◆原告第66準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府京丹後市における問題点について)-

原告第66準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府京丹後市における問題点について)-

2019年(令和元年)7月26日

原告第66準備書面

目 次

1 原告近江裕之について
2 府立峰山高等学校弥栄分校における避難困難性
3「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」の非現実性


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で京都府与謝郡与謝野町に在住する原告近江裕之の教職員としての経験をもとに、避難困難性に関する個別事情について述べる。

1 原告近江裕之について

原告近江裕之は、京都府与謝郡与謝野町に住み、京丹後市弥栄町にある府立峰山高等学校弥栄分校で教員をしている。原告近江が住んでいる与謝野町石川は、大飯原発から40乃至50キロに位置しており、また勤務している弥栄分校は、大飯原発から52.7キロ、高浜原発からは40.8キロに位置している。

以下では、高等学校で日々多くの生徒を前にしている原告近江の教職員としての経験をもとに、避難困難性について述べる。

2 府立峰山高等学校弥栄分校における避難困難性

 (1)安全教育の手引き

京都府教育委員会が平成27年4月に策定した「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証7頁)「Ⅱ 学校における原子力防災対策」には、下記の記載がある。

 3 避難方法の原則
 原子力災害発生時の避難等に対する指標、退避・避難場所、避難時の移動手段等については、事前に学校の所在する自治体の防災担当部局との緊密な連携が必要である。
 (1) 児童生徒等の避難
 ア 早め早めに帰宅又は保護者に引渡し、自宅の所在する地域の住民として避難することを原則とする。

 (2)府立峰山高等学校弥栄分校の事情

原告近江が勤務する府立峰山高校弥栄分校の生徒は、兵庫県付近の久美浜町河梨や、近畿唯一の米軍基地を有する丹後町宇川の久僧、原告近江が居住している与謝野町よりさらに大飯原発に近づく宮津市小田など、広範囲から通学してきている。

通学手段として多くの生徒が利用しているのは京都丹後鉄道や丹海バスなどの公共交通機関であるが、都会と異なり、鉄道やバスは、1時間に1本もなく、通常、朝8時50分の始業に間に合うためには、朝6時過ぎには家を出て2時間以上かけて来ている生徒もいる。普段から、交通の便が非常に悪く、仮に原子力災害事故が発生した場合、道路の状況によっては、さらに移動が困難となることが、容易に想定される。このような地域において、全生徒を速やかに保護者に引き渡すことなど、不可能である。仮に、保護者が、学校に生徒を迎えに来ようとしても、学校に到着すること事態が困難である。

府立峰山高校弥栄分校では、これまで大雨警報などの発令により、授業を休止して生徒を帰宅させたことが何度かあった。しかし、保護者の勤務の関係や交通機関の関係で、夜まで学校に待たされていた生徒が複数にいた。高校生であっても、公共交通機関が正常に運行しているのかどうかも定かでない中で生徒を帰宅させるのがふさわしくない場合も存在する。原子力災害が発生している場合には、無防備に外に出れば、その間にも生徒らが、放射能汚染にさらされるということにもなりかねない。さらに、京都府北部は、冬になれば年に何度も大雪に見舞われる。大雪のためにバスがなかなか学校にたどり着かず、始業を1時間遅らせたことも複数回あった。原子力災害が大雪と重なった場合は、避難は、不可能である。

3「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」の非現実性

平成30年2月に策定された「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」(甲503号証44頁)「7学校等施設における避難措置」には下記の記載がある。

 学校等施設において、生徒等の在校時に原子力災害が発生し、避難のための立ち退きの勧告又は指示等があった場合は、あらかじめ定めた避難計画等に基づき、教職員の指示・引率のもと、迅速かつ安全に生徒等を避難させるものとする。

上記のとおり、府立峰山高等学校弥栄分校の事情を踏まえると、「迅速かつ安全に避難」させることなどできない。

「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証7頁)「3避難方法の原則(1)児童生徒等の避難」として下記の記載がある。

カ 児童生徒等が帰宅又は保護者への引渡しができなかった場合は、学校の所在する地域の住民として避難し、避難先での引渡しとする。その際の避難先までの引率、避難先での引渡し方法等について、学校の所在する地域の防災担当部局と十分な事前調整を行うとともに、保護者とは事前に学校の所在する地域の避難先を確認しておく。

しかし、原発事故の想定などすることは、不可能であり、避難先までの引率、避難先での引渡し方法等について、十分な事前調整など行うことはできない。

また、同手引き(甲502号証7頁)「3避難方法の原則(2)教職員等の避難」として、下記の記載がある。

ア 児童生徒等を安全に保護者へ引渡しした後に避難する。

しかし、このような記載を前提とすると、教職員自身の避難など到底出来ない。

平成25年4月に策定された「京丹後市原子力災害住民避難計画」(甲504号証)によれば、府立峰山高等学校弥栄分校がある京丹後市弥栄町黒部区は、「黒部保育所」を「避難集結場所」とし、その後の避難先については「黒部保育所」において「指示する」とされている。

つまり、「黒部保育所」は、一時的な避難場所であり、実際の避難先はその時になりその場所に行って指示されるまで不明である。そのため避難先を保護者に確実に連絡出来るのかさえ不透明である。

原告近江の娘は、現在、京都府立宮津高等学校に通っている。宮津高校は高浜原発から30キロ圏内いわゆるUPZ内に位置しており、毎年、原子力災害発生時の対応に関する文書を提出する必要がある。原告近江は、形式的に「保護者が迎えに行く」と返答しているが、原告近江の妻もフルタイムで福祉関係の仕事をしているため、原発事故が起きた際に、実際には、迎えに行くことは非常に困難である。

また、原告近江の同僚には、夫婦とも高校教員という家庭が数組ある。その中には子どもさんが、まだ小さい家庭が、複数ある。保護者としての迎えと、教職員としての保護者への引渡し任務と、一体どちらを優先させるべきなのかというジレンマの中で苦しまざるを得ないのは明らかです。もし、我が子の迎えよりも生徒を優先させた場合、我が子が通う小学校や保育園の先生が困ることになる。

「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証)はそうした場合のことは全く想定していない非現実的な内容である。

以上