◆第1回口頭弁論 原告弁論・意見陳述
  第2 安全神話の末の福島第一原発事故の発生

渡辺輝人弁護士(京都脱原発弁護団事務局長)

  • 黒丸は添付パワーポイントによる。
  • 原告団Webチームより:パワーポイントのデータは著作権の関係で掲載していません。

●「地震付き原発」の図

竹本修三先生が意見陳述し、また、訴状でも述べたとおり、地震は予知できず、「日本ではいつどこでも巨大地震が発生してもおかしくない」というのが科学的な知見です。神戸大学名誉教授の石橋克彦氏は、1997年の段階で福島第一原発のような事故を「原発震災」と名付け、事故態様までほぼ正確に予測しました。石橋名誉教授は、事故後の国会での参考人招致で、日本の原発が他の国の原発と決定的に異なるのは「地震付き原発」であり、安全に設置することはできない、と述べられました。この図はそのときに石橋名誉教授が示したものです。

一方、「原発安全神話」とは、日本の原発では深刻な事故は絶対に起こらない、ないしは、深刻な事故が起こる確率は無視できるほど小さい、という考え方です(大島堅一『原発のコスト』岩波新書p130)。

政府、電力会社が原子力発電所の設置を進める過程では、政府、電力会社はひたすら「原発は安全だ」と強調しました。そのように説明しなければ設置地元は原発を受け入れなかったし、原発の設置を推進することはできなかったのです。

そして、一度「原発は安全だ」と言って原発を設置すると、政府、電力企業は原発に安全対策を取ることにも消極的になっていきました。安全である以上コストを掛ける必要は無いし、安全対策を取れば、設置地元との関係では「やはり原発は安全ではない」なってしまうのです。

やがて、政府の機関である原子力委員会すら公に安全神話を宣言しました。1992年のシビアアクシデント対策に関する原子力委員会の決定(「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」)でも「これらの対策によってシビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分に小さいものとなっており、原子炉設置のリスクは十分に低くなっていると判断される」としたのです。

国会でも、例えば、吉井英勝議員が2006年に津波の影響で過酷事故が起こる可能性、2010年には送電線の倒壊による過酷事故の可能性を指摘しましたが、政府は何ら有効な対策を打ちませんでした。

その結果、政府も、電力企業も、一貫して重大事故についてシミュレーションすらせず、緊急事態における指揮系統すらはっきりせず、防災計画は非現実的でした。防災計画について何ら有効な対策が取られていないことは今日でも本質的に変わっていません。それは今後の審理で明らかになります。

また、裁判所も原発安全神話に与することになりました。例えば1994年の福島第二原発設置許可処分取消訴訟仙台高裁判決は「我が国は原子爆弾を落とされた唯一の国であるから、我が国民が、原子力と聞けば、猛烈な拒否反応を起こすのはもっともである。しかし、反対ばかりしていないで落ちついて考える必要がある。」などとした上でCO2排出など火力発電所の欠点を述べ、「結局のところ、原発をやめるわけにはいかないであろうから、研究を重ねて安全性を高めて原発を推進するほかないであろう。」と言い放ちました。また、1996年の伊方原発設置許可処分取消訴訟の最高裁判決は「万が一にも事故が起こらないように」との認識を示しながら、旧原子力安全委員会が作った安全設計審査指針類に「お墨付き」を与え、過酷事故を防ぐことについて有効な判断をなし得ませんでした。そして、その後の下級審判決はひたすら安全設計審査指針類に追従するようになったのです。

このように、政府、電力企業、学会、裁判所まで原発安全神話に浸かる中で2011年3月11日の東日本大震災が発生しました。福島第一原発は、地震動、それに引き続く津波により、送電網、予備電源が破壊され、全電源喪失に至りました。ここで注目すべきなのは、国会事故調査委員会は、地震動自体により原子炉の配管が破壊され、冷却水の喪失が起きていた可能性を指摘していることです。

そして、3月12日、冷却水を喪失した一号機において、まず、水素爆発が起きました(水蒸気爆発ではありません)。実際の爆発の映像をご覧下さい。また、東京工業大学の原子核工学の教授であった有冨正憲の解説もお聞き下さい。

●一号機が爆発する動画

このように、原発の第一人者であるはずの学者が、原子炉付近が爆発して巨大な建て屋が吹き飛ぶ様子を自らの目で見ていながら、東京電力が「爆発弁」という意図的な作業により水蒸気を抜いたものだと言ったのです。ほぼ同時刻にNHKに出演していた東京大学の原子力工学の教授である関村直人も同様の発言をしました。ここには、緊急時において国民の安全を最優先にする発想が微塵もありません。

そして、3月14日には引き続き3号機も爆発しました。

●三号機が爆発する動画

外国のテレビ局のアナウンサーが言葉を失う様子が印象的です。

●爆発後の福島第一原発の写真

福島第一原発のメルトダウン、メルトスルー、爆発により、大量の放射性物質が外界に放出され、現在でも放出され続けているのです。