裁判資料」カテゴリーアーカイブ

◆原告第15準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(1)

2015年(平成27年)10月15日

原告第15準備書面[844 KB]

原告第15準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(1)

被告関電は、基準地震動を856ガルと設定し、本件発電所の「安全上重要な設備」は基準地震動に耐えられると主張する。地震に関する被告関電の主張に対する原告の反論(1)は以下のとおりである。追って、反論(2)を追加主張する予定である。

 被告関電の主張は、新規制基準に合致する旨の主張である。しかし、同基準は安全基準ではない。原子力規制委員会の委員長田中俊一は、「原子力規制委員会の審査は安全審査ではなくて、基準の適合性の審査であり、基準の適合性は見ているが、安全だということは言わない」「基準をクリアしてもなお残るリスクというのは、現段階でリスクの低減化には努めてきたが、一般論として技術であるから、人事で全部尽くしている、対策も尽くしているとは言い切れない。自然災害についても、重大事故対策についても、不確さが伴うので、基準に適合したからといって、ゼロリスクではない」と述べている(原告第5準備書面末尾)。従って、被告関電が同基準へ適合すると主張しても、本件発電所が安全であると論証したことにはならない。

 同基準の耐震設計審査指針は、基準地震動を、(1)敷地毎に震源を特定して策定する地震動と(2)震源を特定せず策定する地震動から策定するとしている。そして、

(1)敷地毎に震源を特定して策定する地震動は、検討用地震を選定して行なわれる。

被告関電は、検討用地震として、FO-B~FO-A~熊川断層による地震と、上林川断層による地震が選定している。被告関電はそれぞれの検討用地震による地震動を検討して基準地震動を策定したと言うが、以下のとおり根本的な問題がある(図1)。

図1若狭湾周辺の主な活断層の分布(関電側準備書面(3)51頁より引用)。【図省略】

ページトップ

 FO-B~FO-A断層と熊川断層について

(1) 連動すること

被告関電は、FO-B~FO-A断層と熊川断層が約15km離れていることや連動を示す地質構造が認められないことを理由に連動しないと主張していた(p53)。

しかし、「1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.3)の場合、震源領域の長さ50km超、深さ約5~18kmの断層面が一度に破壊することを示唆する長い活断層がこの位置に存在することは事前に認識されていなかった。それまでは神戸市側では短い断層が雁行する六甲断層系と淡路島側では野島断層などの短い断層が何本か存在することが知られていたに過ぎない。」また、「これまでにわが国で起こった内陸地殻内地震の最大のものとして、1891年10月28日の濃尾地震(M8.0)が知られているが、この地震の長さ約76kmに及ぶ地震断層は、温見断層北西部、根尾谷断層、梅原断層などの活断層が連動して起こったものである。」以上のとおり、独立した断層だと考えられていた断層間で、過去に連動が起きた事例が知られている。
被告関電は、規制委員会の指摘を受けた後、連動を前提に地震を評価したが、上記のとおり連動して活動したケースが存在するのに、規制委員会から指摘されるまで連動を前提に検討せず、かつ今なお連動を否定している。被告関電に対して、安全性に対する真摯な姿勢を有するのか、疑問を抱かざるを得ない。

(2) 地震動評価

FO-B~FO-A~熊川断層は、本件発電所の最も近くを通る断層であり、本件発電所との最短距離は3kmにすぎず、FO-B~FO-A~熊川断層による地震は、本件発電所に及ぼす影響が大きいことが予想される。従って、FO-B~FO-A~熊川断層による地震による地震動評価は、より慎重に、あらゆる可能性を十分吟味して行う必要がある。

ところが、被告関電の地震動評価は極めて不十分である。

被告関電は、これから起きる地震によって形成される断層について、断層の地表に現われる位置は、過去の地震によって地表に現われている位置と一致すると決めつけ、その場合だけしか検討していない(図2)。

図2 地震断層面の断層傾斜角(被告関電準備書面(3)168頁より引用)。【図省略】

しかし、地震は、地中深くの震源(破壊開始点)から岩石の破壊(ずれ)が始まり、破壊(ずれ)が断層面に広がり、その断層面が地表に及ぶ場合もあって、その場合には地表に断層が露出して地上でも断層を認めることができる。
しかも、その破壊(ずれ)は、FO-B~FO-A~熊川断層の場合、64km×15kmという巨大な断層面である(図3は断層面を地表面に乗せた図であり、断層面の巨大さがよくわかる)。

図3 FO-B~FO-A~熊川断層(関電側準備書面(3)75頁より引用)。【図省略】

これから起きる地震が、過去にFO-B~FO-A~熊川断層を形成した過去の地震と、震源も断層面も全く同じになるとは考え難いところである。震源が同一であるとしても、断層面の進み方の角度がわずかに異なるだけで、地表面では大きく異なる位置に断層が現われる(図4)。

図4 地表に現れる地震断層 【図省略】

そうだとすると、地表に現れる断層が本件敷地内を横切る場合さえ考えられるはずである。

被告関電は、「より安全側に立って」「敷地での地震動がより大きくなりうる条件を設定して」検討したというが、被告関電のこの説明は欺瞞に満ちていると言わなければならない。

ページトップ

 上林川断層について

上林川断層は、本件発電所の南西に、北東-南西に斜めに傾いて存在する断層であるが、北東端の延長線上に本件発電所がある。

被告関電は、南西端は、不明瞭であるとして、断層の存在を明確に否定できる福知山付近まで延長して評価する。しかし、北東端については、延長の検討すらしない。

しかし、知られていた断層の延長線上で地震が起きた例がある(福岡県西方沖地震は、知られていた警固断層の延長線上で起きている、図5)。

図5 福岡県西方沖地震(M7.0、2005年3月20日)、地震調査研究推進本部。
(http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/katsudanso/f108_kego.htm) 【図省略】

上林川断層について、北東方向におおい町笹谷付近まで追跡されることを指摘する研究がある(図6)。

図6 図1を加工 【図省略】

従って、被告関電は、上林川断層の北東端が東北方向に伸び、大飯原発に近づく可能性を踏まえて地震動を評価すべきところ、これを怠った被告関電の地震動評価は失当である(1乃至4項につき文献[1])。

[1] 竹本修三:大飯原子力発電所近傍の活断層の挙動に関する一考察,NPO法人あいんしゅたいん附置機関基礎科学研究所「紀要」,原著論文,pp1-4,2015.
(http://jein.jp/jifs/bulletin.html).

ページトップ

 内陸地殻内地震のマグニチュード

被告関電は、内陸地殻内地震は、最大のものでも1891年1月18日の濃尾地震のマグニチュード8であり、通常はマグニチュード7級どまりであり、若狭湾周辺の断層型地震もマグニチュード7どまりであると考えて原発の安全設備を考えている。
しかし、根拠とされているのは、わが国の気象台に地震計が配置され、地震波形の観測データが残されるようになった明治18(1885)年以降の高々130年の主な被害地震の分布図である。この間に海・陸のプレート境界に近い太平洋側ではM8超の海溝型地震がたびたび起こっている。しかし、関電側準備書面(3)でも指摘されているように、このような太平洋側の海溝型巨大地震は、若狭湾の原発群に直接大きな影響を及ぶすとは考えなくてもよいであろう。
一方、若狭湾の原発群にも大きな影響を及ぼす内陸地殻内断層地震の最大のものとしては、上記のとおり1891年の濃尾地震(M8.0)が知られているが、これは、高々130年の観測データから求められたものであり、それ以前の地震マグニチュードは、古文書に残されている震災記録から見積もられているが、記載漏れ等もあって、実際のマグニチュードが小さめに見積もられている可能性がある。1000年オーダーで考えれば、内陸地殻内地震のマグニチュードが8を超える可能性を否定することはできないはずなのである。

 既往最大

(1) 飛び石現象

原告の、1984年の長野県西部地震で報告されている飛び石現象では15000ガル以上の加速度が働いていたと考えられるとの主張(第2準備書面12頁)に対して、被告関電は、飛び石現象があったことを認めた上で、翠川ほか(1988)の論文を引用し、「このような現象は、地球の重力加速度の2倍(1960ガル)程度でも起こりうる」(関電側準備書面(3)136頁)と述べている。

この場合に、飛び石の最大の寸法は、33×28cm、高さ26cmで、重さ20~25kgと見積もられている。深さ16cmも土に埋まっていた大きく重たい石が、35cmも飛んだのである(図7)。

被告関電は、飛び石現象は「地震の揺れによって振動する際に相互に押し引きし合い、互いの振動に影響を与え合った」ことで生じたと主張するが、科学的に根拠のある合理的な説明とは到底言えない。

地表に浮いている石は、地球の重力加速度(980ガル)を超える地震加速度を受けると地上に跳び上がる。しかし、地中に埋まっている石が地上に跳び上がるためには、地球の重力加速度をはるかに超える地震加速度が働かなければならないはずである。

図7 1984年の長野県西部地震(M6.8)で見られた飛び石現象(黒磯・他、1985)。【図省略】

この現象は、M6.8の地震で、3km×1kmのごく狭い範囲に限られたピンポイント的な場所で見つかったことはあるとはいえ、埋まっていた20kgを超える石が飛びだして、30cm以上も飛んだということは紛れのない事実である。

関電は、この事実を説明するために、どれだけの大きさの地震加速度が働かなければならないかを実験的に解明する必要がある。それは、このような現象が大飯原発でも起こりうると考えれば、基盤にしっかりと固定された原子炉本体はともかく、敷地内の地表面に置かれた送受信施設や細部配管装置などが重大な被害を受けることになるからである。

福島第原発の過酷事故の際には、津波ではなく、地震の振動によって、送電線遮断機の2mを超える碍子部が落下したり、地震による液状化現象で送電線
(夜の森線1・2号線)の鉄塔が倒壊したりした。このような事故が、大飯原発では絶対に起こりえないという納得できる説明を求める。

被告関電が引用する論文においても、M6.8の長野県西部地震の震源近くで、少なくとも2000ガル程度の重力加速度が生じたとされている。そうだとすれば、大飯原発から至近距離で、FO-B~FO-A~熊川断層が連動した場合の長さ63.4km、マグニチュード7.8想定地震を考える際に、最大地震加速度を856ガルとしているのはおかしい。M6.8の地震の震源近傍で2000ガル程度の地震加速度を認めながら、7.8の地震で856ガル以上の地震加速度が生じないとしているのは矛盾している。

(2) 一関西で観測された4022ガル

原告の、2008年6月14日の岩手・宮城内陸地震の際、一関西で4022ガルが観測された旨の主張(原告第2準備書面12頁)に対して、被告関電は、地盤の増幅特性に差異があり本件発電所敷地に援用できないなどと主張している。

しかし、4022ガルの観測は、4000ガルまで測定できる計器で観測されているところ、4000ガルまで測定できる計器は、岩手・宮城内陸地震の数か月前に一関西に配置されたところであった。そして、4000ガルまで測定できる計器は、まだ20km間隔の三角網を目安に全国に1000点余りしか配置されていない。より大きなガルを観測できる計器が、より密に配置されてゆけば、一層大きな加速度が観測される可能性がある。現在の新規制基準は、発展途上にあり、まだまだ改善の余地があると考えるべきである。

ページトップ

 基準地震動856ガルの策定の欺瞞性

原子力安全委員会が定めた原子力発電所の耐震設計審査指針は、2006年に改訂され、従来「基準地震動S1」と「基準地震動S2」の2種類の基準地震動を策定することとなっていたものが「基準地震動Ss」に一本化され、基準地震動の策定にあたって震源として考慮する活断層の活動時期の範囲が拡張されるとともに、基準地震動の策定方法も高度化された。「基準地震動Ss」は、震源を特定した「検討用地震」を選定して策定される「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と国内外の観測記録をもとに策定される「震源を特定せず策定する地震動」とに基づいて策定されることとされた。

その後、2011年の福島第一原発事故を受けて、原子力安全委員会は原子力規制委員会に改組され、規制委員会は「新規制基準」を定めた。これに伴い、被告関電は、大飯原発の基準地震動をより保守的で厳しいものとなるように見直し、2013年7月の規制委員会への「大飯原発規制基準の適合審査」の申請に際しては、700ガルの「基準地震動」を提示した。

この時点で被告関電は、15kmの隔離を有しているFO-B~FO-A断層と熊川断層は連動しないと判断していた。しかしながら、その後の規制委員会の議論も踏まえて、FO-B~FO-A~熊川断層の3つの活断層が連動する可能性を認めたうえで大飯原発の「基準地震動」の値として、2013年12月に759ガルを提示した。
さらに関係者の間で検討を進めた結果、2014年5月には、この値を856ガルに見直した。

この値を求めるにあたって、被告関電は大飯原発敷地内で55ケースを詳しく検討したうえで、最終的にSs-1~Ss-19の基準地震動を求め、最大はSs-4ケースの856ガルと策定された。これは、規制委員会の定める「新規制基準」を十分満足しており、地震に対する安全性は確保されているという主張である。

2013年7月には、「基準地震動」として700ガルという有効数字が1桁の値が提示されていたが、2013年12月には759ガル、さらに2014年5月には856ガルと3桁の有効数字で「基準地震動」が示されるようになった。被告関電は、この間にいかに詳細な検討を行ったかということを示したかったものと推察されるが、基準地震動の策定過程を追跡すると、3桁の有効数字で表示されている856ガルという値そのものには、確たる根拠はないと判断される。

以下に被告関電が大飯原発の基準地震動として、856ガルの値を策定した過程を簡単に紹介した後、有効数字3桁の856ガルという値そのものに確たる根拠はないと判断した理由を述べる。

被告関電は、大飯原発の基準地震動を策定する過程で、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を検討した結果、「震源を特定せず策定する地震動」はその影響が小さいと判断し、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」のなかでは、FO-B~FO-A~熊川断層の連動による63.4kmの断層と上林川断層の39.5kmによる地震の2つを検討用地震の基本ケースとして選定し、「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」で評価した。その結果、上林川断層の地震の影響は小さいとして、FO-B~FO-A~熊川断層の連動を考えた想定地震について、断層モデルを用いた手法による全55ケースを評価したという。

この際、「応答スペクトルに基づく地震動評価」では、評価の手順としては、「応答スペクトルに基づく地震動評価」を最初に試みて、岩盤における合理的な設計用地震動評価手法である「耐専式」(62頁の脚注100)を用いて評価しようとした。しかし、「この想定地震(M7.8)は等価震源距離が11.0kmであり,耐専式における『極近距離』に比べて著しく短いため、その地震動評価に耐専式を用いるのは適当ではないと判断した」(66頁)と書かれている。要するに「耐専式」は発電所敷地のごく近傍を地震断層が走る場合には基準地震動(最大加速度)を評価するのには使えないということである。

そこで被告関電は、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を試みている。
この手法では、断層長さ、断層上端・下端深さ、断層面積(S)、地震モーメント(Mo)、短周期レベル(A)、アスペリティ面積(Sa)、平均応力降下量(Δ、σ)、破壊伝播速度(Vr)等の震源特性に関する様々なパラメータ(震源断層パラメータ)を細かく設定して、55ケースを評価した。基本ケースとして、断層の上端深さ3km及び下端深さを18km、左横ずれ断層傾斜角90°、すべり角0°(すべりが断層面に対して水平方向を向く場合)、破壊伝播速度0.72β(βは地震発生層のS波速度)とし、アスペリティを各断層の主に敷地に近い位置に配置した震源断層モデルを設定したということである。また、断層傾斜角は、基本的に鉛直(90°)方向と考えていたが、断層傾斜角を西向きに75°とすると発電所敷地との距離が近くなり、より大きな地震動になるので、この断層傾斜角のケースも検討したが、最終結果に影響を及ぼさなかったということである。

ここで、短周期レベル(A)とは、震源特性のうち、短周期領域における加速度震源スペクトルのレベルを表す値(単位:N・m/S2(Nはニュートン))で、地震観測記録(観測波)から地震波の伝播特性及び地盤の増幅特性(サイト特性)の影響を取り除くことにより求められるという。また、アスペリティとは、断層面のなかで通常は強く固着しているが、地震時に大きな地震波(強震動)を発生させる領域の意味である。

このように、細部にわたる地震断層パラメータの数値の与え方には、かなりの任意性がある。被告関電は、専門家に依頼して、これらのパラメータを合理的に決めたということである。しかし、現在の学問レベルの認識から考えて、実際に目で見て確認することのできないこれらのパラメータにどんな数値を採用するかについては、専門家の間でも意見の分かれるところである。被告関電が採用したパラメータの妥当性を狭い範囲の専門家以外の人が評価するのは極めて困難であると言える。

いずれにせよ、被告関電は、膨大な量の計算結果を示したうえで、得られた最大加速度は、103頁の図表47[基準地震動Ss-1~Ss-19]に示されている19例のなかで、Ss-4ケースの水平方向(EW成分)が856ガルであったという。図表47からSs-4ケースだけを取り出すと下記のようになる【表省略】。

上記の表を見ると、856ガルという最大の地震加速度(基準地震動)が得られたのは、短周期1.5倍ケースで、破壊開始点を3とした場合であるということであり、短周期の地震動レベルを1.5倍としたのは、新潟県中越地震の知見を踏まえたものだと説明されている(72頁)。
この短周期の地震動レベルが1.4倍とか1.6倍でもよいとすれば、856ガルの最大加速度の少なくとも3桁目は変わってくるであろう。このことから考えても、856ガルと3桁の表示をしている基準地震動の信頼性は揺らいでくる。
このほかの断層パラメータについても数値の与え方に任意性がある。例えば、上の表では、破壊開始点3を採用しているが、破壊開始点の選定と断層傾斜角及びすべり角の選定の仕方によって基準地震動の値は変わってくる。破壊開始点3よりも大飯原発の敷地に近い破壊開始点4か5を選定し、断層傾斜角及びすべり角を変化させて計算を行えば、856ガルを超える基準地震動が得られる可能性がある。さらに、FO-B~FO-A~熊川断層の連動を考えた想定地震を図3に示すような3つの領域に分け、それぞれの領域をさらに細かい微小領域のメッシュに分けているが、どの部分がアスペリティ面積に入るかは、任意性がある。被告関電が仮定したアスペリティ面積が唯一解ではない。
いずれにせよ、断層パラメータの全ての数値を3桁以上の精度で確定するのは無理である。極言すれば、断層パラメータの数値の与え方によって、最大加速度はどんな値でも作りえる。
以上のことから、基準地震動856ガルの策定には多くの疑問があり、これを提示した被告関電の欺瞞性を断罪するものである。

ページトップ

 大地震発生の可能性について

そして、国土地理院が1883~1994年の過去111年間の測量結果のデータを用いて明らかにしたところによれば、原告第2準備書面で述べたとおり、多くの活断層が見出されている近畿及びその周辺地域においては、ほぼ東西方向に年間1×10-7程度の割合で縮む方向のひずみ変化を示している。地殻内に約10-4のひずみが蓄積すると、地殻はそのひずみに耐えられずに破壊し、地殻内断層型地震が起こることになる。年間1×10-7の割合でひずみが蓄積すると、1000年で10-4に達するから、地域を限って考えれば、同じ場所で早ければ1000年に1度、地殻内断層型地震が繰り返することになる。図8に福知山-彦根間の10年間の基線長変化を示してある。この図は、近畿地方北部の平均的な地殻ひずみの進行状態を表すと考えてよい。

図8 福知山-彦根感の10年間の基線長変化(国土地理院のGPSデータによる)【図省略】

図8を見ると、2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震(M9.0)が起こるまでは、福知山-彦根間の基線長変化は、年間約1cm弱の割合で一様に縮んでいた。福知山-彦根間は、ほぼ東西に並んでいて、約100km離れている。
この2点(福知山と彦根)の間の距離が年間1cm縮むと、この周囲で10-7(1cm/100㎞)/年の割合でひずみが蓄積することになる。ところが、図8からわかるように、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の際に、福知山彦根間の基線長間の距離は、2cm近く延びた。この地震の後に近畿地方のひずみ変化のトレンドは小さくなったが、1年後くらいから再び縮みのトレンドが優勢になった。しかし、まだ地震前の10-7/年に近い縮みのトレンドには戻っておらず、地震前のトレンドに戻るまでにはあと2~3年はかかりそうである。

こうしてひずみが蓄積し、ひずみの蓄積が10.4に至れば地震が発生する。しかし、若狭湾岸地域で起きる次の地震が何年何月かは予知できないのである。

以上

ページトップ

◆原告第14準備書面
第8 結論

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第8 結論

以上、大飯原発第3、4号機における津波の問題を論じてきた。

まず第1に被告関西電力は、必要な事項(活断層、古津波)について十分な検討をしていない。このまま再稼働を許すことは、貞観津波のエビデンスを無視して津波対策を行わないまま福島第一原発事故を招いた東電と同様の愚策である。

第2に、「津波評価技術」に代表される現代の津波予測はせいぜい「倍半分」程度の精度しかない。ここで、安全裕度(補正係数)1.5とすれば、押し波により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室が浸水することになる。
引き波に至っては、すでに海水ポンプの取水可能域を下回る結果が出ている。被告関西電力は、被告関電準備書面(2)29頁にて、「貯水堰」の設置にて引波対策を行うとするが、「貯水堰」からの取水により冷却機能を保持できる時間は僅かに6分間であり(甲211.205)、十分な安全裕度がない。

第3に、福井県は、独自の試算により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室敷地付近の浸水を予測している。ここで、規制される関西電力が提示する予測結果よりも、福井県による予測結果のほうが中立的であることは言うまでもない。現に、関西電力は、不可解なことに、福井県が最も大きい影響を与えると判断した「若狭海丘列付近断層」を評価していなかった。

以上より、大飯原発は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険性を有する。

以上

◆原告第14準備書面
第7 福井県作成の「津波最大浸水深図」

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第7 福井県作成の「津波最大浸水深図」

平成24年9月3日、福井県危機対策・防災課は「これまでに得られている津波に関する調査結果をもとに、本県に影響を与える津波を考慮し、津波ハザードマップの作成や防災訓練の実施等、市町が津波対策を実施する際に必要な基礎的資料を提供すること」(甲221:「福井県における津波シミュレーション結果について」)を目的として、浸水深を予測した「津波最大浸水深図」(甲222、「津波ハザードマップ」甲223参照)を作成した。

これは、(1)野坂、B及び大陸棚外縁断層を波源として2.85m、(2)越前堆列付近断層を波源として2.29m、(3)若狭海丘列付近断層を波源として5.01m、(4)佐渡島北方沖断層を波源として4.67mとする津波高を踏まえ、「各市町に最も影響のある波源を2つ選定し」「2つの波源の浸水区域のメッシュを重ね合わせた最大浸水深図を作成」したものである。すなわち、福井県の浸水深予測図は、2つの地震による津波が同時に生じた場合を想定する非常に保守的なものと評価できる。

そして、この浸水深予測図によれば、大飯原子力発電所第3、4号機海水ポンプ室周辺は、部分的に1.2m程度浸水すると報告されている(下図参照)。

【甲222:下図は上図を拡大し、3,4号炉海水ポンプ室付近の地図と重ねたもの】【図省略】
この図は、国土地理院の承認を得て、同院発行の1/25,000地形図を使用し、調整したものです。

◆原告第14準備書面
第6 被告関電の津波高試算方法の問題(2)

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第6 被告関電の津波高試算方法の問題(2)

 1 安全裕度(補正係数)を考慮した津波高

被告関電が寄って立つ「津波評価技術」が安全裕度(補正係数)を考慮していないという問題点は前述した。保守的に津波高を想定した場合、「倍半分」すなわち2倍の水位上昇(下降)があるものとして対策を行わなくてはいけないし、それを行わなかった東京電力は福島第一原発事故を招来したのである。

以下、被告関電の試算を「1.2」乃至「2.0」倍した場合、どのような津波高となるか試算する。
ここで、被告関電は、気象庁舞鶴検潮所のデータを元に、水位上昇側ではT.P+0.49m、水位下降側ではT.P.0.01mを使用しているため、水位上昇側において、[上昇時の津波水位T.P.+Am]と[T.P+0.49m]の差を[1.2]~[2.0]倍したうえ、T.P+0.49mに加える。水位下降側では[T.P-0.01m]と[下降時の津波水位T.P.+Bm]の差を[1.2]~[2.0]倍し、T.P-0.01mから引くものとする。

[甲211-128、129]より、関電試算における最大の水位上昇値及び下降値は「若狭湾海丘列付近断層」の地震と隠岐トラフ海底地すべりが重畳した場合の[T.P.+6.2]と[T.P.-4.6]である。

 2 水位上昇側

[T.P.+6.2]-[T.P.+0.49m]=5.71

この1.2倍は、6.852m、1.5倍は、8.565m、2.0倍は、11.42mである。
これと[T.P+0.49m]を足しあわせると、津波上昇側でT.P.+7.342m(「1.2」倍値、T.P.+9.055m(「1.5」倍値)、T.P.+11.91m(「2.0」倍値)となる。

 3 水位下降側

[T.P-0.01m]-[T.P.-4.6]=+4.59m

これの1.2倍は、5.508m、1.5倍は、6.885m、2.0倍は、9.18mである。
これを[T.P-0.01m]から引くと、津波下降側で、T.P.-5.518m(1.2倍値)、T.P.-6.895m(1.5倍値)、T.P.-9.19m(2倍値)となる。

危険水位 1.0倍 1.2倍 1.5倍 2.0倍
上昇側 T.P.+8.0 T.P.+6.2 T.P.+7.34 T.P.+9.05 T.P.+11.9
下降側 T.P.-2.62 T.P.-4.6 T.P.-5.51 T.P.-6.89 T.P.-9.19

 4 結論

関西電力の試算を前提としても、水位上昇時で1.5倍すれば海水ポンプ室前面のT.P.+8mを上回る津波高となる。水位下降時では1.2倍の積をとらなくとも取水口の位置T.P.-2.62mを下回る。

ここで、被告関西電力は、地震に関し、クリフエッジとして基準地震動Ssの1.8倍を設定しており、基準地震動を超過した場合であっても安全性を確保できるよう余裕を持たせている。1.8倍では不十分であるという点は措くとして、被告関西電力の立場によってもその程度の余裕は保持されなければならない。

しかるに津波に関して保持されている余裕は、地震の場合に被告関西電力が保持させているとする余裕に比べても非常に余裕が小さい。さらに深刻なことに、地震の場合、基準地震動を超える地震が発生したとしても、偶然の要素によって設備が破壊されないということがあり得るかもしれない(実際に被告関西電力は、そのような主張をしている)。しかし津波に関しては、例えばT.P.+8.0mを超える津波が到来した場合、海水ポンプ室が浸水するため直ちに冷却機能に支障が生じ致命的な事態が発生する。余裕を持たせる必要性は、地震よりも津波の方がより大きく、より重要になるのである。

以上より、大飯原子力発電所は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険がある。

◆原告第14準備書面
第5 被告関電の津波高試算方法の問題(1)

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第5 被告関電の津波高試算方法の問題(1)

 1 活断層、及び古地震(津波)を適切に評価していないこと

関電側準備書面(2)によれば、被告関電は、大飯発電所に影響を及ぼす日本海側の津波について、以下のような認識であると考えられる。

  1. 福島第一原発の事故は、海・陸のプレート境界で起こった超巨大地震に起因しており、この際に発生した巨大津波が被害を大きくした。しかし、若狭湾の原発群は、海・陸のプレート境界から遠く、海溝型地震による津波影響は、考慮しなくてもよい。
  2. 「理科年表」によれば、日本海側で10mを超える津波は、1741年8月29日の北海道から佐渡に至る地震で15m、1983年5月26日の日本海中部地震で10m超、1993年7月12日の北海道南西沖地震で10m超が知られている。しかし、これらの例はいずれも日本海東北部のユーラシアプレート及び北米プレートの境界に近いところで起こっており、プレートの境界から遠い日本海西南部では、このような津波は認められていない。
  3. 日本海東北部のプレート境界は、海・陸のプレート境界ではなく、陸・陸のプレート境界なので、一方のプレートの下に他方のプレートが潜り込むと言うことはない。そこで、太平洋側のように超巨大な海溝型地震は起きないと考えられる。
  4. 2014(平成26)年8月26日に行われた「日本海における大規模地震に関する調査検討会」第8回会合の公式見解によれば、若狭湾に近い福井県坂井市で7.7m、京都府伊根町で7.2mの最大津波が予測され、大飯発電所では2.8m津波の到来が予測される。

以上の認識に基づき、関電側は、新規制基準を踏まえた大飯発電所の津波対策として、安全の上にも安全性を考えて、本件発電所における主要な建屋の敷地高さT.P.+9.3mとしているほか、海水ポンプ室についてもT.P.+8mの津波まで耐えうる対策を講じているため、何らの危険はないとしている。

しかしながら、被告関電の主張には以下の問題点がある。

 2 阿部の式を用いることの問題

(1)被告関西電力の主張

被告関西電力は、敷地周辺の海底活断層について、阿部に示される簡易予測式を用いて発電所敷地に到達する推定津波高さを検討したとする(準備書面
(2)12頁)。

(2)阿部の式を用いることの著しい不合理性

阿部による津波高の予測は、津波マグニチュードMtの決定式と地震断層パラメータの相似則に基づいて、津波の伝搬距離Δ(km)付近での区間平均高(海岸全域を20km~40km程度の範囲に区切って、その一つの区間内でのすべての津波高を平均した値)を近似したものであるから、例えば震源からの距離が概ね同一である一定の海岸線のある区間において到来するであろう津波の平均的な高さを求めることが可能となる。

しかし、同予測は、(1)あくまでも予測であって実測値とは乖離がある上、(2)到来する津波の平均値を求めるものであって最大値を予測するものでもないし、より重要なことに、(3)津波の高さに大きな影響を与える海底地形や海岸地形、地震のメカニズムなどの重要な要素を捨象したものであるという問題がある。

(1)について、20世紀に発生したもののうち一定規模以上の津波を見ると、以下のように、阿部の式に基づいて予測された最大津波高(各区間の平均高を比較して最大の値を取ったもの)と、実測された津波高との間には乖離が見られる。
予測最大平均高が実測最大平均高を上回ったもの(実際に発生した津波の平均高の方が低かったもの)もあるが、逆に実測最大平均高が予測最大平均高を上回ったもの(予測された平均高よりも高い津波が発生したもの)もあり、1993年北海道南西沖地震においては、予測最大平均高が5.6メートルであったのに対し、実測最大平均高はそれを1メートル以上上回る7.7メートルであった。

予測最大平均項を1メートル以上上回る津波が発生したり、逆に2メートル近く下回る津波しか発生しなかったこともあるということは、阿部の式による平均高の予測では振れ幅が大きすぎ、実際に発生する津波規模の算定において根拠とはなり難いことを如実に示している。阿部の式による予測には根本的に信頼性の疑義があり、正確に規模を予測することはできないというべきである。

【甲205.1,2】【表省略】

(2)について、平均高は上記のとおり一定区間における津波高の平均値を取ったものであるから、当然、当該区間における最大の津波高を示すものではなく、実際にはそれよりも大きな津波が生じ得、現に繰り返し観測されてきた。
例えば、上記図表に示した津波では、実測最大高が予測最大平均高や実測最大平均高を大幅に上回っている。1968年に発生した日向灘地震における津波では実測最大平均高1.9メートルに対し、実際の最大高は3メートル超とである。1983年の日本海中部地震でも、秋田県において2.3メートルから最大で13.8メートルの津波が(丙4・15頁目〔右上「13」〕においても、秋田県内で10メートルを超え最大14メートル近くの津波の痕跡のあることが示されている。)観測されているが、区間内の154個の測定値をもとにした実測最大平均高は上記のように7.5メートルにすぎず、最大高を6メートル以上下回るものであった。しかも、予測最大平均高に至ってはそれよりもさらに低い7.1メートルにすぎない。もちろん1933年の三陸地震や1993年の北海道南西沖地震でも、予測最大平均高と実測最大高との乖離は著しく大きい。

津波の高さは地形条件などによって大きく変わり得るものであり、東日本大震災において発生した津波にも非常に大きなばらつきがある(下図。原告第2準備書面27頁に同じ)【図省略】ように、津波高に大きなばらつきが発生することは通常のことであるということからすると、平均高を予測するにすぎない阿部の式によっては、発生する津波がどの程度の規模のものであるかを適切に導くことはできないのであり、原子力発電所という一旦事故が発生すれば極めて甚大な被害を引き起こす施設における津波予測手法として重大な問題があるのである。

(3)について、(1)(2)のように、阿部の式が実際の測定値との間に大きな乖離があったり、一定区間における平均値を導くものにすぎないのは、津波の高さに大きな影響を与える海底地形や海岸地形、地震のメカニズムなどの要素を捨象しているからである。津波高はこれらの諸要素によって大きく変動し、さらには地盤沈降・隆起の有無、土砂崩れの有無、遡上の有無などによって全く違った値となるが、これらの要素をすべて適切に数値化し、信頼性あるパラメータとして入力することは極めて困難であるし、そもそもそれらの自然条件を全て適切に条件付けした計算式を策定することは凡そ不可能である。計算式は、必然的に諸要素を取捨選択し、あるいは仮定的条件を設定して策定せざるを得ないものであり、地震発生やその規模を予測することがおよそ不可能であることと同様に、発生する津波の規模を完璧に予測することもまた不可能である。

(3)被告関西電力が算出した地震による津波水位の不合理性

なお、被告関西電力は、日本海東縁部の断層についてモーメントマグニチュード7.85の波源モデルを設定している(関電準備書面(2)16頁)ところ、この点についても地震の平均像をもとにしており原子力発電所における地震予測方法として極めて不合理であるという問題があるが、この点については地震に関する事項であるので、別書面で詳論することとする。

(4)小括

以上のとおり、阿部の式はあくまでも平均的な津波の高さを求める式であるから、原子力発電所に到来する可能性のある津波高の予測に用いるには著しく不適切である。よって、このような式によって算出した地震による津波水位を前提に策定された基準津波そのものが不合理である。

ページトップ

 3 1026年の「万寿津波」(古津波)について

加藤芳郎論文(甲212)は、1026年の「万寿津波」の場合、島根県の益田周辺で地震の被害はほとんど記録に残されていないのにもかかわらず、20mを超える津波がこの地域を襲ったという文書記録が、正徹物語、石見八重葎、横田物語、安田村発展史などに残されていると指摘する。この指摘によれば、プレート境界から遠い日本海西南部において20mを超える津波が襲ったということになり日本海西南部では「超巨大な海溝型地震は起きない」(上記(3))とする被告関電の主張は根底から覆される。
このように、地震によらずに20m超の津波が発生するメカニズムはまだ、定説がないが、産業技術総合研究所の岡村行信教授[11]は、海底の堆積性斜面崩壊による津波の可能性すなわち海底地すべりによる津波発生の可能性を指摘しており、大地震が起こりにくい場所でも、大規模な斜面崩壊が起こり津波を発生させるメカニズムを提示している。(甲213:「日本海の津波波源」[12]岡村行信)。
同人は、このような海底の大規模斜面崩壊の例として、島根沖のほか、鳥取沖や若狭湾沖を示している(甲213-12「下図参照」)。同人が例として挙げる若狭湾沖は、被告関西電力準備書面(2)18ページの[図表7検討対象とした海底地すべり地形]に示されているエリアA、エリアB、エリアCを含む長さ200km程度の広大な大規模斜面崩壊を想定しているものと考えられる。

【甲213-12:「日本海の津波波源」】【図省略】

被告関電は、準備書面(2)の17~19ページで「海底地すべりよる津波」の影響を見積もる際に、3つのエリア(A~C)に分けて検討し、それぞれの海域で独自の海底地すべりが生じたとして、その影響は高々4.7mとしている。しかし、これらのエリアが同時に動いたとすると、[図表8]から見ても、大飯発電所では、10mを超える最大水位上昇が予想されることになる。このことから考えても、「万寿津波」[13]に関する文献の信頼性についての検証が重要である。

被告関電は、大飯原発の再稼働(申請)を停止し、1026年の「万寿の津波」の記述の信憑性、及び、上記3つのエリア(A~C)が同時に地すべりを起こした場合の試算について明確なエビデンスが得られるまで調査し、結果如何によっては津波対策を根本的に見直す必要がある。被告関電は、貞観津波の知見を得ながら原子炉の運転を続けることにより福島第一原発事故を招いた東京電力と同じ過ちを繰り返してはならない。

[11] 岡村行信:産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長産総研は日本の堆積物調査における中心的機関である。岡村氏は東日本東北大震災以前より貞観津波の存在を主張していた。

[12] 同資料は、平成25年2月13日、国土交通省「第2回日本海における大規模地震に関する調査検討会」にて岡村氏が配布したものである。
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/daikibojishinchousa/dai02kai/dai02kai_siryou2.pdf

[13] 「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」第5条(津波による損傷の防止)2は以下のとおり他の地域の津波の発生についても検討することを規定する四他の地域において発生した大規模な津波の沖合での水位変化が観測されている場合は、津波の発生機構、テクトニクス的背景の類似性及び観測された海域における地形の影響を考慮した上で、必要に応じ基準津波への影響について検討すること。
七津波の調査においては、必要な調査範囲を地震動評価における調査よりも十分に広く設定した上で、調査地域の地形・地質条件に応じ、既存文献の調査、変動地形学的調査、地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし、これらを適切に組み合わせた調査を行うこと。また、津波の発生要因に係る調査及び波源モデルの設定に必要な調査、敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査、津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査を行うこと。
として、「他の地域の津波」、「必要な調査範囲を地震動評価における調査よりも十分に広」い範囲を評価対象とする。

ページトップ

 4 海域活断層で起こる地震による津波について-山田断層の取り扱い

(1)被告関電は山田断層(活断層)を評価していない

被告関電は、準備書面(2)13ページ[図表4敷地周辺の海域活断層]において(18)郷村断層を取上げるが、この地震と共役断層[14]である山田断層を採用していない。

この点、被告関電は、郷村断層は海域まで延びている部分を含めて34kmの郷村断層帯として扱ったが、山田断層は海域まで達していないため採用しなかったと考えられる。しかし、山田断層は、その先端が宮津湾(海域)に達しているため、この断層の東南端まで破壊した地震が起きたときには、当然に津波が発生するものと考えられる。

[14] 共役断層:同じ応力によって生じた隣接する断層、いわゆる共軛関係にある断層。

(2)山田断層は、郷村断層よりも発生確率が高く大きな津波被害をもたらす

また、地震調査研究推進本部[15]の「山田断層帯の長期評価について」(甲214)は山田断層について「山田断層帯主部は、京都府宮津市北部から与謝郡野田川町(現・与謝野町)を経て、兵庫県出石郡但東町(現・豊岡市)に至る断層帯です。断層帯の長さは約33kmで、ほぼ北東-南西方向に延びており、右横ずれを主体として、北西側が相対的に隆起する成分を伴う断層です。」と報告する

したがって、大飯発電所からの相対的な位置を考えると、郷村断層帯が動いた場合よりも、大飯原発に距離的に近い山田断層の東北端が動いて北西側が相対的に隆起した場合の方が、高浜や大飯発電所への影響の方が大きいと考えられる。

さらに郷村断層と山田断層を含む山田断層帯は、1927(昭和2)年の北丹後地震で見つかった共役断層である。地震調査研究推進本部の山田断層帯の説明(甲214.1)によれば、郷村断層帯の最新活動時期は1927年の北丹後地震とされているのに対して、山田断層帯主部の最新活動時期は、約3千3百年前以前であったと推定されている。従って、この地域で次に活動する活断層としては、郷村断層よりも山田断層の方が先である可能性が高い。それにもかかわらず、被告関電が「敷地周辺の海域活断層で起こる地震による津波」に関して、郷村断層を検討し、他方、地震調査研究推進本部地震調査委員会による明確なエビデンスが示されている山田断層に対する評価を行わないことは考慮すべき事項を考慮していない瑕疵があるのであり、山田断層を検討調査しないまま稼働申請を行うことは許されない。

【甲214:山田断層帯の長期評価について】【図省略】

[15] 政府の行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし、一元的に推進するため、地震防災対策特別措置法に基づき総理府に設置(現・文部科学省)された政府の特別の機関。

 5 陸上地すべりによる津波に関して

準備書面(2)13ページの[図表4敷地周辺の海域活断層]のなかには、大飯発電所に最も近い活断層として、(9)FO-A~FO-B~熊川断層も含まれており、14ページの[図表5簡易予測式による推定津波高さ一欄]にはこれらの活断層が連動して動いた場合の大飯発電所の推定津波高さは4.17mと記載されている。

一方で、19~20ページの「陸上地すべりよる津波」についての記述のなかでは、大飯発電所に近いNo.17及びNo.18の地点で地すべりによる土砂が海面にすべり落ちる際の海面の挙動がどう伝わるかを計算して、津波水位を算出している。その結果、No.17では2.2m、No.18では0.8mの水位変化がありうるとされている(20ページ[図表10])。

しかし、上記の2つを独立に論じるのは誤りである。その理由は、FO-A~FO-B~熊川断層が連動して動くような場合には、地すべり地域のNo.17及びNo.18の地点も震源域に含まれると考えられる。そうなるとNo.17及びNo.18地点が同時に、さらにはもっと広い範囲が同時に地震動の揺れで斜面崩壊を起し、大量の土砂が海面にすべり落ちることになる。地すべり地域を保守的に評価するならば、FO-A~FO-B~熊川断層の動きによる津波に加えて、既に検討されているNo.17及びNo.18の局所的な地すべり地域だけでなく、それらを含む広範囲な陸域の斜面崩壊による水位変化も考慮しなければならない。また、FO-A~FO-B~熊川断層が連動して動くことを想定した場合、ほぼ90度ずれていて共役関係をなすFO-C断層などの短い断層帯も副次的に動く可能性も考えられる。

関西電力が、津波水位評価にあたり、このようなケースを排除したことは、考慮すべき事項を考慮していない評価方法の瑕疵であり、広範囲な陸域の斜面崩壊による水位変化を検討調査しないまま稼働申請を行うことは許されない。

ページトップ

 6 被告関電の津波堆積物調査の問題点

(1)被告関電の主張

被告関電は、日本原子力発電株式会社、及び独立行政法人日本原子力研究開発機構とともに若狭湾沿岸の三方五湖等の堆積物調査を実施した結果「約1万年前以降に本件発電所の安全性に影響を与えるような津波の痕跡は認められなかった」(被告準備書面(2)11頁)として、若狭湾における津波の危険性を否定する

しかし、そもそも津波堆積物調査により津波堆積物が発見される確率は小さく、津波堆積物が発見されなかったことから端的に「津波の不存在」を立証できるわけではない。

この点、審査ガイド「3.3.1(5)」節(丙27)も「津波堆積物の調査は、調査範囲や場所に限界もあり、調査を行っても津波堆積物が確認されない場合があること。また、津波堆積物調査から得られる津波堆積物の分布域及び分布高度は、実際の浸水域及び浸水高・遡上高より小さいこと」に留意することを注意的に規定している。

また、原子力安全・保安院における聴取会の岡村行信委員らは、被告関電の引用するプレスリリース(丙5号証)記載の各調査内容に関して、当該堆積物調査が質・量ともに極めて不十分であり、「天正地震の痕跡はない」等とする被告らの結論に対し強い批判を加えている。以下詳述する。

(2)被告関電の津波堆積物調査

被告関西電力提出のプレスリリース(丙5)によれば、被告関電は、(1)平成23年11月21日、(2)平成24年6月21日、及び、(3)同年12月18日に、保安院(又は原子力規制委員会)に対し「大規模な津波を示唆する痕跡はない」旨の報告を行ったとする。

(1)及び(2)は、原子力安全・保安院内に設置された「地震・津波に関する意見聴取会」[16]に対する報告であり、第8回(平成23年12月27日)、第9回(平成24年1月25日)、第17回(平成24年6月22日)の聴取会にて審議された。
被告関電は、これらの報告に何らの問題がないかのような主張をするが、議事録からは被告関電らの報告に問題があったため、委員らが数回に渡り追加の報告を求めていたことが読み取れる。

[16] 第1回平成23年9月30日.第23回平成24年9月7日聴取会の議事録及び配布資料はインターネット上で閲覧可能である。
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9483636/www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/800/26/800_26_index.html

(3)専門委員からの指摘

以下、議事録[17]より専門委員の指摘を抜粋する。

[17] 甲215:第8回議事録、甲216:第9回議事録甲217:第17回議事録

ア 第8回地震・津波に関する意見聴取会(平成23年12月27日)

第8回聴取会においては「若狭湾沿岸における天正地震による津波堆積物調査について」(甲218)と題する配布資料が提出された。これは原子力安全・保安院名義の資料であるが、関電ら電気事業者らの報告をその内容とする。当該資料は津波堆積物調査の結果を以下の通り結論付ける。

  • 三方五湖周辺で津波堆積物調査を実施。(全9箇所のうち、天正地震評価用は4箇所)
  • 天正地震の対象地層を含む表層1m以浅には津波堆積物の指標となり得る砂層は認められない。
  • 久々子湖(KG11-2)では天正地震の対象地層に微量な有孔虫、貝形虫及び海水性珪藻が確認されており、堆積環境が汽水~淡水域であったことも要因として考えられるが、規模の小さい津波や高潮・暴浪による海水が流入した可能性は否定できない。
  • 久々子湖(KG11-5)、菅湖及び中山湿地では天正地震の対象地層に有孔虫、貝形虫及び海水性珪藻は認められなかった。

しかし、岡村行信委員はこの資料に対して、津波堆積物ができる環境が整っていないと津波堆積物の不存在による津波の不存在を証明できないこと、及び、同様に「有孔虫、貝形虫及び海水性珪藻」等の化石の不存在が津波の不存在を簡単に証明できないことを指摘し、さらなる調査を要請した(甲215-21,22)。

「津波が来れば、必ず津波堆積物ができるとは限らないんですね。その津波が来ているところでも残っていないところというのはいっぱいあります」「久々子湖も津波が来れば、本当に津波堆積物ができるような条件というのはすべてそろっているんだということをまずは説明しないと、そこにないからといって、津波が来ていないという話にはならない」「天正だけではなくて、ここにもう少し長い期間を見て、津波堆積物がないということを言うのであれば、そういう津波堆積物が形成される条件というものが満たしているにもかかわらず、津波堆積物がないんだということを言う必要があるでしょうと、その説明がないと見つからないということだけでは、津波が来ていないということにはならないと思います。」
「コアで年代が示されているんですけれども、結構、上下が逆転していて、本当に信用できる年代なのかというのが、よく見ると疑わしいかなと思うんですね。」
「もう一つは、化石の話は、先ほど山田先生からも紹介されたんですけども、海生のもの、海から来たものはないということは、それは、見つからなかったということなんだけれども、津波が来なかったということになるかどうか、ちょっと入っただけであれば、検出できない可能性もありますし、津波は、大体一瞬ですね。堆積速度は、多分こういうところは遅いと思いますので、入っていたとしても、ごくわずかの層準で少し入っているくらいですから、検出限界みたいなものは当然あると思いますので、なかなかないというのは、そういうふうに言っていくと、非常に証明するのは難しいんですけれども、逆にないというのは、非常に慎重に言った方がいいと思います。」

ページトップ

イ 第9回地震・津波に関する意見聴取会(平成24年1月25日)

この聴取会においては、「若狭沿岸における天正地震による津波堆積物調査(現地調査の概要)」(甲219)と題する資料が配布された。
「若狭沿岸における天正地震による津波堆積物調査(現地調査の概要)」は、平成24年1月10日に同志社大学京田辺キャンパスで行われた現地調査の報告書である。この報告書においては出席委員の「指摘事項」として、電気事業者が「わざわざ海からの津波が侵入しにくい場所で」ボーリング調査を行っていること(調査場所が不適切かつ不十分であること)、津波堆積物調査が「現在当たり前の技術(エックス線検査、CTスキャン)で確認されていないこと(調査方法の不適切性)等が挙げられ、「天正地震はなかったと社会に対し説明するのは難しい」と記載されている。

また、「講評」として、「今回の調査では、津波堆積物を否定するには不十分」であり「大津波が無かったとするならば、補足的な調査を追加すべき。」とされた。
すなわち、この聴取会でも、電気事業者らの津波堆積物調査が不十分であり再度の補充調査が要請されている。

ウ 第17回地震・津波に関する意見聴取会(平成24年6月22日)

第17回聴取会においては、被告関電らの報告書である「若狭湾沿岸における天正地震による津波について(コメント回答)」、及び「平成23年東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及び津波の影響に関する安全性評価のうち天正地震に関する津波堆積物追加調査結果について」と題する資料が配布された。

「若狭湾沿岸における天正地震による津波について(コメント回答)」は、被告関電らが補充調査の結果の報告書であり「『古文書に記載されているような天正地震による大規模な津波を示唆するものは無いと考えられる』とする従来の評価と整合的である」と報告している。これに対しては、「大規模な津波」について具体的に津波水位の指摘がないため存否についての評価ができないこと、調査の対象となる層がそもそも天正地震の時代の層か否かが不明確であること、天正以前の長い期間の調査が必要である旨が指摘された。

また、岡村委員は、「天正の話に焦点が集まり過ぎていて、それを否定できればもう安全だというような雰囲気にもなっているかと思うですけれども、それは本質的ではないと思うのです。1つは、長い期間の津波堆積物、ほかの場所も含めて、広範囲、長い時間のものを調べるということと、それだけではなくて、やはりソースの方もちゃんと検討するべきだと思うのです。…」と述べて、天正地震の津波堆積物が発見できなかったとの一事をもって安全性であると評価することに強い危惧を表明している。

また、「平成23年東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及び津波の影響に関する安全性評価のうち天正地震に関する津波堆積物追加調査結果について」と題する資料に対して、岡村委員は、天正地震の津波堆積物の不存在を結論づけようとする保安院の説明に対し、「また、やはり天正の津波が、大きなものはないという結論を出したいというお話だったのですが、なかなか、そこのところを結論するのは、決着は難しいなという気はします。」(36頁)、「これでもうないのだとか、限られた地点で天正のものはなかったから、天正の津波は大きくはなかったという結論まで行っていいのかというところは、ちょっと行き過ぎかなという気がするということですね。どこまでやればいいのだというのはわからないけれども、これだけでこの特徴がわかったと言ってしまうのもどうかなという気はします。」(39頁)と述べ、「天正時代の津波が大きくなかった」との結論を否定する。

また、今泉委員[18]は「一点集中で、そこを精度よく上げるという話は津波堆積物では絶対あり得ないことで、やはり数をたくさん取って、それこそ群列ボーリングではないけれども、列を成して、だって、波はそういうふうに入ってくるわけですから、波が入ってくることを想定した上で堆積物の痕跡を探す。1点ぐらい探して見つからないから来なかったということの証明は難しいと思うのですね。事実は、1か所でもいいから、もし見つかった場合は、それまでの考えが全部ひっくり返ってしまうと思います。…1か所でも見つかった場合は、それまでの考えが全部飛んでしまう。そういうことを十分踏まえた上で、ちゃんと調査をやるべきだと思います。」と述べ、被告関電らによる調査が量的に不十分であることを指摘した。

[18] 今泉俊文東北大学理学研究科教授地震調査委員会長期評価部会活断層分科会主査

エ 「平成23年東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及び津波の影響に関する安全性評価のうち完新世に関する津波堆積物調査の結果について」

上記聴取会解散後の平成24年12月18日、被告関西電力は、原子力規制員会に対し、「ア」、「イ」、「ウ」の補充調査の報告書である「平成23年東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及び津波の影響に関する安全性評価のうち完新世に関する津波堆積物調査の結果について」(丙5参照)を提出した。原子力規制委員会は同日付でHP[19]にて同書を公表し「当委員会は、関西電力、日本原電及びJAEAより、報告された報告書について、その妥当性等を厳正に確認していきます。」と述べている(甲220)。

しかしながら、原子力規制委員会が同報告書を評価ないし審議した形跡は見当たらない。したがって、同報告書が聴取会委員らの指摘する問題点を克服出来たか否かについては明らかではない。仮に、岡村委員ら津波堆積物調査の専門家の厳正中立な評価を経ていないのであれば、この報告書に基づいて津波の不存在を主張することは認められない。

[19] http://www.nsr.go.jp/disclosure/law/law_document/h24fy/1218-3.html

(4)小括

被告関電の津波堆積物調査に対しては、地震・津波に関する意見聴取会において、委員からその質・量双方の問題が指摘され、天正地震による津波の不存在についてはエビデンスが不十分であるとの指摘がなされていた。また、被告関電が最終報告書と位置づける「平成23年東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及び津波の影響に関する安全性評価のうち完新世に関する津波堆積物調査の結果について」については原子力規制委員会において議論がなされた形跡がない。

したがって、被告関電による調査結果をもって、「約1万年前以降に本件発電所の安全性に影響をあたえるような津波の痕跡は認められなかった」(被告準備書面(2)11頁)ということはできない。

 7 小括

以上、被告関電は、津波高評価のために考慮すべき事項を考慮せず、また、その判断過程にも瑕疵がある。したがって、大飯原発が津波に対して十分に安全であるとの被告関電の主張は認められない。

ページトップ

◆原告第14準備書面
第4 被告関電の津波高試算

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第4 被告関電の津波高試算

 1 被告関電の津波高試算

被告東電は、「津波評価技術」を使用し若狭湾沿岸の海域活断層及び地すべり等に基づく津波高を下記の通り報告している。

 2 海域活断層

被告関西電力は、海域活断層として「大陸棚外縁~B~野坂断層」「FO-A~FO-B~熊川断層」を選択し、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+2.7、下降値T.P.-1.7と試算した。

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3-5-1大飯発電所津波評価について」33、34頁より抜粋】【図省略】

 3 陸上地すべりの評価

被告関西電力は、「陸上地すべり」の可能性のあるエリアとして下記のエリアを選択し、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+2.2、下降値T.P.-1.2と試算した。

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3.5.1大飯発電所津波評価について」74、89頁より抜粋】【図表省略】

 4 若狭海丘列付近断層(福井県モデル)

ここで、福井県(行政庁)は、「若狭海丘列付近活断層」[9]を影響力のある波源モデルとして選択した。そのため、被告関電は、「若狭海丘列付近活断層」を評価に繰り入れ、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+3.2、下降値T.P.-2.9と試算した。

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3.5.1大飯発電所津波評価について」97頁より抜粋】【表省略】

[9] 関電は、「若狭海丘列付近断層」93km(福井県の評価)を、最大38kmと小さく評価していた(甲203)。

 5 海底地すべりによる津波評価

被告関西電力は、「海底地すべり」の可能性のあるエリアとして下記のエリアを選択し、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+4.2、下降値T.P.-2.7と試算した。

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3.1.3大飯発電所津波評価について」40、68頁より抜粋】【図表省略】

 6 重畳適用(津波の組み合わせ)

被告関電は、地震と地すべりが同時に生じた場合を組み合わせて評価している。

組み合わせのパターンは、(1)若狭海丘列付近断層と隠岐トラフの海底地すべりの組み合わせと、(2)FO-A、FO-B、熊川断層との陸上地すべりの組み合わせである。

これらの組み合わせの結果、(1)若狭海丘列付近断層と隠岐トラフの海底地すべりの組み合わせが最も大きい影響力を有し、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+6.2、下降値T.P.-4.6と試算した。「若狭海丘列付近断層」は「隠岐トラフ」に隣接するため(下図参照)、位置的にこれらが連動する可能性は高くこの2つの組み合わせを考慮することは合理的である。

他方、被告関電は、3、4号炉の海水ポンプ室前面の津波水位を上昇値T.P.+6.2m、下降値T.P.-4.6mという数値を試算した後、「同時計算(一体計算)」の結果、最大水位上昇値をT.P.+5.9m、最大水位下降値をT.P.-3.4mとした。

しかし、「津波評価技術」には「一体計算」の試算方法について記載はない。また、「基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド」(丙27)は、「3.5.1基準津波の選定方針」にて、「(1)基準津波は、発生要因を考慮した波源モデルに基づき、津波の伝播の影響等を踏まえた津波を複数作成して検討した上で、安全側の評価となるよう、想定される津波の中で施設に最も大きな影響を与えるものとして策定されていることを確認する。」「(2)数値計算に当たっては、基準津波の断層モデルに係る不確定性を合理的な範囲で考慮したパラメータスタディを行い、これらの想定津波群による水位の中から敷地に最も影響を与える上昇水位及び下降水位を求め、これらの津波水位波形が選定されていることを確認する。」として保守的に基準津波を設定すべきことを述べている。すなわち、被告関電が行ったような、津波水位を低く見積もる数値操作を行うことは予定していないのであり、被告関電の「一体計算」は不合理である。

図表(1)若狭海丘列付近断層と隠岐トラフの海底地すべりの組み合わせ【図省略】

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3.5.1大飯発電所津波評価について」119、122頁より抜粋】【表省略】

図表(2)FO-A、FO-B、熊川断層と陸上地すべりの組み合わせ【表省略】

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3-5-1大飯発電所津波評価について」124、126頁より抜粋】【表省略】

 7 小括

以上より、被告関電の試算によれば、「若狭海丘列付近断層」(地震)と隠岐トラフ(エリアB)の海底地すべりの組み合わせ(重畳)が、3、4号炉の海水ポンプ室前面にて最も高い水位上昇値「T.P.+6.2」と下降値「T.P.-4.6」を示す結果となった[10]。

【甲211「平成27年3月13日第206回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料3-5-1大飯発電所津波評価について」128、129頁より抜粋】【表省略】

[10] 「一体計算」を行うことが不合理であることは上述のとおりである。

◆原告第14準備書面
第3 大飯原発の構造(具体的危険性を生じる津波高さ)

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第3 大飯原発の構造(具体的危険性を生じる津波高さ)

それでは、大飯原発(第3、第4号機)の構造上、具体的危険を生じる津波高は何メートルか。

この点、原子力発電所施設の冷却系の要である海水ポンプが停止すれば冷却系が維持できなくなるため、海水ポンプ施設の高さまで津波が到達する「万が一」の可能性があれば具体的危険性を肯定できる。また、津波の引波により海水ポンプ施設の取水が不可能な程度に津波水位が低下すれば冷却系が維持できなくなるため、これを下回る水位の低下の可能性があれば具体的危険性が肯定できる。

ここで「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」(甲203-38~40)によれば、

「また、重要な安全機能を有する屋外設備である3、4号機海水ポンプについては、3、4号機海水ポンプ室前面の基準津波による設計津波高さT.P.+2.54mに対して、周辺地盤ならびに前面壁がT.P.+5.0mであることから、地上部からは浸水しないが、津波に対する信頼性向上の観点から防護壁(高さT.P.+6.0m)を設置している。
「非常用海水冷却系については、基準津波による設計津波高さ(3、4号機海水ポンプ室前面T.P.-1.84m)に対して、海水ポンプの機能維持水位はT.P.-2.62mであるため、冷却に必要な海水が確保できる。」

との記載がある。

その後、3、4号機海水ポンプ室については、津波に対する裕度が小さいことが判明したため、T.P.+8.0mの防護壁を施設する予定とのことである(被告関電準備書面(2)29頁)。

したがって、押し波でT.P.+8.0を上回る津波、引き波でT.P.-2.62[8]を下回る津波が発生する可能性が「万が一」にも存在すれば具体的な危険性が認められる。

【甲203.添付1-2-1-1-7[大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)]】【図省略】

[8] 関電作成の報告書(甲203)によれば、第3,4号炉海水ポンプの取水可能レベルはT.P.-2.62mである。その他の関電作成資料においては、取水可能レベルをT.P.-3.1mと表示するものもあるが、本書面では「T.P.-2.62m」を前提として論ずる。

◆原告第14準備書面
第2 津波について

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第2 津波について

 1津波のメカニズム

(1)津波発生のメカニズム

津波を引き起こすのは、基本的には海底地形の変化[3]である。

地震により、海底が隆起すると、その上の海水がもち上げられて、水面も隆起する。隆起した海水は、直後に重力によって一気にくずれ、波となって四方へ伝わる。

これが津波発生のメカニズムである。

(2)津波の速さ

津波の伝わる速度は水深の平方根に比例する。したがって、底の深い沖合に比べ、沿岸部での津波のスピードはぐっと遅くなる。この現象は「津波はジェット機並の速さで陸地に近づき、新幹線並みの速度で海岸を襲う。」と表現されている。

(3)津波の高さ

一方、津波の高さは、水深が浅い場所ほど高くなる性質を有する。

すなわち、津波のスピードは浅瀬に向かうにつれて急激に落ちるため、後から来た波が前の波に追いつき、次から次へと重なった波が一度に押し寄せる結果、波高が高くなるのである。

そのため、津波が浅瀬に設置されている防波堤に達すると、大量の海水がせき止められるが、後ろから来た速い波が次々重なっていき、防波堤を越える高さに達するのである。そして、いったん防波堤を越えた海水は、一気に陸地になだれ込むことになる。

従って、もし仮に波高5mの津波を防波堤でせき止めようと思ったら、防波堤の高さは5mでは不十分であり、より高くしなければならないのである。

[3] 地すべり等によっても津波は発生する。

(4)津波に関する用語

本書面で使用する、津波の高さに関する用語を説明する。

  1. 津波波高:
    検潮所や沖合の波高計で計測された津波の高さ。気象庁発表の津波観測記録はこの値が用いられる。
  2. 浸水高:
    陸上での津波高さを表す。建物に残った水跡や付着したゴミなどで測定されることが多い。現地盤を基準とした値は浸水深と言われるのが一般的である。
  3. 遡上高:
    陸上で最も高い位置に到達した箇所の高さのこと。
  4. 痕跡高:
    津波の発生後、建物や樹木、斜面上などに残された変色部や漂着物までの高さ

[甲210:気象庁 HP]【図省略】

ページトップ

 2津波に対する規制

津波については、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第5条が規制しているが、その詳細は「規則の解釈」に委ねられている(丙6)。また、発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の基準津波策定に係る審査において、規則及び解釈の趣旨を反映させた「基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド」(丙27)が用いられる。

解釈のうち、特に重要な部分を以下に引用する。

[規則]
(津波による損傷の防止)
第5条 設計基準対象施設は、その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波(以下「基準津波」という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。

[規則の解釈]

第5条

2 上記1の「基準津波」の策定に当たっては、以下の方針によること。

五 基準津波による遡上津波は、敷地周辺における津波堆積物等の地質学的証拠及び歴史記録等から推定される津波高及び浸水域を上回っていること。また、行政機関により敷地又はその周辺の津波が評価されている場合には、波源設定の考え方及び解析条件等の相違点に着目して内容を精査した上で、安全側の評価を実施するとの観点から必要な科学的・技術的知見を基準津波の策定に反映すること。

七 津波の調査においては、必要な調査範囲を地震動評価における調査よりも十分に広く設定した上で、調査地域の地形・地質条件に応じ、既存文献の調査、変動地形学的調査、地質調査及び地球物理学的調査等の特性を活かし、これらを適切に組み合わせた調査を行うこと。また、津波の発生要因に係る調査及び波源モデルの設定に必要な調査、敷地周辺に襲来した可能性のある津波に係る調査、津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査を行うこと。

八 基準津波の策定に当たって行う調査及び評価は、最新の科学的・技術的知見を踏まえること。また、既往の資料等について、調査範囲の広さを踏まえた上で、それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い、参照すること。なお、既往の資料と異なる見解を採用した場合には、その根拠を明示すること。

3 第5条の「安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」
を満たすために、基準津波に対する設計基準対象施設の設計に当たっては、以下の方針によること。

四 水位変動に伴う取水性低下による重要な安全機能への影響を防止すること。そのため、非常用海水冷却系については、基準津波による水位の低下に対して海水ポンプが機能保持でき、かつ冷却に必要な海水が確保できる設計であること。また、基準津波による水位変動に伴う砂の移動・堆積及び漂流物に対して取水口及び取水路の通水性が確保でき、かつ取水口からの砂の混入に対して海水ポンプが機能保持できる設計であること。

ページトップ

 3 津波高の試算方法

(1)津波評価技術2002策定に至る経緯

津波高の具体的な計算方法として、実務上、土木学会策定の「津波評価技術」という津波高シミュレーションが利用されている。「津波評価技術」以前においては、平成9年3月策定の「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(農林水産省ほか3省庁)、及び、「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(以下、「手引き」という。農林水産省ほか6省庁)が存在する。同「手引き」の発表以前においては、原子力発電所において既往最大の歴史津波および活断層から想定される最も影響の大きい津波を対象に設計津波を想定していたが、「手引き」は、「現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し、既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として選定するものとする。」とされた。

以上の事情のもと、平成11年、原子力発電所の津波に対する設計の信頼性向上を目的として、土木学会原子力土木委員会の中に津波評価部会が立ち上がり、平成14年2月、同部会が、津波の波源や数値計算に関する知見、及び、技術進歩の成果をとりまとめ、原子力施設の設計津波の標準的な設定方法である「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。)を公表した(甲204:「原子力発電所の津波評価技術」)。

津波評価技術は、土木学会の規格ではあるが、現在、津波高試算方法として実務上利用されている。

(2)津波評価技術の津波試算の方法

「津波評価技術」は原子力発電所の設計津波水位[4]の標準的な設定手法を示したものである。

「津波評価技術」は、「現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し、既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として選定するものとする」とする「手引き」の設計思想を反映させるため、「既往津波」(過去に、日本沿岸に被害をもたらした津波)を参考にして、「想定津波」(将来発生することを否定できない地震に伴う津波)を設定する。そして、「想定津波」の不確定性(誤差)を、数値計算(パラメータスタディ)により反映させて、「評価地点に最も大きな影響を与える津波」(設計想定津波)を選定する。最後に、「設計想定津波」に、潮位条件を足しあわせ、数値計算により評価地点における「設計津波水位」を評価する。

【図省略】

[4]「津波評価技術」は、[設計津波水位]を「設計に使用する津波水位を指し、設計想定津波の計算結果に適切な潮位条件を足し合わせたもの」と定義する。

(3)具体的な評価方法

ア 既往津波の再現と再現性の確認(1)

文献調査等に基づき、評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定し、痕跡高の吟味を行う。沿岸における既往津波の痕跡高をよく説明できるように、当該津波の原因となる断層運動(地震)の断層パラメータを設定し、既往津波の断層モデルを設定する。

[甲204 1-20] 【図省略】

津波計算において、断層モデルは、以下の静的断層パラメータで記述される。

(i)基準点位置(N、E)、(ii)断層長さL、(iii)断層幅W、(iv)すべり量D、(v)断層面上縁深さd、(vi)走向θ、(vii)傾斜角δ、(viii)すべり角λ

L、W、Dは、地震モーメントM0と次式で関連付けられる。

M0=μLWD (「μ」は震源付近の媒質の剛性率)

イ 断層の設定方法(2)

大飯原発が立地する日本海南西部では、地震地対構造論上プレート境界面が形成されていないとされている。そこで日本海南西部においては、北海道西方沖.
新潟県西方沖(日本海東縁部)に発生する地震(i)、及び、既存の海域活断層の長さに応じた地震(ii)を元に、津波予測を行うものとしている。

(i)日本海東縁部に想定される地震のモーメントマグニチュード

日本海東縁部については明確なプレート境界面は形成されていないと考えられているが、北海道西方沖~新潟県西方沖にかけて、M7.5クラスの地震とこれに伴う津波が空間的にほぼ連続して発生していることを考慮し、海域活断層に想定される地震に伴う津波の評価とは別に地震地体構造の知見を踏まえた想定津波を評価する。

既往最大の津波の痕跡高を説明できる断層モデルに基づくモーメントマグニチュードをもとに、想定津波を起こす地震のモーメントマグニチュードとしてこれと同等以上の値を設定する(甲204.1.34、35「津波評価技術」)。

【甲2041.60津波評価技術資料編「黒く塗った活動域全体で、1993年北海道南西沖地震津波が最大であり、Mw7.8である。」と記載】 【図省略】

【甲204 1.61頁津波評価技術本編参考資料3基準断層モデルの設定方法日本海東縁部-】 【図省略】

(ii)海域活断層に想定される地震のモーメントマグニチュード

「津波評価技術」は西南日本周辺海域においては、海域活断層による津波が沿岸で最大規模と評価している。そこで、この地域については活断層調査に基づき断層パラメータを設定し、原則として、評価する海域活断層の長さに基づき適切なスケーリング則[5]を適用して最大モーメントマグニチュードを設定する(甲204.1.36乃至38「津波評価技術」)。

この海域については、他の海域と異なり、「既往津波の痕跡高を説明できる断層モデル」がないことから、「文献調査」「堆積物調査」等により、海域活断層の存在を推測する必要がある。

【甲204 1.62本編参考資料4基準断層モデルの設定方法-海域活断層-】 【図省略】

[5] 断層長L、幅W、すべり量Dの比率が地震の規模に拘わらずほぼ一定で相似、とする法則。量の概算を行う際に用いる。

ウ 設計想定津波の確定(3)

想定津波の波源(津波の発生源)の不確定性(誤差)を設計津波水位に反映させるため、基準断層モデルの諸条件(パラメータ)を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ)、その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。

【甲204 1.15「津波評価技術」図表を加工】 【図省略】

エ 設計津波水位の算定(4)

以上より得られた設計想定津波に、適切な潮位条件を足し合わせて、設計津波水位を求める。

ページトップ

 4 津波に対する安全裕度は「倍半分」である

(1)津波に対する安全裕度は「倍半分」である

それでは、「津波評価技術」は確立された津波シミュレーションといえるか。
ここで福島第一原発事故当時、東京電力は、土木学会が平成14年に策定した津波シミュレーションモデル「津波評価技術2002」にもとづき津波想定をO.P.+5.7mとして保安院に報告し、津波対策として非常用海水ポンプの高さをO.P.+6.1mに嵩上げした。しかし実際に到来した津波は、O.P.+11.5mを超える津波であったとされている。

事故後、政府事故調等により「津波評価技術」策定時に大した議論もなく工学的な安全裕度(補正係数)を「1.0」としたことが判明した。すなわち、津波予測精度が低い場合、予測を超える津波高の津波が発生する可能性があるため工学的に安全裕度をとるべきであるが「津波評価技術」はこれを考慮していていない。
そして安全裕度については、福島第一原発事故後に問題となったにも関わらず、修正されずに現在の津波予測がなされているのである。

ここで、津波の精度は現在でも「倍半分」であること。すなわち、工学的には試算の「2倍」の安全裕度を取る必要が有ることを述べる。

(2)「津波評価技術」の補正係数は「1.0」である

「津波評価技術」の補正係数は「1.0」とされている。これは何を意味するか。

ここで、想定を上回る津波の可能性を考慮(自然現象の不確定性を考慮)するためには、[想定津波水位]に一定の係数[補正係数]を掛けあわせて津波水位の評価を行う。補正係数が大きければ、設計津波水位に余裕がある(=より安全である)ということになる。他方、補正係数を「1.0」とすることは、数値補正を行わないことを意味する。この意味で、「津波評価技術」は安全裕度が緩和されたシミュレーションモデルである。

「津波評価技術」策定のための第6回津波評価部会では、「津波評価技術」の補正係数を「1.0」と設定することが妥当か否かについての議論がなされたが、首藤主査より、「現段階ではとりあえず1.0としておき、将来的に見直す余地を残しておきたい」との発言がなされ、結果的に補正係数を「1.0」と決定した。その後、津波評価部会は、「補正係数」を修正しないまま、福島第一原発事故に至った。

当時津波評価部会委員であった東北大学今村文彦教授は、政府事故調のヒアリングに対し、「安全率は危機管理上重要で1以上が必要との意識はあったが、一連の検討の最後の時点での課題だったので、深くは議論せずそれぞれ持ち帰ったということだと思う。」と回答している。(以上、甲92-379~381:政府事故調中間報告)

この意味で、「津波評価技術」は安全裕度が緩和されたシミュレーションモデルであり、「保守的」な設計想定津波が得られるように配慮されているとはいえない。

(3)4省庁報告書及び7省庁手引きにおける裕度の取り扱い

前述したように、平成5年北海道南西沖地震津波発生を契機に関係省庁により津波対策の再検討が行われ、一般の海岸施設の防災対策のために、平成9年3月に「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(農林水産省等4省庁作成)、及び、「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁作成、以下「7省庁手引き」という)が公表された。7省庁手引きは津波高シミュレーションの嚆矢である。

同報告書の調査委員は通産省顧問である首藤伸夫東北大教授及び阿部勝征東大教授が参加しており、同報告書の「精度は倍半分」(2倍の誤差があり得る)と発言していた。これは安全裕度として「2倍」までは考慮すべきという意味である。平成97年6月、通産省は上記顧問の発言を受けて、電気事業連合会に対し、数値解析の2倍の津波高さを評価した場合、その津波により原子力発電所がどうなるか、さらにその対策として何が考えられるかを提示するよう指示した(甲32.44:国会事故調参考資料)。

平成9年7月25日付電気事業連合会津波対応WG名義の「『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応について」(甲206)と題する資料には、「数値解析結果の2倍値」についての報告がなされている。

すなわち、7省庁手引きにおいては、2倍の裕度が妥当とされていた。

(4)溢水勉強会における保安院の指摘

平成18年1月、保安院、及び、原子力安全基盤機構は、内部溢水及び外部溢水に関する原子力施設の設計上の脆弱性の問題を検討する「溢水勉強会」を立ち上げた。平成18年6月29日付の溢水勉強会の配布資料(甲207:「内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)」、同資料には署名がないが、記載内容から保安院作成のものと考えられる)においては、

「1.外部溢水(想定外津波)について
これまで、代表プラント(1F.5及びHT.2)において、現地調査を実施し、敷地高さ+1mの場合の影響を確認した。
今後は
(1)土木学会手法による津波評価の保守性
土木学会手法による津波高さ評価がどの程度の保守性を有しているか確認する。

・評価手法、解析モデル、潮位・台風などの影響の重ねあわせ
・既往最大津波高さとの比較

(5)影響防止対策の検討
・電力は、想定外津波対策については津波PSAによる評価結果を待ちたいとのことであるが、津波PSA表か手法の確率には長期を要することから、当面、土木学会評価手法による津波高さの≪1.5≫倍程度(例えば、一律の設定ではなく、電力が地域特性を考慮して独自に設定する。)を想定し、必要な対策を検討し、順次措置を講じていくこととする(AM対策との位置づけ)。」

との記載がある。

以上より、保安院は「津波評価技術」について「潮位・台風などの影響の重ねあわせ」等を考慮する必要があり、これらの要素については「津波評価技術」が十分な保守性を有しているかについて検証の必要性を示している。さらに、これらの不確実性を考慮して裕度を1.5倍に設定し対策を講じることを指示している。

ページトップ

(5)政府事故調査委員によるヒアリング結果

政府事故調査委員会は、報告書作成のために収集した関係者に対するヒアリングを非公開としていたが、その後の世論により順次公開した。ヒアリング結果より、「津波評価技術」作成に関与した関係者も安全裕度(補正係数)については
「倍半分」との認識があったことを示している。

ア 東北大学大学院工学研究科今村文彦教授のヒアリング結果

東北大学大学院工学研究科今村文彦教授は津波評価技術策定時に土木学会津波評価部会の部会員であった。平成23年8月19日、同人は、政府事故調事務局のヒアリングに対し、補正係数については津波評価部会にて議論を行わなかったこと、及び、議論すべきだった補正係数の案として「1.5」、及び『従来の土木構造物並び』で「3.0」を指摘している(甲208-3、4:聴取結果書(政府事故調査報告書の原聴取内容で公開されたもの))。

同人の聴き取り結果からは、津波評価技術策定時において、安全裕度を従来の土木構造物と同じように考えれば「3.0」倍まで考慮すべきだったことがわかる。

イ 元原子力安全保安院統括安全審査官高島賢二氏のヒアリング結果

平成24年4月11日、政府事故調事務局は、津波評価技術策定当時(平成14年)原子力安全保安院統括安全審査官であった高島賢二氏に対しヒアリングを行った(甲209:聴取結果書(公開された政府事故調査報告書の原聴取内容))。

このヒアリングにおいて、同人は、「自分は、津波評価技術の議論がずっと以前から■(ママ)先生[6]にはお世話になっており、津波の計算は非常に難しく■(ママ)を含むものであり、極端な場合は■(ママ)が倍または半分あるものと認識していた。」と述べている。

高島賢二氏のヒアリングの結果からは、被告国の規制担当者自身が、津波高の予測精度は「倍半分」、すなわち2倍の誤差があることを当然の事実として認識していたということがわかる。

[6] ここで挙げられた氏名非開示の学者は、当時通産省顧問であり、4省庁報告、津波評価技術の策定にも関わった、首藤伸夫東北大教授、または阿部勝征東大名誉教授と考えられる。

(6)気象庁が津波の予測精度を「倍半分」と公表していること

気象庁はHPにおいて、一般市民向けの津波の解説ページ「津波について」を設けている(甲210:気象庁HP[7])。同解説ページは、Q&A形式を採用しており、「津波の高さ○mと予報される場合、どこの地点で言うのですか?例えば、海岸線ですか。内陸部100m地点等のことですか。」との問いに対し

「津波情報の中で発表している「予想される津波の高さ」は、海岸線での値であり、津波予報区における平均的な値です。場所によっては予想された高さよりも高い津波が押し寄せることがあり、その旨を津波情報に記載することでお伝えしています。また、現在の津波予測技術では、「予想される津波の高さ」の予想精度は、1/2~2倍程度です。

なお、「津波の高さ」とは、津波がない場合の潮位(平常潮位)から、津波によって海面が上昇したその高さの差を言います。

さらに、海岸から内陸へ津波がかけ上がる高さを「遡上高(そじょうこう)」と呼んでいますが、「遡上高」は気象庁から発表される「予想される津波の高さ」と同程度から、高い場合には4倍程度までになることが知られています。・・」

と回答している。

すなわち、被告国の機関である気象庁は、現在でも津波予測の精度は「倍半分」すなわち予測値の2倍程度を考慮すべきとの見解を示している。

[7] http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html

 5 小括

以上より、津波高さの予測の精度は、平成14年の津波評価技術策定時において2倍の誤差を含むものとして認識されていた。また、津波評価技術は、現在でも新規制基準において適用されており、以上の認識は現在でも有効である。

したがって、津波高を「保守的」に判断するには、「津波評価技術」によって得た津波高の「2.0」倍を考慮しなくてはならない。

ページトップ

◆原告第14準備書面
第1 はじめに

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第1 はじめに

 1 はじめに

大飯原子力発電所が津波に対して安全であるとする被告関西電力の主張は、新規制基準に基づき過去の津波の調査、地震やその他の要因による津波水位の算定等を行い、基準津波を策定し、当該基準津波に対して施設の安全性を確認したということを根拠とする。

そうすると、新規制基準自体に合理性がない場合はもちろん、過去の津波調査に誤りや不十分さがある場合、地震やその他の要因による津波水位の算定に誤りや不十分さがある場合、もしくは重畳津波の検討に誤りや不十分さがある場合、被告関西電力が策定した基準津波そのものが不合理であるということになるし、基準津波を超過する津波に対して安全裕度がない場合には安全上重要な設備が浸水する危険性があり、炉心損傷の具体的危険があると結論されることになる。

この点、原告らが訴状において主張し、福井地裁判決も同様の立場に立っているように、本件原子力発電所における「万が一」の危険性が認められる場合、同発電所の運転の差し止めが認められる(訴状33頁以下、福井地裁判決40頁)。
万が一の危険性があるかどうかの観点は、訴訟のあらゆる場面に妥当し、過去の地震や津波の調査に関していえば、存在が明確に否定できない地震・津波は、本件訴訟においては存在したという前提で判断されなければならず、またその規模・被害状況も考え得る最大のものが前提とならなければならない。このような考え方は、正に福井地裁判決と軌を一にするものといえよう。

一旦事故が生ずれば、広範囲の土地の放射能汚染を含む極めて甚大かつ半永久的な被害をもたらす原子力発電所の危険性を対象とする司法審査においては、あらゆる事象を安全側に捉え、万が一の危険の有無を保守的に判断しなければならない。

  2福島第一原発事故の教訓

本書面は、大飯原発の津波に対する安全裕度に関する書面である。

福島第一事故の主要な原因の一つは津波による浸水であった。事故当時、東京電力は、土木学会が平成14年に策定した津波シミュレーションモデル「津波評価技術 2002」にもとづき福島第一原発に対する津波想定を O.P[1].+5.7mと保安院に報告し、津波対策として非常用海水ポンプの高さを O.P.+6.1mに嵩上げした。
その後、平成20年ころ、被告東電は、貞観津波(869年)の波源モデル(後述)を使用すればO.P.+9.2mの津波[2]が生ずることを会社内部で試算していたが、古地震である貞観津波については「(情報が少なく)さらなる調査が必要」として必要な津波対策を先延ばしにした(甲3-91、92:国会事故調)。東日本震災時、福島第一原発に押し寄せた津波は、O.P.+約11.5mから+約15.5mであったとされる(甲92.19「政府事故調中間報告」)。福島第一原発第1乃至4号機の敷地高はO.P.+10mであることから主要エリアは浸水し、全交流電源喪失、炉心損傷に至った。福島第一原発事故は、古地震による津波被害の危険性が指摘されていたにもかかわらず電気事業者がその対策を懈怠している間に生じたものである。

福島第一原発事故は津波対策に関し2つの教訓を示している。ひとつ目は、津波高を試算するモデルの精度は低く、保守的に安全裕度を考慮すればその2倍の裕度を考慮すべきことである(いわゆる「倍半分」。詳細は後述)。そしてふたつ目は、「万が一」の事故(平成4年10月29日最判参照)を防ぐためには、古地震、古津波であってもその可能性を否定せず対策に反映させなくてはいけないということである。

福島第一原発事故後、新規制基準が成立し、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第5条が「津波による損傷」を規制した。被告関電は、平成25年4月18日、大飯原子力発電所第3、第4号機が新規制基準に適合している旨の報告書を提出し、(甲203「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」)同報告書「3.1.2.1自然現象に対する設計上の考慮」「3.1.2.1.1地震・津波(地震随伴事象を含む)」にて、津波高に対する報告を行い、安全性を確認したとする。その後、被告関電は平成26年12月19日、第176回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、及び、平成27年3月13日第206回同審査会合にて津波に関する追加の報告を行った。

本書面は、以上の被告関電の報告書及びそれをブラッシュアップした審査会合資料を引用しつつ、大飯原発第3、4号機が津波に対し安全裕度が低いこと、すなわち具体的危険性が存在することについて述べる。

[1] O.P.:標高を表す基準値であり小名浜港工事基準面をさす。大飯原子力発電所では、T.P.:Tokyo Peil:東京湾平均海面を使用する。

[2]パラメータスタディ(後述)を行えばこれより2、3割津波高が増加する可能性があると指摘されている。

 3 本書面の骨子

【図省略】

◆原告第14準備書面
-津波の危険性について
目次

原告第14準備書面
-津波の危険性について

原告第14準備書面[16 MB]

2015年(平成27年)10月15日

目次

第1 はじめに
1 はじめに
2 福島第一原発事故の教訓
3 本書面の骨子

第2 津波について
1 津波のメカニズム
2 津波に対する規制
3 津波高の試算方法
4 津波に対する安全裕度は「倍半分」である
5 小括

第3 大飯原発の構造(具体的危険性を生じる津波高さ)

第4 被告関電の津波高試算
1 被告関電の津波高試算
2 海域活断層
3 陸上地すべりの評価
4 若狭海丘列付近断層(福井県モデル)
5 海底地すべりによる津波評価
6 重畳適用(津波の組み合わせ)

第5 被告関電の津波高試算方法の問題(1)
1 活断層、及び古地震(津波)を適切に評価していないこと
2 阿部の式を用いることの問題
3 1026年の「万寿津波」(古津波)について
4 海域活断層で起こる地震による津波について-山田断層の取り扱い
5 陸上地すべりによる津波に関して
6 被告関電の津波堆積物調査の問題点
7 小括

第6 被告関電の津波高試算方法の問題(2)
1 安全裕度(補正係数)を考慮した津波高
2 水位上昇側
3 水位下降側
4 結論

第7 福井県作成の「津波最大浸水深図」

第8 結論