◆関西電力 闇歴史◆074◆

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◆原発温廃水が海を壊す
 原発温廃水は、熱、化学物質、放射能の三位一体の毒物
 高浜原発近くで、温廃水によりソラスズメダイなどの熱帯魚が定着
 原発の停止で、周辺の海洋環境は劇的に改善したが…
 【付 火力発電と原子力発電の比較】
 【付 コンバインドサイクル発電】
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◆[1] 原発温廃水が海を壊す
  原発からは温かい大河が流れている
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小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)、2010年3月26日
情報・知識&オピニオン imidas(集英社)→こちら(図解あり)

上記サイトから、その要点をピックアップし、他のサイトの情報もあわせてまとめると、温廃水に関わる問題点は、以下の4点になる。

(1) 原発のエネルギー効率は33%しかなく、66%は温廃水として廃棄される

・現在の原発では、タービンの入口での蒸気の温度は約280℃で、実際の熱効率は0.33、すなわち33%しかない。つまり、利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てている。100万kWの原発の場合、約200万kW分のエネルギーを海に捨てることになる。

・海の取水口から毎秒70tの冷却水を取り入れ、2次系の水蒸気を冷やして水に戻すが、その結果、水温が7℃ほど上昇した温廃水を海に放出する。つまり、1秒間に70 tの海水の温度を7℃上昇させる。

・1秒間に70tの流量を超える川は、日本には30筋もないので、原発温廃水は「大河」といえる。

(2) 原発温廃水は、熱、化学物質、放射能の三位一体の毒物

・海から冷却水を取り入れるときには、配管を清掃するための化学物質、貝類の幼生などを殺す薬剤なども投入される。吸排水パイプにフジツボなどが付かないよう殺生物剤(次亜塩素酸ソーダなど)が使用されるので、海に流す温廃水には、当然、それらの物質が含まれている。

・さらに、作業員の汚染した衣服を洗濯したりする場合に発生する洗濯廃水などの放射性廃水も混入されて、排出されている。定期検査中には、近海の放射線量はさらに高くなるという。大量の温廃水の中に混入して、放射性物質の濃度を下げてしまえば、敷地外に捨てても濃度規制に引っかからないので、垂れ流し放題。温廃水は放射能の希釈水ともなっている。

・核燃料再処理工場は、原発以上に膨大な放射性物質を環境に捨てるが、再処理工場には原子力発電所のような「大河」はない。そこで、再処理工場の廃水は法律の濃度規制から除外されている。

(3) 温められた海水からはCO2が大量に放出される

・福島第一原発事故前の日本には54基の原発(電気出力で約4900万kW)があり、それが流す温廃水の総量は年間1000億t。日本のすべての川の水の温度を約2℃温かくすることになる。

・さらに、温められた海水からは、溶け込んでいた二酸化炭素(CO2)が大量に放出されるので、大気中の二酸化炭素を増やすことになる。原発が温暖化対策に役立つなどとはとうてい言えない。

【参考】原発の運転でも、炭酸ガスは増加
・2022年4月12日付けのチラシより。老朽原発うごかすな!実行委員会 →こちら
・原発では、原子核に閉じ込められた膨大なエネルギーを解放し、最終的には環境に放出するのですから、原発運転は、海洋を含む地球表面の温度を上昇させます。水への炭酸ガスの溶解度は水の温度が上昇すれば減少しますから、海洋の温度が上昇すれば、海洋に溶解していた大量の炭酸ガスの一部が大気中に放出され、大気中の炭酸ガス濃度が増加します。一方、原発の建設、核燃料の製造、使用済み燃料の保管、重大事故時の対策にも多量のエネルギーを要し、その過程で、炭酸ガスが発生します。また、これらの過程で使用されるセメントの製造工程で多量の炭酸ガスが発生します。

(4) 火力発電に比べて、原発には将来的に発展していく形がない

・最近の火力発電所(コンバインドサイクル発電)では500℃を超える高温の蒸気を利用でき、熱効率は50%を超える。つまり、100万kWの火力発電所の場合、無駄に捨てるエネルギーは100万kW以下で済む。

・もし、原子力発電から最新の火力発電に転換することができれば、それだけで海に捨てる熱を半分以下に減らせる。

・さらに、火力発電所を都会に建てて、熱を熱源として活用するコージェネレーション(co-generation)にすれば、エネルギー効率を80%にすることも可能。結局、原発には発展形がない。

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◆[2] 原発停止で温廃水も止まって
  周辺の海洋環境が劇的に改善
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中村隆市ブログ「風の便り」2014/03/06→こちら

・京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾教授は、2004年から若狭湾、高浜原発からおよそ2キロの地点(放水口から北東約2kmの音海[おとみ]という海域)で潜水による定点観測を続けている。この地点では、温廃水により周辺海域と比べ水温がおよそ2度高い。この2度が冬場、生き物の生死を分ける。

・原発停止直後(2011~12年の直後)の海の劇的な変化に、目を見張ったという。「予想よりはるかに急激でしたね。南方系の生き物がたちどころにいなくなって、それで本来の若狭湾の生き物が戻ってきたということですね」

【参考】高浜原発の運転状況
・高浜原発の1号機は1974年、2号機は1975年に運転開始。3、4号機は、1985年に運転開始。
・2011年から12年にかけて、1~4号機が定期点検で次々に運転停止。
・2015年4/14~12/24、高浜発電所の3号機と4号機について、福井地裁が、再稼働を認めない仮処分の決定を出した。
・2016年、3~4号機が再稼働。
・2016年3/9、高浜発電所の3号機と4号機について、大津地裁の仮処分の決定で運転停止。その後、2017年3/28に仮処分が覆されて、運転再開。
・現在、高浜原発は、3、4号機が再稼働されている。さらに、2023年には老朽原発1、2号機の再稼働も画策されている。万一こうなれば、海水温のさらなる上昇は必至。

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◆[3] 高浜原発の温廃水で日本海に熱帯魚が定着していた
  高浜原発周辺、2012年稼働停止でいなくなる
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産経フォト、2020年6月29日→こちら
福井新聞ONLINE、2020年6月30日→こちら

・関西電力高浜原発からの排水で海が温められることで、周辺に熱帯魚が定着していたとの研究結果を、京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾教授が6月29日までにオンライン科学誌プロスワンに発表した。海流で南から運ばれてきた幼魚が越冬に成功したとみられるが、東日本大震災後に稼働停止するといなくなった。

・原発稼働中、周辺の海水温は2度高く、地球温暖化が進んだ2050年ごろの状態に相当する。益田さんは「生息域が拡大して良かったという話ではない。狭い日本海で多くの原発が稼働すると、元々いた魚や海藻が減少するなど、環境が大きく変わる」と指摘。原発の温廃水による局所的な温暖化の影響に注意を促した。

・益田さんは04~17年、冬に若狭湾内の高浜原発近くの海で潜水調査を実施。運転中は通常の海水温より7度高い排水が出るため魚の数や種類が増え、本来は越冬できないソラスズメダイやカミナリベラなどの熱帯性の魚も生息していた。12年に高浜原発が止まると、水温は低下して元に戻り、熱帯魚は死滅したり見られなくなったりしたという。

【参考:ソラスズメダイ】
 以下の写真は、Wiki の記事より。産経フォトのWebサイトには、益田玲爾教授によるソラスズメダイの写真が掲載されている。ブルーの綺麗な小魚(体長7~8センチ)。水温が18℃以下になると生きていけなくなる熱帯魚で、日本海も11月を過ぎると水温が下がるので、ここで最後を迎えるのが普通。

▲ソラスズメダイ。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より。ニック・ホブグッド、東ティモール(インドネシアに近い島国)にて

【参考:ハナイカ】
 全長7cm程の小型のイカ。2023年6月下旬には、紀伊半島より南の暖かい海に生息する「ハナイカ」が、高浜町でみつかった。地元の漁師が定置網に引っかかっていたところを見つけたとのこと。坂井市の水族館で展示されているが、水族館によると、福井県内で見つかるのはとても珍しいという。(→こちら

▲ハナイカ。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より。

【参考:ガンガゼ】高浜町沖の若狭湾では、冬でも南方の生物が見られる。長いトゲが特徴のウニの仲間「ガンガゼ」も、1年を通してよくみられる。2023年2月、京都大舞鶴水産実験所(京都府舞鶴市)の調査で確認された。同年7月、同じ場所に潜ってみた。水温は28度まで上がっていた。海底の岩場では、冬よりも多くのガンガゼ類を確認できた。約2キロ南には、関西電力高浜原子力発電所の放水口がある。2004年からこの海域を調査している同実験所所長の益田玲爾教授によると、原発の運転中は、他の場所に比べて水温が2度ほど高いとのこと。(→こちら

▲ガンガゼ。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より。

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◆[4] 京都・舞鶴湾から見える異変「南の魚が増えている」
  忍び寄る温暖化の影
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京都新聞、2022年5月7日
京都・舞鶴湾から見える異変「南の魚が増えている」 忍び寄る温暖化の影
 
・京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾教授の研究成果が報道された。原発稼働中、周辺の海水温は2度高く、地球温暖化が進んだ2050年ごろの状態に相当する。潜水調査を実施したところ、高浜原発稼動中には熱帯性の魚が生息していたが、2012 年に高浜原発が止まると熱帯性の魚はいなくなったとのこと。

[参考]伊方原発を早期に停止せよ、温廃水が瀬戸内海を温暖化
・長周新聞、2020年6月30日 →こちら
・山口県内の瀬戸内海側の漁業者のなかで、海の異変が深刻な問題になっている。・・・周防灘、伊予灘に面した海域では、火力発電820万kWと伊方原発202万kWから温廃水が大量に放出されており、「温暖化」しないわけがない。この上に中国電力の上関原発1、2号機(それぞれ国内最大出力の137万kW)を建設したときの惨状は明らかである。

【付 火力発電と原子力発電の比較】
・原子力発電って本当にハイテクなの?
 火力に比べ、原子力は筋の悪い技術!
・『電気のしくみ 発電・送電・電力システム』(佐藤 義久 著、丸善出版、2013年発行)より

(1) 蒸気温度…蒸気タービン入口の蒸気温度はハイテク度を端的に示す指標
・火力発電……1950年に450℃→2010年に620℃と、各段に進歩
・原子力発電…1950年代の285℃(BWR)、270℃(PWR)のまま、進歩せず

(2) 蒸気圧力
・火力発電……41気圧→310気圧
・原子力発電…BWRは70気圧、PWRは55気圧のまま

(3) 容量
・原子力発電…ローテクのまま、出力だけ恐竜のごとく肥大化した腕力機器

(4) 熱効率
・火力発電……22%(1882年)→53%(ガスコンバインドサイクル発電)。飛躍的に向上。100万kWの電気をつくったときに100万kWの廃熱を出す。
・原子力発電…33%程度のまま。100万kWの電気をつくったときに200万kWの廃熱を出す

(5) 発電機の回転数
・火力発電……3600rpm(60Hz)、3000rpm(50Hz)
・原子力発電…1800rpm(60Hz)、1500rpm(50Hz)

(6) 100万kWの電気をつくるとき
・火力発電……100万kWの廃熱。3657トン/hのCO2を排出する。
・原子力発電…200万kWの廃熱。運転時以外にはさまざまな段階でCO2を排出。処理困難な大量の高レベル放射性廃棄物、低レベル放射性廃棄物を排出する。

【参考】原発の発熱と崩壊熱
 出力100万kWの原発の場合、原子炉の中では、ウランが核分裂して3倍の300万kW分の発熱をしている。大地震の際は制御棒を入れて核分裂反応を止めるが、実は300万kWのうちの21万kW分の発熱は、ウランの核分裂で出ているわけではない。それまでに生成された「核分裂生成物」が原子炉の中に膨大にたまっており、「崩壊熱」を出している。
 制御棒でウランの核分裂反応を止めても、21万kW分の崩壊熱は止められない。膨大な発熱だ。福島第一原発の場合でも核分裂反応は止まったが、崩壊熱を止めることができないまま、電源が何もなくなり、冷やせないために炉心が溶けて、放射性物質が大量に出てしまった。
 
【参考】最新のコンバインドサイクル発電
 蒸気を使ってタービンを回転させ電気を発生させる際、熱効率を上げるにはタービン入口蒸気圧力と温度の両方を上げる必要があるとのこと。熱力学的には圧力・温度どちらか一方を上げれば効率は向上するが、圧力だけを高く設定するとタービン内で仕事をした蒸気が湿りやすくなり、湿った蒸気はタービン翼に悪影響(湿り蒸気によって引き起こされる最も顕著な現象は動翼の浸食)を与えるので、蒸気温度も高くする必要がある。火力発電はこうした点で技術開発が着々と進展していて、最新のコンバインドサイクル発電では、熱効率は60%にも達している。原子力発電では、1950年代の水準にとどまっていて、33%しかない。

【参考】「出力だけ恐竜のごとく肥大化した腕力機器」という記述は、『原発は滅びゆく恐竜である水戸巌 著(緑風出版)を思い出させる。

【付 コンバインドサイクル発電】
・コンバインドサイクル発電とは
 火力発電には、大きく2つの方式がある。
①燃料を燃やして水を沸騰させ、発生した蒸気により発電機(スチームタービン)を回す方式と、
②燃料を燃やして発生させた高温・高圧の燃焼ガスにより発電機(ガスタービン)を回す方式。
これらの方式の弱点は、いずれもタービンを回した後の蒸気や燃焼ガスが持つ熱が捨てられてしまうこと。

・この捨てられる熱を減らす技術が「コンバインドサイクル発電」。この方式は、ガスタービンによる発電とスチームタービンによる発電を組み合わせた発電方式で、ガスタービンコンバインドサイクル発電ともいう。

▲コンバインドサイクル発電とは…国立環境研究所 > 研究・技術 > 環境技術解説 > 地球環境 >「コンバインドサイクル発電」より(→こちら)。この図では、熱効率が59%になっている。

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