えられない、変えることができないのだと、私達おとながもう一度真剣に考え、学習しなければなりません。
そして、危険を冒してまでお金を得ようとする姿を見せるより、大切な事、よい事を選ぶ強さや勇気をもって、子ども達のお手本となれるように、恥ずかしくない生き方を選んでゆきたい。

以上

◆ 原告第13準備書面
第8 まとめ:再生可能エネルギー発電拡大により原発ゼロを実現することは可能であり、要は政府のヤル気である

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第8 まとめ:再生可能エネルギー発電拡大により原発ゼロを実現することは可能であり、要は政府のヤル気である

  1. 以上、検討してきたように、再生可能エネルギー利用による発電は豊かな可能性を秘めており、原発ゼロを実現することは充分に可能である。
  2. 人類的課題となりつつある「地球温暖化防止」の点でも、「ドイツ脱原発倫理委員会報告」が指摘するように、二酸化炭素放出をする化石燃料に依存しない、再生可能エネルギーによる発電が最も優れている。再生可能エネルギーの課題とされてきた「発電量の不安定性」についても、「第7 三」で述べたように急速に改善されつつある。
  3. ドイツの実践が示すように、国家レベルというよりは、各地方・農村レベルでの再生可能エネルギー開発で農村部が豊かになるという、まさに真の「地方創生」の経済が生み出されつつある。これこそ「真の豊かさ」であり、現在の日本に必要なことである。
    ドイツは、2000~2012年の間に、再生可能発電エネルギー発電量を10%増加させ、再生可能発電量は、2012年上半期に、最終電力消費税量の25%に達している。これに比して日本では、総電力需要量のうち、風力は0.4%、太陽光が0.3%、地熱発電が0.4%、バイオマス発電で1.7%であり、これらの再生可能エネルギーによる発電の合計で、わずか2.8%にしか過ぎない。日本の立ち遅れは一目瞭然である。
    こうした状況下でも、既に日本各地で再生可能エネルギーによる発電をふやすさまざまな取組が進んでいる。
  4. 原発ゼロは決して困難な課題ではない。要は日本政府がドイツのように本気で取り組むか否かにかかっているのである。
    なお、ドイツ等の各国、日本各地の具体的取組は別途主張する。

以上

◆ 原告第13準備書面
第7 再生可能エネルギーによる発電方法と、技術的課題の克服

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第7 再生可能エネルギーによる発電方法と、技術的課題の克服

 一、再生可能エネルギーによる発電方法

再生可能エネルギーによる発電方法(大規模ダム方式による従来型水力発電は除く)としては、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、小水力発電、地熱発電等がある。

 二、「風レンズ風車」発電の素晴らしい将来性

  1. 日本における風力発電は、当初は北欧型が中心であった。しかしながら、平坦地の多い北欧と、険しい山々が海の間際まで迫るところも少なくない日本とは、風などの自然条件が大きく異なる。また大きな風車は、騒音や鳥類を巻き込む等の公害問題もあり、近隣の農民・漁民・住民等の反対もある。京都府伊根町の「太鼓山」に導入された風力発電機は落雷等のため現在では全て故障して使えなくなっている。昔から落雷が多いから「太鼓山」と呼ばれてきたのに、地元の古老の意見も聴取せずに、こんなところに風力発電所を設置するのが根本的な調査不足である。
  2. ところが「風レンズ風車」は、こうした欠陥を克服した、素晴らしい未来性のある発電方式である。「風レンズ風車」の原理は、簡単にいうと風車の周囲にリングをつけ、このリングの一方の端に鍔(つば)をつけることで風力を強化し、同時に騒音も解消する点にある。
  3. 即ち、鍔の部分にあたった空気が、鍔を回り込んだ部分の気圧が低下する。その結果、気圧低下部分に周囲の空気が流れ込む。この原理によりレンズ風車の中の風速が1.3~1.5倍になる。「風レンズ」の中の風速が1.4倍になると約3倍もの発電が可能になる。鍔つきリングが風を集める作用を、レンズが太陽光を集める作用に対比して「風レンズ風車」と名付けられている。このアイデアは未来の自然エネルギー発電の展望を開くものとして、既に世界的な注目を浴びつつある。
  4. 風レンズ発電のアイデアは九州大学応用力学研究所の大屋裕二教授を中心とするグループが開発し、その実用化部品の80%を国内十数社の町工場で製作している。この町工場のリーダー的存在が園部町にある「有限会社共立機工」である。同社は瑠璃渓に向う道路沿いののどかな田園地帯の中にあり、夫婦と長男・次男の4人家族で運営している。風レンズ風車のすぐ近くまでいっても、鍔つきリングのおかげで騒音は殆どない。大屋教授は、もともと流体力学の専門家であり、強風被害から橋梁を守る等の研究をしてこられた方であるが、「風レンズ風車」のアイデアは、それまでの研究成果を180度逆転させることで到達したものだということである。
  5. また、園部町の「風レンズ風車」は内陸部にあるが、大屋教授研究グループは、海上に浮かべた六角形の浮きの上に「風レンズ風車」を設置する実験を成功させている。海上の「風レンズ風車」は相当強い台風にも立派に耐え抜くことが実験的に証明されている。六角形浮きを蜂の巣のように次々と拡大し発電量を増大させていくことが可能である。この浮きの下に魚の養殖場をつくるアイデアも提案されている。
  6. 日本の周囲は全て海であるから、この海上「風レンズ風車」発電は無限の可能性を秘めており、原発をゼロにしても充分電力を賄える。また「風レンズ風車」の原理は、そのまま「潮流発電」にも応用が可能である。
  7. 大屋教授グループの、もうひとつ凄いところは、部品製作について、大企業のオファーを基本的に断り、上述のように日本国内の優秀な技術を有する町工場グループと提携した点である。これは国内での地域経済の循環・発展という点でも日本の未来を切り開く大きな可能性を有していることは、既にドイツの経験が教えるところである。
  8. しかるに日本政府は、この素晴らしい「風レンズ風車」発電に「発電事業」としての認証をなかなか認めようとせず、大企業が参入する従来型の風力発電による海上発電には270億円もの補助金をつけながら、大屋教授グループの「風レンズ風車」研究には3年間で約3億円程度の補助金しかまわさないという態度である。
  9. しかしながら、「風レンズ風車」は、既に、カナダのプリンスエドワード島(“赤毛のアン”の舞台)で世界認証の試験を受けて、世界認証を取得しており、世界中の電力系統に接続できる国産初の小型風力発電となる。「風レンズ風車」発電は、既に世界的な注目を浴びている。大屋教授グループ及びこれを支える企業関係者は、商業ベースの実用化をめざして、さらなる改善の努力をしている。まさに夢と希望を与えてくれる「風レンズ風車」である。

 三、再生可能エネルギーの技術的問題点の克服

 1 はじめに

再生可能エネルギーの技術的問題点としては、天候や時間の影響によって発電設備の出力が変動して、送配電ネットワークを流れる電力の周波数が不安定となる、電力供給の不安定性が挙げられる。

  2 蓄電池

(1)この点、さまざまな地域で、蓄電器を利用し、蓄電器の充放電によって平滑化することにより電力系統安定化対策が図られている。

(2)宮古島メガソーラー実証研究では、大量の太陽光発電を導入した場合の電力系統安定化対策として、蓄電器を利用しているのが特徴である。日が陰って日射強度が下がると、太陽光発電の出力が瞬時に低下する。陽射しが強くなると、太陽光発電の出力が瞬時に上昇する。こうした太陽光発電の出力の急峻な変動を、蓄電器の充放電によって平滑化することにより電力系統安定化対策をとることができる。

(3)東北電力の南相馬変電所と九州電力の豊前発電所でも、大容量の蓄電池システムの導入が決まっている。東北・九州共に太陽光発電設備が急増した結果、既に送配電ネットワークに接続できる許容量を超えている。再生可能エネルギーで発電した電力を蓄電池に充電することにより、各地域の接続可能量を増やすことが可能になる。

(4)すでに東北電力の西仙台変電所では平成27年2月20日から大容量の蓄電池が稼働しており、接続可能量の増加が見込まれている。

(5)蓄電池については、近年技術革新が進んでいる。実証事業で使用される蓄電池の一つに「レドックスフロー電池」があるが、これはプラスとマイナスの電気を液体の形で別々のタンクに蓄えるという原理で、基本的には何年でも電気をロスすることなく蓄電することができる。タンクを増設するだけで大容量化も簡易なものであり世界的にも注目されている。日本国内でも三菱重工や日立などの企業が事業へ参入している。

  3 送電網の拡充

再生可能エネルギーの発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで日本全体で電力の変動を吸収するという取り組みも行われている。

  4 スマートグリッド

スマートグリッドとは、IT技術を活用して、発電所の供給側と家庭や事業所などの需要側の電力需要を自動制御し、需要に応じて発電施設からの電力を効率よく配分する電力制御技術をもった電力網のことである。
需要と供給のバランスを調整するために単に電力供給を安定的に行うだけでなく、家庭や事業所などこれまで電力を消費していたところに太陽光発電などを導入し、地域で必要な電力地産地消の仕組みにも備えていることが特徴である。
スマートグリッドは、再生可能エネルギーの活用に資する。スマートグリッドの普及により、再生可能エネルギーの普及が進むこととなる。

  5 再生可能エネルギーの全国的利用

   (1)バイオマス発電

バイオマス発電は、木質燃料(製材廃材・建築廃材・林地残林等)・バイオ燃料(サトウキビ・トウモロコシ等)・バイオガス(生ごみ・家畜の糞尿)等、木屑や燃えるごみなどを燃焼する際の熱を利用して電気を起こす発電方式である。
発電した後の排熱も、周辺地域の暖房や温水として有効活用可能である。
したがって、日常生活で出る燃えるごみ等により発電できるため、発電のための資源の調達が容易である。

   (2)小水力発電

小水力発電は、河川から取水した安定した流水や、農業用水や上水道などの用水を用いる。水が天候に関わらず24時間流れ続けるため1日を通して発電できるという点で持続性及び安定性があり、水量を一定量確保することにより発電力変動を少なくすることができる。また、100年以上前から開発されている経緯があることから技術も確立されており、長い稼働実績を有しており耐用年数が長い。
したがって、小水力電力により、利用しやすく持続的・安定的な発電が可能となる。

   (3)地熱発電

地熱発電は、マグマの熱で高温となっている地中深く(地下1000~3000m程度)の地熱貯留層より地熱流体を取りだし、タービンを回転させて電気を起こす方法により発電をするものである。環太平洋火山帯に位置する日本には、発電ポテンシャルが2300万KW以上と、米国・インドネシアに次ぐ膨大な地熱資源量がある。
したがって、地熱発電により大量・継続的な発電が可能となる。

  6 スマートコミュニティ

蓄電池を搭載した電気自動車の普及のために、手軽に急速充電のできる充電ステーションの設置も民間企業では始まっている。
また、太陽電池などによって自宅で発電した電気をいつでも使用できるようにするため、三菱重工は次世代超省エネ住宅「エコスカイハウス」のモデルハウスを横浜市に設け、蓄電池を設けた自給自足の家を普及させるため検証している。
このような、低炭素社会の実現のための取り組みが行われており、再生可能エネルギーのみで電力をまかなうことができる社会の実現が図られている。

  7 スマート節電

(1)あわせて、そもそも使用電力を減らさない節電への取り組みも行われている。スマート節電とは、経済活動を停滞させることなく、情報技術を用い有効な節電を実現する節電方法である。

(2)キヤノンマーケティングジャパンの「省エネオフィス支援ソリューション」(分電盤などに計測用クランプを設置して電力消費量を管理・分析。照明や空調の制御方法を決める。)、三井情報の「GeM2」(クラウド型のエネルギー・マネジメント・サービス、各種センターで集めた電力消費量や室温などのデータをデータセンターで管理・分析した、空調や照明を整備)、ユビテックの「UGS」(照明や空調などのエネルギー消費量を最適化するためのシステム製品。)、NTTデータカスタマサービスの「RemotoOne」(客先にエネルギー消費量の測定と空調・照明などを制御できる装置を置き、そこから得られるデータをデータセンターに集めて管理・分析。)などがそれである。

(3)これらはいずれも電力消費量を目に見える形にすることで無駄な使用を発見したり、その解消に向けて照明や空調を制御したりするサービス・製品である。具体的には、照明の点灯状態や空調の状態、そのフロアのどの場所にどのくらいの人がいるか、外気温はどのくらいかといったデータを収集し、状況に応じて機器を制御することで電力を最小にすることを目的とする。京都弁護士会でも節電の努力を行い大きな成果をあげている。

(4)このような形で無理のない節電が進んでいる以上、原子力発電を使用せずとも、再生可能エネルギーのみで電力をまかなうことは十分可能である。

◆ 原告第13準備書面
第6 日本における再生可能エネルギーの潜在的可能性

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第6 日本における再生可能エネルギーの潜在的可能性

  1. 「環境省・地球環境局・地球温暖化対策課」は、2011年(平成23年)4月21日、「平成22年度 再生エネルギー導入ポテンシャル調査・概要」によれば、エネルギー源毎の自然再生エネルギーの「導入ポテンシャル」をまとめた資料を発表した。
    「導入ポテンシャル」とは、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因(土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等)による設置の可否を考慮したエネルギー資源量のことである。
  2. 各エネルギー源毎の「導入ポテンシャル」は以下のとおりである。
    (1)太陽光発電(但し、非住宅系) 1億5000万KW
    (2)風力発電             19億KW
    (3)中小水力発電              1400万KW
    (4)地熱発電                 1400万KW
    合   計              20億7800万KW
  3. 他方、2012年度の「最大電力」は1億5448万KWに過ぎない。
    「最大電力」とは、年間を通じて最大時の電力需要量のことであり、通常は真夏の平日の午後2~3時頃である。
    また、全ての発電「設備容量」も、2009年度で2億397万KWに過ぎない。
    上記2項で述べた、自然再生エネルギーの「導入ポテンシャル」だけで、この「設備容量」の10倍以上にもなるのである。原発ゼロでも、日本の電力需要に充分に対応可能であることは明白である。

◆ 原告第13準備書面
第5 原発の本当のコスト

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第5 原発の本当のコスト

 1 原発の社会的コスト

(1)原発のコストの全体像を知るためには、原発利用に付随して必然的にかかってくるコストを知る必要がある。これらは、電力会社ではなく、社会の負担となっているので、「社会的コスト」という。原発は社会的コストが非常に多くかかる。これを含めて考えれば、「原発の経済性」は決して認められない。
原発に関する社会的コストには、「政策費用」と「事故費用」がある。

(2)政策費用と原発

  1. 国家予算の政策費用には、「研究開発費用」と「立地対策費用」がある。いずれもが巨額である。
    一般会計ではエネルギー対策費の97%ぐらいが原子力、特別会計でも大半が原子力関係に振り向けられている。
    発電コスト(1kWh当たり)に直してみると、原子力の政策費用は研究開発費用に1.46円、立地政策費用に0.26円、合わせて1.72円になる。火力については、研究開発費用に0.01円、立地対策費用に0.03円、合計で0.04円である。原子力の約40分の1である。水力は研究開発費用に0.04円、立地対策費用に0.01円であるので、合わせても原子力の10分の1にもならない。
    原子力には、「隠れた補助金」が入り、原子力だけ特別優遇措置を受けている。
  2. 各電源ごとの発電コストに、政策費用を加えると、原子力は10.25円になってしまう。これが電気料金だけでなく、税金も含めて国民が払ってきた本当の金額である。これに対して、火力は9.91円、一般水力は3.91円である。
  3. 即ち、原子力発電は、政策費用を含めれば、最も高い電源である。事故が起こらないときから、原発が一番高かったのである。

(3)優遇措置があるから安く見える

  1. 事故費用を除く、つまり大事故が起こらないと仮定した場合であっても、政策費用を含めれば、原子力が最も高い電源である。
  2. では原発は、コストが高いのになぜ利用されるのか?福島原発事故後もなお電力会社が利用したがるのか?
    それは、電力会社が支払っているコスト(=発電コスト)が、本当のコストの一部にすぎず、しかも、すべてのコストを電力料金の原価として国民に転嫁できるからである。原子力発電は、技術開発も国が全部やってくれる。立地対策に必要な費用すら、国が大部分負担してくれる。
    国民負担があるからこそ、電力会社にとって原発は安い(国民からすれば原子力発電は高い)。電力会社は、かかった費用をすべて電気料金に転嫁して回収できる。もともとの制度で回収できなければ、国が追加的に費用徴収制度を作っていく。原子力発電は、今まで政策的に特別優遇措置を受け続けてきた。福島原発事故までは、こうした事態に着目する人はほとんどいなかった。
  3. 福島原発事故から状況が一変した。原子力発電に対する国民の目はきわめて厳しくなった。原子力発電に従来通り、補助金を大量に投入することに賛成する国民は、ごく少数である。

 2 顕在化した事故費用

(1)事故費用(1kWh当たり)=【(事故費用総額×発生確率)÷発電量】である。
即ち、どれくらいの確率で事故が起きるか(発生確率)を予想し、これをkWh当たりのコストで見ることである。

(2)福島原発事故以前は、シビアアクシデントの発生は、1億年に1回とか、隕石が地球上に落ちてくる程度の確率だから、そんなものは無視できると言っている人もいた。

(3)実際には、日本の原子力利用が始まって、わずか40年少しで福島原発事故のような大事故が起きてしまったのである。事故の発生確率は、決して“無視しうるほど小さい”ことはなかったのである。従って、大事故が起きた場合の「事故費用総額」も考えなければならない。事故費用は、「事故収束費用」と「損害賠償費用」からなる。

 3 事故発生確率を過小評価する誤り

  (1)事故費用を計算するうえで、必要なのは、「事故費用の総額」と「発生確率」である
「発生確率」とは、1基の原発を何年動かしたら、福島原発事故のような大事故が発生するのか、ということを表す指標である。
IAEA(国際原子力機関)では、10万年に1回の確率をめざすとされている。しかし、IAEAの10万年に1回という確率は、あくまで目標にすぎない。
今、根拠を持って言えるのは、日本での商業用原発運転開始以来わずか45年でシビアアクシデントを起こしてしまったという厳しい現実である。しかも、福島原発事故以前にも、既に、1979年(昭和54年)3月にスリーマイル島原発事故、1986年(昭和61年)4月にチェルノブイリ原発事故が発生しており、「シビア・アクシデント」にまで至らなくても、多くの事故が発生していることは、原告第10準備書面が指摘するとおりである。
今後起こる事故の発生確率を予測することは、科学的にきわめて難しい。原発は不確実な部分が非常に多いのが特徴である。

  (2)事故被害規模を過小評価

  1. 原子力委員会は、福島原発事故の被害を、「一過性の損害分」約2兆6184億円、「毎年発生する損害の初年度の被害」は約1兆246億円、2年度の被害は約8972億円としている。
    原子力委員会は、この金額を基礎に、被害額が直線的に少なくなっていき、5年でゼロになると仮定している。これに「3~5年目の被害」額1兆3458億円を加えて合計6兆8503億円というのである。
  2. 原子力委員会は、阪神・淡路大震災等の経験から「損害賠償費用は毎年直線的に減る」と仮定している。
    しかし、阪神・淡路大震災等と福島原発事故とでは、被害の性質や広がりは全く違う。除染が5年で完了し、損害がゼロになるというのは無理がある。被害総額6兆8503億円が、確実な金額であるとはとうてい言えない。過小評価といわざるを得ない。

  (3)固有価値をどう評価するか

損害賠償額についても問題がある。即ち、除染を進める場合、「土地や建物などの財産の価値以上の除染費用をかけることは意味がない」として、財産価値額(固定資産税の評価額)を損害額の最大値としている。
しかしながら、生まれ育ち、生活してきた環境(自然環境のみならず、地域の人々との絆も含めた生活環境)そのものは、固定資産税評価額以上の固有の価値を持っている。これが長期にわたって失われてしまうことに、原発事故被害の本質がある。にもかかわらず、固定資産税評価額という狭い枠内に被害を押し込めてしまっている。

  (4)健康被害は被害額に含まれず

他にも、過小評価をしている点がある。即ち、この計算には、健康被害は今のところ考慮の対象外であり、損害賠償額に含まれていない。
原発事故による健康被害には、急性放射線障害(放射線を浴びて短期間のうちに出る障害)と晩発性障害(数年、数十年して発生する障害。ガン、白血病などの発症)、遺伝的障害(世代を超えて発生する障害)がある。
低線量被爆により、今後どれほどの被害が出るかは、現時点では確実なことはいえない。もし、被害が出てくれば、それに関連して被害額は増える。

  (5)除染費用は考慮の対象外

除染費用と除染によって発生する放射性廃棄物の貯蔵・管理費も含まれていない。実は、この部分が膨大な額にのぼると指摘される。
NGOである「原子力資料情報室」は、南相馬市で実施された除染作業の事例を基礎に独自の推計を行っているが、面積230平方キロメートルの飯舘村が策定した除染計画書は、宅地、道路、農地、森林の除染、および放射性廃棄物の管理に3224億円かかるとしている。年間被曝量が1ミリシーベルト以下を目指して、除染するという政府の方針に従えば、2万平方キロメートルの面積が除染されなければならず、飯舘村と同じコストがかかるとすれば、除染費用は28兆円になるという。実際、どれほどの金額が必要なのかは不明だが、除染に巨額の費用を要することは明らかである。

 4 除染のコストを考える

  (1)事故費用計算の際、除染コストは非常に重要である。除染は、物理的に放射能を除染することである。具体的には、高圧洗浄機で洗い流したり、土地の表土を削り取ったりする作業になる。放射性ヨウ素(ヨウ素131)の半減期(放射能が半分に減るまでの期間)は約8日である。セシウム134は約2年、セシウム137は約30年の半減期である。
日本学術会議の「提言 放射能対策の新たな一歩を踏み出すために-事実の科学的探索に基づく行動を」(2012年4月9日)によれば、年間20ミリシーベルトの地域に戻った後、除染しなければ、30年間で200ミリシーベルト以上、被曝(外部被曝)してしまう。年間10ミリシーベルトの地域でも、除染なしでは、140ミリシーベルト程度の被曝が予想されている。
ガンによる死亡率は、100ミリシーベルトを超えると0.5%上昇、200ミリシーベルトで1%上昇するという。もし、除染しなければ、相当数の健康被害が予想される。

  (2)除染のための法律

除染に向けては、2011年8月に特別措置法が定められた。事故がない地域であっても、自然界に存在している放射線によって、日本人は、平均して年間1.48ミリシーベルト被曝している。これに追加する年間被曝量の限度を1ミリシーベルトなどと定められている。長期的に、この1ミリシーベルトに抑えることを国の目標にしている。

  (3)国の除染計画はどうなっているのか

国は、2012年1月に「除染ロードマップ」を策定した。年間被曝量20ミリシーベルト以上の地域は、「除染特別地域」とされ、国の直轄事業として除染を行っていく計画である。年間被曝量20ミリシーベルト未満の地域は、自治体が除染する。除染費用は国が支払うことになっている。
汚染状況重点調査地域に指定された自治体は、福島県、宮城県、岩手県、栃木県、茨城県、群馬県、千葉県にある104市町村である。実際には、風評被害を受けるとして、指定をためらった自治体もあり、これらの自治体は含まれていない。

  (4)汚点土壌の貯蔵施設設置問題

環境省のホームページには、福島県内に仮置き場、次に中間貯蔵施設を造り、最終的に福島県外に持ち出すということが書かれているが、外部への持ち出しは今のところ全く見通しがなく、再び環境汚染を引き起こさないことを確保し、厳重な管理の下に置くしかない。

  (5)除染費用の負担問題

国の直轄事業については、国が予算を投じていく。また、自治体が行う除染作業も、国が費用を負担する。除染費用は膨大になるだろう。
特別措置法では、法律に基づいて実施した費用はすべて東京電力が支払うことになっている。
しかしながら、今のところ、東京電力がどこまで本当に支払うのか、あまり議論がされておらず、極めて曖昧なままである。結局は、ズルズルと国民負担になってしまう危険性もある。

 5 事故は収束しておらず、今後も費用は拡大する

  (1)事故費用には、「事故収束費用」も含まれる。

2011年12月16日に、野田首相は、「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断をされる」として、福島原発事故の収束を宣言した。
ところが実際には、依然として、放射能の放出が続いている。原子炉建屋も本格的に補修されたわけではない。核燃料がどこにあるのか、また、格納容器のどこが損傷し、どこから水が漏れているのすら、今でもよく分かっていない状況である。
野田首相の収束宣言は「政治収束」に過ぎない。また、安倍首相の東京オリンピック招致のためのIOC総会での「原発事故はコントロールされている」との発言(2013年9月7日)も白々しい限りである。

  (2)事故収束費用の問題点

原子力委員会は「事故収束費用」も、経営財務調査委員会報告書の金額をそのまま採用している。原子炉の冷却、廃炉、放射性廃棄物処分費用は1兆1510億円だそうである。
政府の2011年12月の見込みによれば、核燃料を原子炉から取り出し、廃炉を完全に終えるのに40年程度かかるという。今後数十年にわたって事故の収束、敷地の除染、廃炉、放射性廃棄物処分が行われることは確実である。
40年間で1兆1510億円だとすると、年間300億円にしかならない。技術開発費用も含めて、この額で収まるとはとうてい思えない。1兆1510億円で全く足りないことは明白である。
今回の事故では、核燃料がドロドロに溶けて(「メルトダウン」)、圧力容器を溶かし、格納容器まで落ちたと考えられている。まだ核燃料がどこにあるかすら分かっていない。核燃料はもはや原形をとどめておらず、もともとの核燃料と被覆管、制御棒などが溶けて一体となった「燃料デブリ」というものになってしまっている。
このような、原形をとどめていない核燃料を取り出す技術は今のところない。世界的にもそのような経験はない。
まずは、どこにどれだけの核燃料があるのか、調べる必要がある。原子炉のどこから水が漏れているのかも調べなければならない。また、原子炉を安全に補修する技術、燃料デブリを取り出す技術を新に開発しなければならない。何らかの技術を開発したとしても、実際に取り出すには試行錯誤が続く。
今は放射線が強すぎて、人間は近づけないところがたくさんある。近づけないところはロボットを使って調べ、補修することになる。課題は山ほどある。
廃炉費用も莫大な額に及ぶ。平時の原発であっても、廃炉が完了した経験はなく、現実にいくらかかるのかははっきりしたことがいえない。通常の原発は、解体作業と解体して出てくる放射性廃棄物の処分のための費用として1基あたり6000億円ほど積み立てている。
福島原発事故の場合、この金額でまかなえないことは明白である。爆発によって放射性物質が飛散したので、発電所の大部分が放射性廃棄物になってしまった可能性がある。
藤村陽氏によれば、福島第一原発1~3号機だけで通常の廃炉の場合の54基分(日本全体の原発の合計)の放射性廃棄物があるという(藤村陽「放射性廃棄物処分の迷走」吉岡斉編集代表『新通史 日本の科学技術 第1巻』原書房2011年)。
たった3基で、日本の全部の原発を廃炉にしたときと同じだけの量の放射性廃棄物を発生させてしまったことになる。

 6 事故費用のまとめ

(1)「事故費用」の総額がいったいいくらになるのか、まだ誰にも見えていないのが現状である。「最悪の最悪」の事態が起きていれば、さらに被害は桁違いに大きくなっていたに違いない。

(2)コスト等検証委員会は、福島原発事故の被害額と事故処理費用を見積もり、これを基礎にkWh当たりの「事故費用」を0.5円と計算した。しかし、「事故費用の総額」が現段階では過小評価になっている。意図的な過小評価というよりも、事故が進行中であり、確定できないコストが多すぎるのが原因である。

(3)事故費用は、「事故費用総額÷ある一定期間の総発電量」で計算できるが、コスト等検証委員会では、日本に存在している原発54基のうち、被災した福島第一原発1~4号機を除く、50基が今後40年間動くことを前提に、総発電量を計算している。

(4)しかしながら、このようなことは、あり得ない。新しい「原子炉等規制法」により、原発は40年間の運転で廃炉されることになり、全国の原発は次々に廃炉を迎えることになる。
今までと同じ数の原発を維持するには、廃炉の期間を延長するか、新増設するしかない。過去のような原発の建設ラッシュが今後期待できないことは明白である。

(5)従って、コスト等検証委員会が想定した総発電量が得られないことは確実であり、事故費用はどんどん大きくなり、事故費用が0.5円で収まることはありえない。事故費用0.5円は、最低限の事故費用でしかなく、実際には、何倍になってもおかしくない。政策費用に加えて事故費用を入れれば、もはや、原発に経済性は全くないことは明瞭である。

◆ 原告第13準備書面
第4 原発の「コスト論」について

原告第13準備書面
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第4 原発の「コスト論」について

 1 「安い」といわれてきた原子力発電のコストの「からくり」

(1)「原子力発電は最も安価なエネルギーである。」というのが、原発推進の1つの論拠であった。それは、2004年に政府の総合資源エネルギー調査会が発表した報告書の数値が具体的根拠とされてきた。

(2)これによると、エネルギー源ごとの発電コストは、原子力は5・3円/kWhであり、一般水力の13・6円/kWh、石油火力の10・2円/kWh、石炭火力の6・5円/kWh、LNG火力の6・4円/kWhよりも安いとされている。

(3)原発は、発電コストに占める燃料費の割合が低く、建設費や維持管理費が高いのが特徴である。燃料費はあまりかからないので、使えば使うほど安くなる。しかしながら、原発のコストが5.3円/kWhであるときの前提条件は、運転年数40年、設備利用率80%というものであった。ところが、発電コストの計算がなされた2004年時点で、運転年数が40年を超える原発は1基もなかった。実績もないのに、運転期間を40年として計算していたのである。

(4)もう一つの問題は、計算にあたって使われた条件と根拠、計算式が公開されていなかったことである。電気事業連合会の数字が審議会で発表され、この審議会を通じて政府の見解となる。これが「原発安価神話」の根拠となってきたのである。

 2 原発の発電コストとは何か

発電コストは「発電に直接要する費用」と「バックエンド費用」に分かれる。

(1)「発電に直接要する費用」には、燃料費、建設費(減価償却費)、運転維持費などが含まれる。この費用は、国民が電気料金を通じて負担している。

(2)原発には、核燃料を使用した後に発生するコスト、即ち「バックエンド費用」がかかる。発電後に使用済燃料に含まれる大量の放射性廃棄物の処分のためのコストであり、放射性物質を使う原子力発電に宿命的にかかるコストである。核燃料は使用済みになっても、強い放射線を出し続ける。熱も発生させるため、長期にわたって冷やしておかなければならない。

(3)「バックエンド費用」には、使用済燃料の再処理費用(プルトニウムの抽出費用)が入っている。日本では使用済燃料をすべて再処理することを基本方針としている。福島原発事故後も、その方針は今のところ変わっていない。再処理費用と再処理に付随する高レベル放射性廃棄物などの処分コストが必要になる。日本には廃炉処理が終わった原発はまだ存在しない。廃炉には、数十年かかることは確実であり、これにも莫大な費用がかかる。

 3 「総括原価方式」に基づく、実際の発電コストの計算

(1)「電気料金によって回収される金額」=「営業費用」+「事業報酬」である。電力会社は、「営業費用」(発電に要するさまざまな費用)と、「事業報酬」(支払利息や利益)を電気料金に転嫁している。

(2)「営業費用」=[減価償却費(建設費)+燃料費+運転維持費など]である。

(3)「事業報酬」は、「レートベース×報酬率」で計算される。レートベースは、発電に必要な資産であり、特定固定資産、建設中の資産、核燃料資産、特定投資、運転投資、繰延償却資産からなっている。

(4)営業費用と事業報酬を併せたものの総額を、電気料金に転嫁する方法を「総括原価方式」と呼んでいる。

 4 「総括原価方式」のからくり

(1)電力会社は、事業にかかわるすべての「営業費用」と「事業報酬」とを、あらかじめ電気料金の中に組み込んでしまっている。従って、総括原価方式が正当性を持つのは、営業費用及び及び事業報酬が適切に計算されている時に限られるのである。

(2)ところが、現行の総括原価方式には重大な欠陥がある。
第1は、費用を過大に見積もり、電気料金の原価に組み込んでいたことである。届け出時と実績の料金原価の差は、2001年からの10年間で6186億2800万円にも及んでいたのである。

第2は、電気事業に不可欠とはいえないものまで、営業費用に含めて電気料金から徴収していたことである。東京電力の2010年度の広告宣伝費は、約116億円にも達していた。すべて電気料金からの支出である。普及開発関係費には、オール電化関連広告費や、電気事業連合会などの団体への寄付金、研究費、図書費などの消耗品費、福利厚生費、電事連などの各種団体への拠出金、出向者の人件費など、ありとあらゆる項目が含まれている(東京電力に関する経営・財務調査委員会「委員会報告」2011年10月3日)。

(3)しかしながら、そもそも地域独占が許されている電力会社に、多額の広告費は不要である。広告費は、原子力の安全性イメージを国民に浸透させるために使われてきたのである。

(4)電源立地地域、特に原発立地地域に対して、電力会社から多額の寄付が行われている。寄付は、自治体の外にも漁協などの各種団体にも行われていると見られているが、実態は闇の中である。これらが、発電の費用として電気料金に自動的に組み込まれている。多額のカネを小さな自治体に渡し、原発容認の意見を意図的に形成していくことは、倫理的に許されるものではない。

 5 発電コスト単価(円/Kwh)の計算

(1)発電コスト単価=【(営業費用+事業報酬)÷発電量】である。
1970年以降40年間の各電源の発電コストの推移を見ると、電力9社の平均で、一貫して火力、水力及び原子力の3つの電源中、水力(一般水力)の発電コストが最も低くなっている。
原子力の発電コストは平均で8・53円/kWhであり、水力は3.86円/kWhで1番安くなっている。原子力は決して最も安い電源ではなく、設備利用率や社会的自然的条件によって大きく変わってくるのである。

(2)電力会社は、どのような団体・個人にどれくらいの寄付を行っているのかを全く明らかにしていない。不透明というより、「不確実」なコストもあり、代表的なバックエンド費用は、大部分は将来発生するもので、現時点で確実に知ることができないのである。

 6 原発の設備利用率とコスト

原発の設備利用率は、現実には、そんなに高くない。40年間平均すると70%くらいしかない。今後、経年劣化により設備利用率はますます低くなっていく。そうなると、原発の発電コスト単価は上昇していくことになる。

 7 社会的コストを含めた原発のコストを考える必要がある

事故収束には莫大な経費が必要である。事故収束以外にも、被害者への損害賠償にコストがかかる。しかるに、電力会社の負担ではなく、社会の負担になっている。「第5」で詳述するように、原発のコストを論ずる場合、「社会的コスト」を考慮に入れる必要がある。

◆ 原告第13準備書面
第3 地球温暖化問題との関係

原告第13準備書面
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第3 地球温暖化問題との関係

  1. 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第3作業部会報告書(2013年9月)は、95%の確率で人類の活動が原因である旨報告した。IPCCは、「国際連合環境計画(UNEP)」と国際連合の専門機関にあたる「世界気象機関(WMO)」とにより1988年に共同で設立された機関である。数年おきに発行される「評価報告書」は、地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治及び各国の政策に強い影響を与えつつある。
  2. そして、自然再生可能エネルギーの拡大、即ち、太陽光・風力・中小水力・地熱・バイオマス等の再生可能エネルギーの普及は人類共通の課題である旨指摘した。
  3. さらに、2014年のIPCC第5次総合報告書は、CO2削減について、「原発による削減」ではなく、再生可能エネルギーによる削減こそ真の温暖化対策である旨指摘している。
  4. ドイツ倫理委員会報告は、前述のよう、にIPCCのこの指摘を正面から受け止めている。

◆ 原告第13準備書面
第2 ドイツの脱原発の決断・「ドイツ脱原発倫理委員会報告」から、日本が学ぶべきこと

原告第13準備書面
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第2 ドイツの脱原発の決断・「ドイツ脱原発倫理委員会報告」から、日本が学ぶべきこと

 一、日本では既に1年半以上にわたり原発稼働ゼロの状況が続いている。市民の節電努力もあり稼働ゼロでも電力は充分に足りていることが既に実証されている。この流れをさらに確かなものにするには再生可能エネルギーへの転換が必須である。この点で、日本の福島原発事故を受けて素早く原発ゼロの決断をしたドイツの教訓に学ぶことが重要である。

 二、「ドイツ脱原発倫理委員会報告」が示すもの

  1. ドイツ政府は、原発をどうすべきかを根本的に検討するために、2011年福島原発事故のわずか1ヶ月後に「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」(以下、「倫理委員会」という)を設置した。2011年5月30日、倫理委員会は報告を提出した。同報告の日本語訳は「ドイツ脱原発倫理委員会報告」(「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」著 吉田文和及びミランダ・シュラーズ編訳 大月書店)として出版されている。
  2. ドイツ政府は、同年6月6日、2022年までの原発廃止を閣議決定し、国会は、保守・革新にかかわりなく、圧倒的多数で承認した。
  3. 倫理委員会のメンバー構成の特徴
    注目すべきは、倫理委員会のメンバー構成である。リスク社会学者、哲学者、宗教者、経済学者、労働組合代表、経済界代表等から構成され、原子力専門家は入れていない。しかも、並行して、技術者らによる「原子炉安全委員会」(RSK)も設置され、同委員会は、ドイツ国内の原子炉の安全評価の任務を与えられ、同年5月16日(倫理委員会報告の2週間前)に「ドイツの原発は、航空機の墜落を除けば比較的高い耐久性をもっている」との報告を出した。このRSK「報告」にかかわらず、メルケル首相(保守党)は脱原発を決断し、国会は承認したのである。
  4. 報告書の要点
    同報告の要点は次のとおりである。
    (1)原子力発電所の安全性が高くても、事故は起こりうる
    (2)事故が起きると、他のどんなエネルギー源よりも危険である。
    (3)次の世代に廃棄物処理などを残すことは、倫理的問題がある。
    (4)原子力より安全なエネルギー源が存在する。
    (5)地球温暖化問題もあるので、化石燃料を原子力発電の代替として使うことは解決策ではない。
  5. 技術的課題の検討
    同報告は、ⅰコジェネレーション・システムの発電を広く適用、ⅱエネルギー効率を高める材料科学研究、ⅲ蓄電技術(水素電気分解)の研究等の技術的課題を検討し、放射性廃棄物の最終処分の問題も検討している。
    この問題についての具体的検討は、「第7 三」で詳述するとおりである。
  6. 脱原発の国内経済への効果
    同時に、同報告が倫理委員会の目標として次の点を指摘している点が重要である。(1)環境にやさしく、国際的な経済競争力と国内の豊かな生活を保障する信頼できるエネルギー供給のありかたを提案すること。

    (2)エネルギー大転換は、経済的リスクを最小限に抑えることができれば、風力発電やバイオガスプラントなど再生可能エネルギー関係設備やサービスの輸出国として、ドイツが利益をさらに得るチャンスであり、技術的にも、経済的にも、社会的にも、大きなチャンスである。ドイツは国際社会において、脱原発が高い経済効果のチャンスであることを示すことができる。新再生可能エネルギー普及とエネルギー効率化政策で、原子力発電を段階的にゼロにしていくことは将来の経済のためにも大きなチャンスになる。

    (3)ここには、再生可能エネルギーの開発・利用・輸出で世界をリードし、雇用と地域経済活性化につなげ、リスクをチャンスに変えるという、ドイツ財界も含めたしたたかな戦略が存在する。

  7. このように、倫理委員会報告は原発の是非・将来を判断するために多面的な検討を行っているが、原発ゼロの最終決断の根底に、将来の世代に決して原発を残してはならないという圧倒的多数の日本国民と共通する強い想いがこめられている。それは、前述の「倫理委員会」という名称とメンバー構成が端的に物語っている。原発輸出をアベノミクス「成長戦略」の柱とする日本の現政権との違いは、あまりにも歴然としている。

◆ 原告第13準備書面
第1 「真の国富」とは何か?

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第1 「真の国富」とは何か?

1、真の国富とは何かを検討する場合、そもそも、「コスト論」などの経済的側面よりも、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることの方が優先する。

2、生命・身体の安全は、何にも優先して保障されなければならない。財産・環境も、合理的な理由なしに侵害されてはならない。しかして、原発事故による生命・身体・財産・環境への被害は甚大である。これとの対比においては、多額の貿易赤字などは、生命・身体・財産・環境を侵害する理由とはならない。

3、設定された基準限界を超えるような事象を「残余のリスク」として片づけることは倫理的に受け入れられない。人間の災害準備や対策には限界がある。原発事故により発生しうる災害の巨大さ、後の世代への負担や放射線による遺伝子損傷の可能性を考慮すれば、そのリスクを相対的に比較衡量してはならない。

4、上記の点は、大飯原発3、4号機運転差止請求事件についての福井地方裁判所判決(2014年5月21日)によっても、明らかである。なお、同判決の判示における被告とは関西電力のことである。

「被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気料金の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。
また、被告は、原子力発電所の稼動がCO2排出削減に資するもので、環境面で優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻な事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。」

5、仮に経済的側面を重視するとしても、経済的面からみても、原発は、総合的に検討した場合、コストが高いことは「第4」「第5」で詳述するとおりである。

6、ドイツは、社会民主党・緑の党の連立政権時代の2000年に脱原発法と再生可能エネルギー法を制定したが、その内容は次のとおりである。

  1. 最も重要な安全面で、原発はミスが許されず、原子力は人類が制御できない科学技術であるという見解に達した
  2. 新しい再生可能エネルギー産業に投資し、エネルギー政策を転換させる必要がある
  3. 使用済み核燃料の処分場の解決策がない

7、その後、保守党政権に代わり原発維持政策に変更されたが、2011年3月の福島原発事故を受けて、メルケル政権は速やかに2022年までの脱原発を決めた。この内容は第2で詳述するとおりであり、国富論の観点からも極めて重要である。