原発に関わる最近の動き
安倍政権の成長戦略の柱・原発輸出が頓挫
◆安倍政権は、福島原発事故後も、日本の原発は次世代自動車と並ぶ先進技術と位置づけ、原発輸出を「成長戦略の柱」として、官邸主導(トップセールス)で後押ししてきた。2012年に政権に復帰した安倍政権は、10年間で原発輸出の受注額を約7倍の2兆円に拡大するとしていた。しかし、今までに全ての原発輸出計画が頓挫した。
◆原発輸出頓挫の主たる原因は、福島原発事故以降、原発の安全基準が強化され、その結果、工費が福島事故前の1基5000億円程度から2倍以上の1兆円超に高騰したためであるが、それだけではない。福島原発事故の大きな犠牲の上に形成された脱原発・反原発の民意を背景とする脱原発・反原発運動の高揚、エネルギー使用削減への意識変革、省エネ機器や高効率発電法・蓄電法の進展、再生可能エネルギーへの転換の加速なども原発輸出を成り立たなくさせた大きな要因である。
◆全ての原発輸出が頓挫した事実は、少なくとも原発輸出に関する限り、安倍政権には世界の趨勢、経済の動向を予測する能力がないこと、安倍政権の経済政策が破綻したことを示しているが、安倍首相は口を閉ざしたままで、反省の言もない。安倍政権には、福島原発事故被害の深刻さ、その全社会、全世界に与える影響の重大性が理解できていないのではなかろうか。(なお、安倍政権の経済政策の破綻は、原発輸出に限ったものではない。)
頓挫した原発輸出の例
●日立製作所は、2020年代半ばの稼働を目指して、英国中部のアングルシー島に2基の原発の新設を計画していたが(計画に乗出したのは2012年)、1月17日、この計画の凍結を正式に決定した。安全対策費が当初計画の約1.5倍の3兆円超に高騰し、建設費回収の見通しが立たなくなっていた。日立は、事業凍結により約3000億円の損失を計上する。
なお、「原発日立が英国の原発から撤退」という報道があった1月11日、その瞬間から日立の株価が急騰し、2営業日で値上がり率は16%を超えた。日立が、3000億円という損失を計上しても、収益のマイナス材料である原発の泥沼から抜け出そうとしたことが評価されたことになる。原発は大企業にとってもお荷物・厄介者であることを如実に物語る。
●三菱重工業も、トルコでの原発計画を断念する見通しである(1月4日報道)。2013年に、安倍政権のトップセールスで黒海沿岸に4基の原発を2023年の稼働を目指して建設する計画を決定していたが、安全基準の強化で事業費が当初予想の2倍以上(約5兆円)に跳ね上がり、三菱は撤退の方向に転じた。トルコの通貨・リラが、昨年8月以降のトルコと米国の対立で暴落したことも原発建設コストを膨らませた。日本側は事業費を回収するために、電気料金の値上げを求めたが、国民の反発を恐れるトルコとの交渉は難航した。
なお、原子炉プラントに関するコンサルタント、導入する設備とそれに必要な資金の調達などでトルコでの原発建設計画に参画することを検討していた伊藤忠は、昨年4月に撤退の方針を固めていた。
●リトアニア・エネルギー省は、2016年11月、ヴィサギナス原発の建設計画凍結を勧告した。ヴィサギナス原発(130万 kw級、当初の建設費5000億円、2020年前後の運転開始が目標)は日立とバルト3国が出資し、日立と米・ゼネラルエレクトリック(GE)社が連携して建設することになっていた。
なお、リトアニアでは、2012年、ヴィサギナス原発の建設計画の是非を問う国民投票が行われ、6割以上の反対(賛成は3割台)によって事業が中断していた。
●ベトナム議会は、2016年11月、約9割の賛成で原発計画を白紙撤回した。その中には、日本がパートナーとなって開発を進めようとしていたニントュアン省ビン・ハイ原発1、2号機(2010年受注決定、2021年、22年運転開始予定)も含まれる。撤回理由は、
①原発には経済的競争力がない(建設費が1兆円から2.8兆円に急騰、発電単価が4.9セント/kWhから8セント/kWhへ上昇、他の電源が競争力をつけた)、
②電力需要の伸びが緩やかになり、原発なしでもやっていけるようになった、
③ベトナムの対外債務が深刻化した、
④廃棄物処理が手に負えない、
など。住民の脱原発意識も高まっている。
●アジアの中で日本についで早期に原発が建設された台湾は、3カ所(第1から第3原発)に2基ずつ、計6基を稼働させている。全てが、米国ウエスチングハウス(WH)またはGE製。1999年より建設中であった第4原発の直接受注元はGEであるが、1号機原子炉は日立、2号機原子炉は東芝、各発電機は三菱が受注し、実質的に日本からの輸出原発である。
第4原発について、2013年2月、台湾全住民による住民投票(「公民投票」)で建設の是非を問う方針が明らかにされたが、この「公民投票」を前に2013年3月には台北をはじめ各地で大規模なデモ(参加者10万人超)、2014年4月には台北で大規模なデモが行われたこと受けて、馬英九総統は1号機の稼働凍結と2号機の工事停止を表明。翌2015年7月に正式に建設が凍結された。
さらに、台湾の立法院(国会)は、2017年1月、「原子力発電設備の運転を2025年までにすべて終了する」との条項を含む電気事業法を可決し、蔡英文政権は脱原発を目指していた。しかし、2018年11月の国民投票ではこの条文の廃止が決まったので、政府は脱原発に期限を設けないとしたうえで、再生可能エネルギーの開発に取り組む姿勢を示している。
●安倍政権は、「核不拡散条約(NPT)」や「包括的核実験禁止条約(CTBT)」を批准もせず、核兵器を所有するインドの立場を認めて、「日印原子力協定」を締結した(2017年7月発効)。本来、二国間協定は、「核物質、原子炉等の主要な原子力関連資機材および技術を移転するにあたり、移転先の国からこれらの平和的利用等に関する法的な保証を取り付けるために締結するもの」であるが、このことは全く無視されている。さらに、この協定では、軍事転用可能なプルトニウムを取りだすことのできる再処理を認めている。
インドでは、22基の原発が稼働しているほか、建設中も5基あり、2050年には電力需要の4分の1を原発で賄う計画もあり、安倍政権には、有望な原発市場との期待がある。
協定締結前の2016年6月、米印両政府は東芝傘下のウエスチングハウス(WH)がインドで6基の原子炉を建設する計画で基本合意しており、この事業に東芝から部品を提供できなくなるのは困るから、安倍政権は日印協定の締結を急いだが、WHは経営破綻し、東芝は海外原発事業から撤退する事態に陥っている。
インド特有の問題として、事故が起きた場合、電力会社はメーカーに賠償を請求できるという法律がある。
●米国カリフォルニア州南部のサンオノフレ原発について、運営するエジソン社は2013年6月、全ての原子炉を廃炉にすると発表した。この原発は、三菱重工製の蒸気発生器の配管破損による水漏事故を起こし、稼働停止していた。この事故が起きたのは2012年1月。前年に交換したばかりの3号機の配管が破損し、微量の放射性物質を含む水が漏れ出した。定期点検中だった隣の2号機でも配管内の異常な摩耗がみつかった。その数は合計1万5千カ所以上に上り(配管の全長は約50 km)、米原子力規制委員会(NRC)は全基の稼働を禁じていた。NRCは、三菱重工側の設計ミスが事故原因と指摘した。
三菱重工はエジソン社など4社から約8500億円の損害賠償を請求されたが、国際商業会議所から契約上の責任上限額に近い約141億円を支払う仲裁裁定を受けた。
●米国スキャナ電力は、2017年7月、経営破綻した東芝傘下のウエスチングハウス(WH)に発注していたサウスカロライナ州サマー原発2、3号機の建設を断念すると発表した。2号機は2019年8月、3号機は20年8月の完成を予定し、建設費は約1.5兆円を見込んでいたが、工事の遅れで両基の完成は24年ごろ、建設費も約2.7兆円規模に膨らむ見通しになった。スキャナのCEOは声明で、WHが追加コストの負担を約束していた固定価格契約が、WH破綻で実施できなくなったことが、断念の引き金との考えを示した。同州法では、原発が完成してもしなくても、建設費を電気料金に転嫁でき、既に計18%の値上げが行われている。東芝がスキャナなどにWHの親会社として支払いを約束した債務保証21億6800万ドル(2432億円)は料金の抑制に使われる。
再処理工場の規制委審査大詰め
危険極まりない再処理工場の操業を許すな!
◆原発の使用済み核燃料を化学処理(再処理)して、燃料として再利用できるプルトニウムなどを取り出す日本原燃(原燃)の再処理工場を巡り、原子力規制委員会(規制委)は1月28日、審査会合を開いた。規制委は昨年9月までに、再処理工場の本格稼働に必要な審査の内、地震や津波対策などの主要な議論を終えたとして、事実上の合格証に当たる「審査書案」を作成していたが、議論が不十分な項目が判明し、原燃に追加説明を求めるために、今回、改めて審査会合を開いた。
◆この会合では、
①再処理工場で生じる濃縮廃液が冷却機器の故障などで蒸発し、放射性物質が放出される「蒸発乾固」、
②プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料工場での臨界事故の対策を中心に議論したが、規制委の審査チームは了承の姿勢を示し、原燃に最終「補正書」の提出を求めた
(原燃は、規制委に指摘された事故対策の事項などを反映させた「補正書」を3月末までに提出する意向)。
◆この会合によって追加の審査会合が終結し、審査で議論した安全対策全般を事務局がまとめる「審査書案」の作成作業は詰めの段階となり、作成された「審査書案」を規制委が了承すれば事実上の合格となり、意見公募などを経て正式合格となる。
◆再処理工場は、使用済み燃料を再利用する国策「核燃料サイクル」の中核施設。1993年の着工後、トラブルなどで完成が20年以上遅れているが、原燃は2021年度上半期の完成を目指している。総事業費は13兆9300億円の見通し。審査に正式合格しても本格稼働は完成以降になる。
◆使用済み燃料から抽出したプルトニウムは、核兵器に転用可能であり、単品で保管することは核不拡散の視点から避けなければならないので、MOX燃料として保管するが、MOX 燃料を燃やす原発の再稼働は進んでいない。そうした現状で再処理工場が稼働すればプルトニウムの大量保有につながりかねず、国際社会から厳しい目を向けられることになる。
◆なお、再処理工場が「合格」となれば、連動してMOX燃料加工工場も「合格」となる可能性が高い。
◆以上のような経緯で、安倍政権、原燃、規制委は、危険極まりなく、現在科学技術では制御できず、大量の高レベル、低レベル放射性廃棄物を生みだし、放射性物質(希ガス、ヨウ素、トリチウムなど)を環境に放出する再処理工場の早期操業に躍起である。嘘とねつ造で固められた政府が、「規制委審査」などを使って安全を「保証」しても、再処理工場の危険は取り除けるものではない。
◆なお、政府が再処理工場の操業を急ぐ理由の一つは、使用済み核燃料を再処理工場に持ち込み、原発の燃料プールを空け、原発の連続稼働を可能にしたいためである。許してはならない!
◆以下に核燃料再処理とその危険性について概説する。
核燃料再処理とは?
◆ウラン燃料が核反応する(燃焼する)と、燃料中には、各種の核分裂生成物(死の灰)、プルトニウム、マイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウムなどのウランより重い元素:生成量は少ない)などが生成し、ごく一部のウランが反応した段階(大部分のウランは未反応のまま)で、原子炉の運転が困難になる。
◆そこで、使用済燃料を原子炉から取り出し、新しい燃料と交換する。使用済核燃料の中には、核燃料として利用できるプルトニウムが含まれるので、それを分離・回収する過程が再処理である。取り出されたプルトニウムはプルサーマル炉や高速炉で燃料として、場合によっては核兵器の材料として使用する。
◆使用済核燃料は、原子炉に付置された燃料プールで保管し、放射線量がある程度低下した後、乾式貯蔵容器に移して、再処理工場サイトにある貯蔵施設に運ばれる(日本では、青森県六ケ所村)。再処理工程では、燃料棒を切断して、鞘(さや)から使用済燃料を取り出し、高温の高濃度硝酸で溶解する。溶解までの過程で、気体の放射性物質(ヨウ素や希ガスなど)が放出される。白金に類似した物質は溶け残る。溶解したウラン、プルトニウム、核分裂生成物などを含む高濃度硝酸溶液中のウラン、プルトニウムは、これらの元素と結合しやすい試薬を含む有機溶媒を用いて取り出し、さらに精製して核燃料の原料とする。この過程で、硝酸の分解ガスが発生し、爆発したこともある。
◆また、死の灰などの不要物質が、長期保管を要する高レベル(高放射線)廃棄物として大量に発生する。その処理処分法は提案されているが、問題が多い。例えば、原燃はガラス固化体として保管するというが、この固化体が安定であるとの保証はない。保管を受け入れる場所もない。
核燃料再処理の危険性
◆使用済核燃料は高放射線であるから、再処理工程の多くは、流れ系を採用し、遠隔自動操作で運転される。そのため、再処理工場には、約10,000基の主要機器があり、配管の長さは約1,300~1,500 km にも及ぶ(うち、ウラン、プルトニウム、死の灰が含まれる部分は約60 km)。配管の継ぎ目は約40万ヶ所。高放射線に曝され、高温・高濃度硝酸と接する容器や配管の腐蝕(とくに継ぎ目)、減肉(厚さが減ること:溶解槽で顕著)、金属疲労などは避け得ず、安全運転できる筈がない。長い配管を持つプラントが、地震に弱いことは自明である。
◆再処理工場には、すでに2兆2千億円以上を投入し、原燃は2021年完成を目指しているが、再延期の可能性は高い。
◆使用済み核燃料は膨大な量の放射性物質の塊で、人間が近づけば即死するほど多量の放射線と高い熱を出し続ける。再処理工場では、こんな危険な使用済み燃料の入った鞘(燃料棒)をブツ切りにした後、化学薬品を使って溶解し、プルトニウム、燃え残りのウラン、死の灰(核分裂生成物)に分離する。溶解までの過程で、それまで燃料棒中に閉じ込められていた放射性物質は解放されるから、再処理工場では、たとえ事故でなくても、日常的に大量の放射性物質を放出する。高さ150メートルの巨大な排気筒からは、クリプトンをはじめ、トリチウム、ヨウ素、炭素などの気体状放射能が大気中に放出される。しかし、国は、これらの放射性物質は「空気によって希釈・拡散されるので問題はない」といっている。また、六ヶ所村沖合3kmの海洋放出管の放出口からは、トリチウム、ヨウ素、コバルト、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムなど、あらゆる種類の放射性物質が廃液に混ざって海に捨てられる。これについても国や原燃は「大量の海水によって希釈されるので安全」と説明している。なお、六ヶ所工場の当初計画ではクリプトンとトリチウムの除去が計画されていたが、経済的な理由から放棄され、全量が放出される。
◆以上のように、再処理工場は危険な放射性物質を垂れ流す最悪の核施設である。ヨーロッパでは、再処理工場周辺にまき散らされた プルトニウムなどの放射性物質が、鳥や魚、植物、そして人体からも確認されている。また、再処理工場で大事故が起これば、放射性物質は世界中に広がる。再処理工場は「原発1年分の放射能を1日で出す」と言われている。
◆使用済核燃料を再処理せず、燃料集合体をそのままキャスクに入れて、地中の施設に保管する「直接処分」の方が安全で、廃棄物量も少ないとする考え方もあり、米国はその方向であるが、10万年以上の保管を要し、これも問題山積である。
老朽高浜原発1、2号機、美浜原発3号機再稼動阻止!
3.24高浜現地全国集会、5.19関電包囲全国集会
主催…原発うごかすな!実行委員会@関西・福井
ご賛同、ご参加をお願いします。ご賛同戴ける方は、下記事項を本チラシの連絡先へお知らせください。
記
個人賛同の場合:お名前、お名前公表の可否、ご住所、電話番号、E-メールアドレス(あれば)
団体賛同の場合:団体名、団体名公表の可否、代表者名、担当者名、担当者住所・電話番号・E-メールアドレス
2019年2月発行
連絡先;木原壯林(若狭の原発を考える会)090-1965-7102
FAX:075-501-7102 E-メール:kiharas-chemアットzeus.eonet.ne.jp