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◆第6回口頭弁論 原告意見陳述 要旨

原告  三澤 正之

私は、福島へボランティア支援に行った一昨年、震災当時のまま店の前には商品が放置されたまま、倒壊したまま放置された家屋、そして、草に覆われたままの田畑、信号機だけが点滅する、人の気配も感じられない、まさに死の街を目の当たりにしました。立入禁止区域から仮設住宅に避難している方の話を聞くことが出来ました。その方は被災後、4~5回も避難場所を転々とされ、やっとの思いで今の仮設住宅にたどり着くことができたとのこと。話を聞く中で、一番感じたことは、放射能汚染で自分の家に戻れない、それに何よりも、田や畑で耕作できないこと、原発事故で職場がなくなったことで命の糧となる生活基盤を失った悔しさと無念さを語られたとき、私は胸を強く締め付けられる思いをしました。そして、いつ戻ることができるかも分からない将来への不安を思いやるとき、再び、原発事故で故郷や生活基盤を奪われる人が出ないように、そのためにも、原発再稼働をさせてはいけない、原発を無くしてきたい、その思いを聞いていただきたくて、ここに立たせて頂きました。

私の家族は、かわいい孫を含め、8人家族です。高浜原発から15キロ、舞鶴湾を臨むところに住んでいます。舞鶴は、高浜原発からも大飯原発からも、30キロ圏内にほとんどが入り、88,787人が避難対象者となっています。一旦、原発事故が起きたら、無事避難できるか、とても心配です。市民からは、「ヨウ素剤まで配って、再稼働せなあかんのか。」との声が聞かれます。

舞鶴市の避難計画を診ても、大枠は書かれていますが、まだまだ決まっていないことが多く、どこに避難したら良いのか分からない状況です。事故の際の「避難等に関する情報伝達」についてもテレビ・ラジオ・広報車・有線放送などあらゆる手段を使うとされていますが、住民の問い合わせる根本となる専用電話(現在は、舞鶴市企画管理部危機管理室危機管理防災課0773-63-1089)を備えた窓口の設置、人員配置を行うとしていますが、体制は具体化していません。一斉に市の代表電話にかかってくれば、対応できないでしょう。

また、避難先についても、南方面(京都府内)、西方面(阪神方面)の地域は公表されていますが、実際にどこに逃げたら良いのか、受け入れ施設も、まだ公表されておらず、どこを目指して行ったらいいのか分かりません。西方面の施設はほぼ決まっており、南方面の受け入れ施設は、まだ検討中で公表できないとのことです。

要支援者、病院、学校、園児については、「各施設、管理者が定める避難計画に基づき」となっていますが、決まっていません。「今後、京都府などで作成されるひな形に基づいて」となっているとか。私の家族の例を考えてみても、私は綾部に勤務しており、大人はそれぞれ職場におり、事故が起きれば、こどもを学校に迎えに行くのか、学校単位で避難してくれるのか判らず、本当に孫たちが無事避難できる保障がありません。
避難手段として、バス・乗用車となっていますが、避難時集合場所が自治会ごとに定められていますが、多いところは、4000名を超えています。倉橋小・新舞鶴小・倉橋第二小・青葉中などです。しかし、集まった市民を無事避難させる方法については全く展望が見えてきません。今、示されていることは、資料では、舞鶴市内における「協力に関する協定締結事業者一覧」のバス71台、ワゴン2台、タクシー121台の計3500人のみです。このような状況で、避難場所に集まった人々を避難させることは困難です。

京都府のホームページの「避難時間シミュレーション」では
(1) PAZ圏内においては避難指示から直ちに避難が始まり、1時間以内に圏内のすべての住民が避難開始。全ての住民が避難完了まで、6時間10分~8時間とされています。
(2) 5~10㎞圏については「PAZ避難開始から20時間後に避難開始(屋内退避)」とされ、「発電所からの距離に応じて、自治会単位で避難時集結場所に集結し、避難する」、10~20㎞圏、20~30㎞圏はそれぞれ前の圏の避難者が90%、UPZを離脱した時点で避難開始となっており、避難完了まで15時間10分~29時間20分とされています。

このシミュレーションは、

  1. 大混乱の中で、発電所からの距離で区切った段階的退避、時間差退避は実効性があるとは思えません。
  2. 一旦、過酷事故があった場合、約19分でメルトダウン、約90分で圧力容器に穴が空き、格納容器から放射性物質漏洩が始まります。この進行に対して逃げるのが間に合いません。
  3. 地震、津波、積雪の想定もしていません。国道27号線は海抜の低いところを通り、高速道路もこの間の大雨で度々通行止めとなっています。福島県では避難は地獄絵を見るようだったと言われましたが、複合災害となれば、舞鶴は一層の大混乱に陥ることが考えられます。
  4. 避難手段として、バス利用1350台(うち600台がUPZ内をピストン輸送)とされていますが、福島県浪江町の馬場町長さんの話でも、避難に貸切バスを確保したが、放射能汚染区域には運転手さんが入ってこなかった。運行管理者も入れなかった。外からバスは入ってこないと考えて、想定外の想定外の事態が起こる。実現性は難しい。と言われていました。

これらの不安は直近に行われた舞鶴市職労の市民アンケートでも

  1.   高浜・大飯原発の再稼働に賛成20%に対し、反対63%
  2.  避難方法について、知っている34%、知らない63%
  3.  避難計画がじっさいに機能すると思うかに対し、機能する・ある程度機能する17%、機能しない、あまり機能しない69%となっており、舞鶴市民への原発への思いがここに示されています。

これらのことからも避難計画が、現実に機能するとは、とても思えません。まして複合災害となれば、さらなる大混乱が考えられます。また、福島第一原発の原因究明が行われず、今なお事故が収束せず、福島県で12万人が避難している福島の現実を見れば、一旦事故が起きれば、いつ戻れるのか分からず、戻れたとしても子どもの事を考えると一緒に住めるかどうか、そして、生活基盤は失われ、仕事がなくなったとき家のローンは、これからの生活はと考えると不安は山ほどあります。そのためにも、再稼働はせず、原発そのものをなくすことが、一番だと思います。原発の再稼働を容認する人に「全ての生活が失われる覚悟があなたにありますか」と問いたいとの言葉は重く感じられます。

大きな力で、利権のための再稼働が間近に迫ってきています。いのちとくらしを守り、ふるさとで家族ともども安心して暮らせるよう、私たち庶民は世論と運動で、そして、憲法13条・幸福追求権、25条・生存権、29条財産権などをはじめ、法律・条例で守られる以外にありません。

賢明なる判断をお願い致します。

以 上

◆ 原告第8準備書面
-避難計画の不備についての敷衍-

2015年(平成27年)1月28日

原告第8準備書面[134 KB]

原告第8準備書面
-避難計画の不備についての敷衍-

1 舞鶴市の避難計画の問題点

舞鶴市は、高浜原発からも大飯原発からも、30km圏内にほとんどが入り、88,787人が避難対象者となっている。市民からは、「ヨウ素剤まで配って、再稼働せなあかんのか。」との声も聞かれる。一方、30km圏外では、ヨウ素剤を配付する計画の目処すら立っていない。

舞鶴市の避難計画は、大枠が定められているのみで、具体的なことは決まっていないことが多く、住民は、実際問題、どこに避難したら良いのか分からない状況である。事故の際の「避難等に関する情報伝達」についてもテレビ・ラジオ・広報車・有線放送などあらゆる手段を使うとされ、住民の問い合わせる根本となる専用電話(現在は、舞鶴市企画管理部危機管理室危機管理防災課0773-63-1089)を備えた窓口の設置、人員配置を行うとしているが、体制は具体化していない。また、一斉に市の代表電話にかかってくれば、対応できないことは明らかである。

また、避難先についても、南方面(京都府内)、西方面(阪神方面)の地域は公表されているが、実際にどこに逃げたら良いのか、受け入れ施設も、まだ公表されておらず、どこを目指して行ったらいいのか分からない状況である。

要支援者、病院、学校、園児については、「各施設、管理者が定める避難計画に基づき」となっていますが、これらは決まっていない。「今後、京都府などで作成されるひな形に基づいて」となっている。原告の家族の一例で見ても、親は日中は勤務しており、事故が起きた際に、子供らを学校に迎えに行くのか、学校単位で避難してくれるのかすら判らない。

避難手段として、バス・乗用車を使用することになっており、避難時集合場所が自治会ごとに定められているが、倉橋小・新舞鶴小・倉橋第二小・青葉中など、多いところは4000名を超える。しかし、集まった市民を無事避難させる方法については全く展望がない。現在、市から住民に示されているのは、舞鶴市内における「協力に関する協定締結事業者一覧」のバス71台、ワゴン2台、タクシー121台の計3500人のみである。このような状況では、避難場所に集まった人々を避難させることは到底困難である。

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2 京都府の秘何時間予測シミュレーションについて

京都府のホームページの「避難時間シミュレーション」では

  1. PAZ圏内においては避難指示から直ちに避難が始まり、1時間以内に圏内のすべての住民が避難開始。全ての住民が避難完了まで、6時間10分~8時間
  2. 5~10㎞圏については「PAZ避難開始から20時間後に避難開始(屋内退避)」とされ、「発電所からの距離に応じて、自治会単位で避難時集結場所に集結し、避難する」、10~20㎞圏、20~30㎞圏はそれぞれ前の圏の避難者が90%、UPZを離脱した時点で避難開始となっており、避難完了まで15時間10分~29時間20分

とされる。

このシミュレーションは、

  1. 大混乱の中で、発電所からの距離で区切った段階的退避、時間差退避は実効性がない。
  2. 一旦、過酷事故があった場合、約19分でメルトダウン、約90分で圧力容器に穴が空き、格納容器から放射性物質漏洩が始まり、この進行に対して逃げるのが到底間に合わない。
  3. 地震、津波、積雪の想定をしていない。国道27号線は海抜の低いところを通り、高速道路もこの間の大雨で度々通行止めとなっている。しかしこれらは考慮されておらず、福島第一原発事故の際の福島県の避難と比べても、複合災害となれば、舞鶴市は一層の大混乱に陥ることが考えられる。
  4. 避難手段として、バス利用1350台(うち600台がUPZ内をピストン輸送)とされているが、例えば、福島県浪江町の場合、避難に貸切バスを確保したが、放射能汚染区域には運転手が入らず、運行管理者も入れなかった。

などいくつもの問題点がある。

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3 無事に避難できない可能性に対する住民の不安

これらの不安は直近に行われた舞鶴市職員労働組合が行った市民アンケートでもあらわれており、

  1. 高浜・大飯原発の再稼働に賛成20%に対し、反対63%
  2. 避難方法について、知っている34%、知らない63%
  3. 避難計画がじっさいに機能すると思うかに対し、機能する・ある程度機能する17%、機能しない、あまり機能しない69%

となっている。

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4 避難ができても残る問題

福島県で12万人が避難している現実を見れば、一旦事故が起きれば、いつ戻れるのか分からず、戻れたとしても子どもの放射線被ばくの事を考えると一緒に住めるかどうかも不確実であり、避難により生活基盤は失われ、また、仕事がなくなったとしても家のローンは残る。仮に避難できるとしても、舞鶴市の住民の不安がなくなることは決して無い。

以上

◆原告第7準備書面
第8 結語

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第8 結語

原子力規制委員会の判断は,いわば「従来のルールを守っていては原発の再稼働はできなくなるから,そのルールを廃止し,別の甘いルールを作って再稼働を可能にする」というものであるが,憲法及び法の支配の下では到底許されない本末転倒の考え方といわねばならない。またこの原子力規制委員会の態度は,福島第一原発事故を体験し,現在なお十数万人の住民が避難を余儀なくされている現実から目をそむけた,あまりにも電力業界,政権にすり寄った,卑屈で政治的かつ非科学的な態度であり,しかも住民に対しては露骨なまでに高圧的かつ背信的な態度であると言わざるを得ない。原子力規制委員会が住民の安全を守る立場に立たず,このような体たらくをさらけ出している現状にあっては,司法は,住民の生命,健康,財産という憲法によって保障されている最も根源的な基本的人権を守るため,差止めを認容するべきである。

以上

◆原告第7準備書面
第7 立地審査を行わない理由は,福島事故を仮定すると
原子力発電所の立地が出来なくなるからである

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第7 立地審査を行わない理由は,福島事故を仮定すると原子力発電所の立地が出来なくなるからである

以上の通り,原子力規制委員会が,新規制基準から立地審査を捨て去ったことには合理的な理由がない。では,なぜ立地審査は新規制基準に採用されなかったのか。

田中俊一原子力規制委員長は「福島のような放出の状況を仮定すると立地条件に合わなくなってしまう」と記者会見で述べた(甲63-16,17)。

この唖然とする程あけすけな規制委員長の発言に端的に示されているように,原子力規制委員会は,シビアアクシデントを想定すると日本の全ての原発の敷地境界での住民被曝線量が,立地評価の目安値以下になる見通しがなく,したがってわが国においては,全ての原発の再稼働が不可能となるため,バックフィット審査を経て設置許可を継続するには立地評価自体を捨て去るしかないと判断したものと考えられる。

◆原告第7準備書面
第6 立地審査において,離隔要件についての審査を行わないことの問題点

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第6 立地審査において,離隔要件についての審査を行わないことの問題点

離隔要件を定める立地審査を行わないことの問題点は以下の通りである。

1 離隔要件を捨て去ったことにより,シビアアクシデント時に住民を被曝の危険にさらすことになる―再稼働を容認するための,規制の著しい改悪,住民の安全の無視

福島第一原発事故をふまえれば,むしろ離隔要件を改正し厳格に運用すべきであるにもかかわらず,原子力規制委員会は,離隔要件を捨て去るという方針を打ち出したが,このことは,シビアアクシデント時に住民を放射線被曝の危険にさらすことになる。これは,再稼働を容認するための規制の著しい後退,改悪,住民の安全の無視であり,原発の危険性を放置するものであって,到底許されない。

2 フィルタ・ベントの限界

 (1) フィルタ・ベントは放射性物質を完全に除去できない

ア フィルタ・ベントは放射性物質を完全に除去できない

原子力規制委員会は,立地評価を行わないことを許容する理由として,「フィルタ・ベント」を設置することにより,セシウムにして放射性物質の放出量を福島事故の100分の1以下程度に抑えることを要求していることを挙げている。(前述,「総放出量は環境への影響をできるだけ小さくとどめること」とし,定量的には「セシウム137の放出量が100テラベクレルを下回ること」を要求)。しかし,そもそも原発からの放射性物質の放出量は,公衆被曝量に対する制限である離隔要件(非居住区域,低人口地帯,人口密集地帯)とは無関係な物理量であり,立地評価を代替する規制とは評価できない。

また,以下に述べるとおり,フィルタ・ベントの設置をもって立地評価を行わないことを許容するほどの放射性物質放出量低下の効果を挙げることはできない。

イ フィルタ・ベントとは

格納容器の圧力が設計上の上限値(最高使用圧力)を超えると、格納容器が破損する危険性が出てくる。また、原子炉に注水するため、 原子炉の圧力を下げる場合に,格納容器の圧力を下げる必要が出てくる。これらに対応するため,格納容器から意図的に蒸気やガスを放出(排気)することを格納容器ベントという(甲6-156:「原発ゼロ社会への道」原子力市民委員会)。福島第一原発事故時には,「格納容器ベント」操作が行われ,これにより格納容器から放射性物質を含む気体が外部へ放出された。新規制基準は,これを教訓として、「格納容器ベント」を行うような事態になっても周辺への放射性物質の放出が抑えられるよう、放射性物質を低減できるフィルタを通してから気体を放出する「フィルタ・ベント」の設置を義務づけたとされる。

[甲106 関西電力プレスリリース「3,4号機における新規制基準を踏まえた安全性向上対策工事の進捗状況について」添付資料2] 【図省略】

ウ フィルタ・ベントは希ガスを除去できない

しかし,新規制基準において設置を要求しているフィルタ・ベントを採用したとしても,ヨウ素とセシウムに対しては除去効果があっても,「希ガス」にはほとんど効果がないため,原子炉から格納容器内に出てきた希ガス[10]の多くは排気筒経由で大気中に放出されてしまうことが指摘されている。

この点について,元原子力安全委員会事務局技術参与で工学博士の滝谷紘一氏が当該フィルタ・ベントを採用した場合における希ガス放出を前提とした敷地境界での被曝線量がどの程度になるのかを把握する試算を行った(甲102)。

格納容器内に出ている希ガスの量は炉心損傷の進展の度合いに依存するところ,当該試算では,最も厳しいケースである,事故前に炉心に蓄積されていた全量が格納容器内に出てきた後にベント操作により排気筒から放出された場合を前提にしている。

この試算による結果は以下のとおりである。

表2 希ガスの炉内蓄積量100%を大気放出した場合の敷地境界被ばく線量試算 [甲102 滝谷紘一「立地評価をしない原子力規制の新基準」科学2013年6月号より]【表省略】

本件の対象となっている大飯原発3,4号機については,敷地境界線における全身被曝線量が6261mSvとなっており,離隔のための目安である100mSvを大幅に上回っている。

このように,希ガスによる被曝を考慮すれば,フィルタ・ベントが機能したとしても住民に対する放射線被曝の危険性は全く除去されない。

[10] 原子炉の内部で生じる主な希ガスとして、Xe(キセノン)133,Kr(クリプトン)85がある。平成23年3月12日~31日の放射性物質の放出量は[希ガス:よう素131:セシウム134:セシウム137]=[500:500:10:10]であり,希ガスの放出量は相対的に高い(甲102)。

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 (2) フィルタ・ベントの脆弱性

また,格納容器雰囲気直接加熱[11]による過温破壊や水素爆発、水蒸気爆発などの瞬時加圧破壊の事故シナリオにおいては,格納容器ベントを実施する暇もなく格納容器が破損するためフィルタ・ベントは役に立たない。また、現状の設計では,格納容器ベントをする前に格納容器貫通部から大量の放射性物質が放出される可能性がある。

すなわち,事故の経過によっては,そもそもフィルタ・ベントが機能しない状況がある。(甲65:原子力市民委員会著原発ゼロ社会への道)

[11] 格納容器雰囲気直接加熱: 高圧で圧力容器が破壊すると、急激に噴出する溶融デブリにより、 格納容器内の温度・ 圧力が急上昇する現象。格納容器を破壊する可能性がある。

 (3) 小括

以上,フィルタ・ベントの限界を述べた。フィルタ・ベント設置により立地評価を代替することはできないのである。すなわち,フィルタ・ベントの設置により公衆を被ばくから防護することにはならないのである。

従って,フィルタ・ベントの設置を要件として,離隔要件,集団線量要件等従来の立地評価指針を捨て去ることは住民を放射線被曝の危険にさらすことにほかならない。

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3 海外の規制

 (1) IAEAの原子炉施設立地評価

IAEA(国際原子力機関)は,平成15(2003)年,立地評価の安全指針としてNS-R-3を公開した(甲103)。NS-R-3を含む「IAEA安全基準シリーズ」[12]は,日本においても国際的な整合性を取りつつ,統一のとれた規制を推進していく上で参考とすべき文書と位置づけられ,その策定に関しては日本(担当機関は,原子力安全・保安院)も立案段階から参画している。

NS-R-3は,「目的」として「放出された放射性物質の人及び環境への移行に影響を及ぼすような立地地点及びその周辺環境の特徴」「外部領域の人口密度,人口分布及びその他の特徴」等の側面から立地評価をおこない,立地地点が容認できない場合には,当該立地地点は不適切と判断すべきとする(同4,5頁)。

また,その具体的基準として,「地域への潜在的影響」を問題とし,原子炉施設から放出された放射性物質が人と環境に到達する経路の特定,放射性物質放出に伴う公衆と環境への放射線リスクを考慮すべき事項としてあげるほか,「人口及び緊急時計画」についても個別問題点として判断基準を挙げ,「人口の特性と分布」に関連した影響評価を求めている(同8,9頁)。

従来,日本においても,立地審査指針により集団線量目安や低人口区域,非居住区域の区分にて(不十分ではあるものの)離隔要件が規定されていた。

しかし,新規制基準の策定に伴い,日本の規制は,IAEA基準すら充たさないこととなった。

[12] IAEAが策定する原子力安全基準文書

 (2) 米国の立地審査

平成8(1996)年,米国では原子炉立地基準10 CFR Part 100を改訂し,基本的な立地の判断基準を改訂した。改訂されたPART100は,1997年施行前後のプラント[13]に分けて,下記の通り立地評価の際に考慮すべき因子を挙げている(甲104)【表省略】。

また,下記の通り,「非居住区域,低人口区域,人口密集地までの距離の決定」[14]すなわち離隔要件を定めている。

  1.  非居住区域境界では,放出から2時間の総線量が全身で25rem[15],甲状腺で300remを超えない。
  2.  低人口地帯境界では,放射性雲通過の期間の総線量が,全身で25rem,甲状腺で300remを超えない。
  3.  人口密集地までの距離は,炉から低人口地帯の外縁までの距離の少なくとも(1+1/3)倍であること。

[13] subpartA100.10が97年1月10日以前に設置されたプラントに対する規制。subpartB100.20mが97年1月10日以降に設置されるプラントに対する規制。

[14] 1997年施行前のプラントに対する規制。施行後のプラントに対しても同様の規制が及ぶ

[15] 1シーベルト(Sv)は100レム(rem)である。

 (3) 小括

以上より,立地審査指針は,海外においても標準的基準であり,新規制基準がこれを排除する合理的理由はない。

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4 離隔要件とシビアアクシデント対策は独立して対策されなければならない

深層防護の思想からは,離隔要件を定める立地審査とシビアアクシデント対策は,独立した層をなすものであり,相互に独立してそれぞれ十分に対策されなくてはならない。

平成10年7月23日原子炉安全基準部会提出資料「立地審査指針について」(甲105)は,「離隔の確認は,原子炉施設の安全確保のための,例えばINSAG3[16]にいう,広義の多層防護の一環であって,設計基準事象の範囲内での安全設計,アクシデント・マネージメント,防災対策とは多層防護における独立した層をなすものである」として,離隔要件と,シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)は,相互に独立した対策であることを明言している。また,IAEA及び米国の規制が,シビアアクシデント対策とは別個に離隔要件を定めていることからもこの理は明らかである。

したがって,「シビアアクシデント対策により代替するから離隔要件は不要である」,という原子力規制委員会の論理は,多層防護の思想と相容れず,国際水準から逸脱した,危険性放置の考え方である

[16] IAEA国際原子力安全諮問グループの報告書「原子力発電所の基本安全原則」(1988年)

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5 発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームにおける議論の問題

全23回の発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームの会合の中で,立地審査に関する議論は,第9回会合の1回のみであった。しかも,立地審査という,住民の安全にとって死活的に重要な,したがって日本の原子力施設の審査にとって極めて重大な議題であるにもかかわらず,ほとんどチームメンバーによる議論がなされないまま,事務局案が成案となったという経緯がある(甲100:発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回議事録参照)。

従って,立地審査指針の適用問題については,検討チームによる十分な議論がなされていたとは到底いえない。その結果,既に指摘したような,住民を被曝の危険にさらす改悪が行われたのであり,検討チームの検討は完全に形骸しているという手続的な問題がある。
また,このことは,単に手続的な問題にとどまらない。離隔要件及び集団線量要件の問題は,シビアアクシデントが発生した際,住民の生命,健康,財産に対していかなる危険が及ぶかを判断する際の重要な要件であるところ,原子力規制委員会がこれらの要件を審査対象から外していることは上述したところである。このことは,新規制基準に適合したといっても,シビアアクシデントが発生したときに,住民に放射線被曝の危険性が生ずる可能性を放置することを意味する。原子力規制委員会が,本来のあるべき立地審査を行わないということは,原発の持つ住民に対する危険性を放置するものといわねばならない。司法判断においては,同委員会の立地審査に関する新規制基準,これらの要件に照らして原発の危険性を判断することが求められているというべきである。

◆原告第7準備書面
第5 新規制基準から立地審査指針が捨て去られた経緯

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第5 新規制基準から立地審査指針が捨て去られた経緯

1 原子力規制委員会の当初の方針

平成24年11月14日付原子力規制委員会記者会見において,立地審査に関する質疑がなされた。田中委員長は,記者の質問に対し下記の通り回答し,立地審査指針を100mSv基準に改正した上,再稼働の要件とする旨述べていた(甲63-17,甲98 平成24年11月15日付日経新聞電子版)。

  • 記者 最後にします。確認ですが,今おっしゃったのは100mSv等の,もし新しい基準かができたとしたら,それに当てはまらない原発は再稼働ができないということでしょうか。
  • 田中委員長 そうですね。

しかし,上記方針は,他施策(シビアアクシデント対策)により代替されるものとして、新規制基準に反映されなかった。この他施策による代替が不適切であることについては後述する。

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2 新規制基準策定時の議論

 (1) 立地審査指針の排除

平成25年1月11日,原子力規制委員会の発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回会合において,新規制基準において立地審査指針をどのように扱うかが問題とされた(甲99-30乃至32頁)。

同会合において,原子力規制委員会は,事務局案として,従来の離隔要件(下図c-1,2)を,原子炉格納容器の性能評価,及び,シビアアクシデント対策の有効評価で代替すること,並びに,集団線量(下図c-3)の要件をシビアアクシデント対策の有効性評価で代替することを提案し,同会合において,さしたる議論もないまま成案とされた。

[甲100-3:発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回会合資料]【表省略】

それでは,離隔要件に代替するものとされた「原子炉格納容器の性能評価,及び,シビアアクシデント対策の有効評価」とはいかなるものか。以下,新規制基準における「シビアアクシデント対策の有効評価」について詳述する。

 (2) 立地審査指針の代替措置―「シビアアクシデント対策の有効評価」

「シビアアクシデント対策の有効評価」は,後に「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」(甲101 平成25年6月19日 原規技発第13061915号 原子力規制委員会決定 平成25年7月8日施行 以下「審査ガイド」という)に規定された。

審査ガイドは,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈(原規技発第1306193号(平成25年6月19日原子力規制委員会決定)。以下 「解釈」という。)第37条の規定のうち,評価項目を満足することを確認するための手法の妥当性を審査官が判断する際に,参考とするものである。」と解説されている。

具体的には,〈1〉炉心損傷防止対策の有効性評価に関する審査ガイド及び〈2〉格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイドからなる。

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 (3) 〈1〉炉心損傷防止対策の有効性評価に関する審査ガイド

炉心損傷防止対策の有効性評価は,事故に至るシナリオ(事故シーケンス)を抽出しその事故対策の有効性を確認するものとされる。ここでの有効性の確認対象は,

  1.  炉心の著しい損傷が発生するおそれがないものであり,かつ,炉心を十分に冷却できるものであること。
  2.  原子炉冷却材圧力バウンダリ[7]にかかる圧力が最高使用圧力の 1.2 倍又は限界圧力を下回ること。
  3.  原子炉格納容器バウンダリ[8]にかかる圧力が最高使用圧力又は限界圧力を下回ること。
  4.  原子炉格納容器バウンダリにかかる温度が最高使用温度又は限界温度を下回ること。

である。これらは,原子炉格納容器の保守性を対象とする審査であり公衆の離隔要件とは無関係である(甲101-1,2頁)。

 (4) 〈2〉格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド

格納容器破損防止の有効性評価においては,「重大事故[9]」が発生するシナリオ(格納容器破損モード)を抽出し,「想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認する」。この有効性評価を確認するとは,以下の項目を満足することをいう(甲101-13,14)。

  1.  原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力が最高使用圧力又は限界圧力を下回ること。
  2.  原子炉格納容器バウンダリにかかる温度が最高使用温度又は限界温度を下回ること。
  3.  放射性物質の総放出量は,放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであること。
  4.  原子炉圧力容器の破損までに原子炉冷却材圧力は2.0MPa以下に低減されていること。
  5.  急速な原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用による熱的・機械的荷重によって原子炉格納容器バウンダリの機能が喪失しないこと。
  6.  原子炉格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止すること。
  7.  可燃性がスの蓄積,燃焼が生じた場合においても,(a)の要件を満足すること。
  8.  原子炉格納容器の床上に落下した溶融炉心が床面を拡がり原子炉格納容器バウンダリと直接接触しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること。
  9.  溶融炉心による侵食によって,原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること。

以上の項目のうち,放射性物質の外部放出に関する評価事項は,「(c)放射性物質の総放出量は,放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであること。」のみである。(c)の具体的な有効性評価手法及び範囲としては「想定する格納容器破損モードに対して,Cs-137の放出量が100TBqを下回っていることを確認する。」とされる。しかしながら,上記審査は,格納容器破損の危険に際して格納容器ベント(後述)を行う際には,Cs-137(セシウム137)の総放出量を100テラベクレル以下に収めなくてはいけないという基準であって(放出量の基準),公衆の被曝線量の観点から,離隔要件を定めた「立地審査指針」とは異質のものである。

[7] 原子炉冷却材圧力バウンダリとは,原子炉の通常運転時に,原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ圧力条件となり,運転時の異常な過渡変化時及び事故時の苛酷な条件下で圧力障壁を形成するもので,それが破壊すると原子炉冷却材喪失事故となる範囲の施設。(http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/glossary/ke35.html)

[8] 原子炉の冷却材喪失事故時に圧力障壁となり,かつ,原則として放射性物質の放散に対する最終の障壁を形成する境界である。すなわち,貫通部ノズルおよびベローズなどを含む原子炉格納容器本体および原子炉格納容器を貫通する配管および隔離弁の箇所をいう。(http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=263)

[9] 新規制基準における「重大事故」の定義:炉規法43条の3の6,3号は「発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう」と定め,同規則4条は「法第四十三条の三の六第一項第三号の原子力規制委員会規則で定める重大な事故は,次に掲げるものとする。
一 炉心の著しい損傷
二 核燃料物質貯蔵設備に貯蔵する燃料体又は使用済燃料の著しい損傷」
と規定する。

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3 小括

以上の経緯により,シビアアクシデント対策の一部である格納容器ベント時の放射性物質の放出量制限を理由として、立地審査指針の離隔要件及び集団線量の要件が捨て去られた。

◆原告第7準備書面
第4 立地審査指針の問題点

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-立地審査指針について- 目次

第4 立地審査指針の問題点

福島第一原発により明らかになった立地審査指針の問題点は以下の通りである。

まず,立地審査指針は,格納容器が損壊する程度の事故を想定していないという問題点がある。国会事故調査報告書は,この点を「非居住区域や低人口地帯の設定の前提となる放射性物質の放出量は,これらの区域・地帯が原子炉施設の敷地内に収まるように逆算された疑いがある」と指摘している(内容の問題 甲3-537,538:国会事故調査報告書)。

次に,規制庁により,立地審査指針が厳格に運用されていなかったという問題がある(運用の問題)。
そのため,日本の全ての原子炉において,非居住区域及び低人口地域が全て原子炉施設敷地内に収まるという奇妙な判断がなされた。すなわち,立地審査指針の趣旨である離隔要件は,具体的基準の設定及び規制庁の運用により形骸化していたのである。

規制庁の従前の判断について,原子力委員会委員長班目春樹氏は,「正直申し上げて,全面的な見直しが必要だと思っております。」「…今までの例えば立地指針に書いてあることだと,仮想事故だとかいいながらも,実は非常に甘々の評価をして,(放射性物質が)余り出ないような強引な計算をやっていることがございます。ですから,今度,原子力基本法が改正になれば,その考え方にのっとって全面的な見直しがなされてしかるべきもの…」と述べ,上記の問題点を認めた(甲97-8:国会事故調第4回議事録 下線部は原告代理人が加筆)。

福島第一原発事故を教訓とすれば,まず,旧立地審査指針を見直し,福島第一原発事故規模の事故を想定した厳格な指針を策定すること,及び,規制庁による厳密な運用が必要である。そして審査の結果,立地審査指針を充たさない原子炉に関しては,指針を既設炉に適用(バックフィット)し再稼働を認めないことが新規制基準のあるべき運用である。

しかしながら,原子力規制委員会は,当初は,立地審査を改正し厳格な運用を行う旨述べていたものの,その後当初の反省の態度は一変し,次項で述べる通り,新規制基準策定の議論の中で,立地審査において,シビアアクシデントの際における住民の安全を守る為に必要不可欠な離隔要件及び集団線量要件を捨て去ってしまうという,にわかに信じ難い方針に転じてしまった。上記の班目原子力委員会委員長の発言に示された反省を原子力規制委員会は一顧だにしていない。司法判断においては,原子力規制委員会のこの不誠実な態度に対し,住民の安全確保の観点から,厳しい批判をすることが期待される。

◆原告第7準備書面
第3 福島第一原発を前提とした場合のシミュレーション

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-立地審査指針について- 目次

第3 福島第一原発を前提とした場合のシミュレーション

1 福島第一原発事故の積算線量

福島第一原発事故後,平成23年4月1日から平成24年3月末日までの,福島第一原発敷地境界における累積被爆線量は最大で956mSvであった(甲94:第180回国会 平成24年6月5日環境委員会質疑)。これには,事故直後の平成23年3月中旬以降の被爆線量が反映されていないため,実際には,事故後1年間の累積被曝線量はより高かったものと考えられる[3]。

従って,福島第一原発事故による放射性物質の放出は,立地審査指針の目安(100mSv)を遥かに超えるものであった。

図1 事故後約1年間の敷地境界での月別の最大積算線量(モニタリングポストMP7)【図省略】[甲102-616]

[3] 元原子力安全委員会事務局技術参与滝谷氏の試算によれば平成23年3月12日から3月末日までの約20日間の累積被ばく線量は234mSv(甲102)

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2 大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」

原子力規制庁は,地方公共団体の防災計画策定のため,原子力発電所の事故により放出される放射性物質の量等を仮定し,周辺地域における放射性物質の拡散状況,被曝線量等についての推定(以下,「拡散シミュレーション」という。)を行い,平成24年12月に総点検版を公表した[4](甲96「拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」)。

これは,(1)発電所の事故により放出される放射性物質の量として,福島第一事故により放出された量を仮定し,(2)発電所の事故により放出される放射性物質の量として,全基破損を仮定し,福島第一事故で放出された量に,各発電所の合計出力と福島第一1~3号機の合計出力の比を乗じて,発電所規模の補正を行い,福島第一事故と同じ事故が生じた場合の放射性物質の放出量を算出する。(3)そして,サイトにおける年間の気象データ(8760時間分の大気安定度,風向,風速,降雨量)から,放射性物質が拡散する方位,距離を計算し,そのなかで,拡散距離が最も遠隔となる方位(16方位区分)において,実効線量が線量基準 (100mSv)に達する確率が気象指針(原子力安全委員会決定(昭和57年1月))に示された97%に達する距離を試算するものである。

この結果,大飯原発では,放射性物質が南北方向に拡散し,陸側では,実効線量[5]が100mSvとなる距離が,最大32.5km地点となる試算結果が報告された。下記図表によれば,被曝線量100mSvの境界は,南丹市を越え,京都市右京区にまで達する。

したがって,福島第一原発事故程度の事故を仮定し,立地審査指針の基準(100mSv)を適用すれば,大飯原子力発電所が離隔要件を充たさないこと,言い換えれば,当該敷地に原子炉を立地できないことが明白になった[6]。

サイト出力に対応した放射性物質量を仮定した計算【図省略】[甲96-31]

参考11-2 方位別のめやす線量を超える距離(大飯)【表省略】[甲96-32]

[4] 「拡散シミュレーション」は,当初,10月24日に公表されたが,その後,方位のずれ等の誤りを修正し,平成24年12月13日に改訂版である「拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」が公表された。
https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/data/kakusan_simulation1.pdf

[5] 実効線量:身体の放射線被曝が均一又は不均一に生じたときに,被曝した臓器・組織で吸収された等価線量を相対的な放射線感受性の相対値(組織荷重係数)で加重してすべてを加算したものである。単位はシーベルト(Sv)で表される。例えば,ICRP-1990年勧告における線量限度は放射線作業従事者に対して連続した5年間につき年当り20mSv,一般公衆に対して年当り1mSvとしている。

[6] 立地審査指針は,「重大事故」「仮想事故」に,福島第一原発事故のような格納容器が破損する事態を含めていなかった。

◆原告第7準備書面
第2 立地審査の概要

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-立地審査指針について- 目次

第2 立地審査の概要

以下,昭和39年以降新規制基準施行まで運用されていた立地審査指針について述べる。

1 立地審査指針の内容

昭和39年5月27日原子力委員会は「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」を決定した(甲93)。

立地審査指針は,「原子炉安全専門審査会が,陸上に定置する原子炉の設置に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断する」ことを目的とするものであり,立地条件適否の判断のための基準を示している。

立地審査指針は,立地の適否の判断において,まず,放射性物質が外部に漏れでる最大の事故を仮定して,周辺の公衆に与える被爆量を評価する。最大の事故とは,敷地周辺の事情,原子炉の特性,安全防護施設などを考慮し,技術的見地から見て「最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故」(以下「重大事故」という),と「重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故」(以下「仮想事故」という)と定義されている。

「重大事故」及び「仮想事故」を仮定する目的は,対象となる原子炉と周辺の公衆との離隔が適正に確保されていることを確認することである。すなわち,重大事故,仮想事故が起こり,それに起因する放射性物質が漏出したとしても,原子炉から一定の距離を非居住区域とすることにより,公衆の被曝を予防することにある。言い換えれば,公衆の居住区域から一定の距離をおかなければ,原子炉を立地することはできない。

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2 立地評価とは

 (1) 「立地評価」とは

ア 重大事故,及び,仮想事故に対して,以下の3条件が満たされていることを確認することが「立地評価」である。

  1.  原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること
    「ある距離の範囲」〈1〉は,重大事故の場合,もし,その距離だけ離れた地点に人がいつづけるならば,その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし,「非居住区域」とは,公衆が原則として居住しない区域をいう。
  2.  原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯であること
    「ある距離の範囲」〈2〉は,仮想事故の場合,何らの措置を講じなければ,範囲内にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲とし,「低人口地帯」とは,著しい放射線災害を与えないために,適切な措置を講じうる環境にある地帯(例えば,人口密度の低い地帯)をいう。
  3.  原子炉敷地は,人口密集地帯からある距離だけ離れていること
    「ある距離」〈3〉とは,仮想事故の場合,全身線量の積算値が,集団線量の見地から十分受け入れられる程度に小さい値になるような距離をとるものをいう。

イ 上記の通り,〈1〉,〈2〉,〈3〉の「ある距離」は,各々定義が異なり,

  1. 「ある距離の範囲」を判断するためのめやすは,「甲状腺(小児)に対して1.5Sv 全身に対して0.25Sv(250mSV)」
  2. 「ある距離の範囲」を判断するためのめやすは,「甲状腺(成人)に対して3Sv 全身に対して0.25Sv(250mSv)」
  3. 「ある距離だけ離れていること」を判断するためのめやすは「2万人Sv[2]」

が参考とされた。

ウ 離隔のための目安は100mSvであること

上記,被爆線量に関しては,実務上,国際基準である100mSvを基準として運用されていた(甲63-16平成24年11月14日原子力規制委員会記者会見録,甲94-63:第180回国会衆議院議員環境委員会第4号議事録原子力安全委委員会委員長班目春樹発言)。

[2] [人・Sv]は集団積算線量の単位を表す。X人の集団における1人あたりの個人被曝線量を全て加算したもの。仮想事故の際に「ある距離」内の集団積算線量が2万人Sv以下であればリスクは小さいと見なすという意味である。

 (2) 「重大事故」及び「仮想事故」

「重大事故」及び「仮想事故」は,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」(甲95:平成2年8月30日原子力安全委員会決定,平成13年3月29日原子力安全委員会一部改訂)により以下の通り具体的に指定されている。

まず,BWR型については,冷却剤喪失事故及び主蒸気管事故,PWR型については,冷却剤喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故を対象事故とする。

「重大事故」は,上記の事故の際に,逃し安全弁が作用し冷却系が機能することを仮定する(この場合にも,冷却材中に核分裂生成物が放出されるため,放射性物質が漏出する)。

「仮想事故」は,逃し安全弁が開く圧力のままとどまり,主蒸気系からの蒸気漏れが無限時間続くと仮定する(従って,蒸気とともに大量の放射性物質が漏出すると仮定する)。

立地評価では,上記の事故を仮定し,その際にプラントから外部に放出される放射性物質が拡散し,公衆に与える被爆線量を試算し,3条件を満足するか否かを確認するものである。

ただし,「重大事故」も「仮想事故」も,格納容器が破損することを仮定していない。すなわち,立地審査指針は,福島第一原発事故程度の事故を仮定した離隔要件を定めていなかった。

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3 立地審査の実態

日本の既存原子炉は,立地審査を行った上で,「非居住区域」,及び,「低人口区域」のいずれも,原子力発電所敷地境界内に収まると判断されてきた。

これは,「重大事故」及び「仮想事故」時にも,日本の全ての原子力発電所敷地境界外では,250mSV(または100mSv)の公衆被爆がないと判断されてきたということである。この指針自体の問題点については後述する。

◆原告第7準備書面
第1 はじめに

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第1 はじめに

原子力発電所は大量の放射性物質を内蔵している。従って放射性物質の放出から公衆の安全を守るため,原子炉施設の基本的な安全設計が問題となるだけでなく(深層防護の1~3層),放射性物質が大量に放出される重大事故への対策(同第4層:過酷事故対策)及び放射性物質の影響を緩和するための周辺住民らの避難計画等(同第5層)が,それぞれ独立して確保されねばならない。これらに加え,原子力発電所の立地は,確実に放射性物質の放出から公衆の安全が守られるよう,人が居住していないか,あるいは人口密集地から離れ,周辺の人口密度が低いことを要請される。

上記を要件化したものが,いわゆる「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」(昭和39年5月27日原子力委員会決定 以下「立地審査指針」という)である。立地審査指針は,昭和39年5月27日以降,原子炉の設置審査において適用されてきたが,平成25年7月の新規制基準には,公衆の被曝量を基準とする立地審査指針は含まれず,審査指針として運用されない方針が採用された。すなわち,現在,公衆の被爆量を基準とする立地審査指針は,既設炉の審査基準とされていない[1]。

本書面では,新規制基準が従来の立地審査指針を捨て去ってしまったことの問題点を述べ,新規制基準が,立地に関する規制において住民の安全性を担保していないこと,すなわち,このような行政の再稼働審査により本件原発の再稼働を認める場合には,住民に対する具体的危険発生の可能性があることを明らかにする。

[1] 改正炉規法第43条の3の23はいわゆるバックフィット規定を明示した。従って,審査基準は新設炉のみでなく既設炉にも適用される。