◆原告第36準備書面
-京都市原子力災害避難計画の問題点について-

原告第36準備書面
-京都市原子力災害避難計画の問題点について-

2017年(平成29年)7月19日

原告第36準備書面[177 KB]


目次

第1 京都市原子力災害避難計画の作成

第2 京都市原子力災害避難計画の問題点について
1 迅速的確な情報伝達の非確実性
2 避難手段について
3 滋賀県のシミュレーションを踏まえていない
4 「避難」を選択することの困難性

第3 結論


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では京都市における避難計画の問題点について追加の主張を行う。


第1 京都市原子力災害避難計画の作成

京都市防災会議は、平成25年3月18日、京都市地域防災計画原子力災害対策編を策定し、同対策編において、原子力災害避難計画(以下「京都市原子力災害避難計画」という。)を定めた(甲361号証[2 MB])。これまで、原告が、各地の避難計画について主張したとおり、京都市の避難計画においても、具体的な事態や個々の避難者の個別事情を想定して作成されていないのであり、避難計画としては、全く対策となっていない。

さらに、京都市防災会議は、平成26年3月20日、同年11月10日、平成27年11月9日、の合計3回、京都市地域防災計画原子力災害対策編の修正をおこなった(甲362号証[90 KB])。しかし、京都市原子力災害避難計画については、全く修正がなされておらず、問題点の改善がなされていない。

このことこそが、現実的な避難計画を作成することが不可能であることを示しているのである。

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第2 京都市原子力災害避難計画の問題点について


 1 迅速的確な情報伝達の非確実性

京都市原子力災害避難計画においては、国の災害対策本部長(内閣総理大臣)が、屋内退避の勧告又は指示が迅速になされ、京都市が正確に情報を受け取ることができることを前提として作成されている(甲361号証[2 MB]126頁)。

しかし、福島原発事故では停電により情報発信そのものが十分できなくなったり、処理能力を超えてメール等の送受信ができなくなったことにより、迅速的確な情報伝達は行われなかったりしたことを考慮すると、上記前提自体が覆される可能性が高い。

京都市原子力災害避難計画が策定されてから、4年以上が経過しているにもかかわらず、上記問題点は一切改善されていない。


 2 避難手段について

京都市原子力災害避難計画は、「避難又は一時移転」の方法として、下記のとおり定めている。

「本部長は、直ちにUPZごとに緊急輸送に必要な車両及び緊急輸送を行う者(以下「緊急輸送車両等」という。)を手配するとともに、避難者の緊急輸送を依頼する。緊急輸送車両等の手配要領は、原則として次のとおりとする。
(ア)UPZ付近にある公用車両を活用する。
(イ)UPZ付近にある民間事業者等の協力を要請する。
(ウ)交通部の保有する馬主
(エ)京都府バス協会にバス輸送の協力を要請する。

しかし、同規定は、地域ごとの具体的な避難人数を前提としてどれだけの輸送車両が必要となり、その輸送車両が、現実に確保できるのかといった検討が全くないままに定められており、非現実的である。

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 3 滋賀県のシミュレーションを踏まえていない

滋賀県が2014年1月24日に公表した琵琶湖の汚染予測調査の結果(ベクレル)(甲89)は、福島第一原子力発電所事故に、滋賀県が策定した放射性物質の拡散モデルを適用し、琵琶湖へのセシウム137と、ヨウ素131沈着量の予測を行ったものである。具体的な条件としては、大飯原発または美浜原発から、2011年3月15日(福島第一原発の事故において最も排出量の多かった日)の24時間の放射性物質排出量が排出された場合をシミュレーションし、琵琶湖流域に最も影響が大きいと考えられる日を抽出したものである。

この結果、セシウムについて、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、IAEAが飲料水の摂取制限の基準であるOIL6(経口摂取による被ばく影響を防止するため、飲食物の摂取を制限する際の基準。セシウム137について飲料水で200Bq/Lとされる)を超過する面積比率が事故直後には最大20%程度(北湖)となり、またこうした水域が長い場合で10日間前後残る可能性が示された。

また、ヨウ素については、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、同様の分析をしたところ、OIL6を超過する面積比率が事故直後に北湖で最大30%程度、南湖で最大40%程度となる事例が見られ、北湖では10日間程度で、南湖では7日間程度はその状態が続く可能性があることが判明した。

なお、この調査では専ら琵琶湖の汚染に焦点が当てられているが、同時に、人間の居住地域を含む土地の汚染が発生することは言うまでも無い。京都府は、滋賀県と隣接する都道府県であるにもかかわらず、京都市原子力災害避難計画は滋賀県のシミュレーションの内容を全く踏まえていない。

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 4 「避難」を選択することの困難性

京都市原子力災害避難計画は、原子力災害において、「避難」を選択することを前提として避難方法などについて定めている。しかし、そもそも、それまで、長年住み続けてきた地域から、仮に「避難」を選択する場合、それまで居住してきた住居を手放し、現在行っている仕事を退職するなど、重大な決断を行う必要があり、容易に「避難」を選択できるものではない。


第3 結論

このように、京都市原子力災害避難計画は、具体性・現実性が全く無く、避難計画としては、全く対策となっていないのである。策定されてから、4年以上が経過しても、同計画の問題点が何らの改善もされていないことこそが、現実的な避難計画を策定することが不可能であることを示している。

以上

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