◆ 原告第62準備書面
第2 一般建築物に求められる耐震性との比較でも原発の安全性は社会通念にすら達していないこと

原告第62準備書面
-いわゆる「社会通念論」批判-

2019年(平成31年)4月26日

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第2 一般建築物に求められる耐震性との比較でも原発の安全性は社会通念にすら達していないこと
1 原発の耐震性を遙かに上回る耐震性を一般建築物でさえ具備していること
2 耐震性について科学的な検証がなされていないこと


第2 一般建築物に求められる耐震性との比較でも原発の安全性は社会通念にすら達していないこと

 1 原発の耐震性を遙かに上回る耐震性を一般建築物でさえ具備していること

  (1) 一般建築物が備える最高レベルの耐震性

大飯原発は,基準地震動が856ガル,クリフエッジが1240ガルであるが,それらを遙かに上回る耐震性を,以下のとおり,現実には一般建築物さえ有している。

   ア 三井ホームの耐震住宅(甲491[1 MB]
三井ホームの提供する住宅は,震度7に60回,最大5115ガル,231カイン(カインは地震の揺れの強さを速度で表した単位)に耐えるだけの耐震性を備えた住宅であり,以下のように紹介されている。

「今回の耐震実験では、あらゆる可能性を検討し、自然界では到底起こりえない過酷な条件で検証を行ないました。震度6強以上のさまざまな揺れ方の大地震を16種類、連続65回。(その内震度7は12種類、60回)想定外を想定することで、あらゆるタイプの地震動に対して安心安全な住宅を目指しています。※震度4以上は、125回実施。」

   イ 住友林業の耐震住宅(甲492[1 MB]
住友林業の提供する住宅は,最大加速度2699ガルの揺れを余裕でクリアし,震度7や震度6に繰り返し耐えるだけの耐震性を備えた住宅であり,以下のように紹介されている。

「東日本大震災と同等の最大加速度2,699galの揺れを余裕でクリア。阪神・淡路大震災(最大加速度818gal)の3.3倍の揺れにも耐え抜き、巨大地震への強さを実証しました。さらに、東日本大震災の震度7を2回、阪神・淡路大震災の震度7を20回」
「巨大地震と強い余震が繰り返し発生することも想定し、合計246回の加振を実施。」

   ウ 積水ハウスの耐震住宅(甲493[2 MB]
積水ハウスの提供する住宅は,245回に及ぶ振動実験の最後にかつて体験したことのない巨大地震を想定した揺れを発生させても耐えるだけの耐震性を備えた住宅であり,以下のように紹介されている。

「実大モデルによる振動実験は、総回数245回におよんだ実験の最後に、兵庫県南部地震の最大速度90カインをはるかに超える、入力波最大速度160カインという、かつて体験したことのない巨大地震を想定した揺れに挑戦。このとき建物が吸収した地震動エネルギーは、兵庫県南部地震の約10倍という破壊的なものでした」

   エ 新幹線(甲494[5 MB]
鉄道土木構造物は,阪神・淡路大震災以降,海洋型地震について1100ガル,直下型地震について1700ガルにそれぞれ想定し,そのような強い揺れに襲われても構造物の被害を軽微な損傷に留めるだけの耐震性能が要求されている。

この基準は観測された地震の規模を踏まえて随時改定されてきものであるが,1700ガルという数値は,阪神・淡路大震災で実際に観測された900ガルという数値の倍近い。これは,想定外を想定し最大規模の地震動に耐えうるだけの耐震性を備えるべきとの考えに他ならない。

   オ 小括
一般建築物がこのように高い耐震性を有しているのは,「あらゆる可能性を検討」「想定外を想定」「かつて体験したことのない巨大地震を想定」することによって最大級の安全・安心を確保し,万が一にも重大な事態とならないようにするために他ならない。

では,原子力発電所は「あらゆる可能性を検討」し,「想定外を想定」する必要がないのであろうか。それらをしていない原発の損座は許容されるであろうか。

  (2) 一般建築物の耐震性を大幅に下回る耐震性しか有していない原子力発電所の存在は許容されないこと

一般建築物でさえ既往最大や想定外を想定するような耐震性能を具備しているのに,大飯原発はそれに遥かに劣る856ガルにしか耐えられず,1240ガルを超えれば極めて深刻な事態を引き起こす。この1240ガルという数字は,上記の各住宅や鉄道土木構造物が優に耐えうる揺れであるから,一般建築物には重大な毀損が発生していないのに,それらよりも遙かに安全であるべき大飯原発ではクリフエッジを上回る揺れによる極めて深刻な事態が生ずるということである。このように,一般建築物は耐えられる程度の揺れで崩壊するような原子力発電所を許容する社会通念のないことは明らかである。

これに対して被告関西電力は,大飯原発の基準地震動は解放基盤面での数値であるから一般建築物とは単純に比較できないと主張するであろうが,一般建築物が,どこに建っていようと上記のような既往最大を上回るような想定をした上で耐震性を確保していることには変わりないから,当該地盤がどのようなものであるかが問題なのではない。「地盤が強固だから,一般建築物の耐震性を遙かに下回る耐震性しか有していない原子力発電所が存在してもよい」などという社会通念は存在しないのである。

基準地震動やクリフエッジを遙かに上回る,既往最大の揺れにすらこれらの建築物が耐え得ることは事実であるから,それを遙かに下回るような耐震性しか有していない原発は,社会通念上許容されないというべきである。

  (3) 「強固な地盤の上に建っている」という幻想

そもそも被告関西電力の主張は「地盤が強固だから強い揺れがこない」という幻想であり仮定の上に成り立つものにすぎず,原発という危険な施設についてそのような仮定を設定することは,科学的に誤りであることはもちろん,社会通念にも合致しない。

実際,柏崎刈羽原発では2007年の中越沖地震で基準地震動450ガルの4倍近い1699ガルを記録しているが,原告第37準備書面1~3頁等で述べたように,東京電力は同地震の前には「揺れの少ない強固な岩盤上に建てています。」「原子力発電所の重要な機器・建物等は、表層の軟らかい地盤を取り除き、地震による揺れが小さい固い岩盤の上に直接固定して建設しています。岩盤上の揺れは、新しい年代の軟らかい地盤の揺れに比べ1/2から1/3程度になることが分かっています。」などと述べて「地盤が強固だから強い揺れがこない」と主張していたにもかかわらず,いざ基準地震動を上回る地震動に見舞われるや「要因2:発電所周辺の地表から4~6kmの深部地盤の傾きにより波が同時集中した(約2倍)」「要因3:発電所の地下2kmの敷地地盤の褶曲構造により1~4号機に波が集中した(約2倍)」などと述べて「実は地盤が軟弱だった」と180度主張を反転させたのである。そうすると,大飯原発でも同じことが起こらないとなぜ明言できるのであろうか。地盤特性は事前には詳らかにしようがない事柄であるから,いまは「地盤が強固だから強い揺れがこない」といわれていても,基準地震動を遙かに上回る地震動が本当に発生しないかどうかは全く分からず,発生した後になって「実は地盤が軟弱だった」と180度主張を反転させたても,もはや取り返しのつかない深刻な被害が発生してしまっているのである。

仮に地盤が軟弱であると仮定しても想定しうる最大級の揺れに十分に耐えられるような耐震性を備えていることこそ,社会通念が最低限求める原発のあるべき姿といわなければならない。

 2 耐震性について科学的な検証がなされていないこと

もう一つ,上記の一般建築物との比較から明らかなことは,上記一般建築物は繰り返し繰り返し耐震テストを行って導かれた耐震性の数値であり,よってそのような数値の地震動に耐えうることが科学的に実証されているのに対し,大飯原発の耐震性はあくまでも計算上のものにすぎず,科学的に実証もされていないということである。実際に856ガルの地震動が到来したとして,それに現に耐えられるかどうかはそのときになってみないと分からないという,その意味で正に机上の空論でしかない。

そのような,科学的に検証されておらず,実際には蓋を開けてみなければ分からないという実態からしても,やはり社会通念上許容されないというべきである。