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◆原告第16準備書面
第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと

 1 従前の地震動想定に対する国会事故調報告書の指摘

  (1)国会事故調報告書の指摘

国会事故調報告書は,原子力発電所における従前の地震動想定について,次のとおり指摘している(「2.1.6検討」の7)a〔報告書193頁〕)。

「わが国においては,観測された最大地震加速度が設計地震加速度を超過する事例が,今般の東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発と女川原発における2ケースも含めると,平成17(2005)年以降に確認されただけでも5ケースに及んでいる。このような超過頻度は異常であり,例えば,超過頻度を1万年に1回未満として設定している欧州主要国と比べても,著しく非保守的である実態を示唆している。」

  (2)従前の地震動想定は10年間で5ケースも誤ったこと

上記(1)の指摘は,要するに,原子力発電所における従前の地震動想定は僅か10年間の間だけで5ケースも誤った,ということである。

ここで,平成17年(2005年)以降に確認された5ケースとは,以下の5つを指す。

 ア 平成17年(2005年)8月16日宮城県沖地震における女川原発のケース

平成17年(2005年)8月16日に発生した宮城県沖地震は,北緯38度9.0分,東経142度16.7分の宮城県沖を震源とするM7.2の地震である。

この地震の際,東北電力女川原発で観測された地震動は,南北方向では基礎盤上で316ガルを記録した(甲235[4 MB]「今回の地震による女川原子力発電所第1号機の建屋の耐震安全性評価結果について」)。

当時の女川原発の設計用最大地震動は,S1(設計用最強地震)が250ガル,S2(設計用限界地震)が375ガルであった。しかも,この地震の規模は,当時想定されていた地震(M7.5)の3分の1の規模に過ぎなかった。

国内の原発で,基準地震動(設計用最大地震動)を上回る地震動が確認されたのは,このケースが初めてであった。このようなこととなった要因とされているのは,「大地震においても顕著に宮城県沖近海の地域特性が現れる」からだとされている。要するに,設計用最大地震動の設定を平均像で行っていたところ,そのバラつきを適切に考慮していなかったためにそれから外れてしまったというのである。

なお,ここでいう「地域特性」の一つとして,次の点が挙げられている。

(「女川原子力発電所における宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価に係る報告について」東北電力)【図省略】

もっとも,上図からすれば平均像からの乖離は幸いにもそれほど大きいものではなかった。実際にはもっと大幅に乖離した地震動が発生しても何らおかしくはなかったのである。

 イ 平成19年(2007年)3月25日能登半島沖地震

平成19年(2007年)3月25日に発生した能登半島沖地震は,能登半島沖(北緯37度13.2分,東経136度41.1分)で発生したマグニチュード(Mj)6.9,震源深さ11キロメートルの地震である。

この地震の際,北陸電力志賀原発1号機及び2号機において,基準地震動(応答)を超過した(甲236[6 MB]「能登半島地震を踏まえた志賀原子力発電所の耐震安全性確認について」)

志賀原発の設計用地震動の最大加速度は,1・2号炉とも,S1(設計用最強地震)が375ガル,S2(設計用限界地震)が490ガルであった。

この地震では,下図【図省略】のように,地震モーメント(Mo=「剛性率〔震源断層面のすべり強度〕×平均すべり量×震源断層面の面積」。単位はNm〔ニュートン・メートル〕)が平均的地震より大きく,これが基準地震動を超えた要因となっている。ただし,平均的地震より大きいといっても,同じ程度の断層面積で発生した地震における既往最大までは至っていない。やはり,より大きな地震動が発生していても何らおかしくはなかったのである。

(志賀原子力発電所:「新耐震指針に照らした耐震安全性評価
(敷地周辺海域の地質・地質構造)」平成21年1月15日北陸電力株式会社)【図省略】

 ウ 平成19年(2007年)7月16日新潟県中越沖地震

平成19年(2007年)7月16日に発生した新潟県中越沖地震は,新潟県中越沖で発生したマグニチュード6.8の地震である。

この地震の際,東京電力柏崎・刈羽原発で観測された地震動は,最大1699ガルであった(甲237[3 MB]「柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性向上の取り組み状況」)。

柏崎・刈羽原発の設計用地震動の最大加速度は,S1(設計用最強地震)が300ガル,S2(設計用限界地震)が450ガルであった。中越沖地震では,この約4倍(1号機解放基盤面で1699ガル・S2の約4倍)もの地震動が観測された。中越沖地震はM6.8と地震規模はそれほど大きくなく,震源の深さが17kmとそれほど浅い地震でもないのに,旧指針の限界地震の想定を約4倍も超える地震動が発生したのである。

そして,これによって,柏崎・刈羽原発に,次のような本格的な被害が発生した。

  1. 柏崎・刈羽原発5号機においては,燃料集合体の一つが燃料支持金具から外れていた。
  2. 同7号機の点検作業中に,制御棒205本のうちの1本が引き抜けなくなる異常が見つかった。東京電力は,「地震の影響が何らかの形で発生したと思う」と説明している。
  3. 同6号機でも,制御棒2本が一時引き抜けなくなった。引き抜けなかった制御棒については,詳細な点検が行われたが,原因は明らかになっていない。
  4. 同5号機では,炉内の水を循環させるために原子炉圧力容器内の壁に沿って20本設置されているジェットポンプの振動を抑えるためのくさび形金具が,水平方向に4㎝ずれているのが見つかった。
  5. これらを含め,この地震の結果,柏崎・刈羽原発は,約3000箇所で故障が生じた。

柏崎・刈羽原発での当時の基準地震動はS2(設計用限界地震)であったが,新耐震指針における基準地震動Ssすら超える地震動が観測されてしまったのである。

中越沖地震がSs(新耐震指針における基準地震動)を大きく上回る地震動を観測したことを受けて,東京電力はその要因を分析し,アスペリティ(大地震発生時に震源断層面内において特に強い地震波を発生した領域。地震発生直前まで断層面が残りの部分より強く固着していたと考えられることから,もともと「突起」という意味の「アスペリティ」と呼ばれる。)の平均応力降下量(断層がずれた時のエネルギーを示す。これは短周期地震動レベルに直結する。)が平均像の1.5倍だったことと,地盤による増幅が4倍あったことが原因だとされた。そこで,原子力安全委員会,原子力安全・保安院は,各原子力事業者に対して,短周期地震動レベルを1.5倍とした場合に機器・配管の健全性が保たれるか確認することを求めた。

しかしながら,アスペリティの平均応力降下量が平均像の1.5倍程度以上となる地震は無数に観測されている(正規分布によって算出した場合も,やはり平均像の1.5倍を超えるような地震は全体の1割程度存在するとされる。)。したがって,この対応は,単なる弥縫策でしかなかった。

ところが,原子力安全委員会も,原子力安全・保安院も,各原子力事業者も,想定を失敗した根本的な原因について改めることは一切しなかったのである。

 エ 平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震における福島第一原発のケース

平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震は,マグニチュード9の巨大地震である。この地震の際に東京電力福島第一原発で観測された地震動は,基準地震動を超えた(甲92・国会事故調報告書「2.2.1東北地方太平洋沖地震による福島第一原発の地震動」)。

そして,この地震動によって原発の配管が破断した可能性も指摘されている(甲92・国会事故調報告書「2.2.2地震動に起因する重要機器の破損の可能性」)。

 オ 平成23年(2011年)の東北地方太平洋沖地震における女川原発のケース

また,平成23年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震の際,東北電力女川原発で観測された地震動も,基準地震動を超えた(「平成23年東北地方太平洋沖地震における女川原子力発電所及び東海第二発電所の地震観測記録及び津波波高記録について」)。

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 2 従前の地震動想定が著しい過小評価となった理由

このように,従前の原子力発電所における地震動想定は,著しい過小評価であった。原発事業者と規制機関たる被告国が地震動想定に失敗した最大の原因は,その地震動想定手法が,過去に発生した地震・地震動の平均像で想定を行っていたことにある。

そして,原子力発電所における地震動想定手法が,過去に発生した地震・地震動の平均像で行われていたことについては,この分野の第1人者であり,原発の耐震設計を主導してきた入倉孝次郎氏自身が認めている。すなわち,平成26年3月29日付愛媛新聞(甲238[656 KB])には,入倉孝次郎氏の次の発言が掲載されている。

「基準地震動は計算で出た一番大きい揺れの値のように思われることがあるが,そうではない。(四電が原子力規制委員会に提出した)資料を見る限り,570ガルじゃないといけないという根拠はなく,もうちょっと大きくてもいい。・・・(応力降下量は)評価に最も影響を与える値で,(四電が不確かさを考慮して)1.5倍にしているが,これに明確な根拠はない。570ガルはあくまで目安値。私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが,これは地震の平均像を求めるもの。平均からずれた地震はいくらでもあり,観測そのものが間違っていることもある。基準地震動はできるだけ余裕を持って決めた方が安心だが,それは経営判断だ。」

このように入倉孝次郎氏は,基準地震動は目安に過ぎない「平均像」だと述べたのである。さらに,これを中越沖地震の知見から1.5倍にすることについても,明確な根拠があるわけではないと言う。そして,その平均像を超える地震はいくらでもある,とまで言う。過去に発生した地震・地震動の知見の平均像で想定を行っているのであるから,現に発生する地震・地震動がしばしば基準地震動を超えることは,いわば当然のことであった。
では,そのような基準地震動を金科玉条のように,重要なものとしてこれまで行ってきた耐震設計は,何だったのか。実にいい加減なものだということを,主導してきた入倉孝次郎名誉教授自身が認めたに等しいといわなければならない。
すでに述べたとおり,原発の耐震設計は,まず基準地震動(Ss)を定めることから始まる。この基準地震動Ssは

「施設の耐震設計において基準とする地震動で,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学および地震工学的見地から,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」

とされ,要するに,Ssは,施設を襲うと想定できる最大地震動であるはずであり,それが,原発の耐震設計の根本であったはずである。ところが基準地震動は,単なる目安に過ぎない「平均像」だというのである。これでは,原発の耐震設計の根本は完全に崩れ去ってしまう。したがって原発の耐震設計は,その出発点において極めて大きな誤りがあったということになる。

したがって,このような耐震設計で原発の安全性が担保されるはずがない。もはや原発の耐震設計が,根本から誤っていることは,誰の目から見ても明らかになった。それを明白にしたのが,この入倉発言である。

しかも,入倉孝次郎氏は,あとは「経営判断だ」とすら言う。しかし,そうであれば,司法が,原発の差し止めを認めない判決を下すための唯一の論理は,「原発の安全性は電力事業者の経営判断であり,司法がこれに介入することは許されない」ということでしかない。

平成26年3月29日付愛媛新聞(甲238[656 KB])【図省略】

◆原告第16準備書面
第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を
用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

 1 原発の安全性について地震の「標準的・平均的な姿」を前提とすることは不適切である

標準的・平均的な姿をもとに基準地震動が策定されていることについて当事者間に争いはない。問題は,最も厳格な安全性が求められる原子力発電所において,そのような平均像を用いることが正当化されるかということである。

平均であるから,当然,元データには平均像そのものは存在せず,多くのばらつきあるデータとなっている。そのバラつきの程度は様々であって,数字でいえば,60と40の平均も50であるが,0と100の平均も50である。

例えば下図【図省略】は,1995年当時に,原子力発電所の耐震性を審査するにあたって,原子力規制員会が用いた上下動と水平動に関する観測データを示したものであるが,震源に近いほど上下動の割合が高くなることが分かる。それにも拘わらず原子力規制委員会によれば上下動の割合は0.5であると結論されてしまっている。しかし,「万が一」の安全性を保持しなければならないという観点からは,平均を上回る地震動が観測される地震がこれほど多く存在している以上,平均値を取ることによっては安全性を担保することができないことは明らかである。

甲229[5 MB] 「地震と原発の不都合な関係~強震動予測を巡って」 東井怜)【図省略】

平均を取るということは,このようなバラつきや不確かさを捨象してしまい,「標準的・平均的な姿」という仮想的なモデルケースを設定して基準地震動を導くことに他ならない。これでは,「万が一」の安全性を保持すべき原子力発電所に到来する可能性のある地震動の予測としては極めて不十分であり,不合理である。

以下,基準地震動が過小評価であることを述べる論文を示し,述べる。とりわけ島崎論文は,原子力委員会の委員長代理であった島崎邦彦自身が基準地震動が過小評価となる可能性を指摘するものとして重要であるし,赤松論文は被告関西電力の主張を踏まえてその不十分さを指摘するものとして正に本件に適合し,かつ過去の客観的データに基づく論考として価値が高い。

 2 島崎邦彦「活断層の長さから推定する地震モーメント」(甲230[782 KB]

原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦は,近時,原子力発電所における地震・津波の予測に関し,次のように述べて警鐘を鳴らしている。

すなわち,地震モーメントを活断層の長さから予測する場合,過小評価となる可能性があり,注意が必要である。予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため,過小評価の可能性がある。実際,日本の陸域およびその周辺の地殻内浅発地震(マグニチュード7 程度以上)について,活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1978年兵庫県南部地震で検討したところ,原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると,地震モーメントが過小評価される傾向が明らかとなった(甲230[782 KB])。

図【図省略】は,地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり,OBS=観測地,T=(1)式,YS=(2)式,ERC=(3)式,IM=(4)式である(なお,同図は嶋崎邦彦「活断層の長さから推定される地震モーメント:日本海「最大」クラスの津波断層モデルについて」より抜粋)。図のように,入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは,実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多く,当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから,地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており,その結果,基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

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 3 毎日新聞「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」(甲231[1 MB]

基準地震動の計算は,「活断層が起こし得るさまざまな揺れの中で平均的な値を導くもの」(甲231[1 MB]・2頁)であるが,実際の地震では,計算による平均値の2倍以上の強い揺れが全体の7パーセント程度存在し,3倍~4倍の揺れさえも観測されている(同)。実際の揺れの8割~9割であれば基準地震動の範囲に収まるが,残りの1割~2割は超過してしまうのであって,基準地震動を超過する地震動が発生する危険性は非常に高い。それにもかかわらず,基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず,揺れの計算は専門性が高いため規制側が対等に議論に参加することができず,いきおい事業者側の言い分がそのまま通る傾向にある。

平均から外れた強い揺れも考慮しなければ「万が一」の安全性を求められる原子力発電所における地震動予測としては極めて不十分なのである。

 4 山田雅行・先名重樹・藤原博行「強震動予測レシピに基づく予測結果のバラツキ評価の検討~逆断層と横ずれ断層の比較~」(甲232[6 MB]

強震動予測は平成7年兵庫県南部地震を契機に急速に研究が進められ,広く利用される傾向にあるが,強震動予測を行うための詳細な震源パラメータの設定には多くの不確定な要素が残存しているための,そのような状況下での強震動予測手法の標準化を目指して「強震動予測レシピ」(入倉・三宅の式)が提案されている。同レシピは主要な部分に経験式が用いられており,その経験式は過去の観測データの回帰によって求められていることが多いため,レシピに従って設定した震源パラメータは「平均的な」値となり,その値に対するバラつきを必然的に有していることとなる。そのようなバラつきのある震源パラメータに基づいて予測されるため,地震動もバラつきを有している。仮想の逆断層と横ずれ断層を想定してバラつきの違いについて検討を行ったところ,いずれの場合も,アスペリティの強度(応力降下量)によるバラつきが大きな値となることが分かった(図-4(3),図-5(3))。

アスペリティの強度(応力降下量)の違いは,地震規模の強弱に大きな影響を与え,地震動の大小にも当然大きな影響を与える。この点についてバラつきが大きいということは,地震動にも大きなバラつきが出てくることに他ならない。基準地震動を超える地震動が本件発電所を襲う可能性は決して低くはないのである。

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 5 長沢啓行「高浜3・4号と大飯3・4号の基準地震動は過小評価されている」(甲233[15 MB]

大飯原発の基準地震動については最新の知見が十分に反映されておらず,保守性(安全余裕)を十分持たせたものになっていない。「震源を特定して策定する地震動」について,大飯原発については,断層との距離が近すぎるという理由で耐専スペクトルが適用されていないが,その適用を排除する理由はなく,これを適用すると,関西電力の示した耐専スペクトルの等価震源距離と最大加速度の関係図からして1200ガル以上となる(図15)。また,耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,しかも震源近傍での大きな地震観測記録を含む最近20年間の最新データが反映されていないため,地域差以外の偶然変動によるバラつき(図22)も考慮すれば,少なくとも2倍の余裕を持たせるべきである。実際の観測記録値を見ても残差平均より倍半分以上のバラつきがあり,内陸補正をした耐専スペクトルからも倍半分以上のバラつきがある。そのようなバラつきも考慮すれば,2400ガル以上になる可能性もある。これは原子力安全基盤機構の独自の断層モデルによる地震動解析結果とも一致しており,過去の地震観測記録等とも一致している。他方,断層モデルによる地震動評価についても,同モデルは北米中心の地震データに基づいているため地震規模や応力降下量が過小設定されることになり,大飯原発についてもそれらが過小設定されている。結局,大飯原発では地震動が過小評価されており,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に設定し直せば,クリフエッジをも超えることは避けられない。

 6 赤松純平「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」(甲234[1 MB]

1985年に発生した若狭湾沿岸地震の観測結果と琵琶湖西岸で発生した別の地震の観測結果との比較からは,地震規模が同じであるにもかかわらず,若狭湾の地震が琵琶湖西岸の地震に比して高周波成分が卓越しており,スペクトルの振幅値も高周波数域では同程度ないし若狭湾の地震の方が大きいことが分かる。地震波動の距離減衰という特徴からすると,若狭湾の地震は琵琶湖西岸の地震に比して震源域での高周波成分が6~9倍も大きかったことになり,このことから,若狭湾の地震における応力降下量が顕著に大きかったことが示唆される。このような応力降下量が大きいという若狭湾地域における地域性はより規模の大きい地震についても見られ,M7以上の大地震では,日本海周辺の地震の応力降下量が南海トラフ沿いの地震よりも平均して3倍程度大きいことが知られている。1985年の若狭湾地震規模はM5.1であるが,当時の大飯原発の自動停止の設定閾値160ガルを超えていないにもかかわらず原子炉が自動停止したことは,同原発が脆弱性を内蔵していたからである。関西電力の策定した基準地震動は,若狭湾地域において短周期(高周波)成分が卓越するという地域性を適切に踏まえておらず,耐震性を確保するための基準として不十分である。

同じ地震でも,場所によって発生する地震動は大きく異なる。それは,強震動に影響を与える要素として,地震の震源特性,地震波の伝播特性,地盤の増幅特性(サイト特性)などがあるからである。この点,若狭湾地域においては,地震における高周波成分が大きく,応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価していないのであるから,同被告の策定した基準地震動は過小評価である。また,M5.1程度の地震で想定していなかった自動停止が起こったということは,今後も同規模ないしそれ以上の規模の地震によって想定外の事態が容易に起こるであろうことを端的に示している。

◆原告第16準備書面
第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について

 1 応答スペクトルに基づく地震動評価とは

応答スペクトルに基づく地震動評価は,地震動評価の手法の1つであり,実際の多数の地震で現に観測された地震動観測記録に基づき,地震の規模,敷地との距離によって分けて,地震動の平均像を求めたものを用いる手法である。

以下,応答スペクトルに基づく地震動評価手法を概略する。

  (1)マグニチュードと震源距離の想定

応答スペクトルに基づく手法は,まず当該断層で地震が発生したときの地震の規模(マグニチュードM)と震源距離(等価震源距離Xeq)を想定することから始まる。その上で,そのマグニチュード,震源距離に応じた地震動の平均を求める。

(高浜発電所「地震動評価について」平成26年8月22日 関西電力)【図表省略】

上記でも,それぞれM(マグニチュード),Xeq(等価震源距離)が記載されており,この手法の出発点が,MとXeqの想定であることが分かる。上図で見ると,「FO-A~FO-B~熊川断層」では,M7.8,等価震源距離23.5㎞の地震が平均的にどの程度の地震動をもたらすかを周期ごとに算出し,それを結んだものが応答スペクトルということになる。

ここで等価震源距離とは,「地震エネルギーが等価な点震源までの距離」であり,実際には断層面の上で発生する地震動を,それと同じ(等価な)地震波エネルギーをもたらす点として表すものである。

  (2)応答スペクトルに基づく手法の詳細

応答スペクトルに基づく手法は,下図【図省略】で見るなら,周期0.02秒,0.09秒,0.13秒,0.3秒,0.6秒での,「M7.5 震源距離20.15km」「M7.2 震源距離16.51km」などと分類した上での地震動の大きさの平均を求め,プロットし,それをつなげた折れ線を描く方法である。プロットしたポイントを「コントロールポイント」という。

(川内発電所 地震について 平成26年4月23日 九州電力株式会社)【図省略】
甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)【表省略】

このように,応答スペクトルに基づく手法は,たとえば,マグニチュードM6,震源距離Xeq78㎞,M7,Xeq20㎞などに分け,M7,Xeq20㎞の地震で,周期0.6秒の周期で,その地震の応答スペクトルがどれだけの大きさになるかの平均値を算出し,周期ごとに算出したものをプロットして作成するというものである。

  (3)応答スペクトルに基づく手法の種類

応答スペクトルに基づく手法には,いくつかの手法がある。

かつては,大崎順彦氏による「大崎スペクトル」が用いられていた。この大崎スペクトルでは,観測された地震動の最大値がほぼカバーされていて,より安全側に考えられていた。ところが,現在用いられている,電気協会耐震設計専門部会が作成した「耐専スペクトル」や,野田他(2002)の応答スペクトルでは,地震動の平均像を求めるものになっている。

なお,その他にも,Zhao.et.al(2006)の応答スペクトル等がある。

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 2 応答スペクトルに基づく手法の問題

  (1)地震規模の想定には大きな誤差が伴う

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動(敷地周辺の活断層により発生する地震動)は,いずれにしても地震規模の想定が必要となる。

地表の活断層の長さから出発し,そこからそのまま地震規模を直接推定する方法(松田式)にしても,地表の活断層の知見に加え,地下の震源断層面の長さや幅を推定した上で地震規模を推定する方法にしても,大きな誤差という宿命からは逃れられない。

松田式は,断層の長さとマグニチュード(気象庁マグニチュードMj)との関係式であり,応答スペクトルに基づく手法では,まず断層の長さからマグニチュードを松田式によって求める。

松田式は断層の長さから地震のマグニチュードを推定する式であるが,この松田式は大きな誤差がある関係式であり,これを提唱した松田時彦氏自身,単なる目安に過ぎないとしている。その意味は,極めて大きな誤差があるということにほかならない。下図が,その松田式を示す図【図省略】である。

この図は,縦軸が断層の長さであり,横軸がマグニチュードであり,中央の点線が松田式である。この図を見れば,同じ断層の長さであっても,松田式を超える地震が発生していたこと,マグニチュードで1.0程度上回る地震が現に発生していたことがわかる。マグニチュードが1.0大きくなるとは,エネルギーで32倍(2の5乗)になることを意味しており(マグニチュードが2.0大きくなると,2の10乗で1024倍のエネルギーとなる。),松田式は,とんでもなく大きな誤差をかかえていたことがわかる。

  (2) 耐専スペクトルも野田他(2002)の応答スペクトルも平均像を求めるものであること

耐専スペクトルも,野田他(2002)の応答スペクトルも,その基礎となる観測された地震動記録は極めてわずかなものにすぎず,そもそもこれによって地震動の最大値を知ることは不可能である。

また,耐専スペクトルも,野田他(2002)の応答スペクトルも,「実現象の平均像を忠実に再現」しようとしたものである。耐専スペクトルについて,これを定めた日本電気協会原子力発電耐震設計専門部会は次のように説明する。

甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)

  (3)応答スペクトルに基づく手法の誤差(平均像からの乖離の程度)

このように,応答スペクトルに基づく手法は,以前の大崎スペクトルを除き,いずれもすべて基本的に平均像を求める手法である。これを原発の耐震設計に用いるのであれば,平均からどれだけ乖離し,最大どこまでの値になるかを考える必要がある。

平均像からの乖離は,応答スペクトルに基づく手法の誤差ということとなる。では,平均像からどれだけ乖離した値となりうるか。

甲228[2 MB] 「岩盤における設計用地震動評価手法(耐専スペクトル)について」)

これは「近年の内陸地殻内地震による残差」の図【図省略】で,耐専スペクトルで推定した値と近年の内陸地殻内地震での観測値の比を示すものである(甲228[2 MB]・29番)。

縦軸は対数表示となっており,観測値と推定値の比を示している。上図では,その比の1倍,2倍,5倍の値がどこになるかを線で示している。横軸は,周期である。描かれている1本1本が現実に発生して観測した地震動の値(推定値の何倍かの値)であり,原発に重要な短周期で,推定値の3~4倍の値となっていて,中には7~8倍程度に達するものも存在する。

これを原発の耐震設計に用いるのであれば,まずは観測された誤差の最大値(既往最大)はとらなければならない。図の多数の線の上限がその最大値であり,その値は,短周期で平均的値の4倍程度となっている。

しかしながら,原発の耐震設計では,これらの誤差については,全く考慮されていない。

  (4)観測値のバラツキの程度

多数の値のバラツキの程度を見るため,統計学等において一般的によく使われる数値が標準偏差(σ)である。上図【図省略】の下側の図には,+σと‐σの線が示されている。

標準偏差とは,値のバラツキを見る指標となるものであり,平均値と各値との差(偏差)を二乗し,それを合算した和をデータの数で割り,それをルートした値である。

上図【図省略】は,正規分布というよく見られる分布の図である。数値のバラつきの仕方にはいろいろなものがあるが,「正規分布」はその代表格のものである。観測値と推定値の比のバラつき(分布)が必ず正規分布であるとまではいえないが,バラつきの程度は正規分布に概ね沿ったものとなる(なお,「近年の内陸地殻内地震による残差」における縦軸は「対数表示」となっていることには注意が必要である)。地震動の観測値と推定値の比のバラツキは,対数表示で見ると正規分布に近いものとなるということである。

正規分布であるとすれば,+σ(標準偏差1つ分)を超えるものは約16%,+2σ(同2つ分)を超えるものも2.3%あり,+3σを超えるものもなおも0.135%(740分の1)あることとなる。+3σをとったとしても,740個の地震のうち1個は3σも超えるということである。

上図【図省略】を見れば,+σの場合の地震動の値は,ほぼ2倍に近いと見ることができる。+σを超える観測値も相当あることは明確であるから,そもそも+σ程度の値を採用するのでは不足するということである。+2σでも,なお正規分布ならそれを超えるものが2.3%はあることとなるので,原発の耐震設計であることを考えれば少なくともそれ以上は考えるべきである。

そうすると,+2σは約4倍であり既往最大にほぼ等しく,+3σでは約8倍となるから,少なくともほぼ既往最大である4倍はとるべきであり,また安全性を考えればそれではなおも相当不足し,平均値の8倍以上を考える必要がある。

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 3 小括

前述したように,新規制基準(「基準の解釈」)においても,「選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を」するよう求められている。ここでは,応答スペクトルに基づく手法においても不確かさを考慮しなければならないことが,規定の文言で明記されている。しかし,応答スペクトルに基づく手法は各地の原発の耐震設計で採用されているものの,この手法は,出発点の松田式による地震規模の推定でも,その後の地震動推定でも,被告関西電力が認めるように,平均像を求めるにすぎない手法である。

ここで付言すれば,そもそも平均像からの乖離を「不確かさ」と呼ぶこと自体,誤りである。平均像を現実の地震が超えることは,決して不確かなことではなく,「確か」に起こることなのである。起こる地震の相当数が,平均像を確実に超える。したがって,単に平均像からの乖離でしかないものを「不確かさ」と呼ぶのは相当ではないのである。特に,原発の耐震設計であることを考えれば,まず平均像を取って耐震設計をしようとすること自体,全くの誤りであって,当初より,平均像ではない,最大値はどれくらいかを考えるべきである。

もっとも,国も電力事業者も,平均像からの乖離自体を「不確かさ」とは呼ぼうとしているわけではない。想定が基本的には平均像でしかないことを十分に知りつつ,平均像からの乖離という観点を取ろうとせず,無視している。この平均像からの乖離を不確かさの考慮と呼ぶとしても,この手法について,どの原発でも,この平均像でしかないことからくる不確かさを十分には考慮していない。原発では特に,その誤差(不確かさ)を本来必ず考慮しなければならないのである。

ただし,もし仮に応答スペクトルに基づく手法でも不確かさの考慮をするとしても,その不確かさの考慮は,しっかりとした根拠をもって行わなければならない。間違っても,「ある程度大きめにとっておけば,それで不確かさを考慮した」などとするようないい加減な方法によるわけにはいかない。あるいは多少大きめにとるなどという,お茶を濁すようなことでは足らない。明確に,少なくとも平均像からどれだけの乖離まで想定すべきか,観測記録上の過去最大の乖離はどれだけか,それをも超えるものをどこまで想定すべきか(すなわち何σまで想定すべきか)という観点から,最大の地震動想定を行わなければならない。この何σまで想定すべきかは,松田式の適用においても考えられなければならない。そのときの不確かさの考慮は,最高裁判所伊方判決がいうような「万が一にも災害防止上支障のないこと」を実現するように,万が一にも,想定した応答スペクトルをはみ出す地震がないような,すべての考えられる地震・地震動を包絡するようなものとしなければならないである。

以上のとおり,地震動想定手法のうち,「応答スペクトルに基づく手法」は,地震規模の推定における経験的関係式でも大きな誤差があることが明らかであり,その後の地震動想定の手法も,実現象の平均像を求めるに過ぎない手法であって,しかもその平均からの乖離が大きなものであることは明らかである。しかるに電力会社は,この平均からの乖離を十分に顧慮することなく地震動を想定している。そのことのみで,すでに電力会社の想定する地震動が極めて過小であることは明らかである。

◆原告第16準備書面
第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:
「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること

 1 バラつきを考慮しなければならない理由

  (1)地震の科学には限界があること

自然現象の測定には必ずある誤差がある。測定の精度は,その測定の対象や手法によって種々であるが,たとえば地盤の速度構造の測定の誤差は決して小さくはない。

岩波書店の雑誌「科学」2012年6月号(「地震の予測と対策:『想定』をどのように活かすのか」・甲227)に掲載された,岡田義光防災科学研究所理事長,纐纈一起東京大学地震研究所教授,島崎邦彦東京大学名誉教授の鼎談では,纐纈教授と岡田教授の以下の発言が掲載されている。

「纐纈
地震という自然現象は本質的に複雑系の問題で,理論的に完全な予測をすることは原理的に不可能なところがあります。また,実験ができないので,過去の事象に学ぶしかない。ところが地震は低頻度の現象で,学ぶべき過去のデータがすくない。私はこれらを「三重苦」と言っていますが,そのために地震の科学には十分な予測の力はなかったと思いますし,東北地方太平洋沖地震ではまさにこの科学の限界が現れてしまったと言わざるをえません。そうした限界をこの地震の前に伝え切れていなかったことを,いちばんに反省しています。

編集部
限界があるとして,どういう態度で臨むべきでしょうか。既往最大に備えることになりますか。

岡田
どれくらいの低頻度・大事象にまで備えるかという問題になります。1000年に一度,1万年に一度と,頻度が1桁下がるごとに巨大な現象があると考えられます。大きなものに限りなく備えるのは無理ですから,どれくらいまで許容するかになります。日常的に備えるのは,人生の長さから考えると,100~150年に一度のM8くらいまでで,M9クラスになると,ハードではなくソフト的に,避難などの知恵を働かせるしかないのではないでしょうか。

編集部
原発の場合にはどうお考えになりますか。

岡田
施設の重要度に応じて考えるべきですから,原発は,はるかに安全サイドに考えなければなりません。いちばん安全側に考えれば,日本のような地殻変動の激しいところで安定にオペレーションすることは,土台無理だったのではないかという感じがします。だんだん減らしていくのが世の中の意見の大勢のようですが,私も基本的にそう思います。

纐纈
真に重要なものは,日本最大か世界最大に備えていただくしかないと最近は言っています。科学の限界がありますから,これ以外のことは確信をもって言うことができません。しかし,全国の海岸すべてで日本最大の津波高さに備える経済力が日本にはないだろうと考えています。そうするとどうするか。それは政治などの場で,あるいは国民に直接決めていただくしかないであろうと思います。

編集部
中越沖地震で号機ごとにゆれがかなり違っていましたが,地質の影響は本当にあらかじめわかるのでしょうか。

纐纈
前述のような科学のレベルですから,予測の結果には非常に大きな誤差が伴います。その結果として,予測が当たる場合もありますし,外れる場合もあります。ですので,その程度の科学のレベルなのに,あのように危険なものを科学だけで審査できると考えることがそもそも間違いだったと今は考えています。」

(甲227・636頁~637頁)

また,同じ鼎談の中で,島崎邦彦氏(原子力規制委員会委員長代理)は,「平均像のようなものを見ていることになります。解像度を一生懸命よくしようとしていますが,ほんとうに中で何がおきているのかには手が届いていない。」とも述べている。(甲227・642頁)。

これらの発言の意味するところは,極めて重大である。

要するに,地震の科学は,対象が複雑系の問題であるので,原理的に完全な予測が困難であること,実験のできるものではないので,過去のデータに頼るしかないが,起こる現象が低頻度であるのでデータが少ないこと,したがって,地震の科学には限界があるということである(纐纈)。また,頻度が1桁下がるごとに大きな現象があると考えられるとされている(岡田)。

重要なのは,(既往)日本最大ないし世界最大で備えるしかない(纐纈)とされているものの,日本最大,世界最大といっても,問題は,どれだけの期間での最大かであり,地震はたかだか何百年の間の最大でしかない。それどころか,正確なデータが取得できるようになったのは兵庫県南部地震後に多数の強震計が配置された平成9年(1997年)以降のことでしかなく,だからこそ被告関西電力が述べるように,近年,地震学は大きく発展してきたのである。ただそれだけのことで,何万年,何10万年の間の最大などわかるはずがない。今後さらに観測が積み重なり,データがより正確・詳細になっていけば,さらに地震学が発展するであろうことは,誰の目にも明らかである。

  (2)地震学の現状

実際に,過去の地震では,それがどのような現象であるのかが十分に解明されているとは到底言い難い。東北地方太平洋沖地震について見れば,それが良くわかる。

次の2つの図【図省略】のうち,上の方の図Ⅳ.10は,東北地方太平洋沖地震で,ずれの量がどこでどれだけあったかについて複数の見解を示した図である。宮城県沖で大きなずれが発生したことは共通して認められるものの,その大きさや範囲について各見解は相当に異なっている。

また,次の図では,強震動生成域(強い地震動を発生させた領域,すなわちアスペリティ)と考えられる領域を四角形で示しているが,やはり見解ごとに大きく異なっている。

このように,実際に起きた地震でも,どんな現象だったかは多くの部分を推測によらざるを得ず,正確には分からないというのが地震学の現状なのである。

  (3)不確かさを安全側に十分に大きく考慮することが必須である

地震は地下深くで起こる現象であり,強震計で地震動を観測し,あるいはGPSでどれだけ地面がずれたかを観測するなどして,それらのデータから地震現象を推し量ろうとする。地下深部で起こっていることが直接観測できるわけではもちろんなく,種々のデータから地下での現象を推測するにすぎないものであるため,当然,地震現象を正確に把握することなど不可能である。前記纐纈発言の「隔靴掻痒」とは,まさしくそのような状態を表している。このようにそもそも過去の現象ですら正確には把握しきれないのに,将来の現象を正確に予測することなど一層できるはずがない。

したがって,このことのみからしても,将来の地震・津波の予測には大きなバラつきや不確かさが必然的に伴わざるを得ないのである。

また,発生する現象である地震や津波も,同じ場所であれば常に同じ範囲で,同じ規模,同じ様相で生じるというわけではなく,発生する現象自体にもバラつき(不確かさ)がある。そして,そのバラつきは,実はとても大きい。将来発生する地震や津波の想定は,過去の地震,津波のデータに基づきなされ,また,地盤などの測定データも用いられるが,測定データやデータを基とした推定に誤差があり,さらに,発生する地震,津波という現象そのものにバラつきがあるため,この点からしても,将来事象の想定(推定)には必然的に大きな不確かさを伴わざるをえないのである。

一方,原発は極めて危険な施設であり,一旦重大な事故を起こしたときには取り返しのつかない深刻な被害を広範に生ずる。したがって,原発の耐震設計は「万が一にも」事故を起こさないように,安全側に行わなければならないが,現実には,原発の耐震設計は,地震動・津波という現象の推定を「平均像」で行っているのである。

平均像で行えば,実際に起こる地震,津波の多くは無視され,著しい過小評価となる。平均像では,平均から外れる地震等が捨象されることになるが,原発という極めて危険な施設の安全性のためには,このように平均から大きく外れるような地震動の発生をも考慮し,それでも安全性が確保されるような対策が施されなければならない。「標準的・平均的な姿」の地震動についてしか安全が確保されるなどという設計では,安全確保が不足することは明らかである。この点を事実をもって明らかにし,全市民・全世界につきつけたものが,福島原発事故であった。

したがって,原発の耐震設計において,地震動,津波という現象の推定を,平均像で行なうことは決して許されない。また,仮にある程度の事象をカバーするように推定したとしても,完全に全ての現象をカバーできるわけではない。現実の地震が想定を上回る可能性は大きく,だからこそ,原発の潜在的な危険性の大きさに鑑みて,バラつきを安全側に十分に大きく考慮することは,原発の耐震設計における地震動評価の際に,地震動評価をするための全ての手法において必須なのである。

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 2 新耐震指針(平成18年指針)におけるバラつき・不確かさの考慮の要求

新耐震指針(平成18年指針)は,バラつき・不確かさの考慮について,以下のように規定する。

「3.基本方針
耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。
また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。」

「5.基準地震動の策定
施設の耐震設計において基準とする地震動は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切なものとして策定しなければならない(以下,この地震動を「基準地震動」という。)。

(1)基準地震動Ssは,下記(2)の「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び(3)の「震源を特定せず策定する地震動」について,敷地における解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとする。

(2)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,以下の方針により策定することとする。

  1.  敷地周辺の活断層の性質・・・を考慮し,地震発生様式等による分類の上での敷地に大きな影響を与えると予想される地震(「検討用地震」)の複数選定
  2.  「活断層の性質」に関する考慮事項
  3.  上記1.で選定した検討用地震ごとに,次に示すⅰ)の応答スペクトルに基づく地震動評価及びⅱ)の断層モデルを用いた手法による地震動評価の双方を実施し,それぞれによる基準地震動Ssを策定する。なお,地震動評価に当たっては,地震発生様式,地震波伝播経路等に応じた諸特性(その地域における特性を含む。)を十分に考慮することとする。
    ⅰ)応答スペクトルに基づく地震動評価
    ⅱ)断層モデルを用いた手法による地震動評価
  4.  上記3.の基準地震動の策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)については,適切に考慮する。」

また,その(解説)では,以下のとおり解説している。

「(3) 基準地震動Ssの策定方針について
4. 「基準地震動Ss の策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)」の考慮に当たっては,基準地震動Ss の策定に及ぼす影響が大きいと考えられる不確かさ(ばらつき)の要因及びその大きさの程度を十分踏まえつつ,適切な手法を用いることとする。経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には,その経験式の特徴等を踏まえ,地震規模を適切に評価することとする。
(4) 震源として想定する断層の評価について
5. 活断層調査によっても,震源として想定する断層の形状評価を含めた震源特性パラメータの設定に必要な情報が十分得られなかった場合には,その震源特性の設定に当たって不確かさの考慮を適切に行うこととする。」

このように,新耐震指針は,「基準地震動Ssの策定過程に伴う不確かさ」と「震源特性の設定に当たっての不確かさ」の2つの過程でのバラつき・不確かさを考慮するよう求めている。

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 3 新規制基準における不確かさの考慮の定め

平成25年(2013年)6月に定められた新規制基準,すなわち,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準を定める規則の解釈」)でも,次のとおり規定されている。

「選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること」

このように,新たに定められた基準も新耐震指針を踏襲しており,やはりバラつき・不確かさの考慮は求められている。
しかし,問題は,「不確かさの考慮」をどのように行うかの具体的手法である。この点について新規制基準は,「適切」という言葉を多用するのみで,それ以上具体的規定を置かず,結果として,従来行われてきた全く不十分な「不確かさの考慮」を放置することとなってしまっている。

 4 応答スペクトルに基づく地震動評価におけるバラつきの存在

以下,応答スペクトルに基づく地震動評価について,それが地震の平均像に基づくものであってバラつきが大きいことを,過去の地震における客観的データを基に明らかにする。

なお,応答スペクトルに基づく地震動評価は,基準地震動策定フロー(原告第2準備書面・60頁に抜粋)のうち,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」を検討する中で,「断層モデルを用いた手法による地震動評価」とともに行うことが求められる地震動評価である。

◆原告第16準備書面
第1 はじめに

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第1 はじめに

 1 基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない

被告関西電力は,その用いる地震動評価手法について,過去の多数の地震ないし地震動の最も「標準的・平均的な姿」を基礎とし,これをもとに地域特性を考慮して地震動評価を行った,本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていないとする(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]153頁以下)。

そうすると,基準地震動策定にあたって地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない。

 2 「標準的・平均的な姿」を外れる地震動が発生する可能性は十分にある

しかし,「本件発電所周辺においては「標準的・平均的な姿」よりも地震動が大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは得られていない」ということは,単に現在の調査手法・能力ではそのようなデータを取得するに至らないというだけのことであって,それを超えて,そのような地域性が存在しないということを意味するものではない。被告関西電力が,地震動評価手法にこの30年あまりで著しい発展があったと述べているように,今後調査手法や能力が発展することによって未知のデータが取得され,知見が更新される可能性は十分に認められるのである。

また,仮にそのような「地域性が存する可能性を示すデータ」が現時点において得られていないとしても,そのことは基準地震動が信頼に足るものであるということを意味しない。地震動の「標準的・平均的な姿」を導くためにそれ以外の地震を捨象してしまっているように,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は十分にあるからである。自然現象である以上は「バラつき」や「不確かさ」が必然的に相当程度存在し,将来的にも,「標準的・平均的な姿」を外れる地震が発生する可能性は決して小さくなく,実際の地震では計算上の平均値の2倍を超えるものだけでも7%が存在する(甲231[1 MB]「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」)。計算上の平均値である基準地震動を上回る地震動が将来的に発生する可能性でいえば,10~20%も存在するのである。これは,「万が一」という基準をはるかに上回る危険が存することを示している。

被告関西電力は種々の要素を考慮していると主張するが,その結果得られるのは,あくまでもそれらのパラメータから導かれる地震動の「標準的・平均的な姿」であって,それらのパラメータを前提とした場合の「起こり得る最大の姿」ではないし,当然,地震動を増幅させる未知の要素については考慮し得ないから,これら未知のパラメータによって地震動が増幅することも十分に考えられる。実際,原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦の調査・研究によれば,基準地震動を策定する際の基礎となる入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多いことが示されている。当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる(甲230「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。また,確率的にも,被告関西電力の設定するパラメータを前提としても,基準地震動を超過する地震動は10~20%の割合で起こり得,2倍以上の強い揺れも7%程度発生し得る(甲231)さらに,若狭湾地域においては,地震における高周波成分及び応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価しておらず過小評価となっている(甲234[1 MB]「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」。

よって,「万が一」という基準からすれば,具体的危険性が優に認められるといわなければならない。

 3 現在の基準地震動はあくまでも現在の一応の到達点を前提にしたものにすぎない

加えて,本件発電所の基準地震動は,「地震動評価手法の著しい発展」(被告 関西電力の準備書面(3)[17 MB]・153頁)により,設置時である1979年の405ガルからわずか30年余りで856ガルへと2.1倍以上にもなった。そうすると,今後の評価手法のさらなる発展によってより大きな地震動が生ずることが予測されるようになり,基準地震動がさらに大きくなる可能性は十分にある。

被告関西電力の主張から明らかであるように,現在の基準地震動はあくまでも現在の知見を前提とするものであり,そこが限界である。わずか30年あまりの間に知見が飛躍的に発展したのであるから,例えば今後30年あまりでさらに飛躍的に発展する可能性は十分に存在する。その30年後の時点での到達点からすると,現在の基準地震動は低きに失し,より大きな地震動が生ずることが結論されることは十分に考えられるのである。

◆原告第16準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2)
目次

原告第16準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2)

2016年(平成28年)1月12日

原告第16準備書面[1 MB]

第1 はじめに
1 基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としていることは当事者間に争いがない
2 「標準的・平均的な姿」を外れる地震動が発生する可能性は十分にある

第2 「標準的・平均的な姿」を基礎としていることの意味:「バラつき」や「不確かさ」の考慮が原発の耐震設計では必要となること
1 バラつきを考慮しなければならない理由
2 新耐震指針(平成18年指針)におけるバラつき・不確かさの考慮の要求
3 新規制基準における不確かさの考慮の定め
4 応答スペクトルに基づく地震動評価におけるバラつきの存在

第3 応答スペクトルに基づく地震動評価について
1 応答スペクトルに基づく地震動評価とは
2 応答スペクトルに基づく手法の問題
3 小括

第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を用いることの問題性=万が一の危険が存在すること
1 原発の安全性について地震の「標準的・平均的な姿」を前提とすることは不適切である
2 島崎邦彦「活断層の長さから推定する地震モーメント」
3 毎日新聞「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」
4 山田雅行・先名重樹・藤原博行「強震動予測レシピに基づく予測結果のバラツキ評価の検討~逆断層と横ずれ断層の比較~」
5 長沢啓行「高浜3・4号と多い3・4号の基準地震動は過小評価されている」
6 赤松純平「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について

第5 従前の地震動評価が著しい過小評価であったこと
1 従前の地震動想定に対する国会事故調報告書の指摘
2 従前の地震動想定が著しい過小評価となった理由

第6 新規制基準においても変更のないこと
1 新規制基準においても地震動想定手法は従前のままであること
2 従前と同じ手法で地震動想定を続ければ,基準地震動を上回る地震動が原発を襲うこと
3 「過去最大(既往最大)」を超えることも十分にあり得ること
4 失敗した従前の手法のままでは,原発の安全性は到底確保されないこと

第7 結論
1 原発の基準地震動は平均でなされており,著しい過小評価である
2 耐震設計は一種のドグマにすぎない
3 これまで被告らは平均像によって策定することの問題を無視してきた
4 裁判所の役割が求められている

◆第8回口頭弁論 原告提出の書証

甲第203~223号証 (第14準備書面関連)
甲第224~226号証 (第15準備書面関連)

※このサイトでは 甲第203~223号証 書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。

証拠説明書 甲第203~223号証[96 KB] (第14準備書面関連)
2015年10月15日

  • 甲第203号証
    「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」(関西電力株式会社)
  • 甲第204号証
    原子力発電所の津波評価技術(土木学会)
  • 甲第205-1号証
    日本の地震活動(地震調査研究推進本部地震調査委員会)
  • 甲第205-2号証
    日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価
    (地震調査研究推進本部地震調査委員会)
  • 甲第206号証
    「『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応について」(電気事業連合会津波対応WG)
  • 甲第207号証
    「内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)」(原子力安全・保安院)
  • 甲第208号証
    聴取結果書(政府事故調事務局)
  • 甲第209号証
    聴取結果書(政府事故調事務局)
  • 甲第210号証
    気象庁のHP印刷文書(気象庁)
  • 甲第211号証
    大飯発電所津波評価について(関西電力株式会社)
  • 甲第212号証
    益田を襲った万寿3年の大津波(加藤芳郎)
  • 甲第213号証
    国土交通省「第2回 日本海における大規模地震に関する調査検討会」岡村行信氏配布資料(岡村行信)
  • 甲第214号証
    「山田断層帯の長期評価について」(地震調査研究推進本部)
  • 甲第215号証
    第8回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(原子力安全・保安院)
  • 甲第216号証
    第9回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(同上)
  • 甲第217号証
    第17回 地震・津波に関する意見聴取会議事録(同上)
  • 甲第218号証
    「若狭湾沿岸における天正地震による津波堆積物調査について」(同上)
  • 甲第219号証
    若狭湾沿岸における天正地震による津波堆積物調査(現地調査の概要)(同上)
  • 甲第220号証
    原子力規制委員会HP印刷文書(原子力規制委員会)
  • 甲第221号証
    「福井県における津波シミュレーション結果について」(福井県危機対策・防災課)
  • 甲第222号証
    「津波最大浸水深図」(同上)
  • 甲第223号証
    「津波ハザードマップ」(おおい町)

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証拠説明書 甲第224~226号証[49 KB] (第15準備書面関連)

2015年10月15日

  • 甲第224号証[821 KB]
    大飯原子力発電所近傍の活断層の挙動に関する一考察(竹本修三(京都大学名誉教授))
  • 甲第225号証[4 MB]
    被告・関西電力の準備書面(3)への意見書(竹本修三(京都大学名誉教授))
  • 甲第226号証[583 KB]
    関電準備書面(3)への意見(竹本修三(京都大学名誉教授))

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◆原告第15準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(1)

2015年(平成27年)10月15日

原告第15準備書面[844 KB]

原告第15準備書面
被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(1)

被告関電は、基準地震動を856ガルと設定し、本件発電所の「安全上重要な設備」は基準地震動に耐えられると主張する。地震に関する被告関電の主張に対する原告の反論(1)は以下のとおりである。追って、反論(2)を追加主張する予定である。

 被告関電の主張は、新規制基準に合致する旨の主張である。しかし、同基準は安全基準ではない。原子力規制委員会の委員長田中俊一は、「原子力規制委員会の審査は安全審査ではなくて、基準の適合性の審査であり、基準の適合性は見ているが、安全だということは言わない」「基準をクリアしてもなお残るリスクというのは、現段階でリスクの低減化には努めてきたが、一般論として技術であるから、人事で全部尽くしている、対策も尽くしているとは言い切れない。自然災害についても、重大事故対策についても、不確さが伴うので、基準に適合したからといって、ゼロリスクではない」と述べている(原告第5準備書面末尾)。従って、被告関電が同基準へ適合すると主張しても、本件発電所が安全であると論証したことにはならない。

 同基準の耐震設計審査指針は、基準地震動を、(1)敷地毎に震源を特定して策定する地震動と(2)震源を特定せず策定する地震動から策定するとしている。そして、

(1)敷地毎に震源を特定して策定する地震動は、検討用地震を選定して行なわれる。

被告関電は、検討用地震として、FO-B~FO-A~熊川断層による地震と、上林川断層による地震が選定している。被告関電はそれぞれの検討用地震による地震動を検討して基準地震動を策定したと言うが、以下のとおり根本的な問題がある(図1)。

図1若狭湾周辺の主な活断層の分布(関電側準備書面(3)51頁より引用)。【図省略】

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 FO-B~FO-A断層と熊川断層について

(1) 連動すること

被告関電は、FO-B~FO-A断層と熊川断層が約15km離れていることや連動を示す地質構造が認められないことを理由に連動しないと主張していた(p53)。

しかし、「1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.3)の場合、震源領域の長さ50km超、深さ約5~18kmの断層面が一度に破壊することを示唆する長い活断層がこの位置に存在することは事前に認識されていなかった。それまでは神戸市側では短い断層が雁行する六甲断層系と淡路島側では野島断層などの短い断層が何本か存在することが知られていたに過ぎない。」また、「これまでにわが国で起こった内陸地殻内地震の最大のものとして、1891年10月28日の濃尾地震(M8.0)が知られているが、この地震の長さ約76kmに及ぶ地震断層は、温見断層北西部、根尾谷断層、梅原断層などの活断層が連動して起こったものである。」以上のとおり、独立した断層だと考えられていた断層間で、過去に連動が起きた事例が知られている。
被告関電は、規制委員会の指摘を受けた後、連動を前提に地震を評価したが、上記のとおり連動して活動したケースが存在するのに、規制委員会から指摘されるまで連動を前提に検討せず、かつ今なお連動を否定している。被告関電に対して、安全性に対する真摯な姿勢を有するのか、疑問を抱かざるを得ない。

(2) 地震動評価

FO-B~FO-A~熊川断層は、本件発電所の最も近くを通る断層であり、本件発電所との最短距離は3kmにすぎず、FO-B~FO-A~熊川断層による地震は、本件発電所に及ぼす影響が大きいことが予想される。従って、FO-B~FO-A~熊川断層による地震による地震動評価は、より慎重に、あらゆる可能性を十分吟味して行う必要がある。

ところが、被告関電の地震動評価は極めて不十分である。

被告関電は、これから起きる地震によって形成される断層について、断層の地表に現われる位置は、過去の地震によって地表に現われている位置と一致すると決めつけ、その場合だけしか検討していない(図2)。

図2 地震断層面の断層傾斜角(被告関電準備書面(3)168頁より引用)。【図省略】

しかし、地震は、地中深くの震源(破壊開始点)から岩石の破壊(ずれ)が始まり、破壊(ずれ)が断層面に広がり、その断層面が地表に及ぶ場合もあって、その場合には地表に断層が露出して地上でも断層を認めることができる。
しかも、その破壊(ずれ)は、FO-B~FO-A~熊川断層の場合、64km×15kmという巨大な断層面である(図3は断層面を地表面に乗せた図であり、断層面の巨大さがよくわかる)。

図3 FO-B~FO-A~熊川断層(関電側準備書面(3)75頁より引用)。【図省略】

これから起きる地震が、過去にFO-B~FO-A~熊川断層を形成した過去の地震と、震源も断層面も全く同じになるとは考え難いところである。震源が同一であるとしても、断層面の進み方の角度がわずかに異なるだけで、地表面では大きく異なる位置に断層が現われる(図4)。

図4 地表に現れる地震断層 【図省略】

そうだとすると、地表に現れる断層が本件敷地内を横切る場合さえ考えられるはずである。

被告関電は、「より安全側に立って」「敷地での地震動がより大きくなりうる条件を設定して」検討したというが、被告関電のこの説明は欺瞞に満ちていると言わなければならない。

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 上林川断層について

上林川断層は、本件発電所の南西に、北東-南西に斜めに傾いて存在する断層であるが、北東端の延長線上に本件発電所がある。

被告関電は、南西端は、不明瞭であるとして、断層の存在を明確に否定できる福知山付近まで延長して評価する。しかし、北東端については、延長の検討すらしない。

しかし、知られていた断層の延長線上で地震が起きた例がある(福岡県西方沖地震は、知られていた警固断層の延長線上で起きている、図5)。

図5 福岡県西方沖地震(M7.0、2005年3月20日)、地震調査研究推進本部。
(http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/katsudanso/f108_kego.htm) 【図省略】

上林川断層について、北東方向におおい町笹谷付近まで追跡されることを指摘する研究がある(図6)。

図6 図1を加工 【図省略】

従って、被告関電は、上林川断層の北東端が東北方向に伸び、大飯原発に近づく可能性を踏まえて地震動を評価すべきところ、これを怠った被告関電の地震動評価は失当である(1乃至4項につき文献[1])。

[1] 竹本修三:大飯原子力発電所近傍の活断層の挙動に関する一考察,NPO法人あいんしゅたいん附置機関基礎科学研究所「紀要」,原著論文,pp1-4,2015.
(http://jein.jp/jifs/bulletin.html).

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 内陸地殻内地震のマグニチュード

被告関電は、内陸地殻内地震は、最大のものでも1891年1月18日の濃尾地震のマグニチュード8であり、通常はマグニチュード7級どまりであり、若狭湾周辺の断層型地震もマグニチュード7どまりであると考えて原発の安全設備を考えている。
しかし、根拠とされているのは、わが国の気象台に地震計が配置され、地震波形の観測データが残されるようになった明治18(1885)年以降の高々130年の主な被害地震の分布図である。この間に海・陸のプレート境界に近い太平洋側ではM8超の海溝型地震がたびたび起こっている。しかし、関電側準備書面(3)でも指摘されているように、このような太平洋側の海溝型巨大地震は、若狭湾の原発群に直接大きな影響を及ぶすとは考えなくてもよいであろう。
一方、若狭湾の原発群にも大きな影響を及ぼす内陸地殻内断層地震の最大のものとしては、上記のとおり1891年の濃尾地震(M8.0)が知られているが、これは、高々130年の観測データから求められたものであり、それ以前の地震マグニチュードは、古文書に残されている震災記録から見積もられているが、記載漏れ等もあって、実際のマグニチュードが小さめに見積もられている可能性がある。1000年オーダーで考えれば、内陸地殻内地震のマグニチュードが8を超える可能性を否定することはできないはずなのである。

 既往最大

(1) 飛び石現象

原告の、1984年の長野県西部地震で報告されている飛び石現象では15000ガル以上の加速度が働いていたと考えられるとの主張(第2準備書面12頁)に対して、被告関電は、飛び石現象があったことを認めた上で、翠川ほか(1988)の論文を引用し、「このような現象は、地球の重力加速度の2倍(1960ガル)程度でも起こりうる」(関電側準備書面(3)136頁)と述べている。

この場合に、飛び石の最大の寸法は、33×28cm、高さ26cmで、重さ20~25kgと見積もられている。深さ16cmも土に埋まっていた大きく重たい石が、35cmも飛んだのである(図7)。

被告関電は、飛び石現象は「地震の揺れによって振動する際に相互に押し引きし合い、互いの振動に影響を与え合った」ことで生じたと主張するが、科学的に根拠のある合理的な説明とは到底言えない。

地表に浮いている石は、地球の重力加速度(980ガル)を超える地震加速度を受けると地上に跳び上がる。しかし、地中に埋まっている石が地上に跳び上がるためには、地球の重力加速度をはるかに超える地震加速度が働かなければならないはずである。

図7 1984年の長野県西部地震(M6.8)で見られた飛び石現象(黒磯・他、1985)。【図省略】

この現象は、M6.8の地震で、3km×1kmのごく狭い範囲に限られたピンポイント的な場所で見つかったことはあるとはいえ、埋まっていた20kgを超える石が飛びだして、30cm以上も飛んだということは紛れのない事実である。

関電は、この事実を説明するために、どれだけの大きさの地震加速度が働かなければならないかを実験的に解明する必要がある。それは、このような現象が大飯原発でも起こりうると考えれば、基盤にしっかりと固定された原子炉本体はともかく、敷地内の地表面に置かれた送受信施設や細部配管装置などが重大な被害を受けることになるからである。

福島第原発の過酷事故の際には、津波ではなく、地震の振動によって、送電線遮断機の2mを超える碍子部が落下したり、地震による液状化現象で送電線
(夜の森線1・2号線)の鉄塔が倒壊したりした。このような事故が、大飯原発では絶対に起こりえないという納得できる説明を求める。

被告関電が引用する論文においても、M6.8の長野県西部地震の震源近くで、少なくとも2000ガル程度の重力加速度が生じたとされている。そうだとすれば、大飯原発から至近距離で、FO-B~FO-A~熊川断層が連動した場合の長さ63.4km、マグニチュード7.8想定地震を考える際に、最大地震加速度を856ガルとしているのはおかしい。M6.8の地震の震源近傍で2000ガル程度の地震加速度を認めながら、7.8の地震で856ガル以上の地震加速度が生じないとしているのは矛盾している。

(2) 一関西で観測された4022ガル

原告の、2008年6月14日の岩手・宮城内陸地震の際、一関西で4022ガルが観測された旨の主張(原告第2準備書面12頁)に対して、被告関電は、地盤の増幅特性に差異があり本件発電所敷地に援用できないなどと主張している。

しかし、4022ガルの観測は、4000ガルまで測定できる計器で観測されているところ、4000ガルまで測定できる計器は、岩手・宮城内陸地震の数か月前に一関西に配置されたところであった。そして、4000ガルまで測定できる計器は、まだ20km間隔の三角網を目安に全国に1000点余りしか配置されていない。より大きなガルを観測できる計器が、より密に配置されてゆけば、一層大きな加速度が観測される可能性がある。現在の新規制基準は、発展途上にあり、まだまだ改善の余地があると考えるべきである。

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 基準地震動856ガルの策定の欺瞞性

原子力安全委員会が定めた原子力発電所の耐震設計審査指針は、2006年に改訂され、従来「基準地震動S1」と「基準地震動S2」の2種類の基準地震動を策定することとなっていたものが「基準地震動Ss」に一本化され、基準地震動の策定にあたって震源として考慮する活断層の活動時期の範囲が拡張されるとともに、基準地震動の策定方法も高度化された。「基準地震動Ss」は、震源を特定した「検討用地震」を選定して策定される「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と国内外の観測記録をもとに策定される「震源を特定せず策定する地震動」とに基づいて策定されることとされた。

その後、2011年の福島第一原発事故を受けて、原子力安全委員会は原子力規制委員会に改組され、規制委員会は「新規制基準」を定めた。これに伴い、被告関電は、大飯原発の基準地震動をより保守的で厳しいものとなるように見直し、2013年7月の規制委員会への「大飯原発規制基準の適合審査」の申請に際しては、700ガルの「基準地震動」を提示した。

この時点で被告関電は、15kmの隔離を有しているFO-B~FO-A断層と熊川断層は連動しないと判断していた。しかしながら、その後の規制委員会の議論も踏まえて、FO-B~FO-A~熊川断層の3つの活断層が連動する可能性を認めたうえで大飯原発の「基準地震動」の値として、2013年12月に759ガルを提示した。
さらに関係者の間で検討を進めた結果、2014年5月には、この値を856ガルに見直した。

この値を求めるにあたって、被告関電は大飯原発敷地内で55ケースを詳しく検討したうえで、最終的にSs-1~Ss-19の基準地震動を求め、最大はSs-4ケースの856ガルと策定された。これは、規制委員会の定める「新規制基準」を十分満足しており、地震に対する安全性は確保されているという主張である。

2013年7月には、「基準地震動」として700ガルという有効数字が1桁の値が提示されていたが、2013年12月には759ガル、さらに2014年5月には856ガルと3桁の有効数字で「基準地震動」が示されるようになった。被告関電は、この間にいかに詳細な検討を行ったかということを示したかったものと推察されるが、基準地震動の策定過程を追跡すると、3桁の有効数字で表示されている856ガルという値そのものには、確たる根拠はないと判断される。

以下に被告関電が大飯原発の基準地震動として、856ガルの値を策定した過程を簡単に紹介した後、有効数字3桁の856ガルという値そのものに確たる根拠はないと判断した理由を述べる。

被告関電は、大飯原発の基準地震動を策定する過程で、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を検討した結果、「震源を特定せず策定する地震動」はその影響が小さいと判断し、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」のなかでは、FO-B~FO-A~熊川断層の連動による63.4kmの断層と上林川断層の39.5kmによる地震の2つを検討用地震の基本ケースとして選定し、「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」で評価した。その結果、上林川断層の地震の影響は小さいとして、FO-B~FO-A~熊川断層の連動を考えた想定地震について、断層モデルを用いた手法による全55ケースを評価したという。

この際、「応答スペクトルに基づく地震動評価」では、評価の手順としては、「応答スペクトルに基づく地震動評価」を最初に試みて、岩盤における合理的な設計用地震動評価手法である「耐専式」(62頁の脚注100)を用いて評価しようとした。しかし、「この想定地震(M7.8)は等価震源距離が11.0kmであり,耐専式における『極近距離』に比べて著しく短いため、その地震動評価に耐専式を用いるのは適当ではないと判断した」(66頁)と書かれている。要するに「耐専式」は発電所敷地のごく近傍を地震断層が走る場合には基準地震動(最大加速度)を評価するのには使えないということである。

そこで被告関電は、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を試みている。
この手法では、断層長さ、断層上端・下端深さ、断層面積(S)、地震モーメント(Mo)、短周期レベル(A)、アスペリティ面積(Sa)、平均応力降下量(Δ、σ)、破壊伝播速度(Vr)等の震源特性に関する様々なパラメータ(震源断層パラメータ)を細かく設定して、55ケースを評価した。基本ケースとして、断層の上端深さ3km及び下端深さを18km、左横ずれ断層傾斜角90°、すべり角0°(すべりが断層面に対して水平方向を向く場合)、破壊伝播速度0.72β(βは地震発生層のS波速度)とし、アスペリティを各断層の主に敷地に近い位置に配置した震源断層モデルを設定したということである。また、断層傾斜角は、基本的に鉛直(90°)方向と考えていたが、断層傾斜角を西向きに75°とすると発電所敷地との距離が近くなり、より大きな地震動になるので、この断層傾斜角のケースも検討したが、最終結果に影響を及ぼさなかったということである。

ここで、短周期レベル(A)とは、震源特性のうち、短周期領域における加速度震源スペクトルのレベルを表す値(単位:N・m/S2(Nはニュートン))で、地震観測記録(観測波)から地震波の伝播特性及び地盤の増幅特性(サイト特性)の影響を取り除くことにより求められるという。また、アスペリティとは、断層面のなかで通常は強く固着しているが、地震時に大きな地震波(強震動)を発生させる領域の意味である。

このように、細部にわたる地震断層パラメータの数値の与え方には、かなりの任意性がある。被告関電は、専門家に依頼して、これらのパラメータを合理的に決めたということである。しかし、現在の学問レベルの認識から考えて、実際に目で見て確認することのできないこれらのパラメータにどんな数値を採用するかについては、専門家の間でも意見の分かれるところである。被告関電が採用したパラメータの妥当性を狭い範囲の専門家以外の人が評価するのは極めて困難であると言える。

いずれにせよ、被告関電は、膨大な量の計算結果を示したうえで、得られた最大加速度は、103頁の図表47[基準地震動Ss-1~Ss-19]に示されている19例のなかで、Ss-4ケースの水平方向(EW成分)が856ガルであったという。図表47からSs-4ケースだけを取り出すと下記のようになる【表省略】。

上記の表を見ると、856ガルという最大の地震加速度(基準地震動)が得られたのは、短周期1.5倍ケースで、破壊開始点を3とした場合であるということであり、短周期の地震動レベルを1.5倍としたのは、新潟県中越地震の知見を踏まえたものだと説明されている(72頁)。
この短周期の地震動レベルが1.4倍とか1.6倍でもよいとすれば、856ガルの最大加速度の少なくとも3桁目は変わってくるであろう。このことから考えても、856ガルと3桁の表示をしている基準地震動の信頼性は揺らいでくる。
このほかの断層パラメータについても数値の与え方に任意性がある。例えば、上の表では、破壊開始点3を採用しているが、破壊開始点の選定と断層傾斜角及びすべり角の選定の仕方によって基準地震動の値は変わってくる。破壊開始点3よりも大飯原発の敷地に近い破壊開始点4か5を選定し、断層傾斜角及びすべり角を変化させて計算を行えば、856ガルを超える基準地震動が得られる可能性がある。さらに、FO-B~FO-A~熊川断層の連動を考えた想定地震を図3に示すような3つの領域に分け、それぞれの領域をさらに細かい微小領域のメッシュに分けているが、どの部分がアスペリティ面積に入るかは、任意性がある。被告関電が仮定したアスペリティ面積が唯一解ではない。
いずれにせよ、断層パラメータの全ての数値を3桁以上の精度で確定するのは無理である。極言すれば、断層パラメータの数値の与え方によって、最大加速度はどんな値でも作りえる。
以上のことから、基準地震動856ガルの策定には多くの疑問があり、これを提示した被告関電の欺瞞性を断罪するものである。

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 大地震発生の可能性について

そして、国土地理院が1883~1994年の過去111年間の測量結果のデータを用いて明らかにしたところによれば、原告第2準備書面で述べたとおり、多くの活断層が見出されている近畿及びその周辺地域においては、ほぼ東西方向に年間1×10-7程度の割合で縮む方向のひずみ変化を示している。地殻内に約10-4のひずみが蓄積すると、地殻はそのひずみに耐えられずに破壊し、地殻内断層型地震が起こることになる。年間1×10-7の割合でひずみが蓄積すると、1000年で10-4に達するから、地域を限って考えれば、同じ場所で早ければ1000年に1度、地殻内断層型地震が繰り返することになる。図8に福知山-彦根間の10年間の基線長変化を示してある。この図は、近畿地方北部の平均的な地殻ひずみの進行状態を表すと考えてよい。

図8 福知山-彦根感の10年間の基線長変化(国土地理院のGPSデータによる)【図省略】

図8を見ると、2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震(M9.0)が起こるまでは、福知山-彦根間の基線長変化は、年間約1cm弱の割合で一様に縮んでいた。福知山-彦根間は、ほぼ東西に並んでいて、約100km離れている。
この2点(福知山と彦根)の間の距離が年間1cm縮むと、この周囲で10-7(1cm/100㎞)/年の割合でひずみが蓄積することになる。ところが、図8からわかるように、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の際に、福知山彦根間の基線長間の距離は、2cm近く延びた。この地震の後に近畿地方のひずみ変化のトレンドは小さくなったが、1年後くらいから再び縮みのトレンドが優勢になった。しかし、まだ地震前の10-7/年に近い縮みのトレンドには戻っておらず、地震前のトレンドに戻るまでにはあと2~3年はかかりそうである。

こうしてひずみが蓄積し、ひずみの蓄積が10.4に至れば地震が発生する。しかし、若狭湾岸地域で起きる次の地震が何年何月かは予知できないのである。

以上

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◆原告第14準備書面
第8 結論

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第8 結論

以上、大飯原発第3、4号機における津波の問題を論じてきた。

まず第1に被告関西電力は、必要な事項(活断層、古津波)について十分な検討をしていない。このまま再稼働を許すことは、貞観津波のエビデンスを無視して津波対策を行わないまま福島第一原発事故を招いた東電と同様の愚策である。

第2に、「津波評価技術」に代表される現代の津波予測はせいぜい「倍半分」程度の精度しかない。ここで、安全裕度(補正係数)1.5とすれば、押し波により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室が浸水することになる。
引き波に至っては、すでに海水ポンプの取水可能域を下回る結果が出ている。被告関西電力は、被告関電準備書面(2)29頁にて、「貯水堰」の設置にて引波対策を行うとするが、「貯水堰」からの取水により冷却機能を保持できる時間は僅かに6分間であり(甲211.205)、十分な安全裕度がない。

第3に、福井県は、独自の試算により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室敷地付近の浸水を予測している。ここで、規制される関西電力が提示する予測結果よりも、福井県による予測結果のほうが中立的であることは言うまでもない。現に、関西電力は、不可解なことに、福井県が最も大きい影響を与えると判断した「若狭海丘列付近断層」を評価していなかった。

以上より、大飯原発は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険性を有する。

以上

◆原告第14準備書面
第7 福井県作成の「津波最大浸水深図」

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第7 福井県作成の「津波最大浸水深図」

平成24年9月3日、福井県危機対策・防災課は「これまでに得られている津波に関する調査結果をもとに、本県に影響を与える津波を考慮し、津波ハザードマップの作成や防災訓練の実施等、市町が津波対策を実施する際に必要な基礎的資料を提供すること」(甲221:「福井県における津波シミュレーション結果について」)を目的として、浸水深を予測した「津波最大浸水深図」(甲222、「津波ハザードマップ」甲223参照)を作成した。

これは、(1)野坂、B及び大陸棚外縁断層を波源として2.85m、(2)越前堆列付近断層を波源として2.29m、(3)若狭海丘列付近断層を波源として5.01m、(4)佐渡島北方沖断層を波源として4.67mとする津波高を踏まえ、「各市町に最も影響のある波源を2つ選定し」「2つの波源の浸水区域のメッシュを重ね合わせた最大浸水深図を作成」したものである。すなわち、福井県の浸水深予測図は、2つの地震による津波が同時に生じた場合を想定する非常に保守的なものと評価できる。

そして、この浸水深予測図によれば、大飯原子力発電所第3、4号機海水ポンプ室周辺は、部分的に1.2m程度浸水すると報告されている(下図参照)。

【甲222:下図は上図を拡大し、3,4号炉海水ポンプ室付近の地図と重ねたもの】【図省略】
この図は、国土地理院の承認を得て、同院発行の1/25,000地形図を使用し、調整したものです。