投稿者「meisei」のアーカイブ

◆電力選択,消費者の責任~京都新聞 随想やましろ、槌田劭

【京都新聞2017年3月24日 随想やましろ】

福島原発事故から6年,被災の現実は今も厳しい。約10万人の被災者は住居も職も奪われ,避難生活を強いられている。南山城にも数百人の避難者がいるといわれる。行政の支援も縮小の傾向にある。正規の業務でないからなのだろうが,冷たさを感じる。

冷たいといえば,国である。事故の責任に謝罪どころか,補償についても冷淡である。事故の実態は今も不明であり,放射能汚染水対策もお手上げである。しかし,「事故炉はアンダーコントロール」と安倍首相はオリシピック誘致で世界に虚偽を語った。

賠償補償を免れるためなのか,避難区域を縮小して帰還を強制している。一般人の被ばく我慢限度年間1ミリシーベルトの法的規制を,20ミリシーベルトに緩和した。冷たく,違法な理不尽である。

いま,司法リスクといわれる問題に原発推進の業界は頭を痛めている。大津地裁の仮処分で関西電力の原発再稼働はストップ。先週の前橋地裁の損害賠償請求訴訟の判決である。巨大津波を予見しながら,安全神話に酔った東京電力と規制不作為の国を裁いたものである。

金だけ今だけ自分だけ,の世である。大電力会社と経済産業省の癒着によって,日本の電気料金は不当に高い。その上,被災賠償,廃炉や使用済み核燃料の後始末の費用なども青天井である。

昨年4月から1年。消費者電力の自由化によって,関電の経営は厳しい。高い電気料金に消費者が離れ,すでに60万軒が新電力会社に移ったが,関電には原発再稼働以外に知恵はないようだ。

東電の電気を使っていなかった福島の方々が厳しい被災に今も苦しんでいる。電力購入の選択が自由化された今,なお原発の電気を買い続けるのか。都市消費者はその責任を問われている。原発の世は冷たいものなのか。

◆世界は脱原発に向かっている

【2017年3月17日,京都キンカンで配付。】

原発が、人類の手に負える装置でないこと、
経済的にも成り立たないことを
福島原発の大惨事が教えました。
したがって、世界的にも脱原発・反原発の動きが加速しています。

以下に、福島原発事故後の、国際的な脱原発の動きの概要を整理してみました。ご参考になれば幸いです。

ドイツ

◆ドイツの原発依存度(電力消費量のうち原発で発電した電力の割合)は、2009年(原発17基を保有)には23%であった。しかし、2011年に発生した、福島第一原発の炉心溶融事故をきっかけに、エネルギー政策を根本的に変えた。世界中で、ドイツほど福島事故の教訓を真剣に自国にあてはめ、政策を大幅に転換させた国は他にない。もともと原子力擁護派だったメルケル首相(元物理学者)が、福島事故の映像を見て原子力批判派に「転向」し、「原子力についての考え方が楽観的に過ぎた」と反省の告白を行い、福島事故からわずか4か月後には、原発を2022年末までに全廃することを法制化したのである。老朽原発8基を即時停止し(このため、2012年の原発依存度は16%に減少)、残り9基を2022年までに停止するというもの。代替エネルギーの主役は再生可能エネルギーで、2014年の9月ですでに電力消費量の28%をカバーしているが、2035年までにこの比率を55~60%とすることを目指している。現在のドイツでは、原子力発電の復活を要求する政党や報道機関は1つもないと言われる。また、ドイツ鉱業・化学・エネルギー産業労働組合(IG BCE)のエネルギー政策提言者・バーテルス氏は「議会制民主主義に基づくこの国で、過半数を超える市民が原発全廃を支持しているのだから、そうした世論に逆行する政党は敗北するだけだ」と指摘している(日本の連合とは大違い)。

◆なお、ドイツでは、2011年3月26日にベルリンやミュンヘンで25万人が参加した反原発デモが行われている。また、リベラルな週刊新聞「ディ・ツァイト」は、2014年10月5日の電子版で、「多くの市民が再稼動について抗議しているのに、日本では原発が再び動き始める。日本は、原爆による被害を受けた世界で唯一の国だ。さらに、福島で深刻な炉心溶融事故を経験した。よりによってそうした国が、市民の反対にもかかわらず原発に固執するのはなぜなのか?」という問いを発している。これは、多くのドイツ人が抱いている疑問である。

イタリア

◆イタリア国内に稼働している原発はない。イタリアは国内のエネルギー資源が乏しいので、1950年代から原発に取り組み、ラティナ、ガリリアーノ、トリノ・ベルチェレッセの3基(16~27万kW)の発電炉が発注され、1965年までに営業運転を開始した。2度の石油危機を契機に1985年までに原発を10地点で合計2000万kW建設するなど、原子力開発に重点を置いた政策が打ち出された。1981年には、4基目のカオルソ(87万kW)が営業運転を開始した。しかし、原子力反対運動やチェルノブイリ事故の影響を受け、1987年11月に原発の建設・運転に関する法律の廃止を求めた国民投票が行われ、70%以上の反対により同法の廃止が決定した。その結果、1990年までに核燃料サイクル関連施設を含む全ての原子力施設が閉鎖された。

◆一方、閉鎖時に計画していた火力発電所の建設は進まず、フランスとスイスの安価な電力の輸入が増大した。また、総発電電力量の75%を石油と天然ガス火力に依存しているため、イタリアの電気料金はEU内でも高い水準で推移している。2003年には電力の供給不足で輪番停電が発生し、2003年9月28日、国外との高圧送電線が全て遮断される大停電となり、電力供給体制の脆弱性が露呈された。これに対して、原発開発の再開を掲げて首相に返り咲いたベルルスコーニ政権は、原子力開発を含めた早急な電源開発促進政策を進めたが、2011年3月の福島第原発事故を機に、原子力反対運動が顕著となり、2011年6月に行われた国民投票の結果、投票率54.79%のうち、94.15%の得票率で、再度国内原子力開発を断念することになった。

◆他方で、2003年に大規模停電に見舞われたイタリアは、2004年7月、「エネルギー政策再編成法(マルツァーノ法)」を成立させ、輸入電力供給の安定確保を目指している。イタリア電力公社(ENEL)はスロバキア、ルーマニア、フランスなど、諸外国の原子力発電所建設計画に積極的に参加している。

スイス

◆スイス国内には5基の原発があり、原発依存度は35~40%と言われる。福島第一原発の事故を受け、スイス政府は2050年までに脱原発を進め、再生可能エネルギーによる発電へシフトすると表明し、また、2034年までに稼働中の原発の運転を停止することを閣議決定していた。しかし、既存原発の運転年数の制限は具体的には決められておらず、それぞれの原発がいつまで稼働するかも不透明な状態で、運転開始からすでに47年(2016年時点)経過している原発もある、

◆そのため、野党「緑の党」などは、既存原発の運転期間を最長45年に制限し、1972年までに運転を開始した3基を2017年に停止させるとともに、他の2基も運転開始から45年で停止させること、それによって、2029年までに全原発を停止することを提案した。この提案に対し、経済界やスイス政府は、電力不足や化石燃料への依存が高まることを理由に、「時期尚早」と反対していた。脱原発を加速することで、原発プラント企業にペナルティを支払う必要があるとの指摘もあった。

◆直接民主制をとるスイスでは、国の重要案件は国民投票で決めることになっている。そこで、国内にある全原発の運転停止時期を早め、2029年までに全原発を停止することを争点とした国民投票が、2016年11月27日に行われた。投票の結果は、賛成が45.8%、反対が54.2%で、提案は反対多数で否決された。

◆なお、この国民投票の結果の解析を政府から依頼された調査機関・VOTOは、投票した人の中から1578人を選んで調査を行ったが、「反対票を投じた人の82%は、2029年に脱原発というのはあまりに早急で、非現実的だと考えたから反対した」との分析結果を出した。すなわち、投票結果は、「2029年に脱原発する」という「期限」に反対したのであって、脱原発そのものに反対したのではなかったという。また、反対票を投じた人の63%が「原発のないスイス」に賛成していることが分かり、これと今回の投票で原発早期全廃に賛成した人の数を加えると、「76%の人が脱原発に賛成」という調査結果になったと発表した。

リトアニア

◆かつてリトアニアの総発電電力量の約8割を占めたイグナリナ原発はチェルノブイリ原発と同型の軽水冷却黒鉛減速炉(ソ連製の古い原発)であったため、2009年までに廃炉とし、その敷地に隣接して新たなヴィサギナス原発建設(日立製作所が受注:改良型沸騰水型軽水炉)が計画されていた。2012年6月に議会が承認、正式契約は周辺国の合意を得てからではあるが、政府による契約がほぼ固まっていた。事業規模は約4千億円、合計出力は最大340万キロワット、建設は2基が予定されていた。ところが、福島原発事故を受けて原発建設への反対が強まる中、野党が原発計画の是非を問う国民投票議案を提出、国民投票が2012年10月に実施された。結果は建設反対が6割を超えたが、この国民投票は法的拘束力を持たず、政府は計画を中止しなかった。

◆しかし、同時に行われた議会選挙で社会民主党が勝利し、次期首相候補は建設計画の見直しを明言し(2016年11月発表のリトアニア国家エネルギー戦略)、正式に計画が凍結されることとなった。「市場環境が変化して費用対効果が高くなるか、エネルギー安全保障上、必要な状況となるまで、計画を凍結する」とされた。市場競争力は望めず、事実上の計画撤回と見てよい。

ベトナム

◆昨年11月22日、ベトナム国会が原発立地計画を中止する政府提案を可決した。ベトナム政府は電力需要に応える切り札として、2009年に4基の原発を建設する計画を承認し、2014年に着工する予定であった。しかし、当初案は資金難や人材不足で延期が繰り返されていた。また、2011年の福島原発事故の教訓を生かし、津波対策として予定地をやや内陸へ移動する計画変更も行っていた。予定地は、風光明媚で漁業や果樹生産の盛んな南部ニントゥアン省ニンハイ県タイアン村であった。直前の計画では、第1原発2基は2028年に、第2原発2基は2029年に稼働、第1原発はロシア、第2原発は日本が受注し、各100万キロワットで、計400万キワットの設備となる予定で、実現すれば同国初の原発となるはずであった。

◆中止の理由は、福島原発事故を受けて建設コストが2倍に高騰したことに加えて、同国の財政悪化が重なったため。また、住民の反対の強まりや、コストをさらに大きく引き上げる要因にもなる原発の使用済燃料の処理・処分の未解決問題も指摘された。再生可能エネルギーやLNGが競争力をもったことも一因である。今後は再生可能エネルギーやガス、火力などを導入するという。レ・ホン・ティン科学技術環境委員会副主任は「勇気ある撤退」と評価している。

台 湾

◆台湾では、第一~第三原発が稼働し、全電力の約14%をまかなっている。第一、第二原発は人口密集地の台湾北部、台北中心部から20 kmほどの距離にある。第一原発1号機が2018年12月に40年の稼働期限を迎えるのをはじめ、稼働中の全原発が2025年5月までに期限を迎える。

◆第一、第二原発の近くに第四原発の建設も進んでいたが、福島原発事故で安全性への不安が高まり、反対運動が激化。第四原発の稼働を目指していた馬英九(マーインチウ)・前政権は2014年に凍結決定に追い込まれた。なお、第一、二、三原発は米国製、第四原発は日本製。

◆馬政権は第四原発を直接廃炉にはせず、将来的に稼働させる選択肢を残していた。これに対し、昨年5月に就任した蔡英文(ツァイインウェン)総統は総統選で原発ゼロを公約し、本年1月11日、台湾の国会に当たる立法院で、2025年までの脱原発を定めた電気事業法改正案を可決、成立させ、稼働延長の道を閉ざした。これで、第四原発の稼働の可能性もほぼなくなった。

◆今後、太陽光や風力などの再生エネルギーへの切り替えが進むかどうかが実現のかぎという。再生エネルギー分野での電力自由化を進めて民間参入を促し、再生エネルギーの比率を現在の4%から2025年には20%に高めることを目指すとされている。将来的には公営企業の台湾電力の発電事業と送売電事業を分社化する計画である。

◆立法院の審議では、離島に保管されている放射性廃棄物の撤去問題などが焦点となったが、2025年までの脱原発については大きな異論は出なかった。ただ、産業界を中心に電力供給の不安定化や電気代の高騰を懸念する声も出ている。

韓 国

◆韓国では商用原発25基(2016年)が運転されていて、原発依存度は26.8%(2015年11月発表)。とくに韓国最古の古里原発は8基を有する「原発銀座」であり(政府はさらに2機の追加建設を承認)、原発密集度は世界第1位(月城、蔚珍ハンウル、霊光ハンビツ原発も10位以内)、周辺人口は福島の22倍といわれる(30 km 圏内に380万人が居住)。19基が集中する東南部一帯には60以上の活断層が分布している。今後も原発の拡大が計画されている。原子力技術を輸出する取り組みもあり、2030年までに80基の原子炉を輸出する目標を掲げている。

◆使用済み核燃料の蓄積が深刻な問題であり、とくに、古里原発3号機の貯蔵プールには1,2機の使用済み核燃料も移送されているため、韓国で最も多い818トン(2015年末)が貯蔵されている。これに関して、この燃料プールの水位が低下し、火災となり、水素爆発も起きた場合、西風の季節(冬季)であったら、韓国で最大2430万人が避難を余儀なくされるだけでなく、日本でも最大2830万人が避難を迫られるというシミュレーション結果がある、

◆脱原発の動きもある。本年2月7日、韓国ソウル行政裁判所は、設計寿命(30年)を終えた月城原発1号機の運転延長許可を取り消すよう命じる判決を出した。同1号機は、2012年11月に30年間を経過していたが、事業主の韓国水力原子力発電は10年間の運転延長を申請し、首相直属の原子力委員会が2015年2月に許可していた。これに対して、2000人以上の周辺住民が処分の取り消しを求めて提訴していた。判決では、①必要な書類がそろっていない、②安全性に関する最新の技術水準を適用していない、③原子力安全委員のうち2人が決定前3年以内に原発関連事業に関与していた、などと指摘し、原子力安全法と原子力安全委員会設置法に違反するとした。国民の安全を優先した「歴史的判決」である。


▲月城(ウォルソン)原発、蔚珍(ウルチン)原発(ハヌル原発と改名)、古里(コリ)原発、霊光(ヨングァン)原発(ハンビツ原発と改名)。

オーストリア

◆オーストリアは、原発を持っていない国。1978年の国民投票の結果、原発建設を禁じる原子力禁止法が僅差で可決された。ツベンテンドルフにある同国初の原発は当時完成したばかりだったが、一度も稼動されることなく閉鎖された。また、同年、原発建設の前には国民投票を実施することが法制化された。さらに1999年には 非核条項が憲法に組み込まれた。現在、オーストリア政府は、EUに反原子力エネルギーの方針を進言する意向である。

アメリカ

◆米国には99基の原発があり(2015年1月)、原発依存度は18%程度である。米国では、2013年春、約15年ぶりにキウォーニー原発(ウイスコンシン州)が廃炉になって以来、4発電所5基が運転を終了した。2019年にもさらに1基が停止する。このように、米国では、原発の停止→廃炉が相次いでいる。主な理由は、①原発に比べてコストが安いシェールガス発電が進んだ、②福島原発事故以降、安全対策の強化が課せられ、原発での発電コストが高くなった、などである。

日本でも反原発・脱原発が民意です。
それでも安倍政権は原発と核燃料サイクルの推進に躍起です。
許してはなりません。

原発は人類の手に負える装置ではありません。一方、福島事故以降の経験によって、原発は無くても不都合がないことが分かった今、原発を運転する必要性は見出だせません。そのため、日本でも、脱原発、反原発は社会通念=民意 となっています。本年2月の朝日新聞、3月の毎日新聞の世論調査でも、原発再稼働反対がそれぞれ57%、55%で、賛成のほぼ2倍でした。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆福島原発の大惨事から6年

【2017年3月10日,京都キンカンで配付。】

福島原発の大惨事から6年
安倍政権の非人道政策ますます露骨に

原発事故避難者は未だ8万人に近く、自ら命を絶たれる方は4年後から急増している

◆福島原発事故から6年が経った現在でも、避難者の大半が故郷を失ったままであり、暮らしを破壊され、家族の絆を奪われ、癌と闘い、発癌の不安にさいなまれている。

◆東日本大震災後、体調悪化や過労などで死亡する「震災関連死」の数が、岩手、宮城、福島など10都県で少なくとも3032人に上ると、震災後3年の2014年2月末に報道された。福島第1原発事故などで避難している福島県では、半数超の1664人に上り、津波や地震に起因する「直接死」の数1607人を上回った。2013年9月末時点での復興庁のまとめでは、10都県2916人であったが、その後の5カ月間で116人増加したことになる。このうちの約8割に当たる92人は福島県の被災者で、被害が長期化する原子力災害の深刻さが浮き彫りとなった。

◆一方、福島県内での震災関連自殺者は、2012年10人、2013年13人、2014年23人と増加し続けたが、本年1月9日のNHKスペッシャルでは、福島で避難された方の自殺が、事故4年後から急増していると放映された。年齢構成などをならし、他県と比較した福島県の自殺率が震災4年後から上昇しているというもの(昨年、世界的な医学誌に、福島県立医大前田教授が発表)。現場からもそれを裏付ける現象が報告されている。福島で心の問題を受けつける電話相談には1日平均150本の相談が寄せられ、その数を全国と比較すると3倍以上である。相談内容は年を追うごとに緊急性の高いものが増え、一件当たりの相談時間も長くなっているという。なお、2012年~2014年の自殺者の内訳は、年代別では、一家を支える50代が最多で13人、80歳以上が10人と続く。原因・動機別は健康問題が22人と最多で、経済・生活問題が13人となっている。

◆4年以上経って増加の傾向を見せる福島の自殺の背景の一つとされるのが、時間を経るごとに複雑化する原発事故被災者を取り巻く環境である。また、個々の境遇にも違いが現れ、かつて親しかった親族や知人との間に分断が生まれ、孤立感が深まっているという。さらに、放射能被曝による免疫力や身体機能の低下による影響が大きいのではないか?との見方もある。チェルノブイリ原発事故で多くの被曝患者を治療したバンダジェフスキー博士は「セシウム137からの慢性的体内被曝により、細胞の発育と活力プロセスがゆがめられ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる」と指摘し、東大の児玉教授らも「放射能は少ない量でも内部被曝で癌などを誘発する」と述べている。脳に取り込まれたストロンチウム90がうつや自殺を引き起こすとする報告もある。

◆なお、NHKスペッシャルの冒頭に紹介された若い農家夫婦の自死の真相は定かでない。しかし、米の値下がりで赤字になり、かつて支援してくれたボランティア等に声をかけ、直接販売を試みたが反響がなかったとの事実が告げられる。原発事故からもうすぐ6年、確実に「風化」していく中で、「希望」が「絶望」に変っていく。番組では「あいまいな喪失」と「コミュニティの分断」という「要因」を指摘したが、責任をとらない政府と東電が元凶であり、それを許している私たち、原発推進を擁護してきた労働組合の責任も大きい。

原発事故でなければ、時間が経てば、復興の希望も生まれてくる。原発事故は、全てを奪い去る。

避難者の高放射線地域への帰還を強いる政府

◆政府は、避難に関して、1年間の空間放射線量が20ミリシーベルト(mSv/y)以下になった地域の避難指示を解除し、避難者に帰還を強要している。この線量は、日本の一般市民の線量限度1 mSv/yの20倍であり、チェルノブイリの移住義務基準5 mSv/yに比べても極めて高いと言える。また、避難指示が解除された地域の電気、ガス、水道、交通網などの生活基盤の整備や、医療、介護などの生活関連サービスも復旧したとするには程遠い状態にある。したがって、帰還の意志のある住民は少数にとどまり(下表を参照)、ほとんどが高齢者である。今後、各世帯で分担してきた道路脇の草刈り、消防団活動、共同墓地の手入れなどの共同作業の担い手が不足し、後継者不足で地域が成り立たなくなることは明らか。このような状況でも、強引に帰還を進めようとする政府は、帰還に応じない人への支援の打ち切りの恫喝も行っている。一方、福島県を始め多くの自治体が、政府の意を受けて、自主避難者支援の打ち切りを決定している。何れも、東電や政府の賠償負担や生活支援支出の軽減のためであり、責任回避のためである。人々の安全や生活の安寧を優先する考えはいささかもない。


(2017年1月4日 河北新報より)
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帰還困難区域:放射線量が非常に高いレベルにあることから、バリケードなど物理的な防護措置を実施し、避難を求めている区域。
居住制限区域:将来的に住民が帰還し、コミュニティを再建することを目指して、除染を計画的に実施するとともに、早期の復旧が不可欠な基盤施設の復旧を目指す区域。
避難指示解除準備区域:復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民が帰還できるための環境整備を目指す区域。
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避難指示が解除された自治体の住民の帰還情況

帰還者
数(人)
帰還率
(%)
避難指示
解除の時期
田村市都路地区東部 231 72.4 2014年4月
川内村東部 62 19.9 2014年10月
2016年6月
楢葉町 737 10.0 2015年9月
葛尾村 102 7.6 2016年6月
南相馬市小高区など 1231 11.8 2016年7月

(葛尾村と南相馬市小高区は帰還困難区域を除く)
(2017年1月4日 河北新報より)

◆なお、20 mSv/y以下とされた地域でも、それ以上の箇所が存在する可能性は高い。とくに、汚染土壌、埃などの吸入による内部被曝の影響が危惧される。


(政府機関である放射線医学研究所などの調べであるから、放射線許容の立場であることに注意)

◆政府の避難解除にあたっての姿勢は、自然災害の場合と変わらず、住民は原発事故という電力会社、財界、政府が一体となって引き起こした人災によって避難を強いられているという視点はない。本来、原発を推進した政府や原子力ムラに、避難解除をうんぬんする資格はない。彼らは、事故の責任の重さを噛みしめ、誠意ある償いに専念すべきである。避難解除を決定するのは、あくまでも住民でなければならない。しかし、政府・与党は、住民の声を聴く前に、彼ら自身が出した避難区域解除案(本年3月末解除)を既定路線として新聞発表するなど、住民切り捨ての態度に終始している。

原発事故は、このような悲惨を産む。再び事故が起こる前に全廃しなければならない。

「自主」避難者への住宅無償提供の打切り=政府による「自主」避難者の切捨て

◆政府と福島県は、原発事故によって福島から逃れた「自主」避難者への住宅の無償提供を、3月末で打ち切る方針を決めている。4月以降、現在の住宅から立ち退きを求められたり、新たに多額の家賃の発生に見舞われるなど、言い知れぬ不安にさいなまれ、悲鳴を上げている。

◆いわゆる「自主」避難者は、避難指示区域でない区域から子供の被爆を避けるためなどの理由で避難した人々で、福島県内外の「自主」避難者は約1万2000世帯、約3万2000人に上る。「自主」避難者の大半の4月以降の住居が未定のままである。東電からの定期的な賠償を受けられない「自主」避難者にとって、住宅の無償提供は唯一の支援策・命綱であり、とくに母子避難者にとって、打切りは経済的な困窮に繋がり、子供の未来を断ち切る事態にもつながる。

原発事故での被曝を避けるための避難生活は、断じて「自己責任」ではない。避難者の生活を保障する責任があるのは原発を推進してきた政府であり、東電である。避難者の切り捨てを許してはならない。

◆なお、避難継続を希望する世帯を対象に、9道府県が財政負担などを伴う独自策で支援することを表明している。他の多くの自治体は、公営住宅を希望する自主避難者の入居要件緩和を求めた国の通知にならった支援内容にとどまっている。自主避難者の住宅支援は避難先の選択で格差が生まれることになる。

作って儲け、売って儲け、事故って儲け、お片付けで儲ける原子力関連産業・それを支える政府

除染、汚染水対策、廃炉作業でさえ食い物にする政府、原子力企業、ゼネコン

◆原発事故の終息に適用される技術は、特別の場合を除いて、検証されたものでなければならない。例えば、汚染水の漏洩防止には、コンクリートや鉄板などの壁の建設が最も確実と考えられる。しかし、政府(規制委を含む)や電力会社は、長大な「凍土壁」という今までに検証されたことのない技術を選んだ。これは、ゼネコンの将来技術開発費を助成するためであり、結果の成否は問わず、ゼネコンに暴利を与えるためである。この姿勢は、汚染水の除染や廃炉にあたって「研究開発的要素」を含む技術を優先的に採用するという政府の政策に貫かれている。すなわち、政府は、原発事故を利用して、企業に技術開発費を投下し、原発産業の基盤を支えるとともに、研究成果を宣伝することによって原発輸出に競争力を付けさせようとしているのである。政府は、早期の事故終息より企業の利益を優先させているといっても過言ではない。なお、凍土壁は期待された効果を上げていない。

◆ところで、福島第1原発の廃炉、賠償などの事故対策費用が、従来想定の11兆円から21兆5千億円に倍増することを経産省が公表した(昨年12月)。この膨大な費用は、原発が一度重大事故を起こせば、現代だけでなく、遠く未来にも大きな負担を残し、原発は経済的にも成り立たない装置であることを示している。ここで、原発の廃炉費は、原発を持つ電力会社がまかなうのが原則で、福島原発も例外ではないが、ここに示された金額はその域を大きく超え、東電や政府は新たな国民負担(電力料金への添加、税金の投入)を求めている。電力自由化で参入した「新電力」にも負担を求めている。一方、東電が避難区域になった福島県の市町村に支払った損害賠償額は、請求額のわずか6%であり(新聞挿絵図、参照)、復興の遅れにつながりかねないとの住民の不安の声が出ている。


(2017年3月9日京都新聞朝刊)

◆ちなみに、東電の昨年度の純利益は、電気料金の値上げなどによって事故前の2,009年や2,010年度より増加し、5千億円を超えている。東電は、多大な利益を上げながら、国(経産省)を通してさらに国民負担を求めている。

◆福島事故は、東電や政府を含む原子力ムラの、経済のためには人の安全・安心は犠牲にしてもかまわないとする考え方によって引き起こされた人災である。したがって、その代償は、原子力ムラとりわけ東電が支払うべきであり、国民の税金や電気料金値上げによって支払うものではない。国民に負担を求めるとするなら、東電があらゆる努力を行い、全てを擲(なげう)った後に、それでも犠牲者の救済ができない時だけである。しかし、東電は、同社自身は平然と存続し続けながら、さらなる政府支援を要請している。これも、人の尊厳を傷つける傲慢かつ破廉恥な電力会社の体質の現れである。

目先の経済的利益や便利さを、
人が人間らしく生きる権利や

事故の不安なく生きる権利と
引き換えにしてはなりません。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。
原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆安倍政権の原子力政策

【2017年3月3日,京都キンカンで配付。】

人の命と尊厳を踏み躙(にじ)る
安倍政権の原子力政策

原発が、人類の手に負える装置でないこと、
経済的にも成り立たないことは明らかです。
したがって、脱原発・反原発は
民意=社会通念となっています。

原発が、人類の手に負える装置でないことは、以下のような現状からも明らかです。

①チェルノブイリ原発事故、福島原発事故からそれぞれ 31年、6年になろうとする現在でも、避難者の大半が故郷を失ったままであり、暮らしを破壊され、家族の絆を奪われ、癌と闘い、発癌の不安にさいなまれている。

②福島で避難された方の自殺が、事故 4 年後から急増している(NHK報道)。

③福島事故の原因、事故炉の内部は今でも分かっていない。

④汚染水対策の凍土壁は効果を表さず、汚染土壌の除染も、ごく一部の地域、かつ表層のみに限られている。

⑤何万年もの保管を要する使用済み核燃料や放射性廃棄物の効果的な処理・処分法はなく、保管を引き受ける所もない。

⑥福島事故後でも全国の原発で事故が多発している。例えば、新規制基準の下で再稼働した全ての原発(川内、高浜、伊方原発)でトラブルを起こし、最近では、高浜原発でクレーンが燃料建屋上に倒壊し、柏崎刈羽原発では火災が起こっている。
など。

原発は、経済的にも成り立たないことは、以下のような事実からも明らかです。

①福島原発の廃炉、賠償などの事故対策費が、想定の11兆円から21兆5千億円に倍増することが明らかになった(昨年12月9日、経産省が公表)。しかし、この試算は、事故炉内の詳細は分からず、汚染水の漏洩防止策もない現状でのものであるから、今後さらに膨れ上がる可能性は大である。なお、政府は、この費用を抑制するために、高放射線地域にも拘らず、避難指示を解除し、避難者に帰還を強要している。

②原発には、重大事故は無くても、使用済み燃料、放射性廃棄物の処理・処分・保管費がかかる。

③避けることが出来ない事故への対策費も膨大である。

④米国でさえ、原発からの撤退が相次いでいる(シェールガス革命の影響で原発の発電コストの高さが際立つようになったため)。

⑤国の原発政策の一翼を担ってきた東芝が、巨額損失で主力事業の一つである原子力事業を縮小し、今後は、廃炉や保守などを原子力事業の中心に据えようとしている。
など。

原発は無くても電気は足りることを、
福島事故以降の経験が教えています。

省エネ技術は日進月歩で、
再生可能エネルギーは急速に普及しています。

したがって、事故が起これば、
人の命と尊厳を蔑(ないがし)ろにし、
故郷を奪い、
復旧は不可能に近い原発を、
再稼働し、推進する必要は全くないのです。

◆前記のように、原発は人類の手に負える装置ではありません。一方、原発は無くても不都合がないことが分かった今、原発を運転する必要性は見出だせません。そのため、脱原発、反原発は社会通念=民意 となっています。

◆この民意を反映して、一昨年、伊方町で行われた住民アンケートでは、原発再稼働反対が53%で賛成の約2倍でした。昨年の鹿児島県、新潟県の知事選では、脱原発を掲げる候補が圧勝しました。昨年末には、高浜原発の「地元中の地元」音海地区の自治会が、老朽原発運転反対を決議しました。本年2月の朝日新聞の世論調査でも、原発再稼働反対が57%で賛成のほぼ2倍でした。

◆国際的にも、ドイツ、イタリアに続いて、リトアニアが脱原発に向かい、昨年11月にはベトナムが原発建設計画を白紙撤回し、今年1月11日には台湾が脱原発法を成立させました。

◆この民意の故に、大津地裁は、昨年3月9日、高浜原発の運転を差し止めたのだと考えられます。

それでも、安倍政権は原発推進に
躍起(やっき)です。

以下に、安倍政権が進めるとんでもない原子力政策と、その問題点を述べます。

[1]危険極まりない老朽原発の運転延長。

◆原子力規制委員会(規制委)は、昨年6月および10月に運転開始から40年以上経過し、世界的に見ても老朽な原発・高浜原発1,2号機および美浜原発3号機について、新規制基準を満たしているとする「審査書」を正式決定しました。最長20年の運転延長を認める決定です。規制委や関電は、「40年原則」を骨抜きにし、全国の老朽原発の運転延長に道を開く流れを定着させようとしています。規制委は、これらの老朽原発の審査を、他の原発の審査を後回しにして行い、適合としました。老朽原発の運転延長については、運転開始から40年になるまでに、設備の詳細設計をまとめた工事計画と運転延長に関する規制委の認可を受けなければなりませんので、規制委は、この期限に間に合わすように、拙速審査を行って決定を出したのです。例えば、高浜原発1,2号機の審査では、審査会合回数は通常の約半分で、パブリックコメントすら求めませんでした。老朽化によって危険度が格段に高くなっている原発の審査が、手抜きで行われたのです。

◆田中規制委員長は、高浜原発1,2号機運転延長認可の発表にあたって、「科学的に安全上問題ないかを判断するのが我々の使命」と述べています。しかし、科学とは、実際に起こった事実を冷静に受け入れ、丁寧に調査し、検証・考察して、その上に多くの議論を重ねて、結論を導くものです。規制委の審査は、この過程を無視しており、科学とは縁遠いものです。実際に起こった最も重大な事実は福島事故ですが、同事故に関して、事故炉内部の詳細は今でも分からず、事故の原因究明も進んでいません。「科学」を標榜するのなら、福島事故の原因を徹底的に解明して、その結果を参照して、原発の安全性を議論・考察するのが当然です。大津地裁での運転差止め仮処分決定でもそのことを指摘していますが、規制委はこの指摘を無視しています。

◆規制委の老朽原発審査は、「2030年の電源構成で、原発比率を20~22%とするエネルギーミックスを実現する」という、安倍政権のエネルギー政策に迎合するためのものです。原発新設は望めないから、安全は蔑(ないがしろ)にしても、老朽原発を活用して目標を達成しようとしているのです。

◆原発は事故の確率が高い装置ですが、老朽化するとさらに重大事故の確率が急増します。例えば、次のような理由によります。

・原発の圧力容器、配管等は長期に亘(わた)って高温、高圧、高放射線にさらされているため、脆化(ぜいか:金属などが軟らかさを失い、硬く、もろくなること:下記注を参照下さい)、腐食(とくに、溶接部)が進んでいます。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化は深刻です。電気配線の老朽化も問題です。

・老朽原発には、建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分が多数あります。しかし、全てが見直され、改善されているとは言えません。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)です。

・老朽原発では、建設当時の記録が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となります。また、建設当時を知っている

◆技術者はほとんど退職しているので、非常時、事故時の対応に困難を生じます。

(注)老朽原発圧力容器の脆性破壊 鋼鉄のような金属は、ある程度の軟らかさを持っていますが、高温で中性子などの放射線にさらされると、温度を下げたとき硬化しやすくなり、脆(もろ)くなります(脆化)。脆くなると、ガラスのように、高温から急冷したとき破壊されやすくなります。原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で放射線にさらされていて、運転時間と共に脆くなる温度(脆性遷移温度)が上昇します。例えば、初期には-18℃で硬くなった鋼鉄も、34年間炉内に置くと98℃で、40年を超えると100℃以上で硬化するようになり、脆くなります。したがって、老朽原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が破裂する危険があります。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化は著しいと言われています。

[2]危険度急増のプルサーマル化。

◆高浜原発3、4号機、伊方原発3号機、玄海原発3号機はプルサーマル炉で、核燃料の一部にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使っています。政府や電力会社は今後、プルサーマル炉を16~18基へ増加させようとしています。また、全燃料をMOXとする大間原発の稼働も企んでいます。規制委は、プルサーマル炉の「新規制基準」適合審査において、「厳しい新規制基準の下ではMOX燃料かどうかは議論にはならない」とし、ウラン燃料を前提とした既存原発のプルサーマル化には、技術的な課題が多いことを無視しています。プルサーマル炉は、次の例のように、ウラン燃料炉に比べて、格段に危険です。

① MOX燃料では、ウラン燃料と比べて燃焼中に核燃料の高次化[プルトニウム239より重い核種(元素)が生成すること]が進み、中性子を吸収しやすいアメリシウム241等が生成されやすく、原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下する。

② 事故が起こった場合、プルトニウム・アメリシウムなどの超ウラン元素の放出量が多い。

③ 原子炉内の中性子密度が大きく、高出力であるので、運転の過渡時(起動や停止時)に炉の制御性が悪い。したがって、1/3 程度しか MOX を装荷できない。

④ 核分裂生成物ガスとヘリウムの放出が多く、燃料棒内の圧力が高くなる。

⑤ MOX 燃料にするためには、使用済み核燃料再処理が必須であり、事故、廃棄物など、全ての点で危険度と経費が膨大に増える。

⑥ MOXにすれば融点は上るが、熱伝導率は下がり、電気抵抗率が上がり、燃料温度が高くなり、溶けやすくなる。

⑦ 一部の燃料棒のみにMOX燃料を入れると、発熱量にムラが生じるため、温度の不均衡が進行し、高温部の燃料棒が破損しやすくなる。

[3]「もんじゅ」断念で国民を騙(だま)し、高速炉計画を継続。

◆政府は、昨年12月、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を決定しました。「もんじゅ」は、多くの技術的な無謀性、困難性、危険性の指摘を無視して、約6,000億円をかけて建設され、1991年に運転を開始しましたが、1995年にナトリウム漏れ事故を起こし、2010年には重さ3トンの炉内中継装置の落下事故を起こし、近年は1万件を上回る点検漏れを指摘されています。「もんじゅ」は、今までに、少なくとも1兆2千億円を浪費し、今でも年間200億円を無駄遣いしています。それでも、運転に漕ぎ着けられない「もんじゅ」が、現代科学技術で制御できる装置ではないことは明らかです。その「もんじゅ」を、「夢の原子炉」と偽って国民を騙し続けようとするから、事故や点検漏れが多発し、事故や違反を隠ぺいせざるを得なかったのです。「もんじゅ」を進めた組織は、1956年、原子燃料公社として発足し、ことあるごとに名前を変えて、動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル機構になり、今は日本原子力研究開発機構(原子力機構)に統合されて、問題体質を隠ぺいしてきました。ここに至って、これを指導した政府までもが、「もんじゅ」の廃炉決定を余儀なくされたのです。

◆「もんじゅ」の廃炉は、粘り強い反対運動の成果ですが、喜んでばかりはいられません。政府は、破綻した「もんじゅ」だけを切り捨てることによって原子力政策への不信の矛先をかわし、別の高速炉計画を立ち上げ、核燃料サイクルをさらに推進し、全ての原発のプルサーマル化によって、プルトニウム利用に突っ走ろうとしています。とくに、原子力政策全般を取り仕切る経産省は、「もんじゅ」なしでも成立する核燃料サイクルをアピールし始めました。「もんじゅ」で制御不可能が実証された高速増殖炉についても、断念するどころか、「高速炉開発会議」を新設して、その開発計画を存続させようとしています。具体的には、超老朽高速実験炉「常陽」の再稼働、フランスの高速炉(アストリッド)での共同研究への参加などを目論んでいます。

◆高速増殖炉、高速炉は、現在科学技術の手に負えない、最も危険な原子炉です。燃料棒を冷却して高温になった冷却材・ナトリウムは薄い配管を介して水と接しています。水とナトリウムが直接触れれば水素が発生し、大爆発することは小学生でも知っています。また、ナトリウムは、空気と接すると急激に酸化され、火災を起こします。漏れ出たナトリウムがコンクリートと反応すれば水素が発生し、水素爆発を起こします。一方、ナトリウムが原子炉内で局所的に高温になって沸騰し(沸点883℃)、ボイド(気泡)が発生すれば、その部分の核反応が激化して暴走事故を引き起こしかねません。さらに、重大事故や火災が発生したとき、水によって炉を冷却することも消火することもできません。

◆なお、詳細は別稿に譲りますが、高速増殖炉、高速炉は、原爆用プルトニウムを作るのに適した原子炉です。また、政府は、高速増殖炉、高速炉による放射性廃棄物の毒性短縮と減容を宣伝していますが、不可能で、究極の国民だましです。

[4]危険極まりなく、実現不可能に近い核燃料サイクルへの固執。

◆原発に関わる核燃料の流れを核燃料サイクルといいます。ウランを採掘して原子炉で使用するまでの工程(上流)と使用済み燃料を原子炉から取り出し、再処理(後述)して、得られたプルトニウムを高速炉やプルサーマル炉で使用し、出てくる放射性廃棄物を処理する工程(下流)で構成されます。後者(下流)に注目して、後者を「核燃料サイクル」と呼ぶこともあります。

◆核燃料サイクル(後者:下流)には、税金と電気料金からすでに10兆円以上が投じられていますが、再処理工場はトラブル続きで、稼働の延期が重ねられています。「もんじゅ」は廃炉せざるを得ない状況にあり、核燃料サイクルの破綻は明らかです。

(注)核燃料再処理とは ウラン燃料が核反応する(燃焼する)と、燃料中には、各種の核分裂生成物(死の灰)、プルトニウム、マイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウムなどのウランより重い元素:生成量は少ない)などが生成し、ごく一部のウランが反応した段階(大部分のウランは未反応のまま)で、原子炉の運転が困難になります。そこで、核燃料(使用済核燃料という)を原子炉から取り出し、新しい燃料と交換します。使用済核燃料の中には、核燃料として再利用できるプルトニウムが含まれるので、それをプルサーマル炉や高速増殖炉で燃料として利用するために、回収して核燃料に加工する過程が再処理です。

◆原子炉から取り出された使用済核燃料は、原子炉に付置された燃料プールで保管し、放射線量が低下した後、再処理工場サイトにある貯蔵施設に運ばれます(青森県六ケ所村)。再処理工程では、燃料棒を切断して、鞘(さや)から使用済燃料を取り出し、高温・高濃度の硝酸で溶解します。溶解までの過程で、気体の放射性物質(ヨウ素や希ガスなど)が放出されます。溶解したウラン、プルトニウム、核分裂生成物(死の灰)などを含む硝酸溶液中のウラン、プルトニウムは、有機溶媒中に分離抽出し、さらに精製して核燃料の原料とします。この過程で、死の灰などの不要物質が、長期保管を要する高レベル(高放射線)廃棄物として大量に発生します。その処理処分法は提案されているものの問題山積です。保管を受け入れる場所もありません。

◆使用済核燃料は高放射線ですから、再処理工程の多くは、遠隔自動操作で運転されます。そのため、再処理工場には、約10,000基の主要機器があり、配管の長さは1,300 km(うち、ウラン、プルトニウム、死の灰が含まれる部分は約60 km)、継ぎ目の数は約26,000箇所にも及びます。高放射線に曝され、高温の高濃度硝酸が流れる容器や配管の腐蝕(とくに継ぎ目)、減肉(厚さが減ること:溶解槽で顕著)、金属疲労などは避け得ず、安全運転できる筈がありません。長い配管を持つプラントは、地震に弱いことは容易に頷(うなず)けます。すでに、2兆2000億円以上投入していますが、再処理工場は完成からは程遠い状態です。

◆使用済核燃料を再処理せず、燃料集合体をそのままキャスクに入れて、地中の施設に保管する「直接処分」の方が安全で、廃棄物量も少ないとする考え方もあり、アメリカはその方向ですが、10万年以上の保管を要し、これも問題山積です。

安倍政権は、なぜ、
原発再稼働、原発のプルサーマル化、

高速炉の推進、核燃料サイクル確立に
固執するのでしょう?

◆戦争法を強行し、共謀罪を画策し、沖縄への基地負担を強要し、農業、医療などを犠牲にして大企業を優遇するTPP交渉を行い、企業の税金を引き下げて、社会保障を切り捨てようとしている安倍政権が、規制委、電力会社と一体となって原発再稼働に固執し、原発電力に頼る理由は、

①使用済み核燃料の処理や保管にかかる経費や事故による損失を度外視すれば安上がりな原発電力によって、電力会社や大企業を儲けさせるためであり、

②原発の輸出によって、原発産業に暴利を与えるためであり、

③戦争になったときの基盤電源を原発で確保し、核兵器の原料プルトニウムを製造するためです。

◆すなわち、老朽原発を含む原発の再稼働は「巨大資本に奉仕する国造り、戦争出来る国造り」の一環として行われようとしているのです。とくに、③は、最大の理由といっても過言ではありません。原発は、被曝労働を強い、国民の被曝を意にも介さない政権にとっては、好都合なエネルギー源です。しかも、被曝を覚悟すれば、使用済核燃料からプルトニウムを取り出すことは、(技術的に)ウラン濃縮より容易ですから、プルサーマル化は彼らの欲するところです。そのために、高速炉、核燃料サイクルを推進しようとしているのです。

目先の経済的利益や便利さを、
人が人間らしく生きる権利や

事故の不安なく生きる権利と
引き換えにしてはなりません。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。
原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

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◆私たち原告の主張:ハイライト
 コスト的に成り立たない原発事業

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第2より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

原子力発電のコスト・非経済性について

 1 はじめに

◆本書面では、原子力発電(以下、「原発」という。)のコストの高さについて主張する。(後記2)

◆あわせて、原発事業者が、原子力損害の賠償に関する法律(以下、「原子力賠償法」という。)により原子力損害について無過失の賠償責任を負担しているにもかかわらず、もはやその賠償能力がないことが明らかとなっており、その事業リスクの高さ、非経済性から、原発事業自体がいかなる経済体制・社会体制・法制のもとにおいても成り立ち得ないことを主張する。(後記3)

 2 原発のコストの高さについて

  (1)被告関西電力の説明(同社ホームページより)

◆「2014年時点での、国の試算による発電コストは、太陽光発電が1kWhあたり約30円、石油を使った火力発電が約30円以上と高い傾向にあります。天然ガスを使った火力発電は13.7円程度、石炭を使った火力発電は12.3円程度です。原子力の発電コストは、10.1円程度と他の発電方法と比較しても遜色ない水準です。また、原子力発電は化石燃料に比べて発電コストに占める燃料費の割合が小さいため、燃料価格の変動による影響を受けにくいという特徴があります。」等と説明されている。

 (2)被告関西電力の説明の欺瞞性

  ア 立命館大学国際環境学部大島堅一教授(環境経済学)の分析

◆同教授は、ヤフーニュース2016(平成28)年12月9日(金)13時8分配信の「原発は高かった~実績でみた原発のコスト~」という記事(甲309号証)の中で、最新の原発のコストに関する分析内容を記述している。

  (ア)分析内容の抜粋

◆経産省が2016年12月9日に示したところによると、福島原発事故のコストが21.5兆円になるという。すさまじい金額だ。さらに、それを国民負担にするという案を経産省は提示している。 にもかかわらず、世耕・経産大臣は、原発は安いとの発言を2016年12月7日におこなっている(テレビ朝日の報道による)。原発のコストは安いのか高いのか。一体どのように理解したら良いのだろうか。

◆原発のコスト計算の方法には、1)実績コストを把握する方法と 2)モデルプラントで計算する方法の2つがある。2)の方法で計算した値は、政府のコスト検証ワーキンググループが2015年に試算したものが最新だ。ここでは、原発のコストを10.1円/kW時としている。おそらく世耕大臣は、この計算結果を言っているのだろうと思われる。政府の計算には、いくつもの前提があって問題点もあるが、長くなるのでここでは詳しくは述べない。さしあたってこの計算方法の特徴を一言でいえば、想定や計算式で数値は変わってくる。

◆これに対して、実績コストは、想定も何もないので誰が計算しても同じになる。過去の原発のパフォーマンスを知るのに最適だ。では、原発の実績コストはどれくらいなのだろうか。まず、発電コスト。これは、電気料金の原価をみれば把握することができる。データは、電力各社の有価証券報告書にある。また計算方法は、電気料金を算定する際にもちいる省令に書いてある。この2つをもちいて計算する方法は、室田武・同志社大学名誉教授が開発した。計算すると、8.5円になる。次に、政策コスト。原発には、研究開発費や原発交付金といったものに国費が投入されている。つまり国民の税金だ。財政資料を丹念にひろうとこの費用も計算できる。これは1.7円。最後に、事故コスト。これは経産省により21.5兆円という数値がでた。そこで、これまでの原発の発電量で割って単価を計算すると、2.9円となる。つまり、原発のコスト=発電コスト+政策コスト+事故コストで、13.1円(kW時当たり)となる。

◆原発以外の電源も計算すると、火力は、発電コスト9.9円、政策コスト0.0円(値が小さいので四捨五入するとこうなる)で合計9.9円。一般水力は、発電コスト3.86円、政策コスト0.05円で合計3.91(ほぼ3.9)円だ。これらのコストも原発のコストと同じように計算できる。

◆以上をまとめると、原発(13.1円)>火力(9.9円)>水力(3.9円)。つまり、過去の実績(1970-2010年度)でみると、原発は安い、どころか、原発は最も経済性がない電源だったと言える。

  (イ)分析内容に基づく原告の主張

◆被告関西電力は、大島堅一教授が引用するところのモデルプラントで計算する方法により、「火力発電等のコストより原発のコストの方が安い」という結論を導いている。しかし、かかる結論は、大島堅一教授が指摘されているように、人為的な想定や計算式の用い方等によって異なりうるものであり妥当な比較検討結果とはいえない。大島教授が指摘するとおり、客観的な比較検討を可能にする実績コストを把握する方法により比較検討がなされるべきである。それによると、上記のとおり、原発は火力や水力よりも高いという結果となる。

  イ 事故コスト(事故炉の賠償・廃炉にかかるコスト)、廃炉コストを踏まえた詳論

  (ア)はじめに

◆大島堅一教授が上記のように指摘する原発の事故コストについて、及び、その余の原発の廃炉コストについて、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会と電力システム改革貫徹のための政策小委員会とは、それらのコスト問題をも踏まえて取りまとめた「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ(案)」(甲310号証)(以下「中間とりまとめ」という。)を了承したと報道されている。
この中間とりまとめによれば、

A.東京電力福島第1原発の廃炉費用
B.同賠償費用、
C.同原発以外の原発の廃炉費用

の負担に関する方針がまとめられている。

  (イ)中間取りまとめの詳細

   A.東京電力福島第1原発の廃炉費用について

◆中間とりまとめのP.20の「3.3.福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方」の「(2)送配電事業の合理化分の充当」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

◆「総括原価方式の料金規制下にある東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下、「東電PG」という。)においては、例えば、託送収支の超過利潤が一定の水準に達した場合、電気事業法の規定に基づき託送料金の値下げを求められることがあり、合理化努力による利益を自由に廃炉資金に充てることはできない。したがって、東電PGにおける経営合理化分を確実に1F(※注釈一福島第一原子力発電所一号機のこと。)廃炉に充てられるようにするため、託送収支の事後評価を例外に設けるべきである。具体的には、毎年度行われる託送収支の事後評価において、東電PGの合理化分のうち、東電PGが親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う1F廃炉費用相当分について、(a)超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにする制度的措置、・・・・が適当と考えられる。」
これは、即ち、東京電力福島第1原発の廃炉費用は東京電力の送配電事業における利益を、電気料金の値下げの実施という形で利用者・消費者に還元することとせず、この利益でもって賄う方針をとるということである。これにより、東電管内の電気料金が高止まりする可能性が惹起され、一種の国民負担が生まれることとなる。

   B.東京電力福島第1原発の賠償費用について

◆中間とりまとめのP.17の「3.2.原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

◆福島第一原発事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた原子力損害賠償法に加えて新たに原賠機構法が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原賠機構に納付している。しかし、原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、福島第一原発事故以前から確保されておくべきであったといえる。受益者間の公平性等の観点から、福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備え(以下、「過去分」という。)は、本来であれば、福島第一原発事故前の電気の需要家から電気料金の一部として回収されるべきものであり、・・・

(後、略)

(前略)・・・福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備えを今後とも小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は費用を負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全ての費用を負担していくこととなる。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、過去分についてのみ、全ての需要家で公平に負担することが適当・・・(後、略)

(3)全ての需要家から公平に回収する過去分の額 現在、原子力事業者が毎年納付している一般負担金は、経過的に措置されている小売規制料金により回収されていることから、全ての需要家からの過去分の公平な回収は、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則撤廃される 2020年に開始することが妥当であると考えられる。・・・(中略)・・・全ての需要家から公平に回収する過去分の算定に当たっては、2011年から2019年までに納付される一般負担金を全需要家から回収する過去分と同様のものと扱い、過去分の総額から控除する。2019年度末までに原子力事業者が納付することが想定される一般負担金は、今後の負担金が2015年度と同条件で設定されると仮定すれば約1.3兆円であり、これを過去分総額から控除すると、約2.4兆円となる。

(4)過去分の回収方法  (前、略)・・・過去分を国民全体で   負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める仕組みとすることが適当と考えられる。約2.4兆円の過去分を託送料金の仕組みを利用して全需要家から回収する場合、・・・回収期間を40年(年間回収額600億円)とするのが妥当と考えられる。

◆これらは、即ち、東京電力福島第1原発の賠償費用の内、過去分2.4兆円について、本来、事故前から備えておくべきだったものという説明で今後40年間に渡って大手電力会社が所有する送電網の使用料(託送料金)に上乗せして賄うということを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が当該費用を負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

   C.東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用について

◆中間とりまとめのP.21の「3.4.廃炉に関する会計制度の扱い」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

(前、略)・・・、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキング・グループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、『着実な費用回収を担保する仕組み』として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の料金(託送料金)の仕組みを利用することとされている。

(前、略)・・・着実な費用回収の仕組みについては、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則2020年に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当である。

◆これは、即ち、託送料金システムを利用して東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用を賄うことを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

  (ウ)中間取りまとめの結果を受けての主張

◆この中間とりまとめについては、それ自体に、原発を忌避して発電事業を始めた新電力事業者やかかる事業者の電気を使用したいと考える市民に原発の費用を負担させるという問題点がある。この一点からしても、原発に経済的合理性がないことは明らかである。

◆それを超えて、この中間とりまとめから明らかとなった点は、事故コストや廃炉コストは、もはや民間事業体である原発事業者がその資産・収入だけでは賄えず、国民負担のもとでなければ賄えないという点である。

◆地震国日本で、被告関西電力の原発が福島第一原発と同様の事故を起こせば、東電福島第一原発と同程度の廃炉コスト・賠償コスト(21.5兆円)が発生することになる(ちなみに、我が国の2016年度における一般会計予算は96.7兆円である。)。このコストは現状の推計に過ぎず、今後も拡大は不可避であろう。

◆被告関西電力という一企業の所有する原発が事故を起こした場合、その廃炉コスト・賠償コストは被告関西電力自身が負担するというのが個人責任の原則、及び後述するところの、原子力賠償法の無過失責任原則の帰結である。東京電力福島第一原発事故が現実に発生するという経験をした現時点においては、被告関西電力は、当該コストを全て備蓄しておくべきであり、かかる備蓄分は原発コストである。

◆事故コストと廃炉コストを含めて原発コストが求められるべきことを前提とした上、その額が国民負担によらなければ賄えない額となることを併せ考えれば、原発のコストは他の電力に比べて極めて高くなることは自明の理である。

 3 原発事業自体がその非経済性故に成り立ち得ない事業であることについて

◆原発事業者は、原子力賠償法によって、原子力損害について無過失の賠償責任を負担することとされている。その立法趣旨は、原子力損害の甚大生に鑑み、原子力を利用して収益を上げる事業者に、民法の過失責任の原則を修正して特別に加重な責任を課し、原子力事業者に、相当因果関係を有する全損害を賠償させることにある。

◆それ以前の問題として、公害事件分野で確立された「原因者負担の原則」が原発災害に適用されることは言うまでも無く、ひとたび事故を起こせば、原発事業者は原因者として事故によって発生した結果の全責任を負担しなければならない。

◆しかるに、福島第一原発と同規模の原子力損害を一事業者が発生させた場合、数兆円に上る損害賠償費用が発生することが公知の事実となっているが、一事業者においてはそのような賠償を行うことができないことは、中間とりまとめが賠償費用についての国民負担を想定していることから明らかとなっている。

◆そうであれば、原発事業は、その事業リスクの高さから、経済的合理性を著しく欠き、責任を負える者がいないのだから、凡そ成り立ち得ない事業であることが明白となっているといわなければならない。

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◆私たち原告の主張:ハイライト
 裁判官にのぞむこと

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第4より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

傍観者ではなくプレーヤーとして

◆元最高裁判事、故中村治朗氏は、昭和43年11月、司法研修所の判事補実務研究で行った講演「傍観者としての裁判官」(司法研修所論集 1969年9月)で、次のように語っている。少し長くなるが、引用したい。

【以下,引用】

■ 思うに、裁判所が、社会的葛藤の舞台において、これらの葛藤の直接の当事者からある程度の距離を保つ地位にみずからを置き、その意味である程度傍観者的立場をとらなければならないことは、おそらく誰しも異論の無いところでありましょう。しかし他面において、裁判所ないし裁判官があらゆる場合に完全なる傍観者として終始することができず、またそれが許されないこともまた、やはりこれを認めざるを得ないのではないかとわたしは思います。

■ 裁判官は、ある場合にはサッカー試合のレフェリーのように競技ルールに従って笛を吹かなければならない場合もあるでしょうし、社会的葛藤の舞台においてそれ自身社会的価値の実現のために積極的に機能しなければならない場合もあると思われるのです。問題は、いかなる場合に、いかなる程度まで傍観者としてとどまり、いかなる場合に笛を吹き、いかなる場合にいかなる形でみずからもプレーに参加するかということであります。

■ そしてここに、大は基本的なフィロソフィーそのものの対立から小はその具体的場合における適用についてのそれに至るまで、様々な見解の相違が生ずるのではないかと思うのです。しかも、わたしのみるところでは、この場合、いずれのフィロソフィーが正しく、いずれの適用の仕方が妥当であるかについて、客観的な判定のきめ手がなく、しかもその当否自体時と場合によって必ずしも同一ではあり得ないと思われるのであります。

■ 例えば、ホームズの司法的自己抑制の理論は、かれの時代においてはきわめて適切であり、その後における憲法解釈や違憲審査に関する理論の発展にも大きな足跡を残しました。しかし、ホームズと対蹠的に、行動人であり、すぐれた政治家であったジョン・マーシャルは、創造的な憲法解釈の展開によってアメリカの連邦国家の確立や産業資本主義の発展を助けたのです。

■ 二人とも、それぞれの時代の要求にマッチした気質・性格と天分の持主であり、そしてそれを存分に発揮してそれぞれの時代の要求に沿う理論を展開し、裁判活動をしたわけであります。そしてそれが、歴史の評価において、かれらが偉大な裁判官とされるゆえんなのです。

■ してみると、裁判官として偉大たりうるためには、何よりもまずそのような時代の要求に対する深い洞察とそれに基づく実践が必要であるといわなければならないようです。しかし、実をいえば、何が時代の要求であるかは、その時代のその社会に生きる者にとっては最もつかみにくい問題なのでありまして、現代のような対立と変動のはげしい価値状況の下では特にそうであると言ってよいでありましょう。理性的な人々の間でも見解がわかれるような基本的問題については、わたしたちは、究極的には自己の採る見解の正否を歴史の審判に賭けざるをえないものであるかも知れません。

■ そこに、現代に生きる裁判官にとって最大の悩みがあるとわたしは思います。このような悩み、このような問題に対して、いかんながら、わたしはなんら提示すべき解答を持ちあわせておりません。ただひたすら次のような考え、信条、願望といったものにすがりつくのみです。

■ すなわち、いろいろな条件の制約や人間としての認識の限界の下においても、なおかつ不断の勉強と思索、討論と自己反省の過程を経ることによって、自分の認識や判断の軌跡が多少とも正しい方向へ近づきうるという可能性を信じて努力することが唯一の進むべき道であるということ、そして特にわたしたち裁判官にとっては、それは一種の道徳的な義務であるとすらいいうるのではないかということ、これであります。

【以上,引用】

◆ここでは、裁判官が裁判活動をするうえで、裁判官には、時代の要求に対する深い洞察とそれに基づく実践が必要であると強調されている。福島第一原発事故によって露わになった原発事故の本質は、この法廷において、宮本憲一名誉教授が述べたように、足尾銅山事件以来最大の公害事件であると言うことにあるが、それは福島第一原発事故が筆舌に尽くしがたい途方もない人権侵害事件であることをも示している。

◆本日相代理人が述べた、原発コスト安価論の欺瞞、そこから見えてくる原子力賠償法体系の崩壊、また原発開発を担ってきた世界及び日本の各社の原発事業からの撤退、逃走、そして原発事業自体の崩壊の予兆が示すものは、原発の再稼働の不可能性はもちろん、原発そのものが、もはや人間の手によってコントロールすることができない存在になってきていると言うことである。

◆また、本日詳しく述べたように、現在の技術は、人間社会と自然環境に対して致命的かつ不可逆的な損害を齎す原発に代わる、安全なエネルギー、再生可能エネルギーの創出に成功し始めている。いまや時代は、原発を廃棄し、再生可能エネルギーによる社会の構築を図ることを求めていると言って過言ではない。

◆本件を担当する裁判官に対しては、この時代の要求を見据えて、本件に正面から取り組んでもらいたい。元最高裁判事、故中村治朗氏が述べるように、本件は、「究極的には自己の採る見解の正否を歴史の審判にかけざるを得ない」問題の一つと言ってよいと思われるが、本件においてこそ、裁判官は、社会的葛藤の舞台において、社会的価値の実現のために積極的に機能し、自ら傍観者ではなくプレーヤーとしてプレーに参加することが求められていると確信するものである。

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◆私たち原告の主張:ハイライト
 原発は産業発展の妨げ

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第3の3より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

原発の不経済性が産業発展すら妨げる

  (1)原発の維持・推進と製造技術の維持は表裏一体であること

◆脱原発の政策を明確に打ち出したドイツのシーメンス社が原発製造技術をアレバ社に売却して、事実上、押しつけたに等しい。

◆米国ではエネルギーシフトにより原発が不採算になり新規建造ができない中で、GE社の経営者が原発製造技術に見切りを付ける発言をした。同社は核燃料部門の撤退に見られるように今後も次々に手を引くこととなろう。その度に、原発関連資産は、日立が引き取らざるを得なくなる。そして、加圧水型原子炉を開発したWH社は売却東芝に売却された。これも、結果から見れば不良資産を押しつけられたと評価する以外無いだろう。

◆一方で、政府が原発を推進しているフランスでは、アレバ社が5期連続赤字を計上しても、フランス政府が支援を続け、内部からリスクを指摘されながら、原発の新規建造に乗り出している。

◆2016年10月27日の日立の社長の「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」という発言も、国内の原発を維持し、新規建造すら否定せず、海外へ積極的に原発輸出をしようとする日本政府の政策とは表裏一体のものであろう。

◆このように、原発に見切りをつけることと、原発の製造技術を捨てることはほぼ同義であり、一方で、原発の維持・推進と原発製造技術の維持は表裏一体なのである。

◆日本やフランスのように、政府が原発の維持・推進に固執すると、その国の企業が各国の原発関連資産を引き取らされることになり、最後は、その国の国民が負の資産を背負わされることになる。

  (2)脱原発しなければ「ババを引く」ことになる

◆本書面の第3では、あえて、日経新聞や保守的な立ち位置にある産経新聞や時事通信の記事を多く引用した。特に「経済紙」を名乗る日本経済新聞社が、東芝の粉飾決算追及の急先鋒となり、原発の将来性に対する深刻な懸念を(全体からは目立たない形で)繰り返し記事にしていることは重要であろう。

◆日本国が脱原発の政策に舵を切れないことで、将来、日立の社長が予言したように原発産業が統合され、それでも不採算となったとき、現に仏アレバ社や、東京電力がそうなっているように、国民が電力料金や税金の形で負担させられることは想像に難くないであろう。そして、そのアレバ社の救済にすら、三菱重工が乗り出していることはすでに述べたとおりである。国際的な原発の負の資産の「ババ抜き」はすでに始まっているのである。

  (3)原発の不経済性が日本の産業発展を妨げさらなる原発の危険因子ともなる

◆将来性のない不採算事業に固執すると、第1で述べた再生可能エネルギーへの投資やインフラ整備が遅れる。これは単にこの種の新電力の普及が遅れるだけでなく、その分野の国際競争で敗れる、ということを意味する。そして、第2で述べたように、経済性のない原発を維持・推進するための費用は、電力料金や税金の形で、結局、国民が負担させられる。そして、第3で述べたように、原発の不経済性が日本の産業基盤そのものを傷つけることになる。

◆そして、そのような不採算部門が要する原発の技術自体も、どんどん劣化していくと考えるべきであろう。三菱重工業が引き起こしたサン・オノフレ原発の蒸気発生器の欠陥は、2012年の部品納入後2年で発覚している。技術の拙劣さは目を覆うばかりである。苦境に立たされた日立の社長が技術者の不足を述べていることもそのことを裏付ける。

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◆私たち原告の主張:ハイライト
 原発御三家の東芝,三菱重工,日立

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第3の2より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

多額の損害賠償請求を受け、負の資産を押しつけられる日本企業

  (1)東芝の粉飾決算の原因は原発部門の不採算でありそれが原因で経営破綻寸前であること

◆東芝は2015年度に4600億円の赤字を計上した。この赤字計上は「日経ビジネス」という経済系の雑誌に粉飾決算を暴かれた結果であった。そして、東芝が粉飾決算に走ったきっかけは、すでに述べた、東芝が2006年に社運をかけて買収したWH社が収益を上げることができず、福島第一原発事故後にいよいよ不良資産化したことを隠ぺいするためのものだった。

◆しかし、同社は2015年度の経営再建で、原発部門を切り離して処分するのではなく、収益性の高く将来性も見込まれる医療機器部門を約7000億円で売却するなどして資金を捻出して乗り切った。

◆ところが、上述のように、WH社が買収したS&W社が巨額の損失を含んでいたことが発覚し、2016年度にさらに7000億円程度の損失が発生し、これにより数千億円規模の赤字を計上する見込みである。

◆同社は、主力であり、収益性が高く、将来性もある「メモリー半導体事業」を分社化して、株式の一部を売却することで債務超過を回避する計画である。同社は、海外の原発建設事業からの撤退も表明しはじめた。

◆素人目にも明らかであるが、東芝は、採算性・将来性の高い部門を次々に切り売りして、不採算部門であり、粉飾決算の元凶である原発部門を残そうとしている。先述のシーメンス社やGE社と比較しても、およそ常識的な経営判断を行えない状況になっている。

◆また、東芝の損失が建設中の原発の不採算から生じている以上、それらの原発の建設にさらに困難が生じれば、当然、損失は今後も拡大していくのであり、東芝の解体が現実的な課題となっている。

  (2)米国で7000億円の損害賠償請求を受けながらアレバの救済に乗り出す三菱重工

◆新規の原発建造が思うに任せない以上、原発製造部門の赤字構造自体は三菱重工も東芝と同じと推測せざるを得ないが、この点について、今のところ報道はない。

◆しかし、三菱重工は、すでに述べたように現状でも、米国の原発運営企業から7070億円の損害賠償請求を現実に受けており、巨額の損失につながる可能性がある。同じような問題が他の既存原発やこれから建設する予定の原発で起きる可能性もある。

◆また、三菱重工が仏アレバ社の救済に乗り出していることはすでに述べたが、今後、アレバが負債を拡大するほど、三菱がさらに救済に乗り出さなければならない可能性が出てくる。三菱重工によるアレバ社の救済自体が、東芝によるWH社の買収と似た構造を持っているのである。この点、三菱重工の出資と、中国企業の締め出しが表裏一体になっており、アレバが中国での新案件を受注できない構造に直結している。

  (3)日立の悲鳴

◆2017年2月1日、日立は、先述のGE社との合弁企業である米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」がウラン燃料の濃縮事業から撤退するため、700億円の営業外損失を計上すると発表した

◆日立は、すでに述べたように、英国内で原発建設を手がけるホライズン社を買収した。同社がイギリスで建設する計画の「ウィルファ原発」は、二基で2.6兆円と見込まれる事業について、日本政府が政策投資銀行等を通じて1兆円を融資することとなっている。これでは、ほとんど、日本政府による日立の救済に近い。また、この原発についても、最初から経済性がないし、各種の援助・補助を踏まえても、ヒンクリーポイント原発と同様、事業の赤字化の危険性は常にあると考えるべきだろう。

◆このような中、実際、日立の社長が2016年10月27日に講演し、原発事業について「いつまでも不採算な状況では成り立たない。一緒にジョイント(提携)的な方向で考える方がいい」と述べた。記事には「国内の原発事業」と書いてあるが、海外で儲かっているのならトータルでは採算性に問題ないはずなので、結局、原発事業自体が大幅に赤字だと考えざるを得ないだろう。さらに、同じ講演で「ビジネスの負荷をどう軽減していくか、ジョイント(提携)の形などで全体を考えていく」とし、技術者不足といった課題を挙げた上で、再稼働や廃炉問題については「相当議論して方向性を出さないといけない」とも述べた。一方で、同社長は「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」(同記事)とも述べており、要するに、政府の政策が脱原発の方向に切り替わらないと、原発製造部門を切り捨てられないと言ったと評価せざるを得ないだろう。

◆実は、我が国の原発事業は、すでに、赤字化している核燃料事業から、切り離しと統合が始まっている。不採算だが捨てることもできない核燃料事業を統合しはじめたのである。国内三社の核燃料事業の切り離し・統合は、米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」の核燃料事業からの撤退とも機を一にしている。

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◆私たち原告の主張:ハイライト
 世界各国における原発産業の状況

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第3の1より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

2011年3月11日後の世界各国における原発産業の状況

  (1)米国の状況

  ア 沸騰水型のGE、加圧水型のWH

◆もともと、米国は、いわゆる「旧西側先進国」において、商業発電用の原子炉を最初に開発した国である。もともと、原子炉は、原子力潜水艦など、燃料補給をせずに長時間・長距離を航続できる兵器の製造のために開発されたものである。商業用の原子炉は軍事技術を商業用に転換したものであったため、最初から、安全性の観点からは不合理な側面を抱えていたが、本書面ではその点には触れない。

  イ GE=日立・東芝、WH=三菱重工・アレバ

◆米国で商業用原子炉の技術を保有していたのは、沸騰水型原発については、トーマス・エジソンが創業者であるゼネラル・エレクトロニック社(以下「GE社」)であり、加圧水型の原発についてはウェスチングハウス社(以下「WH社」)であった。
日本国内では、GE社から沸騰水型(BWR)の原子炉製造技術を移転されたのが株式会社日立製作所(以下「日立」)と株式会社東芝(以下「東芝」)であり、WH社から加圧水型(PWR)の原子炉製造技術を移転されたのが三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」)であった。

◆ヨーロッパでは、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転されたのが現在の仏・アレバ社の子会社である「アレバNP」であり、「欧州加圧水型原子炉」(EPR)を製造する技術を保有している。

  ウ GE社の原発からの撤退と日立への「押しつけ」の現状

◆その後、GE社の原発製造技術は、本体から切り離され、ビジネスパートナーである日立との合弁企業である「日立GEニュークリア・エナジー」(茨城県日立市、出資比率は日立80%、GE20%)、日本以外の世界各地で原発の新規建設受注を目指す「GE日立ニュークリア・エナジー」(ノースカロライナ州、GE60%、日立40%)とに移転され、現在に至っている。

◆米国では1979年のスリーマイル島原発事故の後、2012年まで原発の新規建造は凍結されていた。2012年に数機の原発の建設が許可されたが、その後のエネルギーシフトにより、同年、GEの経営者が原発について「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」(上記新聞記事)と発言した。その後、後述のように「GE日立ニュークリア・エナジー」は、2017年になって核燃料部門の撤退により日立出資分だけで700億円の営業外損失を計上している。

  エ WH社を取得し経営破綻寸前の東芝

◆WH社は2006年に売却され、その後の追加出資を含め、6000億円で同社を取得したのが東芝である。

◆直近の公知の事実にも属するが、後述のように、現在進行形で、東芝を経営破綻の危機に追い込んでいるのが東芝の子会社であるWH社である。

  オ 米国の現状

◆2016年12月末、東芝は数千億円規模の特別損失の計上予定をプレスリリースした。その原因は、以下の通りである。

◆すなわち、WH社が米国で建設中の4基の原発を巡り、福島第一原発事故を受けて米国での原発の安全規制が強化されたことで、設計変更が必要になり、また、工期の遅延により、建設コストが増加していたところ、WH社がビジネスパートナーであり、原発建設会社である「ストーン・アンド・ウェブスター」(以下「S&W社」)との間でトラブルが発生したため、WH社がS&W社を「0円」で買収することで両社のトラブルを決着させた。しかし、これが東芝の7000億円とも言われる特別損失につながることになった。つまり、東芝による「0円」査定が甘く、買収の時点でS&W社は、実は大幅な債務超過だったのである。これらの4基の原発は、建設途中であるから、当然ながら今後も、損失が拡大する可能性は充分ある。

◆三菱重工も、すでに原告第10準備書面18頁以下で紹介したように、2012年に米国サン・オノフレ原発に納入した蒸気発生器の細管の不具合により、同原発を運営する会社から7070億円の損害賠償請求を受けている。

◆2012年時点でのGE社の経営者の発言にも見られるように、米国では、福島第一原発事故後の規制基準強化やエネルギーシフトにより、原子力発電は、もはやコストの見合わない発電方法であると認識されており、現在進行形の新規の原発建造も巨額の赤字を出している状態なのである。既存の原発についても、日本企業に対する巨額の損害賠償請求に発展している。

◆後述のように、そのような中で、米国の資本が原発製造技術から次々に手を引き始めており、それを買収させられたのが東芝なのである。今後、日立が原発製造技術に固執すれば、GE社との関係で同じ道を歩む可能性がある。

  (2)欧州の状況

  ア ドイツ

◆ドイツでは、総合電機企業であるシーメンス社(戦前の海軍高官への収賄事件で高校の日本史教科書に登場する「シーメンス事件」の会社である)が原子炉の製造技術を保有していた。しかし、同社は、2011年3月11日直後の同年4月、早くも、WH社から技術を導入して欧州の原発を建設してきた「アレバNP」の出資分(34%)をフランスのアレバ社に売却し、同年9月に、正式に、原発製造から撤退した。

◆ドイツは、原発製造技術を持つ国では、産業レベルで脱原発を果たした最初の国となったと言える。シーメンスがアレバNPの出資分をアレバ社に売却して押しつけた理由は「事業への十分な発言権がなかったため」(上記日経新聞2011年4月12日)などとされており、ドイツの「脱原発」が、単に国民世論や政治が主導したものではなく、資本の冷徹な論理により行われた側面もあることを示している。

  イ フランス

◆フランスでは、アレバ社(同社の子会社である「アレバNP」)が原子炉製造技術を保持しており、現在でも、フィンランドのオルキルオト原発、フランス国内のフラマンビル原発の建設を続けている。しかし、オルキルオト原発やフラマンビル原発については、福島第一原発事故を受けた規制の強化で建設費用が一基2兆円以上に高騰している。

◆また、その過程で、1960年代に遡って、アレバの子会社である「クルゾ・フォルジュ」や「日本鋳鍛鋼株式会社」が製造していた原子炉の鋼鉄製部品の規格違反(炭素含有量の超過)が発覚し、急激な温度変化により亀裂が発生する可能性を指摘されている。この部品はオルキルオト原発にも納入される予定であり、今後、同原発の完成はさらに遅れるかもしれない。当然、建設費用の高騰につながる可能性がある。

◆アレバ社はオルキルオト原発の建設で費用が膨らみ、2015年12月期まで5期連続で最終赤字を計上し、その間の累計赤字は1兆円を超えた。同社は、2015年12月末現在、フランス政府が直接・間接に86.52%の株式を保有しており、事実上、仏国の国営企業である。東京電力株式会社が国営企業化していることと同じように、民間資本では経営が成り立たない状況と言える。

◆このようなアレバ社やアレバNPに対しては、一方で、三菱重工が救済に乗り出している。

◆すなわち、三菱重工はすでに述べたように、アレバNPとともに、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転された企業であり、もともと三菱重工とアレバは関係が深かったが、アレバ社がオルキルオト原発建設部門を切り離して新規に設立する新会社「NewCo(ニューコ)」に三菱重工が5%出資し、日本の電力会社9社及びその子会社である日本原子力発電が主要な株主である「日本原燃株式会社」も5%出資することとなった。

◆これとは別に、三菱重工は2016年6月28日以降、アレバNPとの合弁事業、同社への少数株主としての出資について、協定を締結した上、検討進めている。

  ウ 欧州の現状

◆結局、欧州では、福島第一原発事故後のドイツ資本の撤退、規制強化とそれによる建設遅延、日本企業もかかわった従前からの粗悪な部品使用の発覚などにより、アレバ社が大幅な赤字を計上しており、原発製造技術自体、原発大国であるフランス政府の支援無しには維持できない状態になっているのである。

◆英国では原発の新規建造が計画されているが、例えば、フランス電力公社(EDF)が事業主体となる予定の英国ヒンクリーポイント原発は、二基2兆4000億円以上の建設費について、英国政府が同原発の電力を35年間にわたって現行の電力卸売価格の約2倍の高値で買い取ると保証したうえ、資金調達に政府保証するなどして計画が成立しているだけで、買い取り価格が倍額であることの一点をみても経済性がないことは明らかであり、現に専門家からその旨の指摘がされている。内部で事業を進めることの危険性を指摘した最高財務責任者が辞任に追い込まれるなど、異常事態となっている。

◆そこへ、三菱重工のアレバへの出資と中国企業のアレバへの出資見合わせ(前掲日経新聞2017年2月4日)という事態が生じており、中国企業も出資予定だったヒンクリーポイント原発建設事業の先行きに不透明さが増していると言える。さらに、日立による英国「ホライズン社」の買収による日立の英国での原発建設事業への参入、という状態が発生している(。

◆経済原理による採算性がなく、先行きの不透明な事業に、原発にしがみつくフランスと日本の企業が前のめりに挑んでいる状況なのである。

  (3)アジアの状況

  ア ベトナムの建設計画白紙撤回

◆ベトナムでは、三菱重工が加圧水型の原発を建設する計画になっていたが、2016年11月22日、ベトナムの国会が計画の白紙撤回を決めた。

◆福島第一原発事故後の安全意識の高まりは、アジア諸国にも及んでいるのである。

  イ 台湾の脱原発決定

◆台湾では、現在、GE社、WH社が1970~80年代に建設した合計6基の原発が稼働中である。さらに東芝、日立が受注して「第四原子力発電所」の建設が着工し、進められてきたが、この計画は福島第一原発事故後の2014年4月27日に凍結された。

◆そして、2017年1月11日、台湾の立法院は2025年までに原発をゼロとする法改正を可決した。

  ウ トルコの計画の不採算・政情不安

◆トルコでも原発建設計画がある。シノプ原発は、もともと韓国が優先交渉権を持っていたが交渉決裂、その後、東芝・東京電力の連合体が交渉に入ったが、福島第一原発事故を受けて東京電力が撤退して白紙撤回となった。さらに、三菱重工・アレバの連合体が受注を2013年5月に受注内定した。事業化可能性調査(FS)を2年かけて行い、事業主体には伊藤忠商事が10%超出資することが予定されていた。

◆その2年後、出資を検討していた伊藤忠商事が

本事業への参画については今後協力を行う事業か調査の過程で検討されるものでありますが、本事業を取り巻く環境等を踏まえた場合、総合商社である当社の持つ機能や果たせる役割等を勘案すれば本事業への出資者としての参画は極めて困難であると現時点で認識しております。

とのプレスリリースを発表した。事実上、事業化可能性が否定されたに等しい。

◆また、その後、トルコは隣国のシリアに軍事介入したことで国内でテロ活動が活発化したり、軍部がクーデターを画策するなど、政情が不安定となっている。三菱重工も、現地事務所にスタッフが10名いる程度であり実際の計画は進んでいない。

◆そもそも、同国は日本と同じ地震国であり、原発が事故を起こした場合の賠償問題も起きえる。伊藤忠商事がいみじくも述べたように、事業可能性には極めて困難がある。

  エ メーカーが二の足を踏む日印原子力協定

◆日本とインドは2016年に原子力基本協定を結び、日本から原発の輸出が可能となったが、協定は一方的な破棄が可能な上、その場合の企業への補償等について定められていない。また、インドの原子力損害賠償法では、米国やそれをそのまま導入した日本や欧州のそれとことなり、メーカーの免責条項がない(例えば、日本の場合「原子力損害の賠償に関する法律」4条でメーカーの免責が明記されている)。そのため、実際の輸出には日本メーカー自身が二の足を踏んでいる。

  オ アジアの現状

◆そもそも、福島第一原発事故を引き起こした日本国が原発の輸出などできるのか、という大問題がある上、日本が輸出を狙っているすべての国で、原発の建設は進んでいない上、抱え込むリスクは膨大である。むしろ、台湾やベトナムのように、福島第一原発事故を教訓化して脱原発し、あるいは、原発導入を断念するケースが広がっている。

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◆質問状に対する関電の回答(2017-02-25)

◆2/15,3名で関電からの説明を聞きました。関電側…3名。

① 福島原発事故は収束していると貴社は判断しておられますか。また,事故の実態は十分に解明されていると思われますか。

→当社は回答する立場ではないが,いろいろな課題が残っていると認識している。

② 東京電力の被災者への対応は,誠実さが十分だと思っておられますか。

→評価すべき立場ではないが,当然,すべての被害者に迅速,適切に賠償するという政府方針に則って行われていると思う。

③ 原発は高度な科学技術で素晴らしい水準にあるとも聞きますが,最近の40年間の進歩はどの程度なのでしょうか。40年前の技術は現在も完全であり,心配ないのでしょうか。また,40年の老朽化はどの程度と思われますか。

→40年前の技術そのものではない。中身を取り替えている。最新の規制基準にしたがってバックフィットもしている。メンテナンスをしているので,性能を維持している。テストピースも,過酷な状況で計測している。

④ 電力供給の公益性から,その安定性は必須です。しかし,原発は事故や裁判などのリスクによって,不安定さがあるように思われますが,貴社ではどのように考えておられるのでしょうか。

→特定の電源に依存することなく,さまざまなオプションをもつというのが,当社の考え。原子力,一つのオプション。当社の原発は福島事故以後動いていないが,そもそも福島のような事故をおこさないようにするのが前提。事故は起こらないという立場ではない。起こることを考えて,ポートフォリオをもっていく。総合的に投資するが,見合わなければ止める。再生可能エネルギーへの投資は,グループ会社を通じて積極的に行っている。発電量において,目標を立てて見直している。投資に対する収益性を,事業として考えている。

⑤ 原発は,運転しても廃炉にしても毒性の強い放射性廃棄物を生み出します。こうした放射性廃棄物は,未来世代への負の遺産と言われます。この倫理性については,どうお考えでしょうか。

→将来に管理の負担を負わせないために,地層処分をしていく取り組みを進めたい。何万年も管理するのは現実的ではない。人間が管理する必要がないようにするのが,地層処分。いろいろなご意見があるのは承知している。いろいろな声を聞いている状況です。

⑥ 福島原発事故によって,廃炉,除染,賠償などの巨額の支出が予想されており,電気料金(託送料への上乗せ)で回収することが検討されているようですが,貴社の電気料金はどのようになるのでしょうか。原発によらない新電力会社の料金に託送料として転嫁するのは理不尽だと思いますが,どのように考えられているのでしょうか。

→国の委員会で議論中なので,今,どうこういうわけではない。福島の廃炉,除染,賠償などの費用を託送料に乗せるものではない。

(この回答は,録音不可という条件でしたので,席上でとったメモをもとにしたものです。文責:吉田明生)