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◆原告第40準備書面[3 MB](2017/10/27)
過酷事故における人的対応の現実と限界
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【おもなポイント】
[1]安全神話の問題:福島第一原発事故は、原発の安全対策が不十分であったことを露呈したにもかかわらず、関西電力は「安全神話」に基づく主張を続けている。
[2]過酷事故時の人的対応の限界:福島第一原発事故では、現場の作業員が避難すべきか事故収束作業を続けるべきかで板挟みに遭い、十分な対応ができなかった。実際の事故対応では、想定外の事態が次々に発生し、事前の訓練やマニュアルでは対応できないことが明らかになった。
[3]福島事故の詳細な分析:事故時のベント(圧力逃がし)の決定や海水注入に関する意思決定の混乱。作業員の被曝防護対策の不備や情報共有の欠如。最新の分析により、1号機への注水がほとんど効果を持たなかったことが判明。
[4]関西電力の過酷事故対策の不備:関電は、非常用電源の確保や人的対応の計画を十分に整えていない。事故時に必要な人員の試算も過少であり、福島事故の教訓が反映されていない。
[5]生命身体の安全が侵害されるのは必至:原発の再稼働は認めるべきではない。福島事故後も「安全神話」を掲げ続ける関西電力に対して、厳しい審理を求める。
【目 次】
第1 福島第一原発事故を経てもなお繰り返される安全神話
第2 過酷事故における人的対応の現実と限界
1 原子力情報コンサルタントである佐藤暁氏の指摘
2 福島第一原発事故における人的対応の現実と限界
(1) 吉田調書等から判明した人的対応の限界
ア ベントをめぐる意思決定の問題
イ 海水注入をめぐる意思決定の問題
ウ 退避の問題
エ 小括。マニュアルのない危機的状況に陥った際に、事故現場、政府等で情報が錯綜し、指揮命令系統が不分明な混乱状況におちいる危険性がある。重大事故時に対策設備の施設とマニュアルの設置だけでは万全ではない
(2) 国会事故調アンケート
ア 従業員から見た問題
イ 従業員の放射線防護に対する安全対策の不備
(3) 事故後に判明した1号機への注水失敗
ア 1号機について原子炉内に核燃料が残っていない状況が明らかになってきたこと
イ 2016年9月の日本原子力学会による国際廃炉研究開発機構による発表
ウ 注水量はほとんどゼロであったことが2017年の最新の分析で裏付けられたこと
エ 海水は復水器へ流れ込んでいた可能性があること
オ 注水開始時点ではすでにメルトスルーしていた
カ 1号機の大きな水素爆轟の原因が従前の理解と異なる可能性があること
キ 小括。結局、1号機への注水失敗に関する経過は、非常事態において人力に頼る作業自体に限界があり、いくらマニュアルを整備しても、想定外のことが次々に発生し、事態の拡大を防げなくなる、という原発事故に関する冷酷な事実を如実に示しているのである
第3 過酷事故対策を怠る関電に、原発を再稼働させてはならない
被告関電が未だに「安全神話」を振りかざし、深層防護における第4・第5層の問題を争点から外そうとするのは、第4・第5層の安全対策が不十分であるからにほかならない。大飯原発第3号機及び4号機において、ひとたび過酷事故が発生すれば、事故収束作業は混乱に陥り、原告らの生命身体の安全が侵害されるのは必至である