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◆2018/7/4 名古屋高裁金沢支部の判決に対する抗議声明

名古屋高裁金沢支部による大飯原発訴訟控訴審不当判決に抗議する声明
2018年7月4日
大飯原発福井訴訟原告団
代表 中嶌 哲演
大飯原発差止訴訟福井弁護団
団長 島田 広

1 名古屋高等裁判所金沢支部は,2018年7月4日,福井地方裁判所が2014年5月21日に言い渡した,関西電力株式会社に対し大飯原子力発電所(以下「大飯原発」)の3号機及び4号機の原子炉について運転差止めを命じる判決(以下「福井地裁判決」)につき,原判決を取り消し,住民らの請求を棄却する不当判決を言い渡しました(以下「本判決」)。

2 福井地裁判決は,生命を守り生活を維持する利益を日本国憲法が保障する人格権の中核部分として位置づけ,これらがきわめて広汎に奪われる原子力災害の具体的危険が万が一でもあれば,原発の差止めが認められるのは当然,という判断を示しました。「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と語る判決の言葉は,現在もなお癒えることのない福島第一原発事故の被害に真摯に向き合う倫理的な問いかけであり,人権を守る砦としての裁判所の責務に忠実に原発の安全性を厳しく審査した同判決は,国内外で多くの共感を呼びました。

しかし,関西電力や原子力規制委員会は,原判決の指摘を真摯に受け止めることなく,控訴審の審理中にもかかわらず遮二無二大飯原発の再稼働を強行しました。「第二のフクシマ」をまたなければ,関西電力をはじめ,立法府も行政府も,廃炉・脱原発を決断できないのか?とさえ思わせるような,愚かな原発再稼働が進む中で,司法が国民の期待に応え,再び原発の安全性を厳しく審査するのか否かが,注目されていました。

3 審理の過程の中で,関西電力は,住民側が提起した疑問点にはまともに答えようとせず,また,安全性に関する関西電力の主張の根拠となる,基準地震動の算定や地盤調査に関する生データの開示を,一貫して拒否しました。その態度は,自らの基準地震動策定や安全審査について裁判所が科学的に再検討を行うことを妨害しデータ隠しに終始する,きわめて不当なものでした。

4 こうした関西電力による不当なデータ隠しにもかかわらず,裁判の中で次々に大飯原発の危険性が明らかになりました。

(1)島崎邦彦・元原子力規制委員会委員長代理が,2017年4月に証言し,基準地震動策定の際に用いられる入倉・三宅式は,過去の地震データがない大飯原発で用いると,基準地震動の大幅な過小評価になることを,過去の複数の地震の科学的検証結果をもとに指摘し,政府の地震本部のレシピ改定にしたがった,より科学的で安全側に立った計算方法をとるべきであると指摘しました。

 島崎証言の指摘は,纐纈一起東京大学地震研究所教授も繰り返しこれを支持しており,きわめて信用性の高いものでした。

(2)物理探査学会元会長である石井吉徳氏はじめ複数の同学会関係者や,元京都大学防災研究所助教授の赤松純平氏が,関西電力の地盤調査がきわめて不充分で,しかも不充分な調査の結果すら関西電力の都合のよいようにゆがめて解釈されており,大飯原発の地盤は関西電力の想定より軟弱で,地下には断層の存在さえも疑われることを指摘しました。

 関西電力の安全設計が,基準地震動の計算方法に加え,地盤調査でも,基準地震動の大幅な過小評価を引き起こす重大な欠陥のあるものだったことが明らかになったのです。

(3)さらに最近,原子力規制庁が,大飯原発の大山噴火に伴う火山灰想定が過小であると指摘し関西電力による火山灰想定の欠陥が明らかになりました。

 このように,島崎氏の勇気ある証言を端緒として,①被告の地盤調査の問題点,②基準地震動の過小評価,③安全審査の欠陥など,生データの提出や各専門分野の有力な証人尋問によって解明する必要が生じており,住民側は複数の科学者証人の証人尋問を求め,法廷の内外で,審理を尽くし事実を解明するよう裁判所に繰り返し求め続けましたが,裁判所は,2017年5月に原子力規制委員会が大飯原発を安全審査合格とするや審理終結を急ぎ,基準地震動の計算方法や地盤調査という,まさに原発の安全性の根幹に関わる重要な問題も含め島崎氏以外の証人全ての尋問を「必要性なし」として拒否し強引に審理を終結するという暴挙に出ました。

5 本判決は,関西電力が基準地震動を策定した経緯や安全審査の過程について,関西電力の主張をそのまま引き写したかのような通り一遍の認定をしそれだけで,関西電力による安全性の証明はなされたものと認めました。これは,関西電力には,上記のような重大な疑間点に答える義務はないというに等しい,不当な判断です。

一方で,本判決は,住民側に対し高度の具体的危険性を立証するよう求め,しかも,自ら住民側が請求した証拠調べを軒並み却下して立証手段を奪っておきながら,具体的危険性の証明がないなどとして,原判決を覆しました。

こうした判決内容を踏まえ,控訴審の経過をひと言で言えば,原子力規制委員会の安全審査の結果さえ出れば,裁判所は,自ら主体的に原発の安全性を審査することなく,住民側の立証手段を奪ってでも強引に審理を打ち切ってこれに追随するだけだった,ということになります。

これは,もはや裁判ではありません。
福島の被害に背を向け,「見ざる,聞かざる,言わざる」の態度で行政追随を決め込み,あたかも「関西電力のサーヴァント(召使い)」(審理終結後の記者会見での中嶌代表の言葉)であるかのごとく,住民側の裁判を受ける権利を奪った不当な「裁判」に対し,満腔の怒りをもって,強く抗議します。

6 本判決は,行政追随を急ぐあまり,多数の事実誤認や論理破綻を犯しています。

(1)判断枠組みについて,いわゆる伊方型の判断枠組みを採用しながら,関西電力に求められる安全性の主張立証については,ほとんどその主張通りの認定に終始しており,先の高浜原発差止仮処分において大阪高裁が示したと同様の,電力会社寄りの事実認定となっています。

(2)基準地震動に関して,本判決は,地震の予知予測は正確に行うことができないことは疑いがない,全国的な観測網の整備が進んでから蓄積されたデータが少ない,クリフエッジとされた基準地震動の1.8倍を超える地震動は将来来ないとの確実な想定は本来的に不可能,との原判決の指摘はいずれも正当と認めています。そうであれば,それだけで,現在の基準地震動では本件原発の安全は到底確保できず,具体的危険の存在を認めた原判決は維持されるはずでした。

 ところが,本判決は,それは政策的な選択に委ねられるべきで,司法判断としては,「最新の科学的,専門技術的知見に照らし,その想定が合理的な内容となっているか否か」を問題とすべきだとして「クリフェッジとされた基準地震動の1.8倍を超える地震動」の可能性があっても,その想定は合理的なものでありうるかのごとき判断を示しています。

 電力会社の安全設計が完全に崩壊するクリフエッジを超える可能性があるとしても,具体的危険はないといいうるという判断は,恐るべき安全軽視であり,そもそも司法審査を放棄したとしか言いようがありません。

(3)本件訴訟の中心争点となった,大飯原発の基準地震動の著しい過小評価を指摘した島崎証言については,同証言が指摘する,関西電力の行った調査がきわめて不充分で,かつ,基準地震動の過小評価は関西電力の言うところの「保守的な評価」「不確かさの考慮」ではカバーしきれないほど大きなものであることを完全に無視しきわめて抽象的に,関西電力の主張通りに,関西電力の想定が保守的であると認めています。真摯に基準地震動の合理性を検討しようとする姿勢は微塵もありません。

(4)地盤調査について,原子力規制委員会の審査ガイドでは,敷地地下の地層が水平かつ成層でなければ,3改元的な評価をしなければならないのに関西電力がこうした調査をしていないことについて,本判決は,そもそも地層が均質な水平成層構造を呈していることなど考えにくい,という乱暴な認定をしました。そうであれば,審査ガイドにしたがって3次元的な評価をしなければならないのに,それをしていない関西電力の調査の不充分さについては,完全にこれを無祝しています。

 また,一審原告らが指摘した低速度層(軟弱地盤)の存在や,断層等の存在を示す回折波の間題については,いずれもその評価が判然としない,明らかでないという暖味な判断に終始しています。裁判所が判断できないと考えるのであれば,一審原告らが求めるように,関西電力の生データを提出させ,科学者証人の尋問を実施し審理を尽くすべきでしたが,そうした審理を一切放棄して,上記のような暖味な判断をくり返すのは,司法の責任放棄としか言いようがありません。

(5)大山噴火に伴う火山灰想定について,原子力規制庁が関西電力の現在の想定10cmを大きく超える層厚26cmの層厚を大飯原発とほぼ等距離の地点に認めたことに触れつつも,それは単なる可能性に過ぎないなどとして,関西電力の想定が信頼できるとしている点も,火山の危険性を著しく軽視したものといえます。

(6)法的にも,「安全」であるかどうかの判断基準として,福島原発事故の経験を踏まえて「危険性が社会通念上無視し得る」かどうかという規範を定立していますが,現在のわが国の地震学の最も権威ある学者2人が基準地震動の計算方法の誤りを指摘し元物理探査学会長を含む複数の学者から数々の地盤調査の問題点を指摘され,原子力規制庁からさえ火山灰想定の過小評価を指摘されている大飯原発の危険性が「社会通念上無視しうる」とは,到底いえるはずがなく,判決の論理は完全に破綻しています。

7 行政に追随し住民側の裁判を受ける権利を奪ってまで強引に判決をし,形式的には福井地裁判決を覆しても,かかる裁判とはいえない不当な判決によって,福井地裁判決の正当性は,いささかも揺るぐものではありません。また,福井地裁判決が指摘し控訴審の審理の中でさらに明らかになった大飯原発の危険性に対する市民の不安は,払拭されるどころか,ますます深まらざるを得ないでしょう。

私たちは,関西電力と国及び福井県に対し同原発が抱える根本的な危険性から眼をそむけることなく,直ちに同原発の運転を停止するよう,強く求めるものです。

◆2018/7/4 名古屋高裁金沢支部の判決要旨

平成26年(ワ)第126号大飯原発3,4号機運転差止請求控訴事件

【判決要旨】

1 原子力発電所の設備等について事故を起こす失陥があり,周辺の環境に対して放射性物質の異常な放出を招く危険があるのであれば,どの範囲の住民が運転の差止めを求め得るのかはともかく,人格権を侵害するとして,当該原子力発電所の運転差止めを請求することができる。その一方で,現在の我が国の法制度は,原子力基本法,原子炉等規制法などを通じて,原子力の研究,開発及び平和利用の推進を掲げ,原子力発電を一律に有害危険なものとして禁止することをせず,原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険などに適切に対処すべく管理・統制がされていれば,原子力発電を行うことを認めている。このような法制度を前提とする限り,原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって,それ自体で人格権を侵害するということはできない。もっとも,この点は,法制度ないし政策の選択の問題であり,福島原発事故の深刻な被害の現状等に照らし,我が国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止・禁止することは大いに可能であろうが,その当否を巡る判断は,もはや司法の役割を超え,国民世論として幅広く議論され,それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である。

2 原子力発電所における具体的危険性の有無を判断するに当たっては,その設備が,想定される自然災害等の事象に耐えられるだけの十分な機能を有し,かつ,重大な事故の発生を防ぐために必要な措置が講じられているか否か,すなわち,原子力発電所の有する危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されているか否かが検記されるべきである。そして,原子炉等規制法の下,高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会が,安全性に関する具体的審査基準を制定するとともに,設置又は変更の許可申請に係る原子力発電所の当該基準への適合性について,科学的・専門技術的知見から十分な審査を行うこととしているのであって,具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は,当該審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか,あるいほ具体的審査基準に適令するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤,欠落があるなど不合理な点があると認められるのでない限り,当該原子力発電所が有する危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理され,周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できる。

3 本件発電所の安全性審査に用いられた新規制基準は,各分野の専門家が参加し,最新の科学的・専門技術的知見を反映して制定されたもので,所定の手続も適切に踏んでいるのであって,手続面でも実体面でも原子炉等規制法を始めとする関係法令に違反していると認めうる事情はなく,また,内容において不合理な点も認められない。

4 本件発電所の基準地震動及び基準津波は,最新の科学的知見及び手法を踏まえて策定されたものであり,そこで用いられた各種パラメータは安全側に配慮して保守的に設定され,性質や程度に応じて不確かさが考慮されているほか,計算過程及び計算結果に不自然,不合理な点は見当たらず,年超過確率も極めて低い数値になっていることからすれば,これらが新規制基準に適舎するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない。

 なお,基準地震動の策定に当たり,地震モーメントを求めるに際し用いられた入倉・三宅式について,地震動の事前予測に用いると地震モーメントが過小評価される旨の専門家の証言があるが,対象となる活断層の長さや幅を保守的に大きく見積もり,断層面積を地表地震断層の長さそのものから求めた数値より大きく設定することなどによって過小評価を防ぐことが可能であると考えられ,本件においても対象となる活断層の断層面積ほ,詳細な調査を踏まえて保守的に大きく設定されているから,1審被告の策定した基準地震動が過小であるとはいえない。

5 本件発電所の安全上重要な設備の耐震性,対津波安全性,異常の発生・拡大防止対策及び重大事故等対策(火山灰対策を含む。),テロリズム対策等は,最新の科学的知見及び手法を踏まえて講じられており,地震,津波を始めとした外部事象による共通要因故障のみならず,偶発的な設備の単一故障を仮定しても設備の安全性が確保されているほか,重大事故等対策の有効性も科学的手法によって検証されるなどしており,IAEAの国際基準等に反するともいえないのであって,これらが新規制基準に適舎するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点は認められない。

6 以上によれば,本件発電所の安全性審査に当たって用いられた新規制基準に違法や不合理の廉はなく,本件発電所が新規制基準に適令するとした原子力規制委員会の判断にも不合理な点は認められず,本件発電所の危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制されているといえるから,本件発電所の運転差止めを求める1審原告らの請求は理曲がない。

以 上