◆ 原告第62準備書面
第3 我が国の行政でも原発以外の分野では「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を想定するようになっていること

原告第62準備書面
-いわゆる「社会通念論」批判-

2019年(平成31年)4月26日

目 次(←第62準備書面の目次に戻ります)

第3 我が国の行政でも原発以外の分野では「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を想定するようになっていること
1 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)に至る経過
2 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと
3 まとめ


第3 我が国の行政でも原発以外の分野では「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を想定するようになっていること

 1 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)に至る経過

第3は既に第42準備書面でも、法制度の整備のこととしてふれたところであるが、本書面は、社会通念との関係で、詳論する。

平成23年3月に発生した東日本大震災は、それまでの想定をはるかに超える巨大な地震・津波により一度の災害で戦後最大の人命が失われるなど甚大な被害をもたらしたため、「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」において以下のよううに指摘された(甲495)。

  • 対象地震・津波を想定するためには、できるだけ過去に遡って地震・津波の発生等をより正確に調査し、古文書等の史料の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づく調査を進めることが必要である。この調査検討にあたっては、地震活動の長期評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会と引き続き十分に連携し実施する必要がある。
  • この際、地震の予知が困難であることや長期評価に不確実性のあることも踏まえつつ、考えうる可能性を考慮し、被害が想定よりも大きくなる可能性についても十分に視野に入れて地震・津波を検討する必要がある。
  • すなわち、今後、地震・津波の想定を行うにあたっては、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである。

これらを踏まえ、いかなる大規模な地震及びこれに伴う津波が発生した場合にも、人命だけは何としても守るとともに、我が国の経済社会が致命傷を負わないようハード・ソフト両面からの総合的な対策の実施による防災・減災の徹底を図ることを目的として、平成25年に東南海・南海法を改正する形で、南海トラフ全体を対象とした「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(以下、「南海トラフ法」という。)が制定され、科学的に想定し得る最大規模の地震である南海トラフ巨大地震も対象に地震防災対策を推進することとされた。ここでは、法律の条文としても、中央防災会議の役割を定めた4条4項で、「中央防災会議は、基本計画の作成及びその実施の推進に当たっては、南海トラフ地震の発生の形態並びに南海トラフ地震に伴い発生する地震動及び津波の規模に応じて予想される災害の事態が異なることに鑑み、あらゆる災害の事態に対応することができるよう適切に配慮するものとする。」とした。

この法律により、南海トラフ地震により著しい被害が生ずるおそれのある地域が南海トラフ地震防災対策推進地域として指定され、同地域においては、大震法や東南海・南海法と同様に、国、地方公共団体、関係事業者等が、調和を図りつつ自ら計画を策定し、それぞれの立場から予防対策や、津波避難対策等の地震防災対策を推進することとされた。

 2 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと

このようななか、平成25年にとりまとめられた政府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」の下に設置された「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」(以下、「平成25年調査部会」という。)の報告において、「現在の科学的知見からは、確度高い地震予測は難しい。 」とされた。ここで「地震予測」とは「確度の高い地震の予測」とは、地震の規模や発生時期を確度高く予測すること」とされ、前述の「予知」を含む概念とされた。

さらに、平成29年、政府の「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」において、近い将来発生が懸念される南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について最新の科学的知見を収集・整理して改めて検討した結果、「現時点においては、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はなく、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言後に実施される現行の地震防災応急対策が前提としている確度の高い地震の予測はできないのが実情である。」と、とりまとめられた。

 3 まとめ

このように、我が国の地震に対する防災に関する行政の考え方は、巨大地震の規模や発生時期を予測できないことを前提に、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を検討して「あらゆる災害の事態に対応することができるように」するものになっている。これは社会通念の範囲を遙かに超え、行政施策上の基本方針となっているのである。

この点で重要なのは、南海トラフ地震をはじめとする海溝型の地震より、本訴訟で問題になっている内陸型の地震の方が、ある断層で発生する地震の周期が長いこと等に起因して、地震の規模や発生時期の予測がより困難だということである。

そうであるなら、原発の地震対策についても、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震」を想定すべきであり、それは、少なくとも我が国の観測史上の既往最大の地震、地震動を下回ることはないのである。ましていわんをや、我が国の原発敷地に襲来した地震動を下回る「基準地震動」が社会通念を根拠に正当化されることは到底あり得ない。

以上