◆原告第39準備書面
第10 火山(甲369の221~258p)

2017(平成29)年10月27日

原告第39準備書面
-原子力規制委員会の「考え方」が不合理なものであること-

目次

第10 火山(甲369の221~258p)
1 立地審査指針の基本的不合理性
2 火山影響評価ガイドにおける評価方法
3 立地評価の方法
4 将来の活動可能性評価に関する国際基準違反
5 川内即時抗告審決定によっても立地評価に係るガイドの合理性は否定されていること
6 大規模噴火の予測に関する火山学者の発言等
7 降下火砕物による影響
8 非常用ディーゼル発電機への影響


第10 火山(甲369の221~258p)


 1 立地審査指針の基本的不合理性

(1) 火山国・日本

世界には約1500の活火山があるといわれており,そのほとんどが環太平洋帯に分布している。北米プレート,ユーラシアプレート,フィリピン海プレート及び太平洋プレートの境界に位置する日本には,世界の活火山の約1割があり,日本は世界有数の地震国であるだけでなく,世界有数の火山国でもある。

【内閣府防災情報のページ】[135] 【図省略】

近年の日本ではなぜか火山活動が低調であるが,噴火の間隔が長いため,たまたま起こらない時期に当たっているだけだと考えられる。近い将来において,VEI4や5級の噴火が続けて起こっても何ら不思議ではない[136]

この火山活動がたまたま静穏だった間に,日本列島には50基を超える原発が次々と建設されてきたが,それらの原発において火山活動に対する安全性は,まったくと言っていい程考えられてこなかった。すなわち,従前の規制当局は,火山活動を考慮した安全対策を事業者に対してほとんど求めて来なかったということである。日本は津波大国であり,原発は津波に対して脆弱であることを認識しながら,津波対策をほとんど求めてこなかった,福島原発事故前の状況と類似している。

政府事故調により日本では火山が「重要なリスク要因」であることを指摘された[137]こともあり,原子力規制委員会は,日本の原子力規制機関として初めて火山についての具体的審査基準(「火山影響評価ガイド」)を作成するに至った。

しかし,審査基準についても,適合性審査についても,火山学・火山防災上の数多くの欠陥や疑問点がある上,火山専門家がほとんど不在の場で議論が進められ,危うい結論が出され始めている[138]。この状況が放置されれば,日本における次の原子炉事故は,火山活動に起因するものとなる可能性が否定できないが,原子力規制委員会にはその危機感がまったく足りていない。

[135] http://www.bousai.go.jp/kazan/taisaku/k101.htm

[136] 中田節也「大噴火の溶岩流・火砕流はどれほど広がるか」(「科学」2014年1月号)48頁

[137] 「政府事故調最終報告書」412,435頁

[138] 小山真人「原子力発電所の「新規制基準」とその適当性審査における火山影響評価の問題点」(「科学」2015年2月号)182頁

(2) 考慮すべき事象を考慮しないことは法の委任に反すること

「考え方の要旨」1(甲369の222p)にもあるように,設置許可基準規則6条1項は,「想定される自然現象」について,「地震及び津波を除く」としているため,例えば,降下火砕物と地震荷重との組み合わせによる安全施設や安全上重要な施設への影響が適合性審査の対象とならない仕組みになっている。

したがって,設置許可基準規則は,火山と地震,あるいは火山と津波の重畳的な組み合わせによる安全施設や安全上重要な施設への影響を審査の対象としておらず,「災害の防止上支障がないものとして」定めなければならないとされている原子力規制委員会規則として不十分であり,法による委任の趣旨を逸脱するといわざるを得ない。

(3) 不合理にも,火山影響評価ガイドに専門家の知見が反映されていないこと

火山影響評価ガイドは,科学的,専門的知見を集約して策定されたものではない。原子力規制委員会の「発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム」に参加した火山の専門家は,東京大学地震研究所教授の中田節也氏(気象庁火山噴火予知連絡会副会長[139])だけであり,しかも中田氏は第20回会合の冒頭に講演をしそれに続く質問に答えただけである。現に科学雑誌のインタビュー[140]で,中田氏は,「ガイドは先生のアドバイスによってつくられたんですか?」という問いかけに対し,「ちがいます。」と明確に否定し,さらに,「立地評価のところであいまいにしたのが,いちばん痛恨のところです。そこのところを決める際に専門家は誰も関わっていません。」と述べている。

火山影響評価ガイドには火山の科学的,専門的知見の反映が明らかに不十分であって,不合理というほかないものである。

[139] 火山噴火予知連絡会に係る肩書きは平成28年4月1日付けの名簿による。
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/meibo_20160401.pdf 【リンク切れ】

[140] 「中田節也氏に聞く:川内原発差止仮処分決定をめぐって」(「科学」2015年6月号)568頁

(4) 火山専門家による批判

火山影響評価ガイドについては,以下のとおり中田節也氏のほかにも,火山噴火予測や防災に関わる代表的な専門家の多くが,厳しく批判している(詳細は甲369[4 MB]の226p以下)。

(5) 日本火山学会の提言に対する規制委員会の無視と曲解

火山影響評価ガイドの内容に多くの火山の専門家は問題意識を持ち,日本火山学会は,2013年9月に臨時に原子力問題対応委員会(石原和弘委員長)を立ち上げた。同委員会は,2014年11月3日の日本火山学会総会でその検討結果を「巨大噴火の予測と監視に関する提言」として報告し,公表した。

ここでは,「噴火警報を有効に機能させるためには,噴火予測の可能性,限界,曖昧さの理解が不可欠である。火山影響評価ガイド等の規格・基準類においては,このような噴火予測の特性を十分に考慮し,慎重に検討すべきである」と記されている。石原和弘委員長は,記者会見において,これは火山影響評価ガイドの見直しを要請するものであると説明している。

しかし,原子力規制委員会は,これを石原氏個人の見解と曲解し,未だに火山影響評価ガイドの見直しに着手していない。


 2 火山影響評価ガイドにおける評価方法

随所で述べてきたように,原規委設置法は,「確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定」することを定めており(同法1条),火山に関する規則及びガイド類は,「確立された国際的な基準」というべきIAEAの火山ハザードに対する安全ガイドであるSSG‐21を踏まえたものとなっていなければならない。

SSG‐21は,図表1のとおり火山ハザードについて,4つのステージに分けて評価を行うこととしている。

図表1 SSG‐21 16頁 図1 火山ハザード評価への方法論的アプローチ 【図省略】

このうち,「考え方」が「整合している」とするのは,まず,第2ステージの上から2つ目の黄色い四角,「完新世において火山活動があるか」(Is thereHolocene volcanic activity?)という点である。しかし,将来の活動可能性評価において重要なのは,むしろ第2ステージの上から3つ目の黄色い四角,完新世に活動していない火山について,将来の活動可能性が否定できるか否か,という点であり,これについては,後述するように,火山影響評価ガイドはSSG‐21と整合していない。

また,重要な点として,どのような基準で立地評価や影響評価を行うか,選定された火山事象について,どのようにその影響を評価するかという点があるが,これらの点についても,火山影響評価ガイドはSSG‐21に整合していない。

以下,具体的に述べる。

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 3 立地評価の方法

(1) 個々の火山に限定するのは狭すぎること

「考え方の要旨」1(甲369の233p)によれば,立地評価における火山の抽出は,個々の火山であって,火山弧の抽出ではないとされるが,個々の火山だけに評価方法を限定してしまうのは狭きに失する。

「考え方」が述べるとおり同一のマグマ供給系の火山活動期間は,数十万年から100万年程度である。これは,SSG‐21で考慮されている1000万年という期間からすれば10分の1以下の短さである。すなわち,1000万年に1回以下という低頻度の火山事象まで考慮するならば,単にこれまで活動したことのある火山が繰り返し活動することを考えるだけでは足りず,少なくとも同一の火山弧内の火山フロント[141]より大陸側で,より敷地に近い位置に新しい火山が誕生し活動することまで考慮する必要がある。

また,火山には単成火山と複成火山という分類がある。複成火山が同じ火口から何度も噴火を繰り返して,大きな火山体を成長させるタイプの火山であるのに対し,単成火山は,いったん噴火して火山を生じた後,二度と同じ火口から噴火しないという性質を持つタイプの火山をいう。しかし,単成火山は,例えば東伊豆単成火山群でみられるように,ある狭い地域に群れをなして存在することが多く,単成火山群に属するひとつひとつの火山は1度噴火した後に活動しなくなるが,単成火山群全体として見た場合には,次々と別の場所で噴火をおこし,新しい単成火山をつくることを繰り返す。

【伊豆半島ジオパークホームページ 4.生きている伊豆の大地[142]】 【図省略】

このような場合には,単成火山一つだけを取り上げて,将来の活動可能性がないといえるかどうかを評価しても意味がなく,単成火山群全体として将来の活動可能性を評価しなければ,「災害の防止上支障がない」という法の委任の趣旨に反することとなる。

また,SSG‐21も,2.7において,「地理的領域内における火山活動は,個々の火山に関連する活動よりも長い時間スケールで持続しうる。多くの火山弧が10Ma以上にわたる火山活動を繰り返しているが,火山弧内の個々の火山自体は1Ma程度しか活動を維持できない」として,火山弧も影響評価に含めることを当然の前提としている。

[141] 火山は海溝にほぼ平行に分布することとなるが,この火山分布の海溝側の境界を画する線を火山フロントという。気象庁ホームページ参照

[142] http://izugeopark.org/theme/subtheme4/

(2) 確立した国際基準に「明確な理由を示していない」と虚偽の論難

同「考え方の要旨」2によれば,SSG‐21が1000万年前から現在までに活動があった火山を抽出するとしているところ,その明確な理由を示していない,とされている。
しかしながら,これは明白な誤りである。SSG‐21は,2.7において,「多くの火山弧が10Ma以上にわたる火山活動を繰り返しているが,火山弧内の個々の火山自体は1Ma程度しか活動を維持できない。このように分散した活動は,数百万年間も継続する可能性があるため,過去10Maの間に火山活動があった地域は,将来の活動可能性を考慮すべきである」として,1000万年前を基準とする根拠を述べている。

一方,「考え方」は,SSG‐21と同様の1000万年という基準を採用しない根拠として,個々の火山の活動において,同一のマグマ供給系の火山活動期間は,数十万年から100万年程度と考えられていることを挙げ,それがあたかも日本の地域的特性であるかのように述べるが,SSG‐21も,個々の火山自体は100万年程度しか活動しないことを述べている。結局,「考え方」が1000万年という基準を採用しないのは,確立した国際基準に不合理に反しているものである。


 4 将来の活動可能性評価に関する国際基準違反

(1) 確率論的評価手法を採用していない点で不整合であること

「考え方の要旨」2及び3の部分(甲369[4 MB]の249p),すなわち,完新世に活動していない火山の将来の活動可能性をどのような手法で評価するかという部分はSSG‐21とは全く整合していない。上記「考え方の要旨」2及び3は,階段ダイヤグラム等を用いて「火山活動が終息する傾向が顕著」であり,かつ,「最後の活動終了から現在までの期間が,過去の最大休止期間より長い等」といった事情を「総合的に考慮」する,というものであるが,要するに,決定論的に将来の活動可能性を評価するという手法である。

これに対し,SSG‐21は,5.11において,「このステップでは,将来の火山事象の可能性に対する確率論的評価が用いられる」と述べており,決定論的手法については,あくまでも確率論的評価を基礎として,場合によって決定論的手法が使用できる場合があり得ると述べているのである。「考え方」はSSG‐21と比較してあまりにも安全を軽視しているというほかない。

(2) 十分な証拠がない限り将来の活動可能性を否定してはならないという原則

また,SSG‐21において,決定論的手法は,5.15にあるように,「(将来の活動可能性を否定できるという)結論を担保する十分な証拠がある場合には,それ以上の検討は不要」であるが,逆に,「十分な証拠がない」場合には,将来の活動可能性を否定できないとしてステージ3へ進む,とされている。

これに対し,「考え方」は,「総合的に考慮する」とするのみで,SSG‐21が採用する「十分な証拠がない限り,決定論的手法で将来の活動可能性を否定してはならない」という原則を採用していない。この点でも,明らかに「考え方」はSSG‐21と整合していない。

(3) 疑わしきは安全のために

SSG‐21は,5.9において,完新世に活動があったかどうかの判断に関して,専門家の意見が異なったり,顕著な不確実性が見受けられる場合について,「安全性の観点」から,完新世に活動があったものとすべきとしている。

これは「疑わしきは安全のために」という基本理念を明示したものといえるが,「考え方」にはそのような記載はない。「考え方」の最も根本的な問題点は,このような基本理念を採用していない点であり,基本理念を採用していない以上,「整合する」などと評価できるはずがない。

(4) 最大休止期間によって安易に将来の活動可能性を否定してはならないこと

上記「考え方の要旨」2記載のとおり原子力規制委員会は,特定の火山について,「火山活動が終息する傾向が顕著で,最後の活動終了から現在までの期間が,過去の最大休止期間より長い等過去の火山活動の調査結果を総合的に考慮し」て将来の活動可能性を判断するとしている。

しかし,この評価方法は,SSG‐21と比較してあまりにも非保守的なものというほかない。SSG‐21は,5.10において,過去200万年の間に噴火記録が残っていれば,原則として将来の活動可能性があると考えるべきことを指摘している。分散した火山域や,活動的でないカルデラの場合には,さらに古く,500万年の間に活動していれば,将来の活動可能性が残っているとする。もう一つ,5.14において重要なのは,前期更新世よりも古い時期の時間と量の関係から,明らかな減衰傾向と明白な休止が明らかになる場合があるとしている点である。ここでいう,前期更新世とは,一般に,約258万年前から約78万年前の時期をいうが,SSG‐21は,あくまでもそれくらいのスケールで減衰傾向や休止が認められない限り,活動可能性を否定してはならないと述べているのである。

一方,火山影響評価ガイドには何一つそのような限定はなく,例えば,13万年前と8万年前に活動した火山であれば,最後の活動終了から現在までの期間である8万年が,最大活動休止期間である5万年よりも長いことから,将来の活動可能性が否定されるという運用が現にされている。そればかりか,1度の活動しか確認されていない火山について,安易に将来の活動可能性を否定するような運用がされている。このような審査のあり方は,確立された国際基準であるSSG‐21に反する。

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 5 川内即時抗告審決定によっても立地評価に係るガイドの合理性は否定されていること

(1) 火山影響評価ガイド及び「考え方」における立地評価,とりわけ個別評価と事後的な監視に関する部分は,個々の火山について,将来の活動可能性が十分に小さいといえるかどうかを的確に予測できることを前提としている。

しかし,現在の火山学の水準では,原発の運用期間中に検討対象火山が噴火する可能性やその時期・規模を的確に予測することは困難であり,火山影響評価ガイド及び「考え方」は不合理である。

(2) この点に関して,川内原発仮処分申立却下決定に対する即時抗告事件において,福岡高裁宮崎支部2016年4月6日決定(以下「川内即時抗告審決定」という。)は以下のように判示している[143]

「立地評価に関する火山影響評価ガイドの定めは,原子力発電所にとって設計対応不可能な火山事象が当該原子力発電所の運用期間中に到達する可能性の大小をもって立地の適不適の判断基準とするものであり,しかも,上記の可能性が十分小さいとして立地不適とされない場合であっても,噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された(火山活動の兆候を把握した)ときには,原子炉の停止,適切な核燃料の搬出等の実施を含む対処を行うものとしていることからすると,地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提とするものであるということができる」

「最新の知見によっても噴火の時期及び規模についての的確な予測は困難な状況にあり,VEI6以上の巨大噴火についてみても,中・長期的な噴火予測の手法は確立しておらず,何らかの前駆現象が発生する可能性が高いことまでは承認されているものの,どのような前駆現象がどのくらい前に発生するのかについては明らかではなく,何らかの異常現象が検知されたとしても,それがいつ,どの程度の規模の噴火に至るのか,それとも定常状態からのゆらぎに過ぎないのかを的確に判断するに足りる理論や技術的手法を持ち合わせていないというのが,火山学に関する少なくとも現時点における科学技術水準であると認められる」

「そうであるとすれば,現在の科学技術的知見をもってしても,原子力発電所の運用期間中に検討対象火山が噴火する可能性やその時期及び規模を的確に予測することは困難であるといわざるを得ないから,立地評価に関する火山影響評価ガイドの定めは,少なくとも地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火の時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点において,その内容が不合理であるといわざるを得ない」(同決定217~218頁)

[143] 伊方原発3号機に係る2017年3月30日広島地裁決定も同旨

(3) このように,火山影響評価ガイドにおける立地評価,とりわけ対象検討火山の個別評価と事後的な監視に関する部分は,裁判所によって明確に不合理であるとされている点であり,「考え方」もまた不合理なものというほかない。

(4) なお,この点についての田中委員長の発言も,迷走しているというほかない。

田中委員長は,2014年11月5日の定例記者会見において,巨大噴火については予測ができないという前提で火山影響評価ガイドを見直すべき旨の前記火山学会の提言につき,「石原さんが勝手に言っただけでしょう」と述べ、姶良カルデラからの火山灰層厚の過小評価を記者から指摘されると,「とんでもないことが起こるかも知れないということを平気で言わないで,それこそ火山学会を挙げて必死になって夜も寝ないで観測をして,我が国のための国民のために頑張ってもらわないと困るんだよ」と予測が困難であることを認め,また,予測ができない現状にあるのは火山学者の怠慢であるかのような発言をしている。

さらに,記者からの「3ヶ月前では原子炉はどうしようもならないでしょう。使用済み核燃料が」という追及に対し,「3ヶ月前ということが分かれば,3ヶ月前にすぐ止めて,その準備をして,容器に少しずつ入れて遠くに運べばできますよ,それは」「(3ヶ月で全部)できると思いますよ」と明らかに誤った回答をしている[144]

[144] 2014年11月5日原子力規制委員会記者会見録2~4頁。
なお,3か月で核燃料をすべて搬出できるという発言については,即日撤回されている。
https://www.nsr.go.jp/data/000068841.pdf

(5) 過去に設計対応不可能な火山事象が到達している場合について

川内即時抗告審決定は,前記1に続けて,過去に設計対応不可能な火山事象が到達している場合の立地評価の考え方について,次のように判示している。

「立地評価は,そもそも設計対応不可能な事象の到達,すなわち,いかなる設計対応によっても発電用原子炉施設の安全性を確保することが不可能な事態の発生を基準とするものであって,その評価を誤った場合には,いかに多重防護の観点からの重大事故等対策を尽くしたとしても,その危険が現実化した場合に重大事故等を避けることはできず,しかも,火山事象の場合,その規模及び態様等からして,これによってもたらされる重大事故等の規模及びこれによる被害の大きさは著しく重大かつ深刻なものとなることが容易に推認される。このような観点からしても,立地評価に関する火山影響評価ガイドの定めは,発電用原子炉施設の安全性を確保するための基準として,その内容が不合理であるというべきである。そして,発電用原子炉施設の安全性確保のために立地評価を行う趣旨からすれば,火山噴火の時期及び規模を的確に予測することが困難であるという現在の科学技術水準の下においては,少なくとも過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達したと考えられる火山が当該発電用原子炉施設の地理的領域に存在する場合には,原則として立地不適とすべきであると考えられる」(同決定218~219頁)

万が一にも設計対応不可能な火山事象が原発施設に到達した場合の被害の深刻さを前提として,最新の火山学によってもそのような規模の噴火を的確に予測することが困難であることからすれば,立地評価としては,この決定がいうように,過去に設計対応不可能な火山事象が到達していれば,立地不適と解するべきであり,そのように解さない「考え方」は不合理である。


 6 大規模噴火の予測に関する火山学者の発言等

これまでも度々触れてきたとおり特に,大規模噴火の予測に係る火山影響評価ガイドの規定や適合性審査の在り方については,多くの火山学者からの批判がなされている。甲369[4 MB]の247p以下で挙げたのは,そのうち代表的なものである。

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 7 降下火砕物による影響

(1) 降下火砕物の影響評価を考える前提として,まず,降下火砕物により,一般的にどのような影響が生じるかを確認しておく。

道路への影響に関しては,甲369[4 MB]の265p図表1のとおり,降雨時にはわずか5mmの降灰で,降雨時ではなくても5cmの降灰で道路は通行不能となると想定されている[145]

また,わずか6mmの降灰によって自動車のエンジンが故障した例も報告されており,15cmもの降灰があれば,可搬型の発電機等をはじめ,吸気系設備をもった機関は軒並み機能喪失する可能性が高く,道路も通行不能となる。

歩行については,例えば1929年の阿蘇の噴火について「人畜の歩行困難を極め山麓の色見村の如きは全然歩行も外出もできず」,1991年の雲仙の噴火について「南千本木,本光寺町などでは,大量の降灰があり,一時は1m先も見えないほどだった」,1978年の有珠の噴火について「水を含んだ灰はヘドロのように重みを増して思うように流れず,こびりついてしまうため,時にはスコップで削り取らなければならないほど」等の報告もあり[146],降灰時に十分な作業が行えるかどうか,安全側に立った保守的な判断がなされなければならない。

[145] 気象庁『降灰の影響及び対策』

[146] 須藤茂『降下火山灰災害‐新聞報道資料から得られる情報』地質ニュース604号(2004年12月)44~45頁

(2) 次に,電力への影響に関しては,同266p図表2のとおり,降雨時に1cm以上の降灰がある範囲では停電が起こり,その被害率は18%とされている。また,湿った火山灰が柱状トランスなどに付着すると地絡[147]を生じるのであり(1mmの降灰の場合),このような現象が複数の箇所で同時多発的に起こることにより,容易に外部電源の喪失に至り得る。

[147] 一般には,電気を大地に逃がすためにつなぐアースのことをいい,火山灰が高圧電線に設置されている絶縁体に付着することにより,電気が流れて大地に逃げてしまい,送電が行えなくなる現象を指す。

(3) 決定論的手法におけるパラメータの不確実性について

「考え方の要旨」1(甲369[4 MB]の264p)によれば,地理的領域外の火山に由来する降下火砕物の堆積量の設定は,原発又はその周辺で確認された降下火砕物の最大堆積量を基に評価するとされている。

しかしながら,これはSSG‐21の基準に反するというほかない。「考え方」も認めるとおり,降下火砕物は最も広範囲に影響の及ぶ火山事象であり,前記のとおり,ごくわずかな堆積でも,原発の通常運転を妨げる可能性がある。

だからこそ,降下火砕物については地理的領域外の火山も評価の対象に含めているのであり,地理的領域外の火山と地理的領域内の火山とで,評価方法を別異に扱う合理性はない。SSG‐21も,地理的領域内と地理的領域外の火山による影響評価について書き分けていない。また,SSG‐21は,降下火砕物の影響評価についても,決定論的手法のほか,確率論的手法を用いることを求めている(SSG‐21・6.3)。このようにSSG‐21は,決定論的手法においても,個々のパラメータの不確実性を考慮することを求めており,確率論的手法も求めている。にもかかわらず,「考え方」は,原発又はその周辺で確認された降下火砕物の最大堆積量だけを考慮すれば足りるかのような基準となっており,確立された国際的な基準を踏まえたとは到底言えない未熟なものになっている。


 8 非常用ディーゼル発電機への影響

(1) 降下火砕物の影響評価において極めて重要な問題の一つに,火山影響評価ガイド6.1.(a)③換気空調系統のフィルタの目詰まり及び非常用ディーゼル発電機の損傷等による系統・機器の機能を喪失しないこと,並びに,中央制御室における居住環境を維持すること,という問題がある。特に,非常用ディーゼル発電機は,火山現象によって外部電源が失われた際に,原子炉を冷やすための命綱であって,これが機能喪失した場合には,全電源を喪失して炉心溶融に至る可能性も生じ得る。

(2) 従来,多くの原発においては,非常用ディーゼル発電機等の吸気フィルタが目詰まりを起こすか否かを確認するために想定する大気中火山灰濃度について,アイスランド共和国で2010年に発生したエイヤフィヤトラ・ヨークトル氷河の噴火の際のデータである3,241μg/m3(約3mg/m3)が用いられてきた。しかし,3,241μg/m3という値は,最初の大規模噴火があった4月14日から2か月以上,最後の噴火からも3週間以上経過した,7月2日に観測された再飛散値であったことが分かっている[148]。さらに,これはPM10(粒径が10μm以下の浮遊粒子)を測定するための機械で測定されたものであることも文献から明らかになっており,火山灰全体の濃度を把握したものでは全くない。

結局,原子力規制委員会は,2016年10月26日の発表で,この数値が過小評価であったことを認めている。このように原規委の火山についての適合性審査が,全く安全を確保できる内容になっていないことが明らかになっている。

[148] Iceland Status Reports 2 July 2010, Eyjafjallajokull volcanic eruption

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