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◆原告第43準備書面
第2 藤原広行氏の書面尋問等について

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第2 藤原広行氏の書面尋問等について

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1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括



 1 藤原氏書面尋問の概要

函館地方裁判所に係属している別事件(平成22年(行ウ)第2号ほか)において,原子力規制委員会の地震・津波検討チームに外部有識者として参加した藤原広行氏(防災科学技術研究所社会防災システム研究部門長)の書面尋問が実施され(甲420-1),平成28年12月18日付けでその「質問回答書1」(甲420-2)が同裁判所に提出された。

「質問回答書1」では,概ね,第1項から第6項までは基準地震動一般に関する質問・回答,第7項から第13項までは青森県下北郡大間町に立地する大間原子力発電所の基準地震動に関する質問・回答となっている。このうち,後半の第7項から第13項までの質問について,藤原氏は,大間原子力発電所の設置変更許可申請書の送付を受けていながら,「現状私が把握している情報のみからは適切な回答を述べることができません。こうした審査に関わる内容について,専門家としての見解を述べるためには,事業側及び審査側からの詳細な説明を受けた後,その内容に対して質疑を行い,それに対する回答を踏まえた上での判断を行い,考えを取り纏めるというプロセスが必要です。これが実現できない状況では,責任のある発言を行うことができません。」と述べ,回答を差し控えている(但し入倉・三宅(2001)に関する第11項を除く)。回答がなされたものについても,非常に慎重な言い回しがなされている。

このように,藤原氏は極めて慎重な態度で函館地裁の書面尋問に臨んだのであり,それだけに,回答がなされた部分については,強震動地震学の専門家として責任ある見解が述べられたものと解することが出来る。

 2 検討用地震の選定の妥当性

藤原氏は,新規制基準に自身の意見が反映されていないところとして,「表現が定性的で定量化されていない部分が残っているところ」(2(2))と証言した。

その上で,検討用地震の選定の妥当性の基準について,「判断の前提となる地震動のハザードについて確率論的なモデルを構築した上で,安全目標に照らし,超過確率等の定量的な指標に基づき基準が定められるべきと考えます」(2(3))と証言している。

例えば,被告関西電力は,大飯原発の基準地震動策定に当たり,内陸地殻内地震について,FO-A~FO-B~熊川断層から発生する地震,上林川断層から発生する地震を検討用地震として選定しているが,何故それを採用するのが妥当と言えるのかについて,確率論的なモデルの構築も,定量的な評価も,安全目標との照合も,何も行っていない。

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 3 不確かさの重ね合わせの必要性

藤原氏は,不確かさの考慮についての基準として,「様々な種類の不確かさが残っている現状を考えますと,個人的な意見ではございますが,個々のパラメータごとに不確かさを考慮するだけでなく,必要に応じて不確かさの重ね合わせを適切に行うことが必要であると考えます。特に,認識論的不確定性がある中では,不確かさを重ね合わせて評価することが重要と考えます。」(2(4))と証言し,不確かさの重ね合わせの必要性を強調している。本件において,被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層について,短周期の地震動レベル,断層傾斜角,すべり角,破壊伝播速度,アスペリティ配置について,基本的に重ね合わせがないものとし,短周期の地震動レベルと破壊伝播速度の不確かさを重ね合わせる場合にも短周期の地震動レベルを1.25倍に切り下げてしまっているが,恣意的であって基準地震動を抑制する意図によるものと言わざるを得ない。不確かさの重ね合わせが極めて不十分であり,地震動についての知見の未成熟性を補うことが出来ていない。

さらに,藤原氏は,「我々の認識が足りないところ,あるいは方法論としてもまだ不成熟で足りないところ,いろんなタイプの不確かさ」を考慮する方法として,「認識論的な不確定性についてはロジックツリーなど用いたモデルを構築することが望ましい」(2(5))と証言している。しかし本件において被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層の応力降下量に関し,Fujii and Matsu’ura(2000)という認識論的不確定性が非常に大きい知見を採用していながら,それを補うためにロジックツリーなど用いたモデルを構築するようなことは一切行っていない。

 4 偶然的ばらつき

藤原氏は,松田式や入倉・三宅式のばらつきについて,「偶然的ばらつきとして扱う必要がある」(6(2))「必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要がある」(6(1))と証言している。また,「偶然的ばらつきに関しては確率変数としてハザード計算を行うことが望ましい」(2(5))とも証言している。

しかし本件において被告関西電力は,松田式や入倉・三宅式の偶然的ばらつきに関しては一切無視し,これを考慮していない。

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 5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ

藤原氏は,入倉・三宅式を用いて地震モーメントを推定する場合の過小評価のおそれを指摘する島崎氏の見解について,「妥当性については一概には言えません」(11(1))としつつも,「島崎氏が懸念する条件がそろった断層での地震動の評価に関して,従来から用いられている手法を適用し,かつ,ばらつきなど考慮せず平均値のみを用いると仮定した場合に限っては,妥当な場合もあり得る」(11(2))と証言している。

本件において,被告関西電力は,西日本の横ずれ断層であるFO-A~FOB~熊川断層につき,断層傾斜角は基本的に鉛直,地震発生層の厚さは15kmと想定しており,島崎氏が懸念する条件はそろっている。ここにおいて入倉・三宅式を適用するに当たり,従来から用いられている手法を適用しており,ばらつきなどは一切考慮していない。したがって,藤原氏の証言によっても,島崎氏の指摘は本件において妥当すると言うべきである。
さらに藤原氏は,入倉・三宅式による過小評価のおそれを解消ないし低減させる方法の一案として,断層下端の深さについて深めに設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張すること,及び入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことを証言している(11(3))。なお,藤原氏は新聞社のインタビューでは,「断層の幅を18キロ以上に設定することにしておけば,(入倉・三宅式による)過小評価の危険は減らせる」「極めて高い安全性が求められる原発の基準地震動の場合は,十分な余裕をみて断層の長さや幅を大きく設定しておくことが必要だ。関西電力大飯原発のように活断層のすぐそばにある原発は,特に大きな余裕を見ておかなければならない」とコメントしている(甲421)。

本件において被告関西電力は,FO-A~FO-B~熊川断層の断層下端深さは18kmにしか設定していないから深めの設定とは言えず,断層上端も地表3kmの位置にしか設定していない。入倉・三宅式のばらつきを考慮したパラメータ設定もしていない。断層幅は15km(傾斜角75°以外のケース)若しくは15.5km(傾斜角75°のケース)に過ぎず,断層が敷地近傍にあることに鑑みた特に大きな余裕の設定もしていない。

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 6 震源を特定せず策定する地震動

「震源を特定せず策定する地震動」の「各種不確かさ」の扱いについて藤原氏は,「長期的な課題として検討が必要なもの」と断りつつも,「敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮することができるように,実際に観測された地震動記録の位置付けを確認したうえで,将来起こりうる地震動を包含するようなハザードモデルを構築し,地震動レベルの設定を行う必要がある」(3(2))と証言している。

藤原氏において,本件で被告関西電力が行っているような,特に既往最大という訳でもない,偶々観測された北海道留萌支庁南部地震HKD020観測点や鳥取県西部地震賀祥ダムの各観測記録を直接用いるような方法では,不十分であると認識していることは明白である。

 7 小括

以上の通り,藤原氏の証言からしても,本件基準地震動が不十分,不適切なものであることは明白である。

その原因の1つは,原子力規制委員会において,基準地震動に係る新規制基準の検討を十分に行われないままこれを施行し審査を進めていることにある。不十分な規制基準に基づく適合性審査では大飯原発の耐震安全性は確保されない。

以上

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◆原告第43準備書面
第1 基準地震動が過小評価であること

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第1 基準地震動が過小評価であること

目 次 (←第43準備書面の目次に戻ります)

1 レシピ(ア)と(イ)の適用について
2 レシピ修正に至る経過等
3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について
4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について
5 活断層として認識できる長さについて



 1 レシピ(ア)と(イ)の適用について

  (1)はじめに

名古屋高裁金沢支部において島崎証人は,被告関西電力が入倉・三宅式の適用を誤っているため,本件原発の基準地震動が過小評価になっていることを明確に証言した(甲382)。島崎証人の結論は,地震本部のレシピの修正を踏まえ,本件原発の基準地震動策定においてレシピ(ア)を用いることは過小評価となる,というものである(同・30~34頁)。

島崎証人は,日本を代表する地震学者として,また活断層ないし活断層調査の専門家として,規制委員会の発足当初の委員に就任し,本件基準地震動の審査についても途中まで担当してきた。本件基準地震動に関し,FO-A~FO-B~熊川断層の三連動や地震発生層の上端深さ3kmを基本ケースとして設定することとなったのも,いずれも島崎証人が委員として尽力した結果であり,島崎証人退任後の審査において本件原発の基準地震動に実質的な変更はない。

島崎証人は,委員退任後,日本海の津波想定について検討している過程で入倉・三宅式による過小評価のおそれに改めて気づき,自らが担当していた審査の見落としを指摘するようになったのであり,国の機関である地震本部もその問題提起を受けてレシピを修正せざるを得なくなっている。もし島崎証人が委員退任以前から入倉・三宅式による予測の問題に気づいていれば,被告関西電力は,レシピ(ア)による基準地震動の策定を行うことはできなかったはずである。島崎証人がこの問題に気づいたのが偶々委員退任後であったため,島崎証人の意見に対して被告関西電力は耳を貸さず,さらにはレシピの修正さえも無視し,再稼働に前のめりになっている。その結果,レシピ(ア)による過小評価が未だにまかりとおっているのである。

基準地震動の審査を担当していた最高責任者の一人が,自ら,本件基準地震動の過小評価のおそれを具体的に指摘したのである。その意味は誠に重大であって,本件基準地震動が過小評価であることが十分に裏付けられたといわなければならない。

  (2)レシピ修正と規制基準の規定について

「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(以下「地震動ガイド」という。)I.「3.3.2 断層モデルを用いた手法による地震動評価」の(4)「①震源モデルの設定」1)では,「震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究推進本部による『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認する。」と規定されている。つまり,規制基準は,地震本部の最新のレシピなどによって震源断層のパラメータを設定することを求めているのである。

そして,平成28年12月に「修正」ないし「表現の誤り等を訂正」されたレシピ(甲383,384)では,震源断層モデルの設定に関し,入倉・三宅式に係る(ア)と(イ)についての表題の規定が改められた。また,レシピ冒頭には,「ここに示すのは,最新の知見に基づき最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論であるが,断層とそこで将来生じる地震およびそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見は未だ十分とは言えないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい。」という規定が新たに設けられた。こうして,レシピは「最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論」に過ぎないことが明記されたのである。つまり,施設の重要性に鑑みて確率は低くとも甚大な被害を及ぼし得る強震動を考慮しなければならない場合については,レシピに記載された方法論に満足することなく,さらに相応の保守性を確保できる手法を模索すべきとのメッセージがより明確に発せられることになった。

続く「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合」に,とりわけ高度の耐震安全性が求められる原発の基準地震動を策定する場合を含むことは明らかである。レシピを用いて基準地震動を策定する場合,現象のばらつきや不確定性に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが求められることはいうまでもないが,このような記載を推本が敢えて「表現の誤り等を訂正」する形で新たに盛り込んだのは,原発の基準地震動において「レシピ」が適用されている場面での計算手法や計算結果の吟味・判断が不十分な現状があったからに他ならない。

また,この「計算手法と計算結果を吟味・判断した上で」という規定の具体的な意味について地震本部事務局は,平成28年11月8日に開催された地震本部の強震動評価部会第158回強震動予測手法検討分科会において,「特に(ア)の方法を使う場合には,例えば,併せて(イ)の方法についても検討して比較するなど,結果に不自然なことが生じていないか注意しながら検討していただきたいという趣旨である」と説明している。レシピには従前より,「活断層で発生する地震は,海溝型地震と比較して地震の発生間隔が長いために,最新活動時の地震観測記録が得られていることは稀である。したがって,活断層で発生する地震を想定する場合には,変動地形調査や地表トレンチ調査による過去の活動の痕跡のみから特性化震源モデルを設定しなければならないため,海溝型地震の場合と比較してそのモデルの不確定性が大きくなる傾向がある。このため,そうした不確定性を考慮して,複数の特性化震源モデルを想定することが望ましい」(甲385・1~2頁等)という記載があった。この記載と平成28年12月の修正を踏まえれば,過去の地震記録がなく活断層調査による過去の活動の痕跡から震源断層モデルを設定しなければならない状況で,原発の基準地震動策定のような特に不確定性の考慮が必要な場合には,(ア)の方法のみでは保守的な想定として不十分であることは明白である。

また,レシピの「付図2 活断層で発生する地震の震源特性パラメータ設定の全体の流れ」では,レシピ(ア)は「地震観測等」,レシピ(イ)は「活断層調査」とされている。この記載部分からすると,基本的に,地震観測記録から震源断層を設定する場合は(ア),地震観測記録がなく活断層調査から震源断層を設定する場合は(イ)を用いるというのが本来のレシピの趣旨である。ところが,本文における記載に問題があり,調査がなされている場合でもレシピ(ア)を適用すればよいという誤解を招いていたため,平成28年12月修正のレシピでこの点を明確にしたものである。

設置許可基準規則の解釈(別記2)4条5項2号⑤には,「上記④の基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること。」と規定されている。これは,藤原広行氏が「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム」第3回会合において,単にばらつきとして捉えられるような不確かさだけではなく,「認識論的な不確かさとか,あるいは,我々が持っているこのモデルや,そういった知見の至らぬところから生じる限界」についても議論する必要があると提言した結果,記載されるに至ったものである(甲386)。こうして「各種の不確かさ」の考慮を要求する規制基準が,知見ないしモデル自体の不確かさの考慮や必要に応じて不確かさを組み合わせることを要請していることからしても,レシピ(ア)を考慮するだけでは足りないとするのが規定の趣旨に沿うものと言える。またこの審査基準からしても,レシピにおける「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合」に原発の基準地震動を策定する場合が当たることは明白である。すなわち,修正されたレシピの趣旨としても,原発の基準地震動策定の際には,(ア)の方法を用いるだけでは足りないのである。

  (3)纐纈氏の指摘

推本でレシピの作成・改訂を担当している強震動評価部会の部会長及び同部会強震動評価手法検討分科会の主査を務める,纐纈一起東京大学地震研究所教授も,近時,島崎氏と同氏の指摘を繰り返し行っている。即ち纐纈教授は,島崎氏の問題提起と自身による熊本地震の分析を経た上で,①大地震が起こる前にいくら詳細な活断層調査を実施しても震源断層の長さや幅を推定することは困難であること,②活断層の地震の地震動予測には(ア)よりも(イ)の方法を用いるべきこと,③電力会社が採用している(ア)の方法では過小評価になること,を述べているのである(甲387,甲388等参照)。

こうして,いずれもわが国の地震動研究の第一人者であり,片や規制委員会で本件基準地震動の審査に関わってきた島崎氏と,片や推本でレシピの作成・改訂を担当している強震動評価部会の部会長等を務める纐纈教授とが,一致して(ア)の方法によるだけでは過小評価であるとの指摘を繰り返し行っているのである。これらの事実は,本件基準地震動の過小評価性を十分に証明している。

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 2 レシピ修正に至る経過等

  (1)事実経過

   ア 試算結果
島崎氏は,陳述書において,本件原発の基準地震動が過小評価であるおそれについて指摘した。このことがマスコミ等でも報道されたが,平成28年6月2日付中国新聞の記事では(甲389),原子力規制庁及び島崎氏は,平成26年の時点で,長沢啓行大阪府立大学名誉教授の指摘を受けて,入倉・三宅の式による過小評価のおそれを認識していたものの,対応を先送りしていたことが明らかとなっている。島崎氏は,長沢氏の指摘について,「ポイントを突いた議論だった」と述べている。

こうした状況を無視できなくなった原子力規制委員会は,同月26日,島崎氏を招聘して面談し,その際に他の式で本件下発の基準地震動を再計算するよう指摘を受けたことから,同月20日の会合において再計算を行うことにせざるを得なくなった(甲390,391)。その結果,7月13日の会議で,入倉・三宅の式を武村式に入れ替えたときの本件原発の基準地震動の試算結果が報告された。その結果は,入倉・三宅の式を用いた従来の評価と比較すると,地震モーメントが3.49倍,短周期レベルが1.51倍(後に1.52倍に修正),アスペリティ応力降下量が1.58バイトなり,基準地震動に至っては約1.8倍になるというものであった(甲392)。ところが原子力規制庁は,武村式の試算結果について短周期を1.5倍する等の不確かさの考慮を行わなかったため,これを用いても従前の基準地震動のレベルに収まるという結果になるとし(同),よって基準地震動の見直しは必要ないとの報告を行った。

こうして田中委員長は,この問題の「打ち切り」を宣言したのである(甲393)。同日の記者会見において同人らは,結果を見て島崎氏が納得したかのような発言を行った(甲394)。

   イ 島崎氏との再面談
ところがこれに対して島崎氏が,今回の委員会の議論や結果については納得していないこと,同じ条件を設定すれば武村式を用いた場合の地震動は近似値で1080ガルとなること,短周期1.5倍のケースでは1550ガルにも成ること等を述べ,再計算を求めた(甲395,396)。

そこで7月19日,委員会は再度島崎氏と面談を行った。この面談において規制庁側は,武村式で算出した地震モーメントを前提としてレシピに従い計算すると,アスペリティの総面積が断層面積の倍近くになり「入り口のところでつまづいてしまう」こと,アスペリティ応力降下量の算出につき短周期レベルと矛盾しないものを算出するという方法で22.3MPaとしたが,背景領域の応力降下量が普通に理解されているものの3倍程度になってしまうなどと述べた(甲397別紙)。これに対し島崎氏は,規制庁の試算結果について,断層面積が同じ状況で地震モーメントが3倍になるということは,ずれの量が3倍になるということであり,応力降下量も大きくなることから,「それは矛盾ではなくて,最初の式を変えた結果そのもの」であり,「きちんとパラメーターを選んで頂いている」と評価した(同)。さらに,地震本部や中央防災会議でも入倉・三宅の式以外の式に基づいて震源の大きさを推定して地震動を求める手法が用いられていることから,同式を用いなくてもよいのではないかということや,最新の強震動観測記録の利活用,強震動の専門家の提案の検討,複数機関への計算の依頼などを提案した。また,武村式を用いた場合でも短周期レベル1.5倍の不確かさの考慮を行うべきであるとも述べた(同)。

しかし田中委員長は,「これは駄目だといっているのですよ」「今回は無理をしすぎて,やってはいけないことをやった」などと述べ,委員会が出したばかりの試算結果の妥当性を自ら否定した(同)。専門家の意見を聞くことが重要との島崎氏の指摘に対しても,「そういうことをやる余裕はないし,やるべき立場にもない」と述べ,そういったことが可能であるが行わないと述べてこれを排斥した。

   ウ 再度の検討終了宣言
7月27日の会議において,入倉・三宅の式を用いる以外の方法については「科学的・技術的な熟度には至っていない」との発言があるなど,この問題についての検討終了が再度宣言された(甲398)。

  (2)明らかとなった事実

   ア 入倉・三宅の式による過小評価のおそれ
何より,例えば「入倉・三宅式は,ほかの関係式に比べて,同じ断層長さであれば地震モーメントが小さく算出されるという,そういう可能性も有していることは頭に置いてやっていきます」(甲398・10頁),「絶対的に入倉・三宅式がいいと我々は判断しているわけではない」(甲399・6頁)と述べるように,島崎氏が指摘した入倉・三宅の式による過小評価の危険性自体については,規制委員会も規制庁も否定していないということを確認する必要がある。

それにもかかわらず同式を用いる理由として,規制委員会は,同式を用いる以外の手法が地震動評価手法として未確立であるという点を挙げるようである(甲397・25頁)。しかし,そのことと島崎氏の指摘を排斥することとは連動しない。入倉・三宅の式による過小評価の危険性が指摘されているのであるから,例え評価手法が未確立であっても,その分だけ十分に安全側に余裕を持った想定を行うことは最低限の措置として可能であり,それこそが「不確かさの考慮」である。藤原広行・防災科学技術研究所部門長も,規制委員会の結論は島崎氏の指摘に正面から応えていないこと,熊本地震の結果も含めてより時間をかけて検討すべきことを指摘しているところである(甲400)。

   イ 規制庁自身が行った試算結果の重要性

そうした中であってさえ,規制庁が,武村式を用いた場合の地震動評価が入倉・三宅の式を用いた場合に比べて約1.8倍になるという試算結果を示したことは極めて重要である。島崎氏の指摘により,不確かさの考慮で短周期を1.5倍等しなくても試算結果が基準地震動を超える可能性が判明したため(甲395),委員会は試算結果の妥当性を否定することに躍起になったが(甲397「やってはいけないことをやった」,甲399「撤回といえば撤回」),規制庁よりもさらに専門性の乏しい規制委員会に,規制庁が公式に報告した試算結果を全否定できるものではないし,それによって試算結果の意味するところの重大性が減殺されるものでもない(規制庁は妥当性を否定していない。甲401「我々が撤回するのは多分ない」,「そういうことを目的として使うということには,もしかしたら使えるかもしれないとは思います」)。

武村式の適用によって地震動が約1.8倍も大きくなったということは,垂直ないし垂直に近い断層について,仮に入倉・三宅の式による過小評価の性質が,島崎氏の指摘を無視して短周期等の1.5倍の不確かさの考慮で補えるものであると考えても,なお過小評価の誹りを免れないということになる。武村式を盛り込んだ妥当な予測手法を用いた場合,地震動がこれまでの1.8倍以上に大きくなる可能性も否定できないのである。

なお,レシピに従って試算するとアスペリティの面積が断層の面積よりも大きくなるという点(甲397)については,元々被告関西電力は,アスペリティ面積が断層面積の30%を超えた場合はその22%とする方法を採用しているのであるから(甲402・66頁),それと同様の処理を行えば足り,しかもそのことはレシピでも想定されている合理的な処理である(甲385・10頁)。よって,かかる理由付けは結論ありきの口実にすぎない。

   ウ 地震発生前に用いることができるのは震源断層の情報ではない
入倉・三宅の式をめぐる島崎氏の指摘は,地震学者の一定の支持を得ている。

この点に関し島崎氏は,「地震発生前の使用できるのは活断層の情報であって,震源断層のものではない」「断層の長さや面積などの断層パラメーターは,地震発生後に得られるものであって,事前に推定できる値とは異なり,大きくなることが多い」などと,地震発生前の活断層情報を入倉・三宅の式に当てはめた場合の過小評価の危険性について繰り返し指摘していることは既に述べたとおりであり,陳述書でも同旨を述べるが,規制委員会の担当委員として適合性審査の実務に携わった経験を踏まえても,被告関西電力が実施する活断層調査では必要な震源断層の情報が事前には得られないと断言しているということである。島崎氏は6月16日の木瀬委員会での面談時も「事業者はどちらかというと短い断層を好むわけで,地表の観測データから考えられるところを自ら進んで57kmという長い断層を提案する事業者はおそらくいない」と指摘するが(甲390,403),かかる指摘は基準地震動の過小評価の危険性を端的に表現したものである(甲404も参照)。

これに対して纐纈氏も同旨を述べて島崎氏の見解を支持し(甲387),さらに端的に,「原発の耐震評価で用いられている(入倉・三宅の式を用いる)地震動の予測手法を熊本地震に適用すると,地震動は過小評価になることがわかった」とも指摘する(甲405,406)。式の提唱者である入倉氏自身も,「断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性がある」などと述べているところである(甲407)。

   エ 入倉・三宅の式を用いることは相当でない
推本は平成21年に松田式を用いた修正レシピを作成しており,「全国地震動予測地図」での活断層地震の地震動評価等では,(ア)の手法ではなく松田式等による(イ)の手法を基本的に用いており(甲387),最新の「全国地震動予測地図」でも同じく松田式を用いる修正レシピを利用している(甲408,409)。さらに旧原子力安全委員会も,島根原発の耐震バックチェックの際の松田式を用いた修正レシピでの計算を行っている(甲403,410)。そうである以上,本件原発の基準地震動についても,入倉・三宅の式ではなく,松田式を用いた修正レシピを利用することができない理由はない。それなのに意図的にこれを行わなかったのである。

纐纈教授は「松田式を用いた後者の予測手法(注:修正レシピ)で計算した結果の方が,熊本地震の規模と地震動をより正確に再現できる」「(入倉・三宅の式を用いる)電力会社の手法では過小評価になる」(甲387)と述べており,さらに,「活断層が起こす揺れの予測計算に,地震調査委は09年の方式(注:修正レシピ)を使う。規制委が採用する方式(注:入倉・三宅の式を用いる方式)の計算に必要な『断層の幅』は詳細調査でも分からないからだ。これはどの学者に聞いても同じで規制委の判断は誤りだ」とまで述べている(甲411)。

震源断層について何らかの調査を行ったとしても,入倉・三宅の式による過小評価の危険性は何ら低減されないのであるから,同式を用いることは相当でないことは明白である。

  (3)レシピ修正に至る地震本部での議論

そもそも平成28年12月にレシピが修正されたことは,島崎証人が証言するように「非常に異例のこと」(甲382・31頁)であり,そのように異例の修正が行われた背景には,入倉・三宅式に係る島崎証人の問題提起によって規制委員会で本件基準地震動の再検討が行われマスコミにも取り上げられたことがある。このレシピ修正に至るまでには,地震本部で,少なくとも以下の分科会及び部会で検討され,平成28年12月9日の第298回地震調査委員会で最終的に決定されている。

上記で若干述べた事とも重複するが,情報開示資料も含めて以下改めて確認する。

  • 強震動予測手法検討分科会
    平成28年 7月15日第156回
    平成28年 9月 7日第157回
    平成28年11月 8日第158回
  • 強震動評価部会
    平成28年 9月14日第152回
    平成28年11月15日第153回

情報開示された資料には黒塗りが多く不明な部分も多いが,第156回強震動予測手法検討分科会及び第152回強震動評価部会での議論状況は議事概要からある程度分かる。

第156回強震動予測手法検討分科会の議事概要によると,★★(纐纈一起主査か?)より,レシピから(ア)の手法を削除した方がよいという提案があった。これに対し△△(入倉孝次郎委員か?)が反発した。

第152回強震動評価部会における纐纈一起部会長の資料によると,同部会において,纐纈部会長は,熊本地震について分析した結果,「入倉・三宅式や松田式に問題はない」(同5頁)としつつ,長期評価に基づいて事前に想定されていた断層の長さ及び幅(地震発生層の深さ)が,地震発生後に判明した震源断層の長さ及び幅よりも過小になっており,その結果,予測手法としてレシピ(ア)を使うと,地震規模が過小評価になっていることを示した(同6~9頁)。

「『予測手法』(ア)はなぜうまくいかないのか?」について,纐纈部会長は,鳥取県西部地震や福岡県西方沖地震という近年のほぼ鉛直な横ずれ断層から発生した地震のデータを示して「大地震の震源断層の下端は地震発生層からさらに深い部分に及ぶことが多い。」と述べ,また,Wells and Coppersmith(1994)のデータを示して「震源断層は地表には現れない部分が存在し,その長さは地表地震断層より長いことが多い」とした。そして,「結果として,幅も長さも短く予測されてしまうので,面積がかなり小さく決まってしまう(熊本地震では実際の半分以下)。そのため,面積から決まるMが過小評価となる」という見解を示した(同10頁)。

纐纈部会長は「まとめ」として,「たとえ詳細な調査が行われたとしても,活断層や地震発生層の調査から将来の地震の震源断層の面積を精度よく推定することは困難であることが,熊本地震の実例で明らかになった」「そのため,震源断層面積から予測を始める(ア)より,活断層調査で精度よく求まるといわれる地表地震断層の長さなどから予測を始める(イ)の方が安定的である可能性が高い。全国地震動予測地図では活断層の地震に対して(イ)のみを用いている」「以上を踏まえ,『予測手法』における(ア)のセクションタイトルを,『(ア)過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合』から『(ア)過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合』に替えたらどうか.」「同じく(イ)のセクションタイトルを,『(イ)地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合』から『(イ)その他の場合』に替えたらどうか.」等の提案を行った(同12~13頁)。

第152回強震動評価部会の議事概要(案)によると,同部会では纐纈部会長の資料と提案は概ね肯定的に受け取られた。☆☆(入倉孝次郎委員か?)からも,「(纐纈委員の)資料に書かれていることは正しいし,分析も正しいと思っている」「(ア)を直接実施しようとすると,不確定性がまだ残っている。」「(ア)の方法は重要だし,(イ)の方法も重要である。両方やることには賛成」等とコメントされている(同5,6頁)。

少なくとも,平成28年12月のレシピ修正は,熊本地震と日奈久・布田川断層の長期評価を踏まえ,強震動地震学の第一人者である纐纈一起氏(東京大学地震研究所教授)の提案により,入倉・三宅式の作成者である入倉氏や三宅氏を含む多くの専門家の間での議論を経て決まったことは明らかである。以上の経緯を踏まえれば,このレシピの修正は,過去の地震記録がない場合,(ア)のみでは安定的とはいえないという趣旨からなされたものである。修正されたレシピの解釈についての島崎証言(甲382・31~32頁)に誤りはない。

被告関西電力は,レシピ(イ)の方法を用いずにレシピ(ア)を用いる理由として,詳細な調査に基づいて得られた震源断層の調査をより直接的に反映することができるからであると主張するようである。だが,2016年(平成28年)9月14日付けの地震本部事務局作成資料「『レシピ』の一部記述表現について(案)」に記載されているとおり,また原告らが繰り返し指摘しているとおり,現状では仮に調査・研究にベストを尽くしても得られる知見や情報は質・量とも不完全である(甲412)。それにもかかわらず,被告関西電力は,未だ震源断層の長さや幅を正確に特定でき,レシピ(ア)のみで信頼性の高い地震動予測が行えるかのような立場を取っているのである。

安定的な地震動評価をするためにレシピ(ア)のみでは足りないということが震本部の専門家の間でも妥当な方法として認められ,レシピの表現が修正されるに至ったのであるから,特に十分に保守的な評価が要求される基準地震動の策定において,レシピ(ア)を用いるのみでは過小評価の危険が極めて大きいことは当然である。真に「十分に保守的な評価」をするのであるならば,レシピ(ア)を用いるのみでは著しく不十分なのである。

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 3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について

被告関西電力は,本件原発について,詳細な調査をし保守的な想定をした旨主張し,入倉・三宅式による地震モーメントの過小評価のおそれがないかのような主張をしている。だが,島崎証人が証言したとおり(調書22頁),被告関西電力の「詳細な調査」や「保守的な想定」によっても入倉・三宅式による事前推定の問題は無くならない。

まず,被告関西電力がFO-A~FO-B~熊川断層等について特に詳細な評価をしたという事実はない。FO-A~FO-B断層については海上音波探査が実施されているが,これはせいぜい表層200m~300m程度を調べたに過ぎない。熊川断層については反射法地震探査が行われているが,やはり表層200m程度までしか調べられていない。これで地下3kmから18kmにあるとされている震源断層の長さを事前に正確に設定できるはずがない(甲382・23頁)。

被告関西電力は,C層上面に断層活動による段差が認められるかどうかが重要なのであるから,海底下約120m~130mだけを調査すれば十分であるかのように主張する。だが,そのような被告関西電力の主張が成り立つためには,震源断層が活動した際にその長さに対応するよう,直上の地層には必ず段差(変位,ずれ)が生じると言えなければならないが,そのような一般則は存在しない。むしろ,纐纈一起氏が地震本部で示したように,震源断層には地表に現れない部分が存在するため,地表地震断層の長さは震源断層の長さよりも一般に短い。それは即ち,地表に段差が現れる長さは地下の震源断層の長さよりも類型的に短いことを意味している。「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトの総括成果報告書」(甲413)によると,反射法・屈折法による地殻構造調査(同2-1)やマルチチャンネル等による海域地殻構造調査(同2-2)によって,新潟県から秋田県にかけての一部領域における深部地下構造のイメージングが行われ,地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の存在が明らかになっている。こうした手法により,地下18km程度の断層の調査も決して不可能ではないのである。被告関西電力は,できるのに行っていないのである。なお同報告書では,1964年新潟地震(Mw7.6)に関連する活断層調査から,地震が発生しても震源域の一部でしか海底に変位が出現しないことも示されている(同82頁)。

地下3kmから18kmに存在する設定となっている震源断層の長さについて,「想定外」を無くすためには地下18km程度まで詳細に調査するのが本来であるが,最低限地下3kmまでは調査すべきである。東京電力は,平成10年度国内石油・天然ガス基盤調査陸上基礎物理探査「西山・中央油帯」の地震探査記録や昭和44年度天然ガス基礎調査基礎物理炭鉱「長岡平野」の地震探査記録を適合性審査資料で引用し,地下数km~6km程度の地下構造を示している(甲414。甲415も参照)。石油や天然ガスのための調査ですら地下数km程度まで実施するのであるから,基準地震動の評価に当たって同程度の調査は被告関西電力も当然実施すべきであり,またそれは十分可能であるはずのところ,これを行っていない。

また,震源断層の幅は震源断層の長さよりもさらに事前推定が困難である。被告関西電力は地盤速度構造や微小地震の分布から地震発生層を設定しているが,それで大地震の震源断層の幅が精度良く設定できるという実証的な検討はなされていない。島崎証人も「断層幅を大きく取れば何とか一致させることができますよと。でも,そんなのは事前には設定できませんね」(調書31頁)と証言している。第156回強震動予測手法検討分科会でも,★★(纐纈主査か?)から「個人的には,構造調査から大地震の震源断層の下端が分かるとは,とても思えない」「微小地震による地震発生層の詳細な調査が,将来発生する大地震の震源断層とは等しいとは限らない」等の発言があり,△△(入倉委員か?)からも「下端は分からない」「(下端を特定するためには)10km掘って構造物性を調査する必要がある」等と言及されている。地震発生層の上端深さについても,事前設定は容易ではない。1995年兵庫県南部地震や1927年北丹後地震では,断層破壊に伴って地表面にもすべりが生じたことが知られている。特に原子力発電所のような硬質地盤の場合には地震動を発しうる領域の上限深さを決めることが難しい場合も考えられる(山田ほか(2015))(甲416・78頁)。熊本地震でも,2014年長野県神城断層地震と同様,顕著なずれは明らかに浅部にあるとされ(鈴木ほか(2016))(甲417・845頁),熊本地震による断層近傍の強震動を再現するには深部だけでなく表層付近の影響を含める必要がある(長坂ほか(2016))(甲418)。平成28年11月15日の地震本部強震動評価部会では「参考資料8活断層の長期評価に基づく強震動評価の改良(2)-上端深さ0kmとした活断層の震源断層モデル化に関する検討―(防災科研資料)」(甲419)が配布されており,震源断層の上端深さの設定の不確定性とこれに関する強震動評価の問題は地震本部における検討課題となっている。

地下の震源断層の面積を事前に特定することは極めて困難であり,まして被告関西電力が行っているようなごく表層付近の調査では不可能である。

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 4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について

被告関西電力はFO-A~FO-B断層~熊川断層の断層長の設定について,活断層研究会の『新編日本の活断層』よりも断層長さをやや長く設定していることをもって保守的な評価と言いたいようであるが,そういった既往文献での調査では密に観測しているわけではなく,島崎証人がいう「普通の調査」(甲382・23頁)をしているに過ぎない。本件原発のために測線を増やせば被告関西電力が設定しているような値になるのは当然であって,特に保守的ということはない。島崎証人も,「これが存在しているのでこの値にしたというだけで,保守的なところはどこもありません」「保守的ではなくて,正にこれはあるものをそのまま書いたというだけのこと」(同頁)等と証言している。

また,被告関西電力は,本件原発の地震動評価について,断層の幅(地震発生層の厚さ)については,十分に保守的な長さとして設定していると主張している。しかし,実際には地震本部よりも非保守的である。FO-A~FO-B~熊川断層は地震本部において強震動評価の対象となっていないが,その周辺の震源断層モデルのパラメータから,仮にFO-A~FO-B~熊川断層を地震本部が評価した場合の地震発生層や断層幅の設定を推認することができ,上林川断層は地震本部のパラメータと直接比較できる。本件原発ないしFO-A~FO-B~熊川断層周辺の断層のうち,野坂断層帯では地震発生層の深さは「2-17km」で断層面の幅は「16km」,三方断層帯では地震発生層の深さは「1-16km」で断層面の幅は「18km」(ただし東傾斜60度),花折断層帯北部では地震発生層の深さは「1-20km」で断層面の幅は「18km」,上林川断層及び三峠断層はいずれも地震発生層の深さは「1-15km」で幅は「16km」とされている(いずれも強震動評価のための「モデル化」ケース)。つまり,地震本部は本件原発周辺の主要活断層帯について,ことごとく地震発生層の上端は3kmより浅く,断層幅は15kmより広く設定しており,被告関西電力によるFO-A~FO-B~熊川断層の設定よりも保守的である。これには,レシピ(イ)を適用する場合,断層モデル下端深さが最大「+2km」されることと,上限深さを深い地下構造からVs=3.0km/s程度の層の深さが目安とされていることの両方の要因が関係していると考えられる。なお,被告関西電力の地盤モデルでは,S波速度3.0km/sの上面深度は1.01kmとされている。島崎証人も,地震発生層の厚さが15kmであるからといって入倉・三宅式による過小評価は考え難いということは言えないと証言している(甲382・24頁)。

しかも島崎証人は,入倉・三宅式が地震モーメントを小さく算出する可能性に留意して断層長さや幅等に係る保守性の考慮が適切になされているかという観点では審査をしていないしされていないと明確に証言している(同・33頁)。また,島崎証人は,新聞社のインタビューにおいて,被告関西電力が上端深さを当初4kmと評価して設置変更許可の申請をしていたことについて,「常識的にあり得ない」と述べ,3kmに変更になったことは,3連動の想定も合わせて,「規制委は余裕を持たせたとアピールしているが,そうではなく,当たり前のことだ」とも話している。

後述のとおり函館地裁における書面尋問で,藤原広行氏は,入倉・三宅式による過小評価を解消ないし低減させる方法として,「断層下端の深さについて深め設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張することと,入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことなどが考えられる」(甲420-2・10頁)と証言している。地震発生層の厚さの保守性によって入倉・三宅式の過小評価のおそれに対処しようとすれば,少なくとも断層面を地表面まで拡張する程度の保守性が必要であるが,被告関西電力の設定ではまったくその水準に達していない。

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 5 活断層として認識できる長さについて

島崎証人が証言するとおり,多くの場合,後世の調査によって活断層として認識される断層の長さは,地震直後に現れていた地表地震断層よりも短くなる(甲382・8頁)。これは,活断層の再来周期が長い(一般に数千年から数万年単位)ことから,地表地震断層の痕跡が後の風化,浸食,堆積等の作用によって消滅してしまうためであると考えられる。本件原発が阿蘇のような火山地域でなくとも,これまでの地表地震断層の痕跡が消滅している可能性は当然ある。

FO-A~FO-B~熊川断層についても,活断層調査の結果,過去の地震活動で最大合計63.4kmの地表地震断層が現れる活動が想定され,これが全体として活動した場合を固有地震として設定しているからこそ,被告関西電力はその評価をしているのであって,地表地震断層よりも長い震源断層が両端よりも広がっている可能性をも考慮した結果63.4kmとしているのではない。熊本地震の結果,FO-A~FO-B~熊川断層の震源断層長の設定が過小評価になっていると考えるのは合理的な推認であり,被告関西電力の主張には何ら根拠がない。

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◆原告第43準備書面
―基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)―
目次

原告第43準備書面
―基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)―

2018(平成30)年1月12日

原告第43準備書面[426 KB]

目 次

第1 基準地震動が過小評価であること
1 レシピ(ア)と(イ)の適用について
2 レシピ修正に至る経過等
3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について
4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について
5 活断層として認識できる長さについて

第2 藤原広行氏の書面尋問等について
1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括

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◆ 原告第42準備書面
―原発以外では政府が地震の予測不可能性を前提に最大クラスの巨大な地震・津波を想定して災害対策をしていること―

原告第42準備書面
―原発以外では政府が地震の予測不可能性を前提に最大クラスの巨大な地震・津波を想定して災害対策をしていること―

2018(平成30)年1月12日

原告第42準備書面[543 KB]

目 次

1 原発以外の政府の政策は地震の予測ができないことを前提にあらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に変わってきていること
2 大規模地震対策特別措置法(昭和53年)
3 地震防災対策特別措置法(1995年)
4 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)
5 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと
6 まとめ



1 原発以外の政府の政策は地震の予測ができないことを前提にあらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に変わってきていること

すでに原告が主張しているように、1995(平成7)年1月17日の兵庫県南部地震(M7.3)のあと、2016年4月の熊本地震(M7.3)の直前までの約20年間に、M7以上の内陸の地殻内断層地震は、2000年に鳥取県西部地震(M7.3)、2005年に福岡県西方沖地震(M7.0)、2008年に岩手・宮城内陸地震(M7.2)、2011年福島県浜通り地震(M7.0)と、5~3年間隔で広範囲な地域でバラバラと起こった。これらの地殻内断層地震の明瞭な前兆的ひずみ変化は国土地理院の電子基準点の観測データを見ても検出されなかった。2016年4月の熊本地震(M7.3)のあと、次に日本でM7クラスの地殻内断層地震がどこに起きるかは、地震学者でも全くわからない。若狭湾・近畿地方かも知れないし、首都圏かも知れない。既存の活断層だけに注目していてはならないのである。

このような学術的知見の進歩に合わせて、我が国の行政の上でも、大規模地震に対する対策は、直前に予知可能で、それを前提に対策を取ればよい、という方向性から、地震の規模や時期の予測はできず、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に、変わってきたのである。以下、2017(平成29)年9月に政府が発表した「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)」(甲381)をもとに、このような法制度、行政施策の変化の状況を述べる。

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2 大規模地震対策特別措置法(昭和53年)

南海トラフ(駿河湾から四国の南方の海まで伸びる海底の4000m級の溝)沿いの大規模地震に関しては、昭和50年代前半に駿河湾周辺を震源域とする東海地震の切迫性が高いことが指摘され、地震の直前予知が可能であるとの考えの下、地震予知情報に基づく警戒宣言の発令後にあらかじめ定めておいた緊急的な対応を的確に実施することで被害を軽減する仕組みを主要な事項とする大規模地震対策特別措置法(以下、「大震法」という。)が1978(昭和53)年に施行された。

<南海トラフの概要および南海トラフでの地震の発生状況> 【図省略】

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3 地震防災対策特別措置法(1995年)

しかし、1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災では、1項で述べたように、地震の予測は全くできなかった。犠牲者のうちの8割以上が住宅倒壊等による圧死であり、特に1981(昭和56)年の建築基準法施行令改正前の木造建築物の被害が大きかった。

この教訓を踏まえ、大規模地震が全国どこでも起こり得ることを前提に、平成7年に「地震防災対策特別措置法」が制定され、全都道府県における「地震防災緊急事業五箇年計画」の策定や、この計画に基づく事業に係る国の財政上の特別措置により、地震防災施設等の整備などの地震防災対策を推進することとなった。

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4 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)

2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災は、それまでの想定をはるかに超える巨大な地震・津波により一度の災害で戦後最大の人命が失われるなど甚大な被害をもたらした。このため、南海トラフ沿いで発生する大規模地震対策を検討するに当たっては、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を想定することが必要になった。

これらを踏まえ、いかなる大規模な地震及びこれに伴う津波が発生した場合にも、人命だけは何としても守るとともに、我が国の経済社会が致命傷を負わないようハード・ソフト両面からの総合的な対策の実施による防災・減災の徹底を図ることを目的として、平成25年に東南海・南海法を改正する形で、南海トラフ全体を対象とした「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(以下、「南海トラフ法」という。)が制定され、科学的に想定し得る最大規模の地震である南海トラフ巨大地震も対象に地震防災対策を推進することとされた。

この法律により、南海トラフ地震により著しい被害が生ずるおそれのある地域が南海トラフ地震防災対策推進地域として指定され、同地域においては、大震法や東南海・南海法と同様に、国、地方公共団体、関係事業者等が、調和を図りつつ自ら計画を策定し、それぞれの立場から予防対策や、津波避難対策等の地震防災対策を推進することとされた。

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5 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと

このようななか、平成25年にとりまとめられた政府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」の下に設置された「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」(以下、「平成25年調査部会」という。)の報告において、「現在の科学的知見からは、確度高い地震予測は難しい。」(甲381の14頁)とされた。ここで「地震予測」とは「確度の高い地震の予測」とは、地震の規模や発生時期を確度高く予測すること」とされ、前述の「予知」を含む概念とされた。

さらに、平成29年、政府の「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」において、近い将来発生が懸念される南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について最新の科学的知見を収集・整理して改めて検討した結果、「現時点においては、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はなく、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言後に実施される現行の地震防災応急対策が前提としている確度の高い地震の予測はできないのが実情である。」(甲381の15頁)と、とりまとめられた。

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6 まとめ

このように、現在、行政や民間の地震防災一般は、震の予測は不可能であることを前提に「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」を想定したものになってきている。この理は、内陸型地震である阪神淡路大震災を契機として全体の知見が進んだように、海溝型の地震でも、内陸型の地震でも、異ならない。

このようななか、原発の耐震設計については、依然として、原発の敷地に襲来する地震動を事前に予測可能であることを前提とし、特定の「活断層」が発生させる地震動を予測する方針が採られている。
絶対の安全性を求められる原発について、特定の「活断層」を前提とし、かつ、そこから発生する地震動を予測可能とする、すでに覆された前提を墨守する考えは、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」、すなわち地震動について言えば、少なくとも我が国の観測史上最大の地震動を想定する考え方に反し、不合理と言うほかないだろう。

以上

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◆原発はなぜ人類の手におえないのか

【2017年10月9日,京都キンカンで配付。】

原発再稼働を阻止し、原発を全廃するためにもう一度考える

◆関電や政府は、大飯原発3、4号機の3、5月再稼働を企み、老朽高浜原発1、2号機、美浜3号機の再稼働も画策しています。一方、原子力規制委員会は、福島原発事故の収束も見通せないにもかかわらず、東電柏崎・刈羽原発の「新規制基準」適合を発表しました(12月27日)。「新規制基準」は、福島原発事故から2年半もたたない2013年7月に施行されたものです。事故炉の内部の詳細は今でも分かっていないにもかかわらず、福島事故に学んで作成したとしているように、科学的根拠の極めて薄いものです。前規制委員長も繰り返し述べたように、安全を保障するものではありません。

◆原発を現代科学技術で制御し難いことは、福島事故の悲惨さと事故処理の困難さが教えるところです。また、事故後の経験は、原発はなくても、何の支障もないことを明らかにしています。それでも、政府や電力会社は、原発再稼働の動きを活発化させようとしています。

◆ここで、原発が人類と共存できない理由を再確認し、再稼働阻止、原発全廃の断固とした運動を構築するための一助にしたいと考えます。

【1】核反応エネルギーは化学反応エネルギーの数百万倍

◆私たち人類を取り巻く環境は、化学結合で成り立っています。化学結合の切断、生成(これを化学反応という)で得られるエネルギー(すなわち化学反応エネルギー)は、エレクトロンボルト(eV)と呼ばれる単位で評価されます。このeVの世界で得られる温度は、精々数1000℃です。生体内での化学結合はさらに弱く、生体内化学反応の多くは0.1 eV 以下のエネルギーのやり取りで進行します。すなわち、100℃までの世界で、100℃を越えて生きる生物は稀です。

◆一方、原発内などで生じる核反応では、ミリオンエレクトロンボルト(MeV:M=100万)のエネルギーが得られます。このMeVの世界では、理論的には、数億度℃以上の温度が得られます。換言すれば、核反応1反応によって100万に近い化学反応が生じる(結合が切断される)ことになり、核反応によって化学反応が爆発的に起こることになります。このことは、核反応を化学反応によって制御することができないことを示します。なお、体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線による内部被曝では、1核反応によって1000万に近い体内の化学結合が切断されます(実際には、核反応エネギーの一部しか結合切断に使われないので、もっと少ない)。

◆以上のように、化学反応エネルギーの数百万倍もの大きさの核反応エネルギーを、化学結合でできた材料によって閉じ込めて置くことは極めて困難です。したがって、原子炉は大量な水で冷やし続けなければならず、水がなくなると、あっという間に大惨事になります。原発の重大事故時には、膨大なエネルギーに起因する熱(核反応熱;核分裂で出る熱、崩壊熱;放射線を出して別の物質に変わるときに出る熱)によって核燃料や被覆材などの原子炉材料が溶融し、水素ガスの発生・ 爆発あるいは水蒸気爆発(高温での水の爆発的蒸発)を引き起こし、メルトダウン、メルトスルーにつながります。化学反応エネルギーでは、このような事態にはなりません。

【2】原発は事故を起こし易く、被害は広域・長期に及び、事故収束は困難

・大惨事は瞬時に進行する

◆前述のように、核反応エネルギーは膨大ですから、原発で冷却水が途絶えると、瞬時に(火災などとは比較にならない速度で)材料の熱融解、水素ガスの発生・爆発あるいは水蒸気爆発を引き起こします。

◆そのように瞬時に進行する事故への対応は至難で、進み始めた事故を止めることは極めて困難です。いわゆる「人為ミス」は避けえません。例えば、海水の原子炉への大量注入は何千億円もする原子炉を使用不能にしますが、重大事故に際して、海水を大量注入してメルトダウンを防ぐ判断を、会社の上層部や政府に仰いでいる暇はありません。事態を把握し、議論している間に、原子炉が深刻で取り返しのつかない状況になります。なお、今までの全ての重大事故では、事故を深刻でないとする判断(願望も含めて)を行い(例えば、計器の指示ミスと判断)、事態をより深刻にしています。

・事故炉は容易に再臨界に達する

◆原発重大事故でメルトダウンした核燃料(デブリ:debris:破片、堆積物の意)は、分散していれば、核分裂反応を起こしませんが、冷却水が途絶えると、崩壊熱で燃料が溶融・集合し、核分裂連鎖反応を開始します(再臨界に達する)。したがって、デブリは、取り出しまで長期間冷却し続けなければなりません。

・原発重大事故は、原爆とは比較にならない量の放射性物質を放出する

◆原爆は、瞬時の核分裂によって放射性物質(死の灰)を放出します。一方、原子炉内には、数年にもおよぶ長期の核分裂反応によって生成した放射性物質が蓄積していて、原発重大事故では、それが放出されます。例えば、100 万kWの原子炉を1年間運転したときの生成放射性物質量は約 1 t(トン)で、広島原爆がばらまいた放射性物質量750 gの約1,300倍です。原発事故で放出された放射性物質を完全回収できるほど現在科学は進歩していないことは、福島事故の経験が教えるところです。結局は、海洋や大気へ垂れ流され、地球全体を汚染させます。

・原発の重大事故の被害は広域におよぶ
(火災が10 km 先に飛火することは無い)

◆原発重大事故によって放出された放射性物質は、事故炉近辺を汚染させるだけでなく、風によって運ばれた後、雨によって降下しますから、汚染地域は極めて広範囲に広がります。福島事故でも、約50 km 離れた飯舘村も全村避難になり、約200 km 離れた東京や千葉にも高濃度の放射性物質が降下しました。チェルノブイリ事故では、日本でも放射性物質が検出されました。海に流出した放射性物質は海流に乗って広範囲の海域を汚染します。福島の放射性物質はアメリカ西海岸にも到達します。避難計画や原発稼働への同意などでは、30 km圏(UPZ)内が対象とされますが、被害は30 kmをはるかに超えて広域におよびます。

◆若狭の原発の重大事故では、関西はもとより、中部、関東も高濃度の放射性物質で汚染される可能性があります。京都駅、大津駅は高浜原発、大飯原発から60数km、大阪駅は80数kmの位置にあります。250万人が住む京都府、150万人が住む滋賀県などのほぼ全域が100 km 圏内にあり、この全域が避難対象になっても、避難は不可能であることは自明です。琵琶湖の汚染は、1,450万人の飲用水を奪います。原発からの汚染水は日本海にたれ流されますが、日本海は太平洋に比べて比較にならないほど狭い閉鎖海域ですから、高濃度に汚染されます。美しい海岸線を持ち、漁獲豊かな若狭湾の汚染はさらに深刻です。

・放射性物質による被害は長期におよぶ

◆火事は長くても数十日で消火できますが、放射性物質は、半減期に従って消滅する[放射線を出して他の物質(核種)に変わる]まで、放射線とそれによる熱を発生し続けます。代表的な放射性物質の半減期は、プルトニウム239で2万4千年、ネプツニウム237で214万年、セシウム137で30.7年、ストロンチウム90で28.8年、ヨウ素131で 8.02 日です。

◆放射性物質は、1半減期で1/2に、半減期の10倍で約1/1000、13.3倍で約1/10000、20倍で約1/100万に減少します。例えば、プルトニウム239を1/10000に減少させるには約32万年かかります。それでも、安全なレベルになるとは限りません。

◆なお、半減期の短い物質は早く崩壊しますから、物質の量が同じであれば、時間当たりにすれば、多くの放射線を出します。

・原発事故の収束には、途方もない時間を要する

◆放射性物質は長期にわたって放射線を出し続けますから、高放射線のために事故炉の廃炉は困難を極めます。また、放射線による熱発生のため、冷却水が途絶えると、核燃料が再溶融し、再び核分裂を始める可能性もあり、長期間冷却水を供給し続けなければなりません。福島原発では、事故から7年近く経っても、溶け落ちた燃料の位置も一部しか分かっていません。完全廃炉には、50年以上を要するとの見解もあります。

◆放射性物質による被害は長期におよびますから、原発事故では長期の避難を強いられ、住民は故郷を奪われ、家族のきずなを断たれ、発癌の不安にさいなまれます。通常の災害では、5年も経てば、復興の目途はある程度立ちますが、原発事故は、生活再建の希望も奪い去ります。福島事故では、4年経った2015年から、絶望のために自ら命を絶たれる避難者が急増していると報道されています。

【3】原発は、長期保管を要する使用済核燃料、放射性廃棄物を残す

◆原発を運転すると、核燃料の中に運転に不都合な各種の核分裂生成物が生成します(中性子を吸収する中性子毒核種など)。したがって、核燃料を永久に使用することは出来ず、一定期間燃焼させると、核分裂性のウランやプルトニウムは十分残っていても、新燃料と交換せざるを得なくなり、そのため、使用済み核燃料がたまります。現在、日本には使用済み核燃料が17,000トン以上たまり、原発の燃料プールや再処理工場の保管場所を合計した貯蔵容量の73%が埋まっています。原発が順次再稼働した場合、数年後には満杯になります。なお、混合酸化物(MOX)燃料が使用済み燃料となったとき、放射線と発熱量の減衰速度は、ウラン燃料の4倍程度遅く、そのため、4倍以上長く水冷保管しなければなりません。

◆国の計画では、全国の使用済み核燃料は、使用済み核燃料プールで冷却した後、六ケ所村の再処理工場に輸送して、再処理して、ウラン、プルトニウムを取り出し、再利用することになっていました。しかし、再処理工場の建設はトラブル続きで、すでに2兆2千億円をつぎ込んだにもかかわらず、完成の目途(めど)は立っていません。1,300 kmもの配管を持ち、危険極まりないこの工場の運転は不可能と言われています。もし、再処理できたとしても、膨大な放射性物質を含み、長期保管を要する高レベル放射性廃液が多量に生まれます。これを、ガラス物質と混合して、ガラス固化体として、地下に保管する研究も進められていますが、何千年以上も安定で、放射性物質が溶出しないガラス固化体はありません。

◆使用済み核燃料を、使用済み核燃料プールで、一定期間(5年程度)冷却した後、再処理せずに、そのまま空冷保管する方が、再処理するよりは安全と考えられますが、それでも、何万年以上の安全保管は至難です。

◆福井県にある原発13基が持つ使用済み核燃料貯蔵施設の容量は5,290トンで、その7割近くがすでに埋まっています。高浜、大飯、美浜の原発が再稼働されれば、7年程度で貯蔵限度を超え、原発の稼働は出来なくなります。

◆なお、使用済み核燃料貯蔵プールは脆弱(ぜいじゃく)で、冷却水を喪失し、メルトダウンする危険性が高いことは、福島第1原発4号機の燃料プールから冷却水が漏れ、核燃料溶融の危機にあった事実からでも明らかです。

◆一方、日本には、低レベルおよび高レベル放射性廃棄物が200リットルドラム缶にしてそれぞれ約120万本および約1万本蓄積されていますが、その処分は極めて困難で、永久貯蔵はおろか中間貯蔵を引き受ける所もありません。

◆数万年を超える保管を要する使用済み核燃料、放射性廃棄物の蓄積の面からも、原発は全廃しなければなりません。放射性物質を消滅させるに有効な方法はありません。

【4】原子燃料は無尽蔵で、燃料枯渇が原発廃止の理由にならないから厄介

◆地球表面の土壌中のウランの平均濃度は1 ppm (ppm;100万分の1) と言われています。土壌 1 t に 1 gのウランが存在します。富鉱では、0.3~0.7% すなわち岩石1 t に 3~7 kgのウランが存在します。したがって、原子燃料は多量に存在すると言えます。ただし、ウラン[238U(約99.3%)、 235U(約0.7%)]を核燃料として使用するには、膨大な費用を要する235Uの濃縮が必要です。

◆一方、原子炉を運転すれば、核燃料であるプルトニウム生成します。このプルトニウムの化学的性質は、他の元素とかなり異なりますので、プルトニウムを取り出すことは、ウラン濃縮よりは簡単で、安上がりです。

◆もちろん、高放射線下でのプルトニウム取り出し作業(再処理)が困難なことは、前述のとおりですが、もし、再処理が可能が可能になれば、原理的には、核燃料を無尽蔵に取出せることになります。したがって、政府、財界、電力は、ウラン燃料炉よりさらに運転が難しく厄介であるにもかかわらず、プルサーマル炉を求めているのです。また、そのために、プルトニウムを作り、取り出す高速増殖炉と再処理工場が必要と考えているのです。[化学、化学工学は、高速増殖炉、再処理工場を操業できるほど発達していない!]

◆エネルギーは麻薬のようなものですから、それを欲する限り、麻薬の製造装置である原発から脱却できないだけでなく、上限なしに原発を増設することになりますから、厄介です。この意味で、原発製造企業=麻薬生産者、電力会社=麻薬の売人、原発賛成の人=麻薬患者といえます。

福島原発事故以降の経験は、
原発はなくても電気は足りることを実証しました。
人類の手におえない原発を動かす必要はありません。


2月25日(日)~26日(月)
大飯原発うごかすな!若狭湾岸一斉チラシ配布
(拡大アメーバデモ)

関電原子力事業本部へのデモと申し入れ、原子力規制事務所への申し入れ

ご参加、ご支援、カンパをお願いします。

・主催:大飯原発うごかすな!実行委員会
・呼びかけ:オール福井反原発連絡会、若狭の原発を考える会、ふるさと守る高浜・おおいの会
・連絡先:木原(090-1965-7102:若狭の原発を考える会)、宮下(090-2741—7128:原子力発電に反対する福井県民会議)


2018年1月12日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆2018年を原発のない社会創り元年に!

【2018年1月5日,京都キンカンで配付。】

◆新年おめでとうございます。今年が、原発と決別し、過剰なエネルギー消費、物質浪費社会を根底から問い直す年になることを願っています。

◆昨年12月には、嬉しいことが2つありました。

◆第一は、13日の広島高裁での伊方原発運転差止め決定です。この決定は、3.11福島原発事故の大惨事の尊い犠牲の上に、形成された脱原発、反原発の圧倒的民意を反映したものであり、脱原発、反原発の粘り強い闘いの成果です。

◆第二は、関電が、2019年3月と12月に40年越えとなる老朽大飯原発1、2号機の廃炉を発表せざるを得なかったことです(12月21日)。2千億円を超えると言われる安全対策費がこの決断をうながしたことは明らかです。これは、福島事故の大きな犠牲とその後の大衆運動、裁判闘争の高揚によって、安全対策をないがしろにできなくなったためであり、大衆運動、裁判闘争の成果ともいえます。(ただし、喜んでばかりはいられません。関電や政府は、これと引き換えに、原発新設を狙う可能性もあります。注視が必要です。)

◆今年は、脱原発、反原発運動をさらに高揚させ、原発のない社会を展望しましょう!

大飯原発3、4号機再稼働阻止を突破口に、
原発全廃を勝ち取ろう!

 関電や政府は、大飯原発3、4号機の3、5月再稼働を企み、「原発銀座・若狭」の復活を狙っています。若狭の原発には、他の原発に比べて次のような特殊事情があり、福島原発事故以上の被害をもたらす重大事故の可能性が高いと考えられます。
(以下は、昨年5月配布のチラシを改定したものですが、再稼働阻止闘争のさらなる高揚のために再録します。)

若狭の原発が持つ特殊な問題

【1】若狭には原発13 基、「もんじゅ」、「ふげん」が集中

・重大事故の場合、1基に留まらない

◆高浜原発、大飯原発は同じ敷地内に各々4基、美浜原発、敦賀原発、廃炉決定の「もんじゅ」、廃炉中の「ふげん」は近接していて、合計7基の原子炉があります。このように原子炉が近接しているとき、1基が重大事故を起こせば、隣の原発にも近寄れなくなり、多数の原子炉の重大事故に発展しかねないことは、3基がメルトダウンし、3基が水素爆発した福島原発事故が教えるところです。

◆なお、高浜原発が地震や津波に襲われれば、14 km 弱の至近距離にあり、高浜原発と同様に若狭湾に面している大飯原発も同じ被害を被ることは容易に想定できます。

・原発依存度が高く、広域の自治体が原発を推進;脱原発、反原発の声を上げ難い

◆例えば、川内原発では、原発推進の立場をとるのは原発立地の薩摩川内市のみであり、隣接するいちき串木野市、阿久根市、出水市、日置市、さつま町などは、再稼働への地元同意の対象外とされたことへの不満と再稼働への異議は多数です。いちき串木野市での緊急署名では、再稼働反対が市民の過半数を越えました。

◆しかし、若狭ではこの地域の1市、3町が原発立地で、原発推進の立場に立っています。これらの自治体の原発依存度は、薩摩川内市に比べても圧倒的に高く、そのため、脱原発、反原発の声を上げ難いと考えられます。ただし、次のように、若狭でも、顕在化はしていないけれども、脱原発、反原発を望む声は極めて多く、とくに、老朽原発運転反対は大多数です。


コラム「若狭の原発を考える会」の経験から

◆「若狭の原発を考える会」は、アメーバデモと称する行動を、毎月2回(1回2日間)行っています。関西や福井から原発立地の若狭あるいは原発周辺の東舞鶴(京都府)、高島市(滋賀県)に集まり、3~5人が一組になり、徒歩で、鳴り物を鳴らしながら、また、「反原発」の旗を掲げ、肩にかけたスピーカーで呼びかけながら、全ての集落の隅から隅まで、チラシを配り歩く行動です。普通は、2グループ程度ですが、多いときには、全国からの応援を得て、10グループ以上になることもあります。

◆「若狭の原発を考える会」は、アメーバデモを3年以上継続し、お会いした住民1000人以上から、直接お話をうかがってきましたが、その中でも、「原発はいやだ」の声が圧倒的に多数であり、原発推進の声はほとんど聞かれていません。原発立地でも、表には表れていないけれども、脱原発、反原発が多数の願いであり、民意なのです。


【2】100 km 圏内に1千万人以上が住む;避難は全く不可能:1,450 万人の水源がある

◆高浜原発や大飯原発から50 km圏内には、京都市、福知山市、高島市の多くの部分が含まれ、100 km圏内には、京都府(人口約250万人)、滋賀県(人口約140万人)のほぼ全域、大阪駅、神戸駅を含む大阪府、兵庫県のかなりの部分が含まれます。このことと、福島原発から約50 km離れた飯舘村が全村避難であったことを考え合わせれば、若狭の原発で重大事故が起こったとき、500万人以上が避難対象となる可能性があり、避難は不可能です。

◆しかし、政府や自治体が行う避難訓練では、そのことが全く考えられていません。この圏内には琵琶湖があり、1,450万人の飲用水の汚染も深刻な問題です。

◆さらに、避難訓練には、原発事故での避難は極めて長期に及ぶ(あるいは永遠に帰還できない)という視点がありません。福島およびチェルノブイリの事故では、今でも避難された10数万人の大半が故郷を失ったままです。

◆1昨年8月27日に高浜原発から30 km圏の住民179,400人を対象にして行われた避難訓練は、最大規模と言われながら、参加者数は屋内退避を含めて7,100人余りで、車両などでの避難に参加したのはわずか約1,250人でした。それも県外への避難は約240人に留まりました。この規模は、重大事故時の避難の規模とはかけ離れた小ささです。

◆車道などが使用不能になったことを想定して、自衛隊の大型ヘリによる輸送訓練も予定されていましたが、強風のために中止されました。また、悪天候のために、船による訓練は全て中止されました。老人ホームなどへの事故に関する電話連絡は行われましたが、実際行動の必要はないとされました。

【3】高浜、大飯、美浜原発は加圧水型(PWR):沸騰水型(BWR)より安全とは言えない

◆原子力規制委員会や政府は、加圧水型原子炉(PWR)は、沸騰水型原子炉(BWR)より安全であるとして、PWRである川内、高浜、大飯、伊方、泊などの原発の再稼働を先行させようとしていますが、これは、「事故を起こした福島原発とは型が異なるから安全」とする国民だましです。以下に述べますように、過酷事故はBWRよりPWRの方が起こりやすく、起こると急激です。

スリーマイル島(TMI)原発事故が教えるPWRの危険性

◆福島原発事故の32年前(1979年)に炉心溶融事故を起こしたTMI原発はPWRでした。

◆高浜原発(PWR)の炉内圧力は約150気圧で、福島原発(BWR)の約70気圧の倍であり、配管が破断したとき、噴出する冷却水の量と勢いは格段に大です。出力密度がBWRの約2倍で、それだけPWRの方が炉心溶融しやすく、事故発生から炉心溶融まで、PWRでは1時間程度(TMIの例)、BWRでは5~12時間(福島事故の例)と推定されます。

◆PWRの方が、中性子照射量が多いため、材料の照射劣化がより早く進行します。加圧熱衝撃を受けると、高圧と相まって、原子炉容器の破裂事故(最悪の事故)を招きかねません。この危険性は、中性子などの放射線照射量に応じて大きくなるため、原発老朽化は大問題です。なお、高浜1号機は43年、2号機は42年、3号機は33年、4号機は32年、大飯1号機(廃炉決定)は39年、2号機(廃炉決定)は38年、3号機は36年、美浜3号機は42年を経過した、何れも老朽原発です。

◆過酷事故時の挙動が福島原発より複雑です。例えば、PWRでは、運転中に生成したプルトニウムの偏りが起こり易く、炉内での核分裂挙動が複雑となり、進行している事態の評価や判断を誤らせる一因となります。

◆PWRでは、格納容器内でも水素爆発が起きます。BWRでは格納容器内に窒素を充填しているため、格納容器内では水素爆発は起こりません(福島事故での水素爆発は全て格納容器外)。

【4】ウラン―プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料プルサーマル炉・ 高浜3、4号機

◆既存原発のプルサーマル化では、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉のウラン燃料の一部をMOX燃料で置き換えて運転するので、技術的な課題が山積です(全MOX炉も制御困難)。なお、原子力規制委員会審査における重大事故対策の有効性評価の解析対象は、ウラン炉心のみであり、MOX炉心については何ら評価されていません。過酷事故を起こしたときには、猛毒のプルトニウムや超プルトニウム元素が飛散して、深刻な内部被ばくを起こす危険性も大です。

重大事故の確率が大きい

◆燃料被覆管破損の危険性が大です。例えば、MOX燃料中に酸素と結合し難い白金族元素が生成しやすく、余剰酸素が被覆管を腐食します。また、核分裂生成物ガスとヘリウムの放出が多く、燃料棒内の圧力が高くなり、被覆管を破損させかねません。

◆核燃料の不均質化(プルトニウムスポット)が起こりやすく、燃料溶融の原因になります。

◆ウラン燃料と比べて燃焼中に核燃料の高次化(ウランより重い元素の生成)が進みやすく、特に中性子吸収確率の大きいアメリシウム等が生成しやすくなります。核燃料の高次化が進むと、原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下します。さらに進むと、核分裂反応が阻害され、臨界に達しなくなり、核燃料として使用できなくなります。

◆中性子束(密度)が大きく、高出力ですから、MOX燃料装荷によって 運転の過渡時(出力の増減時)に炉の制御性が低下します。(1/3程度しかMOX燃料を装荷できない。)

◆一部の燃料棒のみをMOX燃料にすると、発熱量にムラが生じます。温度の不均衡が進行すると、高温部の燃料棒が破損しやすくなります。

使用済みMOX燃料の発熱量は、ウラン燃料に比べて、下がり難い:長期の水冷保管が必要

◆発熱量が下がり難いため、長期にわたってプール内で水冷保管しなければ(使用済みウラン燃料の4倍以上)、空冷保管が可能な状態にはなりません。使用済み燃料保管プールが、脆弱で、冷却水を喪失しやすいことは、福島原発4号機のプールが倒壊寸前であった事実からも明らかです。

◆取り出し後50年~300年の使用済みMOX燃料の発熱量は、使用済みウラン燃料の発熱量の3~5倍です。

◆使用済みMOX燃料の発熱量を、50年後の使用済みウラン燃料の発熱量レベルに下げるには300年以上を要します。

MOX燃料にするためには、使用済み燃料再処理が必須

◆再処理を行うと、使用済み燃料をそのまま保管する場合に比べて、事故、廃棄物など全ての点で危険度と経費が膨大に増えます。(再処理費までMOX燃料の製造コストの一部と看做すと、MOX燃料の使用は経済的にも引き合わない。)

【5】関電や政府は、40年越え老朽原発・高浜1,2号機、美浜3号機の再稼働も企む

◆原発は事故の確率が高い装置ですが、老朽化すると、重大事故の確率が急増します。次のような理由によります。

◆高温、高圧、高放射線に長年さらされた圧力容器、配管等の脆化(ぜいか:もろくなること)、腐食は深刻です。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化(下記注を参照)は深刻です。電気配線の老朽化も問題です。

◆建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分は多数ありますが、全てが見直され、改善されているとは言えません。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)です。最近は、安全系と一般系のケーブルの分離敷設の不徹底なども指摘されています。

◆建設当時の記録(図面など)が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となります。

◆建設当時を知っている技術者は殆どいないので、非常時、事故時の対応に困難を生じます。

◆とくに、ウラン燃料対応の老朽原発でMOX燃料を使用することは、炉の構造上、大きな問題です。


(注)老朽原発圧力容器の脆性破壊
原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で中性子などの放射線に曝(さら)されています。この鋼鉄は、高温では、ある程度の軟らかさを持っていますが、温度が下がると、ガラスのように硬く、脆(もろ)くなります。圧力容器は原子炉運転期間が長くなると、硬化温度(脆性=ぜいせい=遷移温度)が上昇します。例えば、初期には‐16℃で硬くなった鋼鉄も、1年、18年、34年と炉内に置くとそれぞれ35℃、56℃、98℃で、40年を超えると100℃以上で硬化するようになり、脆くなります。原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が脆化していれば、破裂する危険があります。初期(未照射)の鋼鉄は、水冷では破壊されません。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化(ぜいか)は著しいと言われています。


福島原発事故以降の経験は、
原発はなくても電気は足りることを実証しました。
重大事故を起こしかねない原発を動かす必要はありません。
原発の稼働は、電力会社の金儲けのためです。

原子力防災とは、避難計画ではありません。
不可能な避難を考えるより、
事故の原因=原発を廃止することが原子力防災です。
原発全廃こそ原子力防災です。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。
原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

2018年1月5日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

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◆「若狭の原発を考える会」は今年も闘いました

【2017年12月29日、京都キンカンで配付。】

「若狭の原発を考える会」は今年も闘いました
ご支援ありがとうございました

ここに、本年の「若狭の原発を考える会」の活動の主なものをご報告し、感謝申し上げます。
原発全廃を目ざす来年の活動への一層のご支援をお願いします。

1.50日間アメーバデモを行い、
約7万枚のチラシを各戸配布しました

原発立地でも脱原発、反原発が多数の願いであり民意です

◆アメーバデモは、関西や福井から原発立地の若狭に集まり、3~4人がグループになり、徒歩で、鳴り物を鳴らしながら、「反原発」の旗を掲げ、肩にかけたスピーカーで呼びかけながら、チラシを若狭、京都府北部、滋賀県北部の隅から隅まで配る行動です。通常は、2グループ程度ですが、多いときには、全国からの応援を得て、10グループ以上になることもあります。毎月2回・計4日間かけて行い、今年は約7万枚のチラシを配布しました。

◆私たちは、このアメーバデモをすでに3年以上継続し、お会いした住民1000人以上から、直接お話をうかがってきましたが、その中でも、「原発はいやだ」の声が圧倒的に多数であり、原発推進の声はほとんど聞かれていません。原発立地でも、表には現れていないけれども、脱原発、反原発が多数の願いであり、民意なのです。

2.原発電気の消費地・大阪での関電包囲全国集会とデモ

3月28日、大阪高裁第11民事部は、高浜原発3、4号機の運転差止めを命じた大津地裁20l6年3月9日仮処分決定、および、これに対する関電の異議を退けた同裁判所7月12日決定を取り消しました。大阪高裁の決定は、関電、政府、原子力規制委員会の主張のみを追認し、圧倒的多数の脱原発・反原発の民意を踏みにじり、人の生命と尊厳をないがしろにするものです。

◆関電は、この裁判の中で、原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と言う“新規制基準”を「安全基準」とし、原発に「絶対的安全性を求めるべきではない」と主張しています。さらに、「原発は安全であるから、“新規制基準”に避難計画は不要」としています。

◆一方、大阪高裁は、新規制基準が不合理であるとするのなら、住民側がそれを立証しなければならないとしています。司法制度の根幹を自ら否定する判決です。

◆この決定に先立つ1月22日、「若狭の原発を考える会」は、「原子力発電に反対する福井県民会議」(以下 「福井県民会議」と略)などと共に、「高浜原発うごかすな!関電包囲全国集会」を呼びかけ、実行しました。中之島での前段集会には400人が参加しました。集会後には荒天の中、デモで西梅田へ向かいましたが、参加者は600人に膨れ、関電包囲集会には1000人の参加を得ました。

◆大阪高裁決定直後の4月2日、「福井県民会議」の呼びかけで「高浜原発うごかすな!実行委員会」を結成しました。この会の実務は「福井県民会議」と「若狭の原発を考える会」で担うことになりました。

4 月27 日、「高浜原発うごかすな!実行委員会」主催で、700 名の参加の下、怒りの「高浜原発うごかすな!関電包囲全国集会」と御堂筋デモを行いました。

8月11日、「福井県民会議」と「若狭の原発を考える会」との呼びかけで 「大飯原発うごかすな!実行委員会」が結成されました。
10月15日「大飯原発うごかすな!実行委員会」の主催で、「10.15大飯原発うごかすな!関電包囲全国集会」と御堂筋デモが、衆院選挙の最中、豪雨にも拘らずNHK発表で600 人(主催者発表500 人)の参加を得、大飯原発再稼働反対!原発全廃!を訴えました。

3.原発現地・若狭での集会、デモ、セミナー

5月7日、「高浜原発うごかすな!実行委員会」主催で、「高浜原発うごかすな!高浜集会」と高浜町内デモを400人の参加で貫徹しました。集会に先だち、高浜原発ゲート前では、抗議集会と申入れを行いました。デモでは、町民からのご声援が多数あり、参加者一同感激しました。

5 月8~12 日、「高浜原発うごかすな!高浜―福井リレーデモ」と「沿線13自治体への申入れ」を行いました。出発集会には約l00人、延べ400人が参加しました。申入れでは、福井県を除く自治体は、おおむね丁寧な対応をし、原発の安全性、避難の困難さなど、原発への懸念が表明されました。とくに、立地自治体でない市町村からは脱原発に近い反応もありました。治道などからは温かい声援、カンパなどを多数戴きました。

5月17日の高浜原発4号機再稼働当日、「若狭の原発を考える会」の呼びかけで、正午より夕刻まで、現地デモ、原発ゲート前集会、申入れを行い、再稼動に断固とした抗議をしました (100人参加)。
6月6日の高浜原発3号機再稼働当日、「若狭の原発を考える会」の呼びかけで、早朝から高浜町役場にビラ入れ、街宣(関東からを含む20人参加)、午前中、原発周辺、東舞鶴でアメーバデモ (関東からを含む20人)、午後、現地デモ、集会、申入れを行い、原発再稼働の暴挙を糾弾しました (l20人参加)。

8月4日、高浜町で、「講演・討論会in 若狭」“原発にたよらない町づくりを目指して”を「若狭の原発を考える会」の主催で開催しました。本年4月発売の『なぜ「原発で若狭の振興」は失敗したのか』の著者・山崎隆敬さんおよび韓国で脱原発運動を進める青年3人に講演を戴きました。会場 (60人定員)は溢れんばかりの盛況でした。講演・討論会終了後には、「キャンプat若狭和田ビーチ」が企画され、韓国、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、徳島、福島、関東などからの参加を得て、脱原発の議論と交流が続きました。

9月8日、おおい町議会の大飯原発3、4号機再稼働同意に抗議する行動が、町役場前および議場で行われました。若狭の原発を考える会の呼びかけで42人が参加しました。

9月21日、MOX燃料の高浜原発到着の当日、福井県民会議と若狭の原発を考える会の呼びかけで、早朝より抗議行動が30人の参加を得て行われました。

12月3日、大飯原発1、2号機の廃炉が決定的になり、3、4号機再稼動の策動が神戸製鋼のデータ改ざんの余波で2ヶ月遅れたとはいえ、3、4号機再稼働が来年3、5月に企まれていることに鑑み、「大飯原発うごかすな!実行委員会」主催で、おおい町現地全国集会と町内デモが、500人の大結集をえて貫徹されました。デモ時には、町民から多くのご声援を得ることが出来ました。

来年を
原発ゼ口元年にしましょう!

2017年12月29日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆広瀬隆さん「電力自由化を活用して原発を廃絶する方法」

広瀬隆『日本列島の全原発が危ない! ―広瀬隆 白熱授業』の
最後のしめくくりは
「電力自由化を活用して原発を廃絶する方法」です。(2017-12-29)

—–(以下,引用)
日本政府が完全に狂った状態で,原発の運転を止めるには,一つに裁判がありますが,裁判官が政治 家の人事権で悪人ばかりになってきたので,ハラハラ・ドキドキの訴訟ばかりにすがってはいられません。
今度は,百パーセント勝てる勝負をして原発を止めなければならない。もし日本で住民投票制度が確立されているなら,川内原発・伊方原発・高浜原発は,すべて止められるのです。なぜなら,福島原発事故を体験した現在日本に住む人間の7割以上が,原発を拒否しているからです。ところが,日本には住民投票制度が存在しない。
では,住民投票に代る手段がないかと言えば,実は,われわれはその方法を持っているのです!
それが,2016年4月1日からスタートした,電力の完全自由化です。
消費者が「原発を使わない電力会社=新電力」を選べるのです。電力自由化とは,まさしく,原発に対する国民的な住民投票なのです。電気料金が高いか安いかを選ぶのではなく,生き残るために,電力会社から新電力への切り換えを,まわりにどんどん広めてください。お願いします。
—–(引用,ここまで)

『日本列島の全原発が危ない! ―広瀬隆 白熱授業』

●概要
私たちの予測を上回って近づいている大地震の脅威。プールに大量に抱えている使用済み核燃料が,いつ暴走するかも知れない全54基の原発。そして,高レベル放射性廃液の漏洩で,たちまち日本列島を壊滅させるほどの威力を持つ東海村と六ヶ所村の再処理工場。「次の原発大事故が目前に迫っている」と広瀬氏は警告する。177枚のカラ一図版とともに,現在の日本が置かれている驚くべき状況と,市民が大事故発生時に取るべき具体的な対策を徹底解説。
本体価格 2150円十税
2017 年11 月20 日初版発行,176 ぺージ
発行 株式会社デイズジャパン

●もくじ
第一部:三大活断層「中央構造線」が動き出した!
川内原発と伊方原発に大事故を起こす中央構造線とは何か。
西日本の原発大事故がもたらす陸と海の壊滅被害 ほか
第二部:住民は避難できるか
大地震では逃げる道路も列車もない。
原発事故の被災地・福島県実情 ほか
第三部:使用済み核燃料と再処理工場が抱える「世界消滅の危険性」
日本には原発だけでなく東海村と六ヶ所村に再処理工場があることを忘れるな。
高レベル廃液が爆発すると日本全土が消える ほか

●著者略歴
広瀬隆 (ひろせ・たかし) 作家,ジャーナリスト。1943年東京生まれ。早大理工学部卒業後,大手メーカー技術者,医学書・医学難詰翻訳業を経て執筆活動に入る。著書に『 赤い楯』(集英社),『世界石油戦争』(NHK出版),『原子炉時限爆弾―大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など多数。近著に『東京が壊滅する日―フクシマと日本の運命』(ダイヤモンド社)など。

◆広瀬隆さんの主張する「電力自由化を活用して原発を廃絶する方法」

広瀬隆『日本列島の全原発が危ない! ―広瀬隆 白熱授業』の
最後のしめくくりは
「電力自由化を活用して原発を廃絶する方法」です。

—–(以下,引用)
日本政府が完全に狂った状態で,原発の運転を止めるには,一つに裁判がありますが,裁判官が政治 家の人事権で悪人ばかりになってきたので,ハラハラ・ドキドキの訴訟ばかりにすがってはいられません。
今度は,百パーセント勝てる勝負をして原発を止めなければならない。もし日本で住民投票制度が確立されているなら,川内原発・伊方原発・高浜原発は,すべて止められるのです。なぜなら,福島原発事故を体験した現在日本に住む人間の7割以上が,原発を拒否しているからです。ところが,日本には住民投票制度が存在しない。
では,住民投票に代る手段がないかと言えば,実は,われわれはその方法を持っているのです!
それが,2016年4月1日からスタートした,電力の完全自由化です。
消費者が「原発を使わない電力会社=新電力」を選べるのです。電力自由化とは,まさしく,原発に対する国民的な住民投票なのです。電気料金が高いか安いかを選ぶのではなく,生き残るために,電力会社から新電力への切り換えを,まわりにどんどん広めてください。お願いします。
—–(引用,ここまで)

『日本列島の全原発が危ない! ―広瀬隆 白熱授業』

●概要
私たちの予測を上回って近づいている大地震の脅威。プールに大量に抱えている使用済み核燃料が,いつ暴走するかも知れない全54基の原発。そして,高レベル放射性廃液の漏洩で,たちまち日本列島を壊滅させるほどの威力を持つ東海村と六ヶ所村の再処理工場。「次の原発大事故が目前に迫っている」と広瀬氏は警告する。177枚のカラ一図版とともに,現在の日本が置かれている驚くべき状況と,市民が大事故発生時に取るべき具体的な対策を徹底解説。
本体価格 2150円十税
2017 年11 月20 日初版発行,176 ぺージ
発行 株式会社デイズジャパン

●もくじ
第一部:三大活断層「中央構造線」が動き出した!
川内原発と伊方原発に大事故を起こす中央構造線とは何か。
西日本の原発大事故がもたらす陸と海の壊滅被害 ほか
第二部:住民は避難できるか
大地震では逃げる道路も列車もない。
原発事故の被災地・福島県実情 ほか
第三部:使用済み核燃料と再処理工場が抱える「世界消滅の危険性」
日本には原発だけでなく東海村と六ヶ所村に再処理工場があることを忘れるな。
高レベル廃液が爆発すると日本全土が消える ほか

●著者略歴
広瀬隆 (ひろせ・たかし) 作家,ジャーナリスト。1943年東京生まれ。早大理工学部卒業後,大手メーカー技術者,医学書・医学難詰翻訳業を経て執筆活動に入る。著書に『 赤い楯』(集英社),『世界石油戦争』(NHK出版),『原子炉時限爆弾―大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など多数。近著に『東京が壊滅する日―フクシマと日本の運命』(ダイヤモンド社)など。