◆原告第64準備書面
第3 活断層調査が不十分であること

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

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第3 活断層調査が不十分であること
1 少なくとも活断層の有無をできる限り調査する必要があること
2 熊本地震に関するトレンチ調査により断層活動の痕跡が複数発見されたこと
3 最低限の調査としてトレンチ調査が行われるべきこと
4 大飯原発を巡ってはトレンチ調査さえされていないこと
5 活断層調査が不十分であること


第3 活断層調査が不十分であること


 1 少なくとも活断層の有無をできる限り調査する必要があること
既に繰り返し述べているとおり、地震はいつ、どこで起こるか分からない。そのため活断層の有無に着目してみても無意味である。活断層がない、あるいは確認されていない場所でも、巨大地震は起こり得るからである。

もっとも、活断層の有無をできる限り調査すること自体は、最低限求められる作業である。断層活動の痕跡が見つからなくともそれは巨大地震が起こらないということを意味しないものの、その痕跡が見つかれば、巨大地震が発生する危険性がより高いことが判明するからである。

 2 熊本地震に関するトレンチ調査により断層活動の痕跡が複数発見されたこと

実際、それまでは知られていなかったものの、調査によって過去繰り返し断層活動を起こしていた可能性のあることが判明したケースがある。それが熊本地震後に行われた調査である。

すなわち、熊本地震後の調査により、深さ4メートルまで掘ってトレンチ調査を実施したところ、過去の断層活動によるものとみられる地層の変形が複数見つかり、過去1万3000年の間に計6回も活動した可能性があることが明らかとなったのである(甲498[85 KB])。当該調査の契機となった、熊本地震後に阿蘇山のカルデラ内で見つかった断層(地震を引き起こした西側の布田川断層帯の延長上で確認されたもの)は、それまでは知られていなかった断層である。
「深さ4メートルまで掘ってトレンチ調査を実施」しただけでも、断層活動の痕跡の有無は判明することになる。

 3 最低限の調査としてトレンチ調査が行われるべきこと

トレンチ調査は、活断層を横切るようにトレンチを掘削し、壁面に現れた断層及び地層のくい違いや変形を詳細に観察することで行われ、それによって、①その断層はいつ動いたのか、②その断層は何年周期で活動しているのか、③その断層は1回にどれくらい動いたのか、④断層の性質(走向・傾斜・地質・破砕帯等)その他様々な情報を知ることができる。長期的な地震発生の可能性を評価する上で必須の基礎的な項目であり、これらの究明のためには、トレンチ掘削調査か、これに代わるような高密度のボーリング調査が有効である。

活断層の実在、地下浅部での断層の微細な構造、延長方向等を把握するためにも、トレンチ調査は有効な手法であり、それによって多くのデータを得ることができることから、全国の断層でトレンチ調査が実施されている(甲499[1 MB])。

もちろんトレンチ調査をすればすべてが判明するというのではない。その意味で、トレンチ調査で知ることのできる情報にも大きな限界がある。原稿らはトレンチ調査さえすればよいと主張するものではなく、トレンチ調査をしても解明できない地震動に影響を与える要素は多数あり、そもそも活断層の有無を確実に判定できるものでもないが、それでも一応の有効性のある調査方法であることには変わりがない。最低限、トレンチ調査は行われるべきである。

 4 大飯原発を巡ってはトレンチ調査さえされていないこと

ところが、大飯原発を巡っては一応有効な手法であり「全国の断層で…実施されている」トレンチ調査さえされていない。過去数千年の間に断層活動によると考えられる地層の変形がないかどうかについて、一応有効とされている手法による確認がされていないのである。当然、基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層の存在する海中についてもこのような調査はなされていない。そうすると、これらの地域において、過去断層活動が起こっていないということが、地層を現認するというプロセスによって確認されていないことは明らかである。最低限行われるべき、一応有効かつ実施も容易なトレンチ調査さえ行っていないのに、断層活動の痕跡はなく活断層はないなどと断定できるはずがない。

また、上林川断層についても、リニアメントが確認できないだけでは活断層が存在しないことの裏付けとはならず、トレンチ調査やボーリング調査などのより詳細な調査が行われるべきことは既に原告第38準備書面において述べたところであるが、同断層の綾部市側では繰り返しトレンチ調査が行われているのに対し、反対側、即ち京都府と福井県との境界を越えて大飯原発寄りの側では一切トレンチ調査は行われていない。地質断層自体は境界を越えて延びているのに、行われたのは有効な手法であるトレンチ調査ではなく、単なる「踏破」による調査、すなわち目視による調査のみである。トレンチ調査さえ行われていないのに、福井県側の地質断層は活断層ではないと判断できるはずがない。

このように、大飯原発については、一応有効な手法であり「全国の断層で…実施されている」トレンチ調査がされていないのであるから、最低限行われるべき調査さえも行われていないことは明らかである。

 5 活断層調査が不十分であること

地表から見ただけでは活断層の有無は分かりにくく、最低限トレンチ調査などが行われるべきであるということは纐纈教授も指摘するところであるが(甲500[272 KB])、被告関西電力は一応有効かつ容易に実施することのできるトレンチ調査さえも実施しておらず、大飯原発周辺の活断層調査が不十分であることは明らかである。