◆原告第60準備書面
―大阪府北部地震を適用すると1280ガルが予測される―

原告第60準備書面
―大阪府北部地震を適用すると1280ガルが予測される―

2019年1月31日

原告提出の第60準備書面

目 次

1 大阪北部地震観測結果のFO-B~FO-A~熊川断層への適用
2 大阪府北部地震の観測
3 大阪府北部地震の震源破壊過程
4 大阪府北部地震の震源破壊過程を大飯に適用
5 スケールアップ
6 関電地盤モデルと3号炉モデル
7 関電地盤モデルが示す基準地震動の「平均像」
8 3号炉地盤モデルは1280ガルを示す


本準備書面は、大阪府北部地震(2018.6.18)の観測記録を基にすると、大飯原発における地震動は1280ガルに上ることが予測され、基準地震動856ガルは過小評価であることを批判するものである(赤松意見書「FO-B~FO-A~熊川断層M7.8(2018年大阪府北部地震M6.1スケールアップ)による大飯原発サイトの強震動」、甲481)。

1 大阪北部地震観測結果のFO-B~FO-A~熊川断層への適用

 ア 基準地震動の策定方法

原子力規制委員会は、基準地震動の策定方法について、「①敷地ごとに震源を特定して策定する地震動と②震源を特定せずに策定する地震動について、それぞれ応答スペクトル[1]を相補的に考慮することによって、敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮した地震動を策定すること、さらに、震源が敷地に近く破壊過程が地震動評価に大きく影響する地震については、①において断層モデルを用いた手法を重視すること、そのうえで基準地震動として①②それぞれについて設計用の応答スペクトルと地震波時刻歴とを、不確かさを考慮して策定すること」と定めている(丙27「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」平成25年6月)。

また、地盤の震動特性に関わる地盤構造について、「敷地及び敷地周辺における地層の傾斜、断層及び褶曲構造等の地質構造を評価するとともに、地震基盤の位置及び形状、岩相・岩質の不均一性並びに地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性を評価すること。なお、評価の過程において、地下構造が成層かつ均質と認められる場合を除き、三次元的な地下構造により検討すること」と定めている(甲482「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」、平成25年6月19日)。

[1] 応答スペクトル 地震動が建物等をどれだけ揺らすかを示すもの。建物等毎に固有周期が決っている(建物が一揺れするのに要する時間)。ある周期の地震波は、その周期を固有周期とする建物を大きく揺らす。周期毎にその周期を固有周期とする建物を揺らす程度を、変位(cm)、速度(cm/s)、加速度(cm2/s)で表わす。

 イ 断層モデル

「震源を特定して策定する地震動」評価は、応答スペクトルに基づいて地震動評価が行なわれ、地震の規模と震源から敷地までの距離との関係から経験的に地震動を求める手法(耐専式)が用いられている。ただし、震源距離が極めて近い場合には、耐専式を用いることが適当でないため、断層面を細分化して(小断層)、小断層から放出される地震波形を合成する手法(断層モデル)を用いて地震動評価を行なう(丙13、地震動予測手法「レシピ」)。被告関電は、大飯原発に近接するFO-B~FO-A~熊川断層の断層破壊モデルによって地震動評価を行っている。

「震源を特定せず策定する地震動」評価は、地震の規模(マグニチュード)や震源距離を定めて地震動を計算するのではなく、過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍の地震動観測記録に基づいて応答スペクトルを設定して策定するものである。(以上、被告関電準備書面(3)

 ウ 大阪北部地震観測結果適用の意義

上記のとおり、「震源を特定して策定する地震動」は、「レシピ」に依拠した平均的な地震像としての断層破壊モデルによって評価されている。これに対して、赤松意見書では、大阪府北部地震の観測データの逆解析(インバージョン解析)によって明らかにされた具体的な断層破壊過程を、FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものである。断層破壊過程に実地震記録を用いており、実際にあった断層破壊過程が用いられているから、地震動評価の信頼性は格段に高い。

2 大阪府北部地震の観測

大阪府北部地震は、防災科学研究所のKIK-netの大阪観測点(OSKH05)で観測されている。同観測点の地震計は、地中深くの(標高-981m)堅硬な(Vp=5660m/s、Vs=3050m/s)[2]岩盤内に設置されている。

[2] Vp、Vs VpはP波速度、VsはS波速度である。P波は地震波の進行方向と同じ方向の震動(縦波)、S波は地震波の進行方向と垂直の震動(横波)である。地震波速度は、地盤が固いと速く、軟らかいと遅くなる。

3 大阪府北部地震の震源破壊過程

大阪府北部地震は、周辺の強震観測網で観測された記録が逆解析(インバージョン解析)され、実際に起こった断層破壊過程が詳しく解析されて明らかにされている(断層の深さ、走向、傾斜、破壊開始点の位置、破壊進展方向、破壊伝播速度、断層のすべり量、断層面積等)。

4 大阪府北部地震の震源破壊過程を大飯に適用

大飯原発で基準地震動を策定したFO-B~FO-A~熊川断層の断層モデルに、大阪北部地震観測データの逆解析による震源破壊過程を適用して、FO-B~FO-A~熊川断層で生じる地震波、地震動を予測することができる。

5 スケールアップ

地震動の予測にあたり、大阪府北部地震のマグニチュード(M)は6.1であるのに対して、FO-B~FO-A~熊川断層で起きるマグニチュードは7.8を想定しているから、大阪府北部地震をM7.8にスケールアップしなければならない[3]
M7.8のFO-B~FO-A~熊川断層の断層面積は、M6.1の大阪北部地震の約17倍であるから、FO-B~FO-A~熊川断層を、大阪府北部地震の断層(54km2)が17個集まったものと考え、震源から破壊が広がって17個の小断層が破壊し、それぞれの小断層がM6.1の地震波を生じさせ、それらが合成されると考える。

下記グラフ《図省略》は、17個の小断層が、順に破壊して地震波を生じさせ、それらが全体として合成地震波を生じさせたものである。

地震動は883ガル[4]にのぼり、基準地震動856ガルを超えている。

[3] ω2則による(経験的グリーン関数法による波形合成の方法、横井・入倉、1991)。
[4] ガル 地震動は加速度で表わし、その単位がガル(cm/s2)である。

6 関電地盤モデルと3号炉モデル

 ア 関電地盤モデル

上記地震波グラフは、スケールアップした大阪府北部地震の断層破壊過程をFO-B~FO-A~熊川断層に適用した結果の予測される地震波であるが、地盤については、関電地盤モデルを用いている。

関電地盤モデルは、下記③のとおり《図省略》、原子炉建屋は堅硬な岩盤に設置されていて(Vp=4.6km/s,Vs=2.2km/s)増幅しにくい上[5]、当該岩盤の減衰係数[6]は大きく設定されていて(h=3%)、地震波が大きく減衰するとされている。

[5] 増幅特性 地震波は、固い地盤では増幅しにくく、軟らかい地盤では増幅する。
[6] 減衰係数 地震波は、固い地盤での減衰は小さく、軟らかい地盤での減衰は大きい。減衰係数は、hで表わし、hは地震波が1サイクルで何%減衰するかを表わしている。

以上から、地震波が、堅硬な岩盤から軟らかい地盤に差しかかると、一旦、増幅して振幅が大きくなる。しかしその後、減衰してゆく。軟らかい地盤が一定の厚みを持っている場合には、地表近くに到達する頃には大きく減衰していることとなる。

 イ 関電地盤モデルはごまかし

ところで、関電地盤モデルは微動アレイ観測の観測結果の逆解析によるインバージョンモデルを基に設定されている。

観測結果の逆解析から直接導かれるインバージョンモデルは①のとおりであり、原子炉建屋が軟弱な表層地盤に設置されていることを示している。

そこで原告らは、インバージョンモデルは軟弱な表層地盤が存在することを示しているのに、関電地盤モデルはこれを無視していると批判した。

これに対して被告関電は、確かに表層地盤はあるが、原子炉建屋は岩盤地盤に建っているから、層厚80mの表層はカットしたと反論した(②、③)《図省略》。

上記のとおり《図省略》、被告関電は自ら表層地盤が層厚80mあると言い、その80mの表層地盤をカットしたと言うが、そうだとすると、原子炉建屋は空中に浮かんでいることとなって明らかにおかしい。

地盤調査結果は3号炉の地盤に破砕帯が密に存在し、P波速度は3.86km/sであることを示しおり4.6km/sを下回っている。

原子炉建屋が直接、堅硬な地盤(Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/s)に設置されているとする関電地盤モデルは、自らの主張とも、地盤調査結果とも整合しない。

関電の地盤モデルは、曖昧な議論と不確かな実験によって、減衰係数(h)を3%と設定している。

減衰係数は、岩盤地盤(堅硬な地盤)では小さく、土質地盤(軟らかい地盤)では大きい。大阪観測点の地盤は土質地盤であるところ、観測結果に拠ると、減衰係数はh=3%を下回り、大きくてもその1/1.5の2%迄であることが判明している[7]

大飯の地盤では、堅硬な地盤は-40m以深である。他方、大阪観測点では-600mまで土質地盤が続き、25m厚の風化岩層をはさんで-625m以深でようやく硬い岩盤地盤が表れる。表層すぐ近くまで岩盤地盤となっている大飯の減衰係数は、大阪観測点をさらに相当に下回るはずである。

以上のとおり、h=3%と設定している関電の地盤モデルの減衰係数は、過大に過ぎる。

[7] 大阪観測点の地盤の減衰係数は不明であるため、赤松意見書では、大阪観測点の地盤増幅特性から減衰係数を検討している。右の図の太線は、地表(標高1m)と地中(標高-981m)の各地震計で観測された地震波の強さの比較である(フーリエ・スペクトル比)《図省略》。(1)~(5)は、大阪観測点の地盤の減衰係数をいろいろ変化させて与えた増幅特性である(左側のhは200m以浅、右側の右は200m以深である)。下記グラフから、大阪観測点の地盤の減衰係数が、(3)と(4)の間にあることが明らかとなり、上記では控えめに(4)として論じている。

7 関電地盤モデルが示す基準地震動の「平均像」

ところで、このように地震動を過小評価する関電地盤モデルによっても、前述のとおり、合成波形の加速度ピーク値は883ガルであり、基準地震動856ガルを超えている。これは、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されているからである。

断層モデルは、各小断層の破壊が均質と仮定しているが、実際には、各小断層の破壊が不均質に進展しており、そのため前後の地震波に強弱が生じて重なりが不均質になり、合成波が大きくなったと考えられる。

断層破壊モデルは、断層面が1枚の平面であることを前提としているが、2016年の熊本地震(M7.3)では複数の断層面が斜交し、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)では共役関係にある断層破壊が生じた《図省略》。

断層破壊モデルは、現実に起こる単純でない断層破壊の不均質な破壊過程が考慮されていない。

「平均像」から基準地震動を策定することによって、地震動を過小に評価していることとなる。

8 3号炉地盤モデルは1280ガルを示す

3号炉モデルに拠れば、波形の加速度ピーク値は1280ガルにも及び、クリフエッジの1260ガルを超えることとなる《図省略》。

FO-B~FO-A~熊川断層のM7.8の地震の地震動は、1280ガルとなって、基準地震動だけでなく、応答スペクトルも基準地震動を大幅に超え、原子炉建屋破壊が強く懸念される。

さらに、小断層No.9のみの断層破壊によるM6.1の地震によっても、応答スペクトルは基準地震動を超えており、3号炉側の地盤の脆弱性が危惧される《図省略》。

以上、大阪府北部地震の観測結果をFO-B~FO-A~熊川断層に適用した結果から、被告関電の基準地震動が過小に評価されており、基準地震動超えの地震動発生の危険が改めて明らかとなった。