◆原告第64準備書面
第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

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第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード
1 入倉・三宅の式よりも武村式等の方がMoが大きくなること
2 基準地震動の策定において用いられている入倉・三宅の式
3 基準津波の策定において用いられている武村の式
4 武村式と入倉・三宅の式を使い分けることの矛盾・恣意性


第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード


 1 入倉・三宅の式よりも武村式等の方がMoが大きくなること
既に島崎証言を踏まえて述べたところであるが、入倉・三宅の式は、他の式に比べてMoが過小に評価される傾向にある(原告第43準備書面など)。被告関西電力はFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層の長さ63.4キロメートルで、マグニチュード7.8に相当する地震について各式を当てはめてみると、同被告が同地震について示した震源パラメータは以下のとおりであるから(丙28[10 MB])、次の表1のとおりとなる。

断層長:L=63.4km、L=4019.56km
断層幅:W=15km
断層面積:S=951km、S2=904401km
断層傾斜角:δ=90°

表1 大飯原発の想定地震の地震モーメント(Mo)《表省略》

つまり、同じ震源パラメータを用いて経験的スケーリング則が異なる4つの方法で地震モーメントを比較してみると、入倉-三宅の式のSを使って求めたMoを1としたとき、武村式のLを使って求めたMoが3.5倍、武村式のS2を使って求めたMoが4.7倍になるのである。また、新「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(レシピ)」(甲383)のMurotani等の式を使った場合でも1.89倍になる。

 2 基準地震動の策定において用いられている入倉・三宅の式

被告関西電力は、基準地震動に関し、想定地震であるFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)を、Mo=5.03×1019(N・m)としている(丙28[10 MB]・42頁)。

この計算には入倉・三宅の式が用いられている。このことは、上記震源パラメータを、Mo∝Sのスケーリング則が成り立つという入倉-三宅の式(Mo=5.562×1013×S2)に当てはめると、

Mo=5.562×S2×1013=5.03×1019(N・m)

となり、被告関西電力が算出したMo(Mo=5.03×1019(N・m) 丙28[10 MB]・42頁)と一致することからも裏付けられる。

 3 基準津波の策定において用いられている武村の式

被告関西電力は、基準津波動に関し、想定地震であるFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)を、Mo=1.79×1020(N・m)としている(準備書面(2)[12 MB]14頁図表5)

この計算には武村式が用いられている。このことは、上記震源パラメータを、現在、わが国において、地震に伴う津波高を算定するにあたって一般的に用いられている武村(1998)の論文による式(Mo=4.365×1016×L(N・m))に当てはめると、

Mo=4.365×L×1016=1.79×1020(N・m)

となり、被告関西電力が基準津波の策定にあたって算出したMoと一致することからも裏付けられる。

この武村式は、日本周辺の地殻内断層の断層パラメータを集めて求められた関係式である。これに対して入倉・三宅の式は世界中の地震データを基にして求められた関係式であるから、日本における地震動のみから導かれた武村式の方が、より日本の地震動の地域特性を表しているということができる。

 4 武村式と入倉・三宅の式を使い分けることの矛盾・恣意性

このように、同じ想定地震について、基準地震動の策定にあたっては入倉・三宅の式を用い、基準津波の策定にあたっては武村式を用いているのが現在の被告関西電力の手法である。同じFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層についてのMoを求めるのに、一方では武村式を使い、他方では入倉・三宅の式を用いるのであろうか。ダブルスタンダードに他ならず、矛盾であり、恣意的ですらある。この結果、基準地震動は過小評価となっているのである。

少なくとも、被告関西電力は、同断層について基準津波を策定するにあたってはMoが大きくなる武村式を用いているのであるから、基準地震動についても同様に武村式を用いるのが、より安全に、保守的に検討するということに他ならないのに、そのような保守的な観点から策定されていないことは明白である。しかも、上記のとおり武村式は日本周辺の地殻内断層の断層パラメータを集めて求められた関係式であるから、より日本の地震の特性を反映しているといえるのであり、それを用いない理由はない。

武村式を用いればより安全側の評価となることは、入倉も、「武村による経験式は7.5×1025dyne-cm以上の地震モーメントの地震ではSomerville et al.(1999)やMiyakoshi(2001私信)による震源インバージョンからの断層面積やWells and Coppersmith(1994)でコンパイルされた余震分布からの断層面積に比べて顕著に小さい断層面積を与える。この理由は断層長さと地震モーメントに関するShimazaki(1986)の関係式と同様、断層長さや幅を求めるときの定義の違いかあるいは日本周辺の地震の地域性によるものか、今後の検討が必要とされる。断層面積が与えられたとき、武村(1998)の式による地震モーメントは他の関係式に比べて約2倍程度大きく推定され、安全サイドの評価となる。」(丙204[15 MB]「シナリオ地震の強震動予測」859頁)と自認しているところである。