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◆ 原告第10準備書面
第4 他のPWR型原子力発電所における事故

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性- 目次

第4 他のPWR型原子力発電所における事故

 1 PWRの事故発生例

PWRで、これまでに発生した主な事故には次のような例がある。

 (1) 関西電力・美浜2号機の二次冷却水の伝熱管破断(甲128)
1991年2月9日、美浜2号機で事故が発生した。その事故内容は、運転中の加圧水型原子炉の蒸気発生器の伝熱細管が破断して一次冷却水約55トンが二次側に漏洩したものである。幸いECCSが作動して原子炉は緊急停止した。
破断事故の直接原因は、蒸気発生器の伝熱細管の振動を抑制する振れ止め金具が設計で指示された位置に挿入されておらず、伝熱細管に異常な振動が発生して伝熱細管がフレッティング疲労破壊を起こしたためであった。この事故は我が国で初めて緊急冷却装置(ECCS)が作動した事例である。
しかしながら、上記のように放射能に汚染された一次冷却水が約55トンも二次側に漏洩したのである。即ち、原子炉の基本的機能である「閉じ込める」が働かなかったのである。しかも、地震も津波もない平常運転時にこうした事故が発生したのである。

 (2) また同3号機原子炉では、2002年11月にも一次冷却水漏れの事故があったことが発覚している(甲129)。一次冷却水は上記のように放射能に汚染されている。

 (3) 関西電力美浜3号機の二次冷却水噴出事故(甲129)
  ア 2004年08月9日、美浜3号機のタービン建屋内で高温高圧の二次冷却水が噴出して作業員4人が死亡、7人が負傷する大きな事故が発生した。同時点では、日本の原発史上で最多の死傷者を出す深刻な事故であった。

  イ 事故原因については、被告関西電力は、腐食や磨耗で配管が薄くなっていた可能性があるとしている。これは、地震や津波とは関係なしに原子炉に事故が発生する可能性のあることを被告関西電力が自認していることを意味する。同様の事故は1986年米国サリー原発でも発生しており(死者4人)、これを受けて日本国内でも自主検査をしてきたとされている。

  ウ しかるに、被告関西電力は破裂した箇所を同社の「管理システムに登録」していなかったため一度も点検しておらず、2003年11月に下請け会社から検査登録リスト漏れを指摘されていたのに直ちに対応しなかったという驚くべき事実が発覚した。
二次冷却水は放射能漏れには直結しないものの、作業員4人が死亡、7人が負傷するという重大な結果を引き起こしたのである。

資料:・「しんぶん赤旗」記事 2004年8月11日・2002年11月に一次冷却水漏れの事故があった。 赤旗記事

 (4) サン・オノフレ原子力発電所の蒸気発生器の伝熱細管破断事故(甲130ないし133)
  ア 2012年1月、アメリカ合衆国の「サウス・カリフォルニア・エジソン社」(以下、「SCE」と略称)経営のサン・オノフレ(San Onofre)原子力発電所(カリフォルニア州に所在)において、同発電所原子炉1号機の蒸気発生器の伝熱配管が損耗して水漏れが発生し、且つ放射能汚染水漏れも発生するという事故が発生した。さらに同発電所原子炉2号機の蒸気発生器配管にも破損がみられたため両機とも運転停止した。いずれの事故も、日本の三菱重工製の蒸気発生器の配管の欠陥が原因であった。

  イ 同年6月、上記事故は三菱重工のコンピューター分析のミスが原因であることが判明し、同年秋には米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission、以下「NRC」と略称)は、神戸市の三菱重工の施設に立入り調査を実施した。同年9月、三菱重工は、自ら製造した蒸気発生装置に欠陥部分があることを、三菱重工側が設置前に認知していたことを認めた報告書をNRCに提出した。同年12月、NRCは三菱重工との書簡を公開した。

  ウ 2013年2月13日、NRCは、電力会社SCEの再稼働申請を認めるか否かについて、公聴会を開催した。

  エ こうした流れの中で、2013年6月7日、SCEは廃炉を発表した。同年7月18日、SCEは三菱重工に対して、損害賠償を請求する旨通知した。なお、同原発の廃炉のコストは、当初見込み(27億ドル≒2700億円)を大幅に上回る44億ドル(約4400億円)に達すると報道されている。

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第3 過去に大飯原発で実際に発生した事故

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第3 過去に大飯原発で実際に発生した事故

 燃料集合体漏出事故

 1 事故の概要

  (1) 燃料集合体2体から、漏れを確認2010(平成22)年2月1日(甲117)

大飯発電所1号機は、漏えいの疑いがある燃料集合体を特定するため平成22年2月6日1時に発電を停止し、同日1時47分に原子炉を手動停止した。停止後、原子炉に装荷されていた燃料集合体(193体)全数を取り出し、シッピング検査を実施した結果、2体の燃料集合体(KCHC51、KCHC55)で漏えいを確認しました。2体の燃料棒全数(264本/体)について超音波による調査*1を実施した結果、漏えいしている燃料棒がそれぞれ1本(計2本)確認された。

  (2) 4号炉で燃料集合体漏えい(2008年8月19日)(甲118)

2008(平成20)年8月19日、大飯発電所4号機に、1次冷却材中のよう素(I-131)濃度の上昇(約0.6Bq/cm3から 約1.1Bq/cm3)が認められたため、燃料集合体に漏えいが発生した疑いがあるものと判断された。このため、原子炉に装荷されていた燃料集合体全数(193体)について、漏えい燃料集合体を特定するためシッピング検査を行った結果、燃料集合体1体に放射性物質の漏えいが認められた。漏えい燃料棒の特定のため、超音波による調査※3を実施した結果、燃料棒1本に漏えいが認められた。

  (3) 2号炉で燃料集合体漏えいに(2009年8月31日)(甲119)

2009(平成21)年8月31日、大飯発電所2号機において、1次冷却材中のよう素(I-131)濃度と希ガス※1濃度が前回の測定値を上回ったため、燃料集合体に漏えいが発生した疑いがあるものと判断されたが、1次冷却材中の放射能濃度の測定頻度を上げて監視強化し、運転を継続された。その後、同年10月6日頃から希ガス濃度が上昇傾向にあったことから、漏えい燃料の特定調査を実施するため、10月21日に原子炉を停止した。その後、1次冷却材中の放射能を低減させた後、原子炉容器上部ふたを取り外し、同年12月4日から燃料集合体を取り出す作業を行い、同年12月7日からは漏えい燃料を特定するため、取り出した燃料についてシッピング検査実施したところ、2体の燃料集合体で漏えいが認められた。さらに、燃料集合体2体の燃料棒について、漏えい燃料棒特定のため超音波による調査を実施した結果、燃料集合体1体(KCHC81)の燃料棒3本、別の燃料集合体1体(KCHC88)の燃料棒1本で漏えいが認められた。

  (4) 燃料集合体漏えい(2004年2月25日)(甲120)

2004(平成16)年2月25日、定例の1次冷却材中よう素濃度(I131)のサンプリング分析(3回/週)を行った結果、通常値(0.6Bq/cm3)を上回る値(0.98Bq/cm3)が確認された。その後、1次冷却材中の放射能濃度測定頻度を増加して監視を強化していたが、その濃度はほぼ一定の値で推移しているものの通常値を上回るレベルであったことから、同年3月2日、燃料集合体に漏えいが発生した疑いがあるものと判断された。このため、今定期検査において漏えい燃料集合体を特定するため、燃料集合体全数(193体)について燃料集合体シッピング検査を行った。その結果、1体の燃料集合体に漏えいが認められた。さらに、超音波による漏えい燃料棒の特定を行った結果、燃料棒1本に漏えいが認められた。

  (5) 集合体に漏えいがあると閉じ込める機能が果たせなくなる。

燃料集合体に漏えいがあれば、汚染物質が一時冷却材の中に漏れる事になり、閉じ込める機能が果たせなくなる。

 1次冷却材漏出事故

 1 1次冷却材とは

核分裂で発熱した核燃料の「熱を冷やす」材料のことを原子炉冷却材という。原子炉冷却材によって核分裂による熱を原子炉から取出し発電に使う。

 2 1次冷却材が無くなると

冷やすことができなくなり、メルトダウンを引き起こす。

 3 事故の概要

  (1) 1次冷却材ポンプから水漏れ(2007年9月3日)(甲121)

2007(平成19)年9月3日21時15分頃、大飯発電所1号機から、体積制御タンク水位の低下及び加圧器水位についてもわずかに低下傾向にあることが確認された。 直ちに関連パラメータを確認したところ、原子炉補助建屋の床ドレンタンク水位の上昇が確認されたため、補助建屋内での漏えいと判断し、点検を行った結果、1次冷却材ポンプのA-封水注入フィルタ付近から漏水していることが判明した。

  (2) 1号炉で、余熱除去ポンプ空気抜き弁から1次冷却水漏れ(甲122)

大飯発電所1号機、定期検査のため、2005(平成17)年9月20日00時00分に解列、同日2時36分に原子炉を停止した。蒸気発生器により原子炉の冷却を行うとともに、余熱除去系統を用いて冷却するため、同日、A-余熱除去ポンプによる冷却を開始した。その後、B-余熱除去ポンプの起動準備として、1次冷却水を同系統に通水し、系統の昇温と加圧を行ったうえで、20時47分頃、社運転員が、当該ポンプのメカニカルシール保護のため、シール水のクーラ出口にある空気抜き弁を少し開けたところ、漏斗形状の受皿に差し込まれている当該弁下流の配管端部から、水と蒸気(1次冷却水)が流れ出し、B-余熱除去ポンプ室内の漏水検知の警報と、火災警報が発信した。
この際、弁操作を行っていた運転員にしぶきがかかった。運転員は同室内から直ちに退避し、火傷や負傷、放射能による外部汚染、内部被ばくはなかったと関西電力は報告している。
その後、20時52分にB-余熱除去系統を隔離し、当該弁からの蒸気流出がなくなったことを確認した後、23時23分、当該弁を閉止した。
漏えいした水は、全て原子炉補助建屋サンプ(管理区域内)に回収しており、漏えい量は約2.6m3(漏えい放射能量:約1.5×109Bq)と推定された。

  (3) 1次冷却材から水漏れ(2005年1月9日)(甲123)

2005(平成17)年1月9日23時40分頃、大飯発電所1号機は、3台ある加圧器安全弁のうち、1台(C-加圧器安全弁)の出口温度が、通常範囲(~約70℃程度)を超え、上昇する傾向を示していることが認められた。
同年1月10日1時11分に「加圧器安全弁出口温度高」警報(設定値91.1℃)が発信した。C-加圧器安全弁の出口温度は、最大約107℃(同日11時頃)まで上昇したが、同日11時頃から下降し、12時43分に警報はリセットされ、18時頃には通常範囲内に戻った。
その後、温度が通常範囲を超えて緩やかな上昇傾向にあったことから、加圧器安全弁シート部から加圧器逃がしタンクへの流入が継続しているものと考えられたため、原子炉を停止して点検が行われた。当該弁を分解する前に漏えい確認を実施したところ、漏えいが確認された。また、弁体シート面および弁座のシート面の一部に漏えい跡が確認された。

  (4) 原子炉格納容器内に1次冷却水漏れ(2005年3月7日)(甲124)

2005(平成17)年3月7日15時50分頃、大飯発電所3号機原子炉格納容器内の格納容器冷却材ドレンタンク室内に水溜りがあることが確認された。1次冷却水である可能性があることから、原子炉を停止して漏えい箇所の特定や詳細な点検調査が行うため、同月8日5時02分に原子炉を停止した。
その後、原子炉格納容器内の点検を行ったところ、格納容器冷却材ドレンタンク室上部にある、加圧器気相部の試料採取系統配管で、約1mの範囲において、保温材外面に、白い付着物(1次冷却水中に含まれるほう酸)を確認された。
外面観察を行った結果、配管の接続部(カップリング)において、溶接部に直径約1mm程度の微小な穴から漏えいが認められた。

  (5) 2号炉で、湿分分離加熱器空気抜き管から蒸気漏れ(2007年12月15日)(甲125)

大飯発電所2号機において、湿分分離加熱器の加熱蒸気側水室に接続されている空気抜き管の保温材から僅かに蒸気が出ているのが確認された。
このため、加熱蒸気の供給を停止する措置を行った上で、保温材を取り外して確認したところ、空気抜き管の直管部で蒸気漏れが確認された。当該部はドレントラップ出口配管との合流部付近であった。

  (6) 3号炉の原子炉容器出口管台溶接部に割れが確認された(2008年4月17日)(甲126)

2008(平成20)年3月6日から3月10日にかけて、事前に当該溶接部内面の渦流探傷試験(ECT)を行ったところ、Aループ出口管台の600系ニッケル基合金溶接部1箇所で有意な信号指示(長さ約10mm)を確認された。なお、Aループ入口管台およびB、C、D各ループの出入口管台については、有意な信号指示は認められなかった。
傷の形状は複数に折れ曲がるとともに枝分かれした割れで、1次冷却材環境下における応力腐食割れの特徴を有しており、周辺に、引張応力が残留する可能性がある機械加工跡が確認された。

  (7) 3号炉で原子炉容器上蓋から1次冷却水漏れ。管台溶接部に割れ(2004年5月5日)

大飯発電所3号機において、平成16年5月4日、原子炉容器上部ふたの管台70箇所の外観目視点検準備を行っていたところ、制御棒駆動装置取付管台1箇所(NO.47)の付け根付近に白い付着物があることが確認された。
このため、5月5日、この付着物を分析した結果、1次冷却水に含まれるほう酸であることが確認され、また、当該管台について点検を行った結果、付着物は管台の周囲にのみ認められることから、当該管台からの漏えいであることが確認された。

◆ 原告第10準備書面
第2 「止める、冷やす、閉じ込める」機能が果たされなければ大事故を防ぐことはできない

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第2 「止める、冷やす、閉じ込める」機能が果たされなければ大事故を防ぐことはできない

 1 原子力発電所の仕組みから見た原子力発電所の危険性

  (1) 「止める」機能の重要性(甲116・8頁)

本件大飯原発などのPWR型の原発は、核分裂連鎖反応を利用して熱エネルギーを取り出し、その熱エネルギーが一次冷却水を高熱にし、さらに一次冷却水が二次冷却水を沸騰させて水蒸気にし、その水蒸気の運動エネルギーによってタービンを回して電気エネルギーを取り出すという構造をしている。
沸騰した水蒸気の運動エネルギーによってタービンが回されるという点では、火力発電所や地熱発電所など他の熱エネルギーを利用した発電所の構造と変わるところはなく、原子力発電所の最大の特徴であり危険性の根源は、熱エネルギーを核分裂連鎖反応によって発生させているということである。

大飯原発において利用されている核分裂連鎖反応の概要は、

  1.  ウラン235に中性子がぶつかる
  2.  ウラン235の原子核が割れ、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素131などに変化するとともに、中性子が2ないし3個発生する。合わせて熱も発生する。
  3.  i.に戻る

というものである。i.とii.の一連の流れを「核分裂反応」といい、ii.の過程で生成された中性子がさらに他の核分裂反応を引き起こすという形で次々と核分裂反応が起こることを「核分裂連鎖反応」という。
このような核分裂連鎖反応は、一定量のウラン235を集めておくことだけで発生し、原子炉内には、核分裂連鎖反応が発生するに足りるだけのウラン235が集積されている。
ウラン235の原子核が割れた際には新たな物質が生成されるが、その種類は約300種存在する。これらの物質のほぼすべてが「放射性物質」であり、上記のストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素131は、ウラン235の核分裂によって生成される物質の中でも代表的なものである。放射性物質は、いずれも「放射線」を放出し、この放射線を浴びると人体に悪影響を及ぼすことは既に詳細に論じた通りである。核分裂反応によって生成された物質を俗に「死の灰」というのは、これらの物質が人体に悪影響を及ぼす放射線を出し続けることによるものである。
つまり、運転中の原子炉の中に設置されている燃料棒の中には、大量のウラン235と核分裂連鎖反応によって生み出された死の灰が蓄積されていることになる。従って、原子炉内に人が立ち入ることは容易にできず、そのため、原子炉の中には、一定期間発電を続けられるだけのウラン235が集積されている。非常時において、火力発電においては、燃料の供給を止めることで容易に熱エネルギーの発生を止められることに比べて、原子力発電の場合には、原子炉内が大量の放射性物質でみたされていることから、燃料を抜き取るという方法で熱エネルギーの発生を防ぐことはできない。上記のとおりウラン235は集積しているだけで核分裂連鎖反応を起こすのであり、熱エネルギーの発生を阻止するには、制御棒というものによって必然的に起こる核分裂連鎖反応の流れを制御・遮断する方法でしか核分裂連鎖反応を止めることはできないのである。

平常時の原子力発電所においては、核分裂連鎖反応によって生み出された熱エネルギーは一次冷却水に移り、燃料棒そのものがその熱によって溶けてしまうような事態には至らない。しかし、事故によって一次冷却水が失われることになれば、原子炉はいわば空だきの状態になり、燃料棒そのものが自らが生み出した熱によって溶けるという事態にいたる。もちろん、二次冷却水によって一次冷却水を冷やす機能が失われた場合でも、その結果一次冷却水の温度が上昇をし続け、最終的には一次冷却水の喪失につながるので、同じことが起こる(二次冷却を冷やす機能が喪失しても同様である)。後述する崩壊熱による燃料棒の溶融と合わせて、炉心に設置された燃料棒が溶ける事態のことを「メルトダウン(炉心溶融)」という。メルトダウンが起これば、大量の放射性物質を管理することができなくなり、外界に放射性物質がばらまかれ、人体に悪影響を及ぼす事態となる。
従って、事故が起こった際に、原子力発電所において最初に重要なのは、制御棒の挿入によって核分裂連鎖反応を「止める」ことである。

  (2) 「冷やす」機能の重要性(甲116。12頁)

次に、火力発電は、燃料の供給を止めれば火が消え熱の発生が止まることと比して、原子力発電の場合は、核分裂連鎖反応を止めても熱の発生が止まることはない。これは放射性物質が長い期間を経て放射線を出し続け、その過程において熱を出し続けるからである。放射性物質が放射線を出し続けることを「崩壊」といい、この崩壊によって発生する熱のことを「崩壊熱」という。崩壊熱は、核分裂反応によって生み出される熱とは異なる原理で生み出されるのである。
崩壊熱のエネルギーは膨大であり、放射性物質の熱エネルギーをそのまま放置すれば、燃料棒が固体から液体に変化する約2800度まで上昇し、燃料棒が溶けるという事態にいたる。核分裂連鎖反応による熱や崩壊熱によって炉心に設置された燃料棒が溶ける事態のことを「メルトダウン(炉心溶融)」と呼ぶことは上記の通りである。
また、核分裂連鎖反応によってウラン235が分裂し変化をし続けた燃料棒は、核分裂連鎖反応の効率が悪くなるため、一定期間ごとに交換されることになる。この交換された古い燃料棒のことを「使用済核燃料(棒)」という。この使用済核燃料棒の中は、放射性物質(いわゆる死の灰)でみたされているため、当然、放射線を出し崩壊熱を発生し続ける。炉心に設置された燃料棒と同様に使用済核燃料棒も放置すれば燃料棒が溶けて放射性物質が管理できない状態になる。そして、これらの使用済核燃料棒は、原子力発電所内の「使用済核燃料プール」というホウ酸水でみたされたプール内で冷やされながら保管されている。使用済核燃料棒も効率が悪くなっただけで核分裂連鎖反応を起こす能力は有しているため、この核分裂連鎖反応を制御するためにホウ酸水という特別な水につけられているのである。

また、一次冷却水や燃料プール内のホウ酸水は、核燃料は使用済核燃料棒が発する崩壊熱で熱せられるので、循環させなければ沸騰して蒸発してしまう。この循環のために必要な電力が失われれば、最終的には一次冷却水やホウ酸水が失われることになるのである。福島第一原発事故では、津波の及ばない地域にあった鉄塔が地震によって倒壊し、これが一因となって全電源喪失が発生して、査収的にはメルトダウンに至った。つまり、「冷やす」機能を十分に果たすためには、原発内の施設のみならず原発外の鉄塔や発電所、変電所などの機能が地震によって失われないことも重要になる。

このように配管の損傷や電源の喪失によって一次冷却水が失われれば、制御棒の挿入によって核分裂連鎖反応が止まっていても、崩壊熱によるメルトダウンが発生し、使用済核燃料プール内のホウ酸水が失われれば、核分裂連鎖反応による熱や崩壊熱によって使用済核燃料棒の溶融が起こり、外界に放射性物質が放出されることになるのである。
「止める」という過程を十分に果たせたとしても、燃料棒や使用済核燃料棒を「冷やす」ことが継続できなければ、放射性物質による汚染は不可避に発生するのである。

  (3) 「閉じ込める」機能の重要性

さらに、「止める」、「冷やす」の過程を十分に果たせたとしても、燃料棒や使用済核燃料棒から放射線が大量に発生すること自体を止めることはできない。放射線を浴びることを「被曝」といい、被曝が人体に悪影響をあたえることは既に論じた通りである。従って、放射線による外界への悪影響を防止するためには、「止める」、「冷やす」の次に、放射性物質および放射線を「閉じ込める」という作用が必要となる。

 2 使用済み核燃料の危険性(甲116・16頁以下)

  (1) 使用済み核燃料

   ア 使用済核燃料の発生、保管方法

原子力発電においては、核燃料を原子炉内で核分裂させると、燃料中に核分裂生成物が蓄積し、連鎖反応を維持するために必要な中性子を吸収して反応速度を低下させるなどの理由から、適当な時期に燃料を取り替える必要がある。この際に原子炉から取り出されるのが使用済み核燃料である。使用済み核燃料の発生量は、燃焼度等によって異なるが、本件原発は、平均して年間合計約40トンの使用済み核燃料を発生させる。使用済み核燃料は、原子炉停止後に原子炉より取り出された後、水中で移送されて使用済み核燃料プールに貯蔵される。本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の本数は1000本を超えている。
本件使用済み核燃料プールには、核分裂連鎖反応を制御する機能を有するホウ酸水が満たされている。この使用済み核燃料プールの水は、冷却設備によって冷却されている。同プールの推移は常時監視されている。上記冷却機能が喪失するなどして数位が低下した場合に備え、本件使用済み核燃料プールには、使用済燃料水補給設備が設置されている。
本件使用済核燃料プールは、本件原発の原子炉補助建屋に収用されている。本件原発において、核燃料部分は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存する。他方、使用済核燃料は本件原発においては、使用済核燃料プールから放射性物質が漏れた時、これが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない。

   イ 使用済核燃料の性質

核燃料を原子炉内で燃やすと、核分裂性のウラン235が燃えて核分裂生成物ができる一方、非核分裂性のウラン238は中性子を吸収して核分裂性のプルトニウムに姿を変える。このように使用済核燃料の中には、未燃焼のウランが残っているほか、プルトニウムを含む新しく生成された放射性物質が含まれることとなる。使用済の核燃料は、崩壊熱を出し続け、時間の経過に従って衰えるものの、1年後でも1万ワット以上とかなりの発熱量を出す。この崩壊熱を除去しなければ、崩壊熱の発生源である燃料ペレットや燃料被覆管の温度が上昇を続け、溶融や損傷、崩壊が起こってしまう。

   ウ 使用済核燃料の処分方法

我が国においては、使用済核燃料は、ウランとプルトニウムを分離・抽出して発電のために再利用すること(いわゆる核燃料サイクル政策)が基本方針とされているが、このサイクルは現在機能していない。

   エ 使用済核燃料の危険性

福島原発事故においては、4号機の使用済核燃料プールに納められた使用済核燃料が危機的状況に陥り、この危険性ゆえに避難計画が検討された。原子力委員会委員長が想定した被害想定のうち、最も重大な被害を及ぼすとされたのは使用済核燃料プールからの放射の汚染であり、他の号機の使用済核燃料プールからの汚染も考えると、強制移転を求めるべき地域が170キロメートル以遠にも生じる可能性や、住民が移転を希望する場合にこれを認めるべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠にも発生する可能性があり、これらの範囲は自然に任せておくならば、数十年は続くとされた。

 3 加圧水型原子炉の危険性

  (1) 関西電力福井県大飯発電所1ないし4号機は、いずれも加圧水型(Pressurized Water Reactor)(以下、PWRと略称)といわれる型の原子炉であり、日本の三菱重工業社製である。しかして、PWRは構造的に問題点があり、三菱重工業社製のPWRは、第4で述べるように過去に何回も事故を起こしている。本件差止訴訟の対象である大飯原発の1号ないし4号の原子炉は、いずれも三菱重工業社製である。

  (2) PWRの仕組み

 ア 原子炉内で「一次冷却水」を熱し、高熱の一次冷却水を配管で蒸気発生器に送り、蒸気発生器内で「二次冷却水」(軽水)を熱して蒸気を発生させ、この蒸気をタービン室に送ってタービンを回転させ、この回転を軸で発電機に伝えて発電するという仕組みである。

 イ 一次冷却水(軽水)は、原子炉の炉心から蒸気発生器まで熱を運ぶ。水温は摂氏約300度になるが、加圧器により高圧状態(100~160気圧)なので沸騰はせず、液体状態が維持されている。一次冷却媒は、原子炉の炉心を通って流れているので、核燃料に直接接触し、放射能に汚染されている。

 ウ 蒸気発生器内部には、一次冷却水の過熱水が、数千本の細管(伝熱細管)を通って供給される。伝熱細管は、端から端までで50km以上もの長さがある。「一次冷却水」「二次冷却水」は、それぞれ別々に循環している。従って、蒸気発生器内部の伝熱細管の配管の破損がない限り、「一次冷却水」「二次冷却水」が接触・混合することはなく、蒸気タービン内を通る二次冷却水が放射能に汚染されていないという点でタービン室の管理がしやすいという点でBWR型より優れているとされている。
しかしながら、PWRには(4)で述べるような重大な問題点がある。

  (3) 日本の原発のうちPWR型のもの

日本にある原発のうちPWR型の原子炉は次のとおりである。

北海道泊発電所   1、2、3号機      北海道電力
福井県敦賀発電所  2号機(1号機はBWR) 日本原子力発電
福井県美浜発電所  1、2、3号機      関西電力
福井県大飯発電所  1、2、3、4号機    関西電力
福井県高浜発電所  1、2、3、4号機    関西電力
愛媛県伊方発電所  1、2、3号機      四国電力
佐賀県玄海発電所  1、2、3、4号機    九州電力
鹿児島県川内発電所 1、2号機        九州電力

  (4) PWRの構造的問題点

 ア (2)ウで指摘したように、蒸気発生器内部には、過熱水を運ぶ全長約50kmにも及ぶ数千本の細管(伝熱細管)が存在する。伝熱細管は、常時高熱・高圧にさらされ、且つ無数の湾曲部が存在するため、構造的に脆性を有している。

 イ 加熱された一次冷却水が高圧により液体状態が維持されている点では再循環が容易である。しかしながら、スリーマイル島事故(1979年3月28日)のように、ひとたび液体状態が維持できなくなった場合には、一次冷却水の残存量すらわからなくなる等、通常の制御手段がとれなくなり、非常用炉心冷却装置(ECCS)以外には冷却の手段がなくなってしまう。

 ウ 伝熱細管内部の軽水(一次冷却水)は常時放射能に汚染されており、このことからも伝熱細管の劣化が進行する。本件差止訴訟対象の各原子炉の運転開始年月日は、大飯1号炉が1979年3月27日、同2号炉が同年12月5日、同3号炉が1991年12月18日、同4号炉が1993年2月2日である。従って、1、2号炉は運転開始から35年以上経過、3、4号炉は22~24年経過している。

◆ 原告第10準備書面
第1 はじめに~原発の有する根本的危険性

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性- 目次

第1 はじめに~原発の有する根本的危険性

 1 原発の有する根本的危険

原発が有する根本的な危険性は、人類を含む生命に対して極めて有害かつ防護困難な放射線を極めて長期間にわたって発し続ける放射性物質自体が核燃料となり、原発の運転中はもちろん、運転停止後も膨大な量の熱エネルギーを発する点にある。しかも、原子炉内に設置された核燃料はいったん設置されれば容易に取り出すことができない。つまり、燃料を取り出すことで稼働自体を制御することができず、非常事態においても、膨大な熱エネルギーを発生させる原因となる核燃料を隔離することができない点で、他の発電所と根本的に異なる危険を有している。
放射線は人体の細胞や遺伝子を損傷し、高線量を被ばくした場合には急性症状が発生し、そうでない場合でも、様々な晩発性障害が発生する。放射性物質を体内に取り込むことで、内部被ばくが発生し、さらにリスクは増大する。放射性物質の量が初期量から半分になる半減期は核種によって数十年から数万年に及び、原発稼働中に事故が起きたときはもちろん、使用済み核燃料についてさえ、放射性物質が外界に放出されて人間の生活の場が汚染されれば、コミュニティ、生業、財産をすべて放棄しなければならない事態が起こる。
そして、核燃料となる放射性物質で核分裂がおきると膨大な熱エネルギーが発生する。この放射性物質が同時に人体に対して極めて有害な強い放射線を発するため、運転中はもちろん、運転終了後も数万年にわたって放射性物質が人間にふれることの無いように「閉じこめ」続けなければならない。これに失敗し、原発において核爆発や、水素爆発、水蒸気爆発が起きれば、大量の放射性物質が外界に放出され、原子核崩壊で放射能を失うまで人体に有害な放射線を発し続ける。放射性物質を数万年にわたって安全に「閉じこめる」ことも技術的に非常に困難である。
このような根本的・内在的危険性があるため、原発事故は「万が一にも起こってはならない」とされてきたのである。

 2 福井地裁判決の枠組み

(1) 福井地裁判決は、福島原子力発電所における事故、チェルノブイリ事故などの原子力発電所における過酷事故の実態を根拠に、原発における過酷事故から生じる住民の生命身体に与える被害、国土喪失の被害の甚大性を認定し、「原子力発電所に求められるべき安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならないず、万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない」と判示する(福井判決39頁)。

(2) 次に、「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため、運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大していく」(福井判決43頁)という原子力発電所の特性を正確に認定した上で、「施設損傷に結びつき得る地震が起きた場合、速やかに運転を停止し、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け、万が一異常が発生した時も放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのない」という「止める、冷やす、閉じ込める」という3つの要請を満たすことが原子力発電所が備えるべき安全性であるとする(同)。

(3) そして、この3つの要請のうち、大飯原子力発電所においては、地震の際の「冷やす機能」と「閉じ込める機能」において欠陥があることを指摘する。具体的には、

「冷やす機能」について
ア 1260ガルを超える地震が到来した時には冷却機能が喪失してメルトダウンが発生する危険性が極めて高く、最終的には周辺住民の被ばく又は長期の避難が不可避であること
イ 700ガルを超え1260ガル未満の地震が到来した場合にも
(ア) 被告関西電力が対策として策定しているイベントツリーが「事故原因につながる事象のすべてをとりあげいるとは認め難い」(福井判決47頁)こと
(イ) イベントツリー記載の対策が有効な措置であるとしても、原発事故がもたらす「混乱と焦燥の中で適切かつ迅速にこれらの措置をとることを原子力発電所の従業員に求めることはでき」ず、有効な措置を講じることが困難であること(同)

「閉じ込める機能」について、
1000本を超える使用済核燃料が原子炉内の核燃料部分と異なり、閉じ込める機能が脆弱な使用済核燃料プールに保管されており、過酷事故の際には使用済核燃料プールに置かれている使用済核燃料の冷却機能が喪失して危機的状況が発生し大量の放射性物質が放出され250キロメートル以遠の地域まで汚染される危険性があること(福井判決60頁)などが指摘されている。

(4) 本書面では、これらの福井地裁判決の判示する枠組みを元に、

ア 原子力発電所が有する特性、およびそこから導かれる「止める、冷やす、閉じ込める」機能の重要性
イ 過酷事故につながる潜在的な危険性を有していた、大飯原子力発電所ないし大飯原子力発電所と同型の原子力発電所において過去に実際に発生した事故の実態
ウ 原子炉自体が脆弱化している危険性について論じる。

◆ 原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性-
目次

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性-

2015年(平成27年)5月12日

第10準備書面[341 KB] 本文のみ

[ 目 次 ]

第1 はじめに~原発の有する根本的危険性
1 原発の有する根本的危険
2 福井地裁判決の枠組み

第2 「止める、冷やす、閉じ込める」機能が果たされなければ大事故を防ぐことはできない
1 原子力発電所の仕組みから見た原子力発電所の危険性
2 使用済み核燃料の危険性(甲116・16頁以下)
3 加圧水型原子炉の危険性

第3 過去に大飯原発で実際に発生した事故
燃料集合体漏出事故
1 事故の概要
1次冷却材漏出事故
1 1次冷却材とは
2 1次冷却材が無くなると
3 事故の概要

第4 他のPWR型原子力発電所における事故
1 PWRの事故発生例

第5 大飯原発の老朽化による危険について
1 はじめに
2 老朽化対策について
3 まとめ

第6 被告関西電力が策定しているイベントツリーに従った対策では過酷事故を防ぐことはできない

第7 結語

◆ 原告第9準備書面
3 まとめ

原告第9準備書面
-水素爆発対策の不備について- 目次

3 まとめ

福島第一原発の水素爆発により頑丈なコンクリート建屋が吹き飛ばされた状況は、多くの人々の目に今なお焼き付いている。初めて目にした水素爆発の恐るべき威力に戦慄を覚えない人はいなかったであろう。重大事故時における格納容器内の水素爆轟は格納容器の破損を招き、住民の生命身体や環境に破滅的な危険を齎(もたら)す。このような水素爆轟の破滅的な危険性に照らすと、格納容器破損防止対策においては、電力会社はその対策の完全な安全性を立証しなければならず、万が一でも水素爆轟の危険性があれば、原発の稼働は許されない。大飯原発第3、第4号機の、重大事故時における格納容器破損防止対策は、新規制基準に適合していないから、水素爆轟の危険性があることは明らかである。この点において、本原発の稼働は直ちに差し止められるべきである。

以上

◆ 原告第9準備書面
2 水素爆発防止に関する規定

原告第9準備書面
-水素爆発対策の不備について- 目次

2 水素爆発防止に関する規定

 (1) 規制の概要

  ア 実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則

実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則は、第37条[1]において「重大事故等の拡大防止等」すなわちシビアクシデント対策を以下の通り定める。

第三十七条 発電用原子炉施設は、重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において、炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない。
2 発電用原子炉施設は、重大事故が発生した場合において、原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない。

[1] 別紙1参照

  イ 規則の解釈(別紙1参照)

上記規則には「解釈[2]」が付されており、規則第37条第2項の原子炉格納容器の破損の防止のために、複数の格納容器破損モードを想定し防止対策の有効性を確認するものとされている(解釈2-1(a))。
ここで、本書面で問題とする格納容器破損モードは、「水素燃焼」と「溶融炉心・コンクリート相互作用(「MCCI」と略される。)」である。
また、「解釈」において有効性を確認する対象として複数の評価項目が挙がっているが、本書面で問題とする評価項目は、「原子炉格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟[3]を防止すること。」(解釈2-3(f))であり、具体的な要件は「原子炉格納容器内の水素濃度がドライ条件[4]に換算して13vol%以下又は酸素濃度が5vol%以下であること」(解釈2-4)である。
すなわち、「水素燃焼」の評価において水素爆轟を防止するため、「溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)」の状況下にあっても、「原子炉格納容器内の水素濃度が13vol%以下」であることが求められている。

[2] 別紙1参照「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(原規技発第1306193号(平成25年6月19日原子力規制委員会決定))。
[3] 水素爆発を生じる反応形態のうち、衝撃圧を生じる最も厳しい現象をさす
[4] 水蒸気の存在を除外することを指す

  ウ 有効性評価に関する審査ガイド

平成25年6月、原子力規制委員会は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」(以下「審査ガイド」という。甲108)を制定した。審査ガイドは、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈(原規技発第1306193号(平成25年6月19日原子力規制委員会決定)。以下「解釈」という。)第37条の規定のうち、評価項目を満足することを確認するための手法の妥当性を審査官が判断する際に、参考とするものである。」、「申請者の用いた手法が、本審査ガイドに沿った手法であれば、概ね妥当なものと判断される。」とされる。ここで、審査ガイドにおける「水素爆轟」防止対策として以下の記載がなされている。【省略】

  エ 審査ガイドの趣旨

審査ガイドはジルコニウムと水の反応による水素発生量の解析条件として、次の①と②の両方を考慮することを定めている。

  1.  重大事故時に、核燃料が高温化し、燃料被覆管の材料成分であるジルコニウムが水と化学反応をおこすと原子炉圧力容器内に水素が発生する。審査ガイドにおいては、原子炉圧力容器の下部が破損するまでに、全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応を起こすものとする((4)b(a))。
  2.  高温化した炉心が溶融し(メルトダウン)、原子炉圧力容器の下部が破損した後、溶融炉心が流出し(メルトスルー)、その下部にある原子炉格納容器床のコンクリートに達した場合、溶融炉心はコンクリートを侵食する(溶融炉心・コンクリート相互作用)。この時、コンクリートからでてくる水分乃至溶融炉心を冷却するために格納容器内にスプレイされた冷却水と溶融炉心に含まれるジルコニウムが反応し、水素が発生する((4)b(b))。

以上より、重大事故時に格納容器内の水素濃度が高まり水素爆発を起こす危険があるため、新規制基準は、i. 及び ii.、そして水の放射線分解により発生する水素の水素濃度を13%以下に維持することを重大事故対策の有効性評価の対象とした。
したがって、事故時の水素濃度が判断基準値13%を超えるのであれば、有効性評価の審査を合格しないものとして規則第37条に違反する。

 (2) 大飯原発3、4号機は審査ガイドの条件を充たさない

  ア 大飯原発の設置変更許可申請

被告関西電力提出の大飯原発第3、4号機の設置変更許可申請書(以下「申請書」という。)は、事故時の水素濃度が最大約12.8%であるとする。しかし、被告関西電力は、先述の溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)を原因とする水素の発生を考慮していない[5]。既に大飯原発「申請書」では水素濃度の裕度がないため、溶融炉心・コンクリート相互作用に伴う水素の発生を考慮に入れれば、水素濃度は判断基準値13%を優に超えるものであり、新規制基準を充たさないものとなる。
以下、九州電力川内原発の審査書、関西電力高浜原発の審査書と比較しながら論じる。

[5] 別紙2 甲109:発電用原子炉設置変更許可申請書80頁参照。

  イ 川内1、2号機、高浜3、4号機、大飯3、4号機の設置変更許可申請

川内1、2号機、高浜3、4号機、大飯3、4号機の申請書によれば、各プラントにおける、水素濃度(ドライ換算)最大値と時間的変化は以下のとおりであり、いずれも判断基準値13%を下回るとする。

  1. 川内1、2号機 約9・7%
  2. 高浜3、4号機 約11.5%
  3. 大飯3、4号機 約12.8%

「甲110:滝谷紘一「加圧水型原発の溶融炉心・コンクリート相互作用と水素爆発に対する対策は新規制基準に適合していない」科学2015年1月号」【図省略】

しかしながら、上記の各解析は、(1)エ ii. で述べたMCCIによる水素発生を考慮していない。MCCIによる水素発生を考慮して評価した結果は審査の過程ではじめて提出され、川内と高浜の審査書によれば、川内原発の水素濃度最大値は約12.6%、高浜原発は約12.3%である。(九州電力と関西電力はこれらの値を最終的に申請書の一部補正の中に記載した。大飯原発では、平成27年3月時点で審査書と申請書の補正が出されていないので、MCCIによる水素発生を考慮した値は不明である。)
以下、MCCIによる水素発生量の考慮の仕方についての問題点を述べる。

  ウ 大飯原発許可申請の解析の問題点[6]

まず、各プラントとも、原子炉圧力容器の下部が破損するまでに炉心溶融時に全ジルコニウム量の75%が水-ジルコニウム反応により水素を発生させるという前述(1)エ 1. の解析条件を用いていること自体に異なる点はない。しかし、原子炉圧力容器の下部が破損した後の「溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)」による水素発生量の考慮の仕方が川内原発と高浜原発で大きく異なる。端的に述べれば川内原発の審査書が最も厳しい(安全を重視)評価であり、高浜原発の審査書は緩い(安全を軽視)評価である。大飯原発は現時点まだ審査書が出ていないため取り扱いが不明である(申請書はMCCIによる水素発生量を考慮していない)。
川内原発の審査書[7]によれば、川内原発はMCCIによる水素発生量を解析コードに依拠せずジルコニウムの最大反応量で評価する。これは、残り25%のジルコニウムが全て水-ジルコニウム反応を起こしたと仮定して評価したということである。他方、高浜原発の審査書によれば、解析コードMAAP[8]を使用してMCCIに伴う水素の発生量を全ジルコニウム量の6%で評価した。ここで解析コードMAAPは、次項エで詳述するように、MCCIに関しては「始まったら全部止まる」という早期終結モデルであることに留意する必要がある(従って水素発生量は小さい)。つまりMCCIに関しMAAPは保守的ではない特性がある。
したがって、解析コードに依拠しない川内原発の評価の仕方の方が保守的であり、安全審査として適切である。

さらに、大飯原発申請書は、MCCIによる水素発生について何らの記載がない。この点、被告関西電力は「原子炉下部キャビティに十分な水量が確保されていれば、床コンクリートには有意な侵食は発生しないため、それに伴う有意な水素発生はない」と主張することが考えられる。しかし、これはMAAPによる解析に依拠するものであり、MAAPの非保守的特性と解析条件に伴う不確かさを考慮すると科学的根拠に乏しい主張である。

よって、MCCIによる水素発生を考慮しない被告関西電力の申請内容は、「主要解析条件」として「原子炉圧力容器の下部の破損後は、溶融炉心・コンクリート相互作用による可燃性ガス及びその他の非凝縮性ガス等の発生を考慮する。」と定める審査ガイド(4)b(b)に反する[9]。
元原子力安全委員会事務局技術参与滝谷紘一氏の試算によれば、MCCIによる水素発生について、MCCIにより全てのジルコニウムが反応を起こす場合(ケース3、川内原発審査書)、MAAP解析にもとづき6%のジルコニウムが反応を起こす場合(ケース2、高浜原発審査書)、0%の場合(ケース1、大飯原発申請書)の水素濃度最大値の一覧表は以下のとおりである。
ここで、注視すべきは大飯原発において、MCCIにより全てのジルコニウムが反応を起こす場合(ケース3)はもとより、6%のジルコニウムが反応を起こす場合(ケース2)においても水素発生量は13%基準を超過することである。

[甲111:滝谷紘一「検証・高浜審査書(案):水素発生量の評価を川内審査より緩めて爆発防止基準に適合とする判断は認められない」科学2015年3月号]【表省略】

[6] 甲110:滝谷紘一、「検証・高浜審査書(案):水素発生量の評価を川内審査より緩めて爆発防止基準に適合とする判断は認められない」科学2015年3月号
[7] 別紙3:甲112-197,198:「九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1号及び2号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書」
[8] PWR各社が使用している過酷事故解析コードの名称。MAAPコードは、米国電力研究所(EPRI)が所有するシビアアクシデント解析コードであり、軽水炉の炉心損傷、原子炉圧力容器(RPV)破損、原子炉格納容器(PCV)破損からコア・コンクリート反応、放射性物質の発生・移行・放出に至る事故シーケンス全般の現象解析に用いることができる。コードシステムとしては、各事故過程のプロセスを個別に評価するモジュールを統合することで、一連の事故シーケンスを評価する構成となっている。
[9] 同じ内容の申請を行った九州電力川内原発及び関西電力高浜原発においては、MCCI時の水素発生を勘案したうえで審査がなされた(別紙3、別紙4(甲113)参照)

  エ 更田豊志規制委員長代理のMCCI解析に対する見解

解析コードMAAPによるMCCI 解析について、更田豊志規制委員長代理は「MAAPという解析コードの中では、デコンプというモジュールが使われていますけれども、デコンプでは、MCCIというのは、ごくざっくり言うと、始まったら全部止まるというような解析結果を与えます。これはシビアアクシデントの解析を行っている技術者、研究者の間では定説ではありますけれども、どちらも(MAAP用のデコンプとMELCOR用のコルコンの両モジュールのこと)両極端の結果を与えるので、実際問題としては、MCCIについては工学的判断に基づいて判断を下すのが状況であって、解析コードの成熟度がMCCIを取り扱うようなレベルに達しているという判断にはありません」と述べた(甲114:平成26年9月24日原子力規制委員会記者会見録)。この更田見解は、IAEA(国際原子力機関)の過酷事故解析手法に関する報告書の中にあるMCCIを扱う解析コードについての「水中での予測には解析コード間で驚くほどの違いがある。デコンプのモデルは一極端にあり、溶融物から一定の熱流束で除熱されると仮定している」との記述と一致する。すなわちMAAPは溶融炉心が水中では極端に早く冷却されるモデルでありMCCIを過小評価する解析コードあることを示唆している。このような極端な特性のある解析コードで得られる解析結果に MCC により反応するジルコニウム量を過小評価している可能性があり、解析結果が「保守的である」保証はまったくない。
したがって、安全性を厳正に審査する上で、MCCIについて解析精度に問題のあるMAAP解析に依拠せずに、原子炉圧力容器から流出する溶融炉心に含まれるジルコニウム全量(25%)が反応するとした川内審査書での取り扱いは妥当であり、大飯原発でもこれを踏襲すべきである。

 (3) 小括

川内1、2号機と大飯3、4号機の間でMCCIによる水素発生量の取り扱い方を変更する科学的根拠はなく、大飯原発においても先行の川内審査と同じ取り扱いをして安全性を厳しく評価すべきである。そうした場合には大飯3、4号機での水素濃度最大値は約16.4%であり, 判断基準の13%以下を満足できず、新規制基準に適合しない。また、仮にMAAP解析コードによる水素発生量を前提としても判断基準13%の要件を充たさない。このことより大飯第3、第4号機の格納容器破損防止対策は新規制基準に適合しないことが明らかである。

◆ 原告第9準備書面
1 本書面の概要

原告第9準備書面
-水素爆発対策の不備について- 目次

1 本書面の概要

福島第1原発事故においては、福島第1原発の第1号機、第3号機、及び、第4号機のコンクリート建屋が水素爆発により破損した。原子力発電所の重大事故時に炉心の核燃料が高温化すると、燃料被覆管の材料成分であるジルコニウムが水と化学反応を起こし水素が発生する。加圧水型原発では格納容器内の雰囲気は空気であるために、仮にその水素が格納容器内に流出して雰囲気中の水素濃度が高まれば水素爆発を起こして格納容器が大規模破損する危険がある。
そこで、新規制基準は水素爆発防止のために、事故時の格納容器内水素濃度の規制を行い、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」において、格納容器内の水素濃度最大値を13%以下にすることを定めた。他方、被告関西電力は、大飯原発3、4号機の水素濃度最大値約12.8%として設置変更許可を申請した。
しかし、関西電力の申請内容は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で定めた溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による水素の発生を適切に考慮していない。本書面にて詳述するとおり、これを審査ガイドに従って厳格な条件により解析すれば規制基準の13%を超える結果が生じる。
したがって、大飯原発3、4号機は、新規制基準の要件を充たさない。本件訴訟の要件に置き換えれば重大事故時の格納容器水素爆発の具体的危険がある。

大飯原発の構造:燃料ペレット⊂燃料被覆管⊂原子炉圧力容器⊂原子炉格納容器⊂原子炉建屋【図省略】
[甲107:関西電力HPより]

◆ 原告第9準備書面
-水素爆発対策の不備について-
目次

原告第9準備書面
-水素爆発対策の不備について-

2015年(平成27年)5月11日

第9準備書面[1 MB]

[ 目 次 ]

1 本書面の概要

2 水素爆発防止に関する規定
(1) 規制の概要
(2) 大飯原発3、4号機は審査ガイドの条件を充たさない
(3) 小括

3 まとめ

〈別紙1〉―実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈第37条【省略】

〈別紙2〉―発電用原子炉設置変更許可申請書80頁【省略】

〈別紙3〉九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1号及び2号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書197,198頁【省略】

〈別紙4〉関西電力株式会社高浜発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(3号及び4号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書208,209頁【省略】

◆第6回口頭弁論 原告提出の書証

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。

証拠説明書(甲93~106号証)[94 KB](第7準備書面)
2015年1月23日

  • 甲第93号証
    原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について(原子力委員会)
  • 甲第94号証
    第180回国会衆議院環境委員会第4号議事録(国会衆議院議院環境委員会)
  • 甲第95号証
    発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について(原子力安全委員会)
  • 甲第96号証
    拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)(原子力規制庁)
  • 甲第97号証
    国会事故調 第4回議事録(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)
  • 甲第98号証
    日経新聞記事平成24年11月15日(日本経済新聞社)
  • 甲第99号証
    発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回会合議事録(原子力規制委員会)
  • 甲第100号証
    発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第9回会合配布資料(原子力規制委員会)
  • 甲第101号証
    実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第102号証
    「立地評価をしない原子力規制の新基準」科学2013年6月号(滝谷紘一)
  • 甲第103号証
    NS-R-3(IAEA安全基準シリーズ)(IAEA)
  • 甲第104号証
    米国の立地要件(10CFR Part100)の改訂について(立地指針等検討小委員会第2回会合配布資料)(原子力安全委員会 原子力安全基準・指針専門部会立地指針等検討小委員会)
  • 甲第105号証
    立地審査指針について(原子炉安全基準部会)
  • 甲第106号証
    「3,4号機における新規制基準を踏まえた安全性向上対策工事の進捗状況について」添付資料2(被告関西電力)

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