◆若狭の原発が持つ特殊な問題

【2017年5月26日,京都キンカンで配付。】

高浜原発の再稼働を許さず、
原発を全廃して、
重大事故の不安のない社会を目指しましょう。

◆原発が極めて事故率の高い装置であることは、過去40年間に稼働した世界の原発570余機の中の9機が大事故を起こしていること(中でも5機は最も深刻な炉心溶融事故)からも明らかです。

◆その上、若狭の原発には次のような特殊事情があり、福島原発事故以上の被害をもたらす重大事故の可能性が高いと考えられます。

若狭の原発が持つ
特殊な問題

【1】原発13 基「もんじゅ」、「ふげん」が集中

・重大事故の場合、1基に留まらない

◆高浜原発、大飯原発は同じ敷地内に各々4基、美浜原発、敦賀原発、「もんじゅ」、廃炉中の「ふげん」は近接していて、合計7基の原子炉がある。このように原子炉が近接しているとき、一基が重大事故を起こせば、隣の原発にも近寄れなくなり、多数の原子炉の重大事故に発展しかねないことは、3基がメルトダウンし、3基が水素爆発した福島原発事故が教えるところである。

・原発依存度が高く、広域の自治体が原発を推進

◆例えば、川内原発では、原発推進の立場をとるのは原発立地の薩摩川内市のみであり、隣接するいちき串木野市、阿久根市、出水市、日置市、さつま町などは、再稼働への地元同意の対象外とされたことへの不満と再稼働への異議は多い。いちき串木野市での緊急署名では、再稼働反対が市民の過半数であった。

◆しかし、若狭ではこの地域の1市、3町が原発立地で、原発推進の立場に立っている。これらの自治体の原発依存度は、薩摩川内市に比べても圧倒的に高い。したがって、脱原発、反原発の声を上げ難い。ただし、表だって声には出さないけれども、脱原発、反原発を望む住民は極めて多く、とくに、老朽原発運転反対は大多数である。

【2】100 km 圏内に数千万人が住む;避難は全く不可能:1,450 万人の水源がある

◆高浜原発から50 km圏内には、京都市、福知山市、高島市の多くの部分が含まれ、100 km圏内には、京都府(人口約250万人)、滋賀県(人口約140万人)のほぼ全域、大阪駅、神戸駅を含む大阪府、兵庫県のかなりの部分が含まれる。このことと福島原発から約50 km離れた飯舘村が全村避難であったことを考え合わせれば、高浜原発で重大事故が起こったとき、500万人以上が避難対象となる可能性があり、避難は不可能である。しかし、政府や自治体が行う避難訓練では、そのことが全く考えられていない。この圏内には琵琶湖があり、1,450万人の飲用水の汚染も深刻な問題である。

◆さらに、避難訓練には、原発事故での避難は極めて長期に及ぶ(あるいは永遠に帰還できない)という視点がない。福島およびチェルノブイリの事故では、今でも避難された10数万人の大半が故郷を失ったままである。

◆昨年8月27日に高浜原発から30 km圏の住民179,400人を対象にして行われた避難訓練は、最大規模と言われながら、参加者数は屋内退避を含めて7,100人余りで、車両などでの避難に参加したのはわずか約1,250人であった。それも県外への避難は約240人に留まった。この規模は、重大事故時の避難の規模とはかけ離れた小ささである。車道などが使用不能になったことを想定して、自衛隊の大型ヘリによる輸送訓練も予定されていたが、強風のために中止された。また、悪天候のため、船による訓練は全て中止された。老人ホームなどへの事故に関する電話連絡は行われたが、実際行動の必要はないとされた。

【3】高浜、大飯、美浜原発は加圧水型(PWR):沸騰水型(BWR)より安全とは言えない

◆原子力規制委員会や政府は、加圧水型原子炉(PWR)は、沸騰水型原子炉(BWR)より安全であるとして、PWRである川内、高浜、大飯、伊方、泊などの原発の再稼働を先行させようとしているが、これは、「事故を起こした福島原発とは型が異なるから安全」とする国民だましである。以下に述べるように、過酷事故はBWRよりPWRの方が起こりやすく、起こると急激である。

◆福島原発事故の32年前(1979年)に炉心溶融事故を起こしたスリーマイル島原発(TMI)はPWRであった。

◆高浜原発(PWR)の炉内圧力は約150気圧で、福島原発(BWR)の約70気圧の倍であり、配管が破断したとき、噴出する冷却水の量と勢いは格段に大きい。事故発生から炉心溶融まで、PWRでは1時間程度(TMIの例)、BWRでは5~12時間(福島事故の例)と推定される。出力密度がBWRの約2倍であり、それだけPWRの方が炉心溶融しやすい。

◆PWRの方が、中性子照射量が多いため、材料の照射劣化が進行しやすい。加圧熱衝撃を受けると、高圧と相まって、原子炉容器の破裂事故(最悪の事故)を招きやすい。この危険性は、中性子などの放射線照射量に応じて大きくなるため、原発老朽化は大問題である。なお、高浜1号機は42年、2号機は41年、3号機は32年、4号機は31年(6月5日で32年)を経過した、何れも老朽原発である。

TMI(スリーマイル島原発)事故が教えるPWRの危険性

◆過酷事故時の挙動が福島原発より複雑である。例えば、PWRでは燃焼によって生成したプルトニウムの偏りが起こり易く、炉内での核分裂挙動が複雑となり、運転判断を誤らせる。

◆PWRでは、格納容器内でも水素爆発が起こる。BWRは窒素を充填しているため、格納容器内では水素爆発は起こらない(福島事故は全て格納容器外)。

◆TMIでは、電源は正常であったが、炉心溶融が起こった。

【4】ウラン―プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料プルサーマル炉・ 高浜3、4号機

◆既存原発のプルサーマル化は、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉のウラン燃料の一部をMOX燃料で置き換えて運転するので、技術的な課題が多い(全MOX炉も制御困難)。なお、原子力規制委員会審査における重大事故対策の有効性評価の解析対象は、ウラン炉心のみであり、MOX炉心については何ら評価されていない。過酷事故を起こしたときには、猛毒のプルトニウムや超プルトニウム元素が飛散して、深刻な内部被ばくを起こす危険性も格段に高い。

重大事故の確率が大きい

◆燃料被覆管が破損しやすい。例えば、酸素と結合し難い白金族元素が生成しやすく、余剰酸素が被覆管を腐食する。また、核分裂生成物ガスとヘリウムの放出が多く、燃料棒内の圧力が高くなり、被覆管を破損させる。

◆MOXにすれば融点は上るが、熱伝導率は下がり、電気抵抗率が上がり、燃料温度が高くなり、溶けやすくなる。

◆核燃料の不均質化(プルトニウムスポット)が起こりやすい。

◆ウラン燃料と比べて燃焼中に核燃料の高次化(ウランより重い元素が生成する)が進みやすく、特に中性子吸収断面積の大きいアメリシウム等が生成されやすくなる。核燃料の高次化が進むと、原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下する。さらに進むと、核分裂反応が阻害され、臨界に達しなくなり、核燃料として使用できなくなる。事故が発生した場合には従来の軽水炉よりプルトニウム・アメリシウム・キュリウムなどの超ウラン元素の放出量が多くなる。

◆中性子束(密度)が大きく、高出力。したがって、MOX燃料装荷によって 運転の過渡時(出力の増減時)に炉の制御性が悪くなる。(1/3程度しかMOXを装荷できない。)

◆一部の燃料棒のみにMOX燃料を入れると、発熱量にムラが生じる。温度の不均衡が進行すると、高温部の燃料棒が破損しやすくなる。

使用済みMOX燃料の発熱量は、ウラン燃料に比べて下がり難い

◆発熱量が下がり難いため、長期にわたってプール内で水冷保管しなければ(使用済みウラン燃料の4倍以上)、空冷保管が可能な状態にならない。使用済み燃料保管プールが、脆弱であり、冷却水を喪失しやすいことは、福島原発4号機のプールが倒壊寸前であった事実からも明らかである。

◆取り出し後50年~300年の使用済みMOX燃料の発熱量は、使用済みウラン燃料の発熱量の3~5倍である。

◆使用済みMOX燃料の発熱量を、50年後の使用済みウラン燃料の発熱量レベルに下げるには300年以上を要する。

MOX燃料にするためには、使用済み燃料再処理が必須

◆再処理を行うと、使用済み燃料をそのまま保管する場合に比べて、事故、廃棄物、など全ての点で危険度と経費が膨大に増える。(冷戦終結後、ウラン資源の需給は安定しており、再処理費までMOX燃料の製造コストの一部と看做すと経済的に引き合わない。)

【5】関電や政府は、40年越え老朽原発・高浜1,2号機、美浜3号機の再稼働を企む
(高浜3、4号機も32年、31年の老朽原発)

原発は事故の確率が高い装置であるが、老朽化すると、重大事故の確率が急増する。次のような理由による。

◆高温、高圧、高放射線に長年さらされた圧力容器、配管等の脆化(ぜいか:もろくなること)、腐食は深刻。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化(下記注を参照)は深刻。電気配線の老朽化も問題。

◆建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分は多数あるが、全てが見直され、改善されているとは言えない。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)。最近は、安全系と一般系のケーブルの分離敷設の不徹底なども指摘されている。

◆建設当時の記録(図面など)が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となる。

◆建設当時を知っている技術者は殆どいないので、非常時、事故時の対応に困難を生じる。

◆とくに、ウラン燃料対応の老朽原発でMOX燃料を使用することは炉の構造上問題山積である。

【老朽原発圧力容器の脆性破壊】

◆原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で中性子などの放射線に曝(さら)されている。この鋼鉄は、高温ではある程度の軟らかさを持っているが、温度が下がると、ガラスのように硬く、脆くなる。圧力容器は原子炉運転期間が長くなると、硬化温度[脆性遷移温度]が上昇する。例えば、初期には‐16℃で硬くなった鋼鉄も、1、18、34年炉内に置くとそれぞれ35、56、98℃で、40年を超えると100℃以上で硬化するようになり、脆くなる。原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が脆化していれば、破裂する危険がある。

◆初期(未照射)の鋼鉄は、水冷では破壊されない。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化は著しい。なお、脆化の機構は解明しつくされたとはいえず、脆性遷移温度の評価法にも問題が多い。

 最近の経験は、原発はなくても電気は足りることを明らかにしました。重大事故を起こしかねない原発を動かす必要はありません。原発の稼働は、電力会社の金儲けのためです。

 原発事故は自然災害とは異なります。自然災害を止めることはできませんが、原発事故は止められます。原発は人が動かしているのですから、人が原発全廃を決意すれば良いのです。

 原子力防災とは、避難計画ではありません。不可能な避難を考えるより、事故の原因である原発を廃止することが原子力防災です。原発全廃こそ原子力防災です。

 重大事故が起こってからでは遅すぎます。原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

【ニュース】

① スイスが脱原発を含む新エネルギー法を可決

スイスでは、5月21日、原発の新設禁止、風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーを推進する新法の是非を問う国民投票が行われ、賛成58.2%の賛成多数で可決された。原発は人類の手に負える装置でないことを教えた福島事故を真剣に受け止めた結果である。スイスには5基の原発があり、1基は2019年に閉鎖予定。残りの閉鎖時期は未設定。現在のスイスの電力は、60%が水力、35%が原発である。

◆なお、スイスのみでなく、ドイツ、イタリア、リトアニア、ベトナム、台湾がすでに原発を断念し、アメリカまで脱原発に向かっている。

② 原子力規制委、大飯原発3、4号機を「新規制基準」適合とする「審査書」を決定

◆規制委は5月24日、事実上、大飯原発3、4号機の再稼働を認める「審査書」を正式決定した。規制委員長が何度も公言するように「新規制基準」は安全を保証するものではない。したがって、規制委審査は、再稼働のための手順の1つでしかない。関電は秋以降の再稼働を企んでいる。断固たる大衆行動、裁判闘争によって、再稼働を阻止しよう!

2017年5月26日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

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