◆電力価格の暴騰と関西電力、原発ゼロ法についてのメモ

~大手電力の大儲けと 新電力の苦境~

(『はとぽっぽ通信』6月号)(2021年5月5日)

[1] この冬の電力価格の暴騰

(1)2020年12月末~2021年1月末に、卸電力取引所(JEPX)のスポット市場(一日前市場)の電力価格が暴騰しました。

・通常価格… 8~10円/kWh
・高くなる時間帯でも…50円/kWh程
・これまでの最高価格…75円/kWh程
・2021/1/6…100円/kWhを記録
・2021/1/15のピーク…251円/kWh!

1/15のピーク時には、通常の25~30倍の251円/kWhという過去最高値を記録、暴騰は1か月継続し、1/25にようやく沈静化しました。市場での売れ残りゼロが12/26から3週間続きました。いわゆる“新電力”とよばれる小売会社は、この卸電力取引所から多くの電力を調達しているため、大きな影響を受けたのです。

(2)なお、小売電気事業者は全国で、計713社(2021/3/22現在)。大手電力(元地域独占体制の10電力会社)[=旧一般電気事業者(旧一電・いちでん)]は、全発電設備の80%を独占しています。新電力703社は、販売電力量に占めるシェアが約20%になりましたが、自前の発電設備をもたない会社も多くあります。

[2] 新電力は大赤字、大手電力は大儲け

(1)新電力の「みんな電力」によると、1年の市場取引額を超える1.5兆円が、3週間で大手電力とその配下の送配電事業者に流れました。

(2)新電力では、家庭向けに30円/kWhで供給している場合、仕入価格が最大で販売価格の8倍に暴騰。多くの新電力が多額の赤字を抱え、経営困難に陥っています。

(3)3/24、新電力のエフパワー(東京都港区)が負債464億円で倒産しました。この倒産は、2020/12後半から寒波などによる電力需要の増加と、火力発電燃料LNG(液化天然ガス)の不足などが原因の「電力市場価格高騰」の影響が契機と報道されています。しかし、はたしてそうでしょうか。

[3] 消費者への影響

(1)新電力で「市場連動型プラン」の利用者には、電気料金に影響がでてきています。「市場連動型プラン」は、卸電力取引所(JEPX)の市場価格に連動して電気料金単価が決まるプランです。2020年度はJEPX価格は史上最安値の安さだったので、激安の恩恵がありました。しかしJEPXの市場価格が高騰すると、利用者の電気料金にもそのまま反映するので、この冬の市場価格では、通常通りの電気利用量でも1月分の電気料金が数倍に跳ねあがりました。

(2)電気料金が高騰したおもな新電力は、以下の通りです。これらの電力会社の供給シェアは1.86%、契約件数は約80万件。その契約者の負担は大きい。

「市場連動型プラン」…自然電力、エルピオ(市場連動プランのみ)、ダイレクトパワー、テラエナジー、ハチドリ電力、ジニーエナジーなど

[4] 政府の対応とインバランス料金

(1)政府が卸電力取引所(JEPX)対策に乗り出したのは1月中旬。遅すぎ。

(2)まず、1/17、違約金(新電力が電気を計画通り確保できなかった場合=JEPXで落札できなかった場合に送配電会社に支払う義務のある「インバランス料金」)に200円/kWhの上限を設定。この上限が設定されるまでは、買値が250円/kWhでも、違約金(1月は最終的に500円/kWh)より安かったので、それを回避したい焦りからさらに卸価格の高騰へという悪循環。しかし、価格は高止まりのまま。

(3)次に、JEPXの入札状況を公開した結果、市場に見通しができ、1月末に狂乱状態から落ち着きを取り戻したようです。

(4)なお、関西電力送配電(株)はインバランス料金収入で192.5億円の収入。一方、多くの新電力は、仕入れ価格の暴騰とインバランス料金支払いとの二重苦。

[5] FITでも大儲けの大手電力

(1)2017年の改革により、FIT電気の買取義務者は大手電力配下の送配電事業者となり(関西電力送配電株式会社など)、あわせて小売電気事業者がFIT電気を調達する際の価格が卸電力取引所(JEPX)市場価格に連動することとなりました。

*FIT(フィット)…再エネ普及のための固定価格買取制度

(2)大手電力配下の送配電事業者は、再エネ電力をFIT固定価格(太陽光は12~42円/kWh、風力は18~55円/kWhなど)で購入しています。そして、高騰した市場価格で小売業者に販売し、その差額によって莫大な収益をあげました。

(3)再生エネ事業者から40円で買った電力を、小売事業者に150円で売れば、110円の儲け。市場価格は10円前後の場合が多く、通常は固定価格のほうが高いので、大手電力に負担が生じないよう、国民に上乗せする電気料金=FIT賦課金を設定して、差額を補っています。つまり、大手電力は決して損をせず、儲けが出た場合は無制限の儲け放題となる制度となっています。

(4)FIT電気の仕入れ価格の高騰は、FIT電気を重視してその割合を高くしてきた再エネ新電力に、大きな打撃となり、再エネ普及を妨げる事態になりかねません。

(5)FIT賦課金が増えて国民負担が大きすぎると言って、FITを攻撃する人もいます。しかし、それは間違いです。

*FIT賦課金は、再エネ普及のため未来への投資、
原発の使用済み核燃料は、未来への負担押しつけ!

[6] 電力高騰の原因

(1)資源エネルギー庁は、火力発電燃料のLNG(液化天然ガス)の輸入が滞ったこと、真冬で需要が増えたこと、を指摘しています。しかし、この点を真っ向から否定する意見もあります(田中一郎「いちろうちゃんのブログ」)。

(2)山家公雄(やまか・きみお)京都大特任教授(エネルギー戦略研究所所長)は、大きな発電設備をもっている関電が、原発に頼りきり、備えをおこたり、供給を調整できなかったことを示唆しています(毎日新聞2021/2/23)。

① 12/15、高浜原発3号機(12月下旬に再稼働予定)の再稼働延期(細管損傷)を発表
→電力広域的運営推進機関(OCCTO、オクト)に融通を依頼。
② 12/15、OCCTOが、大手電力各社に対し、関電への電力融通を指示。
③ 12/25、Jパワー(電源開発)の火力発電所70万kWがトラブル停止→OCCTOが関電向け融通指示。
④ 1/16まで、OCCTOが関電向け融通指示94回(関電は、大飯原発4号機を、1/15再稼働、1/17発電開始)。
⑤ 電力・ガス取引監視等委員会によると、12/29以降、大手電力は市場に出すよりも市場から買う量が上回った。つまり、本来電気の売り手である関電が供給余力を失い、買い手に回った。小さな池にクジラが入ってきたら、小魚=新電力はひとたまりもない。

[7] 関電はどうだったのか

(1)関電は社長の下に8本部、4子会社を有するが、そのうち、原子力事業本部(の中の原子力発電部門)と、2019年に新設のエネルギー需給本部(の中の燃料部門)との間で、齟齬(そご)があったのではないか。

(2)この冬の電力価格高騰の状況でも、原発に頼りきり、備えをおこたり、供給を調整できなかった関電の劣化した姿をみることができます。その上、

関電は市場価格暴騰の一因をつくった…12月後半~1月前半、自社発電分を全量、自社小売に回し、卸電力取引所(JEPX)への供給をゼロにし、スポット市場で大手電力に課された事実上のルールを無視!

(3)関電グループの再エネは、合計377.4万kWで、100万kWクラスの原発4基分のみです。その内訳をみると、これまでからの水力が90%をしめていて(341.1万kW)、新しい再エネの割合は、10%未満(36.3万kW、9.6%)にとどまります。

(4)電力生産は、リスク分散、遠距離送電ロス、目の届く民主的管理、省エネ推進、エネルギー消費の低減化などの観点が重要です。関電のような巨大な企業が巨大な施設で大規模生産をして遠距離に送電するのは適切ではない。地域分散、地産地消、自産自消がふさわしい。再生可能な自然エネルギーのいっそうの拡大による地域分散型エネルギーシステムが各地で普及すること、小規模な分散エネルギーを統合して系統化するシステムこそ、高度のノウハウが必要です。これからの社会とエネルギー企業の理念を、関電は持ちあわせているでしょうか。

[8] 関電不買

(1)原発依存、倫理欠如の経営 No! 原発の電気は買いません。関電の顧客離れを加速させれば、関電に打撃を与え、経営政策を揺さぶることができます。

(2)2016/4以来の小売電力自由化の中で、関電の顧客離れがすすんでいます。原発再稼働、原発マネー不正還流などのたびに、減少が加速してきました。電力広域的運営推進機関(OCCTO、オクト)のデータでは、関電地域の契約変更(スイッチング)件数(小口)…2021年2月末で400万件をこえました。
この400万件には、「関電→新電力」のほかに、「新電力→新電力」「新電力→関電」の契約変更が含まれていますが、顧客の流動化がいちじるしく進んでいることが分かります。このスイッチング件数は、関電純減の数字を先取りしています。

(3)電力・ガス取引監視等委員会(電取委)のデータ(低圧)では、

関電純減…「関電→新電力」から「新電力→関電(関電の取戻営業、おトク営業の“成果”)」を差し引いた数が関電純減。これが、2021年1月末で294万件に達します。

電取委のデータは、発表がやや遅くなりますが、OCCTOのデータを後追いしています。

(4)関電の全契約数は、概略で低圧が1400万件。そこから契約件数としてあまり意味のない公衆街路灯200万件(推定)を除けば、低圧の契約数は、1100~1200万件となり、このあたりが、関電の顧客が何%逃げたのか、の計算の分母(=全契約数)になると考えられます。

(5)低圧電力料金自由化(2016/4)以来の関電からの顧客離れは、急激です。

関電からの顧客離れ
→オクトのデータ、契約変更率なら
…400÷1100=36%。
→電取委のデータ、関電純減率なら
…300÷1100=27%。
いずれにしても、関電がおよそ30%の顧客を減らしていることは確実。
収益の柱が細っているのです。

(6)関電からの小口顧客離れは、着実に進行しています。しかし、2020年4月から予定されていた電気料金の全面自由化が見送られた(新電力のシェアが小さかった)ことからも分かるように、関電など大手電力の支配力はなお強大です。

(7)また、関電の顧客が30%減っても、関電の収入が30%減るということにはなりません。電気料金の30%前後は、託送料金として、関電の100%子会社、関西電力送配電(株)の収入となります。

[9] 関電解体

(1)発電、送配電、小売の独占 No! 巨大独占を分割せよ。

(2)関電など大手電力の原発推進路線を改めさせ、電力市場支配力を減衰させるには、発電、送配電、小売の分離、とりわけ再エネ普及のために送配電網の完全分離(→全国単一の送配電網)が必要です。

(3)関電など大手電力は、発電部門では圧倒的な力をもち、送配電部門も支配して親会社の原発の電気を優先し、新電力の再エネの電気を流そうとせず、再エネ普及を妨げています。小売部門では、特別高圧や高圧の顧客に対して、強烈な低価格を提示して取戻営業を強めています。低圧顧客に対してはガスとのセット販売、おトク営業で攻勢に出るなど、関電の存在はまだまだ巨大です。発電、送配電、小売の一体支配によって、発電設備をもたない小売だけの新電力に比べて、不当な独占利得を得ています。

(4)関電など大手電力は、かつての総括原価方式で、富と権力を集中してきました。

総括原価方式…経費の3%とかを自動的に利益にできる。経費を節約して利益を出すのではなくて、経費をやして利益を増やす。5000億円の原発を何基つくっても、経営リスクがない。そして経費を節減するどころか、経費を水増して大量の購入物品を調達してきた。

こうして大手電力は、どの地域でも、その地域の財界のお殿様になって大きな顔をしています。関電の場合、水増し発注は、受注者(元高浜町助役など)の懐を経て、関電経営者とりわけ原発部門幹部の懐をうるおしてきました。

(5)電気料金は、税金みたいに強制的に支払わされます。大手電力は、消費者の電気料金でつくった発電施設、送配電網を独占し、それだけでなく再エネ普及を妨げ、原発温存の基盤となっています。

(6)どんな経営をしても自動的に利益を確保できる中で育ってきた電力会社の経営者には、経営能力はない。どこに行ってもお殿様だから、チヤホヤされる。経費は使い放題、巨額の賄賂をもらっても、預かっただけだと平気で言える厚顔さ。

[10] 原発ゼロ法制定

(1)すべての脱原発派勢力は、総結集して原子力ムラの息の根を止めよう。

原子力ムラ…自民党の核武装指向派、利権漁りの政治家。経産省。大手電力。原発メーカー。連合中央、電力総連、基幹労連、電機連合など原子力産業推進労組。御用学者、御用マスごみ、御用ジャーナリスト。

(2)民主党政権下では、原子力ムラの総力を挙げた反撃があって原発ゼロ法は棚上げにされました。福島事故をうけて作成されるはずの新規性基準もできないまま、民主党政権の下、電力不足の虚偽宣伝により大飯原発が再稼働されました。

(3)前の失敗を繰り返すわけにはいきません。現状の与党(自民党、公明党)と、対する「野党共闘」という枠組みだけを考えていては、同じ失敗をみることになります。総選挙や政権選択のための枠組みの発想だけで良いのでしょうか。

(4)与党の中で健在な脱原発派とともに、野党の中の原発推進派(原子力ムラ勢力)を排除した「脱原発共闘」という枠組みが必要ではないか。そのために、選挙では、与野党を問わず、すべての候補者に対して、脱原発に賛成し公約に掲げるよう呼びかけ、これに応じた候補者には、認定のNN(No Nukes)マークを付与し、有権者の選択の目安にしてもらうといった運動を検討してはどうかと思います。