◆原告第61準備書面
火山影響評価に関する新知見と原子力規制委員会及び関西電力の対応について

原告第61準備書面
火山影響評価に関する新知見と原子力規制委員会及び関西電力の対応について

2019年1月28日

原告提出の第61準備書面

【目 次】

第1 はじめに

第2 火山影響評価について
1 火山影響評価とは(甲483)
2 原子力規制委員会における「新知見」の認定と報告徴収命令の発出
3 「新知見」に基づくと大飯原子力発電所の安全裕度が小さいこと
4 小結

第3 火山影響評価を巡る原子力規制委員会と関西電力の背信性について

第4 結語



第1 はじめに

本書面は、原子力発電所の新基準適合性審査の一つである、「火山影響評価」に関して、①平成30年11月21日に原子力規制委員会において認定された「新知見」を根拠に大飯原子力発電所が火山に対して裕度が小さいことを主張するとともに、 この火山影響評価に関する②規制委員会及び関西電力の背信性について主張するものである。


第2 火山影響評価について

 1 火山影響評価とは(甲483

原子力規制委員会の定める「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第6条は、外部からの衝撃による損傷の防止として、安全施設は、想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならないとしており、敷地周辺の自然環境を基に想定される自然現象の一つとして、火山の影響がある。

原子力発電所の火山影響評価ガイドは、火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものであり、原子力発電所の運用期間中に火山活動が想定され、それによる設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合には、原子力発電所の立地は不適となる。
具体的には、火山影響評価ガイドは、原子力発電所に

  1.  降下火砕物堆積荷重に対して、安全機能を有する構築物、系統及び機器の健全性が維持されること。
  2.  降下火砕物により、取水設備、原子炉補機冷却海水系統、格納容器ベント設備等の安全上重要な設備が閉塞等によりその機能を喪失しないこと。
  3.  外気取入口からの火山灰の侵入により、換気空調系統のフィルタの目詰まり、非常用ディーゼル発電機の損傷等による系統・機器の機能喪失がなく、加えて中央制御室における居住環境を維持すること。
  4.  必要に応じて、原子力発電所内の構築物、系統及び機器における降下火砕物の除去等の対応が取れること。
    (直接的影響)
    原子力発電所外での影響(長期間の外部電源喪失及び交通の途絶)を考慮し、燃料油等の備蓄又は外部からの支援等により、原子炉及び使用済み燃料プールの安全性を損なわないように対応が取れること。
    (間接的影響)

を求め、降下火砕物については「周辺調査から求められる単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものと」して影響評価を行うものとされている。

6.原子力発電所への火山事象の影響評価
原子力発電所の運用期間中において設計対応不可能な火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について、それが噴火した場合、原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象を表1に従い抽出し、その影響評価を行う。
ただし、降下火砕物に関しては、火山抽出の結果にかかわらず、原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものとする。なお、敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物で、噴出源が同定でき、その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合は考慮対象から除外する。
また、降下火砕物は浸食等で厚さが低く見積もられるケースがあるので、文献等も参考にして、第四紀火山の噴火による降下火砕物の堆積量を評価すること。(甲483-12)

 2 原子力規制委員会における「新知見」の認定と報告徴収命令の発出

上記の通り、原子力発電所の新規制基準適合性審査では、火山影響評価として火山灰の層厚の評価を行っており、原子力発電所の火山影響評価ガイド(甲483)を参照し、地質調査や文献調査等から評価された火山灰の層厚を確認するとともに、敷地周辺において火山灰の堆積が確認されない場合は、数値シミュレーション等により火山灰の層厚を求めている。

従前関西電力は、既存の知見に従い、大飯原子力発電所の降灰の厚さを最大10センチメートルと想定していた。

他方、原子力規制庁は、実用発電用原子炉の火山事象に係る安全規制の高度化に向けて、平成27年度及び平成28年度に、大山火山起源の降下火砕堆積物の分布を再度評価したところ、後述の山元孝広論文(甲484-大山火山噴火履歴の再検討)を根拠に既往文献(新編火山灰アトラス)についてデータの不確実性が含まれるものと評価し平成29年6月14日、関西電力に対し、大山生竹(DNP)[1]の火山灰分布について情報収集を求めた。山元孝広論文は、大山生竹の火山灰分布について、京都市越畑付近にて約30センチメートルの降灰層厚を報告しているものであり、関西電力の評価(10センチメートル)を大きく上回るものである。

平成30年3月28日、第75回原子力規制委員会において、関西電力の「新知見」は採用できないとの調査結果に対し、原子力規制庁は「越畑地点におけるDNPの最大層厚は山元(2017)において引用している文献値(30cm)よりやや小さい26cmとみなすことが可能である。」(甲485)とし、平成30年11月21日の原子力規制委員会においては、京都市越畑地点の大山生竹テフラ(DNP)の降灰層厚は25cm程度であること、またDNPの噴出規模は既往の研究で考えられてきた規模を上回る10km3以上と考えられることが新知見(以下「本新知見」という。)として認定された。

平成30年12月12日、第47回原子力規制委員会において、本新知見を受けて、原子力規制委員会は、「本新知見は、新規制基準に基づく既許可の原子力発電所(高浜発電所、大飯発電所及び美浜発電所。以下「本件発電所」という。)における敷地の降下火砕物の最大層厚に影響を与え、その結果、原子炉設置変更許可の評価に用いた前提条件に有意な変更が生じる可能性があると考えられる。」として、関西電力に対し、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条第1項の規定に基づき、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に報告徴収命令を発した。

甲486-8ページ】《図省略》

甲484-2】《図省略》

[1] 生竹降下堆積物:黒雲母含有斜方輝石普通角閃石デイサイトの約8万年前に噴出したプリニー式降下火砕物で,大山から約10km東南東で2m以上の層厚を持ち,京都府越畑盆地(大山から約190km東南東)でも層厚30cmの降下火砕物の分布が確認されている(甲484参照)。

 3 「新知見」に基づくと大飯原子力発電所の安全裕度が小さいこと

関西電力は、大飯原発3,4号機は、10cmの降灰に対し前提に十分な裕度がある、また30cmの降灰に対しても対処可能である(荷重に対して健全性を維持できる)と述べる(甲487[2]甲488[3])。
ここで、関西電力は、その根拠として

  1. 積雪荷重(100センチメートル)と同時に考慮
  2. 建設時に屋根に見込んでいた設計時長期荷重(PA)の1.5倍を評価基準として、積雪荷重(100センチメートル)と降下火砕物(10センチメートル)による荷重を加算した荷重(PB)が、建設時に屋根面に考慮していた設計時長期荷重に対する比(PC)が1.5倍以内であることで健全性を確認
    ・裕度=1+(1.5PA-PB)/1500
    ・1500:降下火砕物(10cm)による単位面積あたりの荷重
    ・1.5:鉄筋コンクリートスラブに用いる鉄筋の、長期と短期の許容値の比
    ・PAは「設備図書に示す自重、積載荷重及び設計時長期積雪荷重の和」

とモデルを提示している。すなわち、100センチメートルの積雪+30センチメートルを仮定しても、モデル上は裕度があるという主張である。

甲488-3】《表省略》

しかしながら、仮にこのモデルが正しいとしても、最も裕度の小さい「原子炉周辺建屋」においては、わずか31センチメートルの降灰で、裕度がなくなる(裕度=1となる)ことになる[4]甲487)。

すなわち、大山生竹テフラ(DNP)の降灰層厚を前提とすると原子炉周辺建屋の裕度は非常に小さいのである。

ディーゼル発電機のフィルターの目詰まりについては,設計層厚を26センチメートルとした場合,これを10センチメートルとした場合と比較して,気中降下火砕物の濃度が大きくなり,現状の限界濃度を上回ることは確実である。したがってフィルターが目詰まりを起こしてディーゼル発電機による供給ができなくなるという危険がある。

また、山元孝広論文には、大山生竹テフラ(DNP)のみでなく、大山火山起源の複数の降下火砕堆積物の分布図が示されているところ、山元孝広氏は倉吉降下堆積物[5](DKP)を、大飯原子力発電所付近で50センチメートルと推定している。同堆積物は約6万年前の噴火によるものとされているが、火山影響評価ガイドは第四紀(258万年前から現在までの期間)に活動した火山を対象とするとしており、また、平成29年6月6日付原子力規制部安全規制管理官による「火山活動の可能性評価のための調査研究」(甲486別添)においても「大山倉吉噴火(以下、DKP噴火)は大山火山の約10~2.5万年前の活動の中でも特異的な火山活動ではないと考えることも可能である」として評価対象としている。したがって、倉吉降下堆積物(DKP)を評価した場合には、もはや、安全裕度は1を下回ることが予想されるのである。

[2] http://www.nsr.go.jp/data/000247984.pdf
[3] http://www.nsr.go.jp/data/000247985.pdf
[4] ∵降下火砕物Xセンチメートルによる単位面積あたりの荷重=150X(N/m2
  PB=PA+150X
  PA=9550
  裕度1となるXは
  1=1+(1.5PA-PB)/1500
  →PA+150X=1.5PA
  X=31.833333…
[5] 約6万年前の国内で最大規模のプリニー式噴火(甲484

 4 小結

以上より、すでに判明した事情を元にしても、大飯原発3,4号機は、火山に対する十分な安全性を有していないのであり、具体的危険性が顕在化している。


第3 火山影響評価を巡る原子力規制委員会と関西電力の背信性について

  1 関西電力の背信性

原子力規制委員会は、上述の通り、平成30年3月28日に本新知見を認めたが、関西電力は、その直前の同年3月1日の段階でも「山元(2017)に示される等層厚線図については、元になった大屋地点、土師地点、越畑地点の層厚が評価できなかったこと、大山池地点は等層厚線図と整合しているものの瀞川山地点は等層厚線図と整合しなかったことから、現時点では新たな知見として採用できない。」と強弁し、本新知見を否定していた。

関西電力が、科学的な知見から目を背け、原発の安全性確保を軽視する姿勢を取っていることはこの一事からも明らかである。そして、これは、原告ら大飯原発の周辺住民に対する背信行為に他ならない。

  2 規制委員会の背信性

また、原子力規制委員会も、問題点が本新知見によりあらたな問題点が指摘されているにもかかわらず、「噴火が差し迫った状況にあるものではないことを踏まえ、原子炉の停止は求めない」という判断をした(甲489甲490)。

しかし、火山の噴火がいつ発生するのかについて正確に予測することは本来的に不可能である。一方、原発の過酷事故は、一度発生すれば、回復不可能かつ重大な結果をもたらす。本新知見があり、関西電力の火山対策の弱点が露呈しながら、対策が未定の状態での大飯原発の運転を認める原子力規制委員会の姿勢は、安全性よりも関西電力の営利活動を優先するものであり、国民や、原告ら大飯原発の周辺住民に対して極めて背信的なものといわざるを得ない。これは、事前に巨大津波の襲来可能性を指摘されながら、原発を停止しなかったために過酷事故に至った福島第一原発の例からも明らかである。


第4 原子力規制委員会が依拠する科学的知見自体のぜい弱性

本新知見に典型的に現れているが、新たな科学的知見が発見される度に、原子力規制委員会が依拠すべき知見も更新されざるを得ない。そして、本新知見もそうであるように、原発の安全性に関わる科学的知見のほとんどは、原発の安全性を確保するために発見されるわけではなく、各分野の研究者の科学的関心に基づいて発見されるものである。

原発の安全性に関わる新知見は今後も次々に発見されることが予測され、これは、現時点では、原発の安全性に関わる未発見の知見が多数あることを意味する。そうすると、新規制基準やそれに基づく審査というものが原理的に原発の客観的な安全性を保証できないことにならざるを得ない。

新規制基準や原子力木瀬委員会の審査は、原発の安全性を保証できるものでないことを前提に、審理がなされなければならない。

以上