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◆原告第17準備書面
-「舞鶴市原子力災害住民避難計画」の概要と問題点-

原告第17準備書面
-「舞鶴市原子力災害住民避難計画」の概要と問題点-

2016年(平成28年)1月12日

原告第17準備書面[101 KB]

目次

第1 舞鶴市の避難計画の問題点
1 避難計画の策定
2 舞鶴避難計画の内容と問題点

第2 結論

 

本準備書面では、「舞鶴市原子力災害住民避難計画」の概要と問題点について述べる。

第1 舞鶴市の避難計画の問題点

 1 避難計画の策定

2013(平成25)年3月、舞鶴市防災会議によって、「舞鶴市原子力災害住民避難計画」(以下「舞鶴市避難計画」という(甲77号証))が策定された。

 2 舞鶴避難計画の内容と問題点

  (1)計画の対象範囲

舞鶴市避難計画は、計画の対象範囲としてPAZ(予防的防護措置を準備する区域:高浜発電所から概ね5km)とUPZ(緊急時防護措置を準備する区域:高浜発電所から概ね30km、大飯発電所から概ね32.5km の範囲)を定めており、舞鶴市全域の住民が対象となっている。

しかし、重点的に防災計画を定める地域を半径30km限定することに問題があることは、原告第6準備書面で主張したとおりである(45頁から47頁)[14 MB]【リンク先:「第3 避難計画の問題点 2.区域設定」以降】

  (2)避難等の指示と対応手順

舞鶴市避難計画は、避難時の指示と対応手順を(1)PAZの対応(2)UPZの対応(3)一部地域に限る場合の3つの場合に分けて定め、避難手段としてバス、自家用車等によるとしている。

PAZの対応としては、国の指示に基づき、府、市が直ちに避難の指示を出すとされており、UPZの対応としては、国が示す判断基準に基づき、国、府及び原子力事業者が行う緊急時モニタリング結果及びSPEEDIの拡散予測等により、国が判断し、府、市が避難等の指示を出すとされている。

しかし、SPEEDI自体、電源が無くなった場合、放出された放射線の種類・量を把握できず、放射性物質の拡散状況などの適切なデータ解析ができないものである。さらに、そもそもSPEEDIはあくまでもシュミレーションにすぎないのであるから、SPEEDIがあるからといって物質の拡散状況が確実に把握できるというわけではない。そして、そもそも国や事業者が迅速・的確な情報を伝達すること自体、何ら担保のないものである。したがって、住民が迅速的確な情報を得られる確実性が全くないことは明らかである。

  (3)避難にあたっての基本的な考え方

舞鶴避難計画は、避難にあたっての基本的な考え方として、避難対象範囲、避難手段、避難指示、避難先、避難者の把握方法について定め、避難先として、京都市内(65,000人)、宇治市(14,000人)、城陽市(6,000人)、向日市(4,000人)を指定している。

しかし、このような大多数の避難者の具体的な避難施設及び避難方法については、何ら定められておらず、「今後、関係市と調整の上、決定することとする」とされているに過ぎない。

実際に、避難が必要となった場合に、自家用車による避難は、渋滞、避難受入先に駐車可能な車両台数が少ないことにより現実的ではないこと及びバスによる避難もバス及び運転手の確保が困難であることは、原告第6準備書面において主張した(49頁から64頁)とおりである[14 MB]。【リンク先:「4.各原発周辺自治体における避難計画の問題点」以降】

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第2 結論

これまで提出した原告準備書面において主張してきたとおり、福島第一原発事故により、原発事故を防ぐことはできないこと及び事故により甚大な被害が発生することは明らかになった。

このことを考慮とすれば、事故後の段階である第5層の防護として、放射性物質が外部環境に放出されることによる放射線の影響を緩和するためにオフサイト(発電所外)での緊急時対応を準備するという措置を行うことは、原発再稼働の最低条件であると言わざるを得ない。

この点について、IAEA基準では、設計段階で、第5層の防護として、事故時の放射性物質による放射線の影響を緩和する緊急時計画を定め、それが実行可能であることが確認されなければならないとされている。
しかし、舞鶴市避難計画においては、的確な情報に基づいた現実的な避難方法は定められていない。

したがって、第5層すなわち放射性物質が外部環境に放出されることによる放射線の影響を緩和するため、オフサイト(発電所外)での緊急時対応を準備するという措置はなされておらず、IAEAの安全基準すら満たされていないのである。

以上

◆原告第16準備書面
第7 結論

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第7 結論

 1 原発の基準地震動は平均でなされており,著しい過小評価である

以上述べたとおり,原発の基準地震動は,既往地震の平均像を基に想定されており,著しい過小評価である。

「応答スペクトルに基づく手法」は,多数の地震・地震動の平均像を求めるものでしかない。代表的な「応答スペクトルに基づく手法」である耐専スペクトルを見れば,平均像の4倍程度の地震動をもたらす地震が現に存在するが,原発の耐震設計では,「応答スペクトルに基づく手法」が平均像でしかないことによるバラつき・不確かさ,具体的には平均像からの乖離(すなわち平均像であることによる誤差)は,十分には考慮されていない。

電力会社が行っているのは平均像としての地震動想定であり,それをプラスαした地震動を想定しているだけである。また実際に起こった地震についても,その知見を取り入れたとするが,それはせめて実際起こった地震程度には耐えられるようにしようとする,単なる弥縫策でしかない。

福島第一原発で経験したように,極めて危険な放射性物質を多量に抱え込んだ原発で,平均的な地震動で耐震設計するなどということは,決して許されることではない。したがって,仮に平均像を基本ケースとするにしても,さらに最大限の誤差を考慮することが原発の耐震設計では求められる。

 2 耐震設計は一種のドグマにすぎない

さらに,地震は,いつも同じ場所で同じ規模で発生するものではない。複数回同じ領域(震源断層面)で発生したとしても,破壊が止まる領域の端では,歪が蓄積される。多数回の地震で累積した変位は,通常の変位が生じる領域では収まりきらず,いずれはその領域の外に破壊を及ぼす。常に一定の箇所で断層の破壊が止まると考えるのは科学的に通用しがたい考えであり,時折,破壊の規模が拡大するとするのが正しい。

しかし,現在の耐震設計は,破壊が常に一定の領域で起こり,それがその領域の外に拡大することはないという,一種のドグマによってなされている。電力会社の選定した各活断層については,多数回すでに活動していると考えられるが,その累積変位は,通常の地震の発生する下限をさらに突き抜けて破壊が及ぶことによって,時折,変位に伴う歪を解消させると解されるべきであるし,少なくともその可能性は否定できない。

もともと地震発生層については,データが少なすぎる中での想定であり,そもそもこの推定には大きな誤差があるが,この点については,一切考慮がなされていない。

そして,地震・地震動のデータは,数10年程度の極めてわずかなものでしかない。特に日本において詳細な地震・地震動の記録を得られるようになったのは,兵庫県南部地震が発生してから各地に強震計が配置されるようになった1997年以降の17年程度のデータでしかない。したがって,何千年,何万年というスパンで生じる地震現象の想定とするなら,この程度の期間での過去最大の地震動では全く不足する。

断層面積Sと地震モーメントMoの関係式の図からすれば,同じSの断層の活動による地震動では,統計的に見て観測された過去最大の地震動を超える地震の割合も44個に1つ程度はあると考えられ,地震動が平均像の8倍を超える地震も740個に1つはあると考えられる。そうすると,少なくとも平均像の4倍以上ないしそれ以上の地震動を想定すべきである。

 3 これまで被告らは平均像によって策定することの問題を無視してきた

平均像で耐震設計をしてはならないなどという問題は,当たり前に過ぎる問題であった。この「平均像で原発の耐震設計をしてはならない」という問題は,住民側が「もんじゅ」訴訟差し戻し後控訴審において明確に取り上げて以来,原子炉施設事業者も国も十分に承知していた問題であった。にもかかわらず,同事件判決は,このような主張などなかったことにして,争点として取り上げることすらせず判決をし,原発推進者である事業者や国も,この問題にあえて目をつぶり,これまで営々と原子炉を運転し続けてきた。

また,既往最大で耐震設計をしてはならないという問題も,浜岡原発訴訟第一審で住民側が取り上げた問題であった。この問題も,我々の知見が極めて小さいものであることからしたら,また当たり前に過ぎる問題であった。しかし,浜岡第一審判決は,過去最大を超える地震が発生する可能性を認めつつ,「抽象的危険で,むやみに国の施策に影響を与えることはできない」として,住民側の言い分を排斥した。そして,既往最大を超える東北地方太平洋沖地震が発生して,福島原発事故が発生し,大きな被害をもたらした。

 4 裁判所の役割が求められている

原発の耐震設計における当たり前過ぎる問題を,事業者,国,裁判所が一体となって,あえて無視してこれまで原発の運転はなされてきた。しかし,自然は,容赦なく,巨大な現象として立ち現われ,原子炉を破壊に導く。基準地震動を超える地震動を本件原発に与えたときに,本件原発がその地震動に耐えられる保証はない。そのときには,本件原子炉は,新規制基準も認める「大規模損壊」となって,多量の放射性物質を環境中に一気に放出する。日本の破滅すらもたらしかねない本件原発の稼働を阻止するのは,まさしく本裁判に与えられた任務である。

以 上

◆原告第16準備書面
第6 新規制基準においても変更のないこと

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第6 新規制基準においても変更のないこと

 1 新規制基準においても地震動想定手法は従前のままであること

では,3・11福島第一原発事故を受けて,原発の地震動想定手法は変更されたか。
結論から言えば,否であり,何ら見直しはされていない。
いわゆる新規制基準のうち,基準地震動の想定や耐震設計に関する「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(案)」(甲239[4 MB])を見ると,地震動想定手法は福島第一原発事故以前と同一であって,従前の考え方をほぼ踏襲しており,しかも,一部ではむしろ後退しているところも存在する。

同ガイドでは,多くの点で「適切に」評価することを確認する等とされているにすぎない。

例えば,同ガイドの「3.3 地震動評価」のみを見ても,

「適切に評価されていることを確認する」,
「適切に設定され,地震動評価がされていることを確認する」,
「適切に選定されていることを確認する」,
「適切に考慮されていることを確認する」,
「適切な手法を用いて震源パラメータが設定され,地震動評価が行われていることを確認する」

など,「適切に」といった文言が実に22ヶ所に登場する。また,同ガイドの「4.震源を特定せず策定する地震動」以下においても同様であり,多数の「適切に」といった用語が用いられている。

このように極めて多数の項目において「適切に」行う等とされているが,そこでは,何が適切かは全く記載されていない。断層や地震動の評価において,「適切に評価する,設定する」のは当然のことであり,ことさら審査の基準として「適切に行うように」等と規定しても,実際は意味がない。それが審査の基準となるためには,何が適切かをどう判断するかが記載されていることが必要であるのに,具体的な審査の基準の記載がない「審査ガイド」は全く基準の名に値せず,結局,規制委員会がどのような審査をしようとしているかは,この「審査ガイド」ではほとんど分からないのである。

 2 従前と同じ手法で地震動想定を続ければ,基準地震動を上回る地震動が原発を襲うこと

その結果,原子力事業者による地震動想定においても,現在も相変わらず,平均像を基本として地震動想定をしようとし,それに若干の「不確かさの考慮」をして地震動を算出しており,従来と何ら変わりがないものとなっている。

本来,地震動想定に失敗した原子力安全委員会,原子力安全・保安院や原子力事業者は,なぜ想定に失敗したかの原因を追求し,新たな想定手法を採用して,改めて地震動想定を行うべきなのに,単に結果としての地震動の数値を変えて対応しただけだった。失敗に学ぼうとする姿勢が,原子力安全委員会にも,原子力安全・保安院にも,原子力事業者にも全く欠けていたのである。そして,このことは,原子力規制委員会が設けられた現在においても同様と言わざるをえない。

このように,失敗した原因を追求せずに,失敗したのと同じ手法で地震動想定をし続けていれば,いずれは,大きくSs(新耐震指針における基準地震動)を上回る地震動が原発を襲うこととなる。

 3 「過去最大(既往最大)」を超えることも十分にあり得ること

基準地震動(Ss)の策定は,耐震設計の要である。その要である基準地震動(Ss)をどこまで上回る地震動が原発を襲うか分からないのでは,そもそも耐震設計のしようがない。

原発の機器・配管のどこが地震に耐えられないか,地震に耐えられない機器・配管が破壊された時にどのような結果となるか等という議論は,全て,襲来する地震動の大きさが分かってからでなければ,なしようがない。

とりわけ,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震により,津波があれほど想定を大きく上回ってしまった原因は,自然現象が過去最大(既往最大)を容易に超えうることを無視したことにある。ここで,「過去最大(既往最大)」といっても,それは,たかだか数100年程度の知見でしかない。津波堆積物を考えても,せいぜい1000年~2000年程度の知見でしかない。ましてや,正確なデータに限ればここ20年の話でしかない。要するに,そもそも,「過去最大(既往最大)」の知見を得ること自体,容易なことではないが,さらに,その「過去最大(既往最大)」を超えることも十分にあり得る,ということである。

 4 失敗した従前の手法のままでは,原発の安全性は到底確保されないこと

以上に述べたとおり,2011年東北地方太平洋沖地震及び福島第一原発事故を踏まえれば,少なくとも,基準地震動(Ss)の策定は,少なくとも「既往最大」を基礎とした上で,さらにその「既往最大」を超える地震・地震動・津波が発生する可能性のあることを前提にして想定を行うことが求められているというべきである。

しかしながら,規制機関たる国も,原子力事業者も,失敗した従前の手法を繰り返しているだけである。

国も,原子力事業者も,何らの反省もなく,失敗した従前の手法を漫然と繰り返し,基準地震動を策定している。このような,過去の失敗に学ぼうとしない手法のままでは,原発の安全性は,到底,確保されようがないのである。

◆原告第16準備書面
第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと

 1 従前の地震動想定に対する国会事故調報告書の指摘

  (1)国会事故調報告書の指摘

国会事故調報告書は,原子力発電所における従前の地震動想定について,次のとおり指摘している(「2.1.6検討」の7)a〔報告書193頁〕)。

「わが国においては,観測された最大地震加速度が設計地震加速度を超過する事例が,今般の東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発と女川原発における2ケースも含めると,平成17(2005)年以降に確認されただけでも5ケースに及んでいる。このような超過頻度は異常であり,例えば,超過頻度を1万年に1回未満として設定している欧州主要国と比べても,著しく非保守的である実態を示唆している。」

  (2)従前の地震動想定は10年間で5ケースも誤ったこと

上記(1)の指摘は,要するに,原子力発電所における従前の地震動想定は僅か10年間の間だけで5ケースも誤った,ということである。

ここで,平成17年(2005年)以降に確認された5ケースとは,以下の5つを指す。

 ア 平成17年(2005年)8月16日宮城県沖地震における女川原発のケース

平成17年(2005年)8月16日に発生した宮城県沖地震は,北緯38度9.0分,東経142度16.7分の宮城県沖を震源とするM7.2の地震である。

この地震の際,東北電力女川原発で観測された地震動は,南北方向では基礎盤上で316ガルを記録した(甲235[4 MB]「今回の地震による女川原子力発電所第1号機の建屋の耐震安全性評価結果について」)。

当時の女川原発の設計用最大地震動は,S1(設計用最強地震)が250ガル,S2(設計用限界地震)が375ガルであった。しかも,この地震の規模は,当時想定されていた地震(M7.5)の3分の1の規模に過ぎなかった。

国内の原発で,基準地震動(設計用最大地震動)を上回る地震動が確認されたのは,このケースが初めてであった。このようなこととなった要因とされているのは,「大地震においても顕著に宮城県沖近海の地域特性が現れる」からだとされている。要するに,設計用最大地震動の設定を平均像で行っていたところ,そのバラつきを適切に考慮していなかったためにそれから外れてしまったというのである。

なお,ここでいう「地域特性」の一つとして,次の点が挙げられている。

(「女川原子力発電所における宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価に係る報告について」東北電力)【図省略】

もっとも,上図からすれば平均像からの乖離は幸いにもそれほど大きいものではなかった。実際にはもっと大幅に乖離した地震動が発生しても何らおかしくはなかったのである。

 イ 平成19年(2007年)3月25日能登半島沖地震

平成19年(2007年)3月25日に発生した能登半島沖地震は,能登半島沖(北緯37度13.2分,東経136度41.1分)で発生したマグニチュード(Mj)6.9,震源深さ11キロメートルの地震である。

この地震の際,北陸電力志賀原発1号機及び2号機において,基準地震動(応答)を超過した(甲236[6 MB]「能登半島地震を踏まえた志賀原子力発電所の耐震安全性確認について」)

志賀原発の設計用地震動の最大加速度は,1・2号炉とも,S1(設計用最強地震)が375ガル,S2(設計用限界地震)が490ガルであった。

この地震では,下図【図省略】のように,地震モーメント(Mo=「剛性率〔震源断層面のすべり強度〕×平均すべり量×震源断層面の面積」。単位はNm〔ニュートン・メートル〕)が平均的地震より大きく,これが基準地震動を超えた要因となっている。ただし,平均的地震より大きいといっても,同じ程度の断層面積で発生した地震における既往最大までは至っていない。やはり,より大きな地震動が発生していても何らおかしくはなかったのである。

(志賀原子力発電所:「新耐震指針に照らした耐震安全性評価
(敷地周辺海域の地質・地質構造)」平成21年1月15日北陸電力株式会社)【図省略】

 ウ 平成19年(2007年)7月16日新潟県中越沖地震

平成19年(2007年)7月16日に発生した新潟県中越沖地震は,新潟県中越沖で発生したマグニチュード6.8の地震である。

この地震の際,東京電力柏崎・刈羽原発で観測された地震動は,最大1699ガルであった(甲237[3 MB]「柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性向上の取り組み状況」)。

柏崎・刈羽原発の設計用地震動の最大加速度は,S1(設計用最強地震)が300ガル,S2(設計用限界地震)が450ガルであった。中越沖地震では,この約4倍(1号機解放基盤面で1699ガル・S2の約4倍)もの地震動が観測された。中越沖地震はM6.8と地震規模はそれほど大きくなく,震源の深さが17kmとそれほど浅い地震でもないのに,旧指針の限界地震の想定を約4倍も超える地震動が発生したのである。

そして,これによって,柏崎・刈羽原発に,次のような本格的な被害が発生した。

  1. 柏崎・刈羽原発5号機においては,燃料集合体の一つが燃料支持金具から外れていた。
  2. 同7号機の点検作業中に,制御棒205本のうちの1本が引き抜けなくなる異常が見つかった。東京電力は,「地震の影響が何らかの形で発生したと思う」と説明している。
  3. 同6号機でも,制御棒2本が一時引き抜けなくなった。引き抜けなかった制御棒については,詳細な点検が行われたが,原因は明らかになっていない。
  4. 同5号機では,炉内の水を循環させるために原子炉圧力容器内の壁に沿って20本設置されているジェットポンプの振動を抑えるためのくさび形金具が,水平方向に4㎝ずれているのが見つかった。
  5. これらを含め,この地震の結果,柏崎・刈羽原発は,約3000箇所で故障が生じた。

柏崎・刈羽原発での当時の基準地震動はS2(設計用限界地震)であったが,新耐震指針における基準地震動Ssすら超える地震動が観測されてしまったのである。

中越沖地震がSs(新耐震指針における基準地震動)を大きく上回る地震動を観測したことを受けて,東京電力はその要因を分析し,アスペリティ(大地震発生時に震源断層面内において特に強い地震波を発生した領域。地震発生直前まで断層面が残りの部分より強く固着していたと考えられることから,もともと「突起」という意味の「アスペリティ」と呼ばれる。)の平均応力降下量(断層がずれた時のエネルギーを示す。これは短周期地震動レベルに直結する。)が平均像の1.5倍だったことと,地盤による増幅が4倍あったことが原因だとされた。そこで,原子力安全委員会,原子力安全・保安院は,各原子力事業者に対して,短周期地震動レベルを1.5倍とした場合に機器・配管の健全性が保たれるか確認することを求めた。

しかしながら,アスペリティの平均応力降下量が平均像の1.5倍程度以上となる地震は無数に観測されている(正規分布によって算出した場合も,やはり平均像の1.5倍を超えるような地震は全体の1割程度存在するとされる。)。したがって,この対応は,単なる弥縫策でしかなかった。

ところが,原子力安全委員会も,原子力安全・保安院も,各原子力事業者も,想定を失敗した根本的な原因について改めることは一切しなかったのである。

 エ 平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震における福島第一原発のケース

平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震は,マグニチュード9の巨大地震である。この地震の際に東京電力福島第一原発で観測された地震動は,基準地震動を超えた(甲92・国会事故調報告書「2.2.1東北地方太平洋沖地震による福島第一原発の地震動」)。

そして,この地震動によって原発の配管が破断した可能性も指摘されている(甲92・国会事故調報告書「2.2.2地震動に起因する重要機器の破損の可能性」)。

 オ 平成23年(2011年)の東北地方太平洋沖地震における女川原発のケース

また,平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震の際,東北電力女川原発で観測された地震動も,基準地震動を超えた(「平成23年東北地方太平洋沖地震における女川原子力発電所及び東海第二発電所の地震観測記録及び津波波高記録について」)。

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 2 従前の地震動想定が著しい過小評価となった理由

このように,従前の原子力発電所における地震動想定は,著しい過小評価であった。原発事業者と規制機関たる被告国が地震動想定に失敗した最大の原因は,その地震動想定手法が,過去に発生した地震・地震動の平均像で想定を行っていたことにある。

そして,原子力発電所における地震動想定手法が,過去に発生した地震・地震動の平均像で行われていたことについては,この分野の第1人者であり,原発の耐震設計を主導してきた入倉孝次郎氏自身が認めている。すなわち,平成26年3月29日付愛媛新聞(甲238[656 KB])には,入倉孝次郎氏の次の発言が掲載されている。

「基準地震動は計算で出た一番大きい揺れの値のように思われることがあるが,そうではない。(四電が原子力規制委員会に提出した)資料を見る限り,570ガルじゃないといけないという根拠はなく,もうちょっと大きくてもいい。・・・(応力降下量は)評価に最も影響を与える値で,(四電が不確かさを考慮して)1.5倍にしているが,これに明確な根拠はない。570ガルはあくまで目安値。私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが,これは地震の平均像を求めるもの。平均からずれた地震はいくらでもあり,観測そのものが間違っていることもある。基準地震動はできるだけ余裕を持って決めた方が安心だが,それは経営判断だ。」

このように入倉孝次郎氏は,基準地震動は目安に過ぎない「平均像」だと述べたのである。さらに,これを中越沖地震の知見から1.5倍にすることについても,明確な根拠があるわけではないと言う。そして,その平均像を超える地震はいくらでもある,とまで言う。過去に発生した地震・地震動の知見の平均像で想定を行っているのであるから,現に発生する地震・地震動がしばしば基準地震動を超えることは,いわば当然のことであった。
では,そのような基準地震動を金科玉条のように,重要なものとしてこれまで行ってきた耐震設計は,何だったのか。実にいい加減なものだということを,主導してきた入倉孝次郎名誉教授自身が認めたに等しいといわなければならない。
すでに述べたとおり,原発の耐震設計は,まず基準地震動(Ss)を定めることから始まる。この基準地震動Ssは

「施設の耐震設計において基準とする地震動で,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学および地震工学的見地から,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」

とされ,要するに,Ssは,施設を襲うと想定できる最大地震動であるはずであり,それが,原発の耐震設計の根本であったはずである。ところが基準地震動は,単なる目安に過ぎない「平均像」だというのである。これでは,原発の耐震設計の根本は完全に崩れ去ってしまう。したがって原発の耐震設計は,その出発点において極めて大きな誤りがあったということになる。

したがって,このような耐震設計で原発の安全性が担保されるはずがない。もはや原発の耐震設計が,根本から誤っていることは,誰の目から見ても明らかになった。それを明白にしたのが,この入倉発言である。

しかも,入倉孝次郎氏は,あとは「経営判断だ」とすら言う。しかし,そうであれば,司法が,原発の差し止めを認めない判決を下すための唯一の論理は,「原発の安全性は電力事業者の経営判断であり,司法がこれに介入することは許されない」ということでしかない。

平成26年3月29日付愛媛新聞(甲238[656 KB])【図省略】

◆原告第16準備書面
第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を
用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

 1 原発の安全性について地震の「標準的・平均的な姿」を前提とすることは不適切である

標準的・平均的な姿をもとに基準地震動が策定されていることについて当事者間に争いはない。問題は,最も厳格な安全性が求められる原子力発電所において,そのような平均像を用いることが正当化されるかということである。

平均であるから,当然,元データには平均像そのものは存在せず,多くのばらつきあるデータとなっている。そのバラつきの程度は様々であって,数字でいえば,60と40の平均も50であるが,0と100の平均も50である。

例えば下図【図省略】は,1995年当時に,原子力発電所の耐震性を審査するにあたって,原子力規制員会が用いた上下動と水平動に関する観測データを示したものであるが,震源に近いほど上下動の割合が高くなることが分かる。それにも拘わらず原子力規制委員会によれば上下動の割合は0.5であると結論されてしまっている。しかし,「万が一」の安全性を保持しなければならないという観点からは,平均を上回る地震動が観測される地震がこれほど多く存在している以上,平均値を取ることによっては安全性を担保することができないことは明らかである。

甲229[5 MB] 「地震と原発の不都合な関係~強震動予測を巡って」 東井怜)【図省略】

平均を取るということは,このようなバラつきや不確かさを捨象してしまい,「標準的・平均的な姿」という仮想的なモデルケースを設定して基準地震動を導くことに他ならない。これでは,「万が一」の安全性を保持すべき原子力発電所に到来する可能性のある地震動の予測としては極めて不十分であり,不合理である。

以下,基準地震動が過小評価であることを述べる論文を示し,述べる。とりわけ島崎論文は,原子力委員会の委員長代理であった島崎邦彦自身が基準地震動が過小評価となる可能性を指摘するものとして重要であるし,赤松論文は被告関西電力の主張を踏まえてその不十分さを指摘するものとして正に本件に適合し,かつ過去の客観的データに基づく論考として価値が高い。

 2 島崎邦彦「活断層の長さから推定する地震モーメント」(甲230[782 KB]

原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦は,近時,原子力発電所における地震・津波の予測に関し,次のように述べて警鐘を鳴らしている。

すなわち,地震モーメントを活断層の長さから予測する場合,過小評価となる可能性があり,注意が必要である。予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため,過小評価の可能性がある。実際,日本の陸域およびその周辺の地殻内浅発地震(マグニチュード7 程度以上)について,活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1978年兵庫県南部地震で検討したところ,原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると,地震モーメントが過小評価される傾向が明らかとなった(甲230[782 KB])。

図【図省略】は,地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり,OBS=観測地,T=(1)式,YS=(2)式,ERC=(3)式,IM=(4)式である(なお,同図は嶋崎邦彦「活断層の長さから推定される地震モーメント:日本海「最大」クラスの津波断層モデルについて」より抜粋)。図のように,入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは,実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多く,当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから,地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており,その結果,基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

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 3 毎日新聞「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」(甲231[1 MB]

基準地震動の計算は,「活断層が起こし得るさまざまな揺れの中で平均的な値を導くもの」(甲231[1 MB]・2頁)であるが,実際の地震では,計算による平均値の2倍以上の強い揺れが全体の7パーセント程度存在し,3倍~4倍の揺れさえも観測されている(同)。実際の揺れの8割~9割であれば基準地震動の範囲に収まるが,残りの1割~2割は超過してしまうのであって,基準地震動を超過する地震動が発生する危険性は非常に高い。それにもかかわらず,基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず,揺れの計算は専門性が高いため規制側が対等に議論に参加することができず,いきおい事業者側の言い分がそのまま通る傾向にある。

平均から外れた強い揺れも考慮しなければ「万が一」の安全性を求められる原子力発電所における地震動予測としては極めて不十分なのである。

 4 山田雅行・先名重樹・藤原博行「強震動予測レシピに基づく予測結果のバラツキ評価の検討~逆断層と横ずれ断層の比較~」(甲232[6 MB]

強震動予測は平成7年兵庫県南部地震を契機に急速に研究が進められ,広く利用される傾向にあるが,強震動予測を行うための詳細な震源パラメータの設定には多くの不確定な要素が残存しているための,そのような状況下での強震動予測手法の標準化を目指して「強震動予測レシピ」(入倉・三宅の式)が提案されている。同レシピは主要な部分に経験式が用いられており,その経験式は過去の観測データの回帰によって求められていることが多いため,レシピに従って設定した震源パラメータは「平均的な」値となり,その値に対するバラつきを必然的に有していることとなる。そのようなバラつきのある震源パラメータに基づいて予測されるため,地震動もバラつきを有している。仮想の逆断層と横ずれ断層を想定してバラつきの違いについて検討を行ったところ,いずれの場合も,アスペリティの強度(応力降下量)によるバラつきが大きな値となることが分かった(図-4(3),図-5(3))。

アスペリティの強度(応力降下量)の違いは,地震規模の強弱に大きな影響を与え,地震動の大小にも当然大きな影響を与える。この点についてバラつきが大きいということは,地震動にも大きなバラつきが出てくることに他ならない。基準地震動を超える地震動が本件発電所を襲う可能性は決して低くはないのである。

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 5 長沢啓行「高浜3・4号と大飯3・4号の基準地震動は過小評価されている」(甲233[15 MB]

大飯原発の基準地震動については最新の知見が十分に反映されておらず,保守性(安全余裕)を十分持たせたものになっていない。「震源を特定して策定する地震動」について,大飯原発については,断層との距離が近すぎるという理由で耐専スペクトルが適用されていないが,その適用を排除する理由はなく,これを適用すると,関西電力の示した耐専スペクトルの等価震源距離と最大加速度の関係図からして1200ガル以上となる(図15)。また,耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,しかも震源近傍での大きな地震観測記録を含む最近20年間の最新データが反映されていないため,地域差以外の偶然変動によるバラつき(図22)も考慮すれば,少なくとも2倍の余裕を持たせるべきである。実際の観測記録値を見ても残差平均より倍半分以上のバラつきがあり,内陸補正をした耐専スペクトルからも倍半分以上のバラつきがある。そのようなバラつきも考慮すれば,2400ガル以上になる可能性もある。これは原子力安全基盤機構の独自の断層モデルによる地震動解析結果とも一致しており,過去の地震観測記録等とも一致している。他方,断層モデルによる地震動評価についても,同モデルは北米中心の地震データに基づいているため地震規模や応力降下量が過小設定されることになり,大飯原発についてもそれらが過小設定されている。結局,大飯原発では地震動が過小評価されており,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に設定し直せば,クリフエッジをも超えることは避けられない。

 6 赤松純平「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」(甲234[1 MB]

1985年に発生した若狭湾沿岸地震の観測結果と琵琶湖西岸で発生した別の地震の観測結果との比較からは,地震規模が同じであるにもかかわらず,若狭湾の地震が琵琶湖西岸の地震に比して高周波成分が卓越しており,スペクトルの振幅値も高周波数域では同程度ないし若狭湾の地震の方が大きいことが分かる。地震波動の距離減衰という特徴からすると,若狭湾の地震は琵琶湖西岸の地震に比して震源域での高周波成分が6~9倍も大きかったことになり,このことから,若狭湾の地震における応力降下量が顕著に大きかったことが示唆される。このような応力降下量が大きいという若狭湾地域における地域性はより規模の大きい地震についても見られ,M7以上の大地震では,日本海周辺の地震の応力降下量が南海トラフ沿いの地震よりも平均して3倍程度大きいことが知られている。1985年の若狭湾地震規模はM5.1であるが,当時の大飯原発の自動停止の設定閾値160ガルを超えていないにもかかわらず原子炉が自動停止したことは,同原発が脆弱性を内蔵していたからである。関西電力の策定した基準地震動は,若狭湾地域において短周期(高周波)成分が卓越するという地域性を適切に踏まえておらず,耐震性を確保するための基準として不十分である。

同じ地震でも,場所によって発生する地震動は大きく異なる。それは,強震動に影響を与える要素として,地震の震源特性,地震波の伝播特性,地盤の増幅特性(サイト特性)などがあるからである。この点,若狭湾地域においては,地震における高周波成分が大きく,応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価していないのであるから,同被告の策定した基準地震動は過小評価である。また,M5.1程度の地震で想定していなかった自動停止が起こったということは,今後も同規模ないしそれ以上の規模の地震によって想定外の事態が容易に起こるであろうことを端的に示している。

◆原告第16準備書面
第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について

 1 応答スペクトルに基づく地震動評価とは

応答スペクトルに基づく地震動評価は,地震動評価の手法の1つであり,実際の多数の地震で現に観測された地震動観測記録に基づき,地震の規模,敷地との距離によって分けて,地震動の平均像を求めたものを用いる手法である。

以下,応答スペクトルに基づく地震動評価手法を概略する。

  (1)マグニチュードと震源距離の想定

応答スペクトルに基づく手法は,まず当該断層で地震が発生したときの地震の規模(マグニチュードM)と震源距離(等価震源距離Xeq)を想定することから始まる。その上で,そのマグニチュード,震源距離に応じた地震動の平均を求める。

(高浜発電所「地震動評価について」平成26年8月22日 関西電力)【図表省略】

上記でも,それぞれM(マグニチュード),Xeq(等価震源距離)が記載されており,この手法の出発点が,MとXeqの想定であることが分かる。上図で見ると,「FO-A~FO-B~熊川断層」では,M7.8,等価震源距離23.5㎞の地震が平均的にどの程度の地震動をもたらすかを周期ごとに算出し,それを結んだものが応答スペクトルということになる。

ここで等価震源距離とは,「地震エネルギーが等価な点震源までの距離」であり,実際には断層面の上で発生する地震動を,それと同じ(等価な)地震波エネルギーをもたらす点として表すものである。

  (2)応答スペクトルに基づく手法の詳細

応答スペクトルに基づく手法は,下図【図省略】で見るなら,周期0.02秒,0.09秒,0.13秒,0.3秒,0.6秒での,「M7.5 震源距離20.15km」「M7.2 震源距離16.51km」などと分類した上での地震動の大きさの平均を求め,プロットし,それをつなげた折れ線を描く方法である。プロットしたポイントを「コントロールポイント」という。

(川内発電所 地震について 平成26年4月23日 九州電力株式会社)【図省略】
甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)【表省略】

このように,応答スペクトルに基づく手法は,たとえば,マグニチュードM6,震源距離Xeq78㎞,M7,Xeq20㎞などに分け,M7,Xeq20㎞の地震で,周期0.6秒の周期で,その地震の応答スペクトルがどれだけの大きさになるかの平均値を算出し,周期ごとに算出したものをプロットして作成するというものである。

  (3)応答スペクトルに基づく手法の種類

応答スペクトルに基づく手法には,いくつかの手法がある。

かつては,大崎順彦氏による「大崎スペクトル」が用いられていた。この大崎スペクトルでは,観測された地震動の最大値がほぼカバーされていて,より安全側に考えられていた。ところが,現在用いられている,電気協会耐震設計専門部会が作成した「耐専スペクトル」や,野田他(2002)の応答スペクトルでは,地震動の平均像を求めるものになっている。

なお,その他にも,Zhao.et.al(2006)の応答スペクトル等がある。

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 2 応答スペクトルに基づく手法の問題

  (1)地震規模の想定には大きな誤差が伴う

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動(敷地周辺の活断層により発生する地震動)は,いずれにしても地震規模の想定が必要となる。

地表の活断層の長さから出発し,そこからそのまま地震規模を直接推定する方法(松田式)にしても,地表の活断層の知見に加え,地下の震源断層面の長さや幅を推定した上で地震規模を推定する方法にしても,大きな誤差という宿命からは逃れられない。

松田式は,断層の長さとマグニチュード(気象庁マグニチュードMj)との関係式であり,応答スペクトルに基づく手法では,まず断層の長さからマグニチュードを松田式によって求める。

松田式は断層の長さから地震のマグニチュードを推定する式であるが,この松田式は大きな誤差がある関係式であり,これを提唱した松田時彦氏自身,単なる目安に過ぎないとしている。その意味は,極めて大きな誤差があるということにほかならない。下図が,その松田式を示す図【図省略】である。

この図は,縦軸が断層の長さであり,横軸がマグニチュードであり,中央の点線が松田式である。この図を見れば,同じ断層の長さであっても,松田式を超える地震が発生していたこと,マグニチュードで1.0程度上回る地震が現に発生していたことがわかる。マグニチュードが1.0大きくなるとは,エネルギーで32倍(2の5乗)になることを意味しており(マグニチュードが2.0大きくなると,2の10乗で1024倍のエネルギーとなる。),松田式は,とんでもなく大きな誤差をかかえていたことがわかる。

  (2) 耐専スペクトルも野田他(2002)の応答スペクトルも平均像を求めるものであること

耐専スペクトルも,野田他(2002)の応答スペクトルも,その基礎となる観測された地震動記録は極めてわずかなものにすぎず,そもそもこれによって地震動の最大値を知ることは不可能である。

また,耐専スペクトルも,野田他(2002)の応答スペクトルも,「実現象の平均像を忠実に再現」しようとしたものである。耐専スペクトルについて,これを定めた日本電気協会原子力発電耐震設計専門部会は次のように説明する。

甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)

  (3)応答スペクトルに基づく手法の誤差(平均像からの乖離の程度)

このように,応答スペクトルに基づく手法は,以前の大崎スペクトルを除き,いずれもすべて基本的に平均像を求める手法である。これを原発の耐震設計に用いるのであれば,平均からどれだけ乖離し,最大どこまでの値になるかを考える必要がある。

平均像からの乖離は,応答スペクトルに基づく手法の誤差ということとなる。では,平均像からどれだけ乖離した値となりうるか。

甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)

これは「近年の内陸地殻内地震による残差」の図【図省略】で,耐専スペクトルで推定した値と近年の内陸地殻内地震での観測値の比を示すものである(甲228[2 MB]・29番)。

縦軸は対数表示となっており,観測値と推定値の比を示している。上図では,その比の1倍,2倍,5倍の値がどこになるかを線で示している。横軸は,周期である。描かれている1本1本が現実に発生して観測した地震動の値(推定値の何倍かの値)であり,原発に重要な短周期で,推定値の3~4倍の値となっていて,中には7~8倍程度に達するものも存在する。

これを原発の耐震設計に用いるのであれば,まずは観測された誤差の最大値(既往最大)はとらなければならない。図の多数の線の上限がその最大値であり,その値は,短周期で平均的値の4倍程度となっている。

しかしながら,原発の耐震設計では,これらの誤差については,全く考慮されていない。

  (4)観測値のバラツキの程度

多数の値のバラツキの程度を見るため,統計学等において一般的によく使われる数値が標準偏差(σ)である。上図【図省略】の下側の図には,+σと‐σの線が示されている。

標準偏差とは,値のバラツキを見る指標となるものであり,平均値と各値との差(偏差)を二乗し,それを合算した和をデータの数で割り,それをルートした値である。

上図【図省略】は,正規分布というよく見られる分布の図である。数値のバラつきの仕方にはいろいろなものがあるが,「正規分布」はその代表格のものである。観測値と推定値の比のバラつき(分布)が必ず正規分布であるとまではいえないが,バラつきの程度は正規分布に概ね沿ったものとなる(なお,「近年の内陸地殻内地震による残差」における縦軸は「対数表示」となっていることには注意が必要である)。地震動の観測値と推定値の比のバラツキは,対数表示で見ると正規分布に近いものとなるということである。

正規分布であるとすれば,+σ(標準偏差1つ分)を超えるものは約16%,+2σ(同2つ分)を超えるものも2.3%あり,+3σを超えるものもなおも0.135%(740分の1)あることとなる。+3σをとったとしても,740個の地震のうち1個は3σも超えるということである。

上図【図省略】を見れば,+σの場合の地震動の値は,ほぼ2倍に近いと見ることができる。+σを超える観測値も相当あることは明確であるから,そもそも+σ程度の値を採用するのでは不足するということである。+2σでも,なお正規分布ならそれを超えるものが2.3%はあることとなるので,原発の耐震設計であることを考えれば少なくともそれ以上は考えるべきである。

そうすると,+2σは約4倍であり既往最大にほぼ等しく,+3σでは約8倍となるから,少なくともほぼ既往最大である4倍はとるべきであり,また安全性を考えればそれではなおも相当不足し,平均値の8倍以上を考える必要がある。

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 3 小括

前述したように,新規制基準(「基準の解釈」)においても,「選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を」するよう求められている。ここでは,応答スペクトルに基づく手法においても不確かさを考慮しなければならないことが,規定の文言で明記されている。しかし,応答スペクトルに基づく手法は各地の原発の耐震設計で採用されているものの,この手法は,出発点の松田式による地震規模の推定でも,その後の地震動推定でも,被告関西電力が認めるように,平均像を求めるにすぎない手法である。

ここで付言すれば,そもそも平均像からの乖離を「不確かさ」と呼ぶこと自体,誤りである。平均像を現実の地震が超えることは,決して不確かなことではなく,「確か」に起こることなのである。起こる地震の相当数が,平均像を確実に超える。したがって,単に平均像からの乖離でしかないものを「不確かさ」と呼ぶのは相当ではないのである。特に,原発の耐震設計であることを考えれば,まず平均像を取って耐震設計をしようとすること自体,全くの誤りであって,当初より,平均像ではない,最大値はどれくらいかを考えるべきである。

もっとも,国も電力事業者も,平均像からの乖離自体を「不確かさ」とは呼ぼうとしているわけではない。想定が基本的には平均像でしかないことを十分に知りつつ,平均像からの乖離という観点を取ろうとせず,無視している。この平均像からの乖離を不確かさの考慮と呼ぶとしても,この手法について,どの原発でも,この平均像でしかないことからくる不確かさを十分には考慮していない。原発では特に,その誤差(不確かさ)を本来必ず考慮しなければならないのである。

ただし,もし仮に応答スペクトルに基づく手法でも不確かさの考慮をするとしても,その不確かさの考慮は,しっかりとした根拠をもって行わなければならない。間違っても,「ある程度大きめにとっておけば,それで不確かさを考慮した」などとするようないい加減な方法によるわけにはいかない。あるいは多少大きめにとるなどという,お茶を濁すようなことでは足らない。明確に,少なくとも平均像からどれだけの乖離まで想定すべきか,観測記録上の過去最大の乖離はどれだけか,それをも超えるものをどこまで想定すべきか(すなわち何σまで想定すべきか)という観点から,最大の地震動想定を行わなければならない。この何σまで想定すべきかは,松田式の適用においても考えられなければならない。そのときの不確かさの考慮は,最高裁判所伊方判決がいうような「万が一にも災害防止上支障のないこと」を実現するように,万が一にも,想定した応答スペクトルをはみ出す地震がないような,すべての考えられる地震・地震動を包絡するようなものとしなければならないである。

以上のとおり,地震動想定手法のうち,「応答スペクトルに基づく手法」は,地震規模の推定における経験的関係式でも大きな誤差があることが明らかであり,その後の地震動想定の手法も,実現象の平均像を求めるに過ぎない手法であって,しかもその平均からの乖離が大きなものであることは明らかである。しかるに電力会社は,この平均からの乖離を十分に顧慮することなく地震動を想定している。そのことのみで,すでに電力会社の想定する地震動が極めて過小であることは明らかである。

◆原告第16準備書面
第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:
「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること

 1 バラつきを考慮しなければならない理由

  (1)地震の科学には限界があること

自然現象の測定には必ずある誤差がある。測定の精度は,その測定の対象や手法によって種々であるが,たとえば地盤の速度構造の測定の誤差は決して小さくはない。

岩波書店の雑誌「科学」2012年6月号(「地震の予測と対策:『想定』をどのように活かすのか」・甲227)に掲載された,岡田義光防災科学研究所理事長,纐纈一起東京大学地震研究所教授,島崎邦彦東京大学名誉教授の鼎談では,纐纈教授と岡田教授の以下の発言が掲載されている。

「纐纈
地震という自然現象は本質的に複雑系の問題で,理論的に完全な予測をすることは原理的に不可能なところがあります。また,実験ができないので,過去の事象に学ぶしかない。ところが地震は低頻度の現象で,学ぶべき過去のデータがすくない。私はこれらを「三重苦」と言っていますが,そのために地震の科学には十分な予測の力はなかったと思いますし,東北地方太平洋沖地震ではまさにこの科学の限界が現れてしまったと言わざるをえません。そうした限界をこの地震の前に伝え切れていなかったことを,いちばんに反省しています。

編集部
限界があるとして,どういう態度で臨むべきでしょうか。既往最大に備えることになりますか。

岡田
どれくらいの低頻度・大事象にまで備えるかという問題になります。1000年に一度,1万年に一度と,頻度が1桁下がるごとに巨大な現象があると考えられます。大きなものに限りなく備えるのは無理ですから,どれくらいまで許容するかになります。日常的に備えるのは,人生の長さから考えると,100~150年に一度のM8くらいまでで,M9クラスになると,ハードではなくソフト的に,避難などの知恵を働かせるしかないのではないでしょうか。

編集部
原発の場合にはどうお考えになりますか。

岡田
施設の重要度に応じて考えるべきですから,原発は,はるかに安全サイドに考えなければなりません。いちばん安全側に考えれば,日本のような地殻変動の激しいところで安定にオペレーションすることは,土台無理だったのではないかという感じがします。だんだん減らしていくのが世の中の意見の大勢のようですが,私も基本的にそう思います。

纐纈
真に重要なものは,日本最大か世界最大に備えていただくしかないと最近は言っています。科学の限界がありますから,これ以外のことは確信をもって言うことができません。しかし,全国の海岸すべてで日本最大の津波高さに備える経済力が日本にはないだろうと考えています。そうするとどうするか。それは政治などの場で,あるいは国民に直接決めていただくしかないであろうと思います。

編集部
中越沖地震で号機ごとにゆれがかなり違っていましたが,地質の影響は本当にあらかじめわかるのでしょうか。

纐纈
前述のような科学のレベルですから,予測の結果には非常に大きな誤差が伴います。その結果として,予測が当たる場合もありますし,外れる場合もあります。ですので,その程度の科学のレベルなのに,あのように危険なものを科学だけで審査できると考えることがそもそも間違いだったと今は考えています。」

(甲227・636頁~637頁)

また,同じ鼎談の中で,島崎邦彦氏(原子力規制委員会委員長代理)は,「平均像のようなものを見ていることになります。解像度を一生懸命よくしようとしていますが,ほんとうに中で何がおきているのかには手が届いていない。」とも述べている。(甲227・642頁)。

これらの発言の意味するところは,極めて重大である。

要するに,地震の科学は,対象が複雑系の問題であるので,原理的に完全な予測が困難であること,実験のできるものではないので,過去のデータに頼るしかないが,起こる現象が低頻度であるのでデータが少ないこと,したがって,地震の科学には限界があるということである(纐纈)。また,頻度が1桁下がるごとに大きな現象があると考えられるとされている(岡田)。

重要なのは,(既往)日本最大ないし世界最大で備えるしかない(纐纈)とされているものの,日本最大,世界最大といっても,問題は,どれだけの期間での最大かであり,地震はたかだか何百年の間の最大でしかない。それどころか,正確なデータが取得できるようになったのは兵庫県南部地震後に多数の強震計が配置された平成9年(1997年)以降のことでしかなく,だからこそ被告関西電力が述べるように,近年,地震学は大きく発展してきたのである。ただそれだけのことで,何万年,何10万年の間の最大などわかるはずがない。今後さらに観測が積み重なり,データがより正確・詳細になっていけば,さらに地震学が発展するであろうことは,誰の目にも明らかである。

  (2)地震学の現状

実際に,過去の地震では,それがどのような現象であるのかが十分に解明されているとは到底言い難い。東北地方太平洋沖地震について見れば,それが良くわかる。

次の2つの図【図省略】のうち,上の方の図Ⅳ.10は,東北地方太平洋沖地震で,ずれの量がどこでどれだけあったかについて複数の見解を示した図である。宮城県沖で大きなずれが発生したことは共通して認められるものの,その大きさや範囲について各見解は相当に異なっている。

また,次の図では,強震動生成域(強い地震動を発生させた領域,すなわちアスペリティ)と考えられる領域を四角形で示しているが,やはり見解ごとに大きく異なっている。

このように,実際に起きた地震でも,どんな現象だったかは多くの部分を推測によらざるを得ず,正確には分からないというのが地震学の現状なのである。

  (3)不確かさを安全側に十分に大きく考慮することが必須である

地震は地下深くで起こる現象であり,強震計で地震動を観測し,あるいはGPSでどれだけ地面がずれたかを観測するなどして,それらのデータから地震現象を推し量ろうとする。地下深部で起こっていることが直接観測できるわけではもちろんなく,種々のデータから地下での現象を推測するにすぎないものであるため,当然,地震現象を正確に把握することなど不可能である。前記纐纈発言の「隔靴掻痒」とは,まさしくそのような状態を表している。このようにそもそも過去の現象ですら正確には把握しきれないのに,将来の現象を正確に予測することなど一層できるはずがない。

したがって,このことのみからしても,将来の地震・津波の予測には大きなバラつきや不確かさが必然的に伴わざるを得ないのである。

また,発生する現象である地震や津波も,同じ場所であれば常に同じ範囲で,同じ規模,同じ様相で生じるというわけではなく,発生する現象自体にもバラつき(不確かさ)がある。そして,そのバラつきは,実はとても大きい。将来発生する地震や津波の想定は,過去の地震,津波のデータに基づきなされ,また,地盤などの測定データも用いられるが,測定データやデータを基とした推定に誤差があり,さらに,発生する地震,津波という現象そのものにバラつきがあるため,この点からしても,将来事象の想定(推定)には必然的に大きな不確かさを伴わざるをえないのである。

一方,原発は極めて危険な施設であり,一旦重大な事故を起こしたときには取り返しのつかない深刻な被害を広範に生ずる。したがって,原発の耐震設計は「万が一にも」事故を起こさないように,安全側に行わなければならないが,現実には,原発の耐震設計は,地震動・津波という現象の推定を「平均像」で行っているのである。

平均像で行えば,実際に起こる地震,津波の多くは無視され,著しい過小評価となる。平均像では,平均から外れる地震等が捨象されることになるが,原発という極めて危険な施設の安全性のためには,このように平均から大きく外れるような地震動の発生をも考慮し,それでも安全性が確保されるような対策が施されなければならない。「標準的・平均的な姿」の地震動についてしか安全が確保されるなどという設計では,安全確保が不足することは明らかである。この点を事実をもって明らかにし,全市民・全世界につきつけたものが,福島原発事故であった。

したがって,原発の耐震設計において,地震動,津波という現象の推定を,平均像で行なうことは決して許されない。また,仮にある程度の事象をカバーするように推定したとしても,完全に全ての現象をカバーできるわけではない。現実の地震が想定を上回る可能性は大きく,だからこそ,原発の潜在的な危険性の大きさに鑑みて,バラつきを安全側に十分に大きく考慮することは,原発の耐震設計における地震動評価の際に,地震動評価をするための全ての手法において必須なのである。

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 2 新耐震指針(平成18年指針)におけるバラつき・不確かさの考慮の要求

新耐震指針(平成18年指針)は,バラつき・不確かさの考慮について,以下のように規定する。

「3.基本方針
耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。
また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。」

「5.基準地震動の策定
施設の耐震設計において基準とする地震動は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切なものとして策定しなければならない(以下,この地震動を「基準地震動」という。)。

(1)基準地震動Ssは,下記(2)の「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び(3)の「震源を特定せず策定する地震動」について,敷地における解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとする。

(2)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,以下の方針により策定することとする。

  1.  敷地周辺の活断層の性質・・・を考慮し,地震発生様式等による分類の上での敷地に大きな影響を与えると予想される地震(「検討用地震」)の複数選定
  2.  「活断層の性質」に関する考慮事項
  3.  上記1.で選定した検討用地震ごとに,次に示すⅰ)の応答スペクトルに基づく地震動評価及びⅱ)の断層モデルを用いた手法による地震動評価の双方を実施し,それぞれによる基準地震動Ssを策定する。なお,地震動評価に当たっては,地震発生様式,地震波伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)を十分に考慮することとする。
    ⅰ)応答スペクトルに基づく地震動評価
    ⅱ)断層モデルを用いた手法による地震動評価
  4.  上記3.の基準地震動の策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)については,適切に考慮する。」

また,その(解説)では,以下のとおり解説している。

「(3) 基準地震動Ssの策定方針について
4. 「基準地震動Ss の策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)」の考慮に当たっては,基準地震動Ss の策定に及ぼす影響が大きいと考えられる不確かさ(ばらつき)の要因及びその大きさの程度を十分踏まえつつ,適切な手法を用いることとする。経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には,その経験式の特徴等を踏まえ,地震規模を適切に評価することとする。
(4) 震源として想定する断層の評価について
5. 活断層調査によっても,震源として想定する断層の形状評価を含めた震源特性パラメータの設定に必要な情報が十分得られなかった場合には,その震源特性の設定に当たって不確かさの考慮を適切に行うこととする。」

このように,新耐震指針は,「基準地震動Ssの策定過程に伴う不確かさ」と「震源特性の設定に当たっての不確かさ」の2つの過程でのバラつき・不確かさを考慮するよう求めている。

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 3 新規制基準における不確かさの考慮の定め

平成25年(2013年)6月に定められた新規制基準,すなわち,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準を定める規則の解釈」)でも,次のとおり規定されている。

「選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること」

このように,新たに定められた基準も新耐震指針を踏襲しており,やはりバラつき・不確かさの考慮は求められている。
しかし,問題は,「不確かさの考慮」をどのように行うかの具体的手法である。この点について新規制基準は,「適切」という言葉を多用するのみで,それ以上具体的規定を置かず,結果として,従来行われてきた全く不十分な「不確かさの考慮」を放置することとなってしまっている。

 4 応答スペクトルに基づく地震動評価におけるバラつきの存在

以下,応答スペクトルに基づく地震動評価について,それが地震の平均像に基づくものであってバラつきが大きいことを,過去の地震における客観的データを基に明らかにする。

なお,応答スペクトルに基づく地震動評価は,基準地震動策定フロー(原告第2準備書面・60頁に抜粋)のうち,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」を検討する中で,「断層モデルを用いた手法による地震動評価」とともに行うことが求められる地震動評価である。

◆原告第16準備書面
第1 はじめに

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第1 はじめに

 1 基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない

被告関西電力は,その用いる地震動評価手法について,過去の多数の地震ないし地震動の最も「標準的・平均的な姿」を基礎とし,これをもとに地域特性を考慮して地震動評価を行った,本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていないとする(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]153頁以下)。

そうすると,基準地震動策定にあたって地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない。

 2 「標準的・平均的な姿」を外れる地震動が発生する可能性は十分にある

しかし,「本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていない」ということは,単に現在の調査手法・能力ではそのようなデータを取得するに至らないというだけのことであって,それを超えて,そのような地域性が存在しないということを意味するものではない。被告関西電力が,地震動評価手法にこの30年あまりで著しい発展があったと述べているように,今後調査手法や能力が発展することによって未知のデータが取得され,知見が更新される可能性は十分に認められるのである。

また,仮にそのような「地域性が存する可能性を示すデータ」が現時点において得られていないとしても,そのことは基準地震動が信頼に足るものであるということを意味しない。地震動の「標準的・平均的な姿」を導くためにそれ以外の地震を捨象してしまっているように,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は十分にあるからである。自然現象である以上は「バラつき」や「不確かさ」が必然的に相当程度存在し,将来的にも,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は決して小さくなく,実際の地震では計算上の平均値の2倍を超えるものだけでも7%が存在する(甲231[1 MB]「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」)。計算上の平均値である基準地震動を上回る地震動が将来的に発生する可能性でいえば,10~20%も存在するのである。これは,「万が一」という基準をはるかに上回る危険が存することを示している。

被告関西電力は種々の要素を考慮していると主張するが,その結果得られるのは,あくまでもそれらのパラメータから導かれる地震動の「標準的・平均的な姿」であって,それらのパラメータを前提とした場合の「起こり得る最大の姿」ではないし,当然,地震動を増幅させる未知の要素については考慮し得ないから,これら未知のパラメータによって地震動が増幅することも十分に考えられる。実際,原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦の調査・研究によれば,基準地震動を策定する際の基礎となる入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多いことが示されている。当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる(甲230「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。また,確率的にも,被告関西電力の設定するパラメータを前提としても,基準地震動を超過する地震動は10~20%の割合で起こり得,2倍以上の強い揺れも7%程度発生し得る(甲231)さらに,若狭湾地域においては,地震における高周波成分及び応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価しておらず過小評価となっている(甲234[1 MB]「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」。

よって,「万が一」という基準からすれば,具体的危険性が優に認められるといわなければならない。

 3 現在の基準地震動はあくまでも現在の一応の到達点を前提にしたものにすぎない

加えて,本件発電所の基準地震動は,「地震動評価手法の著しい発展」(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]・153頁)により,設置時である1979年の405ガルからわずか30年余りで856ガルへと2.1倍以上にもなった。そうすると,今後の評価手法のさらなる発展によってより大きな地震動が生ずることが予測されるようになり,基準地震動がさらに大きくなる可能性は十分にある。

被告関西電力の主張から明らかであるように,現在の基準地震動はあくまでも現在の知見を前提とするものであり,そこが限界である。わずか30年あまりの間に知見が飛躍的に発展したのであるから,例えば今後30年あまりでさらに飛躍的に発展する可能性は十分に存在する。その30年後の時点での到達点からすると,現在の基準地震動は低きに失し,より大きな地震動が生ずることが結論されることは十分に考えられるのである。

◆原告第16準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2)
目次

原告第16準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2)

2016年(平成28年)1月12日

原告第16準備書面[1 MB]

第1 はじめに
1 基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない
2 「標準的・平均的な姿」を外れる地震動が発生する可能性は十分にある

第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること
1 バラつきを考慮しなければならない理由
2 新耐震指針(平成18年指針)におけるバラつき・不確かさの考慮の要求
3 新規制基準における不確かさの考慮の定め
4 応答スペクトルに基づく地震動評価におけるバラつきの存在

第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について
1 応答スペクトルに基づく地震動評価とは
2 応答スペクトルに基づく手法の問題
3 小括

第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を用いることの問題性=万が一の危険が存在すること
1 原発の安全性について地震の「標準的・平均的な姿」を前提とすることは不適切である
2 島崎邦彦「活断層の長さから推定する地震モーメント」
3 毎日新聞「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」
4 山田雅行・先名重樹・藤原博行「強震動予測レシピに基づく予測結果のバラツキ評価の検討~逆断層と横ずれ断層の比較~」
5 長沢啓行「高浜3・4号と多い3・4号の基準地震動は過小評価されている」
6 赤松純平「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について

第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと
1 従前の地震動想定に対する国会事故調報告書の指摘
2 従前の地震動想定が著しい過小評価となった理由

第6 新規制基準においても変更のないこと
1 新規制基準においても地震動想定手法は従前のままであること
2 従前と同じ手法で地震動想定を続ければ,基準地震動を上回る地震動が原発を襲うこと
3 「過去最大(既往最大)」を超えることも十分にあり得ること
4 失敗した従前の手法のままでは,原発の安全性は到底確保されないこと

第7 結論
1 原発の基準地震動は平均でなされており,著しい過小評価である
2 耐震設計は一種のドグマにすぎない
3 これまで被告らは平均像によって策定することの問題を無視してきた
4 裁判所の役割が求められている

◆第8回口頭弁論 原告提出の書証

甲第203~223号証 (第14準備書面関連)
甲第224~226号証 (第15準備書面関連)

※このサイトでは 甲第203~223号証 書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。

証拠説明書 甲第203~223号証[96 KB] (第14準備書面関連)
2015年10月15日

  • 甲第203号証
    「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」(関西電力株式会社)
  • 甲第204号証
    原子力発電所の津波評価技術(土木学会)
  • 甲第205-1号証
    日本の地震活動(地震調査研究推進本部地震調査委員会)
  • 甲第205-2号証
    日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価
    (地震調査研究推進本部地震調査委員会)
  • 甲第206号証
    「『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応について」(電気事業連合会津波対応WG)
  • 甲第207号証
    「内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)」(原子力安全・保安院)
  • 甲第208号証
    聴取結果書(政府事故調事務局)
  • 甲第209号証
    聴取結果書(政府事故調事務局)
  • 甲第210号証
    気象庁のHP印刷文書(気象庁)
  • 甲第211号証
    大飯発電所津波評価について(関西電力株式会社)
  • 甲第212号証
    益田を襲った万寿3年の大津波(加藤芳郎)
  • 甲第213号証
    国土交通省「第2回 日本海における大規模地震に関する調査検討会」岡村行信氏配布資料(岡村行信)
  • 甲第214号証
    「山田断層帯の長期評価について」(地震調査研究推進本部)
  • 甲第215号証
    第8回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(原子力安全・保安院)
  • 甲第216号証
    第9回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(同上)
  • 甲第217号証
    第17回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(同上)
  • 甲第218号証
    「若狭湾沿岸における天正地震による津波堆積物調査について」(同上)
  • 甲第219号証
    若狭湾沿岸における天正地震による津波堆積物調査(現地調査の概要)(同上)
  • 甲第220号証
    原子力規制委員会HP印刷文書(原子力規制委員会)
  • 甲第221号証
    「福井県における津波シミュレーション結果について」(福井県危機対策・防災課)
  • 甲第222号証
    「津波最大浸水深図」(同上)
  • 甲第223号証
    「津波ハザードマップ」(おおい町)

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証拠説明書 甲第224~226号証[49 KB] (第15準備書面関連)

2015年10月15日

  • 甲第224号証[821 KB]
    大飯原子力発電所近傍の活断層の挙動に関する一考察(竹本修三(京都大学名誉教授))
  • 甲第225号証[4 MB]
    被告・関西電力の準備書面(3)への意見書(竹本修三(京都大学名誉教授))
  • 甲第226号証[583 KB]
    関電準備書面(3)への意見(竹本修三(京都大学名誉教授))

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